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2026年改訂版 感染性心内膜炎診療ガイドライン 日本循環器学会・2026・146 ページ · 循環器(その他・小児・妊娠・リハ) · 感染症・抗菌薬
p.1
2026 年5 月29 日更新

合同研究班参加学会

日本循環器学会 日本小児循環器学会 日本感染症学会 日本化学療法学会 日本胸部外科学会

日本脳卒中学会 日本歯科医学会 日本心臓病学会 日本心エコー図学会

班員

上村 史朗川崎医科大学川崎医科大学循環器内科学循環器内科学大田 英揮

東北大学病院東北大学病院放射線診断科放射線診断科

芦原 京美東京女子医科大学東京女子医科大学

循環器内科循環器内科

大原 貴裕*東北医科薬科大学医学部東北医科薬科大学医学部老年・地域医療学教室老年・地域医療学教室

合屋 雅彦国際医療福祉大学三田病院国際医療福祉大学三田病院循環器内科・不整脈センター循環器内科・不整脈センター古賀 政利国立循環器病研究センター国立循環器病研究センター

脳血管内科脳血管内科

加地 修一郎

関西電力病院関西電力病院循環器内科循環器内科

岡田 健次神戸大学大学院医学研究科神戸大学大学院医学研究科

心臓血管外科心臓血管外科

仲野 和彦大阪大学大学院歯学研究科大阪大学大学院歯学研究科

小児歯科学講座小児歯科学講座福島 賢慈福島県立医科大学福島県立医科大学

放射線医学講座放射線医学講座

髙橋 淳近畿大学医学部近畿大学医学部

脳神経外科脳神経外科

笹野 央順天堂大学医学部附属順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター順天堂東京江東高齢者医療センター

薬剤科薬剤科

宮本 朋幸横須賀市立総合医療センター横須賀市立総合医療センター

小児医療センター小児医療センター村上 智明札幌徳洲会病院札幌徳洲会病院

小児科小児科

光武 耕太郎埼玉医科大学国際医療センター埼玉医科大学国際医療センター

感染症科・感染制御科感染症科・感染制御科

三浦 崇長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長崎大学大学院医歯薬学総合研究科

心臓血管外科心臓血管外科山田 博胤徳島大学大学院医歯薬学研究部徳島大学大学院医歯薬学研究部

地域循環器内科学地域循環器内科学副班長

大門 雅夫東京女子医科大学東京女子医科大学

循環器内科循環器内科

班長泉 知里国立循環器病研究センター国立循環器病研究センター

心不全・移植部門心不全・移植部門

2024-2025 年度活動

2026 年改訂版

感染性心内膜炎診療ガイドライン

JCS 2026 Guideline on the Management of Infective Endocarditis

日本循環器学会ガイドラインシリーズ【アプリ版】本ガイドラインは,アプリで図表・推奨をいつでも確認できます.QR コード読み取り,もしくは「日本循環器学会ガイドラインシリーズ,アプリ版」で検索してください.

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p.2
目次

略語一覧 .................................................................................................... 8抗菌薬一覧 .................................................................................................. 9

改訂にあたって11推奨レベルとエビデンスレベル .............. 11表1推奨クラス分類11

表2エビデンスレベル11

クリニカル・クエスチョン(CQ)と作成過程 .. 11表3バイアスリスク,グレード上昇要因,非直接性の評価

12 表4推奨のグレーディング:推奨の方向,推奨の強さ,エビデンス総体の確実性の決定

13 表5エビデンス総体のエビデンスの確実性(質) 13

主な改訂ポイント .......................... 13

第1 章総論14 1. 感染性心内膜炎(IE)とは .............. 14図1 IE 発症の過程14

外部評価委員

塩瀬 明九州大学大学院医学系研究院九州大学大学院医学系研究院

心臓血管外科学心臓血管外科学尾辻 豊萩原中央病院萩原中央病院循環器・心臓内科循環器・心臓内科

木村 利美順天堂大学医学部附属順天堂医院順天堂大学医学部附属順天堂医院

薬剤部薬剤部

中谷 敏済生会千里病院済生会千里病院北岡 裕章高知大学医学部高知大学医学部老年病・循環器内科学老年病・循環器内科学

*CQ 責任者(構成員の所属は2026 年3 月現在)

野村 良太広島大学大学院医系科学研究科広島大学大学院医系科学研究科

小児歯科学小児歯科学久冨 一輝長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長崎大学大学院医歯薬学総合研究科

心臓血管外科心臓血管外科

志水 太郎獨協医科大学獨協医科大学総合診療医学総合診療医学

塩澤 真之国立循環器病研究センター国立循環器病研究センター

脳血管内科脳血管内科

柳田 憲一福岡市立こども病院福岡市立こども病院

小児歯科小児歯科山本 剛大阪大学大学院医学系研究科大阪大学大学院医学系研究科変革的感染制御システム開発学寄附講座変革的感染制御システム開発学寄附講座

舛本 慧子兵庫県立はりま姫路総合医療センター兵庫県立はりま姫路総合医療センター

循環器内科循環器内科

邉見 宗一郎神戸大学大学院医学研究科神戸大学大学院医学研究科

心臓血管外科心臓血管外科吉岡 大輔大阪大学医学部附属病院大阪大学医学部附属病院

心臓血管外科心臓血管外科協力員坂本 二郎天理よろづ相談所病院天理よろづ相談所病院

循環器内科循環器内科坂本 哲獨協医科大学獨協医科大学総合診療医学総合診療医学

川村 隆之埼玉医科大学総合医療センター埼玉医科大学総合医療センター

感染症科・感染制御科感染症科・感染制御科

天野 雅史国立循環器病研究センター国立循環器病研究センター心不全・移植部門 心不全科心不全・移植部門 心不全科
p.3
2. IE の最近の動向 ........................ 15 3. チーム医療の必要性 .................... 15 4. 専門病院に紹介すべきタイミング ........ 15

第2 章診断16 1. IE の診断基準 .......................... 16表6 2023 Duke-ISCVID 診断基準と2023 ESC 修正Duke 診断基準の主な相違点

16 表7 IE の診断基準(2023 Duke-ISCVID 診断基準) 18図2 IE の診断アルゴリズム20

2. 症状・身体所見 ........................ 21表8 IE のリスク因子21

図3 IE の身体所見(下眼瞼の点状出血) 21図4 IE の身体所見(爪の線状出血斑) 22図5 IE の身体所見(足趾のJaneway 病変) 22

3. 血液検査 .............................. 22 4. 微生物学的検査 ........................ 22

4.1 血液培養 .......................... 22表9血液培養分離菌と汚染率23 4.2 その他の検査法:抗体検査,PCR 他 .. 23 5. 画像検査 .............................. 24

5.1 心エコー図検査 .................... 24推奨表1 IE における心エコー図検査24 5.2 CT ................................ 25推奨表2 IE とその合併症診断における心エコー図以外の画像診断

27 5.3 MRI .............................. 26 5.4 核医学画像診断 .................... 26表10 IE の診断に用いられる核医学検査の特徴27 5.5 その他の画像診断 .................. 28 6. 入院時に行うべきIE の合併症/ 死亡リスク評価 .................................. 29表11 感染性心内膜炎の予後と関連する主な4 つの因子

29 表12 チャールソン併存疾患指数30

第3 章合併症の診断・評価30 1. 心不全 ................................ 30表13 IE における30 日以内または1 年死亡の予測因子31

1.1 原因と病態 ........................ 31 1.2 診断 .............................. 31 1.3 治療方針 .......................... 32 2. 治療抵抗性感染症・弁輪周囲膿瘍 ........ 32

2.1 治療抵抗性の定義,判断基準 ........ 32 2.2 持続性感染の原因 .................. 33表14 持続性感染の原因菌33 2.3 弁輪周囲膿瘍でみられる病態と診断 .. 33 2.4 治療 .............................. 33 3. 塞栓症,および中枢神経合併症 .......... 34

3.1 塞栓症の頻度・時期・リスク因子 .... 34表15 感染性心内膜炎における塞栓症合併のリスク因子34 3.2 中枢神経合併症 .................... 34推奨表3 IE の中枢神経合併症の診断35

図6感染性脳動脈瘤に対する治療アルゴリズム36推奨表4 IE の中枢神経合併症の治療36

3.3 脳梗塞以外の全身塞栓症 ............ 37
p.4
4. 伝導障害 .............................. 38 5. 腎障害 ................................ 39表16 感染性心内膜炎に合併する腎障害の機序39 6. 播種性血管内凝固症候群(DIC) .......... 39 7. 化膿性脊椎炎 .......................... 40表17 感染性心内膜炎における化膿性脊椎炎に対して外科的治療を検討すべき例

40 8. その他 ................................ 41

第4 章抗菌薬治療41 1. 抗菌薬の基本的な考え方 ................ 41

1.1 PK/PD を考慮した投与の原則 ........ 41 1.2 抗菌薬の推奨される使用量とわが国で承認された使用量の関係 ............ 41 1.3 投与期間/ 投与期間のカウント開始日/治療効果判定 ...................... 41表18 感染性心内膜炎の合併症と検査方法42 1.4 特殊なIE 症例における長期間(内服)抗菌薬の投与 ...................... 42 1.5 歯性病巣,感染原因の治療 .......... 43表19 感染性心内膜炎の原因菌と侵入門戸43 2. エンピリック治療 ...................... 43推奨表5感染性心内膜炎のエンピリック治療または血液培養陰性時の抗菌薬

44 表20 髄膜炎,脳膿瘍合併時の抗菌薬投与量45

2.1 自己弁の場合 ...................... 44 2.2 人工弁・デバイス関連感染症の場合 .. 45 2.3 血液培養陰性である場合 ............ 45 3. 原因菌が判明した場合 .................. 45

3.1 Streptococcus 属菌 レンサ球菌 ...... 45推奨表6レンサ球菌による自己弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬

46 推奨表7レンサ球菌による人工弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬

48 3.2 Staphylococcus 属菌 ブドウ球菌 .... 50推奨表8ブドウ球菌による自己弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬

51 推奨表9ブドウ球菌による人工弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬

52 3.3 Enterococcus 属菌 腸球菌 .......... 54推奨表10 腸球菌による自己弁感染性心内膜炎の標的

治療における抗菌薬

55 推奨表11 腸球菌による人工弁感染性心内膜炎の標的

治療における抗菌薬

56 3.4 グラム陰性菌(HACEK グループを含む) .................................. 57

推奨表12 HACEK グループによるIE の標的治療にお

ける抗菌薬

57 3.5 真菌 .............................. 57

第5 章外科的治療58 1. 手術リスクの評価と術前検査 ............ 58

1.1 手術リスク評価 .................... 58表21 活動期感染性心内膜炎における手術リスク因子58 1.2 術前検査 .......................... 59 2. 外科的治療の適応と手術時期 ............ 59

2.1 外科的治療の適応総論 .............. 59推奨表13 IE チームによる治療方針決定59
p.5
2.2 うっ血性心不全 .................... 60推奨表14 IE に対する早期手術の適応60 2.3 治療抵抗性感染 .................... 61 2.4 感染性塞栓症 ...................... 61 2.5 中枢神経合併症症例の手術時期 ...... 62推奨表15 脳合併症IE 患者における開心術の決定と手

術時期

62 図7中枢神経合併症症例の手術施行に関するアルゴリズム

63 3. 術式選択,成績と術後管理 .............. 64

3.1 大動脈弁IE ........................ 64 3.2 僧帽弁IE .......................... 64 3.3 三尖弁IE .......................... 65 3.4 術後管理 .......................... 65

第6 章外来でのフォローアップ65 1. フォローアップの必要性と要点 .......... 65 2. 再発(再燃および再感染)の頻度と危険因子...................................... 66表22 感染性心内膜炎の再発に関わる因子66 3. 慢性期弁手術の適応 .................... 66 4. 患者教育 .............................. 66

第7 章予防67 1. 予防の重要性 .......................... 67 2. IE のリスク層別化:患者要因 ............ 67推奨表16 基礎疾患別リスクと歯科口腔外科手技に際

するIE予防のための抗菌薬投与

68 2.1 高度リスク群 ...................... 67 2.2 中等度リスク群 .................... 69 2.3 その他 ............................ 70 3. IE のリスク層別化:手技/ 処置要因 ...... 70推奨表17 IE 中等度/ 高度リスク患者に施行時に予防

的抗菌薬投与を必要とする手技

71 3.1 はじめに .......................... 70 3.2 歯科手技の層別化 .................. 70 3.3 歯科治療以外の処置・臨床背景 ...... 70 4. 予防的抗菌薬投与 ...................... 72

4.1 予防的抗菌薬投与総論 .............. 72 4.2 歯科治療 .......................... 73図8う蝕の進行と菌血症の発生73

図9歯周病の進行と菌血症の発生74表23 歯科処置による菌血症の発症率75表24 歯科処置前の抗菌薬の標準的予防投与法77

4.3 歯科治療以外の処置 ................ 76表25 歯科・心血管治療以外の観血的処置前の抗菌薬の

標準的予防投与法(成人)

77 推奨表18 心血管の侵襲的治療におけるIE 予防(予防

的抗菌薬投与以外の方法)

78 表26 心臓血管の侵襲的治療手技前の抗菌薬の標準的予

防投与法(成人)

78 5. 患者教育・啓発 ........................ 78表27 感染性心内膜炎の高度リスク・中等度リスク患者

に配布する説明書の例
p.6
第8 章特殊な病態80 1. 先天性心疾患,小児領域のIE ............ 80

1.1 総論 .............................. 80表28 先天性心疾患,小児領域における基礎心疾患別感

染性心内膜炎リスク

81 1.2 診断 .............................. 81 1.3 治療 .............................. 82推奨表19 小児IE における抗菌薬83 1.4 予防 .............................. 82 2. 人工弁感染 ............................ 84推奨表20 TAVI 患者の人工弁IE における手術適応85 3. デバイス感染(ペースメーカ/ICD など) .. 85推奨表21 デバイス関連IE の診断と治療85

3.1 定義 .............................. 86 3.2 病態 .............................. 86 3.3 診断 .............................. 86 3.4 治療方針 .......................... 86図10 明らかな感染巣を認めず抗菌薬治療に抵抗性・再

発性の菌血症に対する経静脈リード抜去術の適応

87 3.5 デバイス再留置術の時期 ............ 87 4. 右心系のIE ............................ 88表29 主要な国の薬物別生涯経験率88

4.1 右心系IE の診断 .................... 88 4.2 右心系IE の予後と治療 .............. 89推奨表22 右心系IE における外科的治療89 5. 妊娠中のIE ............................ 90 6. 高齢者IE .............................. 91 7. 人工血管感染(グラフト感染) ............ 91

7.1 定義,病態 ........................ 91 7.2 危険因子 .......................... 92 7.3 診断 .............................. 92表30 人工血管感染のMAGIC 診断基準92 7.4 治療,手術適応 .................... 93 8. 非細菌性血栓性心内膜炎 ................ 93

第9 章CQ 94 CQ1 感染性心内膜炎発症リスクの高い患者に対する侵襲的歯科治療前の予防的抗菌薬投与は推奨されるか? ................ 94表CQ1-1  歯科治療時の予防的抗菌薬投与についての症

例対照研究

96 表CQ1-2  ガイドライン変更前後のIE 発症率変化につい

ての時系列解析研究

97 図CQ1-1  予防的抗菌薬のIE 発症率に対する影響(コ

ホート内症例対照研究)

98 表CQ1-3  予防的抗菌薬投与がIE 発症率に与える影響に

ついてのコホート内症例対照研究の評価

99 表CQ1-4  予防的抗菌薬投与の費用対効果についてのエ

ビデンスの評価

99 表CQ1-5  予防的抗菌薬投与による副作用100表CQ1-6  予防的抗菌薬投与による副作用についてのエ

ビデンスの評価

100 表CQ1-7  予防的抗菌薬投与のエビデンス総体の評価101

CQ2 脳出血を合併した感染性心内膜炎例では,適応があれば4 週間以内に手術を行うことが推奨されるか? .................. 102表CQ2-1  脳出血後早期手術についてのSoF 表(益) 103

図CQ2-1  脳出血後早期手術の有無による院内死亡率の

比較
p.7
表CQ2-2  脳出血後早期手術の有無による院内死亡率の

比較についてのエビデンス評価

104 表CQ2-3  脳出血後早期手術についてのSoF 表(害) 104図CQ2-2  脳出血後早期手術の有無による再出血率の比

較

105 表CQ2-4  脳出血後早期手術の有無による再出血率の比

較についてのエビデンス評価

105 図CQ2-3  脳出血後早期手術の有無による神経学的悪化

率の比較

106 表CQ2-5  脳出血後早期手術の有無による神経学的悪化

率の比較についてのエビデンス評価

106 表CQ2-6  脳出血後早期手術についてのエビデンス総体

の評価

107 第10 章市民・患者への情報提供108

感染性心内膜炎の高度リスク・中等度リスク患者に配布する説明書の例(表27 の再掲)

109 付図・付表110 CQ1 作成過程 ............................ 110付図1  CQ1 文献検索フローチャート110

付表1  CQ1 作成過程 データベース検索式と検索結果111

CQ2 作成過程 ............................ 114付図2  CQ2 文献検索フローチャート114

付表2  CQ2 作成過程 データベース検索式と検索結果115

Appendix 118 1. 抗菌薬と薬剤感受性に関する解説 ...... 118

1.1 薬剤感受性はどのように判定されるのか................................ 118 Appendix 表1  代表的な各種抗菌薬・抗真菌薬のPK/

PD パラメータ

118 1.2 特殊な現象 ...................... 119 Appendix 表2  TDM 対象薬の推奨される使用法と,わ

が国で承認された使用法の関係

119 2. 診断:微生物学的検査 ................ 119

2.1 血液培養検査 .................... 120 2.2 原因微生物の同定 ................ 120 2.3 血液培養陰性となる稀なIE の原因微生物:抗体検査 ........................ 120 Appendix 表3  血液培養陰性となる稀な感染性心内膜炎

の原因微生物の同定法(抗体検査)

121 3. 遺伝子検査の活用 .................... 121 Appendix 表4  血液培養陰性感染性心内膜炎の原因微生

物の同定法(遺伝子検査)

122 3.1 PCR による微生物同定技術 ........ 121 3.2 シークエンスによる微生物同定技術122 3.3 全ゲノム解析による微生物同定技術122 4. 主な原因微生物の解説 ................ 122

4.1 Staphylococcus lugdunensis ...... 122 4.2 緑色レンサ球菌(VGS) ............ 122 Appendix 図1  レンサ球菌別の菌血症におけるIE 合併率123 4.3 Streptococcus bovis(equinus)group ................................ 123 4.4 栄養要求性レンサ球菌(NVS) ...... 123 4.5 Gemella 属菌 .................... 123
p.8
4.6 Corynebacterium 属菌 ............ 124 4.7 Cutibacterium(Propionibacterium) acnes .......................... 124 4.8 Pseudomonas aeruginosa およびSerratia marcescens .............. 124 4.9 Mycobacterium chimaera.......... 124

付表3 班構成員の利益相反(COI)に関する開示 .............................................................. 125文献........................................................................................................ 127

(無断転載を禁ずる)

略語一覧

AHA American Heart Association米国心臓協会AKI acute kidney injury急性腎障害ANCA antineutrophil cytoplasmic antibody抗好中球細胞質抗体APS antiphospholipid syndrome抗リン脂質症候群AT antithrombinアンチトロンビンBNP brain natriuretic peptide脳性ナトリウム利尿ペプチドCDRI cardiac device related infectionデバイス関連感染

CDRIE cardiac device related infective endocarditis心臓植込み型デバイス関連感染性心内膜炎CIED cardiovascular implantable electronic device心臓植込み型電子デバイスCLSI Clinical and Laboratory Standards Institute米国臨床検査標準化協会CoNS coagulase-negative staphylococciコアグラーゼ陰性ブドウ球菌CQ clinical questionクリニカル・クエスチョンCRP C-reactive protein C 反応性蛋白CTA Computed tomography angiographyコンピュータ断層血管造影DALYs disability-adjusted life years障害調整生存年DIC disseminated intravascular coagulation syndrome播種性血管内凝固症候群DWI diffusion weighted imaging拡散強調画像ECG electrocardiogram心電図ESC European Society of Cardiology欧州心臓病学会FDG fluorodeoxyglucoseフルオロデオキシグルコースFLAIR fluid attenuated inversion recovery水抑制反転回復法

HACEK Haemophilus spp., Aggregatibacter actinomycetemcomitans, Cardiobacterium hominis, Eikenella corrodens,Kingella kingae左記菌種群の略称(HACEK として日

本語でも使用)

HLAR high-level aminoglycoside resistantアミノグリコシド高度耐性IE infective endocarditis感染性心内膜炎

ISCVID International Society for Cardiovascular Infectious Diseases国際心臓血管感染病学会ISTH International Society on Thrombosis and Haemostasis国際血栓止血学会

JAAM- DIC Japanese Association for Acute Medicine Disseminated Intravascular Coagulation日本救急医学会播種性血管内凝固基準JANIS Japan nosocomial infections surveillance厚生労働省院内感染対策サーベイランス

JROAD The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases循環器疾患診療実態調査

J-SSCG The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock日本版敗血症性診療ガイドラインMIC minimum inhibitory concentration最小発育阻止濃度MICS minimally invasive cardiac surgery小開胸心臓手術mNGS metagenomic next-generation sequencingメタゲノム次世代シーケンスMRA magnetic resonance angiography磁気共鳴血管造影MRI magnetic resonance imaging磁気共鳴像
p.9
MRSA methicillin-resistant Staphylococcus aureusメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MSSA methicillin-susceptible Staphylococcus aureusメチシリン感性黄色ブドウ球菌NBTE nonbacterial thrombotic endocarditis非細菌性血栓性心内膜炎NICE National Institute for Health and Care Excellence英国国立医療技術評価機構NIHSS National Institute of Health Strole Scale NSAIDs Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs非ステロイド性抗炎症薬NTproBNP N-terminal prohormone of brain natriuretic peptide N 末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチドNVS nutritionally variant streptococci栄養要求性レンサ球菌NYHA New York Heart Associationニューヨーク心臓協会OPAT outpatient parenteral antimicrobial therapy外来静注抗菌薬療法PD pharmacodynamics薬力学PET Positron Emission Tomography陽電子放出断層撮像PK pharmacokinetics薬物動態PVE prosthetic valve endocarditis人工弁感染性心内膜炎QALY quality-adjusted life-years質調整生存年RCT randomized controlled trialランダム化比較試験

RF rheumatoid factorリウマチ因子rh-TM recombinant human thrombomodulinリコンビナント・ヒトトロンボモジュリンRR relative risk相対リスクSLE systemic lupus erythematosus全身性エリトマトーデスSPECT Single Photon Emission Computed Tomography単一光子放射断層撮像SR systematic reviewシステマティック・レビューSUV standard uptake value SWI susceptibility-weighted imaging磁化率強調画像TAVI transcatheter aortic valve implantation経カテーテル的大動脈弁留置術TDM therapeutic drug monitoring治療薬物モニタリングTEE transesophageal echocardiography経食道心エコー図TTE transthoracic echocardiography経胸壁心エコー図VGS viridans group streptococci緑色レンサ球菌VRE vancomycin resistant enterococciバンコマイシン耐性腸球菌

抗菌薬一覧

一般名 / 通称略語英語商品名(代表的なもののみ)

アジスロマイシンAZM AzithromycinジスロマックアミカシンAMK AmikacinアミカシンアムホテリシンB L-AMB Liposomal Amphotericin-BアムビゾームアモキシシリンAMPC Amoxicillinサワシリン,パセトシンアルベカシンABK ArbekacinハベカシンアンピシリンABPC Ampicillinビクシリンアンピシリン・スルバクタムABPC/SBT Ampicillin/sulbactamユナシンS,スルバシリンイミペネム・シラスタチンIPM/CS Imipenem/cilastatinチエナムエリスロマイシンEM ErythromycinエリスロシンカスポファンギンCPFG CaspofunginカンサイダスクラリスロマイシンCAM Clarithromycinクラリシッド,クラリスクリンダマイシンCLDM ClindamycinダラシンゲンタマイシンGM GentamicinゲンタシンシプロフロキサシンCPFX Ciprofloxacinシプロキサンスルファメトキサゾール・トリメトプリムST Sulfamethoxazole/trimethoprimバクタ,バクトラミン
p.10
セファクロルCCL CefaclorケフラールセファゾリンCEZ CefazolinセファメジンセファレキシンCEX CefalexinケフレックスセフェピムCFPM CefepimeセフェピムセフォタキシムCTX Cefotaximeクラフォラン,セフォタックスセフジトレン ピボキシルCDTR-PI Cefditoren pivoxilメイアクトセフタジジムCAZ CeftazidimeセフタジジムセフトリアキソンCTRX CeftriaxoneロセフィンダプトマイシンDAP DaptomycinキュビシンテイコプラニンTEIC TeicoplaninタゴシッドドキシサイクリンDOXY DoxycyclineビブラマイシンバンコマイシンVCM Vancomycinバンコマイシンピペラシリン・タゾバクタムPIPC/TAZ Piperacillin/tazobactamゾシン,タゾピペフルコナゾール(ホスフルコナゾール) FLCZ(F-FLCZ) Fluconazole(Fosfluconazole)プロジフペニシリンG(ベンジルペニシリン) PCG Penicillin G(Benzylpenicillin)ペニシリンGホスホマイシンFOM FosfomycinホスミシンボリコナゾールVRCZ VoriconazoleブイフェンドミカファンギンMCFG MicafunginファンガードメロペネムMEPM MeropenemメロペンリネゾリドLZD LinezolidザイボックスリファンピシンRFP RifampicinリファジンレボフロキサシンLVFX Levofloxacinクラビット
p.11
改訂にあたって

「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」は,2003年に初版,2008年と2017年に改訂版が刊行されている.多様な臨床像を示す全身性疾患で集学的治療と管理を要する感染性心内膜炎(IE)の特性から,当初から循環器内科だけでなく,心臓外科,小児循環器科,感染症科などさまざまな領域の専門家が参加してきた.特に,前回の2017年改訂版1)では,感染症や抗菌薬,脳領域のエキスパート,さらに,IEの発症を考える際に最も重要な領域を担当している歯科医師も参加し,欧米にみられない多種・広範囲の専門家で構成されたガイドライン作成班により改訂された.

今回,前回の改訂から10年近くが経過し,4回目の改訂を行うことになった.イメージングの進歩などによりDuke診断基準が改訂されたこと,弁膜症や先天性心疾患などの構造的心疾患に対する低侵襲治療や心内デバイス治療の普及によりIEの病態が多様化したこと,欧米で限定的にしか推奨されていない予防的抗菌薬投与に関して,それ以降のIE発症率のデータが発表され,予防に関して再考する時期であることなどが,改訂の理由と考えられる.なお,ガイドラインのタイトルについて,前回の「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」から,より広い意味の「感染性心内膜炎診療ガイドライン」に変更した.

本ガイドラインが循環器科医のみならず,その他領域の医師,歯科医師の先生方の役に立ち,IEの発症予防や良質な治療につながれば幸いである.なお,本ガイドラインは診断や治療方針決定のための1つの資料にすぎず,医師の裁量を否定するものではないことを追記しておく.ガイドライン作成組織構成員のCOIは巻末の付表に掲載した.

推奨レベルとエビデンスレベル

本ガイドラインでは,推奨クラスとエビデンスレベルを表1および表2のとおり分類した.

クリニカル・クエスチョン(CQ)と作成過程

診療ガイドライン作成委員会(パネル)は,感染性心内膜炎の診療に携わる循環器内科医,心臓外科医,感染症医,神経内科医,脳外科医,総合内科医,薬剤師から構成

された.診療ガイドライン作成委員会のメンバーの中からシステマティック・レビューチーム(SR班)が選任されたが,作業は独立して行った.

パネルによる重要臨床課題の選定,クリニカル・クエスチョン(CQ)作成,アウトカムの選定,その重大性の決定を行った.SR班によるシステマティック・レビューののち,パネル会議にて推奨文,Evidence to decision tableを完成し,それに基づきパネリストが推奨解説の執筆を行った.その後,外部委員による内容の査読,パブリックコメントの募集に基づき,適宜,推奨文,解説を改訂し最終化した.作成プロセスの各ステップa. ステップ1:重要臨床課題の抽出,CQ作成

パネル会議で2つの臨床課題を抽出した.それぞれの構成要素をPatient(P),Intervention(I)またはExposure (E),Control(C,比較対照)として表現した.その

表2エビデンスレベル

レベルA複数の無作為化介入臨床試験またはメタ解析で実証されたものレベルB単一の無作為化介入臨床試験または無作為化介入でない大規模な臨床試験で実証されたものレベルC専門家および/ または小規模臨床研究(後ろ向き研究および登録を含む)で意見が一致したもの

表1推奨クラス分類

クラスI手技・治療が有効・有用であるというエビデンスがある.あるいは見解が広く一致している.クラスIIaエビデンス・見解から,有効・有用である可能性が高い.クラスIIbエビデンス・見解から,有効性・有用性がそれほど確立されていない.

クラスIII No benefit手技・治療が有効・有用でないとのエビデンスがある.あるいは見解が広く一致している.クラスIII

Harm手技・治療が有害であるとのエビデンスがある.あるいは見解が広く一致している.
p.12
Interventionの益と害のアウトカム(Outcome(O))を抽出した.アウトカムの重大性をパネル会議にて決定した(1~ 9点で評価).9 点は最も重大,1点は最も重大でない.7~ 9点を重大なアウトカムと分類し,重大なもののみをシステマティック・レビューの対象とするアウトカムとして採用した.その後,CQを確定した. b.  ステップ2:システマティック・レビュー,エビデンス総

体の作成各CQに対して1人のリーダーを配置し,CQ1に対し14人,CQ2に対して12人のSR班員が,パネルとは独立して,システマティック・レビューを行った.日本医学図書館協会に依頼して検索式を作成,PubMed,Cochrane Library,医中誌にて検索を行った.含める論文基準は,ランダム(無作為)化比較試験(RCT),観察研究(前向き,後ろ向き)とした.症例報告,症例シリーズは除外した.CQリーダーが一次スクリーニングを行った.タイトルで判別可能なものは除外し,判断がつかないときは,抄録や論文本文

を読み,除外するかどうかを判定した.また独立して文献検索を行い,重要な論文を加えた.二次スクリーニングと文献の評価はSR班のメンバーが行った.1つの文献について2人のメンバーが独立して評価を行い,一致しない場合は議論して決定した.採用した文献をアウトカムごとにまとめて評価を行った.エビデンスの評価に用いたバイアスリスク,グレード上昇要因,非直接性の評価のA-Pは表3のとおりである.定量的評価のできる結果の得られたアウトカムについては,RevMan,Rを用いてメタ解析を行った. c. ステップ3:推奨作成

SR班と1人のパネリストで草案,推奨文草案,グレーディング草案を作成した.推奨のグレーディング,エビデンス総体の確実性のグレードについてはMindsの提案するやり方に従った(表4 2, 3),5 2)).推奨文草案を各委員(パ

表3バイアスリスク,グレード上昇要因,非直接性の評価

観察研究ランダム化比較試験(RCT)

バイアスリスク*バイアスリスク* A背景因子の差(選択バイアス) Aランダム化(選択バイアス) Bケアの差(実行バイアス) Bコンシールメント(選択バイアス) C不適切なアウトカム測定(検出バイアス) C盲検化(患者,治療者)(実行バイアス) D不完全なフォローアップ(症例減少バイアス) D盲検化(評価者)(検出バイアス) E不十分な交絡の調整E intension to treat(症例減少バイアス) Fその他のバイアスFアウトカム不完全報告(症例減少バイアス) GバイアスリスクまとめGバイアスリスクまとめ上昇要因**非直接性* H量反応関係H対象I効果減弱交絡I介入J効果の大きさJ対照Kグレードを上げる要因まとめKアウトカム非直接性* L非直接性のまとめL対象M介入N対照OアウトカムP非直接性のまとめ*バイアスリスク,非直接性各ドメインの評価は「高(- 2)」,「中/疑い(-1)」,「低(0)」の3段階まとめは「高(-2)」,「中(ー1)」,「低(0)」の3段階でエビデンス総体に反映させる**上昇要因各項目の評価は「高(+2)」,「中/疑い(+1)」,「低(0)」の3段階まとめは「高(+2)」,「中(+1)」,「低(0)」の3段階でエビデンス総体に反映させる
p.13
ネリスト)が修正デルファイ法(RAND法)で匿名にてオンラインで評価(1点から9点)した2).1~3点は同意できない(1点:完全非同意),4~6点は不確定,7~9点は同意できる(9点:完全同意).7点未満の場合,理由を記載した.得点の中央値,見解不一致指数(disagreement index: DI)を算出した.それをもとにパネル会議で議論し,推奨文,グレーディングの修正を行ったうえで再投票を行った.中央値7以上,DI<1,かつ重大な意見がない場合はパネル会議で合意形成とし,この過程を合意ができるまで最大3回繰り返して合意形成を行った.

パネル会議では,草案をもとに益と害のバランス,エビデンス総体の確実性,患者の価値観,患者が支払うコスト,利用者の容認性,実行可能性を検討した.たとえエビデンスの確実性が高い利益があっても,重大な副作用などの害や負担がそれを凌駕する場合は推奨できない.医療費がかかりすぎたり,患者の数は多いが,その治療ができる施設が限られている場合には,一般的な推奨になりにくい.決定した推奨文をもとに,Evidence to decision tableに準じて解説文を作成した4).

推奨の強さはGRADEシステムでは「施行すること」「施行しないこと」の「強い推奨」「弱い推奨」の4 つに分けて表現される(表4 2, 3)が,1に近い2もあれば,ほぼ中間になる2もある).エビデンス総体の確実性を表5 2)に示す.さらに,症例ごとに,患者の価値観,コスト,リソース

などを考慮して個別に決定されるべきであり,推奨にすべての医療者,患者が従わなければならないというわけではないことは明記する.

主な改訂ポイント

本ガイドラインにおける変更点は,主には診断基準の改訂部分と関連している.前回改訂からの主な 更新点を以下に示す.

1 IEの診断基準として2023 Duke-ISCVID診断基準を掲

載した.

2 心エコー図検査以外の画像診断に関して,より詳細に

推奨を示した.

3 診断基準の改訂に伴い,血液培養における検査間隔に

関する推奨を変更した.

4 診断基準に新たに加えられた微生物検出法に関する記

載を追加した.

5 ペースメーカなどの心臓植込み型電子デバイス(CIED)

に関連したIEに関して,より詳細に推奨を示した.

6 経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)などの経カテー

テル治療に関連したIEの予防・治療に関する記載を追加した.

7 欧米のガイドラインにおけるIE予防のための抗菌薬投

表4推奨のグレーディング:推奨の方向,推奨の強さ,エビデンス総体の確実性の決定

推奨度推奨の強さ表現基準意義

1 強い推奨 すること,または,しない ことを推奨する介入による望ましい効果(利益)が望ましくない効果(害,負担,コストなど)を上回る,または,下回る確実性が強いその状況において,ほとんどの患者は推奨された方針を望むだろう.希望しない患者は少数にすぎない

2 弱く推奨 すること,または,しない ことを提案する介入による望ましい効果(利益)が望ましくない効果(害,負担,コストなど)を上回る,または,下回る確実性が弱いその状況において,多数の患者は提案された方針を望むだろう.しかし,そうでない患者も少なくない

(日本循環器学会. 2022 3)(日本医療機能評価機構.Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 2)を参考に作表))

表5エビデンス総体のエビデンスの確実性(質)

確実性定義A:(高)効果の推定値に強く確信があるB:(中)効果の推定値に中程度の確信があるC:(低)効果の推定値に対する確信は限定的であるD:(とても低い)効果の推定値がほとんど確信できない注釈:アウトカムには,複数のアウトカムが想定される.あるアウトカムを吟味した研究が2 つ以上ある場合,そのエビデンス総体の確実性を判定する.各アウトカムのエビデンス総体の確実性の判定ののち,すべてのアウトカムに関するエビデンス総体の確実性を決定した(日本医療機能評価機構.Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2020 Ver. 3.0.(p. 117 表4-5) 2)より)
p.14
第1章 総論

与基準の変更後の疫学的研究を考慮して,予防的抗菌薬投与の推奨の見直しを行った.

8 先天性心疾患例におけるIEの予防について,小児と成

人で整合性を図った.

9 診断基準の小項目に含まれる脾膿瘍をはじめ,脳梗塞以外の全身性塞栓症に関する記載を追加した.

10.  右心系IEの治療に関する推奨を示した. 11.  人工血管感染に関する記載を追加した.

12 脳出血を合併したIE患者の手術時期について見直しを

行った.

1 感染性心内膜炎(IE)とは

IEは,弁膜や心内膜,大血管内膜に細菌集蔟を含む疣腫(vegetation)を形成し,菌血症,血管塞栓,心障害などの多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患である. IEはそれほど発症率の高い疾患ではないが,いったん発症すると的確な診断のもと,奏効する治療を適切に行わなければ多くの合併症を引き起こし,ついには死に至る重篤な疾患である.

発症には,弁膜症や先天性心疾患に伴う異常血流や,人工弁やペースメーカをはじめとしたデバイスなどの異物の影響で生じる非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)が重要とされる(図1).すなわち,NBTEを有する例において,歯科処置,耳鼻咽喉科処置,婦人科処置,泌尿器科処置などにより一過性の菌血症が生じると,NBTEの 部位に菌が付着,増殖し,疣腫が形成されると考えられている.したがって,IEは何らかの基礎心疾患を有する例にみられることが多い.弁膜症や先天性心疾患などの基礎心疾患を有する例で,尿路感染症,肺炎,蜂窩織炎などの菌血症を誘

図1 IE 発症の過程

血小板活性化血小板細菌単球好中球フィブリン

内皮障害部位に血小板付着=非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)の成立炎症、組織因子の産生細菌増殖フィブリン形成

疣腫の形成組織破壊細菌の付着
p.15
発する感染症を合併したり,菌血症を生じうるような手技や処置の施行後に発症するのが典型的な経過である.しかし,ときに心疾患の既往がない例に発症することもある.これは,心疾患が見逃されていた可能性も考えられるが,黄色ブドウ球菌などの感染力の強い菌を原因菌とする場合では,正常弁にもIEを引き起こすことが知られている.さらには,誘因が明確でない例も多く,不明熱の症例では常にIEの可能性を念頭に置いて診断にあたることが重要である.

2 IEの最近の動向

IEの発症頻度は比較的低いが,発症後に起こる臓器合併症などのため,死亡率が非常に高い疾患である5-7).最近の30年間での検討ではIEの発症頻度は世界的に上昇してきており,人工弁感染性心内膜炎(PVE),心臓植込み型デバイス関連感染性心内膜炎(CDRIE),医療関連感染が原因となる感染性心内膜炎(healthcare-associated infective endocarditis: HAIE)の増加が特徴的である8).わが国の循環器疾患診療実態調査(JROAD)データベースを用いた検討では,発症頻度は欧米のデータに比してやや低いものの,10万人年あたりの発症率は2016年の2.02から2019年の2.59に上昇している.患者は男性,高齢者に多く,発症時に多臓器合併症を伴う患者が増加しており,院内死亡率は約15.4%と高値である9).

IEにおける原因菌の上位3菌種は,ブドウ球菌,緑色レンサ球菌(VGS),腸球菌で全体の80~90%を占める. VGSの頻度は低下傾向で,わが国を含め先進国では特に黄色ブドウ球菌が増加傾向にあり,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の頻度が高くなってきている10).

3 チーム医療の必要性

IEは臨床徴候や治療が医療の多分野にわたることから,複数領域の専門家が協力して診療にあたることが望まし

い.循環器診療におけるハートチームの重要性は冠動脈疾患や弁膜症で明らかとなっているところであるが,多彩な病像を呈し高度の専門的知識を必要とするIEの診療では,より広い領域にまたがるチーム(IEチーム)が必要となる11-13).IEの診断,管理には循環器内科医,小児循環器内科医,感染症医,放射線科医が必要であり,心臓手術を必要とする例では心臓血管外科医との協力が必須である.さらに中枢神経系合併症の管理には脳神経内科医,脳外科医,歯科治療に伴うIEの発症予防については歯科医の協力なく行うことはできない.

実臨床においてこのような専門家集団で診療にあたることは容易ではないが,少なくとも関連する分野の専門医と緊密にディスカッションしながら診療にあたるべきである.たとえば,弁破壊の著しい例や可動性に富む疣腫を有する例では,緊急手術を念頭に診断時から心臓外科医と連絡を取るべきである.さらに,診療を行う施設には,経食道心エコー図(TEE),computed tomography(CT),磁気共鳴像(MRI),核医学検査,心臓カテーテル検査などが随時行える体制や,心臓外科手術をはじめとした侵襲的治療を緊急で行える体制が整っていることが望ましい.

4 専門病院に紹介すべきタイミング

すべてのIE 患者がIEチームを擁した専門病院を受診するわけではない.もちろん弁破壊が軽度で心不全もなく単一の抗菌薬で速やかに感染をコントロールできるような症例は,非専門病院での加療も可能である.一方,複雑な病像を示すIE患者,たとえば,循環・呼吸不全,重症の弁逆流,人工弁・CIED患者,脳卒中・塞栓症の発症,7日以上の抗菌薬治療でも血液培養が陽性の場合,あるいは自施設で管理が困難と判断する場合には,チーム医療が実践されている専門施設にコンサルトするか,転院を目的として紹介すべきである11).いずれにしても,初診にあたった非専門病院では,まずIEを疑うことが重要で,疑わしい場合は専門病院に紹介することが救命率向上に有効である.
p.16
第2章 診断

1 IEの診断基準

IE の病像は多岐にわたるため,実臨床では素因,発症契機,症状,画像診断,血液培養所見,臨床経過などを総合的に判断して診断を確定する.その診断に活用されるのがDuke診断基準であり,病理学的基準と臨床的基準から構成されている.病理学的基準を満たせばIEの確定診断となる.病理学的基準を満たさない場合,あるいは病理学的所見が得られない場合には,大基準と小基準からなる臨床的基準に基づいて検討し,大基準と小基準を満たす項目によって,確診,可能性,否定的と判断される.このDuke診断基準については,診断技術の発展や時代による病像の変化にあわせて,これまでいくつかの改訂版が発表されている.最初のDuke診断基準が1994年に発表された後14),2000年に一部改訂された修正Duke診断基準が発表

された15).2015年には欧州心臓病学会(ESC)のガイドライン16)において2015 ESC修正Duke診断基準が発表され,さらに2023年に国際心臓血管感染病学会(ISCVID)から2023 Duke-ISCVID診断基準17)が発表された.このほかにも,2023年ESCガイドライン11)において2023 ESC 修正Duke診断基準が発表された.

2023年発表の2 つの診断基準には何点か異なる点があり,両者の大まかな対比を表6 に示す11, 17).2023 Duke- ISCVID診断基準は,より広範な微生物(特に培養陰性IEの原因となりうるもの)を「典型的IE病原体」として取り入れ,外科的所見を主要基準に追加するなど,より包括的な変更を加えることにより,診断感度の向上を目指している. 2023 ESC 修正Duke診断基準は,従来の基準の構造を維持しつつ,画像診断(弁尖肥厚,核医学,CT)の進歩を反映したいくつかの修正を加えている.両基準とも,画像診断の進歩を診断に取り入れる点で共通しているが,微生物

表6 2023 Duke-ISCVID 診断基準と2023 ESC 修正Duke 診断基準の主な相違点

項目2023 Duke-ISCVID 診断基準2023 ESC 修正Duke 診断基準主な相違点

大基準:微生物学的「典型的IE病原体」リストの拡大.

Enterococcus faecalisは常に典型的な病原体として扱う.Staphylococcus lugdunensis, Abiotrophia属,Granulicatella属,Gemella属, Tropheryma whippleiなどを追加Enterococcus faecalisは常に典型的な病原体として扱う(ISCVIDと同様).その他の典型的な病原体のリストはISCVIDほど大幅には変更されていないISCVID のほうが「典型的IE病原体」

のリストがより広く網羅

大基準:画像診断的以下の所見を主要基準に追加または明確化:・ 弁変性/新規の逆流の定義(心エコー図/心臓CT)・ PET/CT画像による自己弁/人工弁/その他人工

物の異常な 18F-FDG集積以下の所見を主要基準に追加:・ 弁変性/新規の逆流の定義(心エコー図/心臓CT)・ PET/CT画像による自己弁/人工弁/その他人工

物の異常な 18F-FDG集積・ WBC SPECT/CTを継続採用ISCVIDのほうが,より詳細にIE所見を定義.ESCではWBC SPECT/CTを採用

大基準:外科的「術中IEの肉眼的証拠」を新しい主要基準として

追加なしISCVIDは外科医による肉眼的所見を明確に主要基準として取り入れた

小基準:素因経カテーテル弁留置/修復,CIEDなどを素因として基準表に追加CIEDの存在を素因として追加ISCVIDはより具体的な心臓デバイスをリストアップ小基準:血管現象脳膿瘍,脾膿瘍を血管現象として追加血行性骨関節合併症(脊椎椎間板炎など)を血管現象として追加血管現象の追加項目に違いがある(2023 Duke-ISCVID診断基準. 2023 17),2023 ESC修正Duke診断基準. 2023 11)を参考に作表)
p.17
学的な分類や基準項目の詳細な定義に違いがみられる.

本ガイドラインでは,2023 Duke-ISCVID診断基準が近年増加しているCDRIEにもより対応している基準と考え,わが国の臨床に合わせて脚注を加筆修正した2023 Duke- ISCVID診断基準(表7)

17)を示す.IEの診断は,本来病理

学的基準をもって行うが,IEは急速に重症化して生命予後を脅かす病態であり,病理学的基準の確認を待って治療を開始すると手遅れになることがある.そのため,病理学的診断基準を満たさなくても,臨床的基準で確診が得られれば,IEとして治療を開始する.また,たとえDuke診断基準に当てはまらなくても,IEの可能性が完全否定されるものではないことには留意する.特に,臨床的基準に用いられる各種検査の診断感度が必ずしも100%ではないことは,認識しておく必要がある.たとえば,修正Duke診断基準を用いた際の診断感度は約80%とされるが,病初期の感度はさらに低く,特に膿瘍形成例,人工弁置換術後,ペースメーカ植込み後では,心エコー図では明瞭な像が得られないことがあるため診断感度が低下する18, 19).そのため,発症当初の検査でDuke基準ではIEの確定診断が得られなくても,臨床経過からIEが疑わしければ,必要な検査を繰り返し行ってIEの診断または否定を行うことが重要である.

2023 Duke-ISCVID診断基準(表7) 17)では,修正Duke診断基準15)に記載されていた疣腫や検体組織からの病原微生物検出に加え,取り出した心臓デバイスや人工弁,グラフトから病原微生物が検出されれば,病理学的診断基準を満たすように改訂された.臨床的基準の大基準については,これまでA.微生物学的大基準とB. 画像診断的大基準の2つであったが,2023 Duke-ISCVID診断基準17)においては,新たにC. 外科的大基準が加わり3つの大基準となった.そして,この3つのうち2つの大基準を満たせば確診と判断される.血液培養については,修正Duke診断基準15)では,持続的に陽性であることを示すために12時間をあけて血液培養を行う基準もあったが.2023 Duke- ISCVID診断基準17)では,2回の血液培養の時間間隔に関する記述は削除された.また,2023 Duke-ISCVID診断基準17)では,微生物学的大基準のうち臨床検査において, PCR法を含む核酸検出法(A,(2),i)や間接免疫蛍光法(A,(2),iii)などの微生物検出法が新しく追加された.画像診断的大基準として,修正Duke診断基準15)では心エコー図のみが採用されていたが,新たにCTや18F-フルオロデオキシグルコース( 18F-FDG)PET/CTが正式に診断基準として記載された(表7,大基準B,(2)).特に人工弁置換術後や心臓デバイス留置後の症例では,アーチファクトや明らかな疣腫を形成しない例があるために,心エコー図のみではIEの診断が難しいことが多い.このような症例

においてCTや18F-FDG PET/CTが有用であるとの報告は多く,それを受けての改訂である.ただし,人工デバイス植込み後3ヵ月以内は,植込み箇所に炎症が残るため, 18F-FDG PET/CTで陽性所見を認めても偽陽性が多く,小基準にしかならない.また,現在18F-FDG PET/CTはわが国では保険適用外である.

小基準については,修正Duke診断基準15)では素因,発熱,血管現象,免疫学的現象,病理学的所見の5つが採用されていたが,2023 Duke-ISCVID診断基準17)では,新たに大基準を満たさないがIEが疑わしい画像診断基準(小基準F)と身体所見基準(新規の心雑音) (小基準G)が追加され,合計7 つの小基準となった.また,修正Duke診断基準15)に記載された小基準にも,いくつかの項目が追加されている.素因(小基準A)にはIEの既往,カテーテル治療も含めた弁手術後およびCIED植込み後が,血管現象(小基準C)には脳膿瘍および脾膿瘍が,それぞれ追加され,微生物学的所見(小基準E)についても,いくつかの感度の高い診断法が新たに取り入られている.

2023 Duke-ISCVID診断基準17)が,修正Duke診断基準や2015 ESC修正Duke基準と比べてIEの診断能を向上させることは,これまでいくつかの研究で報告されている20-24).たとえば,欧州の多施設共同研究20)では,修正Duke診断基準や2015 ESC修正Duke診断基準によるIE診断感度がそれぞれ70%であったものが,2023 Duke- ISCVID診断基準では84%まで向上したと報告されている.特に,従来の修正Duke診断基準では診断感度の低かった人工弁感染や心臓デバイス感染によるIEにおいて,2023 Duke-ISCVID診断基準によって診断感度が向上した21)という点は,今後増加が予想される人工弁や心臓デバイス術後管理では重要な点である.自己弁に比べると,人工弁や心臓デバイスに関連したIEの診断は難しいことが多く, 2023 ESCガイドライン11)では自己弁,人工弁,CDRIEのそれぞれについて異なった診断アルゴリズムが示され,それぞれのIEを疑った場合の画像診断推奨度も示されている.

一方で,わが国では2023 ESCガイドライン11)で推奨されている白血球シンチグラムが普及しておらず,わが国の医療保険制度や各医療機関における医療設備などの面からも,欧米と同様の診断アルゴリズムを運用するのは難しいと考えられる.そのため,本ガイドラインでは,わが国で運用可能と考えられる大まかな診断アルゴリズムを図2として提示しておく.まずはIEが疑われた時点で速やかに臨床所見,血液培養,心エコー図など基本的評価項目を行い,確診と判定されればIEとして迅速に治療を開始する.
p.18
確診と判定されなくても,可能性群,あるいは否定的群でも臨床的にIEが否定できなければ,基本項目の再検のほかに必要な検査を追加して,2023 Duke-ISCVID診断基準を満たすか再度検討する.IEは急速に重症化して予後不良となることがあるため,確診が得られなくてもIEの可能

性が高いと考えられる症例では,IEを念頭に治療方針を立てたほうがよい.

表7 IEの診断基準(2023 Duke-ISCVID 診断基準)

確診A. 病理学的基準(1) 以下のいずれかの検体から,活動性感染性心内膜炎の臨床徴候に関連した病原微生物が同定aされる場合

疣腫(vegetation),心臓組織,摘出した人工弁や縫着リング,上行大動脈グラフト(弁病変伴う場合),心臓植込み型電子デバイス(CIED),動脈塞栓または(2) 以下のいずれかの部位に,組織学的に活動性心内膜炎b(急性c,または亜急性/慢性dのいずれでも)を認める場合.疣腫,心臓組織,摘出した人工弁や縫着リング,上行大動脈グラフト(弁病変を伴う場合),CIED,動脈塞栓B. 臨床的基準(1)大基準2つまたは(2)大基準1つおよび小基準3つまたは(3)小基準5つ

可能性A. 大基準1つおよび小基準1つまたはB. 小基準3つ

否定的A. IEを疑う徴候/症状を説明できる確定的な代替(IE以外の)診断e

またはB. 4日間未満の抗菌薬治療で再発なしまたはC. 4日未満の抗菌薬投与後の手術時または剖検時にIE の病理学的所見を認めないまたはD. 上記「可能性」基準にあてはまらない

a.  培養,染色,免疫学的手法,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR),あるいはアンプリコンシークエンス(16S,18S,内部転写スペーサー),メタゲノム(ショットガン)シークエンス,または新鮮組織やパラフィン包埋組織でのin situ ハイブリダイゼーションを含むその他の核酸ベース検査による同定.分子生物学的手法や組織染色(グラム染色,ジアスターゼ処理過ヨウ素酸シッフ染色,グロコット染色,あるいはWarthin- Starry,Steiner,Dieterle などの銀染色)は慎重に解釈する必要がある.特に既往にIEを有する患者では,こうした検査は治療成功後も長期間陽性を示しうる.組織採取前の抗菌薬投与も微生物の形態や染色性を大きく変化させうる.検査の特異性は複数の要因に左右され,偽陽性も起こりうる.したがって検査結果の解釈は,常に臨床的および組織学的に活動性心内膜炎を示す証拠と照らし合わせて行うべきである.弁やワイヤーからPCRで皮膚常在菌が単回検出されたのみで,追加の臨床的・微生物学的裏付けがない場合は小基準とすべきであり,確定IEとはみなさないb.  活動性心内膜炎(active endocarditis):疣腫,弁尖破壊,あるいは自己弁や人工弁周囲組織における種々の程度の炎症細胞浸潤と修復像.多くの標本では両者が混在してみられるc.  急性心内膜炎(acute endocarditis):自己弁や人工弁の疣腫または心臓/大動脈病変で,顕著な炎症が存在するが,明らかな修復像や組織化変化が乏しいものd.  亜急性/慢性心内膜炎(subacute/chronic endocarditis):自己弁や人工弁の疣腫または心臓/大動脈病変で,修復もしくは修復過程を示す所見(成熟した肉芽組織や線維化,さまざまな単核球浸潤,石灰化)を伴うもの,石灰化は損傷組織や疣腫で急速に生じうるほか,もともとの弁膜疾患に由来し,IE発生の基盤となった場合もあるe.  IEの徴候・症状を説明できる確定的な代替診断(firm alternate diagnosis)は,微生物学的原因または非微生物学的原因のいずれでもよい微生物学的代替診断:1非典型的IE原因菌による菌血症の明確な感染源が存在する,2菌血症が速やかに消失する,3心エコー図など心臓画像でIEの証拠がない,以上3条件を満たす場合非微生物学的代替診断:1心エコー図など心臓画像の異常所見を説明できる非IE性疾患(例:マランティック心内膜炎,非細菌性血栓性心内膜炎)が存在する,2IEを支持する微生物学的証拠が存在しない場合
p.19
a)基準の定義

大基準A. 微生物学的大基準(1)血液培養陽性i. IEの原因として一般的な微生物aが,2セット以上の独立した血液培養から検出された場合(典型的微生物)b

またはii.  IEを時にしか起こさない,あるいは稀な微生物が,3セット以上の独立した血液培養から検出された場合(非典型的微生物)b (2)臨床検査陽性i.  Coxiella burnetii, Bartonella属菌,またはTropheryma whipplei が,血液からPCR法あるいは他の核酸ベース検査cで同定された場合またはii.  Coxiella burnetii抗phase I IgG 抗体価>1:800d,または単回の血液培養で検出された場合またはiii.  Bartonella henselaeまたはBartonella quintanaに対するIgMおよびIgG抗体を検出する間接免疫蛍光法(IFA)でIgG抗体

価≧1:800 d B. 画像診断的大基準(1)心エコー図および心臓CT画像i. 心エコー図または心臓CT画像により,疣腫e,弁穿孔f,弁瘤g,膿瘍h,仮性瘤i,心内瘻孔j,のいずれかを認めるまたはii.以前の画像と比較して新規に出現した有意な弁逆流(既存の弁逆流の増悪や変化では満たさない)またはiii. 以前の画像と比較して人工弁の新たな弁周囲部分的離開(人工弁周囲逆流) (2)18F-FDG PET/CT画像(術後は3ヵ月以降の評価)

*

自己弁/人工弁,上行大動脈グラフト(弁病変の証拠を伴う),心臓内デバイスリード,その他の人工物に18F-FDG PET/CTで代謝異常kが陽性l, m C. 外科的大基準心臓の画像検査や病理組織検査の大基準を満たさない場合に,術中に肉眼で明らかなIE所見を認めるn

小基準A.  素因:IEの既往,人工弁置換/留置術後o,弁形成術後o,先天性心疾患p,中等度以上の弁逆流・狭窄,CIED,閉塞性肥大型心

筋症,注射薬使用B.  発熱:38.0°C以上C.  血管現象:主要動脈塞栓,敗血症性肺梗塞,脳膿瘍または脾膿瘍,感染性動脈瘤,頭蓋内出血,結膜出血,Janeway病変,化膿性紫斑D.  免疫学的現象:免疫複合体型糸球体腎炎q,Osler結節,Roth斑,リウマチ因子E.  大基準を満たさない微生物学的所見1)IEとして矛盾のない血液培養陽性だが,大基準を満たさないものr,または2) 心臓組織,心内人工物,動脈塞栓以外の身体の無菌部分から,IEに一致する微生物が培養,PCR,またはその他の核酸ベース検査(アンプリコン解析またはショットガン・シークエンス法,in situハイブリダイゼーション法)によって検出された場合.あるいは,弁やワイヤーに皮膚常在菌がPCRによって単独で検出されたが,他の臨床的または微生物学的な証拠がないF.  画像診断基準:人工弁,上行大動脈グラフト(弁病変の証拠を伴う),心臓内デバイスリード,その他の人工物の植込みから3ヵ月以内に18F-FDG PET/CTで代謝異常を検出G.  身体所見基準s:心エコー図が利用できない場合は,新規の弁逆流の心雑音が聴取された場合.既存の心雑音の増加や変化は基

準を満たさない

a.  IE を一般的に起こす微生物:Staphylococcus aureus,Staphylococcus lugdunensis,Enterococcus faecalis,Granulicatella属, Abiotrophia属,Gemella属,およびHACEK グループ,VGS,栄養要求性レンサ球菌(nutritionally variant streptococci).PVEの場合には,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)やCorynebacterium属菌などもある(Appendix 4参照) b.  「血液培養セット」は,同時に採取された1本の好気ボトルと1本の嫌気ボトルの組み合わせと定義される.「陽性」血液培養セットは,ボトルのいずれかから微生物が発育した場合を指す.IEが疑われる際には,可能なかぎり異なる穿刺部位から採血することが強く推奨される.セットの血液培養採取の時間間隔に関しては記述はないc.  核酸増幅技術(Nucleic Acid-Based Techniques):PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)やin situ hybridization,アンプリコンシーケンス,ショットガンメタゲノム解析などd.  他の方法による同等の力価結果も可e.  疣腫:心臓弁,人工弁,または心内膜面に付着した感染性集塊(フィブリン,血小板,細菌を含む) f.  弁穿孔:感染による弁組織の部分的な断裂で,急性の逆流を引き起こすことがあるg.  弁瘤:感染による弁尖の袋状拡張.穿孔による急性弁逆流のリスクを伴うh.  膿瘍:心臓周囲軟部組織に感染性液体(膿)がたまった状態.大動脈弁基部や弁輪に好発i.  仮性瘤:心筋や血管内皮の一部が欠損し,心血管内腔と交通する心/血管周囲腔j.  心内瘻孔:穿孔を介した隣接する2つの心腔間の交通k.  人工弁感染性心内膜炎(PVE)の場合:強い,限局性/多巣性,または不均一な18F-FDG集積パターン.自己弁IEや心デバイスリード感染の場合:いかなる異常18F-FDG集積パターンも該当するl.  人工弁外科手術後少なくとも3ヵ月経過した後に施行されるもの.植込みから3ヵ月以内のPET所見は術後の炎症を反映している可能性がある
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a) 病理検体や手術所見が得られる例では,併せて検討するb) 画像不良例や人工弁置換術後例などTTEで十分な評価が行えない場合には,必要に応じてTEEの評価を追加するc) 可能性群であっても,臨床的にIEが疑わしい場合はIEとしての治療を考慮する.また,必要に応じて再評価を行うd) 人工弁IE疑いでは,心エコー図検査では画像診断が十分でないことが多く,CTや18F-FDG PET/CTによる評価を検討する(18F-FDG PET/CTについてはわが国では保険適用外) IE:感染性心内膜炎,TTE:経胸壁心エコー図,TEE:経食道心エコー図図2 IEの診断アルゴリズム

IE疑い

基本的項目の評価a)臨床所見+血液培養+心エコー図(TTE,TEE) b)

基本的項目の評価の再検臨床所見+血液培養+心エコー図(TTE,TEE) b)

必要に応じて追加の評価・PCR法などその他の微生物学的検査・CT,18F-FDG PET/CTなどによる弁/感染巣疑い部位の画像検査d)・CT,MRIによる全身の血管現象の評価・そのほか,2023 Duke-ISCVID診断基準で求められる評価項目

臨床経過からIEが否定できないとき

2023 Duke-ISCVID診断基準

2023 Duke-ISCVID診断基準の再検討

確診可能性c)否定的

m.  一部の人工弁は,生理的で非病的な18F-FDG集積を示す場合がある.心内感染がない状況でジェネレーター部位のみに18F-FDG PET陽性所見を認めても,大基準には該当しない.PET/CTは心外感染巣の検出に有用であるn.  手術所見でのIE診断:疣腫,穿孔,膿瘍などが手術中に明らかとなった場合.ただし,病理組織学的検査や微生物学的検査用の適切なサンプルの提出は必要o.  開心術または経カテーテル手技のいずれかによって置換された人工弁を含むp.  先天性心疾患:チアノーゼ性先天性心疾患(ファロー四徴症,単心室,完全大血管転位,総動脈幹,左心低形成症候群),房室中隔欠損,心室中隔欠損,左心系病変(二尖弁,大動脈弁狭窄症・閉鎖不全症,僧帽弁逸脱症,僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症),右心系病変(Ebstein奇形,肺動脈弁異常,先天性三尖弁疾患),動脈管開存,その他の先天性心疾患(修復の有無を問わず)を含むq.  以下のいずれかで定義される(1) 原因不明の急性腎障害(AKI)または急性増悪を伴う慢性腎障害が存在し,さらに次のうち2項目を伴う:血尿,蛋白尿,尿沈渣での円柱,血清学的異常(低補体血症,クリオグロブリン血症,免疫複合体の存在)または(2) 腎生検で免疫複合体性腎疾患に一致する所見を認める場合r.  血液培養の常在菌汚染やIEをほとんど起こさない微生物に対する,単回の血液培養陽性やシークエンス検査陽性は除外するs.  心エコー図が使えない場合には代替所見となるが,既存の心雑音の変化だけでは基準を満たさない*18F-FDG PET/CTについてはわが国では保険適用外IE:感染性心内膜炎(Fowler VG, et al. 2023 17)より脚注のみ改変) Fowler VG, et al., The 2023 Duke-International Society for Cardiovascular Infectious Diseases Criteria for Infective Endocarditis: Updating the Modified Duke Criteria., 2023 Aug 22;77(4):518-526., by permission of Oxford University Press on behalf of the Infectious Diseases Society of America. Translation disclaimer: OUP and Infectious Diseases Society of America are not responsible or in any way liable for the accuracy of the translation. The Licensee is solely responsible for the translation in this publication/reprint.
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2 症状・身体所見

IEの臨床症状は急速に進行するものから数週から数ヵ月単位の亜急性~慢性の経過を辿るものまでさまざまである25).また臨床症状も多彩であり,特に急性の経過での原因不明の敗血症やIEのリスク因子(表8)

11, 25-34)を有する患

者の発熱ではIEを考慮する必要がある.一方で,亜急性から慢性経過のIEでは,悪寒,倦怠感,体重減少などの非特異的症状で経過し,診断に難渋することがある25).発熱はIE患者の77~96%にみられる主要な症状であるが10, 26, 35),抗炎症薬の使用により発熱がマスクされ診断が困難になる場合や,高齢者や免疫機能が低下している患者では発熱がない場合もあり,注意が必要である1).その他の非特異的な症状としてIE患者の44%で筋骨格系の症状がみられる.その内訳は四肢の関節痛(38%),関節炎(31%),腰痛(23%),びまん性の筋肉痛(19%)であり,症状は通常,IE発症早期から出現する36, 37).

IEの症候論は心臓への直接傷害と心臓以外への塞栓や炎症の波及による傷害に由来するものと大別できる.まず心臓に関しては,うっ血性心不全,弁膜障害による弁逆流,伝導障害を起こすことがある.IE患者の27%にうっ血性心不全がみられた報告があり10),咳嗽や呼吸困難の有無を確認し,頸静脈怒張,過剰心音,浮腫などの身体所見に注目する必要がある.IE患者において,65%に心雑音が聴取されたという報告10)や,新たな心雑音は48%,既知の心雑音の悪化は約20%に起こるという報告があり25),弁逆流による心雑音の有無を確認することも大切である.新規の逆流性心雑音の聴取は2023 Duke-ISCVID診断基準17)

の小基準にも含まれている.一方,右心系弁膜症や急性発症の大動脈弁逆流症では心雑音の聴取が困難な場合があることが留意点である38).伝導異常は12%でみられ,そのうちI度房室ブロックが8%,III度房室ブロックが3%であったとの報告があり10),伝導障害に伴うめまい,失神などのエピソードに注目する必要がある.非特異的な所見(いつもより朗らか・暗い等)もあり,注意が必要である.

脳梗塞,冠動脈塞栓症による急性心筋梗塞,肺塞栓,脾梗塞,腎梗塞などの塞栓症は20~35%程度合併することが知られている10, 26, 39).脳卒中はIEの最初の臨床症状となる場合があり,死亡率の増加に関連する深刻な合併症である40, 41).脳卒中の発症率は,抗菌薬治療開始後2週間で経時的に低下することが示されており42),塞栓症全体をみても抗菌薬による治療開始後2週間を経過すると発症率が低下する43).心筋梗塞,肺塞栓では胸痛,脾梗塞では左季肋部痛,腎梗塞では背部痛や側腹部痛,血尿を伴うことがある.また,四肢の末梢動脈に塞栓が起こった場合には末梢の冷感を呈することや,椎体炎や腸腰筋膿瘍では背部痛や腰部痛を伴うことがある.

脳卒中以外の中枢性合併症として,脳膿瘍や脳動脈瘤,髄膜炎があり,重度の頭痛や,項部硬直,痙攣,巣症状,意識障害がみられる44, 45).

皮膚・粘 膜の所見として最も多いものは,塞栓による直接の血管破綻または自己免疫機序によることも仮説として提唱される点状出血や紫斑であり(20~40%),結膜や頬粘膜,口蓋,および四肢に現れることが多い46, 47).頻度は低いが確認するべき身体所見として,手掌や足底の無痛性紅斑であるJaneway病変(4~5%),指腹や母指球などにみられる有痛性皮疹のOsler結節(2~3%),爪の線状出血斑(8%),眼底のRoth斑(2%)がある10, 35, 48).脾腫(11%)を認めることもある13).皮膚・粘膜所見について図3~5にまとめた.

図3 IE の身体所見(下眼瞼の点状出血)

表8 IE のリスク因子

非心原性• 高齢者a • 口腔衛生不良/観血的歯科治療歴• 血液維持透析• 中心静脈カテーテルの使用心原性• IEの既往• 弁膜疾患• 先天性心疾患• 人工弁• 心臓埋め込み型デバイスa 年齢が60歳を超えるとIEのリスクが増加する報告が多い25-29) IE:感染性心内膜炎(文献11, 25-34を参考に作表)
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3 血液検査

血液培養検査を除いて,血液検査でのIE特異的な指標は存在しない.よくみられるものとして,貧血,白血球増加/白血球減少,C反応性蛋白(CRP)やプロカルシトニンの上昇,赤血球沈降速度の亢進,末梢循環不全や臓器障害を示唆するマーカーの異常(乳酸,血清クレアチニン,ビリルビン,心筋トロポニン,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),NT-proBNPの上昇,血小板減少)があるが, IEの直接的な診断にはつながらない11).IE診断のための特異的なバイオマーカーは確立されていないが,IE治療開始後のCRPの持続的な高値は感染による合併症や死亡リスクの上昇と関連があるとの報告があり,リスクや病勢評価のための1つの指標となる49).

IEはマラリアや梅毒と同様に血管内に持続的な抗原刺激が起きている状態であり,結果的にさまざまな免疫反応

が生じうる38, 46).リウマチ因子(RF)はIE患者の5~36%で陽性となり10, 35, 50),Duke診断基準の小項目にも含まれている.RF陽性のIE患者では抗菌薬治療後にRFの陰性化あるいは値の低下がみられることがあり51),診断のみならず,治療の効果判定に有用である.また,糸球体腎炎を合併したIE患者のうち,56%で低補体血症がみられた報告があり,診断の補助となる52).クリオグロブリンや抗好中球細胞質抗体(ANCA),梅毒の血清反応が陽性となることがあるが46, 52-55),必須の検査ではなく,あくまでも診断の補助として用いる.

尿検査はIE診断の一助となる.IE患者では血尿(26%),蛋白尿(50~65%),顕微鏡的血尿(30~60%),赤血球円柱(12%)がみられる35, 46).IEに合併した糸球体腎炎の評価のため尿検査を推奨する.

単一の検査のみで診断・治療効果の評価は困難であるが,臨床症状や複数の検査データをもとに,ハイリスク患者の特定や治療効果の判定を行うことが望ましい.

4 微生物学的検査

IEの診断において,微生物学的検査はきわめて重要である.なかでも血液培養は,原因微生物の同定および薬剤感受性試験を施行するためには必須の検査であり,診断の主要項目である.一方,培養が困難な微生物(例: Bartonella属菌,Coxiella burnetii,真菌など)が原因であったり,抗菌薬を既に使用した後で(休薬中であっても)培養が陰性になっている場合には,抗体検査や手術時に採取した感染した弁組織等に対するPCRなどの分子生物学的手法が有用である.

4.1 血液培養

IEの診断過程において,血液培養で微生物が検出された場合は,菌種の同定と治療に必要な抗菌薬の感受性結果について情報提供されるため,より適切な抗菌薬選択につながる(血液培養における菌の分離,同定についてはAppendix参照).

IEの血液培養陽性率は高く,適切に3セット以上採取した場合には96~98%になる56).しかし,培養採取以前に抗菌薬投与が行われていた場合,特に緑色レンサ球菌(VGS)など菌種によっては血液培養の陽性率が低下する57-59).

図4 IE の身体所見(爪の線状出血斑)

図5 IE の身体所見(足趾のJaneway 病変)
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血液培養は,好気用と嫌気用の2本を1セットとし,少なくとも3セット提出する.

血液培養を採取する際の穿刺部位としては上肢の静脈(一般的には正中静脈)を選択する.採取不能時は大腿静脈を選択することもあるが,上肢の静脈と比較して,採取時の汚染が生じやすい60).動脈と静脈で菌の検出率に差はないため動脈から採取してもかまわない61)が,手技上の安全面や簡便性を考慮し,一般的には静脈採血が行われる.また,採取部位は複数箇所とするが62),1ヵ所のみの静脈穿刺でも,菌の検出率については劣らないという報告がある63, 64).一方,1ヵ所のみの穿刺の場合,Staphylococcus epidermidisやCorynebacterium属菌など皮膚の常在菌が検出された際に,汚染菌かどうかの鑑別が難しいため,可能であれば複数箇所から穿刺をすべきである.また,血管内カテーテルを介して採取した検体は,直接穿刺と比較して汚染するリスクが高い65)ため,可能なかぎりカテーテル採血は避けるべきである.もしカテーテル採血を行うのであれば,採血ポートを慎重に消毒し,複数ルーメンのカテーテルであれば,すべてのルーメンから培養用の血液を採取するとよい66).

血液培養採取のタイミングについては,発熱・悪寒戦慄時でなくても採取してよい.これは,IEが持続的な菌血症を呈するという特徴を有しているためである.各セットの採取インターバルについては一定の見解はない.しかし,敗血症や急性心不全を呈する場合には,血液培養採取のために抗菌薬投与を遅らせるべきではなく,速やかに3セット(最低2セット)の血液培養を採取し抗菌薬を開始すべきである.すでに何らかの抗菌薬が投与されていた場合,経過が亜急性で,敗血症や急性心不全を呈していない場合は,抗菌薬をいったん休薬し血液培養を採取することもあるが,推奨される休薬の期間は定まっていない67).

培養期間に関して,国内のほとんどの施設では,全自動血液培養装置を採用しており,原因微生物がHACEKグループや真菌であっても7日間の培養期間で十分に検出できる.したがって,培養期間は7日間を目安にし,長期培養は基本的には不要である(Appendix 2.診断:微生物学的検査を参照) 67, 68).IEに比較的特徴的とされる菌種が,すべての血液培養セットで陽性になるとは限らないので, 1セットのみ陽性の場合は慎重な判断を要する.たとえば血液培養陽性時に汚染菌である確率は,Staphylococcus aureusであれば1%,腸球菌では10%,VGSでは50%程度とされる(表9) 69).一方,臨床的にIEを疑う患者では1セットのみの陽性でも診断的価値は高く70),IEに特徴的な菌種であれば,安易に汚染菌とみなさず,臨床的判断に基づいてさらに血液培養を追加することが望ましい. 4.2 その他の検査法:抗体検査,PCR他 (Appendix参照)

Bartonella属菌やCoxiella burnetiiなど,通常の培養法では検出困難な微生物が原因菌の場合,血液培養が陰性となりうる71, 72).国内でも少数だが,Bartonella属菌73, 74)やCoxiella burnetiiによるIE症例の報告がある75).また,抗菌薬投与の影響で血液培養が陰性となり,治療方針決定が困難な場合もある.これらの菌によるIE診断には抗体検査や,手術等で得られた組織検体を用いたPCR・塩基配列解析76, 77),さらに次世代シーケンスによる網羅的な病原体解析が有用である.また,メタゲノム次世代シーケンス(mNGS)の有用性も報告されている78, 79).これらの分子生物学的検査を,微生物学的証拠として診断基準の1つに採用しているガイドラインもある17).しかしながら,これらは保険適用外であり,現時点では一般の検査室での実施体制も整備されておらず,専門機関への依頼が必要となる場合が多い.

また,Candida属真菌やAspergillus属真菌による真菌性IEは血液培養の陽性率が低く,Aspergillus属真菌では10%未満である.診断補助として,血中β-D-グルカンやアスペルギルス抗原が測定されるが,感度・特異度は十分ではない80)ので,感染症専門医と連携し総合的に判断する.

表9血液培養分離菌と汚染率

微生物汚染率(%)

Cutibacterium spp. (旧 Propionibacterium spp.) 94 Corynebacterium spp. 88 Coagulase-negative staphylococci 82 Viridans group streptococci 55 Enterococcus spp. 11 Pseudomonas aeruginosa 4 Escherichia coli 1 Klebsiella pneumoniae 1 Staphylococcus aureus 1 Streptococcus pneumoniae 0 β-hemolytic streptococci 0 Serratia marcescens 0 Candida spp. 0 (Pien BC, et al. 2010 69)より作表)
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5 画像検査

5.1 心エコー図検査(推奨表1)

推奨表1 IEにおける心エコー図検査の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

IE が疑われる全症例に対してTTE を行うI B IE が疑われる症例で,TTE で十分な画像が得られない症例にTEE を行うI B IE が疑われる症例で,人工弁例またはデバイス留置例にTEE を行うI B IE が疑われる症例で,TTE が陰性であった場合にTEE を行うI B初回TTE/TEE が陰性であっても臨床上IE が疑わしい症例に3~7 日後の再検査を行うI C新たな合併症が生じた際にフォローアップTTE/TEE を行うI B治療効果を判定するためにフォローアップTTE/TEE を行うI C

治療終了時TTE を行うI Cブドウ球菌,腸球菌,レンサ球菌属による菌血症例に対してTTE/TEE 検査を考慮するIIa B TTE が陽性である症例に対してTEE(右心系弁IE のみの症例を除く)を考慮するIIa C無症状の心内合併症の出現を評価するためのフォローアップTTE を考慮するIIa B IE:感染性心内膜炎,TTE:経胸壁心エコー図,TEE:経食道心エコー図

IEを疑う症例では,血液培養陰性例も含め,全例で心エコー図検査を施行するべきである81-84).心エコー図検査は,IEの診断,治療方針の決定,治療効果の判定,予後推定に最も重要な役割を果たす画像診断法である.

5.1.1 陽性所見

2023 Duke-ISCVID診断基準による画像診断の基準では,1疣腫(vegetation),2弁穿孔(valvular/leaflet

perforation),3弁瘤(valvular/leaflet aneurysm),4膿瘍(abscess),5仮性瘤(pseudoaneurysm),6心内瘻孔(intracardiac fistula),7新たな弁逆流の出現(significant new valvular regurgitation,既存の弁逆流の悪化や変化だけでは不十分),8人工弁の新たな弁周囲部分的離開(new partial dehiscence of prosthetic valve) (人工弁周囲逆流)があげられている17).ESC2023のガイドラインでは,これらに加えて弁尖の肥厚(leaflet thickening)が陽性所見としてあげられているが,偽陽性が増加するため,本ガイドラインでは陽性所見としなかった11).

5.1.2 疣腫の意義

疣腫は,弁またはその他の心臓組織の心内膜,心臓関連デバイスやその他の心血管内人工物に付着する可動性を有する腫瘤で,解剖学的に他に説明ができない構造物と定義される17).疣腫を疑う所見がみられた場合,その大きさ,形状,付着部位,可動性,エコー輝度などを観察する.疣腫の大きさ(最大径)は,手術の適応の判断に重要な指標となる(第5章 外科的治療を参照).疣腫の性状や可動性から塞栓症のリスクが予想できるが,限界もある65).

内科的治療後の疣腫の大きさや可動性の変化を観察することは,抗菌薬の効果判定に有用である.抗菌薬治療により,約30%の症例では疣腫エコーが消失するが,残りの症例では残存する66).したがって,治療後に疣腫エコーがみられた場合でも,必ずしも治療無効や再発とは限らない.

疣腫と鑑別を要する構造物としては,血栓,ランブル疣贅,逸脱弁尖,弁の粘液腫様変化,腱索断端,人工弁の縫合糸や弁座,乳頭状線維弾性腫などの腫瘍,無菌性疣腫などがあげられる.

5.1.3 診断精度

心エコー図検査によるIEの診断精度は,超音波診断装置の進歩とともに向上している.これまでの報告では,経胸壁心エコー図(TTE)による疣腫検出の感度は自己弁で70%,人工弁で50%程度,経食道心エコー図(TEE)による疣腫検出の感度は自己弁,人工弁ともに90%以上である.疣腫検出の特異度はTTE,TEEともに90%程度と高い.一方,弁輪周囲膿瘍検出の感度に関しては,TTEでは30~ 50%と低く,TEEでは報告により差があり50~90%である.弁輪周囲膿瘍検出の特異度はTTE,TEEともに高く90%以上である.画像不良例,小さな疣腫(<3 mm),人工弁例,弁の変化(逸脱,肥厚,石灰化など)を有する症例,ペースメーカなどのデバイス留置例では検出率が低くなる.そのため,心エコー図検査から得られたIEを疑う所見を,症
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状や血液検査などの臨床像と合わせて判断すべきである.

5.1.4 TTE,TEEの適応

TTEは疣腫や弁輪周囲膿瘍の検出という点において,感度・特異度ではTEEに劣るが,非侵襲的で繰り返し施行することができ,また心機能評価やドプラ法を用いた血行動態評価の点でTEEに優っているため,IEが疑われた全症例に可及的速やかに行うべきである11, 81, 83).TEEは, TTEが画像不良で診断できない症例,またはTTEで陰性であった症例や81, 87-89),人工弁例やその他デバイスが挿入されている症例81, 83, 88, 90)でIEが疑われる場合に施行するべきである.また,TTE陽性例でも,膿瘍や心内シャントなどの心内合併症の有無を評価するためにTEEを施行することが望ましい84).TEEを施行しても早期には異常を検出できないことがあるため,臨床的に疑わしい場合は3~ 7日後に再検査をするべきである.人工弁IEは疣腫の描出が困難なことが多く,TEEを繰り返すことによってはじめて診断できる例もある.黄色ブドウ球菌(S. aureus),腸球菌(E. faecalis),緑色レンサ球菌(VGS)による菌血症の場合にはIEの可能性が高く,TTEまたはTEEをより積極的に考慮する91-94).欧米では,これらの菌については,心エコー図検査を行うべきリスクスコアが提唱されている95-102).IEの典型的な原因微生物に関しては診断基準(表7の注)を参照のこと.

5.1.5 フォローアップ検査のタイミング

TTE,TEEで陰性であっても臨床的にIEが疑われる場合,また,IEと診断した症例における抗菌薬開始後の効果判定や心内合併症出現を評価するため,3~7日後にフォローアップ心エコー図検査を行う.黄色ブドウ球菌が原因菌である場合は,さらに短期間でのフォローアップが必要である.また,臨床所見の変化(心不全の悪化,心雑音の出現,伝導障害や不整脈の出現など)が生じた場合は,速やかにフォローアップ心エコー図検査を行う83, 84, 93).

5.1.6 治療終了時の心エコー図検査

治療終了後のフォローアップのための基礎データとして,治療終了時には心エコー図検査を必ず施行し,弁の形態,残存疣腫の状態,逆流の程度などを評価する.ほとんどの場合はTTEによるフォローアップを行うが,人工弁などでTTE では評価できない特殊な症例では,TEEでのフォローアップも考え,治療終了時のTEEを行う.

5.1.7 3次元心エコー図検査

3D TEEの進歩により,3次元画像もIEでの評価に応用されている.疣腫の大きさや形態のより正確な評価が可能

との報告103)がある一方で,時間分解能が低いため,疣腫の大きさを過大評価するとの報告もある.弁輪周囲膿瘍の範囲,人工弁の裂開や弁穿孔の評価に有用である104).

5.2 CT(推奨表2)

5.2.1 IE評価におけるCTの撮像法

IEの評価のためにCT検査を利用する場合には,放射線被ばくとヨード造影剤投与のリスクを考慮したうえで慎重に適応を判断し,適切に実施する必要がある105, 106).心臓CTの撮影には,64列以上の多列検出器を有する装置を用いることが望ましく,ECG gatingの併用およびスライス厚1 mm以下の画像再構成が必要である105).Retrospective ECG gatingでは高心拍の患者でもモーションアーチファクトの少ない画像を取得できるが,オーバーラップ撮像のため被ばく線量が増える.被ばく線量低減の方法として, prospective ECG gating,ハイピッチ撮像,低管電圧撮像,逐次近似法や深層学習を用いた画像ノイズ低減などがある.医療被ばくにおけるALARA(As Low As Reasonably Achievable)の原則をふまえ,CT装置の性能および患者の状態を加味した適切なプロトコール設定が必要である105, 107).ヨード造影剤注入時には,自動注入器を使用する.右心系のIEを疑う場合には,一般的な冠動脈コンピュータ断層血管造影(CTA)とは異なり,右心系も造影されるような造影剤注入プロトコールを用いて撮影する必要がある.

心臓以外の領域のCTは心電図非同期で撮像する.IEに合併した感染性動脈瘤・仮性動脈瘤の評価には,動脈相で撮像しthin sliceで画像再構成をしたCTAが必要である.

5.2.2 IE確診あるいは疑い例におけるCT検査の目的

a.	IEの診断および心合併症

2023 Duke-ISCVID診断基準では,心臓CT所見が画像検査の大基準の1つに追加された17).心臓CTで,疣腫は弁または血管に付着する低濃度の結節として描出される.しかし,径10 mm未満の疣腫の検出や弁穿孔の評価では,心臓CTよりもTEE検査のほうが優れている108).一方,弁周囲,人工弁周囲の合併症(膿瘍,仮性動脈瘤,瘻孔)の評価にはTEE検査よりも心臓CTのほうが優れている109-111).したがって,TEE検査で確定診断が困難な例には心臓CTが推奨される11).TAVI後の患者におけるIEの診断でも,弁周囲の評価目的に心臓CTは推奨される112).また,心臓CTはIE診断後の手術治療計画にも有用であ
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る111, 113-117). b.	頭蓋内病変の評価

くも膜下出血や脳出血(微小脳出血を除く)の検出に優れており,全身検索のCTに含めて撮像できる簡便性がある.CTAで頭蓋内の感染性動脈瘤の評価も可能である.梗塞を含む頭蓋内病変全般の検出力はMRIに劣るが,全身状態が不安定な場合や,MRIが撮像できない患者では有用である(第3章3.2 中枢神経合併症も参照). c.	その他の心外病変の評価

主要血管塞栓,敗血症性梗塞,感染性動脈瘤などのIEの診断小基準を含む,全身の病変検索目的としてCTは有用であり,治療方針にも関連する所見が得られる118, 119).また,敗血症の他原因のスクリーニング目的にも用いられる. d.	冠動脈CTA

IEの患者における冠動脈疾患のスクリーニングに有用である.IEに対する外科的介入が必要であり,大動脈弁や大動脈壁に塞栓のリスクがある疣腫を認める場合には,術前検査として冠動脈CTAを用いることができる120).一方,一般的な冠動脈疾患の精査を目的とする場合には,冠動脈描出能の向上を目的として,撮像前にニトログリセリンやβ遮断薬を投与することが多い.しかし,IEでは血行動態への影響を考慮し,これらの薬剤の使用が困難で,結果的に通常の冠動脈CTAと画質が異なる可能性がある点に留意すべきである.

5.3 MRI

MRIは被ばくのない検査法であり,非造影・ガドリニウム造影ともに目的に応じてさまざまなシーケンスで撮像される.心臓MRIでは ECG gating を併用し,形態・心機能評価,炎症・梗塞巣の検出,流速計測などが可能である. IEあるいはIEが疑われる患者におけるMRIによる全身評価は,CTと比較して適応が限られる.理由として,検査時間が長く,患者の状態が不安定な場合は撮像しにくいこと,体内金属・埋め込み式デバイスの有無などの安全確認が必要であることなど,MRI検査に制限があるためである.

IEあるいはIE疑いの患者におけるMRI検査は,以下のように特定の領域で有用性がある.

5.3.1 心臓MRI

MRIは組織コントラストに優れているため,疣腫と血栓との鑑別や,遅延造影を用いた病変周囲の炎症の評価に有用と報告されている121, 122).また,右心系のIEにおいても,心エコー図検査と比較して評価範囲に死角のないMRIは, CT同様にmultimodality imagingの1つとして有用性が示

されている123).心臓MRIはCTと比較して空間分解能が低く,人工弁埋め込み症例ではsignal voidによる画質低下も生じる欠点がある11, 124).現時点では,IEの評価において,心臓MRIはCTに対して付加的な役割である124).

5.3.2 IEに関連した中枢神経合併症(第3章3.2 中枢神経 合併症参照)

IEに関連した脳血管障害検出の感度はCTよりMRIのほうが優れている11).特に,急性期脳梗塞や微小脳出血,微小膿瘍において,MRIの検出感度が高い125-127).MR angiographyは,5 mm以上の頭蓋内感染性動脈瘤では, CTAと同程度の検出感度である128, 129).IEの確定診断に至っていない症例において,脳MRIでDuke診断基準の小基準に該当する陽性所見が認められることでIEの診断基準を満たし,早期の診断および治療開始につながることがある125, 130).なお,MRIで見られる脳病変の約80%が無症候性であり125),微小出血については診断小基準と考えるべきではない11).

5.3.3 脊椎椎間板炎

化膿性脊椎椎間板炎はIE患者の8.5%程度に発症する131).MRI所見には,椎体や椎間板の浮腫,脊椎周囲または硬膜外の炎症や膿瘍,骨びらん,椎体や椎間板のガドリニウム造影剤増強効果があげられる.MRIは,化膿性脊椎椎間板炎の感度が優れており,メタ解析の結果では,感度0.85(95% CI:0.65-0.95),特異度が0.66(95% CI: 0.48-0.80)であった132).早期の脊椎椎間板炎では,MRIでは所見を捉えるのが難しいことがあることに留意する133).

5.4 核医学画像診断(推奨表2)

核医学はCTと同じく被ばくに対する考慮が必要である.使用する放射線医薬品はCTやMRIで使用される造影剤と異なり,アレルギーなどの副作用の頻度が非常に低く,また腎障害でも投与可能である.現在感染・炎症の診断目的に用いられる核医学検査の特徴を表10に示す.シンチグラフィは核医学画像検査の総称であり,主に2Dの平面撮像と3Dの断層撮像(単一光子放射断層撮像[SPECT],陽電子放出断層撮像[PET])がある.SPECTは核医学画像のみ撮像可能な単体機と,画質補正が主目的であるがCT撮像が可能なSPECT/CT機がある.PET撮像は現在国内ではほとんどがCT搭載のPET/CT機で行われ,数施設でPET/MR機が導入されている.撮像はCTやMRIと異なり,
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ほぼすべて自由呼吸下で撮像する.問題点は,超音波, CT,MRIと比してコストが高いことである. 5.4.1 18F-FDG PET/CT PETは陽電子を放出する放射性医薬品を体内に投与し

ガンマ線で画像化する技術である.SPECT製剤と比べて物理学的半減期が短いため被ばくが少なく,高エネルギーによる分解能の高い画像が得られる.多種に及ぶPET薬剤の中で, 18F-FDGが国内外で主にがん診療において広く用いられている. 18F-FDGはグルコースの類似物質をフッ素18で標識した薬品で,体内でグルコースとしての動態を示す.グルコーストランスポーターを介して心筋細胞内に取り込まれ,リン酸化を受けるが,それ以上代謝されず停留することで糖代謝活性を反映した画像が得られる.

18F-FDG PETは循環器領域において,わが国では心筋バイアビリティ判定,心サルコイドーシスや血管炎で保険適用があるが,IEに対しては2026年3月時点で未承認である.がん診療における18F-FDG PET検査は通常5時間以上の絶食が必須とされ,糖尿病では検査当日のインスリン使用を避けるよう推奨されている.しかし,IE診断の場合は病変検索対象が心臓または心臓周囲のため,5時間程度の絶食では心筋の糖代謝による18F-FDG集積(生理的集積)が生じる.そのため炎症集積との判別がきわめて困難となる.現在その生理的集積を抑制する唯一の方法は,心臓サルコイドーシス診断で用いられる長時間絶食および24時間の炭水化物制限プロトコールである(詳細は日本心臓核医学会提唱の前処置プロトコール134)参照).以前はヘパリン静注の有用性も報告されたが,現在は必須ではない135).

表10 IEの診断に用いられる核医学検査の特徴

18F-FDG WBC 標識67Ga

PET or SPECT PET SPECT or Scintigraphy SPECT or Scintigraphy食事制限・前処置必須(心臓サルコイドーシスプロトコルに準ずる)不要不要

核種・製剤18F 99mTc 67Ga 111In(インジウム)核種半減期110分6時間(99mTc),67.4時間(111In) 78時間主な撮像タイミング静注後60~120分で撮像静注後4,24時間で撮像静注後48~72時間で撮像心電図同期不要不要不要主たる保険適用悪性腫瘍・心サルコイドーシス・大血管炎・心筋バイアビリティなし悪性腫瘍・炎症疾患IEに対する保険適用未未可

注意事項非密封線源管理区域におけるルールのため静注から撮像まで検査室内に留まる必要あり採血で得られた血清から白血球を分離し放射線医薬品に標識する手技が煩雑腸管集積を抑制するため下剤を使用する場合があるが,IE診断目的では不要IE:感染性心内膜炎

推奨表2 IEとその合併症診断における心エコー図以外の画像診断の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

自己弁IE,人工弁IE の症候性患者において,塞栓症やその他の診断小基準の検索のために,全身CT を実施するI B

IE が疑われ,特に人工弁やデバイス植込み後の患者で,他の方法で確定診断がつかない場合に,18F-FDG PET/CT を考慮する(IE に対する保険適用はない) IIa A (人工弁感

染性心内膜炎[PVE] や心臓植込み型電子デバイス[CIED]に対して) C (自己弁感染性心内膜炎[NVE] に対して)

IE が疑われる患者で,他の方法で確定診断がつかない場合,実施が可能であれば標識白血球シンチグラムまたはSPECT/ CT を考慮するIIa C IEで手術適応と判断された患者において,術前検査として冠動脈CT を考慮してもよいIIb C IE が疑われる患者で,他の方法で確定診断がつかない場合に,ガリウムシンチグラフィを考慮してもよいIIb C IE:感染性心内膜炎
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IEの場合,集中管理も含めた絶食下で持続点滴中の状態が想定されるが,その場合でも糖分を含有した補液は避けるべきである. 18F-FDG静注60分~(報告により90分または120分)後に心臓を含めた体幹部を撮像する.肺や腹腔臓器などを含めた体幹部撮像は感染性塞栓の診断に有用であるが, 18F-FDGは脳に生理的に取り込まれるため脳病変についての診断は困難となる136).周囲への被ばくの懸念のため,静注から撮像終了まで管理区域内に留まるルールを設定している施設が多い.

18F-FDGは活動性炎症病変の検出精度が高く,2023 Duke-ISCVID診断基準では18F-FDG PET異常集積が画像診断における大基準の1つになっており,2023 ESCガイドラインでもPVEが疑われる場合は推奨クラスI,レベルB, CIEDが疑われる場合はクラスIIa,レベルB,心外末梢病変の検出目的の脳および体幹部撮像がクラスI,レベルCである11, 17).特に人工物由来の感染に対する検出精度が高いことが知られており, 18F-FDG単独での診断精度についてのメタ解析では,PVEやCIEDに対して特に高く,PVEで感度87%,特異度84%,CIEDで感度87%,特異度94%であった124, 137-139).LVADを対象としたメタ解析でも感度95%,特異度91%と高い診断能であった140).しかしながら,NVEに対する診断精度は高いとは言えない.NVEによるIEに対するメタ解析やNVEに限定したサブ解析では,感度11~31%でバラツキが顕著であったが,特異度は90%台と高い結果であった138, 139, 141, 142).これらの結果は上述の食事制限の有無が一因とも考えられる.また,十分な食事制限が行われたとしても心筋虚血や脂肪組織,心房細動に随伴する心房壁への集積など炎症を示唆しない所見が得られることも知っておく必要がある143).さらに,活動性炎症とは言えない肉芽腫性変化や,人工弁などの材質によっては非特異的集積が見られることも知られており,注意を要する144).術後の一定期間(報告により3ヵ月程度)は弁周辺やペースメーカなどデバイスの埋没部も一過性の炎症や肉芽腫性変化を伴って集積が見られるため,IEとの鑑別に注意を要する.それら良性変化は全周性やびまん性の集積を呈することが多く,感染では限局性の集積を呈する報告がある145). 18F-FDG集積はstandard uptake value (SUV)という定量値が得られるが,最大SUV 4~7程度で感染を示唆する所見とするメタ解析がある146).

5.4.2 67Ga-シンチグラフィ,SPECT/CT

放射性ガリウム(gallium-67: 67Ga)は現在わが国で不明熱の精査を含め炎症性疾患に唯一保険適用されている. 67Gaの炎症病変への集積機序は諸説あるが,明らかではない.不明熱に対しての診断精度は高くはない.心病変を含むサルコイドーシスの診断では報告が多いが,IEに対して

はまとまった研究報告やメタ解析はないが,SPECTで検出しえたとする症例報告が多い147, 148).

5.4.3 標識白血球シンチグラフィ,SPECT/CT

白血球が感染,炎症巣へ遊走することを利用し,白血球に放射性医薬品を標識し体内動態を追跡・画像化する技術である. 18F-FDGと並んで,欧米では高い診断能があるというコンセンサスを得ている18).歴史は古く1980年代にはSPECT撮像に適している99mTcをヘキサメチルプロピレンアミンオキシム(hexamethylpropylene amine oxime: HMPAO)をキレートとして白血球に標識する技術が実用化されている.当初の対象は急性感染症や骨髄炎などであり,当時の核医学撮像技術では十分な分解能が得られず,また採血により白血球を分離する過程の煩雑さから普及には至らなかった. 99mTc-HMPAO自体も脳血流評価目的で保険認可されているが,IEについては未承認である.利点は18F-FDGと異なり,白血球の遊走を直接画像化できるため,非特異的所見を得にくいことである.メタ解析は18F-FDGと比べて報告が少ないが,感度80~86%,特異度97~100%であった137, 150).これらの診断精度は吸収補正CT併用における臓器オリエンテーションが大きく貢献している可能性も高い.SPECTは国内では依然単体機が使用されることもあるが,IE診断はSPECT/CT機による撮像が望ましい.一般には造影CTと合わせて検査することで,診断能が向上することが知られており,マルチモダリティで診断を進める方針が重要と考えられる.

5.5 その他の画像診断

5.5.1 血管造影

冠動脈疾患が存在すると心臓手術のリスクが高くなるため,待機的心臓手術の際に冠動脈病変の評価が必要となることが多い.一方,感染性心内膜炎で外科手術を施行する際に,術前検査として冠動脈造影検査を施行すべきかどうかについては議論がある.疣腫により冠動脈塞栓症を起こした例や,冠動脈疾患の危険因子を有する例では,心エコー図で大動脈弁に付着する大きな,あるいは可動する疣腫を認めないという条件下で,冠動脈造影検査の施行が勧められる.その反面,緊急手術が必要な例,大動脈弁の疣腫が塞栓症を起こす危険性が高い例では施行しないことが勧められる11, 120, 151).先行研究からのメタ解析では,冠動脈造影検査の結果をうけて18%の症例が冠動脈バイパス術を同時に施行している152).この研究報告では,カテーテ
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ル操作により大動脈弁の疣腫が移動して脳あるいは全身性塞栓症を起こす可能性は低いとされている一方で,カテーテル操作が原因と強く疑われる脳および全身性塞栓症も数例報告されている152, 153).塞栓症以外では,急性腎不全あるいは新たな透析導入というリスクが指摘されている.腎機能が低下する原因は,造影剤の使用や不安定な血行動態,長時間の体外循環,抗菌薬の使用など多岐にわたるが,冠動脈造影検査と外科手術の間が短いことがリスクではないかと考えられている.先行研究では,新規透析導入は約15%で必要とされ,約30%で退院時の腎機能が悪化していると報告されている152).近年,冠動脈病変の評価に冠動脈CT検査が頻用され,IE例でも有用とされている.塞栓症のリスクを伴わずに冠動脈病変を評価できる点で優れているが,造影剤を使用する点では血管造影と同じであり,腎機能障害のリスクがあることに注意すべきである.

同じ血管造影でも,脳血管造影検査の是非については,ほとんど検討されていないが,感染性心内膜炎を疑う患者で脳出血またはくも膜下出血を認めた場合,脳血管イメージング(脳血管撮影,CTA,磁気共鳴血管造影[MRA])による感染性脳動脈瘤の検索を行うことが強く推奨されている128).詳細は第3章3.2.1 中枢神経合併症の頻度,種類を参照.

5.5.2 腹部エコー検査

IE例での,腹部臓器の塞栓症の評価については,造影CT検査が頻用されている.腹部エコーは低侵襲であり,特に腎機能低下などで造影CT検査が施行しにくい場合には有用である.コントラストエコーが通常の腹部エコーよりも,脾および腎梗塞の診断に優れていると報告されているが,他のモダリティーと比較した成績は明らかでない154).

6 入院時に行うべきIEの合併症/ 死亡リスク評価

IEでは,加療しても入院中の死亡率は15~30%と高く10, 35, 155),近年は改善傾向であるとする報告156)もあるが,一方でここ20年ほど大きな変化はないという報告もある157).IE患者の予後を改善するために入院後にまず行うことは,その後に起こりうる合併症リスクを評価し,その予防手段(早期の手術など)を可及的速やかに講じることである.特に中枢神経合併症を伴う大きな脳塞栓症は,予後不良因子であるとともに救命に必要な手術時期にも影響を及ぼす.そのため,塞栓症のリスクが高いと考えられる例では,塞栓症予防のためにも早期の手術を検討する必要

がある.ここでは,入院時に行うべきIEの合併症および死亡リスク評価について述べる.

IEの合併症および死亡リスクの評価は包括的かつ多角的に行われる必要があり,多職種からなるIEチームによって行われることが望ましい11).IEにおいては,患者背景, IEの臨床的合併症,原因菌(病原微生物),心エコー図所見の4つが主な予後規定因子であるとされる10, 11, 35, 155)(表11).特に,高齢者,人工弁感染,心不全合併,敗血症性ショック,脳合併症,人工透析,弁輪周囲膿瘍,黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染は,強力な院内死亡の予測因子とされている10, 35, 155, 158, 159).その中でも黄色ブドウ球菌によるIEは,急激な病状進行を辿ることが多く,心不全や脳塞栓症による死亡リスクが高い160).そのため,治療抵抗性の黄色ブドウ球菌による左心系IEでは早期手術が推奨される161).非HACEKグループグラム陰性桿菌では,早期の手術に引き続いて長期間の抗菌薬治療が必要

表11 感染性心内膜炎の予後と関連する主な4 つの因子

1)患者背景• 高齢者• 人工弁感染• 人工透析• 外科手術の高リスク例(frailty,脳血管疾患併存など) • 糖尿病• チャールソン併存疾患指数aが高値となる併存疾患2)IEによる合併症• 心不全• 脳合併症• 敗血症性ショック• 腎不全3)原因菌(病原微生物) • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) • 多剤耐性菌• 真菌• 非HACEKグループグラム陰性桿菌• 抗菌薬開始後48~72時間後も菌血症が持続4)心エコー図所見• 弁周囲合併症(膿瘍など) • 左心系の疣腫• 10 mm以上の疣腫• 重症の左心系弁逆流• 左室駆出率低下• 肺高血圧• 人工弁機能不全• 高度な左室拡張不全または左室拡張末期圧上昇所見特にリスクが高いものを太字で表示するa 入院時の併存疾患から予測死亡を算出するために作成されたスコア(表12参照)
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となる例が多いため162),早期に感染症医にコンサルトする必要がある.入院中のリスクが高くなる患者背景の1つに入院時併存疾患があり,これはチャールソン併存疾患指数163)で評価することができる.チャールソン併存疾患指数163)は,既往ではなく入院時の併存疾患で一般的な短期予後を予測するためのものであり,高いほど短期予後が不良となる.表12にチャールソン併存疾患指数163)の概略を示す.たとえば,コントロール不良の糖尿病やAIDSなどの免疫抑制状態があり,これらの因子は感染のコントロールを難しくする一因である.また,腎障害や肝障害を有する例では,抗菌薬の選択に制限が生じる.さらに,抗菌薬

治療開始後48~72時間経過しても血液培養陽性が続く場合は,早期に手術を行ったほうが予後がよいとされている164).手術を必要とする例,特に感染のコントロールが難しい例や心不全合併例では,手術の可否は重要な予後規定因子であり155, 165-168),その手術適応評価には周術期リスク評価が不可欠である.緊急あるいは準緊急手術が必要な例において,高齢者,術前腎不全,人工弁感染,弁輪周囲膿瘍,敗血性ショック,感染持続例,複数弁の感染例は予後不良因子である169-171).

第3章 合併症の診断・評価

1 心不全

一般的に心不全の定義はさまざまであり,NYHA分類や心不全入院の有無で評価されることが多いが,IEでは「うっ血性心不全」の有無が予後に及ぼす影響という観点から評価されており,欧州のガイドラインでも手術適応を判断する際の心不全は「うっ血性心不全」を指す11).

IEの合併症の中でもうっ血性心不全の合併率は高い.左心系自己弁IEにおけるうっ血性心不全の合併率は40%

前後であり,最近20年間のデータの推移をみても大きく変化していない16, 172, 173).日本人も含めアジア人が15%近く登録された欧州のIEに関する大規模前向き研究(EURO- ENDO registry)の結果からも,うっ血性心不全の合併は, >10 mmの疣腫・中枢神経合併症・手術未施行とならんでIEの院内死亡の主要な原因であり,これらの因子はStaphylococcus aureusによるIEよりも1年死亡に対するハザード比が高かった(表13)

10, 173).さらに,IEに合併し

たうっ血性心不全は,6ヵ月~1年後の最も重要な予後規定因子でもあり173-176),うっ血を伴う重症心不全の発症を

表12 チャールソン併存疾患指数

各1点心筋梗塞,うっ血性心不全,末梢血管疾患,脳血管障害(ほぼ後遺症のない),認知症,慢性肺疾患,膠原病,消化性潰瘍,軽度肝疾患(軽度の肝硬変,慢性肝炎),糖尿病(3大合併症を有さないもの)各2点片麻痺(対麻痺含む),中等度-高度腎機能障害(血清クレアチニン≧3 mg/dL,透析中,腎移植後,尿毒症),糖尿病(3大合併症のいずれかを合併,DKAや糖尿病昏睡で入院歴),固形がん,白血病,リンパ腫各3点中等度-高度肝機能障害(門脈圧亢進を伴う肝硬変)各6点転移性固形がん,AIDS DKA:糖尿病性ケトアシドーシス,AIDS:Acquired immunodeficiency syndrome低い:0点,中等度:1~2点,高い:3~4点,とても高い:≧5点(Charlson ME, et al. 1987 163)を改変) Adapted from J Chronic Dis., 40(5), Charlson ME, Pompei P, Ales KL, et al., A new method of classifying prognostic comorbidity in longitudinal studies: development and validation., 373-383, Copyright (1987) Published by Elsevier Inc., with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/ journal/journal-of-chronic-diseases
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成する割合が高く183),それに続く弁周囲逆流の増悪が主な心不全発症の原因となる.一方,稀ではあるが,疣腫により人工弁がstuckし急性心不全を発症する場合や184),弁輪周囲膿瘍が進行し人工弁が外れ急性心原性ショックを呈する場合も報告があり185),IE症例では心不全を発症しうる病態を常に念頭に置いて診療にあたる必要がある.

1.2 診断

IE症例におけるうっ血性心不全の診断は通常の心不全診療に準じて行われ,自覚症状や身体所見(心雑音,頸静脈拍動,下腿浮腫など)に加えて,胸部単純写真によるうっ血の確認,血液検査でのBNP/NT-proBNPの上昇,動脈血ガス分析による低酸素血症の証明,心エコー図検査による体液量増加や心内圧上昇,心拍出量低下などの血行動態破綻の証明により診断される.また,IE症例では適切な抗菌薬・心不全治療薬を継続し,たとえ良好な経過をたどっていても,自己弁の弁穿孔や人工弁破壊により急性に心不全を発症することがあるため,IEの治療中は常に心不全発症・増悪の可能性を念頭に置いて診療にあたる必要がある.

自覚症状に関しては,IE症例ではNYHA分類IIIまたはIV度の重症心不全を合併する割合が高く,これらの重症心不全合併症例は予後不良とされている186).急性に弁破壊・弁逆流が進行することが主な原因と考えられ,自覚症状の変化にも注意を払う必要がある.自覚症状が悪化する

正しく診断し,適切な治療方針を選択することが重要である.

1.1 原因と病態

IEに合併して新たに発症する心不全は,大動脈弁または僧帽弁の弁破壊による弁逆流によって引き起こされ,急性~亜急性に発症する場合が多い.比較的急性の経過で弁破壊が発症するため,大動脈弁逆流または僧帽弁逆流による容量負荷に対して左室・左房の代償メカニズムが不十分となり,うっ血性心不全が進行する177).弁破壊以外の心不全発症の原因としては,疣腫による感染巣が中隔・刺激伝導系に波及することによる房室ブロック178),弁輪周囲膿瘍からの心筋瘻孔179),冠動脈塞栓症や冠動脈への炎症波及などによる急性冠症候群180)などが考えられる.

自己弁IEで弁逆流・心不全を発症する症例は,感染の波及による弁破壊・穿孔や腱索断裂が主な原因となる.急性の経過で弁膜症が進行し,急激に血行動態が悪化し心原性ショックをきたすことがあるため,IE症例の血行動態管理には十分に注意を払う必要がある177).また,大動脈弁IEにより発症した大動脈弁逆流ジェットが僧帽弁にあたることで僧帽弁に続発性IEが生じ,同部位に形成された弁瘤が穿孔して急性僧帽弁逆流を合併し血行動態がさらに破綻する場合もあるため,弁破壊・逆流の同時多発発症も念頭に置く必要がある181, 182).

人工弁IEでは,自己弁IEと比較して弁輪周囲膿瘍を形

表13 IE における30 日以内または1 年死亡の予測因子

30 日以内死亡の予測因子1 年死亡の予測因子オッズ比P 値ハザード比P 値

うっ血性心不全2.37(1.73–3.24) <0.001 1.69(1.39–2.05) <0.001早期手術0.37(0.26–0.53) <0.001 0.46(0.37–0.57) <0.001制御不能な感染2.67(1.96–3.64) <0.001 2.26(1.87–2.73) <0.001黄色ブドウ球菌性IE 1.48(1.05–2.09) 0.026 1.40(1.14-1.73) 0.001脳血管疾患合併2.00(1.24–3.23) 0.005 1.38(1.02–1.88) 0.037疣腫>10 mm 2.00(1.46–2.73) <0.001 1.32(1.09–1.60) 0.005 Charlson index(per unit) 1.13(1.06–1.19) <0.001 1.12(1.08–1.15) <0.001重症弁逆流/新たな人工弁離開1.46(1.04–2.05) 0.028 1.30(1.06–1.60) 0.012弁周囲合併症1.24(0.81–1.89) 0.316 1.30(1.01-1.66) 0.040人工弁IE 1.41(1.01–1.97) 0.046 1.10(0.90–1.35) 0.346 IE:感染性心内膜炎(Bohbot Y, et al. 2022 173)を改変) Bohbot Y, et al. Eur J Heart Fail. 2022;24(7):1253-1265. doi: 10.1002/ejhf.2525. Reproduced by permission of Oxford University Press on behalf of the European Society of Cardiology. Translated and reproduced by permission of Oxford University Press on behalf of the European Society of Cardiology. OUP and the European Society of Cardiology are not responsible or in any way liable for the accuracy of the translation. The Licensee is solely responsible for the translation in this publication/reprint.
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と同時に,新たに心雑音が生じた場合には心不全増悪の原因となる弁逆流や心筋穿孔の徴候であることが多いため,日々の聴診は欠かさないようにする175).ただし,急性大動脈弁逆流の場合は逆流時間が短く雑音を聴取しにくいことがあるため注意を要する.また,房室ブロック発症により心不全増悪をきたすこともあるため心電図モニターも必要であり,血行動態が不安定な場合は定期的に胸部単純写真でうっ血の有無を確認することも重要である.一般的な心不全重症度のマーカーとして知られるBNP/NT-proBNPは,IE症例における心不全評価においても有用である187).一方,BNP/NT-proBNPは年齢や性別,腎機能などの影響も受けるため188, 189),BNP/NT-proBNP単独で心不全の診断を行うことは避け,他の指標と併せるか経時的な変化を評価するために用いたほうがよい.

心エコー図検査による血行動態評価は心不全評価の根幹である.さらに,IE症例の場合は疣腫を検出するための弁・弁周囲の評価がIE診断のみならず心不全の原因評価にもつながるため,心エコー図検査は欠かせない診断ツールである.心不全やその重症度を診断するためにはTTEを使用するが,人工弁や弁輪石灰化などのアーチファクトのためにTTEでは十分に評価ができないことがあるため,適宜経食道心エコー図検査(TEE)の施行を考慮する必要がある82, 190).弁破壊の程度や穿孔,腱索断裂の有無は,術式にも影響するため,術前にTTEのみならずTEEも駆使してくまなく精査する必要がある.急性経過で血行動態が破綻しうっ血性心不全をきたす場合は,挿管管理下で手術直前にしかTEEを施行できないこともあるため,TTEでも疣腫を認める弁周囲の合併症に関してもできるかぎり評価する.心不全を評価するに際し,IEによる弁膜症は急性発症であることが多く,特に急性大動脈弁逆流症では一見弁膜症の重症度が低くみえても重度の心不全を発症することがあるため注意を要する177).また,ブドウ球菌によるIEでは急速に弁破壊が進行することで経時的に血行動態が悪化しうるため,TTEに関しては単回評価のみならず経時的かつ頻回に評価することで,急速な血行動態悪化を早期に診断し迅速に対応する必要がある.

1.3 治療方針

IEにうっ血性心不全を合併した症例では周術期の合併症リスクが高いため,内科・外科医だけでなく,感染症や画像診断の専門医も含めたIEチームカンファレンスによって外科的治療の適応を検討することが望ましい.ただし, IEチームカンファレンスによる決定を重視するあまり,緊急手術の適応がある症例に対する手術決定・施行が遅れるようなことがあってはならない.

うっ血性心不全や心原性ショック(NYHA分類III ~IV度の重症心不全)を発症したIE症例では,自己弁か人工弁かにかかわらず緊急外科手術の適応を検討する必要がある.うっ血性心不全を合併したIE症例の予後は,院内・1年予後ともに悪く,内科的治療の継続のみでは死亡率が高いため,緊急または準緊急外科的治療の適応となる10, 186, 191, 192).IE症例における心不全は弁破壊が主な原因であることから内科的治療に抵抗性であることが多く,手術の遅れが予後不良の原因となるため,いたずらに内科的治療に時間を費やすべきではない.IEの活動性にかかわらず,緊急または準緊急外科的治療を施行したほうがよい.活動性IE症例に手術を施行した場合でも,IEの再発率は10%未満とするものが多く193-195),内科的治療のみでは死亡リスクが高いことを考えると,手術を施行する利点は十分にあると考えられる.

一方,NYHA分類II度の軽度な心不全でも,高度な弁逆流を合併する,TTEにより血行動態の悪化が示唆される(心内圧上昇傾向),または疣腫による塞栓リスクが高い症例では,準緊急での手術を考慮する196).血行動態の悪化や大きな疣腫の合併を認めない症例では,TTEを用いた慎重なフォローアップが望まれ,緊急・準緊急での手術を施行する必要はない(外科的治療の時期に関しては,第5章2を参照).

2 治療抵抗性感染症・弁輪周囲膿瘍

2.1 治療抵抗性の定義,判断基準

治療抵抗性感染症とは,抗菌薬による治療にもかかわらず,敗血症性ショックや持続性感染となる状態である.敗血症性ショックとは,適切な輸液負荷にもかかわらず,平均血圧65 mmHgを維持するのに昇圧薬が必要かつ血中乳酸値2 mmol/L以上を呈する状態と定義される197).致死性の高いIEの合併症であり,発症頻度は5~10%である198, 199).敗血症性ショックの危険因子には,ブドウ球菌およびグラム陰性菌による感染,持続性菌血症,院内感染,急性腎不全,糖尿病,塞栓症,大きな疣腫(15 mm以上)などがある199, 200).IEにおける敗血症性ショックは院内死亡率が60~70%と高いが,外科的治療で死亡率を下げることができる可能性があり,早期の外科的治療が検討される199, 200).早期の外科的治療は一般に緊急手術(抗菌薬投与
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24時間以内),準緊急手術(抗菌薬投与後数日以内),待機的手術(抗菌薬投与1~2週後)に分けられるが,敗血症性ショックの場合は緊急~準緊急手術を検討すべきである.

持続性感染の定義は厳密ではないが,およそ7日間程度の適切な抗菌薬治療にもかかわらず,血液培養が持続陽性である状態であり,抗菌薬の投与開始から48~72時間後の血液培養の持続陽性は,院内死亡の独立した危険因子である164).IEにおける持続性感染では多くの場合,抗菌薬だけでは感染を制御することは困難であり,心臓以外の感染が除外された場合,早期の外科的治療が検討される.持続的な発熱は,抗菌薬の副作用として引き起こされることもあるため,注意が必要である.

2.2 持続性感染の原因

持続性感染の原因は,耐性菌や非常に病原性の高い細菌感染の場合と,弁輪周囲膿瘍などの抗菌薬で改善しない局所感染の場合がある.黄色ブドウ球菌は,感染の進行が速く,局所組織破壊や膿瘍形成を引き起こす可能性がある201).その他,抗菌薬では制御できない病原微生物は,真菌,多剤耐性菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[MRSA]やバンコマイシン耐性腸球菌など),および稀に非HACEKグラム陰性菌がある202, 203)(表14).

2.3 弁輪周囲膿瘍でみられる病態と診断

弁輪周囲膿瘍などの抗菌薬で改善しない局所感染は,持続性感染の原因となる.持続する発熱,新規の房室ブロック,新たな心雑音,再発性塞栓症,心不全の発症などがあると,弁輪周囲膿瘍の形成,増大の可能性を考える必要がある.弁輪周囲膿瘍は,自己弁より人工弁で多く認め,僧帽弁位よりも大動脈弁位で多い10, 204).

心エコー図検査での弁輪周囲膿瘍の診断の感度は,TTEでは約50%であるが,TEEでは約90%である82).TTEでは描出できないこともあるので,IEの診断時には,弁周囲の評価のために可能なかぎりTEEを施行したほうがよい.

弁輪周囲膿瘍は心エコー図検査で診断することが多いが,人工弁や僧帽弁輪石灰化などのアーチファクトのため,弁周囲の観察が不十分となることもある.その場合に,心

臓CTで,心エコー図検査では確認できない弁輪周囲膿瘍を評価できることがある110).また, 18F-FDG PET/CT検査は人工弁感染において,弁輪周囲膿瘍の診断に有用である142).

弁輪周囲膿瘍は,病理学的には「心内腔と交通しない壊死物質や化膿物質を内包する弁周囲の腔」と定義されるが,心エコー図検査では「低または無エコー輝度の弁周囲領域」として認識される.エコー輝度の低下は炎症による組織の浮腫を表していると考えられ,時間の経過とともに無エコー域に変化する.弁輪周囲膿瘍が形成されるまでの期間は,原因菌などにもよるが,感染性病変のどの時期に検査を行っているかにより心エコー図所見が変化することを認識する必要がある.

大動脈弁位の弁輪周囲膿瘍の好発部位は,大動脈僧帽弁線維性連続部(aorto-mitral fibrous continuity: AMFC)である.この部位は,解剖学的に線維組織により形成され,血流が少ないため,一度感染が起こると治りにくく,膿瘍が拡大していく傾向がある205).

弁輪周囲膿瘍が生じ組織が脆弱になると,仮性瘤や瘻孔を形成することがある.大動脈弁輪部の瘻孔では大動脈と左室が交通し,大動脈弁逆流が生じる.AMFCでの瘻孔は左房と交通し,僧帽弁逆流の血行動態となる.弁輪部から右室や右房に瘻孔を形成することもある.

人工弁の場合は,弁輪周囲膿瘍が進行したときに人工弁周囲逆流や人工弁離開が生じることがある.弁輪周囲膿瘍の炎症が刺激伝導系に及ぶと,ブロック(完全房室ブロックや左脚ブロック)が生じることがある.これらの炎症の波及は,遷延する炎症反応など治療抵抗性経過として現れる.

2.4 治療

2.4.1 外科的治療適応と時期

適切な抗菌薬投与にもかかわらず制御できない持続性感染で,IE以外の原因が除外される場合は,外科的治療の適応である.弁輪周囲膿瘍を形成した場合は,感染の制御が困難であるだけでなく,組織が脆弱となり瘻孔や人工弁の離開,房室ブロックなどが生じることにより致死的になる可能性が高いため,緊急手術の適応である.弁輪周囲膿瘍に対する手術は弁置換だけなく弁基部置換やホモグラフトを使用する可能性があり,また,AMFCまで感染が及んだ場合にCommando手術(大動脈基部置換術+僧帽弁置換術)が必要となる可能性がある.手術手技が複雑になるため,早期に手術した場合でも独立した予後不良因子であ

表14 持続性感染の原因菌

• 黄色ブドウ球菌• 真菌• 多剤耐性菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,バンコマイシン耐性腸球菌など) • 非HACEKグラム陰性菌
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る206)(外科的治療の時期に関しては,第5章2を参照).

3 塞栓症,および中枢神経合併症

3.1 塞栓症の頻度・時期・リスク因子

IEにおける塞栓症は,生命を脅かす合併症であり40, 41, 207),その合併率は20~50%である42, 85, 190, 208-211).中枢神経系が最も多く(60~70%),続いて脾臓のほか,左心系IEでは腎臓,四肢動脈,肝臓,腸,冠動脈などに,右心系IEでは肺に生じる85).無症候性も少なくないため,実際の合併率は明らかでない.塞栓症の発症時期は抗菌薬投与前が最も多く42),適切な抗菌薬投与によりリスクは減少する41-43, 209, 212-215).したがって,塞栓症の予防のためには適切な抗菌薬を可及的速やかに開始することが重要である.抗菌薬投与後の塞栓症は投与開始後数日での発症が多く,その後急激に減少し,2 週間を超えてから発症することは少ない42).つまり,塞栓症を予防する目的での手術は,治療開始の早いタイミングが最も有益である.

塞栓症のリスクに関与する因子(表15)として,疣腫の大きさ(>10 mm,抗菌薬投与後に増大)

39, 43, 190, 208, 210, 211, 216-218),

可動性208, 211),付着部位(僧帽弁,特に前尖) 40, 43, 210),原因菌(ブドウ球菌40, 43, 210, 211),真菌219)),塞栓症の既往43),多弁性220)などが報告されており,心エコー図検査で塞栓症リスクを予想することは,手術時期の決定に重要である(第5章

2 1 外科的治療の適応総論,2. 4 感染性塞栓症参照).一方

で,うっ血性心不全や感染の制御困難などの他の手術適応がない例においてのみ,疣腫の大きさが予後不良の因子であったという報告がある221).また,疣腫の性状だけでなく,塞栓症の既往や糖尿病の合併など,複数の臨床所見を加味

して塞栓症リスクをスコア化する試みもなされている222, 223).

3.2 中枢神経合併症

3.2.1 中枢神経合併症の頻度,種類

中枢神経合併症はIE診断前もしくは診断後に発症し,さらにその後の経過で再発が起こる可能性もある40).脳卒中,髄膜炎,または脳膿瘍の患者ではIEの可能性があり,特に発熱や血液検査上の炎症所見を伴う中枢神経症状ではIEを疑う.また,初発症状の約半数が中枢神経症状であったとの報告もあり224),基礎に心疾患がある例で発熱を伴う神経症状がみられる場合は,IEを疑って検索する必要がある.IEにおける中枢神経合併症は,疣腫の塞栓による脳動脈の閉塞に加え,原因菌による感染の播種,炎症(髄膜炎・脳膿瘍など)などの複合的な要因によって引き起こされる.症候性の中枢神経合併症は,IE患者の10~ 35%に認められる40, 224-227).一方で脳MRIを用いた研究では,IE患者の65~80%に何らかの中枢神経合併症が認められることが報告されており228-231),これらの集団では症状が軽微なものも少なくないため,実際には中枢神経合併症の頻度が過小評価されている可能性もある.IEを疑う患者では,明らかな局所神経症状を呈する場合だけでなく,一過性脳虚血発作などの軽微な症状や,頭痛・めまい・いつもより朗らか/暗いなどの非特異的・些細な神経症状の場合であっても積極的に中枢神経合併症を疑い,脳MRIや造影CTによる精査を行うことが推奨される(推奨表3).

中枢神経合併症の種類としては,脳梗塞および一過性脳虚血発作が最も多く,そのほか,脳出血,くも膜下出血,脳動脈瘤,脳膿瘍,脳髄膜炎,中毒性・代謝性脳症,てんかんなどがあげられる44, 224, 229).わが国における多施設共同研究では,手術を施行したすべてのIE患者のうち9.7%が中枢神経合併症を呈し,その内訳は脳梗塞64.6%,脳出血31.5%,脳膿瘍2.8%,髄膜炎1.1%であった226).中枢神経合併症の原因菌としては,S. aureusが多く,他の菌と比較して脳梗塞リスクが2~3倍あると報告されている45, 232, 233).疣腫のサイズや可動性が塞栓性リスクと関連する11).脳梗塞は無症候性も含めるとIE患者の50%前後に認められ,多発性で小病変が多い229, 231).脳出血およびくも膜下出血は5 ~10%に認められるが229, 231, 234),無症候の場合も少なくない.これらの出血性合併症は,出血性梗塞や,感染性脳動脈瘤の破裂,細血管の破綻によって引き起こされる.脳MRI-T2*強調画像を用いた研究では,上記に加え,微小脳出血が約60%と高率に認められる230, 233, 235).感染性脳動脈

表15 感染性心内膜炎における塞栓症合併のリスク因子⦆

疣腫の性状• >10 mm • 抗菌薬投与にかかわらず増大• 可動性に富む• 僧帽弁前尖• 多弁性• ブドウ球菌,真菌臨床背景• 高齢• 塞栓症の既往• 心房細動合併• 糖尿病合併
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瘤の合併率は,脳血管撮影によるスクリーニングを行った場合,4~9%程度と報告されている128, 236).脳出血またはくも膜下出血を認めた場合,脳動脈瘤の合併率は22%まで上昇する128).感染性脳動脈瘤は通常の脳動脈瘤とは好発部位が異なり,中大脳動脈の遠位に認められることが多く,約25%は多発性である237).脳出血またはくも膜下出血を認めない場合の感染性動脈瘤検出は1%と報告されている128).特に抗凝固療法中はくも膜下出血や脳出血の合併に注意が必要である.

中枢神経合併症を有する患者では生命予後が不良となることが多くの研究で報告されているが40, 45, 224, 238),1345人のIE患者を対象とした観察研究では,頭蓋内出血や中等度以上の脳梗塞だけが予後不良と関連していた40).軽症例や無症候性の脳梗塞が予後と関連しているか否かは明らかでなく41, 207, 239),重度ではない脳梗塞患者に対して早期に開心術を行っても,出血性梗塞などの術後神経合併症のリスクは低い41, 240-242).一方で頭蓋内出血を伴う場合,早期に開心術を行うと死亡率や術後神経合併症が多いことが報告されている225, 242).

3.2.2 中枢神経合併症の診断法(推奨表3)

IEに合併する中枢神経合併症の診断には,頭部MRIが最も有用である.MRIを撮影できない場合や,患者の全身

状態が不安定な場合は,頭部単純CTを撮影し,必要に応じて3次元CT血管撮影および頭部造影CTを追加する(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).MRIの撮影条件は施設によって異なるが,拡散強調画像(DWI),水抑制反転回復法(FLAIR)画像,T2*強調画像または磁化率強調画像( SWI),MRAを撮影することが好ましい(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).CTと比較してMRIのDWIでは急性期脳梗塞の検出感度が高く125, 127),FLAIR画像とT2*強調画像またはSWIを組み合わせることで,急性期の脳出血やくも膜下出血の診断においてもMRIの診断精度はCTとほぼ同等となる243).

IEを疑う患者で脳出血またはくも膜下出血を認めた場合,脳血管イメージング(脳血管撮影,CTA,MRA)による感染性脳動脈瘤の検索を行うことが強く推奨される.感染性脳動脈瘤は中大脳動脈の末梢側にできることが多いため,MRAを撮影する際には,中大脳動脈全体(M3以遠)が含まれるように撮影範囲を広めに設定することが好ましい.5 mm未満の動脈瘤はMRAで検出できない可能性があるため244),脳出血やくも膜下出血を合併する場合は,腎機能障害に注意しつつ,脳血管撮影もしくは3次元CT血管撮影を検討する245).IEの患者では,T2*強調画像およびSWIで,脳出血やくも膜下出血に加えて高頻度に微小脳出血を認める229, 230, 235).IEにおける微小脳出血の臨床的意義は明らかではないが230, 246),少数例での検討では脳出血発症または開心術後の脳出血との関連が報告されており247, 248),感染性脳動脈瘤との関連が疑われている249, 250).一方で,微小脳出血と術後脳出血の関連はなかったとの報告もあり230),微小脳出血のみでIE手術を延期するべきではない126).脳膿瘍は,MRIではDWIで著明な高信号を呈し,CTでは低吸収となる.また,造影MRIおよび造影CTにて特徴的な被膜のリング状増強効果が認められる.システマティック・レビューとメタ解析では,MRIで半数以上に急性期脳虚血病巣,微小脳出血,4人に1人に出血性病巣,10人に1人に膿瘍もしくは髄膜炎,16人に1人に頭蓋内感染性動脈瘤を認め,神経学的所見が脳MRI検査の契機となった研究を除外しても同様であった130).治療方針の変更は8人に1人,手術計画の変更は7人に1人であった130).よって,神経学的所見の有無にかかわらず,IE疑いやIE確定診断例では中枢神経合併症の評価のために脳MRIによるスクリーニングを推奨する.

頭痛や意識障害,髄膜刺激症状があり,髄膜炎やくも膜下出血を疑う場合は,腰椎穿刺による髄液検査を行い,髄液初圧,細胞数と分画,蛋白量,糖濃度,キサントクロミーの有無を調べる.同時に髄液のグラム染色と検鏡およ

推奨表3 IEの中枢神経合併症の診断についての推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

IE(を疑う)患者では,局所神経症状を呈する場合は,速やかに脳MRI による中枢神経合併症精査を行うI B IE(を疑う)患者で脳出血またはくも膜下出血を認めた場合,脳血管イメージング(脳血管撮影,CTA,MRA)による感染性脳動脈瘤の検索を行うI C IE(を疑う)患者では,明らかな局所神経症状を呈さない場合であっても,脳MRI による中枢神経合併症精査を行うI B IE(を疑う)患者でMRI が撮影できない場合や,患者の全身状態が不安定な場合は,頭部単純CT を撮影し,必要に応じて3 次元CT 血管撮影および頭部造影CTを追加することを考慮してもよいIIb C MRI の撮影条件は,DWI,FLAIR 画像, T2* 強調画像またはSWI,MRA で撮影することを考慮してもよいIIb C IE:感染性心内膜炎,CTA:コンピュータ断層血管造影,MRA:磁気共鳴血管造影,DWI:拡散強調画像,FLAIR:水抑制反転回復法, SWI:磁化率強調画像
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び培養検査を行い,原因微生物の同定を試みる.

3.2.3 中枢神経合併症の治療(図6,推奨表4)

中枢神経合併症は抗菌薬治療開始前から開始後2週間以内に頻発することが報告されているが,適切な抗菌薬治療により中枢神経合併症発症率は著減する222, 224).したがって,適切な抗菌薬治療をできるだけ早期に開始することが,中枢神経合併症の発症および再発を予防する最も重要な治療と考えられる.以下に中枢神経合併症に対する抗血栓療法,急性期再灌流療法の適応,頭蓋内出血発症時の対応,感染性脳動脈瘤の治療について項目ごとに記載する. a.	中枢神経合併症に対する抗血栓療法

頭蓋内出血(微小脳出血を除く)を合併した場合は,速やかに抗血小板療法および抗凝固療法を中止する.一方,虚血性脳血管障害を合併した場合に,もともと抗凝固療法が行われている患者に対して抗凝固療法を継続するかどうかに関しては,確立したコンセンサスはないのが現状である16).疣腫は血小板やフィブリンを含んでいるため,抗凝固療法は塞栓合併症を減らす可能性があると考えられるが,一方では感染性動脈瘤などによる頭蓋内出血や出血性梗塞を助長する可能性もある.人工弁のために抗凝固療法が以前より処方されている群では,抗凝固療法をしていない群に比べて頭蓋内出血の発症率が高いという報告もあるが251),自己弁で以前からの抗凝固療法が継続されている症例では,脳梗塞のみでなく頭蓋内出血の発症率も減少するという報告もあり252),中枢神経合併症に対する抗凝固療法の継続については十分なエビデンスがない.単施設観察研究では,発症前から抗凝固療法中であっ

たIE患者では抗凝固療法を受けていなかった患者と比べて心房細動,人工弁が多く,僧帽弁の疣腫病変は少なく,

図6感染性脳動脈瘤に対する治療アルゴリズム遠位病変

母血管閉塞可

近位病変母血管閉塞不可

遠位病変母血管閉塞可

感染性脳動脈瘤脳内血腫

除去術

バイパス術母血管遮断術(trapping)

ネッククリッピング

瘤内コイル塞栓術

母血管塞栓術(コイルもしくは液体塞栓物質を用いた

internal trapping)

経過観察保存的治療

大型脳内血腫

あり

増大

破裂

未破裂あり

なし

あり

なし

あり

なし

なし

中~大型

小型動脈瘤のネック

動脈瘤のネック

いずれの場合も抗菌薬治療は必須直達手術

血管内治療

血管内アクセスルート不良造影剤アレルギーなど

近位病変母血管閉塞不可

推奨表4 IEの中枢神経合併症の治療についての推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

IE に頭蓋内出血(微小脳出血を除く)を合併した場合は,速やかに抗血小板療法および抗凝固療法を中止するI B破裂した感染性脳動脈瘤,大型未破裂動脈瘤,適切な抗菌薬投与下の動脈瘤増大に対しては開頭手術または血管内治療を行う(図6 を参照) I C小型の未破裂感染性動脈瘤で,適切な抗菌薬の投与下に動脈瘤増大を認めない場合は,保存的治療を行うI C IE に主幹動脈閉塞による脳梗塞を合併した場合は,速やかに血栓回収療法の実施を考慮してもよいIIb C IE 患者に対する,塞栓症予防を目的とした新たな抗血小板療法の開始は推奨されないIII No benefit B IE に合併した急性期脳梗塞に対する経静脈的血栓溶解療法は推奨されないIII No benefit B IE 患者に対する,塞栓症予防を目的とした新たな抗凝固療法の開始は推奨されないIII No benefit C IE:感染性心内膜炎
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10週間の脳卒中発症に差はなかった.半数以上が抗凝固療法を継続し,継続した患者では10週間で脳卒中発症はなかった253).発症前から抗凝固療法の適応がある患者では,頭蓋内出血などの禁忌事項がないことを確認して抗凝固療法を継続する11).ワルファリンの内服を継続する場合,抗菌薬治療に伴う腸内細菌叢の変化などによりPT-INR値の管理が困難になることが予想されるため,必要に応じてヘパリンへの切り替えを検討する.頭蓋内出血患者や手術予定患者では経口抗凝固薬からヘパリンへの切り替えが適切である11).

一方,IE患者に対する新たな抗血小板療法の開始については,アスピリンとプラセボを比較したRCTにおいて,塞栓症のリスクを減少させず出血性合併症のリスクを増大させる可能性が示されているため254),推奨しない.抗凝固療法についてのエビデンスは少ないが,同様に出血性合併症のリスクを増大させる可能性があるため,新規の開始は推奨しない. b.	中枢神経合併症に対する急性期再灌流療法

IEに合併した急性期脳梗塞に対する経静脈的血栓溶解療法については,治療後の頭蓋内出血の発症率が20%と非常に高く,予後も不良であることが報告されているため255-257),推奨しない.疣腫による急性期主幹動脈閉塞に対する血栓回収療法に関しては少数例の報告のみであるが,良好な成績で,抗凝固療法中の症例でも血栓回収療法は安全で効果的である可能性が示唆されている258-262).非IE患者と比較すると,IE患者では急性期再灌流療法後の転帰は不良で,頭蓋内出血は多いが,再灌流療法を受けない場合との比較ではないことに注意が必要である263).なお,血栓回収療法を行う場合は,回収栓子の病理検査と細菌検査を実施する11). c.	脳内出血,出血性梗塞に対する治療

症候性の脳内出血やmass effectを呈する出血性梗塞を認める場合には抗凝固療法の中止・中断を考慮し,頭蓋内圧亢進を伴う場合には開頭血腫除去術または開頭減圧術を考慮する264). d.	感染性脳動脈瘤に対するコイル塞栓術/直達手術

感染性脳動脈瘤は,感染性塞栓子により血管内から感染が波及し発生する場合と,静脈洞感染や髄膜炎などにより血管外から波及する場合があり,前者は遠位部に,後者は近位部に発生しやすい265).IEは感染性脳動脈瘤の主原因であり,その病態は前者に属することから,遠位部病変の頻度が高い.また血管壁は脆弱で,通常の嚢状脳動脈瘤のようなネックを有しないことも少なくない.

治療方法に関してRCTに基づく明確なエビデンスは存在しないが,図6に感染性脳動脈瘤の治療アルゴリズムをまとめた.破裂の有無にかかわらず,いずれの治療群にお

いても抗菌薬治療は必須である.破裂動脈瘤,未破裂であっても中型~大型の病変や抗菌薬療法を行っても増大する動脈瘤は,血管内治療や直達手術を考慮する266).近年,血管内治療の頻度が増えており,低侵襲かつ多発性病変を一期的に処理可能という利点がある.しかし,大きな脳内血腫を伴う場合や,病変が比較的近位にあり母血管を瘤ごと閉塞(trapping)する際に血行再建術(バイパス術)が必要な場合には,直達手術が必要となる267, 268).2002~2011年の米国NIS(Nationwide Inpatient Sample)データベースを解析した報告では,IE診断後に破裂および未破裂感染性脳動脈瘤を指摘された393人のうち73人で瘤に対する治療が施行され,その内訳は血管内治療63%,直達手術37%であった269).この報告では,血管内または直達手術の実施率は破裂脳動脈瘤で18%,未破裂脳動脈瘤で25%に留まり,多くの例が保存的に治療されていたが,治療方法や保存的治療の選択は予後不良因子ではなかったという.しかし,すでに感染性脳動脈瘤が破裂している場合,あるいは未破裂であってもサイズ増大がみられる場合には,治療介入を考慮すべきである.ただし,通常の非感染性脳動脈瘤と異なり,単純なネッククリッピングや瘤内塞栓術が不可能な例も少なくない(図6).母血管遮断術(trapping)を要するのか,その際にバイパス術を併用すべきか,多発性の場合どの瘤を治療してどの瘤を保存的治療に委ねるのか,など症例固有の多くの問題があり,脳神経外科医による高度な判断が必要となる.

3.3 脳梗塞以外の全身塞栓症

3.3.1 脾臓

IEの20~50%に何らかの塞栓症を合併するとされ270, 271),左心系IEにおいては脳と脾臓に最もよくみられる10).塞栓症の発症リスクは抗菌薬の開始前後で最も高く,その後は抗菌薬投与に伴い低下する42, 43).左心系IEに対してCTを施行すると,31%に脾梗塞がみられたとの報告がある118).脾梗塞は無症状のことが多いが,左上腹部痛,発熱がみられることもある.稀ではあるが,脾膿瘍や脾破裂を合併する272).脾梗塞の診断には,造影CT,腹部超音波,MRIが有用である.単純CTでは脾梗塞と脾膿瘍の鑑別診断は困難なことが多く,脾膿瘍の診断には造影CTの感度・特異度が高い273).なお,2023 Duke-ISCVID診断基準では脾膿瘍は小基準の1つに分類されている17).

予後や心臓手術の時期に多大な影響を与える脳塞栓症とは異なり,脾梗塞の場合,その存在診断が治療内容に影
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響を与えることは少ない274).一般的に,抗菌薬治療を継続すれば予後良好である275).しかしながら,抗菌薬開始後も発熱が遷延する場合には,膿瘍形成の有無を評価する必要がある.脾梗塞から脾膿瘍に伸展する頻度は3~5%程度とされる275, 276).脾膿瘍に至った場合には,抗菌薬治療に抵抗性となるため,感染源の制御を目的として脾摘出術が必要とされる.なお,脾膿瘍に対して脾摘出術を行った場合の予後は良好と報告されている277).脾摘出術のタイミングとしては心臓手術前や心臓手術と同時,あるいは心臓手術後275, 278, 279),いずれも報告がある.全身状態が不良で脾摘出術に耐えられない場合に,脾膿瘍の経皮的ドレナージ術を施行した例も報告されている280).なお脾摘出術を行った場合には,その後肺炎球菌,髄膜炎菌,インフルエンザ桿菌type b(Hib)のワクチン接種が必要となる.

3.3.2 腎臓

IEによる塞栓症を合併した症例では,10%に腎梗塞を認めたと報告されている10).腎梗塞はほとんどの場合,無症状であるが,血尿,背部痛,腹痛を認めることがある276).腎生検あるいは腎の剖検を施行したIE例において,病理学的には31%に腎梗塞を認めたとの報告がある281).腎梗塞の診断には造影CTが有用であり,楔形の造影欠損を認める.腎梗塞に対しては抗菌薬治療が有効であり,膿瘍形成などの合併症は少ない.

3.3.3肺右心系IEまたはペースメーカなどのデバイス感染から,菌塊が塞栓子となって肺動脈に塞栓をきたす敗血症性肺塞栓症(septic emboli)がしばしば認められる.かつては右心系IEのおもな原因は静脈注射薬物使用であったが,心臓再同期療法や植込み型除細動器などの普及によりデバイス感染が増加し282),それに伴いIEに合併した肺塞栓は増加している.無症状のものも含めると,ペースメーカ感染の30~50%で肺塞栓を合併しているとの報告がある283, 284).ほとんどは無症状であるが,発熱,呼吸困難,胸痛,咳,喀血を認める場合もある285).重症の塞栓症では,血栓による塞栓症と同様に急激な呼吸状態の悪化およびショック状態を呈し,予後不良である.また,肺塞栓を起こした部位に肺膿瘍を生じることがある.胸部X線写真や単純CTの所見は両側性かつ多発性であることが多いが,浸潤影や結節影,楔状影,空洞形成,胸水など多彩かつ非特異的である.造影CTでは,肺動脈内の造影欠損や末梢の楔形の高吸収領域として認められる286).

また,逆に胸部CTで,両側多発性陰影など敗血症性肺塞栓症の特徴的な所見がみられた場合には,IEの合併を疑い,三尖弁や肺動脈弁,デバイスリードなどを含めて,

心エコー図検査で右心系を注意深く評価する.最も疣腫のみられる可能性の高い部位は三尖弁であるが,右室流出路や右房壁などに疣腫がみられることもある285).

肺塞栓の治療は,酸素吸入や抗菌薬治療などの内科的治療が基本であるが,呼吸状態の悪化やショックをきたすような重症の塞栓症であれば,カテーテルや外科的手段による塞栓除去術が必要になる.また,直径6 cm以上の肺膿瘍を合併した症例は抗菌薬治療だけでは難治であることが多いとされ287),膿瘍のドレナージが必要になる.敗血症性肺塞栓症は再発することが多く,塞栓源を同定して治療することが重要である.肺塞栓を起こした後にも三尖弁に20 mm以上の大きな疣腫が存在する 場合は,疣腫の外科的除去を積極的に考慮する必要がある288).原因がデバイスリード感染であれば,リードの抜去が原則である.なお,IEに合併した敗血症性肺塞栓症に対する抗凝固療法エビデンスは乏しく,喀血や頭蓋内出血などのリスクもあるため,ルーチンでの使用は避け,個々の症例における血栓症の合併やリスクを考慮したうえで慎重に適応を検討すべきである(詳細は第8章3. デバイス感染,4.右心系のIE参照).

3.3.4 その他

IEに合併するその他の塞栓症としては,肝臓,冠動脈,四肢末梢動脈,腸間膜動脈などがある.塞栓症を認めたIEのうち,臓器別の内訳をあげると,冠動脈は2.8%,肝臓は2.2%,四肢末梢動脈は11.7%であった10).冠動脈への塞栓症は,IE全体の0.3~0.5%に認められる比較的稀な合併症であるが39, 180),ひとたび発症すれば死亡率は高いため,注意を要する.冠動脈塞栓症に対しては保存的加療,経皮的冠動脈形成術や冠動脈バイパス術による血行再建の報告がそれぞれあるが,治療方法について統一された見解はない.抗凝固療法や抗血小板療法の併用を支持するエビデンスに乏しいため,これらの併用は,個々の症例の全身の病態を考慮したうえで判断する.そのほか腸間膜動脈や四肢末梢動脈への塞栓症に対しては特殊な治療はなく,早い段階であれば外科的あるいは経カテーテル的に塞栓子除去を施行することが可能であるが289),壊死が進行している場合は,外科的に壊死した組織の切断や切除を行う.

4 伝導障害

房室結節とヒス束は,大動脈弁の無冠尖と右冠尖の直
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下,三尖弁中隔尖に近接しているため,これらの弁尖の感染,炎症が刺激伝導系に及ぶと房室ブロックを生じる可能性がある.大動脈弁位の感染が弁輪部に波及する弁周囲膿瘍で生じることが多く,新規の房室伝導障害は感染が弁周囲に広がっていることを示す所見である.そのため,新規の房室伝導障害は,感染の制御が困難である可能性が高いことが示唆されるので,緊急手術を検討する必要がある(外科的治療の時期に関しては第5章2を参照).IEの診断時に伝導障害が11.5%,完全房室ブロックは2.8%であったという報告がある10).房室伝導障害は,適切な抗菌薬治療で炎症が収束すると,遠隔期に改善する可能性があるという報告もあるが290),感染の活動性が高い時期にはその予測は難しく,高度房室ブロックに至った症例ではペースメーカが必要となる.感染の活動性が高い時期に恒久ペースメーカ植込み術は避けたいので,感染が収束するまでは一時ペースメーカで対応する.伝導障害が生じる症例は外科的治療が必要である場合が多く,外科的治療の際に心筋電極リードの植込みを検討する.

房室ブロックは,感染の弁周囲への波及,弁輪部の合併症として発生するだけでなく,IEに対する外科的治療の結果として生じることがある.IEの外科的治療後に,12.8%が房室ブロックのためにペースメーカ植込みを必要としたという報告があり,術前の伝導障害,黄色ブドウ球菌による感染,大動脈基部の弁輪周囲膿瘍,三尖弁感染,弁手術の既往が術後のペースメーカ植込みのリスク因子である291).

5 腎障害

IEはさまざまな機序で腎障害を呈することがあり,実際, 2023 Duke-ISCVID診断基準で糸球体腎炎が小基準に含まれている17).急性腎障害(AKI)は入院となったIE患者の53~69%にみられ,頻度の高い合併症である292-294).AKIを合併した患者では,AKIのない患者よりも死亡率が高くなる傾向がある294, 295).6%が透析を要する重度のAKIを発症し,その場合の院内死亡率は40%と高率である296).また緊急手術が必要な患者では,AKIは術後死亡率の増加と関連が示されている297).AKIを合併したIE患者では,1年死亡率の増加や慢性腎臓病の進行と関連もみられる292).

IEに合併する腎障害は表16のような機序が考えられている1, 281, 292, 298).腎塞栓症の合併率は1~10%とされている39, 118, 299).IEに関連した糸球体腎炎は,壊死性半月体形成性糸球体腎炎や,管内増殖性糸球体腎炎を呈するものが多い52).免疫学的機序として免疫複合体の形成や血管炎が関連している可能性が報告されている52, 300).ANCA

の検査をしたIE患者のうち24~28%で陽性となった報告があり52, 54, 55),ANCA陽性例では腎障害をきたしやすい傾向にある54).

IEに関連した薬剤による腎炎は急性間質性腎炎を呈することが多い281).β-ラクタム系薬(ペニシリンやセフェム),サルファ剤,バンコマイシン,リファンピシン,フルオロキノロン系薬などIE診療で頻用する薬剤にも起こることが知られている301).非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やフロセミドもリスクとなる.アミノグリコシド系薬の腎毒性は主に急性尿細管壊死をもたらすことが知られており302),バンコマイシンやNSAIDsとの併用でAKIリスクが上昇するため注意が必要である303).

黄色ブドウ球菌によるIEはAKIになるリスクが高く,感染性塞栓症による腎梗塞や,糸球体腎炎を起こすことが知られている281, 292, 300).特にMRSAではバンコマイシンが使用されることも多く,薬剤性腎障害のリスクもある.複数の病態が併発していることもあるため281),感染による腎炎か,薬剤による腎炎かを区別するには,腎障害の発現時期が重要である.感染による腎炎は,適切な抗菌薬治療を開始する直前に重症度がピークに達し,治療とともに改善する.一方,薬剤による腎炎は治療介入以降に発生し,数日から数週間の薬物治療によって障害が起こりうる38, 301, 304).また,好酸球増多症や尿中好酸球の存在も薬剤性間質性腎炎を疑う所見となる305, 306).

AKIのマネジメントとして,薬剤関連腎炎では,早期発見と原因となる薬剤の中止を行う必要がある301).特に腎毒性のある抗菌薬については適切な抗菌薬血中濃度の維持と定期的なモニタリングが必要であり,IEチームによる介入でAKIの発生率を減少させることが示されている13). NSAIDsの使用は避け,利尿薬や造影剤の使用についても慎重に検討する必要がある.

6 播種性血管内凝固症候群(DIC)

播種性血管内凝固症候群(DIC)は,悪性腫瘍や敗血症

表16 感染性心内膜炎に合併する腎障害の機序

• 感染性塞栓による腎梗塞• 免疫複合体や血管炎が関連した糸球体腎炎• 使用した抗菌薬や他の薬剤よる腎毒性• 心不全による血行動態の影響(腎前性腎障害) • 造影剤による腎毒性
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などの疾患を背景に,凝固系の活性化が起き,その結果フィブリン血栓による臓器不全や,血小板と凝固因子消費に伴う重度の出血を引き起こす307, 308).特に敗血症性DICでは,強い凝固系の活性に対して線溶系の活性が弱く,線溶抑制型DICのパターンを呈し,微小循環障害により重篤な臓器障害を起こすことが多い309).DICはIE患者の1~ 32%に合併することが知られており198, 310, 311),過去の研究ではDICを起こした場合の予後は不良で,院内死亡率は27~50%と高いことが示されている198, 310).

DICの診断基準には,旧厚生省DIC診断基準,国際血栓止血学会(ISTH)DIC診断基準,日本救急医学会播種性血管内凝固基準(JAAM-DIC),sepsis-induced coagulopathy(SIC)診断基準,日本血栓止血学会DIC診断基準など複数公開されている312-316).日本版敗血症性診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)では,DIC診断のゴールドスタンダードはないことから早期診断や治療介入の判断にJAAM-DICやSIC診断基準を用い,確定診断や予後・重症度予測にはISTH-DIC診断基準を用いるなど,目的に応じて使い分けることを推奨している317).

DIC治療の要は原疾患の治療であり,DICを起こしたIE患者に弁置換術を行うことによってDICが改善された報告もある318).

敗血症性DICに対するアンチトロンビン(AT)製剤やリコンビナント・ヒトトロンボモジュリン(rh-TM)製剤が有効な可能性がある.AT製剤は,敗血症性DIC患者にヘパリンを併用しない高用量のAT製剤投与が死亡率を低下させる報告や,AT活性値が70%以下の敗血症性DIC患者にATを投与した場合,生存率を改善させる報告がある319, 320).また,rh-TM製剤は,敗血症性DIC患者のDIC改善に効果をもたらす可能性がある321).ガイラドラインにおけるこれらの薬剤の使用はJ-SSCG2024 では弱推奨となっているが,敗血症診療国際ガイドライン2021では記載がなく,国によって推奨にはばらつきがある317, 322).今後のさらなる研究が待たれる.

7 化膿性脊椎炎

2023ESCガイドラインでは脊椎椎間板炎がIE診断の小基準に含まれている11)ように,IEの播種性病変として化膿性脊椎炎が知られており,血行性感染によって椎骨と椎間板に影響を及ぼす323).IE患者に化膿性脊椎炎が合併するのは5~10%程度であり,化膿性脊椎炎の患者にIEがみられるのは10~30%程度とされている131, 311, 324-326).化膿性脊椎炎で合併していたIE患者の36%は重度の弁破壊により手

術適応となった報告もあり,化膿性脊椎炎を認めた際には血液培養検査およびTTE検査でのIE評価が必要である327).

原因となる微生物は黄色ブドウ球菌が最も多いが,その他にレンサ球菌や腸球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌でもみられる131, 323, 324, 327).

主な症状として背部痛や発熱がみられることが多い324, 325, 328).神経症状として知覚異常,筋力低下や麻痺,神経根症状を呈することもある329).また,脊椎炎は硬膜外膿瘍や腸腰筋膿瘍を合併することも多く,特に激しい痛みの場合は硬膜外膿瘍を疑う必要がある326, 330).IE患者で持続する背部痛・腰痛があれば化膿性脊椎炎の合併を検索することが望ましい.

脊椎炎の画像評価には,MRIと18F-FDG PET/CTが有用である.MRIの感度は高く,メタ解析では脊椎椎間板炎の検出に関して感度85%,特異度66%であった132).感染初期には偽陰性になることもあるため,疑わしい場合には期間を開けて再検査をする必要がある133). 18F-FDG PET/ CTは感度95%,特異度88%と優れた感度・特異度を持っている132).しかし,保険適用がないこと(2026年3月時点)は留意点である.CTは椎体炎の検出に関して感度67%,特異度50%であり331),MRIと比較すると下がるため,これらの検査ができない場合の代替検査となる.

血液検査ではCRPの上昇や赤血球沈降速度の亢進を認めるが,非特異的である330).確定診断には生検が必要であり,特に血液培養が陰性である場合には,CTガイド下針生検や外科的生検を検討するべきである323, 330).

治療には抗菌薬治療と外科的治療がある.抗菌薬治療は原因菌と,抗菌薬の感受性によって選択する.脊椎炎の治療は4~6週間程度行われることが多いが,IEと脊椎炎の合併例であっても,同等の治療期間で良好な経過を辿ることが多い323, 324, 332).ただし,黄色ブドウ球菌やCandida属真菌が原因菌である場合や,脊椎炎が硬膜外膿瘍や腸腰筋膿瘍を形成している場合には,より長期的な治療期間が必要となる324, 333).表17にあげたような場合は,外科的治療を検討する必要がある323, 329, 334).IEに脊椎炎を合併した場合でも,死亡率は変わらないことが示されているが,在院日数の延長につながる可能性がある131, 328, 335).

表17 感染性心内膜炎における化膿性脊椎炎に対して外科

的治療を検討すべき例• 診断未確定の場合• 適切な抗菌薬治療に対して効果が乏しい場合• 脊椎変形進行による脊椎の不安定性がある場合• 脊髄または馬尾の圧迫により進行性の神経障害をきたした場合
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8 その他

その他,横紋筋融解や筋膿瘍,関節炎も症例報告があるが,頻度は不明である35, 336).

第4章 抗菌薬治療

1 抗菌薬の基本的な考え方

IEの診断および治療においては,抗菌薬投与前に血液培養を実施ことが重要である.抗菌薬の先行投与によって血液培養の陽性率が低下して原因菌の同定や治療方針の決定に支障をきたし,予後に悪影響を及ぼす可能性がある.

1.1 PK/PDを考慮した投与の原則

抗菌薬の投与設計では,耐性菌の出現を避け,有効性を確保するために,PK(薬物動態)パラメータとPD(薬力学)パラメータである最小発育阻止濃度(MIC)を組み合わせた,PK/PDパラメータを指標とすることが重要である(Appendix表1).

バンコマイシンやテイコプラニン,アミノグリコシド系薬では,PK/PDパラメータ達成を確認し,副作用の発現を防止するために,血中濃度を測定し,治療薬物モニタリング(TDM)に基づいた投与設計を行う11, 67, 337-340) (Appendix表2).また,腎機能や肝機能障害をモニタリングする目的で血液・生化学検査を週に1~2回行う.アミノグリコシド系薬の併用に際し(特に高齢者の場合),2 ~4週間を超える投与を行う場合は耳鼻科的検査を実施したり(アミノグリコシド系薬の投与により第8脳神経障害に関連しためまい・ふらつき等の症状を呈することがある),腎障害の確認(検尿含む)を行うなど慎重な対応が必要である.また,バンコマイシンやテイコプラニンは,急速投

与によりred neck症候群(顔面や頸部の紅斑,搔痒感など)を引き起こすことがある.バンコマイシンは1時間以上,テイコプラニンは30分以上かけて投与する.特に初期負荷投与時には,投与速度と症状の出現に十分注意する.

1.2 抗菌薬の推奨される使用量とわが国で 承認された使用量の関係

近年わが国でも承認用量の引き上げが行われ,海外承認用量と同等となる薬剤が増えた.アミノグリコシド系薬は,相乗効果を期待する目的で併用薬として投与されるため,添付文書範囲内の投与量である.これに対して,バンコマイシンやテイコプラニン,ダプトマイシンといった主となる治療薬として用いられる抗菌薬は,承認用量よりも高用量が推奨されることが多い67, 340).

1.3 投与期間/投与期間のカウント開始日/ 治療効果判定

すべての推奨投与期間が比較試験に基づいているわけではないが,抗菌薬の投与期間は本ガイドラインで推奨した期間とする.

なお,CIEDに関連したIEの治療期間は,原因菌種や疣腫の有無,システムの抜去などによって異なるため,第8章3 デバイス感染を参照.

必要な投与期間のカウント開始日(起点日)は,自己弁IEか人工弁IEかにかかわらず,血液培養陰性化を確認し
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た日からとする.抗菌薬治療中に弁置換術を実施した自己弁IE症例の治療期間は,人工弁IEではなく自己弁IEに準じる.また,手術を実施した症例において,術中検体の培養が陽性になった場合には,手術日を起点日とする.なお,弁検体のグラム染色で陽性所見が得られたものの,培養が陰性であった場合は,染色所見は死菌によるものと判断する.したがって,治療期間の起点は血液培養が陰性化した日とする.

治療効果判定については,毎日の注意深い観察のもと,抗菌薬開始後48~72時間を目安に行う164).血液培養陽性例では,血液培養の陰性化が効果判定の指標となるため,治療開始後24~48時間おきに2セットの血液培養を採取する164).ただし,血液培養が陽性と判明するまで1~3日程度を要するため,新たな塞栓症状・心不全症状の出現に注意し,手術適応についての判断を迅速に行えるように, IEチーム内で連携する.

治療効果判定において,血液培養の陰性化は重要な指標であるが,体温の推移も参考となる.適切な抗菌薬治療を受けた患者のほとんどは3~5日以内に解熱するが341), Staphylococcus aureusが原因菌の場合は5~7日程度を要する342, 343).また,塞栓症や弁輪周囲膿瘍の合併例では解熱に時間を要し,血液培養の陰性化が得られにくい.一方,基礎疾患の影響で免疫抑制剤や解熱鎮痛薬を内服している症例では,体温上昇が抑制されることがあり,体温を臨床効果の指標として用いることが難しい場合がある.さらに白血球数やCRP,その他の炎症マーカーは,週単位で経過を見れば参考になるものの344),非特異的マーカーであり,あくまでも参考に過ぎないことに留意する.このような症例では,患者の全身状態や炎症マーカーの推移を含む臨床所見を総合的に評価する.

以上より,抗菌薬治療を行っているにもかかわらず持続する発熱や,血液培養が持続的に陽性となる場合には,まずはIEの合併症の精査が必要である(表18,第3章2参照). IEの診療経過中には,心合併症以外の原因で発熱が持

続したり,いったん解熱した後に再び発熱がみられることがある.原因としては,抗菌薬による薬剤熱(特に治療2週目以降に多い),院内感染(カテーテル関連血流感染,尿路感染,肺炎,クロストリジオイデス・ディフィシル腸炎など),また,深部静脈血栓症や結晶性関節炎(痛風,偽痛風)などがあげられる.さらに,抗菌薬治療に際して,感染カテーテルを抜去していない,粗大な膿瘍をドレナージしていないなど,感染巣のコントロールが十分でなければ,抗菌薬が本来有効なはずでも,臨床的に奏功しないこともある.臨床経過に基づいた効果判定は慎重に行うべきであり,感染症専門医への相談が望ましい.

このように,治療中にさまざまな要因で発熱を認めることがあるため,抗菌薬変更の判断に悩む場面は少なくない.基本的には,血液培養の陰性化を主たる判断材料とする.

1.4 特殊なIE症例における長期間(内服) 抗菌薬の投与

原則として,推奨される投与期間を終了すれば後療法として抗菌薬を継続する必要はない.ただし,原因微生物の感受性(非感性株)の問題や,アレルギー・副作用により推奨される方法で治療を完遂できなかった場合には,通常よりも長期の投与を行うことがある.

以下のような場合に内服抗菌薬を長期間投与することがある.

臨床的な手術適応があるにもかかわらず,手術に伴うリスクが高いなどさまざまな理由で手術に至らないケースは少なくない164, 341).この場合,患者の予後は非常に厳しいことが知られており345),このような患者に対しては,抑制的抗菌薬療法(suppressive antibiotic therapy)や長期抗菌薬療法(long-term antibiotic therapy)と呼ばれる,長期にわたる抗菌薬治療が重要な選択肢となることがある346).実際には,外来や在宅での継続的抗菌薬療法(外来静注抗菌薬療法[OPAT],在宅での抗菌薬治療)や緩和的アプローチを考慮して行われる345).

CIED関連感染や人工血管感染にIEを合併した症例が該当する.たとえばCIEDの抜去が不可能な場合は長期間の内服抗菌薬が選択されることがある347).抗菌薬長期内服症例を検討した22例の報告347)では,上述のCIED関連感染・人工血管感染に加え,人工関節挿入例・経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)後の人工弁関連の症例が含まれていた.この報告で用いられたレジメンはST合剤,アモキシシリン,クリンダマイシン,ドキシサイクリンであった.抗菌薬の選択と投与量について一定の見解はない.再

表18 感染性心内膜炎の合併症と検査方法

検査合併症心エコー図検査(TTE/TEE)弁輪周囲膿瘍,心膿瘍(心筋膿瘍),弁破壊・穿孔頭部CT,頭部MRI脳塞栓,脳出血,脳膿瘍,感染性脳動脈瘤

胸腹部CT塞栓症臓器膿瘍(脾膿瘍,腎膿瘍,腸腰筋膿瘍など)胸腰部MRI椎体椎間板炎,膿瘍
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様の病変が生じることが示されている358, 359).しかしながら,健康な歯根膜の状態(歯周病なし動物モデル)では, IEの合併頻度は低く,歯周病巣の存在がIEの発症に関連することが明らかになっている359).

IEの発生病態において,ある病原微生物が弁膜局所に接着し増殖するためには,何らかの原因で菌血症が生じる必要がある360-363).IE患者において,原因菌の侵入門戸は不明であることも少なくないが,推定される侵入門戸として口腔内(齲歯や歯周病などの歯科的病変)のほかには,血管内留置カテーテル,感染を合併した術創部(術後創部感染),尿路感染症,肺炎,アトピー性皮膚炎を含む皮膚病変などが推定されている(表19) 348, 364, 365).IEの発症機序を考慮すると,菌血症の原因となる感染症(感染巣)を早期に治療することは,特にIEの発症リスクが高い患者にとって重要である.

2 エンピリック治療(推奨表5)

血液培養の結果判明前にエンピリックに抗菌薬治療を開始すべきかどうかに関して,一定の見解はない.しかしながら,臨床的にIEの可能性が高い場合には,抗菌薬開始を遅らせるべきではない.また,血行動態が不安定である,敗血症である,塞栓症をきたしている,弁輪周囲膿瘍がある,などの場合にも速やかなエンピリック治療開始が望ましい.IEの原因菌の約8割はブドウ球菌・レンサ球菌・腸球菌で占められるため,これらを念頭に抗菌薬を選択し, MRSA保菌歴があれば抗MRSA薬の投与も検討する.ま

発の報告もあるため,治療期間の設定は慎重に行う.

真菌(Candida属やAspergillus属)性心内膜炎の場合,アゾール系抗真菌薬による長期抑制療法が推奨される348, 349).特に人工弁IEで外科的処置が行われなかった症例では,生涯にわたる抗真菌薬内服が有効であるとの報告もある350).外科的処置が行われた場合でも,弁輪周囲膿瘍を合併した症例では生涯にわたる長期の抗菌薬内服が推奨されることもある346).

退院後も抗菌薬治療が必要な患者には,入院中から心臓内科医や心臓外科医,看護師,感染症専門医,薬剤師,緩和ケアチーム,OPATチームなど多職種による包括的な介入が推奨される.患者の状態に応じたケアを提供することで,退院後の治療の継続と安全性が確保され,治療の遅延や感染の再発を防ぐ効果が期待される347, 351).例として, Enterococcus属やブドウ球菌によるIEにはテイコプラニンが代替療法として使用され,その長い血中半減期により在宅治療にも適している352).しかしながら現状,国内ではOPATの実施が限定的であることが課題である353).

1.5 歯性病巣,感染原因の治療

口腔衛生の重要性は広く認識されている11, 354, 355).スケーリングによる口腔衛生の改善および良好な口腔衛生状態の維持は,IEのリスクを低下させる可能性がある356).少なくとも年に1回の定期的な歯科スケーリングは,IEの有意な減少と関連していた356).さらに,最新のレビューでは,侵襲的歯科処置前の予防的抗菌薬投与の有効性と安全性が報告されている357).IEの発症病態に関する歯周病動物モデルを用いた検討では,抜歯処置によりヒトIEの病態と同

表19 感染性心内膜炎の原因菌と侵入門戸

菌名推定される主な侵入門戸

黄色ブドウ球菌皮膚軟部組織(術創部,褥瘡,アトピー性皮膚炎など),血管カテーテル留置部位,肺炎など緑色レンサ球菌(VGS),栄養要求性レンサ球菌,HACEKグループ口腔内(齲歯・歯周病,抜歯や歯科処置後),上気道粘膜腸球菌消化管(手術部位含む),泌尿器CoNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌) Corynebacterium spp. Cutibacterium (Propionibacterium) spp.皮膚軟部組織(手術部位含む,血管カテーテル留置部位など)肺炎球菌呼吸器(肺炎,副鼻腔炎,中耳炎),髄膜炎など侵襲性感染症セラチア菌(Serratia marcescens)緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)血管カテーテル留置部位,泌尿器,下気道(人工呼吸器関連肺炎など),創傷部位(緑膿菌),皮膚-注射薬使用(injection drug use) Candida属真菌消化管・肝胆道系,泌尿器,手術部位や血管カテーテル留置部位などCoxiella burnetii上気道(動物との接触や特に家畜に汚染された土壌やエアロゾルの吸入) Bartonella spp.皮膚(Bartonella henselae;猫による受傷,ノミによる刺傷, Bartonella quintana;シラミ)
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た,事前に抗菌薬が投与されている症例で効果がみられていれば参考にする.

抗菌薬の投与量は,患者の腎機能に合わせて調整する.髄膜炎,脳膿瘍を合併している症例については,移行性を考慮して髄膜炎治療に準じる(表20).

2.1 自己弁の場合

抗菌薬の選択に際して原因微生物を推定する場合には,疫学報告366)を参考にして,S. aureus,緑色レンサ球菌(VGS),腸球菌,およびHACEKグループをカバーする抗菌薬を選択する.もし,医療関連感染に関連して発症した

場合は,緑膿菌などの非HACEKのグラム陰性桿菌のカバーを考慮するが,検出歴などから症例ごとに判断する.

症状の出現日が比較的明確であり,急激な発症と初期から重篤感が認められる例では,S. aureusやβ溶連菌が原因となることが多い.一方,経過が亜急性の場合はVGSや腸球菌が原因となる例が多いとされる.ただし,これらには例外もあるため注意が必要である.腸球菌が原因となる症例の多くは高齢者である367, 368).

推奨表5感染性心内膜炎のエンピリック治療または血液培養陰性時の抗菌薬の推奨とエビデンスレベル

抗菌薬投与量推奨クラスエビデンス

レベル備 考

自己弁アンピシリン・スルバクタム1回3 g 1日3~4回IIb C MRSAの可能性が低い場合+セフトリアキソン+1回2 g 1日1回a

バンコマイシン† orダプトマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b  15~20 mg/kg 1日 2回1回8~10 mg/kg 1日1回IIb C

MRSAを考慮する場合ペニシリンアレルギーの場合+セフトリアキソン+1回2 g 1日1回aバンコマイシン† orダプトマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b 15~20 mg/kg 1日2回1回8~10 mg/kg 1日1回IIb C MRSAを考慮する場合+セフェピム1回2 g 1日2回バンコマイシン† orダプトマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b 15~20 mg/kg 1日2回1回8~10 mg/kg 1日1回IIb C β -ラクタム系薬にアレルギーの場合+ゲンタマイシン† +1回2~3 mg/kg 1日1回c

人工弁バンコマイシン†

orダプトマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b 15~20 mg/kg 1日2回1回8~10 mg/kg 1日1回IIb C

ゲンタマイシンの追加を考慮してもよい+セフトリアキソンor +アンピシリン・スルバクタム

+ 1回2 g 1日1回a

+ 1回3 g 1日3~4回

バンコマイシン† orダプトマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b   15~20 mg/kg 1日2回1回8~10 mg/kg 1日1回IIb C

医療関連感染のケースでHACEKグループ以外のグラム陰性桿菌のカバーを行う場合,ゲンタマイシンの追加を考慮してもよい+セフェピム1回2 g 1日2回バンコマイシン† orダプトマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b  15~20 mg/kg 1日2回1回8~10 mg/kg 1日1回IIb C β -ラクタム系薬アレルギーの場合+ゲンタマイシン† + 1回2~3 mg/kg 1日1回c

a:髄膜炎/脳膿瘍の合併時は1回2 g 1日2回へ増量を検討b:投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照c:1回 1mg/kg 1日2~3回でもよい.投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照†保険適用外
p.45
2.2 人工弁・デバイス関連感染症の場合

原因微生物の推定は,上記のS. aureus・VGS・腸球菌・HACEKグループのグラム陰性桿菌に加え,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)のカバーが必要である.CoNSは,わが国の厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)では80%程度がメチシリン耐性株であるため,エンピリック治療には抗MRSA薬を選択する.また,医療関連感染やデバイス感染例では,緑膿菌などのグラム陰性桿菌のカバーを考慮するが,TAVIを含む術後1年以内の早期人工弁IE・デバイス感染の場合は,黄色ブドウ球菌とCoNSおよび腸球菌が原因菌の大半を占める.一方,術後1年以上経過した後期発症例では,原因微生物は自己弁IEに類似する369).広範なグラム陰性桿菌カバーを行うかどうかは,患者の保菌状況などをみて個別に判断する.

腸球菌による人工弁IE治療では,ゲンタマイシンの併用による相乗効果を期待して,エンピリック治療としての初期抗菌薬にゲンタマイシンを併用すべきという意見もある11).ゲンタマイシンによる腎毒性が認容できる状況であれば併用を検討する.

2.3 血液培養陰性である場合

IEでは90%以上の症例で血液培養陽性となるが56),陰性になるのは,事前に抗菌薬が投与されているケースや,細胞内寄生菌,真菌による場合である370).なお,わが国における培養陰性IEの主な理由は事前の抗菌薬投与である.また,以前は同定が困難であった栄養要求性レンサ球菌やHACEKグループは,微生物学的検査の発展により同定が容易になった68).

細胞内寄生菌や真菌によるIEは,真の培養陰性IEである.細胞内寄生菌であるCoxiella burnetii,Bartonella henselae,Brucella spp.は,基本的に検査結果が陽性と

なってからの治療開始が好ましい.ただし,臨床的に疑いが濃厚であり,血行動態が不安定である場合などは,エンピリック治療を開始することもあり,抗菌薬としてドキシサイクリンの追加併用を検討する.

真菌によるIEも,基本的に検査結果が判明してからの治療開始となるが,すでに血液培養以外の検査で深在性真菌症の診断がついており,IEを合併していると考えられる症例ではIEに準じた治療を開始する.

血液培養や抗体検査,術中検体を用いた各種検査でも原因微生物が判明しない場合がある.それまでに用いられた抗菌薬や臨床経過をふまえて感染症専門医に相談する.

3 原因菌が判明した場合

抗菌薬の選択においては,基本的に,殺菌作用を有する抗菌薬を使用する(β-ラクタム系薬,グリコペプチド系薬など) 371).アミノグリコシド系薬はβ-ラクタム系薬と併用することで相乗効果を発揮する(Appendix参照).

3.1 Streptococcus 属菌(推奨表6,推奨表7)

レンサ球菌

IEを発症するレンサ球菌の種類を,治療薬の選択の点から便宜的に分類すると,1緑色レンサ球菌(VGS),2 Streptococcus gallolyticus(bovis group),3β溶血性レンサ球菌(化膿性レンサ球菌など),4Abiotrophia defective,Granulicatella adiacens(以前,栄養要求性レンサ球菌 [NVS]と呼称されていた),5肺炎球菌の5つに大別される.

VGSはIEの原因菌として依然頻度が高く,市中発症の

表20 髄膜炎,脳膿瘍合併時の抗菌薬投与量

投与量調整が必要な抗菌薬投与量注意点セフトリアキソン1回2g 1日2回1) 髄膜炎合併例では治療開始2週間,脳膿瘍合併例では治療期間全体で本表の投与量で抗菌薬を投与する2) セフトリアキソンはMSSAなど,メチシリン感性ブドウ球菌の場合は推奨しない3) セフェピムの高用量投与時は抗菌薬脳症に注意する

セフェピム1回1~2 g 1日3回メロペネム1回1~2 g 1日3回原則として使用しない抗菌薬投与量注意点

セファゾリン投与を推奨しない1) 髄膜炎合併時の症例では,治療開始2週間以内は,本抗菌薬へのde-escalationはしない2) 脳膿瘍合併例では治療期間全体を通して,本抗菌薬へのde-escalationはしない3) 原因菌がMSSAなどメチシリン感性ブドウ球菌かつ髄膜炎,脳膿瘍合併時には感染症専門医へのコンサルテーションを推奨する
p.46
自己弁関連IEや術後1年以上経過した人工弁IEの主な原因菌である.分類についてはAppendix 4. 主な原因微生物の解説)を参照のこと.

3.1.1 緑色レンサ球菌(VGS),Streptococcus gallolyticus(bovis group)

VGSのペニシリンGの感受性成績の判定基準(米国臨床検査標準化協会[CLSI]に準じる)は,MICが≦0.12 μg/ mLを感性,MICが0.25~2 μg/mLを中間耐性,≧4を耐性と判断する.アンピシリンの場合はそれぞれ,感性:≦

0.5 μg/mL,中間耐性:0.25~2 μg/mL,耐性:≧8 μg/

mLである.ほとんどのVGSはペニシリンに良好な感受性を示す一方,感受性の報告は年代や地域によって異なる.わが国において,IEの原因菌としてのVGSにおけるペニシリンG非感性株の割合は2000/2001年の調査で6.6%との報告もある一方で,30%を超えるとする報告もある372).

なお,非感性または中間耐性・耐性の基準は,ESC (EUCAST)とAHA(CLSI)のガイドラインで異なる355).

推奨表6レンサ球菌による自己弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬の推奨とエビデンスレベル

抗菌薬投与量期間(週)推奨クラスエビデンス

レベル備考

1)ペニシリン感性(MIC<0.12μg/mL)のレンサ球菌[緑色レンサ球菌,Streptococcus gallolyticus (bovis group)]

ペニシリン G orアンピシリン1回200~400万単位 1日6回または持続投与

1回2 g 1日6回4 I BペニシリンGの使用で血管痛・高K血症が出現した場合はアンピシリンを考慮する

セフトリアキソンorセファゾリン1回2 g 1日1回a

1 回 2 g 1日3回4 I B非重症のペニシリンアレルギーの場合髄膜炎・脳膿瘍を合併している症例ではセファゾリンは避ける

ペニシリン G orアンピシリン1回200~400万単位1日6回または持続投与

1回2 g 1日6回2 I B併用による短期間治療については本文参照

+ゲンタマイシン† +1回3 mg/kg 1日1回 b 2

バンコマイシン

† orテイコプラニン

†初回負荷投与c 25 ~ 30 mg/kg維持投与量c  15~20 mg/kg 1日2 回

1日目・2日目:12 mg/kg 2回d 3日目:12 mg/kg 1回d 4日目以降:6.7 mg/kg 1回d 4 I C重症のペニシリンアレルギーまたはβ -ラクタム系薬にアレルギーの場合

2)ペニシリン非感性(中間耐性:0.12 μg/mL≦MIC<0.5 μg/mLまたは耐性:MIC≧0.5μg/mL)のレンサ球菌ペニシリン G orアンピシリン1回200~400万単位1日6回または持続投与

1回2 g 1日6回4 I B

治療初期の2週間はゲンタマイシンを併用するゲンタマイシンは1回1 mg/kg 1日2~3回でもよい+ゲンタマイシン

† +1回2~3 mg/kg 1日1回b 2

セフトリアキソン

±ゲンタマイシン† 1回2g 1日1回a

+1回2~3 mg/kg 1日1回b 4 I B非重症のペニシリンアレルギーの場合ゲンタマイシンもしくはアンピシリンの併用については一定の見解はない

バンコマイシン

† orテイコプラニン

†初回負荷投与c 25~30 mg/kg維持投与量c  15~20 mg/kg 1日2回1日目・2日目:12 mg/kg 2回d

3日目:12 mg/kg 1回d 4 日目以降:6.7 mg/kg 1回d 4 ~ 6 I C β -ラクタム系薬にアレルギーの場合重症ペニシリンアレルギーの場合
p.47
3)β溶血性レンサ球菌(S. pyogenes,S. agalactiae,S. dysgalactiae subsp. equisimilisなど)

ペニシリン G orアンピシリン1回200~400万単位1日6回または持続投与

1回2 g 1日6回6 I B S. pyogenes 以外の菌種は,初期治療2週間はゲンタマイシンを併用してよい

セフトリアキソン1回2 g 1日1回a 6 IIa C非重症ペニシリンアレルギーの場合バンコマイシン†初回負荷投与c 25~30 mg/kg維持投与量c 15~20 mg/kg 1日2 回6 IIa C β -ラクタム系薬にアレルギーの場合4)栄養要求性レンサ球菌(Abiotrophia spp., Granulicatella spp.)とGemella spp.ペニシリン G orアンピシリン1回200~400万単位 1日6回または持続投与

1回 2 g 1日6回6 I B治療初期の2週間はゲンタマイシンを併用する

+ゲンタマイシン+1回2~3 mg/kg 1日1回b 2

セフトリアキソン1 回 2g 1日2回a

6 IIa Cペニシリン系薬に対して非感性の場合は,代替薬としてセフトリアキソンも可能だが,治療期間中はゲンタマイシンを併用する

+ゲンタマイシン† +1回2~3 mg/kg 1日1回b

バンコマイシン†初回負荷投与c 25~30 mg/kg維持投与量c 15~20 mg/kg 1日2回6 IIa Cペニシリン系薬への感受性が不良な場合β -ラクタム系薬にアレルギーの場合5)肺炎球菌肺炎球菌への標的治療は以下のとおりであるが,薬剤感受性が判明するまではセフトリアキソンとバンコマイシンの併用を行うこと

ペニシリン G orアンピシリン1回200~400万単位1日6回または持続投与

1回2 g 1日6回4 I C髄膜炎合併なし:ペニシリンG:MIC≦2 μg/mLで使用可髄膜炎合併時:ペニシリンG:MIC≦0.06 μg/mLで使用可

セフトリアキソン1回2 g 1日1回a 4 I Cペニシリン耐性の場合に使用

バンコマイシン†初回負荷投与c  25~30 mg/kg維持投与量c  15~20 mg/kg 1日2 回4 I Cペニシリン,セフトリアキソン耐性の場合β -ラクタム系薬にアレルギーの場合a:髄膜炎合併時には1回2 g 1日2回に増量を検討b:1回1 mg/kg 1日2~3回でもよい. 投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照c, d:投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照†保険適用外
p.48
推奨表7レンサ球菌による人工弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬の推奨とエビデンスレベル

抗菌薬投与量期間(週)推奨クラスエビデンス

レベル備考

1)レンサ球菌[緑色レンサ球菌,Streptococcus gallolyticus(bovis group)]ペニシリン G orアンピシリン1回200~400万単位1日6回 または持続投与

1回2 g 1日6回6

I B腎機能障害例, 聴神経障害ではゲンタマイシンの併用を避けるペニシリン耐性(MIC≧ 0.5 μ g/mL)の場合,ゲンタマイシンの併用は6週間

+ゲンタマイシン+1回2 ~ 3 mg/kg 1日1回a 2(6)

セフトリアキソン1 回2 g 1日1回b 6

I B非重症ペニシリンアレルギーの場合腎機能障害例,聴神経障害ではゲンタマイシンの併用を避けるペニシリン耐性(MIC≧ 0.5 μ g/mL)の場合,ゲンタマイシンの併用は6週間

+ゲンタマイシン+1回 2 ~ 3 mg/kg 1日1回a 2 (6)

バンコマイシン

† orテイコプラニン

†初回負荷投与c 25~30 mg/kg維持投与量c 15~20 mg/kg 1日2回

1 日目・2 日目:12 mg/kg 2回d 3日目:12 mg/kg 1 回d 4日目以降:6.7 mg/kg 1回d 6 I C β -ラクタム系薬にアレルギーの場合重症ペニシリンアレルギーの場合ゲンタマイシンの併用は推奨しない

2)β溶血性レンサ球菌(S. pyogenes, S. agalactiae, S. dysgalactiae subsp. equisimilisなど)

ペニシリン G orアンピシリン1回200~400万単位1日6回または持続投与

1回2 g 1日6回6 I B S. pyogenes以外の菌種は,初期治療2週間はゲンタマイシンを併用してよい

セフトリアキソン1回2 g 1日1回b 6 IIa C非重症ペニシリンアレルギーの場合バンコマイシン†初回負荷投与c 25~30 mg/kg維持投与量c 15~20 mg/kg 1日2回6 IIa C β -ラクタム系薬にアレルギーの場合3)栄養要求性レンサ球菌(Abiotrophia spp.,  Granulicatella spp.)とGemella spp.ペニシリン G orアンピシリン1回200~400万単位1日6回または持続投与

1回2 g 1日6回6 I B治療初期の2週間はゲンタマイシンを併用する

+ゲンタマイシン† +1 回2 ~3 mg/kg 1日1回a 2

セフトリアキソン1回2 g 1日2回a

6 IIa C

ペニシリン系薬に対して非感性の場合は,代替薬としてセフトリアキソンも可能だが,治療期間中はゲンタマイシンを併用する+ゲンタマイシン

† +1 回2~ 3 mg/kg 1日1 回a

バンコマイシン†初回負荷投与c 25~30 mg/kg維持投与量c 15~20 mg/kg 1日2回6 IIa Cペニシリン系薬への感受性が不良な場合β -ラクタム系薬にアレルギーの場合
p.49
a. ペニシリン感性の場合

第一選択の抗菌薬としてペニシリンGもしくはアンピシリンを選択する.セファゾリン,セフトリアキソン,バンコマイシン,テイコプラニンは代替薬である.

ペニシリンGは血中半減期が短いため,1日に複数回(最大6回)の分割投与が必要373)であるが,持続投与も可能である.1回あたり12時間を超えての持続投与は薬効が失活する懸念があるため,12時間で薬剤を交換する.ペニシリンGは副作用として血管痛や高カリウム血症(カリウムの含有量は100万単位あたり1.53 mEq)などがみられる.

自己弁IEでは,上記の抗菌薬を血液培養陰性日から4週間投与する.また,β-ラクタム系薬とゲンタマイシンの併用を2週間行うことで治療を終了することができる374, 375)のは,1疣腫サイズが10 mm以下,2塞栓症状,遠隔感染巣がない,3手術適応がない,4刺激伝導障害を認めない,5肝腎障害を認めない,の5つの条件を満たした場合とする.ただし,治療開始後に上記の条件に反する所見が認められた場合には,通常の治療に切り替える.

人工弁IEでは,血液培養陰性日から6週間投与する.また,β-ラクタム系薬で治療を行う場合,最初の2週間はゲンタマイシンを併用することも推奨される67).ただし,ゲンタマイシンの併用が,ペニシリン系薬単独の治療と比較して優れていることを示した研究はなく,腎機能障害・聴神経障害がある症例ではゲンタマイシンの併用を避ける.β-ラクタム系薬に忍容性がない場合には,バンコマイシンまたはテイコプラニンが選択されるが,ゲンタマイシン併用による有益性は明らかではなく,原則として単剤療法とする.ゲンタマイシンの併用療法を行う場合には薬剤のPK/

PDを考慮し,腎機能障害,聴神経障害をきたすことがあるため,投与期間中は血中濃度を測定して副作用発現の軽減に努める. b. アレルギーその他ペニシリン系薬に忍容性がない場合

ペニシリン系薬へのアレルギーがある場合でも,アナフィラキシー・重症薬疹などの重度アレルギー症状でなければ,セフェム系薬であるセファゾリンやセフトリアキソンへの変更が可能である.ただしセファゾリンは中枢移行性が不良なため,髄膜炎や脳膿瘍を合併している症例では他剤を検討する.一方で,ペニシリン系薬を含むβ-ラクタム系薬で重度のアレルギーが出た症例については,β-ラクタム系薬に忍容性がないと考え,バンコマイシンやテイコプラニンを選択する(保険適用外).なおダプトマイシンは,VGS治療では用いない

355). c. ペニシリン非感性の場合

ペニシリン非感性(中間耐性または耐性)株にペニシリンGを使用する場合は,治療初期にゲンタマイシンを2週間併用する.また,セフトリアキソンに感性であれば使用可能であるが,単剤治療かゲンタマイシンやアンピシリンを併用すべきかについて一定の見解はない.薬剤アレルギーの問題でβ-ラクタム系薬が使用できない場合はバンコマイシン,テイコプラニンを選択する.バンコマイシン,テイコプラニンにゲンタマイシンを併用することで治療成績向上につながるかどうかは明らかではない.自己弁IEでは血液培養陰性日から4週間,人工弁IEでは血液培養陰性日から6週間の治療が必要である.

4)肺炎球菌*

ペニシリンG orアンピシリン1回200~400万単位1日6回または持続投与

1回2 g 1日6回6 I C髄膜炎合併なし:ペニシリンG:MIC ≦2 μg/mLで使用可髄膜炎合併時:ペニシリンG:MIC≦0.06 μg/mLで使用可

セフトリアキソン1回2 g 1日1回b 6 IIa Cペニシリン耐性の場合に使用セフォタキシムも使用可

バンコマイシン†初回負荷投与c 25~30 mg/kg維持投与量c 15~20 mg/kg 1日2回6 IIa Cペニシリン,セフトリアキソン耐性の場合β -ラクタム系薬にアレルギーの場合*薬剤感受性が判明するまではセフトリアキソンとバンコマイシンの併用を考慮するa:1回1 mg/kg 1日2~3回でもよい. 投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照b:髄膜炎合併時には1回2 g 1日2回に増量を検討c, d:投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照†保険適用外
p.50
自己弁IEの治療期間は,血液培養陰性日から4週間であり,ゲンタマイシンの併用療法は最初の2週間行う.なお, β-ラクタム系薬を使用できない症例では治療期間を6週間に延長することを考慮してもよい.人工弁IEの治療期間は,血液培養陰性日から6週間であり,ゲンタマイシンの併用療法は6週間通して行う.副作用である腎機能障害,聴神経障害に注意する.

3.1.2 β溶血性レンサ球菌

β溶血性レンサ球菌(β溶連菌)には,Streptococcus pyogenes,Streptococcus agalactiae,Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilisなどが属する.β溶連菌によるIEは稀であるが,臨床経過は急速で重篤化しやすく死亡率も20%以上と高い376).特にS. agalactiaeによる人工弁IEの死亡率は高く,手術を要することが多い355).

S. pyogenesのペニシリン耐性株はきわめて稀で,ペニシリンGもしくはアンピシリンを選択する.ペニシリン系薬が使用できない場合はセフトリアキソンを選択する.S. agalactiae,S. dysgalactiae subsp. equisimilisも同様であるが,ペニシリン耐性株がときにみられるため355),治療初期2週間はゲンタマイシンの併用を検討する.治療期間は自己弁IE,人工弁IEのいずれも血液培養陰性日から6週間を推奨する.

3.1.3 Abiotrophia spp.,Granulicatella spp.以前は栄養要求性レンサ球菌(NVS)と呼ばれていた群である.比較的長い経過で発症し,診断まで時間を要することから,塞栓症状や弁破壊が発生しやすいと考えられている355).抗菌薬感受性は良好でも治療に難渋し,手術を必要とする症例が多いとの報告がある377).

2000~2015年にかけての76人の報告では378),バンコマイシン耐性株,アミノグリコシド系薬への高度耐性株はなかった一方で,ペニシリンやセフトリアキソンに対する感受性結果は菌種によって差を認めた.

抗菌薬の選択は,分離株の感受性結果が判明するまではペニシリンGもしくはアンピシリンにゲンタマイシンを併用する.結果判明後はペニシリン系薬による単剤治療でよいが,最初の2週間はゲンタマイシンの併用を行う.ペニシリン系薬に非感性の場合は,セフトリアキソンもしくはバンコマイシンを選択する.β-ラクタム系薬に忍容性がないケースではバンコマイシンを使用する.治療期間は,自己弁IE・人工弁IEのいずれの場合も,血液培養陰性日から6週間が推奨される. 3.1.4 肺炎球菌

肺炎球菌によるIEは稀であり,全体の1%未満である379).肺炎に髄膜炎を合併することがしばしばある355, 380).特に髄膜炎を合併している症例では抗菌薬の髄液移行性を考慮して,セフトリアキソンやセフォタキシム,もしくはバンコマイシンを選択する.髄膜炎の合併がない場合の第一選択薬はペニシリンG(もしくはアンピシリン)である.わが国ではペニシリン耐性肺炎球菌は稀であるが381),肺炎球菌の高い病原性を考慮すると,髄膜炎を合併している場合や髄膜炎が疑われる症例では,分離株の感受性結果が判明するまでセフトリアキソンとバンコマイシンの併用を考慮する.また,カルバペネム系薬も本菌への治療薬として使用可能であるが,JANISのデータによれば,わが国の肺炎球菌はメロペネムに対する非感性株がときにみられるので留意する382).なお,ペニシリン系薬感性(S)の基準が,髄膜炎以外ではMIC≦2 μg/mLに対して,髄膜炎ではMIC≦0.06 μg/mLと異なるので注意が必要である.

自己弁IEでは血液培養陰性日から4週間,人工弁IEでは血液培養陰性日から6週間の治療期間とする.

3.2 Staphylococcus 属菌(推奨表8,推奨表9)

ブドウ球菌

3.2.1 Staphylococci総論

ブドウ球菌は病原性の点から黄色ブドウ球菌とCoNSに分けて考える.

黄色ブドウ球菌は先進国でIEの原因微生物の第1位であり383),アトピーなどの皮膚バリア機能低下を契機とした市中発症例や,血管内留置カテーテルなどを介した医療関連感染もある.黄色ブドウ球菌によるIEは,一般的に急性の経過をたどり,弁破壊や周囲への進展(膿瘍形成),遠隔巣の形成など重症化しやすい.その死亡率は20%以上である383, 384).特に人工弁IEでは致死率が高く385),早期の弁置換術が予後改善に寄与するとされる385, 386).

CoNSは,血管内留置カテーテルなどを介した医療関連感染を契機として,人工弁IEの原因菌である場合が多いが,自己弁IEでも原因菌の8%を占める387).したがって,弁置換術後患者でなくても,本菌が血液培養から検出された場合,IEの可能性を排除すべきでない.全般に,CoNSの病原性は低く,IEの診断までに時間を要することから,弁破壊や弁輪周囲膿瘍の合併率が高い388, 389).また,わが国でのCoNSにおけるメチシリン耐性率は,CoNS全体の80%程度を占める382).メチシリン耐性CoNSによるIEの
p.51
院内死亡率は40%と高率である387, 390).MRSAと同程度の高い死亡率であり,慎重な対応が求められる.

特に,CoNSの中でもStaphylococcus lugdunensisは,黄色ブドウ球菌同様に高い病原性を有し,弁破壊・周囲への進展・遠隔巣の形成など重症化しやすい(Appnendix 4主な原因微生物の解説参照) 391). 3.2.2 メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)

MSSAによるIEに対して,海外の第一選択薬は,抗ブドウ球菌ペニシリンであるnafcillinやoxacillin,  またはセファゾリンであるが,nafcillinやoxacillinはわが国では使用できない(アンピシリンとcloxacillinの合剤であるビクシリンS ®は使用可能).また,ペニシリンGとアンピシリ

推奨表8ブドウ球菌による自己弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬の推奨とエビデンスレベル

抗菌薬投与量期間(週)推奨クラスエビデンス

レベル備考

1)メチシリン感性ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)

セファゾリン1回2 g 1日3回4 ~ 6 I B髄膜炎・脳膿瘍合併例では他剤を検討(本文参照)a

アミノグリコシド系薬の併用は推奨しない(推奨クラスIII harm,エビデンスレベルC)

ダプトマイシン† 1回8~10 mg/kg 1日1回4 ~ 6 IIa C β-ラクタム系薬にアレルギーの場合併用療法に関しては本文参照

バンコマイシン

† orテイコプラニン

†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b  15~20 mg/kg 1日2 回

1 日目・2 日目:12 mg/kg 2回c 3日目:12 mg/kg 1回c 4日目以降:6.7 mg/kg 1回c 4 ~ 6 IIa C β-ラクタム系薬にアレルギーの場合ダプトマイシンに忍容性がない場合

セフトリアキソン投与は推奨されない投与は推奨されないIII No benefit C本文を参照2)メチシリン耐性ブドウ球菌dダプトマイシン†e ±β-ラクタム系薬など1 回8~10 mg/kg 1日1回4~6 I B併用薬については本文を参照

バンコマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b  15~20 mg/kg 1日2回4~6 I BバンコマイシンのMICが>1μg/mLの場合は基本的に使用を避けるバンコマイシン†

+β-ラクタム系薬投与は推奨されない投与は推奨されないIII No benefit B本文を参照

テイコプラニン† 1日目・2日目:12 mg/kg 2回c

3日目:12 mg/kg 1回c 4日目以降:6.7 mg/kg 1回c 4~6 IIa C腎機能低下症例ではバンコマイシンの代替薬

リネゾリド† 1回 600 mg 1日 2回4~6 IIb C使用については感染症専門医へのコンサルトを推奨するa:髄膜炎合併例では治療開始2週間,脳膿瘍合併例では治療期間全体で中枢移行性を考慮したレジメンを選択するb, c:TDMについては本文およびAppendix表2を参照d:併用療法については本文を参照のことe:国内での適応は右心系IEのみ†保険適用外
p.52
ンは,MSSAが非ペニシリナーゼ産生株であれば使用可能であるが,ペニシリナーゼ産生能の有無を調べる必要がある.すべての施設で実施可能ではないため,本ガイドラインでは使用を推奨しない.

上記の事情を加味し,MSSAによるIEに対しての第一選択薬としてセファゾリンを推奨する.MSSAによるIEに

対して,セファゾリンまたはcloxacillinを投与したコホート研究392)によれば,2つの薬剤間で1年間の死亡率・再燃率に有意差はなく,また,薬剤の有害事象(主に腎機能障害)についてはセファゾリン投与群で有意に少ない結果で

推奨表9ブドウ球菌による人工弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬の推奨とエビデンスレベル

抗菌薬投与量期間(週)推奨クラスエビデンス

レベル備考

1)メチシリン感性ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の多くはメチシリン耐性であるため,感受性が判明するまではメチシリン耐性ブドウ球菌に準じて治療を行う.セファゾリン1回2 g 1日3回6~8 I B

髄膜炎・脳膿瘍合併例では他剤を検討(本文参照)a ±ゲンタマイシン

†b 1回2~3 mg/kg 1日 1回b 2

ダプトマイシン† ±β-ラクタム系薬など1回8~10 mg/kg 1日1回6~8 IIa B β-ラクタム系薬にアレルギーの場合併用療法に関しては本文参照

バンコマイシン

† orテイコプラニン

†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b 15~20 mg/kg 1日2回

1日目・2日目:12 mg/kg 2回c 3 日目:12 mg/kg 1回c 4日目以降:6.7 mg/kg 1回c 6 ~ 8 IIb B β-ラクタム系薬にアレルギーの場合かつダプトマイシンに忍容性がない場合

セフトリアキソン投与は推奨されない投与は推奨されないIII No benefit C本文を参照2)メチシリン耐性ブドウ球菌b  (黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)ダプトマイシン†d +β-ラクタム系薬など1回8~10 mg/kg 1日1 回6~8 I B併用薬については本文を参照

バンコマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b 15~20 mg/kg 1日2回6~8 I B

バンコマイシンのMICが>1μg/mLの場合は基本的に使用を避ける+ゲンタマイシン

† 1回2~ 3 mg/kg 1日1 回b 2

バンコマイシン†

+β-ラクタム系薬投与は推奨されない投与は推奨されないIII No benefit B本文を参照

テイコプラニン† 1日目・2日目:12 mg/kg 2回c

3日目:12 mg/kg 1 回c

4日目以降:6.7 mg/kg 1回c 6~8 IIb C腎機能低下症例ではバンコマイシンの代替薬

+ゲンタマイシン† 1回2~3 mg/kg 1日1回b 2

リネゾリド† 1回600 mg 1日2回6~8 IIb C使用については感染症専門医へのコンサルトを推奨するa:髄膜炎合併例では治療開始2週間,脳膿瘍合併例では治療期間全体で中枢移行性を考慮したレジメンを選択するb: アミノグリコシド系薬の併用は,治療開始から2週間併用してよいが,十分なエビデンスには乏しい(本文参照)併用する場合はゲンタマイシン1回2~3 mg/kg 1日1回,もしくは1回1mg/kg 1日2~3回とする.投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照c:投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照併用療法については本文を参照のことd:国内での適応は右心系IEのみ†保険適用外
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あった.In vitroでの現象であるが,IEのように感染局所におけるMSSAの菌数がきわめて多量の場合,セファゾリンの効果が減弱する菌接種効果(inoculum effect)がみられる393)(Appendix参照).しかし,本現象が臨床的に与える影響は明らかではない394).

ただし,中枢神経への移行性の問題から,脳膿瘍や髄膜炎を合併している場合はセファゾリンではなく他剤を選択する.一方,高用量のセファゾリンの持続静注を行えば,治療に十分な移行性を担保できるという報告もある395).わが国では代替薬として,セフェピム,メロペネム,バンコマイシンが考慮される.セフトリアキソンはMSSAに対しての抗菌活性が比較的低く,治療失敗例が増えるとの報告があり396),本ガイドラインではMSSAによるIEへの使用を推奨しない.また,セフェピムは高用量で使用した場合,抗菌薬脳症を発症することがある.髄膜炎合併例では,中枢移行性を考慮した抗菌薬投与が2間程度必要であり,脳膿瘍合併例は治療期間全体で中枢移行性を考慮する必要があるため,感染症専門医へ相談する.

セファゾリンに対してアレルギー(アナフィラキシーを除く)がある場合は,ダプトマイシン,セフェピム,メロペネムが選択肢となる.ただし,重度のアレルギー症状のためにβ-ラクタム系薬に忍容性がない場合は,ダプトマイシンやバンコマイシン,テイコプラニンを選択する.

自己弁IEでは血液培養陰性日から4~6週間の治療を行う.ゲンタマイシンの併用は臨床的な有益性が証明されておらず397),腎機能悪化の懸念から本ガイドラインでは推奨しない.

人工弁IEでは血液培養陰性日から6~8週間の治療が必要である.しかし,黄色ブドウ球菌による人工弁IEの死亡率の高さから,感受性があれば,ゲンタマイシンの併用療法が考慮される.しかし,いずれも十分なエビデンスレベルにあるとはいえず398),特に併用することで腎機能障害のリスクが高まるとする指摘もあるため397),アミノグリコシド系薬に忍容性がない症例では,併用療法は必須ではない.併用する場合の投与期間は治療開始2週間とする.

3.2.3 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)

MRSAに対して,わが国でIEに適用を有する薬剤はバンコマイシンとダプトマイシンの2剤である.

ダプトマイシンは濃度依存性に殺菌活性を示す抗菌薬であり,治療効果を高め,耐性株の出現を予防するために≧ 8 mg/kgの高用量での投与が好ましく,8~10 mg/kgでの投与を推奨する67, 364, 399).本剤の副反応として,血中クレアチンキナーゼ(CK)の上昇や好酸球性肺炎などに留意する.

バンコマイシンは,最も臨床的使用経験が豊富な薬剤である.バンコマイシンを選択した場合,治療開始48時間で

のAUC/MIC 400~600が推奨される340).以前は目標血中トラフ値として15~20 μg/mLを目安とする方法が行われていたが,腎機能障害のリスクと関連していたため,トラフ値・ピーク値を利用した2点採血によるAUCの推定に基づいた投与設定を推奨する340).分離されたMRSA株に対するバンコマイシンのMICが>1 μg/mLの場合,上記目標達成には高用量のバンコマイシンを要し,腎機能障害などの有害事象の懸念があるために,他剤へ変更する.バンコマイシンのMIC値と治療成績との関係は,必ずしも明らかではない.一方で,MICが4 μg/mLを超えると転帰不良に関連するという報告がある400).しかしながら,速やかに血液培養が陰性化するなど臨床経過が良好な症例では, MIC値にかかわらずバンコマイシンは継続可能である.

また初期選択薬として,バンコマイシン投与群とダプトマイシンまたはリネゾリド投与群を比較して,バンコマイシン投与群で死亡率が高かったとの報告があり364),今後バンコマイシンを第一選択薬とすべきかどうか検討が必要である364, 401).

バンコマイシンおよびダプトマイシンに忍容性がない症例での代替薬については,現時点で十分なエビデンスはなく,感染症専門医へ相談する.リネゾリドはIEに保険適用を有さないが,IEへの治療成功例の報告があり402),サルベージ療法として使用を検討してよい.しかし,投与期間が2週間を超えると血球減少をきたしやすく,継続使用が難しい場合があることに留意する.

テイコプラニンはバンコマイシンと比較して腎機能障害の発生頻度が低く,バンコマイシンの代替薬として考慮される.テイコプラニンは血中半減期が長く,血中濃度を早期に定常状態に達するために負荷投与が必要であり,血中トラフ濃度は20 μg/mL以上に設定する必要がある340).

治療期間は,MRSAによる自己弁IEでは血液培養陰性日から4~6週間が推奨される.ゲンタマイシンの併用は臨床的有用性が限られ,また抗MRSA薬との併用で腎障害の懸念があるため推奨しない.一方で,MRSAによる人工弁IEでは,血液培養陰性日から6~8週間の治療が推奨される.ゲンタマイシンが併用されるが,十分なエビデンスは乏しい.また,抗MRSA薬との併用による腎機能障害の懸念から,ゲンタマイシンに忍容性がない症例では,併用は必須ではない.併用期間する場合,治療開始2週間とする.

3.2.4 MRSAに対する抗菌薬併用療法

症例に応じてMRSAに対する抗菌薬併用療法を行うことがある.臨床的な有益性の証明は不十分であり,感染症
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専門医へ相談すべきである. a. バンコマイシンとβ-ラクタム系薬の併用

バンコマイシンにβ-ラクタム系薬を併用すると,相乗効果を認めることがin vitroで示されている403).小規模な臨床的検討ではあるが,バンコマイシンとセファゾリン(他にはflucloxacillinやcloxacillinが使用されていた)の併用療法では,死亡率低下や治療失敗例の減少を認めなかった404).また,成人のMRSA菌血症に対して標準療法(バンコマイシンもしくはダプトマイシン)にβ-ラクタム系薬(セファゾリン,flucloxacillin,cloxacillin)を7日間併用することの臨床効果を調べたRCT 405)では,持続菌血症は併用療法群で有意に減少する結果であったものの,標準療法群と併用療法群との間で死亡率・再燃の減少・治療失敗に有意差はみられなかった.よって,MRSAによるIE治療として,バンコマイシンとβ-ラクタム系薬の併用療法は推奨されない. b. ダプトマイシンとの抗菌薬併用

ダプトマイシンを使用する場合,β-ラクタム系薬406)もしくはホスホマイシン407)の併用を推奨する意見もある.これはin vitroでの検討408)に加えて,ダプトマイシンの高用量投与やβ-ラクタム系薬やホスホマイシン併用による治療成績向上が根拠になっている.ただし,併用する薬剤や投与量,併用期間は定まっていない.感染症専門医に相談すべきである. c. リファンピシンの併用

MRSAによるPVEに対するリファンピシン併用の有効性は,十分なエビデンスがないため本ガイドラインでは推奨していない.使用の判断は個々の症例に応じて感染症専門医へ相談することが望ましい.

3.2.5 コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)

CoNSによるIEの治療は,黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に準じて行う.メチシリン感性CoNS(MS-CoNS)に対する治療レジメンについては,セファゾリンの有用性を検討した報告は限られているが,MSSAに準拠した治療が推奨される.一方,メチシリン耐性CoNS(MR-CoNS)については,MRSAに準じた治療を行う.なお,メチシリン感受性の結果が判明するまでは,MRSAに準じた抗菌薬を選択する.

3.3 Enterococcus 属菌(推奨表10,推奨表11)

腸球菌

腸球菌はIEの原因菌としてレンサ球菌,ブドウ球菌につぐ第3位で,約10%を占める366, 409).高齢者に多い傾向があり,医療関連の発症も少なくない410).TAVI後の人工

弁IEでは,20%以上を占める411, 412).

腸球菌によるIEの死亡率は10~30%と高く,黄色ブドウ球菌と同等かやや低い程度である413).患者が高齢で,心臓以外にも複数の合併症を有していることが理由の1つである414).Enterococcus faecalisが90%以上を占めており,ペニシリンの感受性は良好だが,Enterococcus faeciumはほとんどがペニシリン非感性であり,菌種と抗菌薬感受性結果を確認する.抗菌薬治療における問題点は,腸球菌は本来,β-ラクタム系薬を含む多くの薬剤に抵抗性であるため長期間の治療を要し,かつ標準的治療とされるゲンタマイシンの併用は腎機能障害が問題となる.特に高齢者で4週間を超えるゲンタマイシンの長期間の併用は難しい415).

腸球菌はアミノグリコシド系薬に自然耐性であるため,血液分離株であっても通常,感受性結果は報告されない.その場合は検査室に依頼して高度耐性株かどうか(後述)を確認する.ゲンタマイシンを併用投与に関しては,高度耐性かどうかを確認する.高度耐性株(MIC>500 μg/ mL)であれば併用薬として選択されない.国内における血液培養分離株の検討では,E. faecalisとE. faeciumのそれぞれ32%と24%にゲンタマイシン高度耐性を認めたとする報告がある416).ゲンタマイシンの投与方法は,1日投与量を分割せず1回投与しても治療成績に差はなく,腎機能障害はむしろ少ない417).

抗菌薬の第一選択としては,アンピシリンとゲンタマイシン(MIC≦500 μg/mLの場合)を併用する.β-ラクタム系薬にアレルギーの場合はバンコマイシンを選択する.バンコマイシンはMRSAに準じてTDMによる投与設計を行う.ゲンタマイシンの投与中は週に1~2回程度腎機能をモニターする.ゲンタマイシンの短期間(2週間)投与は,人工弁IEや疣腫サイズが大きい場合(≧10 mm),患者が免疫抑制状態にある場合などでは避けて,4~6週間投与とするのがよい418).さらに治療開始時に腎機能障害(クレアチニンクリアランス50 mL/分未満)を認める場合や,ゲンタマイシン高度耐性株(前述)ではアンピシリンとセフトリアキソン併用が選択される.アンピシリンとゲンタマイシンを併用した場合と同等の治療成績が得られたとする報告が複数ある419-423).なお,アンピシリンとセフトリアキソンの併用療法はE. faeciumに対しては無効であり用いない.

ダプトマイシンを用いた研究で,58人のIE患者の80%以上で有用性が認められたとする報告がある一方で424),単剤治療や通常の用量では十分な成績が得られないとの指摘がある425).ダプトマイシンは,海外では10~12 mg/kgの高用量投与も検討されているが426),国内では腸球菌に
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適応を有しておらず,高用量投与や併用療法に関して標準的といえる方法が定まっていない.現時点ではバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の場合や,他剤が無効な場合のサルベージ的な使用にとどまる425).VREではリネゾリドまたはダプトマイシンを選択し,アンピシリンやゲンタマイシンの併用を考慮する.なお,標準治療を行っても1年以内の再発率は10%と高い413).外科的治療は,手術適応があっても実際に実施されるの

は半数程度とされる414).年齢,基礎疾患,フレイルなど複数の要因があり,手術に伴うリスクが高いことが理由である414).

推奨表10 腸球菌による自己弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬の推奨とエビデンスレベル

抗菌薬投与量期間(週)推奨クラスエビデンス

レベル備 考

ペニシリン感性腸球菌

アンピシリン1回 2 gを1日4~6回/日4~6

I B

ゲンタマイシンに高度耐性でない場合に使用する.ゲンタマイシンは 1日1回投与でよい. 2週間投与については本文参照+ゲンタマイシン

† +1回2~3 mg/kg 1日1回a 4(2)~ 6

アンピシリン1回 2 gを1日4~6回/日4~6

I B

高齢者,腎機能低下例で優先的に使用する.ゲンタマイシン高度耐性株の場合は,こちらが第一選択となる+セフトリアキソン+1回2 g 1日1~2回4~6

バンコマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b 15~20 mg/kg 1日2回4~6 IIa B β-ラクタム系薬にアレルギーの場合ペニシリン耐性腸球菌

バンコマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b 15~20 mg/kg 1日2回4~6 I B

ダプトマイシン† 1回10~12 mg/kg 1日1回4~6 IIb Bバンコマイシンにアレルギーの場合バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して使用することがある(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).使用については併用薬を含めて感染症専門医へのコンサルトを推奨する

リネゾリド† 1回600 mg 1日2回4~6 IIb Cバンコマイシン,ダプトマイシンにアレルギーの場合バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して使用することがある(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).使用については併用薬を含めて感染症専門医へのコンサルトを推奨するa, b:投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照†保険適用外
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推奨表11 腸球菌による人工弁感染性心内膜炎の標的治療における抗菌薬の推奨とエビデンスレベル

抗菌薬投与量期間(週)推奨クラスエビデンス

レベル備 考

ペニシリン感性腸球菌

アンピシリン1回 2gを1日4~6回/日

6 I B

ゲンタマイシン高度耐性がない場合に使用する.ゲンタマイシンは1日1回投与でよい. 2週間投与については本文参照+ゲンタマイシン

† +1回2~3 mg/kg 1日1回a

アンピシリン1回 2 gを1日4~6 回/日

6 I B

高齢者,腎機能低下例で優先的に使用する.ゲンタマイシン高度耐性の場合には,こちらが第一選択となる+セフトリアキソン+1回2 g 1日1~2回

バンコマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b 15~20 mg/kg 1日2回

6 IIa B

β -ラクタム系薬にアレルギーの場合治療中に腎機能障害が出現した場合にはゲンタマイシンを休薬することを検討する+ゲンタマイシン

† +1回2~3 mg/kg 1日1回a

ペニシリン耐性腸球菌

バンコマイシン†初回負荷投与b 25~30 mg/kg維持投与量b 15~20 mg/kg 1日2 回6 I B

治療中に腎機能障害が出現した場合には,ゲンタマイシンを休薬することを検討する+ゲンタマイシン

† +1回2~3 mg/kg 1日1回a

ダプトマイシン† 1回10~12 mg/kg 1日1回

6 IIa Bバンコマイシンにアレルギーの場合バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して使用することがある(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).使用については感染症専門医へのコンサルトを推奨する

+ゲンタマイシン† +1回2~3 mg/kg 1日1回a

リネゾリド† 1回 600mg 1日2回

6 IIb Cバンコマイシン,ダプトマイシンにアレルギーの場合バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して使用することがある(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).使用については感染症専門医へのコンサルトを推奨する

+ゲンタマイシン† +1回2~3 mg/kg 1日1回a

a, b:投与設計,TDMについては本文およびAppendix表2を参照†保険適用外
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3.4 グラム陰性菌(HACEKグループを含む)

(推奨表12)血液培養から分離された場合,IEとの関連が強く疑われる一連の菌群にHACEKグループがある.HACEKグループはグラム陰性桿菌で口腔や咽頭に分布し病原性は低く,IEの原因菌全体の1%程度を占めるにすぎない85, 427). HACEKグループによるIE患者の年齢は全体に比べ10歳程度若く,ほとんどが市中感染で,予後は比較的良好で死亡率は5%程度である427).アンピシリン・スルバクタムや第3世代,第4世代セフェム系薬に良好な感受性を示す.報告された分離株は多くがアンピシリンに感性であるが428),β-ラクタマーゼ産生菌の報告429)もあるため,分離菌の感受性結果を確認する.β-ラクタム系薬に忍容性がない場合はシプロフロキサシン,レボフロキサシンなどのフルオロキノロン系薬も選択肢となる.フルオロキノロン系薬はスイッチ療法として経口投与も可能である430).

HACEKグループ以外のグラム陰性菌によるIEも全体の数%と稀である430, 431).菌種は,Escherichia coli(E. coli)やKlebsiella 属などの腸内細菌目細菌が過半数を占める.緑膿菌はE. coliに次いで頻度が高く,主に医療関連感染として発症する431, 432).薬物静注患者では,セラチア属や緑膿菌の頻度が高い433, 434).分離菌の感受性結果に従って抗菌薬(第3世代,第4世代セフェム系薬,カルバペネム系薬,注射用キノロン系薬)を選択し,6週間を目安に投与する.難治性のグラム陰性菌感染症治療に準じて,アミカシンやゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系薬,フルオロキノロン系薬との併用も行われるが,併用期間を含めて定まった治療法はなく,併用療法の有効性の評価も

十分ではない431).抗菌薬のみでは治療困難なことも多く,死亡率は30%以上である431).外科的治療は院内死亡率の低減に関連する可能性がある432, 435).

3.5 真菌

真菌性IEはIE全体の約1%,人工弁IEの0.1%を占めるにすぎない80, 85).28カ国,61施設が参加した多施設共同研究によれば,登録されたIE患者2,760人中,Candida属真菌によるものは1.2%であった202).しかし,真菌性IEは非常に高い致死率を示し,一般的には30~50%,人工弁IEでは50~70%に達する80, 202, 348, 436).

原因真菌はCandida属真菌が最も多く,Aspergillus属真菌などの糸状菌も稀に見られる80).カンジダ性IEの発症病態として,医療関連感染や院内発症があげられる80, 202).発症のリスク因子として,IEの既往や抗菌薬長期投与,血管内カテーテル留置,人工弁置換術後,手術後(特に冠動脈バイパス術や腹部手術後),慢性的な免疫抑制状態などがある80, 437, 438).また,真菌性IE患者の過半数がICU入室歴を有しており,約半数は人工弁感染である202, 436).

真菌性IEにおける血液培養の陽性率は50~75%程度であるが,糸状菌では5%未満に満たない439).診断における血中β-グルカン測定の有用性は,補助診断程度にとどまる438).原因真菌の内訳は,病院におけるカンジダ血症の分離菌と同様であり,Candida albicansが約半数を占める.次いでCandida parapsilosis,Candida glabrata, Candida tropicalisが続く202).糸状菌ではAspergillus属真菌が過半数を占め,多くは人工弁感染である439).

推奨表12 HACEK グループによるIE の標的治療における抗菌薬の推奨とエビデンスレベル

抗菌薬投与量期間(週)推奨クラスエビデンス

レベル備 考

セフトリアキソン1回2 g 1日2回4 I B

人工弁IEでは6週間投与する(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC)

アンピシリン・スルバクタム1回3 g 1日4回4 I Bシプロフロキサシンまたは1回400 mg 1日2回4 IIb Cレボフロキサシン1回500 mg 1日1回4

アンピシリン*感受性がある場合1回2 g 1日6回4 IIb C HACEK(Haemophilus spp., Aggregatibacter actinomycetemcomitans,Cardiobacterium hominis,Eikenella corrodens,Kingella kingae) IE:感染性心内膜炎
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真菌性IEは,抗真菌薬のみでは感染の制御が難しく,内科的治療と外科的治療を併用することで予後改善につながるとするメタ解析がある440).さらに,準緊急的(数日~ 1週間以内)な外科手術を推奨する意見もある439).一方で,外科的治療が必ずしも生存率向上に寄与しないとの報告もある202).カンジダ性IEの手術適応については,心不全の合併は13.3%と比較的低いものの(非カンジダ性IEでは42.6%),心筋膿瘍の合併46.7%(同22.2%),塞栓症40% (同20%),持続する血液培養陽性例33%(同9.9%)と高率である202).

抗真菌薬治療の第一選択薬として,アムホテリシンBリポソーム製剤かエキノキャンディン系薬(ミカファンギン,カスポファンギン) 349),トリアゾール系薬(ボリコナゾール,

ポサコナゾール,イサブコナゾール)が推奨される.しかしながら,菌種ごとに薬剤の選択を検討すべきであり,特にアゾール系薬の選択に関しては,十分なエビデンスが存在しない440).また,バイオフィルム感染症としての観点から,治療初期から2剤併用を検討してもよい(たとえば,アムホテリシンBリポソーム製剤+エキノキャンディン系薬) 202).維持療法として,感受性のあるトリアゾール系薬(例,フルコナゾール)の長期内服(最低6ヵ月~1年以上,または生涯)が,予後改善につながると考えられる348, 349).治療はIEチームにおいて,感染症専門医との協議のうえで決定することが望ましい.

第5章 外科的治療

1 手術リスクの評価と術前検査

1.1 手術リスク評価

IEに対する手術リスクの特殊性として,開心術による脳合併症の増悪があげられる.特に脳合併症を有する症例では,脳神経外科医,脳神経内科医,感染症専門医,循環器内科医,心臓外科医などを含めた多職種IEチームで,手術のタイミングとリスクを検討する必要がある.これに関しては,「第3章 合併症の診断・評価」に詳細に述べられている.

活動期IEにおける手術リスクとして複数の因子があげられる(表21).欧米からの報告によると,緊急手術では1.55~2.39倍,心原性ショックでは2.52~4.97倍,弁輪周囲膿瘍では1.60~6.45倍,腎不全・血清クレアチニン2.0 mg/dL以上では1.32~3.62倍のリスクであった171, 441-447).

手術リスク,特に予測死亡率と主要合併症発症率は,弁膜症手術の際に利用する一般的なリスク解析モデル

(JapanSCORE 448, 449),STS score 450),EuroSCORE II 451))で算出できる.しかし,これらのリスク解析モデルにはIEの予後に影響する重要な因子(菌種や弁周囲感染の有無など)は含まれていないため,IEの手術リスクの予測能としては不十分であった.2007年以降,先の因子を含めて評価する,IEに特化した19のリスクスコアリングシステムが報告され155, 159, 170, 171, 441-447, 452-459),より精度の高い予測死亡率を算出できる.

表21 活動期感染性心内膜炎における手術リスク因子

• 高齢者• 緊急手術• 心原性・敗血症性ショック• 黄色ブドウ球菌感染• 真菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に代表される多剤耐性菌感染• 人工弁感染• 弁輪周囲膿瘍合併• 中枢神経合併• 腎不全・腎機能障害• 糖尿病合併
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比してやや高い傾向にある5, 464-467).IEに対する外科的治療が内科的治療に比して生存率を改善させることも示されており467, 468),IEでは手術のリスクや合併症も考慮したうえで速やかな外科的治療を考慮しなければならない.しかしながら,ガイドラインに基づく手術適応があるにもかかわらず,その適応が治療医により認識されず,16%の患者で手術が行われなかったとの報告がある167).IEでは多くの症例で複雑な経過をたどる可能性があるため15, 469),入院時にはいかなる症例も内科医(循環器内科,感染症内科,神経内科など)と外科医(心臓血管外科,脳神経外科など)を含む多職種IEチームでその集学的治療方針を議論し,その後も変化する状況に応じて適宜外科的治療の必要性の検討をチーム内で行うべきである470).

急性IEにおいて早期外科的治療が考慮される病態は,主に1.進行するうっ血性心不全,2.難治性治療抵抗性感染,3.塞栓症の危険性の3つがあげられる.それぞれの手術適応における詳細は次項以降に委ねるが,これらの状態を1つでも認める場合は,経過観察や内科的治療の継続を選択することなく速やかに外科手術を行う必要がある.早期手術は一般に緊急手術(抗菌薬投与24時間以内),準緊急手術(抗菌薬投与後数日以内),待機的手術(抗菌薬投与1~2週後)に分けられる.早期手術適応に合致しない症例では通常の弁膜症手術の適応に準じて手術時期を判断することになる177).しかし,IEでは,特に急性期で弁膜症や感染の重症度,塞栓症の可能性が刻々と変化していくことが多く,注意深く観察して手術時期を逸することのないようにしなければならない.

IEの外科的治療に関して,高齢(80歳以上)やfrailtyを有する患者では院内死亡(25~27%)が非高齢者と比較して有意に高く,再入院も多い168, 471).手術適応のある高齢やfrailtyを有する患者では,患者やその家族と医療者が十分に話し合い,意思決定の共有(shared decision making)を行う必要がある.

1.2 術前検査

IEは感染を原因とする全身性疾患のため全身の精査が欠かせない.特に中枢神経合併症を高率に伴うため,脳血管の術前精査は不可欠である(中枢神経合併症の診断に関しては,第3章3. 塞栓症,および中枢神経合併症参照).高齢者,心電図や心エコー図で心筋虚血が示唆される患者では,冠動脈の精査が推奨される.虚血性心疾患のリスク因子を有する症例や冠動脈病変の既往がある患者もスクリーニングの対象である460-462).その評価は冠動脈造影検査や心臓CT検査によって行う.検査法は感染弁位,全身状態,カテーテル操作に伴う塞栓リスク,弁周囲合併症の有無などを検討し選択することになるが120),心臓CT検査は弁輪周囲膿瘍や心臓骨格の破綻,仮性瘤形成の有無といった感染波及の程度も評価でき,術式決定のうえでもきわめて有用である111, 115-117).腎機能障害や造影剤アレルギーを有しない症例,過度の頻脈にない患者では検討されるべき検査である.心臓CT検査を行う際は,その後期相に体幹部撮影を追加することで脾臓や腎臓などの塞栓,心臓外の膿瘍のスクリーニングも可能である(冠動脈造影検査に関しては,第2章5. 5 その他の画像診断参照).発熱に加え腰背部痛や頸部痛などを訴える患者では,化膿性脊椎炎を念頭にMRI検査による精査を行う.IEに脊椎炎が合併する率は5~10%程度,化膿性脊椎炎にIEがみられる率は10~30%程度であり,IEと化膿性脊椎炎の合併は稀ではない131, 324-326).感染瘤は脳血管だけではなく,四肢の動脈にも生じるので,四肢動脈の感染瘤が疑われる症例では該当部位の造影CT検査を行う.

2 外科的治療の適応と手術時期

2.1 外科的治療の適応総論(推奨表13)

IEの治療において適切な抗菌薬投与が第一選択となるが,それのみで治癒しうる症例ばかりではない.ときには有効な抗菌薬を使用しても感染状態がコントロールできず,塞栓症の発症や心不全の増悪をきたし重篤な状態に陥ることはしばしば経験する.IEに対する手術加療は近年増加傾向にある215, 463).わが国の114施設にわたるサーベイランスでは,全IE患者の61%が外科手術を受けていると報告されており85),その割合は諸外国の大規模研究の報告に推奨表13 IE チームによる治療方針決定についての推奨と

エビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

IE チーム

*により手術適応を含めた集学的治療方針を決定するI C * 内科医(循環器内科,感染症内科,神経内科など)と外科医(心臓血管外科,脳神経外科など)からなる診療チームIE:感染性心内膜炎
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2.2 うっ血性心不全(推奨表14)

うっ血性心不全はIEの最も頻度の高い合併症であり, IEが緊急手術となる主な原因である215).主に弁破壊による逆流で発症し,僧帽弁よりも大動脈弁のIEに多く発症する175).弁破壊以外にも,心内シャントや疣腫による弁の閉塞が原因となることもある.黄色ブドウ球菌はその強い組織破壊から,うっ血性心不全を発症する可能性が高く,診断時の血行動態が安定していても注意深い経過観察が必要である472).心不全の合併は,院内死亡および遠隔期死亡の重篤なリスク因子であり160, 172, 175, 176, 186, 206, 473),人工弁感染でも同様である173, 474-476).心不全を合併したIEの院内死亡率は,内科的治療のみでは45%であるが,外科的治療により21%まで改善し186),予後改善効果は早期手術で高い173, 214, 477, 478).外科的介入のタイミングは,うっ血性心不全を合併した

IE患者の予後を大きく左右するため,IEチームで決定すべきであるが,話し合いに際しては,いたずらに時間をかけるのは好ましくなく,迅速に方針を決定すべきである214, 297).感染状態や抗菌薬の投与期間に関係なく,心原性ショック,肺水腫,新たに発症した重症の心不全症状は緊急に手術を施行するべきである.なぜなら,院内死亡率は心不全の重症度とともに増加するが,外科的治療と内科的治療との生存率の差は,NYHA分類III ~IV度の患者でより顕著であるからである186).心不全の最重症である心原性ショックは最大5%の症例でIEの初発症状となり,半数は入院してから72時間以内に発症する475).リスクとしては,組織破壊性の強い黄色ブドウ球菌感染,複合弁膜症,血液透析などがあげられる.心原性ショックを呈したIE患者は内科的治療のみでは死亡率が55~85%と非常に高いが,術後急性期を乗り越えれば,心原性ショックを呈

推奨表14 IE に対する早期手術の適応の推奨とエビデンスレベル

状況適応緊急度推奨クラスエビデンス

レベル

心不全急性高度弁機能不全や瘻孔形成による心原性ショック,高度肺水腫,新たに発症した重症の心不全症状に対して早期手術を行う緊急I B

内科的治療に抵抗性(難治性)の心不全,重症の弁逆流や心エコー図による血行動態の悪化(拡張末期左室圧の上昇,左房圧の上昇),中等度・重度の肺高血圧に対して早期手術を行う凖緊急I B

治療抵抗性感染疣腫の増大,弁輪や心筋の膿瘍形成,仮性動脈瘤や心内シャントの形成,心ブロック(房室ブロックや左脚ブロック)の出現に対して早期手術を行う緊急/凖緊急I B

適切な抗菌薬投与後も持続する,血行動態に影響を与える敗血症に対して早期手術を行う緊急/凖緊急I B

真菌や多剤耐性菌(MRSA,VREなど)による感染に対して早期手術を行う凖緊急/待機的I C適切な抗菌薬投与後も持続する感染(3~5日を目処に,血液培養陽性や臨床所見から判断)があり,他に感染巣がない例に対して早期手術を考慮する凖緊急IIa B抗菌薬抵抗性のブドウ球菌,非HACEKグループグラム陰性菌による人工弁IEに対して早期手術を考慮する凖緊急/待機的IIa C

人工弁IEの再燃に対して早期手術を考慮する凖緊急/待機的IIa C

塞栓症予防適切な抗菌薬開始後も1回以上の塞栓症が生じ,残存(>10 mm)または増大する疣腫に対して早期手術を行う凖緊急I B

10 mmを超える可動性の疣腫を有する進行性弁機能不全に対して早期手術を行う凖緊急I B他の手術適応はなく,手術低リスク患者における10 mmを超える可動性の疣腫に対して早期手術を考慮してもよい凖緊急IIb C

*特に断りのない場合には自己弁IE,人工弁IEの両方についての記載である一般的に緊急手術は抗菌薬投与24時間以内,準緊急手術は抗菌薬投与後数日以内,待機的手術は抗菌薬投与1~2週後であるIE:感染性心内膜炎
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していないうっ血性心不全合併のIE患者と遜色ない長期予後が期待できる472).また,NYHA分類III ~IV度の心不全,重度の弁逆流や心エコー図による血行動態の悪化(左室拡張末期圧の上昇,左房圧の上昇),中等度・重度の肺高血圧を有する患者も早期手術の適応であり175, 186, 214), 3~5日以内の準緊急手術が推奨される.一方で,血行動態が非常に安定している患者では,まず抗菌薬の静脈内投与と臨床的・心エコー図的観察を厳密に行い,手術を一時的に延期することもできるが,手術適応があり,手術リスクが低いと想定される患者には,早期からIEチームで外科的治療の選択肢を検討すべきである167, 468).

2.3 治療抵抗性感染(推奨表14)

治療抵抗性感染はIEに対する外科的手術を要する原因として頻度が多いとされている10).適切な抗菌薬治療にもかかわらず持続する感染や敗血症,抗菌薬治療に反応しない心内局所感染(疣腫や弁輪周囲膿瘍),耐性菌または非常に病原性の強い細菌による感染は治療抵抗性感染であり,早期手術が推奨される.治療抵抗性感染に対する外科手術は内科的治療と比較して生存率を改善させるとの報告は多い167, 479).

効果的な抗菌薬が一定期間(3~5日間程度)適切に投与された後も血液培養が陰性化せず,発熱,白血球増多やCRP上昇などの感染所見が持続する場合は治療抵抗性感染と判断し,早期手術を行う必要がある164, 341).また,適切な抗菌薬を開始して48~72時間後の血液培養が持続陽性の場合,病院死亡の独立危険因子となることが報告されている164).IE患者で持続菌血症をきたし,脾臓,腎臓,脊椎,腸腰筋など心臓外の膿瘍やカテーテル感染などのその他の原因が除外された場合は早期手術を行う.感染が著しく増悪をきたすと敗血性ショックに移行する.5~10%のIE患者で敗血症性ショックに陥り.緊急手術を行うことで生存率を著明に改善させると報告されている198, 199).

制御困難な心内局所感染には,疣腫の増大,弁輪や心筋の膿瘍形成,仮性動脈瘤や心内シャントの形成,伝導障害(房室ブロックや左脚ブロック)の発生があげられる.弁輪

周囲膿瘍による心内構築の破綻に至った症例は重症心不全を高率に合併し,死亡率も高く,緊急手術の適応である43, 206, 474, 476, 480).弁輪周囲膿瘍は自己弁IEより人工弁IEで多いとされている183, 480-485).また,自己弁IEの弁輪周囲膿瘍は僧帽弁より大動脈弁において発生頻度が高い179, 482, 486, 487).大動脈弁輪周囲膿瘍では,感染の進展が膜性中隔や房室結節に至り伝導障害を合併することがある484, 488).

細菌の種類によっては抵治療抗性感染をきたし,抗菌薬加療では感染が制御できず,早期手術を余儀なくされる.

真菌,MRSAやバンコマイシン耐性腸球菌(VRE),稀ではあるが,非HACEKグラム陰性菌は耐性や病原性が強く早期手術を積極的に検討すべきである202, 203, 219, 431, 489).

2.4 感染性塞栓症(推奨表14)

塞栓予防の手術を行う際に重要なことは,塞栓リスクが高い症例を見極めることである.疣腫の特徴,塞栓歴,塞栓の起こりやすい時期の3つを考慮し手術適応を判断する.

塞栓リスクの高い疣腫の特徴は,表15(第3章3.1塞栓症の頻度・時期・リスク因子)に示すとおり複数報告されており39, 40, 42, 43, 196, 217, 490-493),このような疣腫を有する症例では早期手術を検討する.特に効果のある抗菌薬開始後に塞栓症を生じ,10 mmを超える疣腫が残存している場合,増大する疣腫を認める場合は凖緊急手術の適応である.大きさが30 mmを超える疣腫は,脳塞栓のほかに髄膜炎や脳出血を含む脳神経合併症発症のリスクが高い40).近年増加傾向にあるStreptococcus bovis group(Streptococcus gallolyticus)は,緑色レンサ球菌(VGS),Enterococcus属と比べて,10 mmよりも小さなサイズの疣腫で塞栓を起こすことが報告されている494).塞栓発症のリスクに関しては,フランスよりthe Embolic Risk French Calculator(ER- Calculator)が発表され,年齢や糖尿病の有無といった一般的な因子に加えて,塞栓歴や心房細動の有無,疣腫の大きさ,Staphylococcus aureus感染の有無を入力することで客観的に評価できる222).わが国からはER-Calculatorの予測精度の高さが報告されている223).

IEは塞栓症を繰り返し生じるため,塞栓歴の有無は早期手術を判断するうえで重要な情報である495).IEでは頭部血管,脾動脈,腎動脈にある一定の頻度で無症候性塞栓を生じるので,画像診断所見の把握はきわめて重要である.塞栓歴がある患者で,先に述べた塞栓リスクの高い疣腫が残存している場合は早期手術が推奨される.

これまでの報告から塞栓の起こりやすい時期は,効果的な抗菌薬の投与開始後1~2週であることがわかっている42, 43, 495).フランスからの報告では,抗菌薬開始後1週目に塞栓イベントが起こる頻度は1000患者・週あたり44.9回であるが,2週目には21.3回へ低下し,6週目には2.4回へ低下した222).したがって,抗菌薬治療開始後1週間から2週間以内の手術は塞栓予防の効果が高いともいえる.一方で,抗菌薬を開始して2週間を過ぎれば,それ以降に塞栓が起こる可能性は低下する.

近年,他の手術適応を伴わない10 mmより大きな孤発性疣腫に対する手術は入院死亡率を低下させないという結
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果が報告されたが221),疣腫の可動性,場所,大きさの変化,菌種,塞栓歴,人工弁IEかどうかといった点を検討して,手術を判断することが重要である.なお,重度の弁機能異常を伴う10 mmを超える疣腫を有する自己弁IE(大動脈弁,僧帽弁)患者では,早期手術群と通常治療群で6ヵ月以内の総死亡率には差がなかったが,6週間以内の塞栓症の有無に有意差を認めており39),早期手術が推奨される.

2.5 中枢神経合併症症例の手術時期

(推奨表15,図7) IEに高率に合併する中枢神経合併症を伴う症例では,適切な手術時期に関する一貫した推奨はいまだない496).一般的に,人工心肺時のヘパリン投与による,脳梗塞の出

血性変化や,出血性脳合併症病変の拡大,新規脳出血などが懸念される.手術時期の違いによるリスクベネフィットを循環器内科,感染症内科,放射線科,脳神経内科,脳外科,心臓血管外科などで構成されるIEチームで適切に考慮したうえで治療戦略を検討する必要がある.

2.5.1 脳梗塞合併例

脳梗塞合併例で疣腫が残存している症例はさらなる塞栓症リスクが高いと考えられ,抗菌薬治療による待機中全身状態の悪化を伴う可能性があり,手術適応のある症例に関しては,適切な全身状態での早期手術が推奨される

497). a. 脳梗塞の範囲が小さい症例

早期手術による脳神経症状の悪化の頻度は低く,むしろ抗菌薬による手術待機中に全身状態の悪化するリスクのほうが高く,早期手術のメリットが大きいとされている196, 240, 498-503).NIHSS≦10の脳梗塞症例では,IE診断後14日以内に手術を施行した場合はそれ以外の場合に比べて予後が良好であったという報告があるが,その多くがNIHSS≦3 の症例であったことに注意が必要である504).さらに,10 mm以上の疣腫を有する患者に対する待機手術では,有意に脳塞栓が増加することも知られている498).特に,一過性脳虚血があった場合は遅滞なく手術することが推奨される

41). b. 広範囲脳梗塞やNIHSS≧11の重症脳合併症症例

外科的治療群も保存的治療群も予後不良であったとの報告がある504).したがって,昏睡やヘルニアを伴う広範囲脳梗塞(脳出血も含む)はいずれにせよ予後不良であると考えられ,手術に伴う脳神経症状のさらなる悪化の可能性も高く,手術の可否を慎重に判断する必要がある.また,生命予後が不良とまでは言えない広範囲脳梗塞(半身麻痺など)についても,急性期には出血性変化や脳浮腫の進行などによる脳神経症状悪化の可能性があることや,早期手術の安全性を示す文献はきわめて限られていることから,少なくとも脳神経症状が安定するまで抗菌薬治療を優先する.

2.5.2 出血性脳合併例(脳出血,SAH,硬膜下血腫)

(関連するシステマティック・レビューとして「CQ2 脳出血を合併した感染性心内膜炎例では,適応があれば4週間以内に手術を行うことが推奨されるか?」参照)

出血性脳合併症(脳出血,SAH,硬膜下血腫)を伴う感染性心内膜炎に対しては,これまで4週間の待機が推奨されていたが40, 225),出血性脳合併症の診断後4週間の手術待機が困難な症例も多く,個々の症例に応じてより適切な

推奨表15 脳合併症IE 患者における開心術の決定と手術時期の推奨とエビデンスレベル

適応推奨クラスエビデンス

レベル

脳合併症を有する患者に対してIE チームによる手術時期の決定を行う

*1 I B

脳合併症を有する患者に対して心不全や治療抵抗性感染,膿瘍,塞栓症リスクなどがない場合は抗菌薬治療を優先し,必要時に手術を検討するI B開心術を必要とし,各種リスク

*2 を有し早期心臓手術を必要とする患者で,無症候性脳塞栓や一過性脳虚血発作や小範囲非出血性脳梗塞合併患者に対して遅延なき手術を行うI B各種リスクを有し早期心臓手術を必要とする患者で,生命予後が不良とまで言えない広範囲非出血性脳梗塞を伴う場合は,抗菌薬治療を優先し神経症状が安定した場合に手術を考慮するIIa C各種リスクを有し早期心臓手術を必要とする患者で,脳出血を伴う場合,神経学的所見が重症(例:昏睡,脳ヘルニアなど)でなく,かつ脳出血の拡大が画像上否定されている場合は,脳出血発症後2 週間以内の手術を考慮するIIa C循環状態が安定し,各種リスクを有し早期心臓手術を必要とする患者で,脳出血を伴いさらに画像上脳出血の拡大が見られる場合は,原則として脳出血発症後4週間以上の抗菌薬治療を先行するIIa B *1内科医(循環器内科,感染症内科,神経内科など)と外科医(心臓血管外科,脳神経外科など)によって構成される診療チーム*2各種リスク:心不全,治療抵抗性感染,膿瘍,塞栓症などIE:感染性心内膜炎
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時期(全身状態悪化前)に手術を検討する必要がある.近年,出血性脳合併症発症後2週間以内に手術を受けた場合でも,出血性脳合併症の悪化による術後の神経学的症状増悪のリスクは従来想定されていたリスクよりも低いと報告されている242, 505-508).そのため,循環動態が安定しない心不全,コントロール困難な感染,膿瘍形成や疣腫に伴う脳塞栓リスクが高いと判断した場合は,出血性脳合併症の拡大がないことを確認のうえ2週間以内であっても救命のためのIEに対する手術は推奨される242, 505, 506, 509, 510).また,待機的手術を行うことができる場合は,循環動態,感染の状況,脳塞栓のリスク評価,また出血性脳合併症の状況や感染性脳動脈瘤を画像的にフォローし, 4週間以降の適切なタイミングでの手術が推奨される242, 505, 506, 509).

出血性脳合併症を伴うIEに対する心臓手術時の抗凝固療法については一定の推奨はない.わが国において現在保険適用外使用となるが,人工心肺時の抗凝固療法を通常量のヘパリン投与から,低用量のヘパリンとナファモスタットメシル酸塩を併用して,活性化凝固時間を通常より短く維持することで,出血性脳合併症後急性期でも神経症状の悪化を認めなかったとの報告もある511). 2.5.3 感染性脳動脈瘤合併例

IEの2~9%程度に合併するといわれ,周術期脳出血と密接に関連していると考えられる40, 506, 509, 510).破裂性動脈瘤と未破裂動脈瘤で動脈瘤サイズに差はないとする報告もあるが,一般に5 mmを超える脳動脈瘤は破裂リスクが高いと考えられる512).感染性脳動脈瘤は抗菌薬治療でも改善する症例がある512, 513)一方で,未治療であれば破裂リスクが非常に高く266, 513-515),開心術に緊急性のないかぎり脳動脈瘤の治療を優先するべきである.また,IE診断時に各種画像検査で脳動脈瘤は必ず検索するべきであるが,各種画像での陰性症例でも治療中や周術期に脳出血を認める症例があることに注意が必要である497, 516).特にIEの特徴として,脳動脈瘤を形成しない細菌性血管炎の存在が示唆され,血管の脆弱性に寄与していると考えられる516).診断時の頭部MRIによる微小脳出血(CMBs)の存在が血管の脆弱性に関与しているという報告もある248).一方で,微小脳出血の存在は神経予後に影響しないという報告246)もあり,細菌性動脈炎の存在を示唆する見解の定まった画像所見はない.

図7中枢神経合併症症例の手術施行に関するアルゴリズムIE:感染性心内膜炎

虚血性脳合併症(小範囲)/TIA虚血性脳合併症

(広範囲)

中枢神経合併症

出血性脳合併症脳動脈瘤治療*2

心不全,抵抗性感染,膿瘍,塞栓症リスク

出血病変の拡大/増悪BSC

抗菌薬治療先行

(Class I)

準緊急手術(class I)神経症状安定後に手術検討

(class lla)

2週間以内の準緊急手術(class Ila) 4週間以上の抗菌薬治療先行(class Ila)

生命予後不良な重度脳障害あり*1

あり*3

生命予後不良な重度脳障害なし

あり

脳動脈瘤なしなし

なし脳動脈瘤あり

*1 リスクベネフィットや障害の程度を加味して,IEチームで議論する*2 脳動脈瘤のサイズや出血の状況,心臓手術の緊急度をふまえてIEチームで議論する「第3章3.2中枢神経合併症」の項目も参照*3 血腫除去などの脳外科的処置の適応についても,IEチームで議論する
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3 術式選択,成績と術後管理

IEの手術は徹底的なデブリードマンが原則であり,感染した組織,異物(人工弁や人工血管)および壊死組織をすべて除去し,組織を再建しなければならない.手術中の所見で術前には予期しない感染病変の進展を経験する.そのために手術アプローチはいかなる手技に対しても対応可能であり,視野のよい胸骨正中切開が原則となるが,僧帽弁IEで病変が限局している症例に限っては右小開胸心臓手術(MICS)も可能である.

3.1 大動脈弁IE

大動脈弁IEは弁輪部への感染波及の有無で術式が大きく異なり,手術難易度も大幅に変わるため,術前診断が非常に重要である.

感染が弁輪部に波及しておらず,弁膜に限局している場合には一般的に人工弁置換術(大動脈弁置換術)を施行する.弁形成術は症例報告単位では存在するものの一般的ではなく,置換術より優れるというエビデンスは乏しい.人工弁置換術においては将来的な生体弁におけるTAV-in- SAV(Transcatheter Aortic Valve Implantation in a Surgical Aortic Valve)やライフタイムマネージメントを考慮し,個々の症例で生体弁・機械弁の選択を検討すべきであるが,脳出血の合併,広範囲脳梗塞の合併,術後に消化管出血のリスクを有する重篤な患者では機械弁の使用は避けるべきである517).機械弁と生体弁の感染制御の優劣について依然議論の余地はあるが,生体弁が機械弁に比して再感染が多い報告が散見される518-520).再感染のリスクがある易感染患者(ステロイド内服,透析,アトピー性皮膚炎など)では弁選択の際に念頭に置くべきである.生体弁におけるウシ心膜弁とブタ弁の感染制御の違いについての報告はあるものの一定の見解はない521, 522).

感染が弁輪部に波及し弁輪周囲膿瘍を形成している場合,小さな膿瘍腔であれば感染巣を掻把し,パッチ形成術と人工弁置換術により治癒しうる523).大きな膿瘍腔の形成でintervalvular fibrosa(IVF,線維性連続)に感染が進展し大動脈弁輪周囲膿瘍を形成すると183),最終的には仮性瘤を形成し,ときにはLV-Ao discontinuity(左室-大動脈瘻)に至る.このような症例では大動脈基部置換術が必要であり,わが国では人工弁を使用したComposite graftによる再建が一般的である524).アログラフトは抗感染性に優れるものの,わが国では入手制限があり,遠隔期の石灰化

の懸念がある.Ross手術は欧米で広く行われ,比較的良好な成績が報告されている525, 526).抗感染性や抗血栓性に優れ, 良好な血行動態が得られるが,大動脈弁に加え肺動脈弁を含む右室流出路再建を要すること,わが国ではホモグラフトの入手制限があり,遠隔期に圧較差上昇の危険性を有するステントレス弁の使用を余儀なくされることなどの注意点を有する.感染がIVFで構成されるAorto-Mitral continuityに及ぶ症例では大動脈弁および僧帽弁置換術に加え同部位の再建を要するCommando手術527, 528)が必要で,IVF以外に他部位の弁輪周囲膿瘍を合併する場合にはさらに大動脈基部置換術を要するため,習熟した外科医による手術施行が望まれる.

3.2 僧帽弁IE

感染が弁膜または弁下組織の一部に限局する場合は,僧帽弁置換術で感染巣の切除と再建は比較的容易に達成できる.しかし,機械弁における血栓弁と抗凝固療法による出血のリスク,生体弁における長期耐久性を考慮すると,弁形成術が望ましい場合が多い.患者背景の相違はあるが,入院死亡率は弁形成術が2.6~11.6%,弁置換術が8.4 ~29.7%であり,総じて弁形成術で低率である529-533).再手術率は同等か,弁形成術が低いという報告がみられる.弁形成術の特徴としては術後1年以内の早期再手術があげられ,逆流再燃のない根治性の高い弁形成術を行う必要がある530, 531).IE再燃率に関しては同等,もしくは弁形成術のほうが低い530, 531, 534).遠隔生存率は弁形成術が優れている529-531, 535).

僧帽弁IEでの弁形成術達成率は,経験豊富な施設からの報告では68~82%と高いが,コホート研究で19.4~ 41.1%である529-301, 536).広範な弁の破壊例では,感染組織の郭清後に,残存組織での弁形成が可能かどうかを判断することが重要である.後尖,前尖のclear zoneに限局した感染巣は弁形成の適応となることが多く,逆流や狭窄のない形成ができた場合,その遠隔成績も良好である.一方,前尖rough zoneが2領域以上にわたって広範囲に感染した症例では,弁形成自体が難しく,形成ができたとしてもMR再燃のリスクは高い535).弁の穿孔病変には自己心膜または異種心膜でのパッチ修復術を行う530).限局的に使用された心膜パッチの成績は安定しているが,広範なものは遠隔期でのMR再燃に注意が必要である.腱索断裂には人工腱索での修復が可能である.感染がコントロールされた心不全のない症例に対する手術は待機的に施行される場合もあるが,早期手術により形成術の完遂率が高くなり,
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生存率が向上したという報告も多い530, 537).弁形成術の成績は術者の技量に左右されるので538),患者年齢や術前状態に応じて術式を選択する必要がある.一方で,予後の改善という意味では早期の弁形成術の適応を常に考えておく必要がある.

感染が弁輪周囲へ波及して膿瘍を形成したり,正常な解剖構造が破綻をきたした重症例では,弁置換と弁輪周囲の再建手技が必要である.感染組織の完全な切除,郭清後,欠損部位を自己または異種心膜,人工血管で再建する.

現時点でIEに対するMICSの適応は明確ではない539).そのため症例ごとに慎重な判断が必要である.肺高血圧のない心不全症例で,感染が弁尖に留まるもの,弁輪周囲膿瘍や心臓骨格が破壊されていないものなど,単純な手術操作で治癒できる症例が適応になる可能性はある.過度の体外循環時間の延長は出血や腎不全という合併症に加えて,再膨張性肺水腫というMICS特有の合併症のリスクを高める540).

3.3 三尖弁IE

三尖弁も僧帽弁と同様に感染が限局する場合は弁置換術で手術の目的を達成できるが,僧帽弁IEで述べたように,人工弁の耐久性と合併症を考慮すると,弁形成術が望ましい541, 542).弁形成術と弁置換術の長期生存率は同等であるという報告もあるが,弁形成術はペースメーカを必要とすることが少ないだけでなく,IEの再発や再手術の回避率が高く,三尖弁IE患者にとって望ましいアプローチである543).弁穿孔は心膜パッチで閉鎖し,弁逸脱は人工腱索で修復できる.拡大した三尖弁輪はリングで縫縮されるべ

きである.弁破壊が高度で形成が困難な症例では弁置換を行うが,人工弁の選択には注意を要する.近年,ブタ弁の方がウシ心膜弁よりも耐久性が優れるとする報告もある544).海外では薬物中毒者のIEが多く,三尖弁切除術が選択される場合もあるが,わが国では一般的な術式ではない.

3.4 術後管理

通常の弁膜症の術後管理と異なる点は,周術期脳合併症の悪化または新たな発生があること,弁周囲逆流の発生率が高いこと,またその原因の1つとして感染が遷延する場合があることである.これらの合併症に対する注意深い観察とそれぞれへの対応が必要である.感染性脳動脈瘤は術後に生じることもある.微小出血が多発する症例では,術後の変化に注意が必要である.出血病巣は抗凝固療法による増悪の可能性がある.したがって術前脳合併症の有無にかかわらず,すべての症例で術後も頭部画像評価の施行を検討する.施行時期に明確な基準はないが,術後1週間から10日以内を目安とする.弁周囲逆流や感染遷延を認める症例では再手術を必要とすることがあり,その時期の判断を誤らないことが重要である.定期的な心エコー図検査と血液培養検査を行う.抗菌薬の投与期間は,摘出組織の細菌培養が陽性であれば,術後から投与期間を1コースとして投与し,陰性であれば術前からの投与期間を含めて1コースとして決定する355).

第6章 外来でのフォローアップ

1 フォローアップの必要性と要点

IE 治療後の患者は,同じ年齢・性別の一般人口に比べ予後不良であり,特にイベントの多くは初回治療後数年の

間に生じることが知られている545-549).そのため,定期的なフォローアップが必要である.IE治療後の外来フォローアップの要点としては,自覚症状や発熱の問診を行い,再発の有無,弁機能不全の進行または残存弁機能不全による心不全の有無や,心機能を評価することがあげられ,慢
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性期弁手術の適応・時期を判断する.心エコー図検査や血液検査を,どの程度の間隔でどの程度の期間施行すべきかについては明確な基準はないが,特に1年以内は綿密なフォローが必要である11, 545).また,IEに合併する感染性脳動脈瘤は,破裂すると死亡率が高い疾患であり,経時的変化を慎重にフォローする必要がある.

2 再発(再燃および再感染)の 頻度と危険因子

再発は,再燃(初回と同一原因菌の感染)と再感染(初回と異なる原因菌の感染)に分けられる.再発の頻度は2~ 9%とされる545, 546, 549-556).再燃よりも再感染のほうが予後不良である546).自己弁IEに対して人工弁置換術を施行した症例の再発は,術後15年で約20%とされている549).再発に関連する因子はいくつかあげられるが551, 552)(表22),初回治療時の不適切な抗菌薬治療が原因であることが最も多い. IEを基礎疾患として人工弁置換術を施行した例では,弁輪部組織が脆弱なために弁輪周囲逆流が生じることがあり,注意が必要である. 3 慢性期弁手術の適応

最近では,IE発症後早期に手術を行う症例が増加しているため,慢性期の弁手術は減っている(3~8%)が546, 549),内科的治療を受け重症弁機能不全が残存した例では,慢性期に弁手術の適応となる可能性がある.また,抗菌薬治療後に弁機能不全が進行することもある.これらの症例では,弁病変の変化,心不全の有無,心機能の変化などを心エコー図検査などでフォローする必要がある.そのため,抗菌薬治療終了時に心エコー図検査を施行し,その後のフォローアップの基礎データとする.

4 患者教育

再発の可能性があることを,患者本人に知っておいてもらう必要がある.齲歯やアトピー性皮膚炎など初発IEの感染門戸が明らかな場合は患者に伝え,特に感染予防に注意してもらい,再発時の症状についても具体的に伝える.また,発熱時の安易な抗菌薬服用は避けるよう,患者本人はもちろん,かかりつけ医にも伝え,IE について理解してもらうよう連携する.IE の既往は IE 再発の高度リスク因子であるため,観血的な処置の際には抗菌薬の予防的投与の適応となることについても,患者,かかりつけ医を啓発する.また,口腔内や皮膚の清潔を保つような教育も重要である.

表22 感染性心内膜炎の再発に関わる因子

• 不適切な初回抗菌薬治療(不十分な期間,不適切な抗菌薬など) • 血液培養陰性• 薬剤耐性の原因菌• 人工弁感染,弁輪部に及ぶ感染• 他臓器に持続性の感染源を有する症例• 慢性透析患者• 免疫低下症例(免疫抑制薬内服症例など) • 薬物中毒患者
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1 予防の重要性

IEを発症すると長期の抗菌薬投与または外科的治療が必要となる.治療後も長期にわたって感染予防が必要となる.さらに,高齢者や多病罹患患者では,手術が必要でも実施できない場合がある.口腔内の清潔の保持,菌血症を生じうる手技における清潔操作,予防的抗菌薬投与によるIE予防が重要である.

医療の発展にもかかわらず,近年IEの頻度は増加している.米国における調査によると,1990年代から2019年にかけて,IEの発症率は10.2/10万人から14.4/10万人と増えており,最近ではプラトーに達している557).増加率は男性,高齢者でより増えている.欧米各国,わが国における変化も同様であるが,死亡率は改善している558).国民1人あたり所得,平均学歴,出生率について,それらの各国の順位を平均して1 つの指標とした社会人工統計学指数(Socio-demographic Index: SDI)が比較的高い国でIEの発症率が高い8).これは,年齢が高く,人工弁や心内デバイスを用いる率が高いからではないかと言われている.発生率のみならず,疾病による早死や障害によって失われた年数を総合的に示す健康指標である障害調整生存年数(DALYs)を用いた研究でも,全世界的にIEによる負荷は大きくなっている559).このような傾向をふまえても,IEの予防は一層重要となってきたと言える.

2 IEのリスク層別化:患者要因

(推奨表16) IEの予防においては,その対象となる背景疾患・併存疾患を考えなくてはならない.また,予防のために抗菌薬を使用する際には,どのような臨床場面で,どのような菌種に対する抗菌薬を使用するかが問題となる.さらに,使用する抗菌薬の種類,投与方法,投与タイミング・期間が問題となる.

内膜障害の素地となる異常血流の生じる疾患(弁膜症,シャント疾患など)や,そもそも内膜でおおわれていない人工物(心臓植込みデバイス,人工弁)を体内に有する患者が予防の対象となってきたが,それぞれの疾患や臨床状態におけるIE発症率が疫学的研究から明らかにされてきた560-562).こうした疫学的研究に基づいて,IE発症頻度,発症した場合の重篤度から,背景疾患を中等度リスク群,高度リスク群と分類されてきた1).中等度リスク群,高度リスク群ともに一般人口よりはIE発症率が高い.高度リスク群は一般的に中等度リスク群よりもさらにIE発症リスクが高いと同時に,IE発症した場合の死亡率,重篤度が高いものとされている1).

予防的抗菌薬投与を高度リスク群に限定している欧米のガイドラインとは異なり,わが国のガイドラインでは,中等度リスク群,高度リスク群ともにIEのリスクが高く,予防的抗菌薬投与が必要との立場に立つ1).また,心疾患をもっているが,予防的抗菌薬投与を行う必要がない疾患群・状態を低リスク群として明記してきた1, 354).

また,歴史的経緯からわが国のガイドラインでは成人におけるIEリスクと,小児/先天性心疾患によるIEリスクを分けて記載してきた1).成人先天性心疾患患者が増加している現状に鑑み,今回の改訂では,成人のリスク記載でも小児のリスク記載と整合性を持たせる形で先天性心疾患の記載を増やし,一貫性をもって使用できるようにした.これまで成人においては低リスク群を本文中に記載していたが,今回の改訂では低リスク群も表の中に含めた.小児領域の専門的な管理のために,より詳しく記載された小児領域のリスク表も残した(第8章1表28参照).

2.1 高度リスク群

2.1.1 弁膜症術後

人工弁置換術後のIE発症リスクは生涯にわたって高く, IEを発症した場合の重篤度,死亡率も高い562).カテーテルによる大動脈弁,肺動脈弁置換術後のIE発症率も高かっ

第7章 予防
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た.外科的弁形成術(カテーテルによる弁形成術は含まない)も同様にリスクが高いことが示された562).2023年のESCガイドラインでも予防的抗菌薬投与が強く推奨されるようになった11).わが国における今回の改訂では,人工弁置換術を引き続き高度リスク群とするとともに,カテーテルによる弁置換術も高度リスクに明記し,外科的弁形成術も高度リスクに加えた.

2.1.2 IE罹患後

IE罹患後は,治癒したのちもIE発症率が通常よりも高い.これは,内膜障害,非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)が残存し,菌が付着しやすくなっているからと考えられている.2023年のESCガイドラインでも予防的抗菌薬投与が強く推奨されるようになった11).今回のガイドラインでも高度リスク群とした.

2.1.3 構造的心疾患インターベンション後

経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)後には,外科的大動脈弁置換術後と同様に人工弁IEが生じうる.TAVI後のIEについてはVARC基準で,Duke基準,再手術時の感染所見,剖検時のIE所見と定められている563).TAVI後のIEの頻度は植込み1年の時点で0.2~3.1%(≒200~ 3,100/10万人年)であり,高度リスクに相当する頻度である564).TAVI後のIEの原因菌は黄色ブドウ球菌,腸球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が多い564).TAVI後と外科的大動脈弁置換術後のIEリスクはほぼ同等とする結果が多いが,TAVI後のIEのほうが外科的大動脈弁置換術後のIEよりも死亡率が高いとするものもある565, 566).若年,心房細動,男性,手術高リスク,慢性腎臓病/透析,糖尿病,心不全既往,ペースメーカ留置,心停止,主要な出血, TAVI入院中の菌血症,中等度以上の大動脈弁逆流の残存, valve in valve手技などがIEリスクとされる564, 566, 567). TAVI後には大動脈弁のみならず僧帽弁にIEが生じることもある568).自己拡張弁や弁周囲逆流が残ったもので多いとされる568).上記を鑑み,今回の改訂ではカテーテルによる人工弁植込み手技も高度リスクに明記した.

経皮的僧帽弁接合不全修復術(M-TEER)に関連したIEは稀であるが,いったん発症すると予後は悪い569).多くは黄色ブドウ球菌により引き起こされるが,口腔内レンサ球菌によるIEも報告されている569).実施症例数の多い施設に比べて,少ない施設ではIE合併が多い570).ESCガイドラインでは,経皮的僧帽弁/三尖弁接合不全修復術後の患者に対する予防投与については情報が少なく,推奨にはあげられていない11).IE発生頻度は少ないが,情報も少なく,今回のガイドラインでは,あえて低リスク群には記載しな

推奨表16 基礎疾患別リスクと歯科口腔外科手技に際するIE予防のための抗菌薬投与の推奨とエビデンスレベル

IE リスク推奨クラスエビデンス

レベル

1 高度リスク群(IE 発症の可能性が高く,重篤化しやすい患者):予防的抗菌薬投与を行う

・ 外科的/ 経カテーテル的人工弁置換患

者(生体弁,同種弁を含む),弁輪リング等を用いた外科的弁形成術後

*1

・ IE の既往を有する患者・ 未修復

*2 の複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室,完全大血管転位,ファロー四徴症)・ パッチ,人工材料を用いて修復した先天性心疾患で,修復部分に遺残病変を伴う場合(術後期間を問わない)・ 体循環系と肺循環系の短絡造設術を実

施した患者I B

・ 左室補助人工心臓を有する患者I C 2.  中等度リスク群(必ずしも重篤とならないが,IE 発症の可能性が高い患者):予防的抗菌薬投与を考慮する(IIa)または考慮してもよい(IIb)・ ほとんどの先天性心疾患

*3,大動脈二尖弁を含む先天性弁膜症・ 後天性弁膜症

*4

・ 閉塞性肥大型心筋症・ 弁逆流を伴う僧帽弁逸脱症IIa C・ 人工ペースメーカ,植込み型除細動器

などのデバイス植込み患者*5・ 弁変性を有する心移植後の患者IIb C

3 低リスク群(感染の危険性が特になく,一般の人と同等の感染危険率とされる患者):予防的抗菌薬投与は推奨されない

・ 単独の心房中隔欠損(二次孔型) *6・ 心室中隔欠損・動脈管開存・心房中隔欠損根治術後6ヵ月以上経過した残存短絡がないもの・ 冠動脈バイパス術後・ 逆流のない僧帽弁逸脱症・ 生理的または機能的心雑音・ 弁機能不全を伴わない川崎病の既往・ 弁機能不全を伴わないリウマチ熱の既

往III No benefit C *1カテーテルによる僧帽弁/三尖弁形成術後についてのデータは十分ではない.左心耳閉鎖デバイス留置6ヵ月以内,経皮的心房中隔欠損閉鎖術後6ヵ月以内は予防的抗菌薬投与を推奨する*2姑息的吻合術や人工血管使用例を含む*3単独の心房中隔欠損(二次孔型)を除く( *6参照) *4逆流を伴わない僧帽弁狭窄症ではIEのリスクは低い*5リードレスペースメーカ,皮下植込み型除細動器は除く*6心房中隔欠損(二次孔型)も一般人口に比べるとIEリスクは高いという報告がある576, 577)(本文参照) IE:感染性心内膜炎
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かった.個々の症例の状況に応じた判断が望まれる.

カテーテルによる心房中隔欠損孔閉鎖術後は,手技後6ヵ月までは抗血小板薬,予防的抗菌薬投与が推奨されており,今回の改訂ではそのように記載した.ESCガイドラインでも同様の推奨となっている11).稀に遠隔期にもデバイス感染が報告されているが,頻度は明らかではない.歯科治療後のIEも報告されており,デバイス表面の内膜化の遅れがIE発症に関与しているとされ,閉鎖後も口腔衛生に注意を払うべきかもしれない571).

左心耳閉鎖デバイス留置6ヵ月以内は予防的抗菌薬投与を推奨する.左心耳閉鎖デバイス留置後のIEはきわめて稀ではあるが報告があり,留置後6ヵ月以内のものもあれば,それ以降のものもある572).症例に応じた検討が必要であるが,現時点では左心耳閉鎖デバイス留置6ヵ月以降への一律の予防的抗菌薬投与は推奨されない.

2.1.4 先天性心疾患

従来のガイドラインでは,成人と小児/成人先天性心疾患のIEリスクの表は分けて記載されてきた.小児循環器科領域では手術の内容など,専門的な記載が多く,成人を診療する医師がみてもわからない部分もある.しかし,近年の医療技術の発展に伴い,成人先天性心疾患患者が増え,小児循環器科以外の医師が診療する機会も多いと予想されることから,今回成人の表における先天性心疾患の領域も,小児の表に整合させる形で内容を詳しく記載した.

高度リスクとされる先天性心疾患の中でも,チアノーゼ性先天性心疾患や,人工物を用いて治療後の先天性心疾患のIEの発症率は,姑息的シャントを行ったものに比較すると低いことが報告された562).それでも正常人と比べて発症率は非常に高く,IEを発症した場合の重篤度を考えると,これらの群は依然として高度リスク群として慎重な経過観察を要すると考えられる.わが国の成人先天性心疾患のガイドラインの推奨とも見解を一致する573-575).

先天性心疾患の中でも単独の二次孔型心房中隔欠損は従来どおり低リスクとした.しかし,最近の国家単位の観察研究では,心房中隔欠損のIE発症率は一般人口よりも有意に高いという報告もなされている576, 577).今後の報告に注意を払う必要がある.

小児科から成人の循環器内科医への十分な情報提供や,逆に成人の循環器内科医・一般内科医から小児科主治医へ問合せを行うなどの緊密な情報のやり取りが必要である. 2.2 中等度リスク群

従来中等度リスクとされてきた疾患の中にも,IE発症率や発症した場合の重症度に違いがあることが報告されてきている578).

2.2.1 弁膜疾患

最近の研究でも,弁膜疾患を有する患者は一般人口よりはIEリスクが高いが,人工弁置換術後に比べればリスクは低かった34).一方,先天性大動脈二尖弁や僧帽弁逸脱症は,中等度リスクの中でも高いIE発症率を持つことが報告された578).これらの群では歯科治療後IEの頻度が多く,歯科治療時の予防的抗菌薬投与の有用性が示唆される578).心内合併症や,手術となる率が高いことが示され,高度リスク同様にIE発症時の重篤度の高い背景疾患ともいえる578).この報告では,大動脈二尖弁/僧帽弁逸脱症例の半数以上が中等度以上の弁機能不全を有していた.弁機能不全を有さない大動脈二尖弁/僧帽弁逸脱症例について同様のことがいえるかは検討されていない34).先天性大動脈弁狭窄症を生じた例のIEリスクは非常に高い(157/10万人年) 579).地域住民を対象とした疫学研究において二尖弁のIE発症リスクは,99/10万人年と一般人口に比べて約10倍のリスクがあった580).わが国のガイドラインでは中等度リスクも予防的抗菌薬投与を推奨する立場をとっていることもふまえ,今回の改訂では弁機能不全を有する大動脈二尖弁,僧帽弁逸脱症は中等度リスクのままとしたが,中等度リスク群の中でも特に注意を払うべきである.

2.2.2 心臓植込みデバイス植込み後

心臓植込みデバイス患者がIEを発症すると,デバイス抜去が必須となり重篤度が高い.一方,最近の研究では, CIEDのIE発症率,死亡率は一般人に比べて有意に高い(オッズ比9.7)が,IE既往(オッズ比265.5)や人工弁置換術後(オッズ比70.1)のような高度リスク状態ほどではなかった562).原因菌は黄色ブドウ球菌やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌,腸球菌が多く,口腔内常在菌を含むレンサ球菌は10%強と報告されている581).これらを考慮して,本ガイドラインでは引き続き中等度リスクとし,推奨クラスはIIbとした.欧米において心内デバイスを有する患者に対する歯科治療前の予防的抗菌薬投与は推奨されていない11).

リードレスペースメーカ植込み後は,菌血症を生じてもIEに至っている例はなかったと報告されている582).また,リードレスペースメーカ植込み後の菌血症のほとんどは抗菌薬治療のみで改善した583).皮下植込み型除細動器
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(sICD)植込み後に局所感染はあるもののIEは生じない584).人工弁IEを繰り返す患者においてsICDとリードレスペースメーカを使用した例が報告されている585).これらのデバイスは,他のデバイスとは区別して考えるべきであろう.

2.2.3 肥大型心筋症

最近の研究でも,肥大型心筋症は一般人口よりはIEリスクが高いが,人工弁置換術後に比べればリスクは低いとされている34).一方,左室流出路狭窄と左房拡大(≧50 mm)がIE発症リスクと関連するとの報告があり,血行動態的に重篤な左室流出路狭窄や僧帽弁逆流症を伴う肥大型心筋症がよりリスクが高いと推測される586).肥大型心筋症に生じたIEと歯科治療との関連性を示唆する報告もある587).以上をふまえ,今回のガイドラインでも従来どおり中等度リスク群として予防的抗菌薬投与を推奨する疾患とした.ただし,ESCガイドラインでは,肥大型心筋症に対する予防的抗菌薬投与は推奨されていない11).

2.3 その他

以前のガイドラインにおいては,長期にわたる中心静脈カテーテル留置患者を中等度リスクとして,予防的抗菌薬投与の推奨クラスをIIbとしてきた.しかし,このことの強い根拠はない.中心静脈ポートに関するガイドラインでも,根拠のない抗菌薬投与は推奨しないとしている588).これを受けて,今回の改訂では長期にわたる中心静脈カテーテル留置患者は予防的抗菌薬投与の推奨から除いた.ただし,免疫抑制患者などハイリスク症例における予防的抗菌薬投与については症例ごとに検討されるべきである.

欧米に比べると少ないものの,わが国でも心移植患者が増えてきた.弁変性をきたした心移植患者は,後天性弁膜症と同様に中等度リスクとした11, 589).また左室補助人工心臓を有する患者は,高度リスク群に加えた11, 589).

3 IEのリスク層別化:手技/ 処置要因(推奨表17)

3.1 はじめに

IE予防を考える際,その手技/処置,臨床的状態が菌血症を生じうる手技かどうかが基準とされてきた.また,その手技/処置によって生じる菌血症の原因菌も考慮に入れる必要がある.

3.2 歯科手技の層別化

2017年版のガイドライン作成時には歯科医師も検討に加わった.歯科手技の中でも,生じうる菌血症の量が大きな観血的手技は高リスクとし,予防的抗菌薬投与をより具体的に指示できるようにした1, 354).

最近歯科手技についても,より具体的にリスク層別化する論文が報告された590).抜歯や口腔内手術時に予防的抗菌薬投与をしないと,高度リスク患者における1ヵ月以内のIE発症が有意に多かった590).侵襲的歯科治療全体としても予防的抗菌薬投与は低いIE発症率と関連していたが,侵襲の低いものや歯石除去(スケーリング)で予防的抗菌薬投与を行ってもIE発症率は変わらなかった590).この研究では,中等度以下のリスクの患者において予防的抗菌薬投与のIE発症率との関係は明らかでなかった590).これらのデータから,観血的歯科処置の中でもスケーリングはリスクが低いことが示唆される.ただし,スケーリング手技の中でもリスクの高低がある.歯肉縁上のみに沈着している歯石のスケーリングでは歯肉に対する侵襲や出血はない.一方で歯肉縁下の歯石のスケーリングや,歯肉炎の強い状態でのスケーリングでは,出血や歯肉へのダメージがあり,侵襲の程度は大きい.細かな区別は現場で用いる際に混乱を生じるとも考えられ,スケーリングは従来どおり予防的抗菌薬投与を必要とする処置に含めた.一方,歯科治療でも侵襲的でないもの(抜髄処置など)については予防的抗菌薬は不要とした.

3.3 歯科治療以外の処置・臨床背景

従来欧米のガイドラインでは,抜歯以外の処置に対する予防的抗菌薬投与については否定的であった16).しかし,侵襲的手技とIEとの時間的関連性が報告された591).これをふまえて,ESCガイドラインにおいて侵襲的手技前の予防的抗菌薬投与が考慮されるようになった11).

わが国では従前から,侵襲的歯科治療以外の侵襲的な手技における予防的抗菌薬投与についての指針を示してきた1).上部消化管内視鏡,気管支鏡後のIE発症頻度が高いことを示した最近の研究をふまえ591),今回のガイドラインではこれらの手技における予防的抗菌薬を考慮してもよい手技に変更した.

3.3.1 TAVI/構造的心疾患治療時

TAVI後のIEの原因菌は黄色ブドウ球菌,腸球菌,コア
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グラーゼ陰性ブドウ球菌が多い564).鼠径部には腸球菌が常在している592).また,TAVI後のIEが発症すると予後が悪いことが多い.今回のガイドラインでは,ESCガイドラインと同様にTAVI時の抗菌薬投与が望ましいとした11).また,その際は黄色ブドウ球菌と腸球菌のカバーが望ましいと考えられる11).

左心耳閉鎖デバイス留置時,経皮的心房中隔欠損閉鎖術時,カテーテルによる僧帽弁形成術時のIE発症率のデータは乏しいが,IEのリスクが高いと考えられる症例では,経験的な周術期抗菌薬投与は検討されるべきである569, 571, 572) .

3.3.2 心臓手術

弁膜症手術を予定している患者で口腔内病変の有病率は高く,術前に歯科を受診し,スクリーニングを行っておくことは重要である593).一方,歯科治療よりも心臓手術のタイミングが優先されるべきであり,術前の不必要な抜歯はせず,プラーク除去など衛生状態を保ち,術後は口腔内管理・患者教育を行うことが重要である593). 3.3.3 心臓植込みデバイス植込み時

最近の研究でも,心臓植込みデバイス植込み後にIE発症率が上昇することが示された591, 594).手術時にはマキシマル・バリア・プリコーション(滅菌手袋,滅菌ガウン,マスク,帽子,全身を覆う十分なドレープを使用)を用いた手技を行うことが必要である.ペースメーカや植込み型除細動器の植込み術時の予防的抗菌薬投与を推奨する11).

3.3.4 呼吸器,食道,泌尿生殖器,消化管の手技・処置 に対する予防

最近の研究では,高度リスク群ならびに中等度リスク群においても上部消化管内視鏡,気管支鏡実施後IE発症頻度は有意に上昇することがわかった591).骨髄穿刺後にもIE発症率が高いことが示された591).皮膚に侵襲を加える手技の際の無菌操作の必要性は明らかである.一方,これらの手技に対する予防的抗菌薬投与の有効性に対するRCTは行いにくい一方,高度リスク患者にこれらの手技を行った後にIEを発症する場合の予後は悪いことが予想される.今回の改訂では上部消化管内視鏡,気管支鏡,骨髄穿刺も予防的抗菌薬投与を行ってもよい手技と位置づ

推奨表17 IE 中等度/ 高度リスク患者に施行時に予防的抗菌薬投与を必要とする手技に関する推奨とエビデンスレベル

抗菌薬投与状況推奨クラスエビデンス

レベル

予防的抗菌薬投与を行う・ 歯科口腔外科領域:出血を伴い菌血症を誘発するすべての侵襲的な歯科処置(抜歯などの

口腔外科手術・歯周外科手術・インプラント手術,スケーリング,感染根管処置など)・ 耳鼻科領域:扁桃摘出術・アデノイド摘出術・ 心血管領域:人工弁や心血管内に人工物を植込む手術,カテーテルによる人工弁植込み手

技(黄色ブドウ球菌と腸球菌のカバーが望ましい),ペースメーカや植込み型除細動器の植込み術I B

予防的抗菌薬投与を考慮する・ 局所感染巣に対する観血的手技:膿瘍ドレナージや感染巣への内視鏡検査・治療(胆道閉

塞を含む)・ 経尿道的前立腺切除術(TUR-P):特に人工弁症例IIa C

予防的抗菌薬投与を考慮してもよい.ただし,高度リスク群には予防的抗菌薬投与を行う・ 消化管領域:上部消化管内視鏡検査(生検を含む),食道静脈瘤硬化療法,食道狭窄拡張術,

下部消化管内視鏡による粘膜生検やポリープ切除術,胆道手術・ 泌尿器・生殖器領域:尿道拡張術,経膣分娩・経膣子宮摘出術,子宮内容除去術,治療的流産・人工妊娠中絶,子宮内避妊器具の挿入や除去・ 心血管領域:心臓カテーテル検査・経皮的血管内カテーテル治療・ 手術に伴う皮膚切開(特にアトピー性皮膚炎症例)・ 呼吸器領域:気管支鏡・ 血液学的領域:骨髄穿刺/生検IIb C

予防的抗菌薬投与は推奨されない・ 歯科口腔外科領域:非感染部位からの局所浸潤麻酔,歯科矯正処置,抜髄処置・ 呼吸器領域:喉頭鏡検査,気管内挿管(経鼻・経口)・ 耳鼻科領域:鼓室穿孔時のチューブ挿入・ 消化管領域:経食道心エコー図・ 泌尿器・生殖器領域:尿道カテーテル挿入,経尿道的内視鏡(膀胱尿道鏡,腎盂尿管鏡)・ 心血管領域:中心静脈カテーテル挿入III No benefit B IE:感染性心内膜炎
p.72
けた11).

3.3.5 分娩時

経膣分娩後の菌血症の頻度は低いが,IEを生じた場合の重篤度は高い.日本循環器学会の「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン(2018 年改訂版)」では,高度リスク群の疾患をもつ妊婦には経膣分娩時に予防的抗菌薬投与を推奨し,中等度リスク群にもリスクベネフィットを考慮して予防的抗菌薬投与を検討するよう推奨してきた595).本ガイドラインも同様の推奨とした.

3.3.6 皮膚疾患

IEの原因菌の侵入口として同定されたうち,最も多いのは皮膚とされている596).その多くは皮膚切開や薬物静注に伴うものと考えられる.IE の背景疾患として皮膚疾患が占める割合は多くはないが,IEのリスクがある患者でアトピー性皮膚炎を合併する場合には,皮膚専門家への受診を指示するとともに皮膚の清潔の保持を指導し,感染が生じたときはすみやかに治療することが望ましい1).

3.3.7 ステロイド・免疫抑制薬投与

ステロイドや免疫抑制薬を内服していること自体が予防的抗菌薬投与の適応とはならないが,こうした患者がIEのリスクが高く予防的抗菌薬投与が必要(高度/中等度リスク)となるような心疾患を持つ場合には,適応に応じて予防的抗菌薬投与を行い,十分な注意を払う必要があると考えられる.

3.3.8 肺炎などの感染症

肺炎などの感染に伴いIEを発症することは稀に生じうる596).IEのリスクが高く予防的抗菌薬投与が必要(高度/中等度リスク)な患者に感染症をきたした場合,原疾患の治療を行うと同時に,全身性の塞栓症や難治性の病態を呈した場合にはIEも念頭に経胸壁心エコー図検査などの検査を実施すべきである.一方,肺炎球菌はレンサ球菌の一種であるが,血液培養から検出されたとしても,IEの典型的な原因菌とはみなされておらず慎重な判断が必要である17).

3.3.9 その他

中心静脈カテーテル留置については,十分に消毒することを前提に,今回のガイドラインにおいても中心静脈カテーテル手技に際しては予防的抗菌薬投与を推奨しない1).その他,抜髄処置,気管内挿管,TEE,尿道カテーテル挿入,経尿道的内視鏡時には予防的抗菌薬投与を推奨しない1).

4 予防的抗菌薬投与

4.1 予防的抗菌薬投与総論

(関連するシステマティック・レビューとして「CQ1 感染性心内膜炎発症リスクの高い患者に対する侵襲的歯科治療前の予防的抗菌薬投与は推奨されるか?」参照)

IEの予防のために,歯科治療時の予防投与が推奨されたのは1950年代からである597).IEのリスクが高く予防的抗菌薬投与が必要な群は高度リスクと中等度リスクに分けられる(第7章2本文,推奨表16参照).当初は中等度リスク群,高度リスク群ともに予防的抗菌薬投与の対象とされてきたが,2000年代から,欧米では中等度リスク群は予防的抗菌薬投与の対象とせず,高度リスク群のみ予防的抗菌薬投与が推奨されるようになった597-599).一方,英国国立医療技術評価機構(NICE)の2008年のガイドラインでは,中等度,高度リスクともに予防的抗菌薬投与の対象としないという方針に転換した600).その理由としては,歯科治療によるIEの頻度がそれほど高くないこと,歯科治療以外の歯磨きなどの日常生活によって生じる菌血症があり,予防的抗菌薬投与よりも口腔内の衛生を守ることが重要であること,予防的抗菌薬投与による副作用や,耐性菌出現に対する懸念などがあった597, 600).

欧米におけるガイドラインの変更後,IE発症率がどのように変化したか多くの観察研究が発表された466, 590, 601-616).これらの結果は観察研究であり,論文を吟味する際には,どのくらいガイドラインが遵守されたかに注意する必要がある610).またその結果は必ずしも一定ではないが,ガイドライン変更後,特に高度リスク群でIE発症率が高くなったとする報告が複数ある590, 608, 616, 617).

一方,予防的抗菌薬投与による耐性菌出現や,アレルギー,偽膜性腸炎などの副作用の懸念もあげられてきた.現在の標準的な手技前1回投与による耐性菌の出現は低いと考えられる.アレルギー,偽膜性腸炎の頻度も高くはない618, 619).

その流れの中で,2021年に改訂された米国の弁膜症ガイドラインでは,高度リスク群における歯科治療時の予防的抗菌薬投与はClass IIaで推奨されている620),NICEにおいても,予防的抗菌薬投与を全否定する記載ではなくなった600).2023年のESCのガイドラインでは,高度リスクに
p.73
ついてはClass Iで予防的抗菌薬投与が推奨された11),ただし,中等度リスクについて予防的抗菌薬投与は推奨されていない.2021年のAHAのステートメントでもほぼ同様の推奨となっている621).

わが国では,予防的抗菌薬投与による利害関係を判断した上で,一貫して中等度リスクに対しても高度リスクに対しても予防的抗菌薬投与が必要との立場をとってきた1, 573-575, 595, 622).IEに対する予防的抗菌薬投与に関するRCTの実施は倫理的,現実的にほぼ不可能である623).ガイドラインの変更に伴うIE発生率の変化についての観察研究, IEリスクのある患者のコホート内症例対照研究が主たるエビデンスである.これらの研究をシステマティック・レビューした結果をふまえ,高度リスク群では予防投与を強く推奨し,また中等度リスク群でも予防投与を推奨する(推奨表16).

なお,わが国では「予防的」抗菌薬投与は保険診療上正式には認められていない.本ガイドラインにおける推奨は臨床的な観点からのものであることを付記しておく.

4.2 歯科治療

4.2.1 解剖と病態

歯科の二大疾患はう蝕(むし歯)と歯周病であり,それぞれを引き起こす口腔細菌種によって生じるとされている(図8,図9).歯質硬組織およびその周囲の歯周囲組織が口腔内常在菌の増殖場となると全身血流への細菌侵入路となる.

う蝕はおもに,グラム陽性通性嫌気性菌であるStreptococcus mutansをはじめとしたミュータンスレンサ球菌種によって引き起こされ624),歯周病は,Red complexと称される Porphyromonas gingivalis,Treponema

denticola,Tannerella forsythiaをはじめとした複数のグラム陰性偏性嫌気性菌種の混合感染によって引き起こされることが知られている625).

図8 にう蝕の進行(健全,C1~C4)を模式的に示す.歯の表層にStreptococcus mutansを含む歯垢が付着することで,う蝕の発症が始まる.歯垢中のミュータンスレンサ球菌は砂糖(スクロース)を代謝して酸を産生し,それによって表層のエナメル質の脱灰が生じて,う蝕が発生する.う蝕の進行が歯髄(神経血管および結合組織よりなる)に達すると,常時口腔細菌が血液中に侵入できるようになり歯髄が感染を起こすとともに,進行に伴い根尖(根の先)に壊死組織が集積した膿瘍を形成するようになる.また,う蝕がさらに進行して歯冠の崩壊にまで至ると,歯髄腔の露出は広範囲になり口腔細菌の血液中への侵入がさらに容易となる.

図9に歯周病の進行を模式的に示す.歯周組織は,歯肉(歯ぐき),歯を支える歯槽骨,歯根を覆うセメント質および歯槽骨とセメント質との間に存在する歯根膜から構成されている.歯周病は,これら歯周組織に発症し破壊が生じる疾患の総称であり,おもに歯肉炎と歯周炎に分けられる.健常な状態から歯肉炎の進行に伴って歯肉が強く腫脹し,仮性ポケットと称される見かけ上の歯と歯肉の隙間が形成される.この状態では歯ブラシの刺激などにより出血が生じ,口腔細菌が血液中に入ることが可能となる.さらに炎症が進行すると,歯肉と歯根との間を結合している上皮に破壊が生じて根の先に向かって破壊が進行することで,真性ポケットと称される隙間が形成される.このポケットの深化に伴い,より病原性の高い嫌気性菌が有意に増殖する環境が醸成され,ポケット内の環境に変化が生じる.そし

図8う蝕の進行と菌血症の発生

歯冠エナメル質口腔細菌

神経と血管が露出

生体内への細菌侵入リスク

口腔細菌象牙質歯髄腔

健全C1 C2

小大

C3 C4

根尖歯根
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て,炎症性変化あるいは細菌成分の直接作用により,上皮細胞が剥離脱落することで潰瘍が形成される.その結果,口腔細菌が常時血液中に入ることが可能になる.

4.2.2 菌血症の発生

口腔は常に細菌感染状態にある.したがって歯科疾患そのものが菌血症の原因であり,またその歯科疾患の治療の場が全身への感染の機会ともなりうるので,口腔の保清維持と歯科疾患の予防はきわめて重要である.菌血症を起こす歯科治療としては,出血を伴ったり,根管治療で根尖を越えるような侵襲的な歯科処置があげられ,そのうち抜歯が最もよく認識されている626).また,出血を伴う口腔外科処置やインプラント治療,歯石の除去(スケーリング)なども菌血症を誘発する処置として認識されている.さらに,感染根管治療(歯髄腔内や歯根の先の壊死組織を除去する処置)も菌血症を起こす処置の1 つとして考えられているが,抜髄(神経を取る処置)は歯髄腔への感染がないため,菌血症を伴う処置としては認識されていない.非感染部位からの歯肉への局所麻酔や,出血を伴わない充填(詰める)や修復(被せる)処置も菌血症を生じるリスクは低い626).デンタルエックス線撮影,歯科矯正処置,口唇・口腔粘膜の外傷処置も低リスクである.

一方で,日常生活における咀嚼やブラッシングでも出血することがあるため,菌血症が引き起こされうる627).口腔内の衛生状態が悪い場合は,より菌血症が引き起こされやすいと考えられている.したがって,日常より良好な口腔衛生状態を維持・管理することは菌血症の発症を抑制するうえできわめて重要である.そのためには,歯科医師や歯科衛生士による定期的かつ継続的な専門的口腔管理が効果的である.う蝕や歯周病に罹患して菌血症を引き起こす状態になっていても,自覚症状に乏しいため歯科受診されず,未治療のまま放置されている症例も存在するため,注

意が必要である.近年は,免疫低下を認める有病高齢者が顕著に増加しており,日常の口腔環境整備が重要性を増しているだけでなく,IEリスクを伴う循環器疾患の処置に際しての口腔内検査も欠かせない項目となっている.

菌血症が誘発される状態になると,口腔に存在するIEの原因菌が血液中に入る環境が整うことになる.原因菌のうち口腔由来のものとしては,口腔レンサ球菌種がほとんどであるとされている628, 629).主要な細菌として, Streptococcus sanguinis などのmitis groupのレンサ球菌種が知られているが,う蝕の原因菌であるmutans groupのレンサ球菌種であるStreptococcus mutans もその1つであることが報告されている630).一方で,IE患者の血液から主要な歯周病原性細菌種が分離されることはきわめて少なく,Aggregatibacter actinomycetemcomitansのような限られた菌種に関する報告が存在するだけである631).これは,血液中の酸素分圧が偏性嫌気性菌の生存には不利であることに起因していると考えられる.

小児領域において予防策を必要とする歯科処置は,いくつか特殊な点もあるが,基本的には成人における歯科処置と同様である632).一般的に,菌血症を起こす歯科処置として抜歯が最も考慮されるが,高度な歯根の吸収を伴っている乳歯の抜歯は永久歯の抜歯ほどの侵襲性はない.また,乳歯の自然脱落時に出血を伴うことがあるが,通常は菌血症が考慮されることはない633).小児領域における出血を伴う口腔外科手術や歯石除去などは菌血症を誘発する処置であると考えられるが,歯肉への局所麻酔や出血を伴わない充填(詰める),修復(被せる)処置は,菌血症を伴う処置としては認識されていない632, 633).一方で,乳歯で感染根管や歯髄処置を施した歯は,時間の経過とともに膿瘍を形成するリスクが高まるため,慎重な対応が必要である.

図9歯周病の進行と菌血症の発生

歯肉仮性ポケット

真性ポケット

セメント質

歯根膜歯槽骨口腔細菌口腔細菌口腔細菌

出血部位では毛細血管が露出歯周ポケット部に

毛細血管が露出

健全歯肉炎歯周炎
p.75
4.2.3 わが国の現状

わが国における予防的抗菌薬投与の現状を把握するために,2016年12月と2024年7月に兵庫県の歯科医師会の協力のもと,主に一般開業歯科医からなる会員に郵送方式でアンケート調査を行ったところ634, 635),歯科治療時にIEの予防目的で抗菌薬を投与するという回答は2016 年調査時は約半数,2024年調査時は約6割にとどまった.心疾患の既往があるすべての患者を予防投与の対象とする割合は,2016年の約2割から2024年には約4割に増加し,高リスク患者のみを対象とする割合は2016年の約8割から2024年には約5割に減少しており,予防投与の対象を広げる一般開業歯科医が増加していると考えられた.抗菌薬の投与方法として,いずれの調査でもほとんどの回答者が経口投与を選び,回答者のうちアモキシシリンを選択するという回答は,2016年調査は約6割で,2024年調査時には約9割に増加した.一方,いずれの調査でも,アモキシシリンの用量として,前版のガイドラインに準じて成人で2.0 gとしたのが約2割,小児で体重1 kgあたり50 mgとしたのは約1割にすぎなかった.また,予防投与の決定をするうえで参照するものとして,ガイドラインと回答が得られたのはいずれの調査でも約半数にすぎず,今後ガイドラインを歯科医師へ広く啓発していくことが必要と考えられた.

2017年3月と2024年5月に,日本小児歯科学会の協力のもと,主に小児歯科医からなる会員にインターネット方式でアンケート調査を行ったところ636, 637),IEのリスクとなる歯科処置に関する認識は,2回の調査でほぼ同様の結果が得られた.いずれの調査でも,回答者のほぼ全員が抜歯に関してIEのリスクとなる歯科処置と認識しており,歯周外科,インプラント処置,膿瘍切開に関しても,9割以上がリスクと認識していることが明らかになった.さらに,約7 ~9割が,ルートプレーニング(歯根表面の歯石などを取り除き表面を平滑にする処置),歯肉よりも歯根寄り(歯根側)に付着する歯石の除去,感染根管処置(歯髄腔内や歯根の先の壊死組織を除去する処置),抜髄(神経を取る処置)をリスクとなる処置としてあげていた.一方で,充填処置に関しては8 割ほどがリスクにならないと認識しており,歯肉よりも歯冠寄り(歯冠側)に付着する歯石の除去もリスクにならないという認識が約7 割を占めた.これらは,それぞれの処置が引き起こすと想定される菌血症の度合いをもとに考慮された結果と考えられる.

前述の日本小児歯科学会会員への2回のアンケートでは636, 637),歯科治療時にIEの予防目的で抗菌薬を投与するという回答が9 割を超えていた.また,その対象者として,心疾患の既往のある例すべてとしていたのが約2 割,高リ

スクの例のみとしていたのが約8 割で,2回のアンケートで大きな違いは認めなかった.抗菌薬に関して,約9 割がアモキシシリンの経口投与と回答し,そのうち約7 割が小児では体重1 kgあたり50 mgの用量としていることが2回のアンケートで示された.また,服用のタイミングとして, 2016年調査時には全体の約2割が処置1 時間前(術直前)のみとしていたが,2024年調査時には約6 割まで増加しており,ガイドラインの遵守率が高まっていると考えられた.予防投与に関する情報源に関して,日本循環器学会のガイドラインを知っていると答えた小児歯科医は2回のアンケートでともに約3/4ほどであり,一般開業歯科医に関するアンケート結果より高率であった634, 635).わが国における小児の新生児心疾患の有病率は約100人あたり1人とされており638),一般開業歯科医もIEの発症リスクを有する小児に遭遇する機会は多い.IEリスクを有するすべての小児が発症予防を念頭に置いた歯科治療を受けることができるように,ガイドラインのさらなる啓発活動が重要と考えられる.

4.2.4 抗菌薬投与量

IEが歯科処置による菌血症によって惹起されることは古くから指摘されてきた639).血液中に進入した細菌は肝臓など細網内皮系組織によりすみやかに血液中から除去され,多くは数分後に血液中から消失するため,「一過性の菌血症」とよばれる.歯科処置に伴う菌血症の発症率は,抜歯などではほぼ100%であり,歯石除去でも高率である625).咀嚼や歯ブラシ使用によっても発症する(表23)

626, 627, 640-644).

抜歯後菌血症の発症率は抗菌薬の投与によって減少することが知られている640).一方,IEモデルラットに抜歯を行ったところ,抗菌薬は抜歯後の菌血症には影響を与えなかったもののIEの発症を抑制したことから,抗菌薬の作用

表23 歯科処置による菌血症の発症率

歯科処置発症率(%)抜歯18~100智歯抜歯55スケーリング8~79歯周外科36~88感染根管処置42ラバーダム装着29ブラッシング23咀嚼38 (文献626,627,640-644より作表)
p.76
点は,細菌の付着能の抑制や付着した細菌の増殖阻止にあると推測される645).ヒトにおける同様の報告もなされており641),抜歯直後の菌血症を減少させるかどうかが,抗菌薬投与の種類や量を決定する唯一の根拠ではない.

IEから検出される細菌のうち,歯科処置時の予防対象となる細菌は口腔レンサ球菌である.口腔レンサ球菌は, anginosus group,mitis group,mutans group,salivarius groupなどに分類される.菌種としては,Streptococcus sanguinis,Streptococcus mutans などの検出率が高い.わが国において,歯性感染症から検出された口腔レンサ球菌のアモキシシリンに対するMIC90 は646),anginosus groupで0.25 μg/mL,mitis groupで0.5 μg/mLであり,経年的に薬剤感受性の低下がみられる.さらに, anginosus groupにはトレラント株(MICで発育は抑制されるが殺菌されない株),mitis group には低感受性株が存在する.一方,歯性感染症由来の口腔レンサ球菌において,クリンダマイシンのMIC90は64 μg/mLであるが,80%の株は0.125 μg/mL以下である.マクロライド系薬であるアジスロマイシンでは,MIC90は128 μg/mLと高く,感受性の累積曲線は2相的であり,高度耐性株がみられる.クラリスロマイシンでは,MIC90は128 μg/mL であり,高度耐性株が存在するものの,MIC80 は4 μg/mL,MIC50 は0.06 μg/mLである.

口腔レンサ球菌を対象とする予防投与として,感受性の点からはペニシリン系薬(アモキシシリン,アンピシリン)が第一選択である.ペニシリン系薬アレルギーの場合はマクロライド系薬(クラリスロマイシン,アジスロマイシン),クリンダマイシンを使用するが,薬剤感受性の点からは予防薬として完全ではなく,つねに低感受性株への注意が必要である.

抗菌薬の選択として,AHAは歯科医院で投与しやすいように経口薬の単回投与を推奨しており597),特に,経口投与でも筋肉内投与に匹敵する血液中濃度が得られ,さらにその効果が長時間維持できることからアモキシシリン2 gを推奨している.動物実験で,標的部位に付着した細菌の再増殖は6~9時間で生じるとの報告があることから,およそ9時間まで血中濃度の維持が求められている647).さらに欧州では,口腔レンサ球菌のトレラント株までカバーするためには10時間以上の血中濃度の持続が必要であり,そのためにはアモキシシリン3 g投与が必要であるとの主張もある648).以上のように,血中濃度のピークとともに持続時間が重視されることから,「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」では,アモキシシリン2 g経口投与とともにアンピシリン1 gの点滴静注も推奨されている649).歯科でよく使用されている経口セフェム系抗薬のうち,血中移行濃度が良好なものはセファレキシン,セ

ファクロルであるが,口腔レンサ球菌の感受性はすでに1990年代前半から低下している.一方,プロドラッグであるセフジトレン・ピボキシルなどは,口腔レンサ球菌の薬剤感受性は良好であるが,血中濃度が上がらず血中濃度および持続時間を確保できないことから,IE予防のための抗菌薬としては適切でない.Cefadroxilは現在日本では発売されていない.

本ガイドラインでは,基本的にはアモキシシリン2 gの術前1時間以内の経口単回投与を推奨した(表24).また,小児に対する抗菌薬の投与に関するエビデンスは不足しているが,経口投与可能な対象であればアモキシシリンを選択し,体重1 kgあたり50 mg(最大2 g)を処置1時間前に服用することを前版ガイドラインと同様に記載した.β-ラクタム系薬アレルギーの場合にはクリンダマイシン,クラリスロマイシン,アジスロマイシン,経口不可能な場合にはアンピシリン,セファゾリン,セフトリアキソン,クリンダマイシンを推奨した.何らかの理由でアモキシシリン2 g投与を減量する場合は,弁膜に付着した細菌の増殖を抑制するという薬理学的な根拠から,初回投与の5~6時間後にアモキシシリン500 mgの追加投与を考慮する.

しかしながら,抗菌薬の投与のみでIEを完全に予防できるわけではないため,その発症のリスクを少しでも下げるために,歯科処置の直前には,歯の清掃と含嗽薬等の使用により口腔内細菌を可能なかぎり減らしておくことも大切である.さらに,歯科処置後しばらくは原因不明の発熱や体調不良にも留意することも重要である.

4.3 歯科治療以外の処置

4.3.1 歯科・心血管治療以外の侵襲的治療における予防 的抗菌薬投与(表25)

予防的抗菌薬の投与法については,侵襲的処置を行う部位の常在菌を念頭に決定する.IEの原因菌の侵入口として同定されたうち,最も多いのは皮膚とされており(約4割),その6割が医療関連か薬剤常用によるものである596).特にアトピー性皮膚炎はブドウ球菌による菌血症をきたしやすいとされる650-652).また,皮膚疾患の処置は,IE発症リスクと関連すると報告されている594).IEの高リスク患者に対する皮膚疾患の侵襲的処置では,ブドウ球菌を念頭においた予防的抗菌薬投与を推奨する11, 591, 694, 653).耐性菌を除けば,アモキシシリンはブドウ球菌やレンサ球菌,肺炎球菌,腸球菌などに有効なため,基本的にはアモキシシリンを用いて予防的投与を行う.歯科治療前の予防的抗菌薬として
p.77
推奨されているアンピシリンについては,ブドウ球菌に対しては予防効果が期待できないため,ここでは推奨しない.また,β-ラクタム系薬アレルギーを有する例において歯科治療前で推奨されているマクロライド系薬に対しては,多くのブドウ球菌や腸球菌が耐性を示す.そのため,β-ラクタム系薬にアレルギーを有する例では,バンコマイシンあるいはテイコプラニンの点滴静静注を推奨する.耐性菌保菌例の予防的抗菌薬投与については,症例ごとに対応が異なることも多いため,必要に応じて感染症の専門家に相談することが必要である.

4.3.2 心血管の侵襲的治療における予防的抗菌薬投与 (推奨表18,表26)

人工弁や心血管内に人工物を植え込む手術,カテーテルによる人工弁植込み手技,ペースメーカや植込み型除細動器などのCEID植込み術を行うすべての患者では,感染とそれに伴う合併症のリスクが高いため,IEに対する予防的抗菌薬が推奨される594).予防的抗菌薬投与法以外のIE予

防に関する推奨度を推奨表18に提示する.セファゾリン1 gの静注が,ペースメーカ植込み後の局所あるいは全身の感染症を予防することがRCTで示されている654).術後早期の人工弁感染の最も多い原因菌は,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)と黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)である.待機的な心臓手術または経カテーテル人工弁植込み術の前に,鼻腔内MRSA保菌状態の術前スクリーニングを行い,特に保菌者にはMRSAによるIE発症リスクを念頭においた対応を行う.MRSA保菌者には局所ムピロシンおよびクロルヘキシジンを使用して治療することを推奨する海外の報告もある655, 656).鼻腔内MRSA保菌に対するムピロシンの鼻腔内投与については,わが国では保険適用が認められている.また,クロルヘキシジンは鼻腔など粘膜面への投与ができないため,清拭やシャワー浴を行う必要がある.緊急手術が必要な時には,遺伝子増幅法が迅速診断に有効である.緊急手術を除いては,歯科を

表24 歯科処置前の抗菌薬の標準的予防投与法

投与方法β - ラクタム系薬

アレルギー抗菌薬投与量(成人)投与量(小児)投与回数備考

経口投与可能なしアモキシシリン2 g *1, *2 50 mg/kg (最大 2 g)

単回処置1時間前あり

クリンダマイシン600 mg 20 mg/kg (最大 600 mg)アジスロマイシン500 mg 15 mg/kg (最大 500 mg)クラリスロマイシン400 mg 15 mg/kg (最大 400 mg)

経口投与不可能なしアンピシリン1~2 g 50 mg/kg (最大 2 g)単回

処置30分前に単回静注,または点滴静注セファゾリン1 g 50 mg/kg (最大 1 g)セフトリアキソン1 g 50 mg/kg (最大 1 g)

ありクリンダマイシン600 mg 20 mg/kg (最大 600 mg)単回処置30分前に点滴静注

*1または体重あたり30 mg/kg *2なんらかの理由でアモキシシリン2 g から減量する場合は,初回投与5~6 時間後にアモキシシリン500 mg の追加投与を考慮する

表25 歯科・心血管治療以外の観血的処置前の抗菌薬の標準的予防投与法(成人)

投与方法β - ラクタム系薬

アレルギー抗菌薬投与量投与回数備考

経口投与可能なしアモキシシリン2 g *1, * 2単回処置1時間前

経口投与不可能なしセファゾリン0.5~1 g単回手術開始30分以内に静注,または手術開始時から30分以上かけて点滴静注セフトリアキソン1~2 g

ありバンコマイシン15 mg/kg単回手術開始30分以内に静注,または手術開始時から30分以上(バンコマイシンは60分以上)かけて点滴静注テイコプラニン9~12 mg/kg

*1または体重あたり 30 mg / kg *2なんらかの理由でアモキシシリン2 gから減量する場合は,初回投与5~6時間後にアモキシシリン500 mgの追加投与を考慮する
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(M-TEERあるいはT-TEER)デバイスなどの治療手技では,IEの発生頻度を上昇させるという明確なエビデンスはない659, 660).しかし,こうした手技でもIEを発症すると予後不良であり,予防的抗菌薬の投与が必要と考えられる症例では考慮してもよい.

5 患者教育・啓発

IEの予防のためには患者への啓発が最も重要である.歯科治療の際にあたって,全例を対象に歯科医が的確に心疾患の有無をスクリーニングするのは難しいと思われる.そのため,IEの中等度または高度リスク患者には,歯科を含むすべての医療機関を受診する際にIEのリスクをもつことを自己申告するように指導すべきである.そのためには, IEとはどういう病気で.なぜ予防的抗菌薬投与が必要なのかについてよく理解してもらう必要がある.主治医は基礎心疾患名や,心臓内の人工物(パッチや人工弁・人工弁輪など),ペースメーカの有無について患者に告知する.主治医は口頭での説明に加えて,各患者のIEリスクとなる原疾患の診断名,IEがどのような病気でどのような症状が出るかなどに関する説明,予防的抗菌薬投与の必要性などについて記載された表27のような書類を患者に配布することが勧められる.

中等度または高度リスク患者には,発熱時の対応についても指導する.咽頭炎や上気道炎のようなウイルス感染であっても発熱は生じるが,一般的にこのような発熱は短期間で消失する.原因のはっきりしない発熱が数日以上持続する際には,IEを鑑別するために医療機関を受診するように指導する.発熱時の予防的抗菌薬服用については有用性が明らかではなく,また中途半端な抗菌薬服用はIEの症状をマスクし,血液培養での検出率を下げる可能性もあるため,この点に関して患者にも説明しておく.かかりつけ医がある場合は,これらの情報に関してかかりつけ医と共

受診して,可能なかぎり術前2週間前までに菌血症を起こす口腔内病変の治療を済ませておくことを推奨する. TAVIでは,ブドウ球菌および腸球菌Enterococcus faecalis感染の頻度が高く,特に腸球菌感染症は周術期に多く発生する657).腸球菌が原因菌として多い理由としては,大腿動脈アクセスを使用する際に鼠径部から菌血症を起こしている可能性がある563, 658).そのため,カテーテルの挿入および操作時には可能なかぎり術野は清潔操作で手技を行い,カテーテル室環境でも,可能なかぎり手術室と同様な清潔環境に保ったほうがよい.予防的抗菌薬投与方法としては,国際心血管感染症学会(ISCVID)は,腸球菌をカバーする予防的抗菌薬の使用を推奨している658).それに基づき,本ガイドラインでは表26に示す予防的抗菌薬の投与方法を推奨する.

現在のところ,心房中隔閉鎖デバイス,左心耳閉鎖デバイス,僧帽弁あるいは三尖弁の経皮的接合不全修復術

表26 心臓血管の侵襲的治療手技前の抗菌薬の標準的予防投与法(成人)

投与方法β - ラクタム系薬

アレルギー抗菌薬投与量投与回数備考

点滴静注なしアンピシリン・スルバクタム3 g単回

手術開始前120分以内(可能であれば60分以内)に点滴静注,または手術開始時から30分以上かけて点滴静注セファゾリン0.5~1 g

ありバンコマイシン15 mg/kg単回

手術開始前120分以内(可能であれば60分以内)に点滴静注,または手術開始時から30分以上(バンコマイシンは60分以上)かけて点滴静注テイコプラニン9~12 mg/kg

推奨表18  心血管の侵襲的治療におけるIE 予防(予防的抗

菌薬投与以外の方法)のための推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

待機的な心臓手術またはカテーテル人工弁留置術に,鼻腔内MRSA の術前スクリーニングを行うI A感染を予防するために,心臓内植込み手術の術野を至適な無菌状態として手技を行うI Bカテーテル挿入および操作時に,カテーテル室の環境を手術室と同様な標準無菌状態として手技を行うI C緊急手技を除き,人工弁やその他の心臓内または血管内デバイスの植込み前に,菌血症の原因となりうる病変(歯科を含む)の治療を,可能なかぎり2 週間前まで終えておくことを考慮するIIa C
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有することはきわめて重要である.

さらにIEの予防の観点から,日々の口腔や皮膚の衛生管理がきわめて重要である.適切な口腔衛生管理の方法に関する情報を収集し,う歯や歯周病の早期発見・早期治療が行えるように,主治医は患者に定期的な歯科受診を促す.

また,アトピー性皮膚炎はIEのリスクであり,発症すると重篤化する可能性が指摘されていることから,皮膚科で適切な治療を受けるよう指導する.

表27 感染性心内膜炎の高度リスク・中等度リスク患者に配布する説明書の例

あなたの心臓の病名は                       です.この病気の方は,感染性心内膜炎(かんせんせいしんないまくえん)という病気になる

リスクが通常よりも高くなります.以下に,感染性心内膜炎に関する説明と,あなたに知っておいてほしいポイントを挙げ

ていますので一度お読みください.

感染性心内膜炎について

心臓弁膜症や先天性心疾患の患者さんでは,心臓内の異常血流により心臓の内側を覆う膜(心内膜)に傷ができることがあります.傷ついた心内膜は細菌が付着しやすく,付着した細菌は増殖し,そこに感染巣が形成されます.この感染症を感染性心内膜炎と呼びます.感染性心内膜炎は,血液中に細菌が入り込むことが契機となって発症します.その原因は,抜歯など歯科治療により口腔内の細菌が侵入する場合,あるいは,扁桃腺手術,胆道や腸の手術,気管支鏡検査・生検,下部消化管内視鏡検査・生検,泌尿器科や婦人科領域での処置など手術や処置の際に侵入する場合などが考えられます.主な症状は発熱です.心不全や塞栓症などの合併がなければ,ほかに症状がないことも多く,風邪と診断されたものの,なかなか完治しないということがしばしばあります.心臓弁膜症や先天性心疾患の患者さんで原因不明の熱が持続するようなら,感染性心内膜炎を疑う必要があります.治療は,特定された細菌に有効な抗菌薬を長期間投与(通常1~2ヵ月)しますが,細菌による弁の破壊が強い場合など,緊急手術が必要になることもしばしばあります.まずは感染性心内膜炎にならないように予防すること,そして感染性心内膜炎になってしまっても,早期に診断し,早期に治療することが,その後の経過において非常に重要です.以下のポイントを知っておいていただければと思います.

感染性心内膜炎の予防および早期診断のためのポイント• 普段から正しい歯磨きで口腔内を清潔に保ち,虫歯は早めに治療しましょう. • 歯科受診の際には,心臓病を持っていることを歯科医に伝え,処置や抜歯の前に抗菌薬を

処方してもらいましょう. • 手術や外科的処置を受ける際には,心臓病を持っていることを主治医に伝え,術前や処置

前に抗菌薬を処方してもらいましょう. • 原因不明の熱が長く続くときは,循環器内科の主治医に相談しましょう.

(「第10章 市民・患者への情報提供」に再掲)
p.80
第8章 特殊な病態

1 先天性心疾患,小児領域のIE

1.1 総論

IEの発症率の報告はそう多くはないが,一般小児入院患者におけるIEの発症率は成人より低く,小児入院患者1000人に対して0.05~0.12人と報告されている409, 661).小児におけるIEの発症リスクとして,1先天性心疾患の存在,2先天性心疾患術後の血行動態異常および手術時に使用する人工弁やパッチなど人工物の存在,3手術時などでのカテーテル留置,4免疫防御機構の低下,5Staphylococcus aureus易感染性などがあげられる597, 632, 662-665).先天性心疾患を有する小児におけるIEの発症率は10万人年あたり41人と高く,小児のIE全体に占める先天性心疾患患者の割合は30 ~ 80%である6, 666-668).日本小児循環器学会が行った調査によれば632),先天性心疾患入院におけるIEの頻度は, 0.71%(291/41,151人)であり,その中でも成人先天性心疾患の頻度が高く,29%を占めた.調査対象が小児循環器疾患の専門施設が多いため,従来の報告より高くなっている.

ほとんどの未修復先天性心疾患はIEのリスクがあり,非修復心室中隔欠損は原疾患として最多で,修復術後リスクは低くなるが,残存短絡があるとリスクは大きくなる577, 632, 661).小児のIEの罹患部位は右心系が成人と比して多く(46.9%対6.3%),先天性心疾患がある小児では肺動脈弁の罹患が約半数である669).

小児期のIEの原因菌としては,S. aureus,緑色レンサ球菌(VGS),コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)の順に多く577, 632),S. aureus 感染が多いことが小児の特徴である577, 632).

小児のIE発症のリスクとしては,先天性心疾患の存在が大きいことは先述した.その中でも,左右シャントの存在や,チアノーゼ性心疾患か否か,手術前か手術後か,手術後でも修復術の術式,使用材料などさまざまなファクターがIEの発症リスクと関係する.各疾患別のリスクは後

述するが,人工血管を用いた手術や人工血管を用いた短絡術,人工弁置換後などが高リスクである670).

小児のIEについては,予防処置のあり方や治療法などが成人と異なり,多施設二重盲検試験などのデータが不十分で,倫理的にも対照群をおいた試験を行えないため,専門家の意見を採用している部分が多い.また,患者自身が自己管理するための自立教育などが,移行医療の面からも重要である.

1.1.1 基礎疾患別IEリスク

基礎心疾患別IEリスク(表28)には2つの意味がある. 1つはIEの発症率が高いという意味であり,もう1つはIEを発症した場合に合併症が生じやすく死亡率が高いという意味である.AHA ガイドラインでは664),後者のリスクが高い群を高度リスク群として定義し,高度リスク群のみに抗菌薬の予防投与を推奨している.一方,日本小児循環器学会による「小児心疾患と成人先天性心疾患における感染性心内膜炎の管理,治療と予防ガイドライン」632)では,基礎心疾患別IEリスクを高度,中等度,軽度の3つに分類し,発症しやすくかつ重篤化しやすい群を高度リスク群,発症しやすいが重篤化のリスクは低い群を中等度リスク群,疾患を有しない場合とリスクが同等な群を軽度(低)リスク群と定義している.つまり,軽度(低)リスク群以外はIE発症のリスクが高いことを意味する.そして同ガイドラインでは,高度リスク群,中等度リスク群に対し抗菌薬による予防を推奨している632).このようにAHAガイドラインとは異なる推奨とした理由は,日本の全国調査では歯科処置後に発症したIE患者の多くが中等度リスク群であったことによる.

本ガイドライン改訂では,日本小児循環器学会のリスク分類をほぼ踏襲し,歯科処置に際する予防的抗菌薬投与に関して,高度リスク群では強い推奨,中等度リスク群では弱い推奨とした(関連するシステマティック・レビューとして「CQ1 感染性心内膜炎発症リスクの高い患者に対する侵襲的歯科治療前の予防的抗菌薬投与は推奨されるか?」参照).
p.81
日本小児循環器学会が行った全国調査では,小児のIE症例170人中,基礎心疾患を認めないものが 23人(14%)含まれていた632, 670).したがって,原因のはっきりしない発熱では,基礎心疾患を有しない症例でもIEを鑑別診断として考慮することが望ましい.

心房中隔欠損は,多くの報告で術前術後とも発症が0に等しく,カテーテル手術での閉鎖も発症率がほぼ0であるとされており661),低リスク群としているが,近年,心房中隔欠損のIEが報告されており577),今後の動向をみる必要がある.

1.2 診断

1.2.1 症状

一般に症状の出現は緩徐であり,やや低めの長く続く発熱,倦怠感,筋肉痛や関節痛,体重減少,発汗などが現れる661).2023 Duke-ISCVID診断基準の小基準では38度以上の発熱になっているが,それより低い発熱であることも多い.ただし,これらの症状はIEに特異的なものではないため,先天性心疾患を有する児で上記の症状の組み合わせがある場合は,IEを念頭に検査を進めるべきである661).

また,上記の症状を伴い,新たに出現した心雑音がある場合はIEの可能性が高い.

1菌血症,2弁膜症,3免疫学的反応,4塞栓症の4つの症候が,小児のIEに関連していると考えられる.塞栓症は腹部血管,脳血管,心血管によくみられる.各臓器の虚血症状にも注意が必要である.稀ではあるが,脳血管に

細菌性動脈瘤が生じ,破裂出血する危険性がある.

急な高熱や,急速に状態が悪化するような場合は,原因菌がS. aureusである場合が多く,さらに急いで診断を確定して治療につなげる必要がある.治療に関しては別項で述べる.

1.2.2 診断基準の小児への適応について

診断には,修正Duke診断基準を使用するのが一般的である661).当初,Duke診断基準を作成したときに組み入れられた小児患者は少なく,特異性にやや問題があるとされていた661).しかし,修正Duke診断基準が小児の診断には80%以上の診断確度が得られたとの報告があり671),臨床で使用するには適しており632),現在も使用されている.微生物学的な診断技術や画像技術の向上が盛り込まれた2023 Duke-ISCVID診断基準での小児領域での診断率の改善については,今後の報告を待つ.

修正 Duke 診断基準の心エコー図所見には疣腫があるが,小児の場合疣腫を認めるのは63%にすぎず,心エコー図所見でIEを否定することはできない632).左室流出路の病変や大動脈弁周囲の病変を疑う場合は,小児でも経食道心エコー図が推奨される661).

血液培養は,フォーカス不明の発熱,新たに出現した病的心雑音,心疾患の既往,IEの既往の患者には施行すべきである.小児では大量の血液を数回も採血することは困難なので,年齢である程度の採血量が推奨されている661).血液培養のボトルや培養機器の種類にもよるが,一般的に,

表28 先天性心疾患,小児領域における基礎心疾患別感染性心内膜炎リスク

1 高度リスク群(感染しやすく,重篤化しやすい患者)

• 人工弁術後• 感染性心内膜炎の既往• 姑息的吻合術や人工血管使用例を含む未修復チアノーゼ型先天性心疾患• 手術,カテーテルを問わず人工材料を用いて修復した先天性心疾患で修復後6ヵ月以内• パッチ,人工材料を用いて修復したが,修復部分に遺残病変を伴う場合• 大動脈縮窄

2 中等度リスク群(必ずしも重篤とならないが,心内膜炎合併の可能性が高い患者)

• 高度,軽度リスク群を除く先天性心疾患(大動脈二尖弁を含む) • 閉塞性肥大型心筋症• 弁閉鎖不全を伴う僧帽弁逸脱症

3 低リスク群(感染の危険性が特になく,一般の人と同等の感染危険率とされる場合)

• 単独の二次孔型心房中隔欠損• 術後6ヵ月を経過し続発症を認めない心室中隔欠損もしくは動脈管開存• 冠動脈バイパス術後• 逆流を合併しない僧帽弁逸脱症• 生理的,機能性,もしくは無害性心雑音• 弁機能不全を伴わない川崎病の既往
p.82
新生児・乳児,年少児では1~3 mL,年長児では5~7 mLとされている661).中学生以上では成人の量に準じて採血をする.

1.3 治療

1.3.1 内科的治療(推奨表19)

IE診療においては,治療開始のわずかな遅れが心内外に大きな合併症をもたらす可能性があり,診断がつき次第速やかに治療を開始することが重要である.しかしながら,一方で原因菌の同定が治療には重要であることから全身状態を見極めながら治療開始を決定する.疣腫には抗菌薬が到達しにくいことから,高用量の抗菌薬を,再発を防ぐために長期間(4~6週間,原因菌などの条件により長短あり)投与することが必要である.小児における抗菌薬投与の推奨を推奨表19に示す.臨床経過により治療内容は適宜最適化することが必要である.成人では治療の一部あるいはすべてを経口抗菌薬で行うことで入院期間を短くする研究も行われているが,小児における有用性は明らかではない.推奨表19が原因菌別に作成されているように,血液培養の結果が重要となる.バンコマイシン,テイコプラニン,アミノグリコシド系薬などを投与する際には血中濃度モニタリングを行う.

培養結果未着で抗菌薬治療を開始する場合には,患者情報より原因菌を推定しつつ,広く可能性が考慮される病原微生物をカバーできる抗菌薬を選択する.

培養陰性の場合には,患児の状況から原因菌を推定して抗菌薬を選択する.日本小児循環器学会の調査では, 15.9%が培養陰性で,培養陰性全例で血液培養検体採取前に抗菌薬が投与されていた670).不明熱の患者における血液培養検体採取前の抗菌薬投与は,原因菌同定を困難にすることを認識しておく必要がある.培養陰性はこのほかに分離培養困難な原因菌の可能性もある.

口腔内処置に伴うことの多いレンサ球菌によるIEに対してはペニシリンGが第一選択となるが,血管痛・静脈炎などの問題があればアンピシリン,セフトリアキソンも選択可能である.ペニシリンやセフェム系薬にアレルギーの場合にはバンコマイシンが選択される.ペニシリン非感性レンサ球菌に対しては,ゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系薬を併用する(シナジー効果).人工材料が挿入されている場合には6週間の治療が望ましい.

ブドウ球菌に対する抗菌薬治療としては,メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)の場合には,セファゾリンが選択される.人工材料が挿入されている場合には6週間の投与とし,ゲンタマイシンを併用する.ゲンタマイシンは

2週間以上併用するが,AHAのステートメントでは腎障害・聴力障害を考慮して治療開始から3~5日の併用となっている661).メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対してはバンコマイシンが選択される.人工材料が挿入されている場合には6~8週間の投与が必要である.MRSAに適応がある抗菌薬としては,他にアルベカシン,テイコプラニン,ダプトマイシンがあるが,アルベカシン,テイコプラニンはIEに対する適応がなく(敗血症には適応がある),ダプトマイシンは右心系のIEに適応が限られており,また小児のIEに対する有効性・安全性は確認されていない.先天性心疾患では右心系のIEが比較的多く,成人先天性心疾患におけるMRSAによる右心系のIEにはよい適応となるのかもしれない.

HACEKは頻度が高くはないが,グラム陰性桿菌の中では比較的IEを引き起こすことの多い菌群である.病原性は低く,4週間の抗菌薬治療が行われる.HACEKグループ以外のグラム陰性桿菌によるIEは稀ではあるが,医療関連の感染として発症しやすい.耐性化していることも多く,治療は困難なことも多い.

真菌によるIEは医療行為に関連した感染が多い.原因真菌としてはCandida albicansが多い.アムホテリシンBリポソーム製剤で治療を開始するが,抗真菌薬のみでコントロールすることは困難で,常に外科的治療を考慮しながら診療する.

1.3.2 外科的治療

小児期および成人先天性心疾患のIEに対する外科的治療は,日本小児循環器学会の調査によればIE患者の26%に行われていることが報告されている672).小児期には人工弁置換を考慮する場合にサイズの問題があること,成人先天性心疾患ではその多くが手術既往例で人工材料が使用されている症例も多いことなどから,外科的治療にあたっては考慮しなければならないことが多くなる.外科手術適応としてうっ血性心不全,弁逆流の進行,塞栓などがあげられる.成人とは異なり,塞栓予防のための明確な手術適応に関するデータはない.他の早期手術を考慮すべき病態として,弁輪周囲膿瘍,真菌感染,(適切な抗菌薬治療にもかかわらず)持続血液培養陽性,人工材料の機能不全(弁機能障害,導管の閉塞など),バルサルバ洞破裂,感染性動脈瘤などがあげられる.

1.4 予防

IE予防の歴史的な経緯については第7章予防の4.1.予防
p.83
推奨表19 小児IE における抗菌薬の推奨とエビデンスレベル

原因菌抗菌薬ペニシリンアレルギーの

場合投与期間(培養陰性確認後の期間)推奨クラスエビデンス

レベル

レンサ球菌(ペニシリン感性)ペニシリンGまたはアンピシリンまたはセフトリアキソンバンコマイシン4週間人工材料挿入後は6週間

I B人工材料挿入後はゲンタマイシンを併用

ゲンタマイシン併用は2週間レンサ球菌(ペニシリン非感性)上記に+ゲンタマイシン

腸球菌アンピシリンまたはバンコマイシン上記に+ゲンタマイシンバンコマイシン4~6週間(人工材料挿入後は長く) I Cブドウ球菌(メチシリン感性)セファゾリンゲンタマイシン併用を考慮バンコマイシン4~6週間(人工材料挿入後は長く)ゲンタマイシン併用は2週間IIa C

ブドウ球菌(メチシリン耐性)バンコマイシンまたはテイコプラニン上記にゲンタマイシン併用を考慮またはダプトマイシン6週間人工材料挿入後は6~8週間

I Bゲンタマイシン併用は2週間6~8週間

HACEKグループ第三世代セフェムまたはアンピシリン+ゲンタマイシン4週間I C

HACEKグループ以外のグラム陰性桿菌原則的には感受性に従って,またはピペラシリン・タゾバクタムまたは広域セフェム+ゲンタマイシン(セフェピム,セフォタキシム,セフタ

ジジム,セフトリアキソン) 6週間IIb C

血液培養陰性例(術後,医療関連)バンコマイシンゲンタマイシン併用を考慮6週間ゲンタマイシン併用は2週間IIb C血液培養陰性例(市中感染)アンピシリン・スルバクタム+ゲンタマイシン4~6週間ゲンタマイシン併用は2週間IIb C

真菌アムホテリシンBリポソーム製剤8週間I Cアンピシリン50 mg/kg 1日4~6回ゲンタマイシン1~2.5 mg/kg 1日3回アンピシリン・スルバクタム

* 50 mg/kg 1日4~6回セファゾリン25 mg/kg 1日4回セフェピム

* 50 mg/kg 1日3回セフォタキシム50 mg/kg 1日4回セフタジジム50 mg/kg 1日3回セフトリアキソン

* 50 mg/kg 1日2回ピペラシリン・タゾバクタム

* 112.5 mg/kg 1日3回ダプトマイシン 6 mg/kg 1日1回(MRSAの場合6~10 mg/kg 1日1回) 保険収載上,成人では右心系のIEに適応,小児ではIE の適応なしテイコプラニン

* 10 mg/kgを12時間ごと3回 以降10 mg/kg 1日1回,新生児は初回16 mg/kg以降8 mg/kg/日 30分以上かけて点滴静注バンコマイシン15~20 mg/kg 1日4回(13歳未満) 1時間かけて点滴静注ペニシリンG 50万単位/kg 1日4~6回アムホテリシンBリポソーム製剤

* 2.5~5 mg/kg 1日1回

*保険収載上,成人・小児ともにIEの適応なしゲンタマイシン,バンコマイシン,テイコプラニンは治療薬物モニタリングに基づいて投与計画を立てることを推奨原則として成人量を超えない.ただし,臨床的に必要と判断された場合に分布容積などを勘案して成人量を超える投与を行う場合にはこの限りではないIE:感染性心内膜炎
p.84
的抗菌薬投与総論を参照いただきたい.小児においても,抗菌薬の予防投与は抜歯後の菌血症を減少させるという報告はあったものの,IE発症を減少させるという根拠がなかったことから,欧米では2000年代より予防投薬は高度リスク群に限定あるいは一切行わないという方針となった.このガイドライン変更により,当初は小児でもIE発症は増加していないと報告されたが673),その後の経過は第7章の記載どおりである.高度リスク群はIE発症率に加えて重篤度で規定された分類である.中等度リスク群にあたる心室中隔欠損に併発したIEの死亡率は,米国では1%と報告されているが,国内調査では3.8%と心臓手術の死亡率よりも高い632).また,国内調査では中等度リスク群での歯科処置後のIE発症を6%で認めており632),抗菌薬による予防の推奨は,このリスクをどのように考えるかとコストベネフィットおよび抗菌薬による有害事象を勘案して決定される.本ガイドラインでは,AHAの推奨する口腔内衛生を強調することに加えて,従来どおり低リスク群を除いた小児,成人先天性心疾患患者に予防的抗菌薬投与の推奨を継続する.

低リスク群に関しても検討が必要かもしれない.心房中隔欠損が低リスク群に分類されているが,近年増えてきた国規模のフォローアップ研究では,心房中隔欠損でも一般人口よりIE発症が多く,予後もよくないと報告されている576, 577).心房中隔欠損のカテーテル閉鎖後にIEが生じたという報告571)も散見され,その多くで外科的介入が必要となっていることも重要である.日本循環器学会の「2021年改訂版先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患に対するカテーテル治療のガイドライン」674)では,心房中隔欠損閉鎖術後6ヵ月以内の感染性心内膜炎予防が必要であると記載されているが,「2025年JCS/JSPCCSガイドラインフォーカスアップデート版学校心臓検診」675)のガイドライン解説の際には,もっと長い期間の予防が必要であろうというエキスパートオピニオンが紹介された.今後,データのさらなる蓄積が待たれる.

推奨表16に基礎疾患別IEリスクを示す.具体的な予防的抗菌薬投与法については,第7章予防の表24を参照いただきたい.

2 人工弁感染

人工弁感染性心内膜炎(PVE)における最適な治療法については依然として議論がある.一般的には自己弁感染性心内膜炎(NVE)と同様に心不全,治療抵抗性感染,塞栓リスクは手術適応と考えられる39, 186, 474, 676).弁置換後早期

(6ヵ月~1年以内)に発症したPVEは手術適応となる割合がやや高いと言われている677).黄色ブドウ球菌や真菌によるPVEは抗菌薬治療抵抗性である.特に,急速に進行する人工弁周囲逆流,瘻孔の形成,人工弁機能障害による心不全は,早期手術の絶対的な適応である186, 474, 678).手術適応があるにもかかわらず手術されなかった患者の病院死亡率は51%と,手術を施行した症例に比べて2.8倍になると報告されている677).また,523人のPVE患者を対象とした単一の研究では,早期手術によりPVEの1年生存率が改善したと報告されている679).そのため,手術適応がある症例では,手術リスクを考慮したうえで,早期に手術介入を行うことが推奨される.

しかし,人工弁感染の手術リスクは依然として非常に高く,約10~30%にも及ぶ577, 680-683).その原因として,再手術自体によるリスクのほか,弁輪周囲膿瘍や仮性瘤の合併が多いことなどがあげられる.したがって,心不全,重度の人工弁機能不全,膿瘍,または持続する発熱を伴う症例では救命的に手術治療が推奨されるものの,上記の絶対的手術適応がないPVEに関しては,手術リスクに応じて抗菌薬継続による内科的治療も検討の余地がある.実際に,大規模臨床研究において,手術の明確な適応がある患者群(弁逆流,疣腫,縫合不全や傍弁膿瘍・瘻孔形成を伴う患者)では手術が有益であった一方で,それ以外の症例では早期の人工弁再置換術は抗菌薬治療と比較して死亡率に差を認めなかったという報告もある474).

近年の大きく変化したこととして,AS患者に対するTAVI適応の拡大がある.PARTNER trialによるとTAVIとSAVRにおけるPVEの発症率に有意差はないとされているが,TAVIの適応拡大に伴い必然的にTAVI-PVEも今後増加してくることが懸念される684).実際にSTS databaseによると,2011年から2020年にかけて,TAVI-PVEに対する開胸外科手術は年1人から116人に増加している685). 2005年から2020年のTAVI-PVEの後ろ向き研究では, TAVI群350人と生体弁SAVR群200人を比較した結果, TAVI群はPVE発症までの期間がSAVR群より短く(12.3ヵ月 vs 50.8ヵ月),新規大動脈弁逆流(AR)の発症率はTAVI群が低いにもかかわらず(13.5% vs 43.4%),心不全発症率はほぼ変わらない(45.0% vs 42.6%)といった特徴があるとされる686).

もともとTAVIは高リスク症例に施行されることが多いが,TAVI-PVEに対する再弁置換術はさらに高リスクとされるため,手術適応は慎重に検討されるべきである. TAVI-PVE症例に対する手術施行率は文献的に0~33%と非常に低い112, 687, 688).また,手術が必要と判断された割合
p.85
はTAVI-PVEで53.7%であったにもかかわらず,実際の手術施行率は7.3%にとどまり,手術による予後改善効果も認めなかったとの報告もある682).TAVI-PVEに対する手術の有効性を検証した大規模な臨床研究はまだないが,小規模な臨床研究では,手術群と非手術群の死亡率には大差がなく,手術による予後改善効果は不明瞭とされる686, 689).その原因として,一般的にTAVI-PVE患者は患者背景が不良なこと,またTAVI弁の構造により拡大手術が必要となる症例が多いことなどがあげられる685. 690).上記の理由から,intermediate-high risk AS(TAVI 前STS score ≧ 4.0%)に対して施行されたTAVI-PVEに対して,開胸手術による再弁置換は侵襲が非常に高く,抗菌薬による内科的治療に対する有効性は示されていないと考えられる.しかし,現在TAVIがlow risk患者(TAVI前STS score<4.0%)にも広く行われるようになり,TAVI-PVE症例の患者背景も変化してくることが予想される.そのため,low-risk AS患者のTAVI-PVEに対しては開胸再弁置換手術が生存率を改善させる可能性もあり,IEチームによる慎重な検討のもとで治療方針を選択するべきである(推奨表20).

3 デバイス感染(ペースメーカ/ ICDなど)(推奨表21)

従来の心臓ペースメーカに加えて,心臓再同期療法(CRT)や植込み型除細動器(ICD)などのさまざまなCIEDの発達と普及により,治療の恩恵を受ける心疾患患者の数は増え続けている.一方で,それに伴いCIED感染も年々増加し続けている691).わが国の多施設共同研究によれば,感染の発症率はペースメーカで年間1.081%,それ以外のデバイスで1.375%であり692),海外からの報告でも植込み術後1年までの感染発症率は1%とされている693).

感染発症のリスクはデバイス関連,患者関連,手技関連の3因子に分類される. ペースメーカよりもICD,CRTが,植込むリードの本数が多いほうが高リスクであり,患者関連因子としては腎機能低下,心疾患,慢性閉塞性肺疾患,心房細動,免疫能低下,術前の発熱,テンポラリーペーシング,抗凝固薬内服があげられている.手技関連では術後の血腫形成,再手術,ベースメーカ電池交換等があげられる693-695).

CIED感染はしばしば重篤で致命的となることがあり,死亡率は約5%と予後不良である11).そのため,早期の診断と的確な治療方針の決定が重要である.特に,デバイス局所の感染なのか,あるいはリード感染やIEなのかなど,感染のフォーカスによって治療方針が異なるため,その同推奨表20 TAVI 患者の人工弁IE における手術適応の推奨

とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

IE チームにより再手術リスクの検討および手術適応の決定を行うI C TAVI-PVE 患者(TAVI 前Intermediate-high risk 群)に対する再弁置換術を考慮してもよいIIb C IE:感染性心内膜炎

推奨表21 デバイス関連IE の診断と治療の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

デバイス関連IE が疑われる際には,疣腫の有無の確認のために経胸壁心エコー図/ 経食道心エコー図を行うI Bデバイス関連IE に対しては抗菌薬投与を行うとともに,速やかにリードを含む全システム抜去を行うI B抗菌薬投与は少なくとも3 セットの血液培養を行った後に,メチシリン耐性ブドウ球菌およびグラム陰性菌に有効な薬剤を使用するI Cデバイス関連IE に対しリード抜去術を行った後にデバイスの再留置を行う際は,感染兆候が改善し,疣腫を認めない症例であれば血液培養が72 時間以上陰性であることを確認したのちに,疣腫を認める症例では2 週間抗菌薬投与を行ったのちに,当初の留置部位から離れた部位に留置するI C弁に感染を認め,リードに明らかな感染の波及が認められない場合は,原因菌と弁への手術適応の有無を検討しリード抜去術を考慮するIIa C適切な抗菌薬治療を行っても治療抵抗性あるいは再発性のグラム陽性球菌あるいは真菌血症を認め,デバイス関連IE が否定できない場合にはリード抜去術を考慮するIIa C敗血症性肺塞栓を認める,あるいは人工弁患者におけるデバイス関連IE の場合は,リード抜去術に引き続き4~6 週間の抗菌薬投与を行うことを考慮するIIa C適切な抗菌薬治療を行っても治療抵抗性あるいは再発性の感染巣不明のグラム陰性菌菌血症を認める場合にリード抜去を考慮してもよいIIb C IE:感染性心内膜炎
p.86
定は重要である.

3.1 定義

デバイス関連感染(CDRI)には,局所感染と全身感染があり,局所感染はさらに表層のみの感染(たとえば縫合部のみ)と感染が内部に波及する感染に分類される.全身感染には,デバイス植込み部位の感染の波及により生じる場合と,局所デバイス感染を伴わない場合がある.CDRIにおいてIEの定義を満たすものが心臓植込み型デバイス関連感染性心内膜炎(CDRIE)である11).2023 Duke- ISCVID診断基準17)では,小基準の素因として新しくCIED留置が追加された.

3.2 病態

デバイス感染は,植込み手術時のポケット感染,デバイスやリードが皮膚表面に露出し,そこから感染する経皮的感染と,デバイス以外の他の感染巣からの血行性感染による二次的なリード感染の2つの経路を有する.CDRIEも同様にポケット感染から波及する場合と他の感染巣から血行性に波及する場合が存在する.

CDRIEはデバイス感染症の中で最も重篤な状態である. CDRIEの疣腫は,血管内へ挿入されたリード,上大静脈,三尖弁,右房壁,右室壁のいずれの部位にも生じうる.また,疣腫形成に伴って敗血症性肺塞栓症がしばしば生じるが283, 284),無症候性であることも多い285).原因菌として最も多いのはブドウ球菌で,CDRIの半数以上を占めており,特にCoNSが多い696, 697).また,デバイス感染は複数の原因菌による混合感染であることがあり,原因菌の同定には注意を要する697-699).

3.3 診断

CDRIEは通常のIEに類似し,発熱,悪寒,塞栓症等の症状を呈する.デバイス留置部の感染から波及した場合には,留置部の腫脹,発赤,圧痛,排膿,本体あるいはリードの露出を伴う.大切なことは,CIEDを有する患者で不明熱を認めたら,CDRIを疑って精査をすることである.一方,デバイス感染を起こしても明らかな発熱を認めない例もある.特に高齢者では,しばしば発熱がはっきりしないことがあるため,血液検査の白血球数やCRP上昇にも注意する.また,敗血症性肺塞栓による呼吸器症状や胸痛で発症することもある.

CDRIEの診断の中心は,他のIEと同様に血液培養と心エコー図検査である.特に血液培養で黄色ブドウ球菌が検

出された際にはCDRIEを疑う必要がある700).心エコー図検査はリードに付着した疣腫,三尖弁への影響,右房または右室壁の疣腫の評価に有用であり,リード抜去後の経過観察にも有用である.他のIEではみられないCDRIEの特徴として,上大静脈内のリードに疣腫が付着していることがあるため,心窩部走査など 断面描出を工夫して疣腫を見落とさないよう注意する.また,デバイス植込み後症例では,リードのアーチファクトのために疣腫の評価が難しいことがあるため,可能なかぎり多断面から見落としのないように評価を行う.

一般に,経食道心エコー図検査(TEE)は,経胸壁心エコー図検査(TTE)よりもCDRIEの診断に優れているとされるが701-703),TEEでもリードの付着物が感染性か非感染性かを鑑別するのに限界があるとの報告もある704).心膜液や心機能評価はTTE のほうが優れており,場合によっては三尖弁の描出でもTTEのほうが良好な画像を得られることがある.TTEとTEEの両方を組み合わせて,多断面から見落としのない検査を行うことが推奨される. CDRIEが強く疑われる症例ではTTE,TEEを5~7日ごとに繰り返すことも診断に有用である.

一方で,この両者を用いてもアーチファクトのため疣腫を検出できない例や,疣腫が静脈内のリードにあるために十分評価できない例がある.このような場合には心腔内心エコー図検査が有用である.心腔内心エコー図検査はCDRIEの疣腫検出において,TEEよりも優れた感度を有することが報告されている705-707).CDRIEの疑いが強いにもかかわらず TTEやTEEで疣腫が検出できない症例では,心腔内心エコー図検査の施行を検討してもよい.

また,これらの心エコー図検査でも疣腫を検出できず,かつCDRIEが疑わしい場合は,標識白血球シンチグラフィ708, 709)や18F-FDG PET/CTが診断に有用である142, 710).リード先端の培養陽性はCDRIEを疑う根拠になるが,リード抜去時に皮膚や創部でコンタミネーションを起こすことがあるため,どうしても培養偽陽性の可能性が否定できない.しかし,こうした画像診断を用いることで,生体内におけるリードや心腔内における炎症の局在を評価することができ,より正確なCDRIE の診断が可能となる.

3.4 治療方針

CDRIEを含む心臓植込みデバイス感染症に対する治療の原則は,抗菌薬の継続的投与とリードを含むデバイスの完全抜去である711, 712).抗菌薬は血液培養を少なくとも3セット採取したのち,メチシリン耐性ブドウ球菌およびグ
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ラム陰性菌に有効な薬剤から開始し,培養の結果により適宜変更する.抗菌薬投与は,デバイス留置部の局所感染のみで血行感染のない場合や,血行感染のみでリードや弁に疣腫を認めない場合は最低2週間(黄色ブドウ球菌の場合は4週間を推奨),リードに疣腫を認める場合には最低2~ 4週間,弁に疣腫を認める場合には最低4~6週間である713).

リード感染を伴うデバイス関連感染症に対するシステム全抜去を伴わない保存的な加療は予後を悪化させる581, 714).デバイス感染症例が左心側に人工弁を有する場合は,リード抜去術を行い4~6週間の抗菌薬投与を行うと,左心側への感染の波及の抑制に有効な可能性がある715, 716).弁に感染を認めるもののリードに明らかな疣腫を伴わない場合にも,経静脈リード抜去術を検討すべきである. その判断には原因菌や手技のリスク,弁に対する手術適応の有無を考慮すべきである.明らかな感染巣がなく,適切な抗菌薬治療後の再発性あるいは持続性のグラム陽性球菌, Cutibacterium(Propionibacterium)acnes,または真菌血症症例では,疣腫を認めない場合でもリード抜去術を考慮すべきである(図10).原因菌が緑色レンサ球菌(VGS), β溶連菌,腸球菌の場合には,早期にリード抜去術を行うか,抗菌薬治療を継続し,菌血症が持続性あるいは再発性の場合にリード抜去術を行う.原因菌がグラム陰性菌あるいは肺炎球菌の場合には抗菌薬治療を継続し,菌血症が持続性あるいは再発性の場合にリード抜去術を行う713).

リード抜去術の適応に関しては,手技のリスク(リードの留置期間,ペーシングへの依存度,フレイルの有無, 併存疾患など)を総合的に検討し,十分な説明を行ったうえで判断する.

リード抜去術は遅滞なく施行する方が予後良好であることが報告されている714, 717, 718).経静脈リード抜去術は外科手術に比し侵襲度が低いが,致死的なタンポナーデや血管損傷のリスクがあるため,外科医のバックアップのもと,経験豊富な施設で行われるべきである.

サイズの大きい疣腫(たとえば20 mm以上)を認める場合,吸引が有効との報告もあるが,わが国では器具を使用できないため,外科的なリード抜去術を考慮する. 外科的抜去術を考慮すべき疣腫の大きさに関して定まった基準はない.

3.5 デバイス再留置術の時期

デバイス感染治療後の症例に再留置を行う際には,その必要性について再検討し,適応がない,あるいは低い場合には再留置をしないことも考慮する.再留置する部位は,当初の留置部位から離れた部位(対側など)が原則である.再留置の時期については,疣腫を認めない場合には術後72時間以上の血液培養陰性を確認したのち,疣腫を認める場合には2週間血液培養陰性を確認したのち,が推奨されている712, 713)が,明確なエビデンスには乏しい719).そのため,感染症状の有無,排菌源となる膿瘍の有無,原因菌等の背景を考慮し,再留置の時期を遅らせることも必要である.再留置するデバイスは,経静脈リードを使用しないリードレスペースメーカや皮下植込み型除細動器への変更が感染の再発予防に有効なことがある720, 721).

図10 明らかな感染巣を認めず抗菌薬治療に抵抗性・再発性の菌血症に対する経静脈リード抜去術の適応

グラム陽性球菌Cutibacterium spp. (旧Propionibacterium sp.)

真菌

緑色レンサ球菌

β溶連菌腸球菌属

グラム陰性菌

肺炎球菌

血液培養早期の経静脈リード抜去術

早期の経静脈リード抜去術

抗菌薬治療を継続し経過観察

経静脈リード抜去術

まず抗菌薬治療

リード抜去術

感染の重篤度により判断

抗菌薬抵抗性 or 再発性の場合

抗菌薬抵抗性 or 再発性の場合

or
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4 右心系のIE

右心系IEの割合は,IE全体の5~10%程度とされている85, 722, 723).右心系IEのリスクファクターには,先天性心疾患・血管留置カテーテル・CIED・免疫能低下状態・注射薬物使用(IDU)などが含まれる.右心系IEの原因として留置カテーテルや心臓植込みデバイスに関連したIEの頻度が最も多い.さらに,原因が先天性心疾患・CDRIE・注射薬物使用ではなく,左心系弁膜症も持たない群は‘three noes IE’と呼ばれる724-726).欧米では若年者の注射薬物使用によるIEは増加傾向であり,特にHIV感染などによる免疫能低下症例に多く727, 728),欧米と比較すると注射薬物使用者そのものが少ない日本でも,右心系IEを診断した際は注意して問診する必要がある(表29) 729).注射薬物使用者のIE発症率は地域差・収入較差があるとされており730),結果的に右心系IEは左心系IEと比較すると低所得者に起こりやすいとされているが,これもやはり地域差があると考えられる723).一方,‘three noes IE’は,先天性心疾患を除けば,腎機能障害や透析症例,糖尿病,癌,呼吸器疾患などの合併症を背景に持つ場合に多いとされており725, 726),注射薬物使用が欧米と比較すると少ない日本でも,施設ごとの患者層を把握したうえで診療する必要がある.

右心系IEにおける罹患弁は,日本の調査でも三尖弁が多く,肺動脈弁に罹患することは少ないが85),先天性心疾患の中で頻度が高い心室中隔欠損に合併する右心系IEでは,肺動脈弁が罹患する場合も多く,あくまで心内シャン

トや合併心奇形ごとに疣腫がつきやすいと考えられる部位を重点的に検索する必要がある.また,ユースタキアン弁・テベシウス弁やキアリ網などの心内構造物に疣腫が付着する場合もあり,さらに左心系IEを合併することも稀ではないため注意が必要である724, 731).原因菌としては, Staphylococcus aureus とCoNS が多く,Pseudomonas aeruginosaや他のグラム陰性桿菌732, 733),さらに真菌も認められる.特に,免疫能低下症例での真菌による右心系IEは致死率が高く,真菌感染は主に左心系IEに多いものの,右心系IEでもデバイス留置例では注意が必要である734).

4.1 右心系IEの診断

右心系IE症例は,発熱・敗血症・呼吸器症状(咳・胸痛など)で受診することが多い.右心不全は主に三尖弁逆流症または肺動脈弁逆流症により引き起こされることが多く,肺高血圧は肺における多数のseptic emboliにより生じることがある.

診断は,左心系IEと同様心エコー図検査による疣腫の検出が鍵となる.主に三尖弁に付着することが多いが,あくまで心内シャントや合併心奇形によるため,患者背景を考慮したうえで検査を施行する必要がある.左心系IEと比較すると,経胸壁心エコー図検査の重要度はさらに高く,上大静脈~右房内の評価はTEE検査が優れるが,右室内や肺動脈弁の評価はTTE検査のほうがしやすい症例もあるため,あくまで両者を組み合わせて疣腫を評価することが望ましい.CTは通常肺のseptic emboliを評価するために有用であり,septic emboliによる肺塞栓・膿瘍形成も含

表29 主要な国の薬物別生涯経験率

国別調査年対象年齢生涯経験率(%)

大麻覚醒剤MDMAコカインヘロイン

ドイツ2012 18~64歳23.1 3.1 2.7 3.4 –フランス2014 15~64歳40.9 2.2 4.2 5.4 –イタリア2014 15~64歳31.9 2.8 3.1 7.6 –イギリス2014 15~64歳29.2 10.3 9.2 9.8 –アメリカ2014 12歳以上44.2 4.9 6.6 14.8 1.8カナダ2012 15歳以上41.5 4.8 4.4 7.3 0.5日本2017 15~64歳1.4 0.5 0.2 0.3 –ドイツ・フランス・イタリア・イギリスの数値はEMCDDA(欧州薬物・薬物依存監視センター)資料をもとに作成アメリカの数値はNSDUH(National Survey on Drug Use and Health)資料をもとに作成カナダの数値はCADUMS(Canadian Alcohol and Drug Use Monitoring Survey)資料をもとに作成日本の数値は,平成29年度厚生労働科学研究「薬物使用に関する全国住民調査(2017年)」資料より(厚生労働省.現在の薬物乱用の状況729)より)
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め右心系IEが疑われる症例では同時に肺の合併症を評価する必要がある.CDRIE疑いや肺動脈弁位人工弁置換術後症例における18F-FDG PET/CTは,IE診断において有用である場合がある735, 736).

4.2 右心系IEの予後と治療

右心系IEの予後は左心系IEと比較するとよいとされており,90%近くの症例で薬物治療が奏功するが,肺膿瘍などが多発し薬物治療の継続が困難と判断された場合に手術が考慮される732).左心系IEと比較して予後がよい理由としては,若年発症が多いこと,低圧系の右心で発症する三尖弁逆流症が全身の血行動態に及ぼす影響が高圧系の左心で発症する僧帽弁逆流症や大動脈弁逆流症と比較して小さいこと,塞栓症を肺のみに発症し全身塞栓のリスクが低いこと,弁輪周囲膿瘍をきたしにくいこと,薬剤抵抗性感染が少ないことがあげられる33, 737, 738).右心系IEの中でもCDRIEの予後は,non-CDRIEと比較して悪いとされており,これは診断が遅れやすいことが主な原因と考えられている542, 722).また,高度の免疫能低下症例における右心系IEの予後は悪く,特に真菌感染を合併した際はきわめて予後が悪い739).

4.2.1 内科的治療

右心系IEの原因菌は,S. aureusとCoNSが多く,留置デバイス感染では特にCoNSが多い.よって,エンピリカルな治療を行う場合は,必ず黄色ブドウ球菌はカバーする.近年,MRSAによる市中感染も増加し,黄色ブドウ球菌の中でMRSAが占める割合も増加しているため85),院内感染IEやエンピリカルな治療を行う場合はMRSAもカバーしたほうがよく,バンコマイシンやダプトマイシンを使用する.また,MRSAと判明した場合はゲンタマイシンも併用する.P. aeruginosaや他のグラム陰性桿菌をカバーするかどうかは患者背景によるが,免疫能低下症例ではCandida albicansをはじめとする真菌感染を発症することもあり,治療薬が大きく異なるため,右心系IE特有の患者背景と発症しうる原因菌を常に頭に入れて治療しなければならない.

4.2.2 外科手術(推奨表22)

右心系IEでは内科的治療(薬物治療)が優先される場合が多く,外科手術を最優先に考える場合はほとんどない.適切な抗菌薬治療を受けた右心系IE症例が外科手術を考慮する場合は次のとおりである:

1 繰り返す肺塞栓により人工呼吸管理を必要とする呼吸不全541)

2 左心系IE合併例527, 739)

3 疣腫による肺塞栓を繰り返した後も巨大疣腫が残存す

る場合(>20 mm) 35, 196)

4 利尿薬に反応性が乏しい急性三尖弁逆流症に伴う重症

右室機能不全543)

5 1週間以上適切な抗菌薬治療を行っても菌血症が持続す

る740)個々の症例において内科・外科合同チームでディスカッションのうえ決定されるべきあり,単独疣腫のみでは手術適応とは決してならず,抗菌薬治療が優先される.

三尖弁における手術は主に弁形成術または弁置換術が施行されるが,IEの再発や再手術の必要性という観点からも,弁置換術よりも弁形成術のほうが成績がよい542, 543, 722, 741).よって,形成が不可能であるほどに弁破壊が進行していなければ,弁形成術が優先される.弁置換術を施行する場合は,機械弁よりも生体弁を使用することが推奨される.また,

推奨表22 右心系IE における外科的治療の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

右心系のIE では,まずは適切な抗菌薬治療を行って経過観察を行うI B右心系IE に対する外科的治療は,適切な抗菌薬治療を行ったうえで,下記のような場合に適応を検討する抗菌薬投与後も疣腫が残存し,繰り返す肺塞栓により人工呼吸管理を必要とする呼吸不全に外科的治療を行う541) I B

左心系IE 合併例に外科的治療を行う527, 739) I C利尿薬に反応性が乏しい急性重症三尖弁逆流症に伴う重症右室機能不全に外科的治療を行う543) I B疣腫による肺塞栓を繰り返した後も巨大疣腫(>20 mm) が残存する場合に外科的治療を考慮する35, 196) IIa C 1 週間以上適切な抗菌薬治療を行っても菌血症が持続する場合に外科的治療を考慮する 740) IIa C三尖弁に対して手術介入する場合,可能なかぎり弁置換術より弁形成術を考慮する 542, 543, 722, 741) IIa B三尖弁に対して手術介入する場合(主に弁置換術),予防的な心外膜リードの留置を考慮してもよい732) IIb C IE:感染性心内膜炎
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右心系IEに対して三尖弁手術(主に弁置換術)を施行する際,特に術中に房室ブロックが生じた症例では,経静脈リードによる弁の損傷・可動制限や再感染リスクを低減するために,心外膜リードの留置を考慮する732).

5 妊娠中のIE

IEの妊娠中の発症率はきわめて稀で0.01%未満である742).一方,心血管疾患合併妊娠症例における産科的合併症発症率は1~4%とされ,母体死亡原因の25%を占める743).IEは妊娠中にも出産後にも生じうる.妊婦の死亡率が高いことから,妊婦でIEが疑われた場合には,積極的な診断と早期の手術が検討されるべきである.

現在,IEを発症した妊婦にさまざまな影響を与える課題は,標準的な抗菌薬に耐性のある細菌の出現,心臓内デバイスや静脈内薬物投与などの「現代的な」リスク要因の増加,院内感染の増加などである598, 744).妊婦におけるIE発症の危険因子は一般集団のものと似ており,主な病因は静脈内薬剤投与,先天性心疾患,リウマチ性心疾患の3つである745, 746).先天性心疾患患者の0.5%が妊娠中にIEを発症する747).弁損傷に関しては,周産期IE患者90人に関するシステマティック・レビュー748)が報告されている.その報告によれば,最も多い30%の症例で僧帽弁損傷が,次いで25.6%の症例で三尖弁損傷が見られるとされる.大動脈弁にIEが関与している症例は少数(17.8%)で,肺動脈弁ではさらにその約半分(7.8%)で,患者の12%で複数の弁の同時損傷があったとされる.

IEの妊婦に対する抗菌薬治療では,症例によって個別化された薬剤を迅速に開始して長期継続することが必要で,さらに多剤併用となることが多い749).特定の抗菌薬の胎児毒性効果には特別な注意を払う必要がある750).抗菌薬は,妊娠中投与における安全性に応じて,いくつかのカテゴリに分類される.ペニシリン,アンピシリン,アモキシシリン,セフェム,およびエリスロマイシンは胎児に毒性効果がなく,臨床ガイドラインに従って妊娠IEの患者にすべての妊娠期間で投与可能である.アミノグリコシド系薬,フルオロキノロン系薬,およびテトラサイクリンについては,関連するリスクを考慮して,母親の予後が不確かな重症例に使用することが推奨される.バンコマイシン,テイコプラニン,イミペネム,リファンピシンについては胎児への影響を排除できないため,同様の注意深い判断が必要である747).

母体のIEが疑われる場合はできるだけ早期に抗菌薬治療を開始するが,妊娠中は感染がコントロールされるまで

手術を延期することが推奨される.母体の塞栓症のリスクなど,母体と胎児の両方にとってリスクが高い状況では,必要に応じて手術適応を検討する750).妊娠週数が早い時期に行われる手術は母体のリスクは低いが,胎児の合併症が多いと報告されている751).母体のIEに対する外科手術では,胎児が発育不十分なことに関連する死亡のリスクが高いため,妊娠24週未満で行うことは推奨されず,可能なかぎり妊娠28週以降に手術を行うことが推奨される752).

原因にかかわらず妊婦がIEを発症すると,迅速で適切な管理が行われない場合,複数の合併症により胎児の短期および中期の死亡リスクも高くなる746).IE患者の半数以上が予定日前に出産し,平均妊娠週数は32週である753).これまでの研究は少数例の検討が多いため,IEに罹患した妊婦における新生児の予後に関するデータは不十分である754).

IEに罹患した妊娠患者の50~60%が何らかの心不全を発症する755).IEに罹患した382人の妊婦を対象とした最近の分析では,主な産後合併症として脳血管血栓症(23.7%),消化管出血(11.9%),産科血栓(12.9%)が報告されている756).帝王切開が行われた患者の割合は,IEのない妊婦のコホートと比較して高くなっている(56.1%対32.2%) 756).Hubertら222)による脳塞栓症の高リスク症例を予測するアルゴリズムでは,年齢,糖尿病,心房細動,抗菌薬投与前の塞栓症,疣腫の長さ,原因菌として黄色ブドウ球菌の6因子があげられている.塞栓症のリスクが最も高いのは,診断後1週間目である744, 757).

妊娠中のIEは,平均妊娠週数32週で死産(調整相対リスク2.96)または早産(調整相対リスク3.61)のリスクを高める756).早産はさまざまな胎児合併症を伴い,一般的なものは低出生体重,出生時の低APGARスコア,呼吸窮迫症候群,脳室内出血である758-760).新生児の約半数が集中治療室での長期入院を必要とする臨床データもある758).

妊娠のIEの手術の適応は,急性弁逆流症,大きな疣腫,敗血症,心不全である761).合併症リスクとして人工心肺(cardiopulmonary bypass: CPB)が胎児に及ぼす悪影響と,特にワルファリンなどの血管作動薬に関連する副作用が懸念される762).心臓手術は可能なかぎり出産後6週間まで延期し,それが不可能な場合は妊娠13~28週の間の妊娠中期に心臓手術を行うことを推奨する報告がある763, 764).

人工心肺は手術の最大の課題であり,死亡リスクを最小限に抑えるために手術前に帝王切開を行うことを推奨する報告もあるが,死亡リスクは15%にも達することがあるとされる765).

IEは,母体と胎児の両方の死亡リスクの上昇と関連して
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おり,妊娠中の心臓手術は,胎児の妊娠週数や手術前の帝王切開の有無にかかわらず,最大7%の高い母体死亡率と関連している763).一般に,手術前に帝王切開で出産した場合,帝王切開をしない場合よりも胎児生存率は優れている763).死亡リスクが最も高いのは,妊娠週数26週未満の胎児であると報告されている766).死亡率は妊婦のIE病変の位置によって異なり,大動脈弁では約40%,僧帽弁では22%,三尖弁では10%である761).心臓手術に関しては,母体死亡率と胎児死亡率の間に正比例関係がある.したがって,母体死亡のリスクが第2トリメスター(4.6%)では最小限で,第3トリメスター(8.8%)で2倍になるが,胎児死亡のリスクは妊娠期間が長くなるにつれて減少し,妊娠最初の数週間の45%と比較して第3トリメスターでは29%に達する.弁置換術前の帝王切開では胎児のリスクが最も低い(6.7%)が,母親については第3トリメスターの既存の統計データと比較して有意差は報告されていない(8.8%対8.3%) 763).分野横断的なチームで妊娠中のIE症例の治療方針や外科的介入の適応を決めることが重要であるが,適切に抗菌薬治療や手術適応,手術時期を選択して母体死亡率を減らすためには,今後取り組むべき課題は多い.

6 高齢者IE

一般人口におけるIEの頻度は継続的に増加しており,欧州での疫学研究767)によれば,IEの増加の理由として医療処置の数の増加26),心内デバイス(ペースメーカやICDなど)や人工弁使用の増加767)に加え,高齢患者の着実な増加616, 768)が示唆されている.IE症例の最大25%は医療関連感染とみなされており383),医療サービスをうける機会の多い高齢者の増加はIE増加の一因になっていると考えられる.実際に高齢者IE は増加傾向にあり769),80代も稀ではなく,この年齢層でもIE発症が増加している770).一般的にIEの約25~30%が外科的治療の適応と考えられるが, 65歳未満の症例では46%の症例で手術が実施されているのに対し,65~79歳では29%,80歳以上では5.8%が手術を受けているにとどまる767).

高齢者IEの特徴としては,男性がやや優位で, Staphylococcus aureus感染や医療関連IEが多い769)ことがあげられる.80歳以上のIE患者を対象とした研究では,腸球菌が原因菌として最も多く,腸管に常在するStreptococcus gallolyticusの分離頻度も高いことが報告されている770).高齢患者はデバイスや人工弁などの人工物が植込まれていることが多いが,腸管や尿路感染が原因菌

の侵入門戸となりやすい傾向があるため28, 770),感染経路として腸管や尿路系の積極的なスクリーニングを行うべきである.脊椎炎の合併も多く,さらに年齢が上昇するにつれ増える傾向にある770).また,症状が非典型的なことから診断が遅れることも多いため,少しでも疑わしい場合は血液培養や心エコー図検査を積極的に行うべきである.疣腫は小さいことが多く,塞栓症の合併は少ないとされる771).画像検査では弁の石灰化のために心エコー図検査で見えにくいこともしばしばである.

高齢者のIEでは,疣腫が小さいうえに膿瘍を合併しやすいとの報告もあることから,TTEに比べTEEがより有用であるともいえる26).TEEはIEの診断感度が高いが,高齢患者ではデバイスや人工弁など心内異物が存在する場合でも必ずしも実施されていないのが実情である772).また,高齢者では腎機能が悪いため造影剤を用いたCTは困難なことも多く,そのような場合には腹部エコーや頭部MRI で代用する771).

治療においては,腎機能障害のため抗菌薬の副作用発現頻度が高い773).薬剤濃度が安定しないことが多く,多剤を服用しているために薬剤の相互作用も予想される.腎機能障害や認知機能障害を合併することもあり,手術適応があっても手術を実施しない例も多い.高齢者と非高齢者のあいだで院内予後はほぼ同等であるが,高齢者では合併症が多いため退院後の予後は悪い26, 770, 773).手術適応があるにもかかわらず手術を行わなかった例では死亡率が劇的に高くなり,手術を施行できた症例の予後は良好である.フレイルの度合いが低い症例では,高齢であったとしても,適応に応じて手術をすることで予後が改善できる可能性がある770, 774).

このように,高齢者IEでは認知機能,フレイルの程度,さまざまな合併症の多くの問題を抱えていることが多いため,多職種IEチームで十分に検討し,手術可能な適応のある症例には十分な術前評価を行って手術に臨む必要がある.

7 人工血管感染(グラフト感染)

7.1 定義,病態

大動脈瘤に対する侵襲的治療は,外科手術として人工血管置換術,血管内治療としてステントグラフト内挿術が
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ある.大動脈瘤の部位,性状,患者背景などを鑑みて,外科的手術,血管内治療,またはそれらを組み合わせたハイブリッド治療が行われる.社会の高齢化とともに大動脈疾患は増加しているが,低侵襲治療の進歩に伴い,治療件数は増加している.人工血管またはステントグラフトの感染の頻度は0.5~4%と多くないものの死亡率が高く775),注意が必要である.

人工血管感染は,早期(治療後4ヵ月以内),晩期(治療後4ヵ月から数年後)に分けて定義されることがある776).早期の感染は,主に周術期の感染が原因と考えられる.人工血管が周囲の組織に定着していない時期であり,画像評価において手術後の炎症と感染を判別しにくい時期である.早期の感染経路は,手術施行時の直接の感染,創部感染の波及,周術期の他の感染(尿路感染,呼吸器感染,歯周感染など)による菌血症などがある.原因となる細菌は主にブドウ球菌などのグラム陽性菌であるが777),人工血管感染により消化管と瘻孔を形成する場合にグラム陰性菌や嫌気性菌などの混合感染であることもある.

7.2 危険因子

危険因子として,周術期では,術前の長期入院,尿路感染,蜂窩織炎などの感染症罹患状態,緊急手術や再手術,手術時間の延長,術後の感染症や人工血管の血栓などがある.また,感染症の一般的な危険因子と同様に,悪性腫瘍,ステロイド治療,化学療法,または肝硬変,末期腎臓病,コントロール不良の糖尿病,栄養失調などの免疫力の

低下は,危険因子となる778).

7.3 診断

人工血管感染は,症状,検査,培養,および画像の所見の組み合わせに基づいて診断される.人工血管感染の診断基準にMAGIC診断基準がある(表30) 775).1つの主要基準に加え別のカテゴリーの主要基準/副基準がある場合:確診例,1つの主要基準または異なる2つ以上の副基準がある場合:疑い例とする.MAGIC 基準は,人工血管感染が明らかな患者および疑いのある患者を対象とした前向きコホート研究で検証され,感度は99%,特異度は61%であった779).

症状は,菌血症に伴う発熱,倦怠感などの全身症状が主である.局所の症状は乏しいことが多いが,創感染に伴う創部の痛み,腫脹,大動脈瘤形成に伴う腹痛,血栓形成に伴う下肢虚血の症状,腸管との瘻孔形成に伴う消化管出血などがある.血液検査所見としては,白血球,CRP,血沈,プロカルシトニンなどの感染,菌血症に伴う炎症マーカーが上昇する.

血液培養は,人工血管感染が疑われる場合は必ず実施する.培養での検出率を向上させるために,血液培養は抗菌薬を投与する前の実施が推奨される.抗菌薬投与後であったり検体量が不十分であったりするため,人工血管感染の17%で血液培養が陰性であったという報告がある780).

表30 人工血管感染のMAGIC 診断基準

臨床・外科所見画像所見検査所見

主要基

準・ 手術時に人工血管周囲または動脈瘤嚢

内に排膿 (培養で確認)・ 露出した人工血管または交通性洞を伴う開放創・ 瘻孔の発生(例:大動脈腸管瘻または大動脈気管支瘻)・ 感染部位(瘻孔,真菌性動脈瘤,感染

性偽動脈瘤など)への人工血管挿入・ 術後3ヵ月以上のCTで人工血管周囲の

液貯留・ CTで術後7週間以上経過した人工血管周囲ガス所見・ 連続画像で示された人工血管周囲のガ

ス量の増加・ 摘出された人工血管から検出された細

菌・ 手術中の検体から検出された細菌・ 経皮的に人工血管周囲の液の吸引から

検出された細菌

副基準・ 大動脈人工血管感染の局所的な臨床症

状(紅斑,熱感,腫れ,膿性分泌物,疼痛など)・ 38°C以上の発熱があり,大動脈人工血

管感染が原因である可能性が高い・ 主要基準以外の,疑わしい人工血管周

囲のガス/液体/軟部組織の炎症,動脈瘤の拡大,仮性動脈瘤の形成,局所的な腸壁の肥厚,椎間板炎/骨髄炎, PET/CTでの疑わしい代謝活動,放射性標識白血球の取り込み・ 血液培養が陽性で,大動脈人工血管感

染以外に明らかな原因がない・ 大動脈人工血管感染が原因と考えられ

る炎症マーカーの上昇(赤血球沈降速度,CRP,白血球など)

1つの主要基準に加え別のカテゴリーの主要基準/副基準がある場合:確診例.1つの主要基準または異なる2つ以上の副基準がある場合:疑い例とする(Lyons OT, et al. 2016 775)より) Lyons OT, et al. Diagnosis of aortic graft infection: A case definition by the Management of Aortic Graft Infection Collaboration (MAGIC). Eur J Vasc Endovasc Surg 2016; 52: 758-763. licensed under CC BY-NC-ND 4.0
p.93
血液培養が陰性であるが感染を強く疑う場合には,CTガイド下で人工血管周囲の液体の穿刺培養を行うこともある.

人工血管感染を診断するための画像としては,造影CT, MRI, 18F-FDG PET/CTなどがある.造影CTは,人工血管感染を評価するために最初に行われる画像診断法である.造影CTでは,人工血管や吻合部,動脈瘤形成,周囲の軟部組織の変化,液貯留,ガス,膿瘍形成,仮性動脈瘤,隣接する腸肥厚,瘻孔形成などを観察することができる.晩期の人工血管感染では診断と治療計画に有用で,造影CTで診断がつけば,追加の画像評価は不要となる.一方で,早期の人工血管感染の場合,造影CTでは決定的な結果が得られない場合がある.外科的手術後,特に最初の6~8週間以内の場合,周囲の軟部組織の変化や液貯留,ガスの存在などは,術後の変化と感染を区別するのが難しい.ステントグラフトの場合,動脈瘤嚢内にガスが観察されることがある.通常,最初の数週間以内に自然に解消されるが,6~8週間を超えた動脈瘤嚢内のガスの存在は,感染の可能性を検討する必要がある.

MRIは,人工血管感染の診断で陽性的中率は95%,陰性的中率は80%という報告がある781).MRIでは組織の特性評価が可能になるが,一方でCTと同様に術後早期の炎症と感染を判別することはできない.また,MRIではアーチファクトもあるため造影CTを上回るメリットはあまりないが,造影CTを施行できない場合の代替となりうる.

18F-FDG PET/CTは,造影CTで判断ができない場合に有用である.特に術後早期の炎症と感染を判別できる可能性がある.炎症では直線的,びまん性,均質な取り込みを示し,感染では局所的にまだらな取り込みを示す782). 18F-FDG PET/CTは感度95%,特異度80%という報告がある783).

7.4 治療,手術適応

治療の基本は,抗菌薬投与と,可能なかぎりの人工血管を含めた感染組織の除去である.

抗菌薬は,想定しうる原因菌(ブドウ球菌が多い)に対してエンピリックに開始する.培養陽性となれば,その細菌に感受性のあるものを使用する.治療期間については定まっていないが,人工弁感染性心内膜炎に準じて,感染組織をすべて除去しえた場合には4~6週間程度となることが多い778).

手術は,人工血管を含めた感染組織の除去,そして新しい人工血管による再建となるため,手術リスクが高く,手術が困難であると判断されることも多い.この場合は,生涯にわたる抗菌薬の投与が検討される.

手術の方法として,リファンピシン浸漬グラフトの使用や大網充填が行われることがある.リファンピシン浸漬グラフトは,グラム陽性菌に有効で再感染率は約11%であるが,MRSA,グラム陰性菌,真菌による感染には効果が低い778).大網は血管新生から感染部位への血流を増加させることにより抗菌薬の効果を増強し,豊富なリンパ組織により再感染の危険性を減少させる可能性がある784).十分な大網採取が不可能な場合は,広背筋や大胸筋など骨格筋の有茎皮弁が用いられることもある.

8 非細菌性血栓性心内膜炎

非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)は非感染性の心内膜炎であり,IE発症の前段階ともいえる異常血流に伴う内膜障害による心内膜炎と,消耗性疾患や自己免疫疾患などに合併する無菌性心内膜炎を意味するものがある.ここでは後者のNBTEについて述べる.NBTEは一般的に患者の死亡後に指摘されることも多く,剖検例の約1.2%にみられるといわれる785).NBTEの頻度は末期がん症例全体の4%とされるが786, 787),塞栓症を合併した担癌症例では32%にはね上がる788).Libman-Sacks心内膜炎は全身性エリトマトーデス(SLE)に合併するNBTEを指し,SLE症例の11%に認められる789).1985年に抗リン脂質症候群(APS)とLibman-Sacks心内膜炎との合併症が報告されて以降, APSとの深い関連も指摘されているが790),これまでのところNBTEの病因は不明であり,炎症および凝固亢進状態に続発すると仮定されている.

NBTEは悪性腫瘍,自己免疫疾患への関連のみならず,免疫複合体,低酸素,過凝固状態など心膜内皮障害をきたすさまざまな病態によって,主として大動脈弁や僧帽弁に血小板とフィブリンからできる疣腫を形成する791). NBTEによる疣腫は,感染性心内膜炎によるものよりも小さく,多くは3 mm未満とされるが,サイズのみでは鑑別は困難である.NBTE病変に対しTTEでの感度は必ずしも高くない792).病変は僧帽弁が最も多く,次いで大動脈弁とされるが,心臓のどこの部分にも生じる可能性がある.疣腫を有する症例の24%で塞栓病変を認め,疣腫は心原性脳梗塞との関連が深い.IEの疣腫と同様にTTEよりもTEEの感度が高いが,疣腫は小さい傾向(1 cm以下が多い)があり,IEに比べ疣腫の同定は難しい.弁の変化としては,肥厚による接合不全による弁逆流が最も多い.単独の僧帽弁逆流症が最も多く,続いて大動脈弁逆流症,僧帽
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1 感染性心内膜炎リスクが高度である患者に対する侵襲的歯科治療前の予防的抗菌薬投与を推奨する.推奨の強さ:1(強い推奨) エビデンスの確実性:B(中) 2 感染性心内膜炎リスクが中等度である患者に対する侵襲的歯科治療前の予防的抗菌薬投与を提案する.推奨の強さ:2(弱い推奨) エビデンスの確実性:D(非常に低)

推奨感染性心内膜炎発症リスクの高い患者に対する侵襲的歯科治療前の予防的抗菌薬投与は推奨されるか?

CQ 1 ※予防的抗菌薬投与の具体的な方法は「第7章 予防」参照

付帯事項

1 IE高度リスク(IE発症の可能性が高く,重篤化しやすい患者)は,外科的/経カテーテル的人工弁置換患者(生体弁,同

種弁を含む),弁輪リング等を用いた外科的弁形成術後,IEの既往を有する患者,未修復の複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室,完全大血管転位,ファロー四徴症),パッチ,人工材料を用いて修復した先天性心疾患で修復部分に遺残病変(短絡・弁逆流・狭窄等)を伴う場合(術後期間を問わない),体循環系と肺循環系の短絡造設術を実施した患者,

弁狭窄兼逆流症,大動脈弁狭窄兼逆流症の順である793).採血では凝固異常が認められることが多く,血中FDP, FDP D-dimer,TATの異常が多い.NBTE症例ではAPSや凝固因子欠損症の検索も行う必要がある.NBTEでは弁の病変のみならず,脳脾腎四肢など空間的部位的に多発する塞栓症を伴うことが特徴で,約50%の症例で塞栓症を生じるとされる.IEとの鑑別には菌血症の証明が重要であり,IEの否定に細心の注意を払う必要がある.NBTEでの脳梗塞の神経障害の頻度は片麻痺74%,失語失認51%,視野欠損26%とされる.DWIを用いた,NBTEを含む心内膜炎における脳塞栓症例の検討では,1:単一の病変, 2:単一の動脈支配域に起こる近接した複数の病変,3:点状のびまん性病変,4:大小さまざまなびまん性病変の4パターンに分類すると,全36人中でNBTE 9人の病変はすべてパターン4であった794).NBTEの脳塞栓症では複数の支配動脈にまたがって大小の梗塞が認められることが多いが,逆にこのような空間的多発的な病変では,NBTEを疑うきっかけになるといえる.

治療としては基本的には低分子ヘパリンもしくは未分化ヘパリンの使用が推奨され,ワルファリンはそれらに比べて再発が明らかに多いため使用は推奨されていない795).わが国では低分子ヘパリンを外来で使用することは一般的に行われていないが,未分化ヘパリンを外来で継続するのも困難である.ヘパリンを中止することは再発リスクが上昇するため,半永久的に継続する必要があるのが難しいところである.疣腫や弁肥厚による弁膜病変を要因として急性心不全をきたす症例や,一般的に塞栓リスクが高いとされる10 mm以上の疣腫がヘパリン使用下でも存在する,または再発する塞栓症症例でのみ手術を考慮する.しかしながら,担がん状態が背景にあることが多いことなどから,実際の手術実施に関しては苦慮する場合も多い.このようにNBTEの治療方針については,今後,多方向から検討していくことが必要と考えられる16, 796).

第9章 CQ
p.95
左室補助人工心臓を有する患者である(推奨表16「基礎疾患別リスクと歯科口腔外科手技に際するIE予防のための抗菌薬投与の推奨とエビデンスレベル」参照).

2 IE中等度リスク(必ずしも重篤とならないが,IE発症の可能性が高い患者)は,ほとんどの先天性心疾患,大動脈二尖

弁を含む先天性弁膜症,後天性弁膜症,閉塞性肥大型心筋症,弁逆流を伴う僧帽弁逸脱症,人工ペースメーカ,植込み型除細動器などのデバイス植込み患者,弁変性を有する心移植後の患者である(推奨表16「基礎疾患別リスクと歯科口腔外科手技に際するIE予防のための抗菌薬投与の推奨とエビデンスレベル」参照). 3.  小児についてもこれに準じて推奨を行う.

A背景,この問題の優先度

従来,弁膜症などの感染性心内膜炎(IE)を発症するリスクの高い患者では,歯科処置時に予防的抗菌薬投与が行われてきた633).IE発症高リスク患者は,通常の弁膜症,先天性心疾患のような中等度リスク群と,通常よりもIE発症率が高いのみならず,発症すると重篤になりやすい高度リスク群(IE既往/人工弁置換術後/チアノーゼ性先天性心疾患など)に分けられる633).従来は高度リスク群にも中等度リスク群にも予防的抗菌薬投与が推奨されてきたが, 2007年のAHAガイドラインでは高度リスク群にのみ予防的抗菌薬投与を推奨し597),2008年の英国のNICEガイドラインでは,高度でも中等度でも予防的抗菌薬投与を推奨しないとした600).わが国の2017年のガイドラインでは,欧米の流れとは異なり,高度リスク,中等度リスクともに予防的抗菌薬投与を推奨とした1).また,2023年のESCガイドラインでは,高度リスク患者に対する予防的抗菌薬投与が従来までのClass IIaからClass Iに推奨度が高くなった11, 16).

今回の改訂では,前回のガイドライン改訂以降のエビデンスを検討した.従来,成人と小児/先天性心疾患を分けて検討し,推奨を出してきた.しかし,小児/先天性心疾患に特化したエビデンスはきわめて少ない.今回の検討では,成人と小児/先天性心疾患を分けずに検討し,両者に差異がある部分は本文に記載した. B エビデンスの要約B1  PICOまたはPECO

P:感染性心内膜炎発症高リスク患者(高度リスク,中等度リスク).

I:侵襲的歯科治療時に予防的抗菌薬投与を行う. C:侵襲的歯科治療時に予防的抗菌薬投与を行わない. O:アウトカムとして,以下をパネル会議で承認した.益:感染性心内膜炎発症率(アウトカムの重大性:9,以下同),集団的観点からの費用対効果(6).本CQは個人の立場(Individual perspective)からみた推奨を目的とするものであるが,費用対効果については集団の立場(Population perspective)から書かれた論文も含めて採用

解説した.

害:抗菌薬アレルギー(8),耐性菌の出現(7). B2  システマティック・レビュー

予防的抗菌薬投与がIE発症率に及ぼす影響についてのRCTはなく,29の観察研究が採用された6, 384, 466, 590, 606, 608, 611, 613-617, 673, 797-814).このうち3 つのコホート内症例対照研究(Tubiana S 2017 798),Thornhill MH 2022 590),Thornhill MH 2024 797))を用いてメタ解析を行った.

予防的抗菌薬投与の費用対効果については1つの観察研究(Franklin M 2016 815))があった.薬剤副作用については2つの観察研究(Thornhill MH 2015 618),Cloitre A 2019 619))があり,統合して副作用発生率を算出した.予防的抗菌薬投与による耐性菌出現に関する論文はなかった. C 益と害のバランスC1  望ましい効果C1.1  IE発症率

IEに対する予防的抗菌薬投与の有用性については,さまざまな方法で研究が行われてきた.予防的抗菌薬投与が菌血症を防ぐことができるかについての実験的/臨床的研究が行われてきたが,これはIE発症率を下げるということを直接に示すものではない.今回のシステマティック・レビューではこれらの研究を除外した.

一般人口におけるIE発症率は非常に低く,予防的抗菌薬投与がIE発症率を減少させるかどうかのRCTの実施は現実的に困難である623).このため観察研究に根拠を求めざるをえない.欧州における2つの症例対照研究では,予防的抗菌薬投与群におけるIE発症率は対照群より低値であったが,有意な差は得られなかった(表CQ1-1) 812, 814).近年2種類の方法の観察研究の結果が数多く発表された.時系列解析研究とコホート内症例対照研究である.

時系列解析研究は2007年前後に欧米のガイドラインの予防的抗菌薬投与が欧米各国で変更となったのに伴い,その前後でのIE発症率を比べたものである(表

CQ1-2) 6, 384, 466, 606, 608, 611, 613-617, 673, 799-809).ガイドライン変

更に伴ってIE発症率が有意に上昇したことを示した論文もあれば,有意な上昇が認められなかったとする論文もあった.また,IE発症率が有意に上昇したとする論文の中
p.96
にも,高度リスク群においてのみIEが増加したとするものもあれば(Krul MM 2015 799),Thornhill MH 2018 617)),高度リスク群/中等度リスク群両方でIEが増えたとするものもあった(Dayer MJ 2015 616),Garg P 2019 606)).

結果が一定ではない理由はいくつか考えられる.これらの論文はほぼすべてがIEによる入院データを元に解析を行っている.真の発症率ではない可能性もある.

追跡期間の長さによって結果が異なる(表CQ1-2).同じ研究対象を用いていても,当初は有意な変化を認めなかったものが長期間フォローすることによって有意な変化が検出される場合があった(Thornhill MH 2011 615), Dayer MJ 2015 616)).国によってガイドラインの変更の内容が異なる.米国や英国以外の欧州では中等度リスクの予防的抗菌薬投与を推奨しなくなったが,高度リスク患者における予防的抗菌薬投与の推奨は維持された.一方,英国では中等度リスク,高度リスクのどちらでも予防的抗菌薬を推奨しないとした.研究が実施された国がどのガイドラインに従っているかを考慮する必要がある.

IEハイリスク患者を診察する医師がガイドラインにどのくらい従っているかによって結果は変わってくる.ガイドラインの遵守率が必ずしも高くない場合がある634, 635, 816, 817).一方,予防投与の変化とIE発症率についてデータを関連づけて解析した論文も報告されている606, 611, 614-617).その中でもDayer MJ 2015 616)では,中等度リスクでも高度リスク群でも予防的抗菌薬を投与しないとした英国において,予防投与が激減し,その結果として高度リスク群,中等度リスク群ともIE発症率の有意な増加が報告されている.

これらの研究の中には小児に焦点をあてて解析したものがある(Bates KE 2017 808),Sakai Bizmark R 2017 801), Knirsch W 2020 806)).ガイドライン変更前後で小児IEの発症率の増加は示されなかった(表CQ1-2).これらの研

究は他の研究に比べると症例数が少なく,ガイドライン遵守率についてのデータもない.

コホート内症例対照研究は,コホート研究において侵襲的歯科治療が行われた際ある一定期間のIE発症率を予防的抗菌薬投与の有無によって比較したものである590, 797, 798).この方法は無作為化したものではないものの,ガイドライン変更前後の時系列解析研究に比べて,侵襲的歯科治療と予防的抗菌薬投与の有無,そしてIE発症率がより直接的に関連づけられる.高度リスクで予防的抗菌薬は有意にIE発症率が低かった(図CQ1-1 590, 797, 798),表CQ1-3 590, 797, 798)).中等度リスクでは,その結果は認められなかった(図CQ1-1,表

CQ1-3).

C1.2  費用対効果815)

本CQは個人の立場からみた推奨を目的とするものであるが,費用対効果については集団の立場から書かれた論文も含めて採用した.予防的抗菌薬の費用対効果の研究としてFranklin M 2016 がある(表CQ1-4)

815).Dayer MJ 2015 616)

やDuval X 2006 813)によるIEリスクのある患者が予防的抗菌薬投与を受けた場合と受けなかった場合のIE発症の推計値を用いて,費用対効果をみたものである.英国において中等度リスク以上の患者に対して予防的抗菌薬投与を再開すると,英国全体で1年あたり5.5~8.2百万英ポンド(2016年当時の相場を1英ポンド=150円とすると8.25~12.3億円)の費用が削減でき,さらに>2600 QALY(質調整生存年)が得られるという.予防的抗菌薬投与の再開を高度リスクに限った場合であっても,1年あたり4百万英ポンド(約6億円)の費用が削減でき,1070を超えるQALYが得られるという.ICER(Incremental cost-effectiveness ratio,増分費用効果比)は>-56万円と負の値になり,予防的抗菌薬投

表CQ1-1 歯科治療時の予防的抗菌薬投与についての症例対照研究

発表年筆頭著者期間研究実施国/

地域研究概要対象患者数対象年齢結果

1992 Van der Meer 1992 814) 1986年11月~ 1988年11月 オランダ心疾患を有し医療・歯科処置を受けた患者におけるIE予防効果を全国規模で検討症例群48人,対照群200人中央値41歳(範囲5~78歳)抗菌薬あり vs なし(初発IE・処置後30

日以内):OR ≈0.51 (95%CI 0.11-2.29)

1995 Lacassin 1995 812) 1990年11月~ 1991年10月 フランス3地域を対象に医療手技とIEの関連,予防的抗菌薬投与の効果を検証(症例対照)症例群171人,対照群171人平均58歳歯科治療に関連した緑色レンサ球菌IEを46% 減らしたが,統計学的な差は得られなかった

CI:信頼区間,IE:感染性心内膜炎(Van der Meer JT, et al. 1992 814), Lacassin F, et al. 1995 812)をもとに作表)
p.97
表CQ1-2 ガイドライン変更前後のIE 発症率変化についての時系列解析研究

発表年論文観察期間研究概要対象患者数対象年齢IE 発症率IE 発症率

(高度リスク群) IE 発症率(中等度リスク群)予防的抗菌薬投与数の減少

の確認

2011 Thornhill MH 2011 615) 2000– 2010 英国,NICE 指 針評価 全年齢 変化なし NA NA 確認あり

2012 DeSimone DC 2012 614) 2002– 2009 VGSによるIE全年齢変化なし変化なし変化なし確認あり

2012 Duval X 2012 613) 1991, 1999, 2008 (3回

調査)フランス3地域(人口1100 万

人)でIEの3回の地域横断調査.2002 年ガイドライン変更前後のIE全体・病原別・リスク別傾向を比較993人(1991: 323,1999: 331,2008: 339) 20歳以上有意な変化なし(32–35/100 万

人)既知弁膜症患者では有意な減少NA NA NA

2012 Pasquali SK 2012 673) 2003– 2010 米国小児病院 1,157人 18歳 未満 変化なし NA NA NA

2013 Bikdeli B 2013 803) 1999– 2010 米国メディケア 受給者 262,658人 65歳 以上 増加→減少 NA NA NA

2015 Dayer MJ 2015 616) 2000– 2013 英国,NICE ガ イドライン影響 全年齢 増加 増加 増加 確認あり

2015 D e S i m o n e DC 2015 611) 2002– 2011ミネソタ州+全国データ全年齢変化なし変化なし変化なし確認あり

2015 Krul MM 2015 799) 2008– 2013 オランダ地域病 院 89人 増加 増加 変化なし NA

2015 Pant S 2015 809) 2000– 2011 米国NIS 全国 データ 457,052件 全年齢 増加 NA NA NA

2016 Mackie AS 2016 807) 2002– 2013 カナダ,全国 9,431件 全年齢 増加 NA NA NA

2017 Bates KE 2017 808) 2003– 2014 米国小児病院, IE入院傾向 841人 小児 変化なし NA NA NA

2017 Keller K 2017 384) 2005– 2014 ドイツ全国統計 94,364件 全年齢 増加 NA NA NA

2017 Sakai Bizmark R 2017 801) 2001– 2013米国小児小児変化なしNA NA NA

2017 Toyoda N 2017 6) 1998– 2013米国カリフォルニア州およびニューヨーク州75,829人全年齢変化なしNA NA NA

2017 van den Brink FS 2017 466) 不明 オランダ全国 データ 増加 NA NA NA

2018 Thornhill MH 2018 617) 2003– 2015 米国保険データ 20,340件 18歳 以上 増加 増加 境界有意 に増加 確認あり

2019 Garg P 2019 606) 2002– 2014 カナダ,成人 7,551件 成人 増加 増加 増加 確認あり
p.98
与は優位となる.この論文は多くの仮定を前提としており,非直接性が低くはない.また,わが国と英国とでは医療体制も大きく異なる.この結果をそのまま受け入れることはできないが,IEはひとたび発症すれば重篤な結果を招くため,わずかの数の予防であっても,患者の生活に及ぼす影響や経済的なインパクトは大きいと考えられる.

C1.3  望ましい効果のまとめ

IE高度リスクについては望ましい効果は大きい,IE中等度リスクについては小さいとした.

図CQ1-1 予防的抗菌薬のIE 発症率に対する影響(コホート内症例対照研究) (Tubiana S, et al. 2017 798), Thornhill MH, et al. 2022 590), Thornhill MH, et al. 2024 797)をもとに作図)

高度リスク

中等度リスク

予防的抗菌薬投与が

よい予防的抗菌薬投与が

わるい

予防的抗菌薬投与が

よい予防的抗菌薬投与が

わるい

2020 Knirsch W 2020 806) 1995– 2017 スイス小児25 例 25人 小児 増加(非有意) NA NA NA

2020 Quan TP 2020 805) 1998– 2017 英国全国電子カ ルテ 全年齢 増加 NA NA NA

2020 Shah ASV 2020 800) 1990– 2014 スコットランド 全国 7,638件 2 0 歳 以上 変化なし NA NA NA

2020 Vahasarja N 2020 804) 2008– 2017 スウェーデン, 全国データ 全年齢 変化なし NA NA NA

2021 DeSimone DC 2021 802) 1970– 2018 米国ミネソタ 州,地域住民 全年齢 変化なし 変化なし 変化なし NA

2022 Weber C 2022 608) 1994– 2018ドイツ6施設の心臓外科で手術を受けたIE患者4917人4917人(ガイドライン改訂前2014 人,後2903人)中央値6 5 歳(I Q R

54–73歳)手術例におけるStreptococcus関連IEおよび僧帽弁IEが有意に増加増加(人工弁置換術後) NA NA

CI:信頼区間, IE: 感染性心内膜炎, NA: 記載なし(文献6, 384, 466, 606, 608, 611, 613-617, 673, 799-809をもとに作表)
p.99
C2  望ましくない効果C2.1  薬剤副作用(表CQ1-5,6)618, 619)

システマティック・レビューの結果,予防的抗菌薬投与の副作用については2件の報告がみつかった.Thornhill

2015 618)では英国の処方・報告制度,Cloitre 2019 619)では

フランスの薬剤監視データを用いた報告である.副作用の発生率についても検討した.アモキシシリンの1回投与で致命的な副作用は報告されていない.非致命的な副作用についても,18~23/100万回投与という頻度であり,それらを統合すると,21.4(17.3~26.5)/100万回投与となった618, 619).英国では,アモキシシリンの投与量が3 g単回投与と,わが国での投与量2 g単回投与に比べて多いが,それにもかかわらず副作用はきわめて小さい.クリンダマイシンについてはそれよりは副作用が多かった. C2.2  耐性菌の出現

予防的抗菌薬投与による耐性菌の出現に関する論文はなかった.単回投与による耐性菌の出現はきわめて少ないものと考えられる. C2.3  望ましくない効果のまとめ

予防的抗菌薬投与の望ましくない効果はわずかとした. C3  益と害のバランス

コホート内症例対照研究により,IE高度リスク患者において予防的抗菌薬投与のIE発症予防効果は確かだが,中等度リスク患者では証明されなかった.一方,英国の時系列トレンド解析の結果からは,予防的抗菌薬投与を原則中止することによって中等度リスクのIE頻度が上がることが示唆された616).予防的抗菌薬の望ましくない作用はわずかであり,高度リスク群に対する歯科治療前の予防的抗菌薬

投与の益が害を上回るとパネル会議では判断した.中等度リスクに対する予防的抗菌薬投与の益は小さいと判断されるが,望ましくない作用はわずかであり,中等度リスク群に対しても益が害を上回るとパネル会議では判断した. D エビデンス総体の確実性(表CQ1-7)

高度リスク群では,RCTはないものの,コホート内症例対照研究において一貫性を持って予防的抗菌薬投与の有用性が示されることより,エビデンスの確実性はB(中)とした(「改訂にあたって」表5参照).中等度リスクについては,時系列トレンド解析において予防的抗菌薬投与の中止により発症頻度の上昇を示す研究があるのみであり,D(非常に低)とした(「改訂にあたって」表5参照). E 患者の価値観

患者の価値観について研究した論文はなかった. F コスト

集団的観点からの費用対効果についてはC1.2参照.予防的抗菌薬投与に用いられる抗菌薬の薬価は非常に安い(アモキシシリン250 mgで10.4円,2 gを投与したとしても83.2円). G 容認性

いったん発症すると患者にとって重大な負担となるIEを,コストや副作用のほとんどない予防的抗菌薬投与で予防できるとすれば,患者の容認性は高いと考えられる.ただし,わが国において予防的抗菌薬投与は厳密には保険適用とならず,その点が実地医家にとって容認性を低くする要因と考えられる.

表CQ1-4 予防的抗菌薬投与の費用対効果についてのエビデンスの評価

個別研究バイアスリスクグレードを上げる要因非直接性研究コードA B C D E F G H I J K L M N O P Franklin M 2016 0 0 0 -1 0 0 -1 0 +1 +1 +1 0 -2 -2 -1 -2バイアスリスク,グレードを上げる要因,非直接性のA-Pについては「改訂にあたって」表3参照(Fanklin M, et al. 2016 815)をもとに作表)

表CQ1-3 予防的抗菌薬投与がIE 発症率に与える影響についてのコホート内症例対照研究の評価

個別研究バイアスリスクグレードを上げる要因非直接性研究コードA B C D E F G H I J K L M N O P Tubiana S 2017 -1 0 0 -1 -1 0 -1 0 +1 0 +1 -1 -1 0 0 -1 Thornhill MH 2022 0 0 0 -1 -1 0 -1 +1 0 +1 +1 0 0 0 0 0 Thornhill MH 2024 0 0 0 -1 -1 0 -1 +1 +1 +1 +1 0 0 0 0 0バイアスリスク,グレードを上げる要因,非直接性のA-Pについては「改訂にあたって」表3参照(Tubiana S, et al. 2017 798), Thornhill MH, et al. 2022 590), Thornhill MH, et al. 2024 797)をもとに作表)
p.100
H 実行可能性

高度リスクとされる背景疾患(IE既往,人工弁,チアノーゼ性先天性心疾患)については患者が自己認識していることが多く,実行可能性は高いと考えられる.一方,中等度リスクの中には患者の自覚のないものもある(弁膜症,二尖弁を含む先天性心疾患など)ため,全例に対して実施するのは困難と考えられる. I推奨のグレーディング

パネル会議では特に異論がでなかった.修正デルファイ法(RAND法)を用いた投票により投票率100%,中央値8,見解不一致指数0.15,同意率(7以上の割合)94%で承認された. J 関連する他の診療ガイドラインの記載

2023 ESCガイドラインでは,次のIE高度リスク患者には歯科治療前の予防的抗菌薬投与を推奨する11).IE既往(推奨Class I,エビデンスレベルB),人工弁/弁形成に用いた人工物(推奨Class I,エビデンスレベルC),経カテーテル的大動脈弁/肺動脈弁置換術後(推奨Class I,エビデンスレベルC),未治療のチアノーゼ性先天性心疾患(推奨Class I,エビデンスレベルC),開心術/経カテーテル治療後に姑息的シャント/導管/他人工物を有する患者(推奨

Class I,エビデンスレベルC),開心術後に残存シャントや人工弁を有しない患者の術後6ヵ月以内(推奨Class I,エビデンスレベルC),補助人工心臓を有する患者(推奨Class I,エビデンスレベルC),経カテーテル的僧帽弁/三尖弁形成術後(推奨Class IIa,エビデンスレベルC),心移植後(推奨Class IIb,エビデンスレベルC).それ以外の患者には予防的抗菌薬投与を推奨しない(推奨Class III,エビデンスレベルC).

AHAステートメントでは,次のIE高度リスク患者には予防的抗菌薬投与を推奨する(推奨度,エビデンスレベル記載なし):人工弁を有する患者,経カテーテル弁置換術後,デバイス(弁輪形成/リング/クリップ)を用いた弁形成術後,左室補助デバイス/心移植後,IE既往/繰り返すIE/IE再発,姑息的シャント/導管を含む未治療のチアノーゼ性先天性疾患,開心術/カテーテル治療を問わず人工物やデバイスを用いて完全に欠損が修復された場合の術後6ヵ月以内,先天性心疾患術後にパッチや人工物の近傍に残存欠損を有する患者,開心術/経カテーテル的に肺動脈弁/導管を留置した患者,心臓弁膜症を生じた心移植後の

表CQ1-6 予防的抗菌薬投与による副作用についてのエビデンスの評価

個別研究バイアスリスクグレードを上げる要因非直接性研究コードA B C D E F G H I J K L M N O P Thornhill MH 2015 0 0 0 -1 0 0 -1 0 +1 +1 +1 0 -1 0 0 -1 Cloitre A 2019 0 -2 -1 -1 -2 0 -1 0 0 +1 +1 -2 -1 0 0 -1バイアスリスク,グレードを上げる要因,非直接性のA-Pについては「改訂にあたって」表3参照(Thornhill MH, et al. 2015 618), Cloitre A, et al. 2019 619)をもとに作表)

表CQ1-5 予防的抗菌薬投与による副作用

使用薬剤論文国投与方法副作用頻度(回/100 万投与)コメント

アモキシシリンThornhill MH 2015 618)イギリス単回3 g投与致死性0 単回3 g投与(わが国の推 奨である単回2 g投与より も多い)

0.11 *

非致死性22.62 =67/2,961,900

4.67 *

Cloitre A 2019 619)フランス単回2 g投与致死性0

非致死性17.54 =17/969,000

クリンダマイシンThornhill MH 2015 618)イギリス単回600 mg投与致死性12.6 C. difficile関連の致死例が多かった非致死性149.1

Cloitre A 2019 619)フランス単回600 mg投与0予防的抗菌薬投与の副作用としての報告なし

*1963年から2014年までの予防的抗菌薬処方数が一定であると仮定した場合の推計値(Thornhill MH, et al. 2015 618), Cloitre A, et al. 2019 619)をもとに作表)
p.101
患者589).一方,以下の患者には予防的抗菌薬投与を推奨しない:ペースメーカ等の心内デバイスを有する患者,完全に閉鎖された中隔欠損の患者,血液透析に用いるものも含め末梢血管グラフト/パッチ,冠動脈他血管ステント,脳室心房シャント,大静脈フィルター,プレジェット589). NICEガイドラインは2016年に最終的にアップデートさ

れた.NICEは歯科治療時に予防的抗菌薬投与はルーチンには投与されるべきではないという立場である600).ただし,ルーチン以上の特別な配慮が必要な患者群として,以下のものを挙げている.カテーテルにより留置されたものを含

表CQ1-7 予防的抗菌薬投与のエビデンス総体の評価

リスク人数(アウトカム率)

アウトカム研究デザイン/

研究数*

バイアスリスク*

非一貫性*

不精確性*

非直接性*

その他(出版バイアスなど) * *

上昇要因(観察研究)対照群分母対照群分子( % )介入群分母介入群分子( % )効果指標(種類)効果指標統合値95 % 信 頼 区 間* * *

エビデンスの強さ* * * *

重要性コメント

(高度リスク)感染性心内膜炎発症率コホート研究/

3 -1 0 0 0 0 +1 NA NA NA NA NA NA OR 0.36 0.23- 0.56中(B) 9予防的抗菌薬投与により高度リスク群においてIE発症率は低下する

(中等度リスク)感染性心内膜炎発症率コホート研究/

2 -1 0 0 0 0 +1 NA NA NA NA NA NA OR 1.29 0.64- 2.59弱(C) 9予防的抗菌薬投与により中等度リスク群においてIE発症率は変わらない

感染性心内膜炎発症率時系列解析研究/

23 -1 -1 -1 0 0 +1 NA NA NA NA NA NA NA NA NA弱(C) 9予防的抗菌薬中止により高度/中等度リスクともにIE発症率が上昇とする報告もあるが,結果は一定しない

薬剤アレルギー観察研究/

2 0 0 0 0 0 +1 NA NA NA 3,930,900 84 0.002 発生率21.4/

100万17.3/ 100万- 26.5/ 100万中(B) 8予防的抗菌薬単回投与による致死的副作用は少ない

の費用対効果集団的観点からその他研究/

1 -1 0 0 -1 0 0 NA NA NA NA NA NA NA NA NA弱(C) 6予防的抗菌薬投与による費用対効果は高いエビデンスの強さは,RCTは‘強(A)’からスタート,観察研究は‘弱(C)’からスタート*各ドメインは‘高(-2)’,‘中/疑い(-1)’,‘低(0)’の3段階**上昇要因は‘高(+2)’,‘中(+1)’,‘低(0)’の3段階***エビデンスの強さは‘強(A)’,‘中(B)’,‘弱(C)’,‘非常に弱(D)’の4段階****重要性はアウトカムの重要性(1~9)
p.102
脳出血を合併した感染性心内膜炎例では,適応があれば4週間以内に手術を行ってもよい.推奨の強さ:2(弱い推奨) エビデンスの確実性:C(低)

推奨

付帯事項

脳出血を合併した感染性心内膜炎のおおむね4週間以内の早期手術は,患者群としては院内死亡率を上昇させなかった.積極的な手術の適応があれば,脳出血発症4週間以内の早期手術は許容されると考える.

ただし,再出血,神経学的悪化は,個々の症例においては早期手術で悪化する可能性があり,慎重に見極めるべきである.脳出血を合併した感染性心内膜炎例では,適応があれば4週間以内に手術を行うことが推奨されるか?

CQ 2 ※出血性脳合併例に対する具体的な対応については「第5章2.5.2出血性脳合併例(脳出血,SAH,硬膜下血腫)」参照

む人工弁/弁形成術のために用いられた人工物がある場合, IE既往,チアノーゼ性先天性心疾患,開心術/経カテーテル治療を問わず人工物によって修復された先天性心疾患の術後6カ月以内,もしくは残存シャントや弁逆流が残る場合には一生涯818).

わが国の2025年改訂版成人先天性心疾患診療ガイドラインでは,高度リスク群には予防的抗菌薬投与を推奨し(推奨クラスI,エビデンスレベルB),中等度リスク群には予防的抗菌薬投与を考慮する(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC).感染の危険性が特に高くない群(一般の人と同等の危険率)には予防的抗菌薬投与を推奨しない(推奨クラスIII No benefit,エビデンスレベルC) 574). K 治療のモニタリング

侵襲的歯科治療後の予防的抗菌薬投与後の薬剤アレルギーの有無,IE発症の有無.

L 監視と評価

IE高度リスク,中等度リスク患者での侵襲的歯科治療時の予防的抗菌薬投与数,IE発症を監視する. M 今後の研究の可能性

わが国のIE高度リスク/中等度リスク患者を追跡し,侵襲的歯科治療とその際の予防的抗菌薬投与の有無とその後の経過中IE発症を検出するコホート内症例対照研究が考慮される.

また,わが国の医療体制における費用対効果の検証も考慮される.

A 背景,この問題の優先度

IEでは心不全,難治性感染症,繰り返す塞栓症において早期手術が予後を改善することが明らかになり推奨されてきた1, 16, 355).従来神経合併症を生じた例では手術による合併症が多いために待機的手術が推奨されてきたが.医療技術の進歩とともに脳梗塞合併例では早期手術をためらうべきではないと推奨が変更された1).一方,脳出血合併例では可能なかぎり待機的に手術を行うことが推奨されてきた1).近年,脳出血合併例でも早期手術が有用であることが報告されてきた508, 819).脳出血合併例でも早期手術が推奨されるのであれば,救命しうる患者は多くなると考えられる.

解説B エビデンスの要約

B1  PICOまたはPECO

P:脳出血を合併した感染性心内膜炎. IまたはE:早期手術. C:約1ヵ月待機してからの手術. O:アウトカムとして,以下をパネル会議で承認した.益:院内死亡(アウトカムの重大性:9,以下同).害:出血悪化(7),神経学的悪化(8). B2  システマティック・レビュー

RCTはなく,7つの観察研究(Eishi K 1995 225),Garcia- Cabrera E 2013 40),Murai R 2017 504),Okita Y 2016 242), Yoshioka D 2014 505),Diab M 2021 509),Kume Y 2018 506))が採用され,メタ解析も行った.Rambaud T 2022 819),
p.103
Salaun E 2018 508)は手術時期で分けたものではないため,メタ解析には用いなかった. C 益と害のバランスC1   望ましい効果(表CQ2-1 Summary of findings

table 40, 225, 242, 504, 505, 509)) C1.1  院内死亡(図CQ2-1 40, 225, 242, 504, 505, 509))

6 つの観察研究(219人)で検討された40, 225, 242, 504, 505, 509).待機的手術群vs早期手術群で15% vs 16.4%(95%CI 6.9%-38.4%),RR 1.09(95%CI 0.46-2.56)と有意差がなかった.院内死亡率には差がないとした.

表CQ2-2 40, 225, 242, 504, 505, 509)は,それぞれの研究のバイアスリスク,グレードを上げる要因,非直接性の評価を示す.また,バイアスリスクのA-Pの説明は「改訂にあたって」表3参照.

メタ解析に組み入れた研究以外にも,脳出血を合併したIEに早期手術を行った場合,以前考えられていたよりも予

後は悪くないことを示したものがあった819). C1.2  望ましい効果のまとめ

脳出血後早期手術の望ましい効果は「さまざま」とした. C2   望ましくない効果(表CQ2-3 Summary of

findings table 40, 225, 242, 504-506, 509)) C2.1   再出血(図CQ2-2 40, 225, 242, 504-506, 509),

表CQ2-4 40, 225, 242, 504-506, 509)) 7 つの観察研究(244人)で検討された40, 225, 242, 504-506, 509).待機的手術群vs早期手術群で9.8% vs 15.2%(95%CI 7.1%-32.3%),RR 1.55(95%CI 0.72-3.30)と有意差がなかった.再出血率には差がないとした.

脳出血後早期手術した場合には再出血が懸念される.全体としてみたときに再出血のリスクに有意差はなかったが,再出血が多い傾向にはあり,注意が必要である.脳動

図CQ2-1 脳出血後早期手術の有無による院内死亡率の比較(文献40, 225, 242, 504, 505, 509をもとに作図)早期手術がよい待機的手術がよい

表CQ2-1 脳出血後早期手術についてのSoF 表(益)

アウトカム研究デザイン

研究数対象者数コントロール群*介入群

** (95%CI)相対リスク***

(95%CI)絶対的リスク差**

(95%CI)確実性重要度起きること

院内死亡観察研究

6 219 15% 16.4% (6.9%-

38.4%) 1.09 (0.46-

2.56) 1.4% 多(8.1%少-

23.4%多) C1 8院内死亡は

差がない

*対照研究の発症率**コントロール群の発症率とRRより計算***メタ解析(RevMan使用)より得た値注)1 観察研究のためCとした(文献40, 225, 242, 504, 505, 509をもとに作表)
p.104
脈瘤に対してクリッピングを先行させることによって脳出血を防いだと考えられる例もある506).一方,再出血の場所はしばしば最初の出血部位と異なる場所に生じるとするものもある505).これは脳血管全体に炎症を生じているとも推測されており,こうした脳血管全体の炎症を抗菌薬投与によって抑える必要があるのかもしれない505). C2.2   神経学的悪化(図CQ2-3 225, 242, 504, 505, 509),

表CQ2-5 225, 242, 504, 505, 509)) 5つの観察研究(207人)で検討された225, 242, 504, 505, 509).待機的手術群vs早期手術群で8.1% vs 15.5%(95%CI 6.2%- 38.6%),RR 1.91(95%CI 0.77-4.76)と有意差がなかった.神経学的悪化には差がないとした. C2.3  望ましくない効果のまとめ

脳出血後早期手術の望ましい効果は「さまざま」とした. C3   益と害のバランス

脳出血合併IEに対する早期手術のエビデンスは観察研究のみである.死亡率は早期手術の予後が悪いとはいえない.再出血のリスク,神経学的悪化のリスクは早期手術で

悪い傾向があるが,決定的なものではない.早期手術の定義も1ヵ月以内とするものから1週間以内,2週間以内,3週間以内とまちまちであった.

一方,手術時期を比較したものではないが,脳出血合併後の早期手術の予後,再出血リスク,神経学的悪化のリスクは低いことを示した報告がある819).また,1年後の神経学的予後は大多数で良好であることが示された819).同様に,早期手術で神経学的予後のリスクは低いことを示した研究もある508).

以上の結果から,手術適応のある場合,1ヵ月以内の早期手術は,明確に推奨するものではないが,禁忌ともいえない.個々の症例の中には,手術をしないと救命できなかったような予後の悪い症例(心不全合併例,弁周囲合併症例)が含まれると考えられる.これらの症例では,早期手術によって救命できた例も含まれると考えられ,脳出血後には一律に手術を延期すべきではない.

表CQ2-2 脳出血後早期手術の有無による院内死亡率の比較についてのエビデンス評価

個別研究バイアスリスクグレードを上げる要因非直接性研究コードA B C D E F G H I J K L M N O P Diab M 2021 0 0 0 0 0 -2 -1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 Eishi K 1995 0 -1 0 0 0 -1 -1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 Garcia-Cabrera E 2013 -1 -1 0 0 0 -1 -1 0 0 0 0 0 -1 0 0 -1 Murai R 2017 0 0 0 0 -2 0 -1 0 0 0 0 0 -1 0 0 -1 Okita Y 2016 -2 -1 -1 0 -2 -1 -1 0 0 0 0 0 -1 0 0 -1 Yoshioka D 2014 -1 -1 -1 0 -1 -1 -1 0 0 0 0 0 -1 0 0 -1バイアスリスク,グレードを上げる要因,非直接性のA-Pについては「改訂にあたって」表3参照(文献40, 225, 242, 504, 505, 509をもとに作表)

表CQ2-3 脳出血後早期手術についてのSoF 表(害)

アウトカム研究デザイン

研究数対象者数コントロール群*介入群

** (95%CI)相対リスク***

(95%CI)絶対的リスク差**

(95%CI)確実性重要度起きること

再出血観察研究

7 244 9.8% 15.2% (7.1%-

32.3%) 1.55 (0.72-3.30) 5.4% 多(2.7%少-

22.5%多) C1 6再出血は差がない

神経学的

悪化観察研

5 207 8.1% 15.5% (6.2%-

38.6%) 1.91 (0.77-4.76) 7.4% 多(1.9%少-

30.5%多) C1 7神経学的

悪化は差がない

*対照研究の発症率**コントロール群の発症率とRRより計算***メタ解析(RevMan使用)より得た値注)1 観察研究のためCとした(文献40, 225, 242, 504-506,509をもとに作表)
p.105
なお,MRI画像上脳微小出血とされるものについては,今回の検討からは除いたが246, 820),これらも手術の禁忌とはいえない. D エビデンス総体の確実性(表CQ2-6)

RCTはなく,観察研究でも脳出血後の早期手術の利益は示されなかった.エビデンスの確実性はC(低)とした(「改訂にあたって」表5参照). E 患者の価値観

患者の価値観について研究した論文はなかった. F コスト

脳出血後早期手術のコストについて研究した論文はなかった.脳出血後早期手術を行った場合,合併症の有無に

よってコストは異なる. G 容認性

脳出血合併例に早期手術をするとなると,手術をしない場合にきわめて予後の悪い患者(心不全合併例,弁周囲合併症例)では容認性があると考えられる.待機的に手術をしても予後が期待できる患者においては容認性が低いと考えられる.外科医や麻酔科医の容認性は不明である.容認性は「さまざま」とした. H 実行可能性

もし脳出血後早期手術が必要となると,専門施設が必要

図CQ2-2 脳出血後早期手術の有無による再出血率の比較(文献40, 225, 242, 504-506, 509をもとに作図)早期手術がよい待機的手術がよい

表CQ2-4 脳出血後早期手術の有無による再出血率の比較についてのエビデンス評価【SR-6-1 評価シート 観察研究(二値変数用)】

個別研究バイアスリスクグレードを上げる要因非直接性研究コードA B C D E F G H I J K L M N O P Diab M 2021 0 0 0 0 0 -2 -1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 Eishi K 1995 -1 -1 -1 0 0 -1 -1 0 0 0 0 0 0 0 -1 -1 Garcia-Cabrera E 2013 -1 -1 0 0 0 -1 -1 0 0 0 0 0 -1 -1 0 -1 Kume Y 2018 0 0 0 0 -1 0 -1 0 0 0 0 0 -1 -1 0 -1 Murai R 2017 0 0 0 0 -2 0 -1 0 0 0 0 0 -1 -1 0 -1 Okita Y 2016 -2 -1 -1 0 -2 -1 -1 0 0 0 0 0 -1 -1 -1 -1 Yoshioka D 2014 -1 -1 -1 0 -1 -1 -1 0 0 0 0 0 -1 -1 0 -1バイアスリスク,グレードを上げる要因,非直接性のA-Pについては「改訂にあたって」表3参照(文献40, 225, 242, 504-506,509をもとに作表)
p.106
である.専門施設外なら専門施設への紹介をすれば実行は可能である. I推奨のグレーディング

パネル会議では特に異論がでなかった.修正デルファイ法(RAND法)を用いた投票により投票率100%,中央値8,見解不一致指数0.15,同意率(7以上の割合)94%で承認された. J 関連する他の診療ガイドラインの記載

2015年のAHAステートメントでは「大きな脳梗塞や頭蓋内出血患者では,最低4週間弁膜症手術を延期することが妥当とした(推奨Class IIa,エビデンスレベルB)」355). 2020ACC/AHAガイドラインでは「感染性心内膜炎に広範な神経学的障害を伴う大きな脳梗塞か頭蓋内出血を生じた場合,弁手術を最低4週間延期することを検討してもよいとした(推奨Class 2b,エビデンスレベルB-NR)」620). 2023ESCガイドラインでは,「頭蓋内出血後は可能であれ

ば心臓手術を1ヵ月延期し,頻繁に患者の臨床症状を再評価し画像検査を検討すること(推奨Class IIa,エビデンスレベル C)」とした11). K 治療のモニタリング

脳出血がある場合IE手術時期が異なる.IE症例では早期に頭蓋内出血の有無を診断することが大切である. L 監視と評価

脳出血を合併したIE患者では院内死亡率,再出血,神経学的悪化の有無を監視する. M 今後の研究の可能性

脳出血を合併した場合,どのような群で再出血しやすいのかということを明らかにする必要がある.また,最初の出血部位以外の場所の出血が生じる血管の炎症を同定する方法や,それらを治療するための方法が検討されるべきである.

図CQ2-3 脳出血後早期手術の有無による神経学的悪化率の比較(文献225, 242, 504, 505, 509をもとに作図)早期手術がよい待機的手術がよい

表CQ2-5 脳出血後早期手術の有無による神経学的悪化率の比較についてのエビデンス評価

個別研究バイアスリスクグレードを上げる要因非直接性研究コードA B C D E F G H I J K L M N O P Diab M 2021 0 0 -1 0 0 -2 -1 0 0 0 0 0 0 0 -1 -1 Eishi K 1995 -1 -1 -1 0 0 -1 -1 0 0 0 0 0 0 0 -1 -1 Murai R 2017 0 0 0 0 -2 0 -1 0 0 0 0 0 -1 -1 0 -1 Okita Y 2016 -2 -1 -1 0 -2 -1 -1 0 0 0 0 0 -1 -1 -1 -1 Yoshioka D 2014 -1 -1 -1 0 -1 -1 -1 0 0 0 0 0 -1 -1 0 -1バイアスリスク,グレードを上げる要因,非直接性のA-Pについては「改訂にあたって」表3参照(文献225, 242, 504, 505, 509をもとに作表)
p.107
表CQ2-6 脳出血後早期手術についてのエビデンス総体の評価

リスク人数(アウトカム率)

アウトカム研究デザイン/

研究数*

バイアスリスク*

非一貫性*

不精確性*

非直接性*

その他(出版バイアスなど) * *

上昇要因(観察研究)対照群分母対照群分子( % )介入群分母介入群分子( % )効果指標(種類)効果指標統合値95 % 信 頼 区 間* * *

エビデンスの強さ* * * *

重要性コメント

院内死亡コホート研究/

6 -1 -1 -1 -1 0 0 104 16 15.4 115 19 16.5 RR 1.09 0.46 , 2.56弱(C) 8早期手術の定義が一定でない院内死亡には差がない

再出血コホート研究/

7 -1 -1 -1 -1 0 0 112 11 9.8 132 21 15.9 RR 1.55 0.72 , 3.30弱(C) 6早期手術の定義が一定でない再出血には差がない

神経学的悪化コホート研究/

5 -1 -1 -1 -1 0 0 99 8 8.1 108 18 16.7 RR 1.91 0.77, 4.76弱(C) 7早期手術の定義が一定でない神経学的悪化には差がないエビデンスの強さは,RCTは‘強(A)’からスタート,観察研究は‘弱(C)’からスタート*各ドメインは‘高(-2)’,‘中/疑い(-1)’,‘低(0)’の3段階**上昇要因は‘高(+2)’,‘中(+1)’,‘低(0)’の3 段階***エビデンスの強さは‘強(A)’,‘中(B)’,‘弱(C)’,‘非常に弱(D)’の4段階****重要性はアウトカムの重要性(1~9)
p.108
第10章 市民・患者への情報提供

感染性心内膜炎とはどんな病気ですか?どんな人が罹患しやすいですか?どんな場合に起こりますか?

心臓弁膜症や先天性心疾患の患者さんでは,心臓内の異常血流により心臓の内側を覆う膜(心内膜)に傷ができることがあります.血液中に細菌が入り込むようなことが起こると,傷ついた心内膜に細菌が付着してしまい,付着した細菌は増殖し,そこに感染巣が形成されます.この感染症を感染性心内膜炎と呼びます.

この病気は,弁膜症や先天性心疾患やその手術後の患者さん,心臓ペースメーカなどの異物が体内に留置されている患者さんが,血液中に細菌が入り込むような状況になると起こりやすいです.血液中に細菌が入り込む原因としては,抜歯など歯科治療や,扁桃腺,胆道や腸の手術,気管支鏡検査・生検,下部消化管内視鏡検査・生検,泌尿器科や婦人科領域での処置などがあります.

感染性心内膜炎になると,どんな症状が出ますか?

主な症状は発熱です。その他,全身倦怠感や悪寒,関節痛,筋肉痛など,この病気に特異的ではない,通常の感染症でよくみられる症状が多いです.原因がはっきりわからない発熱が数日以上持続するときには,たとえ微熱程度でも,一度病院で熱の原因がなにか調べてもらうことをお勧めします.

病状が進行すると,感染によって弁が破壊されたり,付着した細菌の塊で血流が妨げられることで心不全を起こすことがあります.心不全を起こすと,息切れや動悸,喘息のような症状が起こったり,咳が止まらなくなったりします.また,弁などの心内膜に付着する増殖した細菌の塊は,心臓内で揺れ動きます.この一部が剥がれて血流に乗って,脳やその他の臓器の血管で詰まり,脳梗塞やその他多彩な症状を引き起こします.

予防する方法はありますか? どんなことに気をつければいいですか?

感染性心内膜炎は一度起こってしまうと,心不全や,その他脳梗塞などの全身の症状を引き起こしうる重大な病気です.そのため,まずは感染性心内膜炎にならないように予防することが重要です.感染性心内膜炎は,血液中に細菌が入り込むことが契機となって発症します。弁膜症や先天性心疾患,ペースメーカなどの人工物が体内に留置されている,など,感染性心内膜炎に罹患しやすい方は,血液中に細菌が入り込む原因となりうる手術や処置の際に,予防的に抗菌薬を内服することをお勧めします.その処置の代表が,抜歯などの歯科治療です.歯科を受診する際や手術や外科的処置を受ける際には,心臓病を持っていることを主治医に伝え,術前や処置前に抗菌薬を処方してもらいましょう.また,ふだんから正しい歯磨きで口腔内を清潔に保つことも重要です.さらに,歯周病がある患者さんは定期的に歯科で悪化しないよう診察を受けてください.

感染性心内膜炎になったら,どんな治療が行われますか?

感染性心内膜炎と診断されれば,特定された細菌に有効な抗菌薬を長期間投与(通常1~2ヵ月)します.通常は点滴の抗菌薬を用いますので,入院での治療が必要です.治療の開始が遅れて,細菌による弁の破壊が強い場合など,緊急心臓手術が必要になることもしばしばあります.そのため,早期に診断し,早期に治療することが,その後の経過においてとても重要です.

1

2

3

4
p.109
感染性心内膜炎の高度リスク・中等度リスク患者に配布する説明書の例

あなたの心臓の病名は                       です.この病気の方は,感染性心内膜炎(かんせんせいしんないまくえん)という病気になる

リスクが通常よりも高くなります.以下に,感染性心内膜炎に関する説明と,あなたに知っておいてほしいポイントを挙げ

ていますので一度お読みください.

感染性心内膜炎について

心臓弁膜症や先天性心疾患の患者さんでは,心臓内の異常血流により心臓の内側を覆う膜(心内膜)に傷ができることがあります.傷ついた心内膜は細菌が付着しやすく,付着した細菌は増殖し,そこに感染巣が形成されます.この感染症を感染性心内膜炎と呼びます.感染性心内膜炎は,血液中に細菌が入り込むことが契機となって発症します.その原因は,抜歯など歯科治療により口腔内の細菌が侵入する場合,あるいは,扁桃腺手術,胆道や腸の手術,気管支鏡検査・生検,下部消化管内視鏡検査・生検,泌尿器科や婦人科領域での処置など手術や処置の際に侵入する場合などが考えられます.主な症状は発熱です.心不全や塞栓症などの合併がなければ,ほかに症状がないことも多く,風邪と診断されたものの,なかなか完治しないということがしばしばあります.心臓弁膜症や先天性心疾患の患者さんで原因不明の熱が持続するようなら,感染性心内膜炎を疑う必要があります.治療は,特定された細菌に有効な抗菌薬を長期間投与(通常1~2ヵ月)しますが,細菌による弁の破壊が強い場合など,緊急手術が必要になることもしばしばあります.まずは感染性心内膜炎にならないように予防すること,そして感染性心内膜炎になってしまっても,早期に診断し,早期に治療することが,その後の経過において非常に重要です.以下のポイントを知っておいていただければと思います.

感染性心内膜炎の予防および早期診断のためのポイント• 普段から正しい歯磨きで口腔内を清潔に保ち,虫歯は早めに治療しましょう. • 歯科受診の際には,心臓病を持っていることを歯科医に伝え,処置や抜歯の前に抗菌薬を

処方してもらいましょう. • 手術や外科的処置を受ける際には,心臓病を持っていることを主治医に伝え,術前や処置

前に抗菌薬を処方してもらいましょう. • 原因不明の熱が長く続くときは,循環器内科の主治医に相談しましょう.
p.110
CQ1作成過程

付図・付表

付図1 CQ1 文献検索フローチャート

Records screened (1st Screening)

(n=558)

Full-text articles assessed for eligibility (2nd screening)

(n=54)

Studies included in qualitative synthesis

(n=32)

Studies included in qualitative synthesis (meta-analysis)

(n=5) Records excluded

(n=504)

Full-text articles excluded, with reasons

(n=22)

Total records identified through database searching

(n=536) Additional records identified through other sources

(n=22)

PubMed

460 医中誌

68 Cochrane

27 重複が19件

他のシステマティックレビューに引用された文献,その他
p.111
付表1 CQ1 作成過程 データベース検索式と検索結果

CQ感染性心内膜炎発症リスクの高い患者に対する予防的抗菌薬投与は推奨されるか?データベースPubMed検索日付2024年8月4日検索者日本医学図書館協会

#検索式文献数文献種類#01 "Endocarditis"[Mesh] 31,460 #02 "Dental Care"[Mesh] 35,481 #03 "Antibiotic Prophylaxis"[Mesh] OR (("Anti-Bacterial Agents"[Mesh] OR "Anti-Bacterial Agents"[PA]) AND "prevention and control"[SH]) 66,582 #04 #1 AND #2 AND #3 567

#05 (endocarditis[TI] OR endocarditide*[TI]) AND (prevent*[TIAB] OR prophylactic*[TIAB]) AND (infect*[TIAB] OR bacterial[TIAB]) AND (((antibiotic*[TIAB] OR "anti bacterial agent*"[TIAB] OR "antibacterial agent*"[TIAB] OR "anti bacterial compound*"[TIAB] OR "bacteriocidal agent*"[TIAB] OR bacteriocide*[TIAB] OR "anti mycobacterial agent*"[TIAB] OR "antimycobacterial agents*"[TIAB]) AND ("dental care*"[TIAB] OR "dental procedure*"[TIAB])) OR guideline*[TI])

258 #06 #4 OR #5 739

#07 #6 AND 1955/2[DP]:2024/6[DP] 738 #08 #7 AND ("Meta-Analysis"[PT] OR "Meta-Analysis as Topic"[Mesh] OR "meta-analysis"[TIAB]) 4

#09 #7 AND ("Cochrane Database Syst Rev"[TA] OR "Systematic Review"[PT] OR "Systematic Reviews as Topic"[Mesh] OR "systematic review"[TIAB])

17 #10

#7 AND ("Practice Guideline"[PT] OR "Practice Guidelines as Topic"[Mesh] OR "Consensus"[Mesh] OR "Consensus Development Conferences as Topic"[Mesh] OR "Consensus Development Conference"[PT] OR guideline*[TI] OR consensus[TI])

268 #11 #8 OR #9 OR #10 281 メタアナリシス,システマティックレ ビュー,診療ガイドライン

#12 #7 AND ("Randomized Controlled Trial"[PT] OR "Randomized Controlled Trials as Topic"[Mesh] OR (random*[TIAB] NOT medline[SB]))

11 #13

#7 AND ("Clinical Trial"[PT] OR "Clinical Trials as Topic"[Mesh] OR "Observational Study"[PT] OR "Observational Studies as Topic"[Mesh] OR (("clinical trial*"[TIAB] OR "case control*"[TIAB] OR "case comparison*"[TIAB]) NOT medline[SB]))

14 #14 (#12 OR #13) NOT #11 8 臨床研究

#15 #7 AND ("Epidemiologic Methods"[Mesh] OR "Comparative Study"[PT] OR "Multicenter Study"[PT] OR "Validation Study"[PT] OR "Evaluation Study"[PT] OR ((cohort*[TIAB] OR "comparative stud*"[TIAB] OR "follow-up stud*"[TIAB] OR "prospective stud*"[TIAB] OR "retrospective study*"[TIAB]) NOT medline[SB]))

302 #16 #15 NOT (#11 OR #14) 171 疫学研究
p.112
CQ感染性心内膜炎発症リスクの高い患者に対する予防的抗菌薬投与は推奨されるか?データベース医中誌Web検索日付2024年8月4日検索者日本医学図書館協会

#検索式文献数文献種類#01心内膜炎/TH 14,687 #02歯科医療/TH 44,144 #03予防的抗菌剤投与/TH or 抗生物質/TH 199,959 #04 #1 and #2 and #3 156 #05 (心内膜炎/TI or 弁膜炎/TI) and 予防/TA and (抗菌薬/TA or 抗菌剤/TA or 抗生物質/TA) 117 #06 #4 or #5 240 #07 #6 and (DT=1955:2024) 240 #08 #7 and (メタアナリシス/TH or システマティックレビュー/TH or 診療ガイドライン/TH) 60 #09 #7 and (RD=メタアナリシス,診療ガイドライン) 0 #10 #7 and (メタアナリシス/TA or システマティックレビュー/TA or 診療ガイドライン/TA) 3 #11 #8 or #9 or #10 60メタアナリシス,システマティックレビュー,診療ガイドライン#12 #7 and 介入研究/TH 3 #13 #7 and (RD=ランダム化比較試験, 準ランダム化比較試験) 0

#14 #7 and (介入研究/TA or 臨床試験/TA or 第I相試験/TA or 第II相試験/ TA or 第III相試験/TA or 第IV相試験/TA or 第1相試験/TA or 第2相試験/TA or 第3相試験/TA or 第4相試験/TA or 第一相試験/TA or 第二相試験/TA or 第三相試験/TA or 第四相試験/TA or 非劣性試験/TA or 同等性試験/TA or ランダム割付け/TA)

2 #15 (#12 or #13 or #14) not #11 3 臨床研究

#16 #7 and (疫学研究特性/TH or 疫学的研究デザイン/TH) 8 #17 #7 and (RD=準ランダム化比較試験, 比較研究) 3

#18 #7 and (疫学研究/TA or 疫学的研究/TA or 観察研究/TA or 縦断研究/TA or 後向き研究/TA or 症例対照研究/TA or 前向き研究/TA or コホート研究/TA or 追跡研究/TA or 断面研究/TA or 介入研究/TA or 実現可能性研究/TA or 双生児研究/TA or 多施設共同研究/TA or パイロットプロジェクト/TA or 標本調査/TA or クロスオーバー研究/TA)

1 #19 (#16 or #17 or #18) not (#11 or #15) 5 疫学研究
p.113
#検索式文献数文献種類#01 (endocarditis:ti OR endocarditide*:ti) AND (infect*:ti,ab,kw OR bacterial:ti,ab,kw) 216 #02 prevent*:ti,ab,kw OR prophylactic*:ti,ab,kw 303,429

#03 antibiotic*:ti,ab,kw OR (anti NEXT bacterial NEXT agent*):ti,ab,kw OR (antibacterial NEXT agent*):ti,ab,kw OR (anti NEXT bacterial NEXT compound*):ti,ab,kw OR (bacteriocidal NEXT agent*):ti,ab,kw OR bacteriocide*:ti,ab,kw OR (anti NEXT mycobacterial NEXT agent*):ti,ab,kw OR (antimycobacterial NEXT agents*):ti,ab,kw 45,677 #04 #1 AND #2 AND #3 28 #05 #4 with Cochrane Library publication date from Feb 1955 to Jun 2024 28 #06 #5 CDSR 1 Cochrane Database of Systematic Reviews #07 #5 CCRCT 26 Cochrane Central Register of Controlled Trials

CQ感染性心内膜炎発症リスクの高い患者に対する予防的抗菌薬投与は推奨されるか?データベースCochrane Library検索日付2024年8月4日検索者日本医学図書館協会
p.114
CQ2作成過程

付図2 CQ2 文献検索フローチャート

Records screened (1st Screening)

(n=141)

Full-text articles assessed for eligibility (2nd screening)

(n=33)

Studies included in qualitative synthesis

(n=9)

Studies included in qualitative synthesis (meta-analysis)

(n=7) Records excluded

(n=108)

Full-text articles excluded, with reasons

(n=24)

Total records identified through database searching

(n=133) Additional records identified through other sources

(n=8)

PubMed

69 医中誌

63 Cochrane

2 重複が1件
p.115
付表2 CQ2 作成過程 データベース検索式と検索結果

CQ脳出血を合併した感染性心内膜炎例では,適応があれば4週間以内に手術を行うことが推奨されるか?データベースPubMed検索日付2024年8月4日検索者日本医学図書館協会

#検索式文献数文献種類#01 "Endocarditis/surgery"[Mesh] OR ("Endocarditis/therapy"[Mesh] AND "Surgical Procedures, Operative"[Mesh]) 5,966 #02 "Intracranial Hemorrhages"[Mesh] 82,849 #03 "Time Factors"[Mesh] OR "Operative Time"[Mesh] OR "Acute Care Surgery"[Mesh] OR "Emergency Medicine"[Mesh] 1,272,434 #04 #1 AND #2 AND #3 13

#05 (endocarditis[TI] OR endocarditide*[TI]) AND (surg*[TIAB] OR operati*[TIAB] OR treatment[TIAB]) AND infect*[TIAB] AND ("cerebral hemorrhage*"[TIAB] OR "cerebral haemorrhage*"[TIAB] OR " i n t r a c r a n i a l h e m o r r h a g e * " [ T I A B ] O R " i n t r a c r a n i a l haemorrhage*"[TIAB] OR "brain hemorrhage"[TIAB] OR "brain haemorrhage"[TI] OR "cerebral complication*"[TIAB]) AND (time*[TIAB] OR timing[TIAB] OR early[TIAB] OR interval[TIAB] OR emergen*[TIAB] OR earlier[TIAB])

118 #06 #4 OR #5 124

#07 #6 AND 1955/2[DP]:2024/6[DP] 124 #08 #7 AND ("Meta-Analysis"[PT] OR "Meta-Analysis as Topic"[Mesh] OR "meta-analysis"[TIAB]) 1

#09 #7 AND ("Cochrane Database Syst Rev"[TA] OR "Systematic Review"[PT] OR "Systematic Reviews as Topic"[Mesh] OR "systematic review"[TIAB])

2 #10

#7 AND ("Practice Guideline"[PT] OR "Practice Guidelines as Topic"[Mesh] OR "Consensus"[Mesh] OR "Consensus Development Conferences as Topic"[Mesh]  OR "Consensus Development Conference"[PT] OR guideline*[TI] OR consensus[TI])

2 #11 #8 OR #9 OR #10 4 メタアナリシス,システマティックレ ビュー,診療ガイドライン

#12 #7 AND ("Randomized Controlled Trial"[PT] OR "Randomized Controlled Trials as Topic"[Mesh] OR (random*[TIAB] NOT medline[SB]))

3 #13

#7 AND ("Clinical Trial"[PT] OR "Clinical Trials as Topic"[Mesh] OR "Observational Study"[PT] OR "Observational Studies as Topic"[Mesh] OR (("clinical trial*"[TIAB] OR "case control*"[TIAB] OR "case comparison*"[TIAB]) NOT medline[SB]))

5 #14 (#12 OR #13) NOT #11 6 臨床研究

#15 #7 AND ("Epidemiologic Methods"[Mesh] OR "Comparative Study"[PT] OR "Multicenter Study"[PT] OR "Validation Study"[PT] OR "Evaluation Study"[PT] OR ((cohort*[TIAB] OR "comparative stud*"[TIAB] OR "follow-up stud*"[TIAB] OR "prospective stud*"[TIAB] OR "retrospective study*"[TIAB]) NOT medline[SB]))

64 #16 #15 NOT (#11 OR #14) 59 疫学研究
p.116
CQ脳出血を合併した感染性心内膜炎例では,適応があれば4週間以内に手術を行うことが推奨されるか?データベース医中誌Web検索日付2024年8月4日検索者日本医学図書館協会

#検索式文献数文献種類#01心内膜炎/TH and (SH=外科的療法,治療) 5,275 #02頭蓋内出血/TH 63,119 #03時間因子/TH or 手術時間/TH or 急性期外科学/TH or 救急医学/TH 40,310 #04 #1 and #2 and #3 2

#05 (心内膜炎/TI or 弁膜炎/TI ) and (脳出血/TA or 脳内出血/TA or 頭蓋内出血/TA or 頭蓋内血腫/TA or 頭蓋窩血腫/TA or 脳実質内出血/TA or 脳内血腫/TA) and (手術/TA or 外科/TA)

82 #06 #4 or #5 83

#07 #6 and (DT=1955:2024) 83 #08 #7 and (メタアナリシス/TH or システマティックレビュー/TH or 診療ガイドライン/TH) 0メタアナリシス,システマティックレビュー,診療ガイドライン#09 #7 and (RD=メタアナリシス, 診療ガイドライン) 0 #10 #7 and (メタアナリシス/TA or システマティックレビュー/TA or 診療ガイドライン/TA) 0 #11 #8 or #9 or #10 0 #12 #7 and 介入研究/TH 0 #13 #7 and (RD=ランダム化比較試験, 準ランダム化比較試験) 0

#14 #7 and (介入研究/TA or 臨床試験/TA or 第I相試験/TA or 第II相試験/ TA or 第III相試験/TA or 第IV相試験/TA or 第1相試験/TA or 第2相試験/TA or 第3相試験/TA or 第4相試験/TA or 第一相試験/TA or 第二相試験/TA or 第三相試験/TA or 第四相試験/TA or 非劣性試験/TA or 同等性試験/TA or ランダム割付け/TA)

1 #15 (#12 or #13 or #14) not #11 1 臨床研究

#16 #7 and (疫学研究特性/TH or 疫学的研究デザイン/TH) 9 #17 #7 and (RD=準ランダム化比較試験, 比較研究) 5

#18 #7 and (疫学研究/TA or 疫学的研究/TA or 観察研究/TA or 縦断研究/TA or 後向き研究/TA or 症例対照研究/TA or 前向き研究/TA or コホート研究/TA or 追跡研究/TA or 断面研究/TA or 介入研究/TA or 実現可能性研究/TA or 双生児研究/TA or 多施設共同研究/TA or パイロットプロジェクト/TA or 標本調査/TA or クロスオーバー研究/TA)

1 #19 (#16 or #17 or #18) not (#11 or #15) 10 疫学研究

#20 #7 and (PT=原著論文,総説 CK=ヒト) 62 #21 #20 not (#11 or #15 or #19) 52その他の原著論文・総説
p.117
CQ脳出血を合併した感染性心内膜炎例では,適応があれば4週間以内に手術を行うことが推奨されるか?データベースCochrane Library検索日付2024年8月4日検索者日本医学図書館協会

#検索式文献数文献種類#01 (endocarditis:ti OR endocarditide*:ti) AND (infect*:ti,ab,kw OR bacterial:ti,ab,kw) 235

#02 (surg*:ti OR operati*:ti OR treatment:ti) AND (time*:ti,ab,kw OR timing:ti,ab,kw OR early:ti,ab,kw OR interval:ti,ab,kw OR emergen*:ti,ab,kw OR earlier:ti,ab,kw) 148,651

#03 (cerebral NEXT hemorrhage*):ti,ab,kw OR (cerebral NEXT haemorrhage*):ti,ab,kw OR (intracranial NEXT hemorrhage*):ti,ab,kw OR (intracranial NEXT haemorrhage*):ti,ab,kw OR (brain NEXT hemorrhage*):ti,ab,kw OR (brain NEXT haemorrhage*):ti,ab,kw OR (cerebral NEXT complication*):ti,ab,kw 8,760 #04 #1 AND #2 AND #3 2 #05 #4 with Cochrane Library publication date from Feb 1955 to Jun 2024 2 #06 #5 CDSR 0 Cochrane Database of Systematic Reviews #07 #5 CCRCT 2 C o c h r a n e C e n t r a l R e g i s t e r o f Controlled Trials
p.118
1 抗菌薬と薬剤感受性に関する解説

1.1 薬剤感受性はどのように判定されるのか

1.1.1 薬剤感受性検査の基準と判断(Appendix表1821-824), Appendix表2)

薬剤感受性検査は治療効果を予測する場合に参考とする.日本では米国臨床検査標準化協会(CLSI)が作成している基準を参考に検査が実施されており,微量液体希釈法およびディスク拡散法の2つがある.微量液体希釈法では,最小発育阻止濃度(MIC)を測定している施設が多い825, 826).薬剤感受性検査結果は,S(感性)やI(中間耐性),R(耐性)に加えて,最近ではSDD(Susceptible-Dose Dependent,用量依存性感性)といった結果が報告されることがある.また,すべての微生物で薬剤感受性の判定基準(S,I,R)が

Appendix

設定されているわけではないため,MIC値から薬効評価に必要な情報(体内動態やPK/PDの考え方など)を集めて薬効評価を行うことがある.薬剤感受性についての条件や解釈については,感染症専門医や微生物検査技師,薬剤師などの専門家に相談する.

1.1.2 耐性菌の確認検査

耐性菌検査のうち,遭遇する機会の多いESBL産生性E. coliやMRSAは標準的な感受性検査に加えて実施する. グラム陽性球菌に対してゲンタマイシンやストレプトマイシンの併用を行う場合があるが,streptococciやenterococciはアミノグリコシド系薬に元来耐性(内因性耐性)であるため,感受性検査の測定濃度レンジが異なる.たとえば,ゲンタマイシンではMICが512 μg/mLという高い濃度を測定し,耐性であればアミノグリコシド高度耐性菌(HLAR)と呼ばれ,併用効果が期待できない825).

Appendix 表1 代表的な各種抗菌薬・抗真菌薬のPK/PD パラメータ

PK/PD パラメータTime above/MIC Cmax/MIC Cpeak/MIC AUC/MIC

抗菌薬・抗真菌薬β-ラクタム系薬(ペニシリン,セフェム,カルバペネム,モノバクタム)エリスロマイシンクリンダマイシンアミノグリコシド系薬フルオロキノロン系薬ダプトマイシンメトロニダゾールアムホテリシンBリポソーム製剤テトラサイクリン系薬アミノグリコシド系薬フルオロキノロン系薬マクロライド系薬(クラリスロマイシン,アジスロマイシン)グリコペプチド系薬(バンコマイシン,テイコプラニン

*)ダプトマイシンオキサゾリジノン系薬エキノキャンディン系薬トリアゾール系薬

*

特徴時間依存性殺菌作用と短い持続効果濃度依存性殺菌作用と長い持続効果AUC依存性殺菌作用と長い持続効果*テイコプラニン,ボリコナゾール,ポサコナゾール ,イサブコナゾールは,血中トラフ濃度を臨床的有効性のPK/PD パラメータとしている(文献821-824をもとに作表)
p.119
1.2 特殊な現象

1.2.1 Inoculum effect(接種菌量効果)およびEagle effect

細菌と抗菌薬の関係では,薬剤感受性試験だけでははっきりしない現象が存在する.

Inoculum effect(接種菌量効果)とは,薬剤感受性試験において接種菌量が多いと抗菌薬の効果が減弱する現象である.β-ラクタマーゼを多く産生する菌や病変部位において菌量が多い症例(骨髄炎や関節炎,IEなどの膿瘍形成が強い場合)に起こしやすくなる.報告されている細菌と抗菌薬の組み合わせでは,Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)とセファゾリン827)やESBL産生のEscherichia coli (大腸菌),Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)とセフォタキシム,セフトリアキソン,セフタジジムなどがある828). NanniniらはMSSA IE患者におけるセファゾリンで確認されたことを報告している829).日本では佐伯らによって調査研究830)がなされたが,inoculum effectが治療失敗につながる結果は得られなかった.現段階では抗菌薬治療への影響ははっきりしていない.

Eagle effectとは,1948年にH. Eagleにより確認された現象で,Streptococcus spp.とEnterococcus faecalis, Staphylococcus spp.に対するペニシリンGの殺菌効果が,最小殺菌濃度(Minimum Bactericidal Concentration:

MBC)を大きく上回る濃度条件下では殺菌されずに生育する(逆説的増殖)ことである831).この現象は,高濃度のペニシリンGに曝露されることで細胞壁の合成能が低下し,結果として抗菌薬の効果が低下することが原因であるとされている832).当初はin vitroのみで観察される現象と考えられていたが,その後の研究により,in vivoでもEagle effectが臨床的に影響を及ぼす可能性が示唆された.実際に,β-ラクタム系薬単剤の治療と比較して,タンパク合成阻害薬との併用により臨床効果が向上したとの報告があり833),さらに,この併用によりEagle effectそのものが抑制されることも確認されている834).一部の臨床ケースでは治療失敗の原因となる可能性があるものの,抗菌薬の選択と投与方法については依然として一貫した結論には至っていない.

2 診断:微生物学的検査

IEの診断に関わる検査のうち微生物検査はきわめて重要な検査である.

血液培養検査は最も基本的な検査であり,微生物が検出された場合は,微生物の特定と治療に必要な抗菌薬の感受性結果について情報提供をすることになる.

Appendix 表2 TDM 対象薬の推奨される使用法と,わが国で承認された使用法の関係

ゲンタマイシンバンコマイシンテイコプラニンPK/PD パラメータCpeak/MIC AUC/MIC AUC/MIC

投与法(腎機能正常時) 1日3 mg/kgを2~3回に分割1日2~3 mg/kgを1回投与*初回のみ 25~30 mg/kg維持量 15~20 mg/kg, 1日2回1 日目・2日目:12 mg/kg,2回3日目:12 mg/kg,1回4 日目以降:6.7 mg/kg,1回採血時点(腎機能正常時)投与開始 2 日目投与開始2~3日目投与開始(3)~4日目

採血ポイントピーク濃度点滴開始から1時間後(30分投与の場合,終了30分後)点滴終了後1時間~2時間(2点採血が必要な場合)測定しない

トラフ濃度投与前30分以内

目標血中濃度ピーク濃度3~5μ g/mL(2~ 3分割投与の場合) 10~12μg/mL (1回投与の場合) - -

トラフ濃度1μg/mL未満- 20~40 μg/mL

目標AUC設定なし400~600μg・h/mL **設定なし

添付文書の用法・用量など1日3 mg/kgを1~3回に分割1日2 gを2 または4回に分割初日800 mgを2回に分割,2日目以降 1日1回400 mg,4日目以降 腎機能に応じて調整*Staphylococcus属菌やEnterococcus属菌では1日1回投与を推奨する**ベイジアン法に基づくソフトウエア等を用いてAUCを推定し,投与設計を行うことが望ましい
p.120
2.1 血液培養検査

2.1.1 血液培養からの菌の分離

a.	培養陽性の報告

血液培養ボトルは,培地成分を利用してCO2産生やpHの変化をもたらし,その変化量をボトルの底にあるセンサーで感知することで微生物の増殖として感知(陽性と判定)する原理である.一般細菌の多くは48時間以内に陽性となり,5~7日で培養を終了することが多いが,真菌の場合,酵母様真菌では48時間以上,Cryptococcus属真菌は10~14日,Aspergillus属真菌では14日以上かかる.

一方,Bartonella属菌,Legionella菌属やMycoplasma属菌では,血液培養機器が感知せず陽性にならないことがある.このことは培養陰性IEの診断には重要であり,培養方法を検討するために目的菌を検査室に伝えることが重要である.

また,Mycobacterium菌属には抗酸菌専用ボトルがあり,検査室から別途取り寄せて培養を行う. b.	グラム染色による菌種推定

血液培養が陽性になった場合,微生物の確認をするためボトル内容物をグラム染色するが,微生物の形態的特徴から菌種が推定できることがあり,情報として収集する.たとえばグラム陽性球菌であった場合,cluster形成があればStaphylococcus属菌,chain形成があればStreptococcus属菌またはEnterococcus属菌の可能性が高く,抗菌薬選択の検討に重要である.

2.2 原因微生物の同定

2.2.1 従来法

微生物が代謝に利用する糖やアミノ酸の性状を確認する方法で,検査には1~数日間かかる.

2.2.2 Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-flight Mass Spectrometer(MALDI- TOF MS)による微生物の同定検査MALDI-TOF MSは質量分析を原理とした同定検査である.同定時間が数分で終了するため,従来法に比べて大幅に時間短縮された.また,同定できる微生物の種類が大幅に増えたことで,より詳細な分析が可能になった.しかし,機器が高額であることから一部の医療機関でしか導入されていない.さらに,検査結果は菌種同定に限られており,感受性検査の結果は判明しない.

2.3 血液培養陰性となる稀なIEの原因微生 物:抗体検査(Appendix表3)

2.3.1 コクシエラ(Coxiella)症(Q熱)

Coxiella burnetiiによる感染症で,病院検査室では培養ができないため,診断には抗体検査か遺伝子検査を行う.

抗体検査の判断基準は急性と慢性で異なり,急性ではII相(野生株の培養株)の陽性,慢性ではI相(野生株)およびII相の陽性(特にI相の高値)である.

治療は,急性Q熱ではテトラサイクリン系薬の10日間投与で慢性Q熱への移行がなければ,予後は良好である.慢性Q熱は標準的な治療終了時期の設定はなく,たとえば抗体価が200倍以下になるまで治療を継続したり,経過が悪い場合は手術も検討する838).

2.3.2 バルトネラ(Bartonella 症)症(猫ひっかき病)

Bartonella属菌は,B. hensellaeとB. quintanaの2菌種が重要である.培養検査による検出は可能であるが,検査が難しいことから,遺伝子検査や抗体検査が診断検査の主流である.抗体検査は間接蛍光抗体法でIgM抗体陽性,またはIgG抗体は単一血清で256倍以上,またはペア血清でIgG抗体の4倍以上上昇,いずれかの場合で診断ができる.

治療は,抗菌薬未投与で治癒することもあるが,IE時は治療が必要であり,アジスロマイシンやリファンピシン,テトラサイクリン,シプロフロキサシンを投与する.

2.3.3 ブルセラ(Brucella)症

B. melitensis,B. suis,B. abortus,B. canisなどがあるが,IEではB. melitensisが最も重症になる.診断検査には抗体検査と遺伝子検査があり,地方衛生研究所や国立感染症研究所に相談しながら行う.急性と慢性があり,急性では発熱,悪寒,リンパ節腫脹,肝脾腫などの症状があり, IEは死亡原因の大半を占める.主な感染経路は,乳製品や肉の摂取であるが,B. canisはイヌから感染することがある.

培養でも分離できるが,検査室内感染を起こすことがあり,取り扱いは慎重に行う.B. abortusとB. canisは検査法が異なるため判定基準も異なる.抗原がB. abortusの場合は40倍以上,B. canisの場合は160倍以上で陽性と判定する.また,Francisella tularensis(野兎病菌)やYersinia enterocolitica(エルシニア菌)との交差反応もあり,結果
p.121
解釈には注意が必要である.

治療は単剤治療による失敗例が多く,通常は2剤または3剤による併用で行う.WHOの推奨として,IEの場合はリファンピシンとドキシサイクリンの併用を最低6週間,最初の2週間はゲンタマイシンを併用することを勧めている.

2.3.4 真菌症(カンジダ属とアスペルギルス属)

真菌によるIEはIE全体の2~5%を占め,致死率が高く,予後不良な疾患である.そのうちカンジダ属真菌の割合は53~68%で,アスペルギルス属真菌によるものは18~ 24%とカンジダ属真菌に比べると少ない203, 839, 840).

また,血液培養からアスペルギルス属真菌が分離される割合は,全血液培養のうち1%未満とかなり稀である.そのため,アスペルギルス属真菌による心内膜炎の診断は非常に難しい.ステロイドの投与歴や抗菌薬の長期投与,血液悪性腫瘍などの患者背景があり,(1→3)-β -D-グルカンやガラクトマンナンの測定により診断が行われることが多い80).本症におけるアスペルギルスIgG抗体検査の有用性は明らかではない3 遺伝子検査の活用(Appendix表4)

遺伝子検査は単一の微生物を標的とするPCR検査から,最初に細菌や真菌,抗酸菌などのレベルで微生物の確認を行い,検出された場合には続けて属レベルや科レベル,種レベルの解析を行って微生物を絞り込んでいくシークエンスによる同定検査がある.また近年では,全ゲノム解析による微生物の同定検査も行われるようになっている.

特に,遺伝子検査が最も役立つのは,抗菌薬の投与後や菌増殖が緩慢になり培養検査で検出ができない微生物の検出ができるところであるが,検査前確率が高い状態で微生物を絞り検査を実施していくことが理想的である.検体採取時の清潔操作に留意し,採取した検体は固定液を用いずに提出する.

3.1 PCRによる微生物同定技術

すでに血液培養などでIEの原因微生物が確定(または推定)している場合に,感染源となる膿汁や手術で採取された組織から直接微生物の確認を行う.組織から行う場合

Appendix 表3 血液培養陰性となる稀な感染性心内膜炎の原因微生物の同定法(抗体検査)

病原微生物内容長所短所文献

バルトネラ症(Bartonella spp.) IgM抗体陽性IgG抗体は単一血清で256倍以上,またはペア血清で4倍上昇感染症の確認検査として有用(培養に時間がかかる)ペア血清による抗体上昇の確認が必要.菌種により試薬や感度が異なる.薬剤感受性の確認ができない石和田稔彦.2012 835)

ブルセラ症(Brucella spp.) B. abortusは40倍以上B. canisは160倍以上感染症の確認検査として有用(培養検査は実験室内感染のリスクが高い)ペア血清による抗体上昇の確認が必要.菌種により試薬や感度が異なる.薬剤感受性の確認ができない. Yersinia enterocoliticaとの交差反応が存在する国立健康危機管理研究機構.ブルセラ症検査マニュアル第3版.2021 836)

Q熱(Coxiella burnetii)急性:II相の確認慢性:I相およびII相の確認感染症の確認検査として有用(培養ができない)ペア血清による抗体上昇の確認が必要.薬剤感受性の確認ができない東京都感染症マニュアル2018 838)

レジオネラ症(Legionella spp.)単一血清では抗体価256倍以上,ペア血清であれば,抗体価128倍以上でかつ4倍以上の上昇がみられた場合感染症の確認検査として有用(培養感度が悪い)ペア血清による抗体上昇の確認が必要.菌種により試薬や感度が異なる.薬剤感受性の確認ができない国立健康危機管理研究機構.レジオネラ症.2025 837)

アスペルギルス症(Aspergillus spp.) IgG抗体が10 AU/mL以上アスペルギルス症(Aspergillus spp.)

IgG抗体が10 AU/mL以上感染症(主に呼吸器)の確認検査として有用(培養感度が悪いため)菌種により感度が異なる.薬剤感受性の確認ができないIE診断における有用性は不明

(文献835-838をもとに作表)
p.122
は,パラフィン切片では検出が難しく,菌量として塗抹染色でも確認できる程度でないと検出が困難である.

3.2 シークエンスによる微生物同定技術

細菌や抗酸菌であれば16S rRNA領域やgyrA領域の遺伝子を増幅し,真菌であれば18S rRNA領域やITS領域の遺伝子を増幅することで微生物の確認を行う.検出ができれば増幅された核酸の遺伝子配列を読み,PCR検査で菌種の最終確認を行う.組織から行う場合は,パラフィン切片では検出が難しく,菌量として塗抹染色でも確認できる程度でないと検出が困難である.

対象となる検体:・弁組織(人工弁含む)および疣種・膿瘍(弁輪周囲,心筋膿瘍,脊椎の生検材料含む)・ペースメーカのリード先端やポケット内容物など

3.3 全ゲノム解析による微生物同定技術

検体中にある大量の遺伝子情報を網羅的な解析を行い微生物の検出を行う検査である(メタゲノム次世代シーケンス[mNGS]).感染症を強く疑うが原因となる微生物の見当がつかない場合や,変異により従来の遺伝子検査では感度が落ちる場合に利用される.そのため,原因微生物の種類が見当つかない場合や薬剤耐性菌の確認も同時に行うことができる.しかし,1回測定あたりのコストは高額で,次世代シークエンス機器のある施設で行うため,多くの頻度で検査は実施できないことから,症例を絞って行う必要がある. 4 主な原因微生物の解説

4.1 Staphylococcus lugdunensis

今回のDukeの診断基準17)で新たに掲載された菌の1つ. S. lugdunensisは,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)の一菌種であり,ヒトの皮膚常在菌で創傷感染などを引き起こす.CoNSではあるものの黄色ブドウ球菌と同等の病原性を持つことに注意すべきである841).市中感染IEの原因菌として分離されることがあり,本菌が血培培養で検出された場合,IEを鑑別すべきである842, 843).臨床的には,弁膜が急性に損傷を受けている症例も多く,心不全を伴う重症例が報告されている844, 845).また,他のCoNSと同様に,人工弁やペースメーカ留置患者では,そのリスクが高くなることが知られている844).β-ラクタマーゼ産生株やメチシリン耐性株が存在するので,薬剤感受性検査の結果を確認する.また,外科的治療が必要となることも多い846).

4.2 緑色レンサ球菌(VGS)

VGSは次のグループに分類される;mitis group (S. mitis,S. sanguinis,S. gordonii,S. oralis ),anginosus group(S. anginosus,S. constellatus,S. intermedius), mutans group(S. mutans,S. sobrinus),salivarius group (S. salivarius).ただし,この中でanginosus groupではIEの発症は稀である.原因菌のうち,S. mutans,S. gordonii,S. sanguinis,S. mitis/oralisは,特に感染源がIEである可能性が高いとされる(Appendix図1) 847).なお,

Appendix 表4 血液培養陰性感染性心内膜炎の原因微生物の同定法(遺伝子検査)

検査方法*使用目的長所短所

PCR標的遺伝子による菌種同定多項目PCRは複数の微生物が一度に検出可能培養で発育が遅い,発育しない微生物の同定薬剤耐性遺伝子の検査を追加することで一部の耐性菌の確認が可能検査技術の習得および機器の準備が必要検体採取時の汚染の可能性パラフィン固定をすると感度が悪くなるので,ホルマリンや培養液は用いないで提出する実際の薬剤感受性はわからない

遺伝子シークエンス16S rRNAなどの遺伝子シークエンスによる菌種同定ほとんどの菌種同定が可能菌量がある程度(塗抹陽性例)必要全ゲノム解析微生物がもつすべての遺伝子情報の確認ができるほとんどの菌種同定が可能薬剤耐性遺伝子の確認が可能*組織や培養コロニーを用いる
p.123
bovis groupについては次に述べる.

4.3 Streptococcus bovis(equinus)

group

以前Streptococcus bovisと呼ばれていたグループは,現在Streptococcus bovis/equinus complexとして,いくつかの(sub)species に分類される.Streptococcus gallolyticus(subsp. gallolyticus)はその1菌種である.IEと最も関連性が高く,かつ大腸結腸癌を高率に認めることでも知られている848).

4.4 栄養要求性レンサ球菌(NVS)

今回の2023 Duke-ISCVD診断基準17)で新たに掲載された菌の1つ.

口腔内や消化管などに常在し,以前はVGSの栄養要求変異株と考えられていた849).現在では,1種のAbiotrophia属(Abiotrophia defectiva)と,3種のGranulicatella 属(Granulicatella adiacens,Granulicatella elegans, Granulicatella balaenopterae)に分類されている850).比較

的長い経過で発症し,診断まで時間を要することから,IEによる塞栓症状や手術を要する弁破壊が発生しやすいと考えられている355).感受性結果は良好でも,抗菌薬治療に抵抗性で,手術を要する症例が多いとの報告もある377).

4.5 Gemella 属菌

今回の2023 Duke-ISCVD診断基準17)で新たに掲載された菌の1つ.

Gemella属菌は,通性嫌気性グラム陽性球菌でヒトの咽頭や上気道,泌尿器,腸管に常在し,現在は8菌種に分類される.NVSと同様に発育要求性の高い細菌で,弁破壊が強い.なかでも,G. morbillorum,G. haemolysansの2菌種によるIEが多い851).

MALDI-TOF MSを用いると同定は容易であるが,一般の生化学性状による確認には時間がかかる.また,16S rRNAシークエンスにより菌種同定することもある.β-ラクタマーゼを産生する株があるため,第一選択薬のペニシリンGに耐性を示すことがあり,ペニシリン系薬の薬剤感

Appendix 図1 レンサ球菌別の菌血症におけるIE 合併率IE:感染性心内膜炎(Chamat-Hedemand S, et al. 2020 847)より) Chamat-Hedemand S, et al., Prevalence of Infective Endocarditis in Streptococcal Bloodstream Infections Is Dependent on Streptococcal Species. Circulation. 2020;142(8):720-730. https://www.ahajournals.org/journal/circ ©2020 American Heart Association, Inc.

S. mutans

S. cristatus S. gordonii

S. gallolyticus

S. sanguinis

G. adiacens S. mitis/oralis

S. parasanguinis

S. salivarius S. agalactiae

S. anginosus

S. pyogenes S. dysgalactiae S. pneumoniae

IE prevalence

Number of cases with BSI

50%

40%

30%

20%

15%

10%

5% 0% 0 25 50 100 200 400 500 1000 2500

Number of IE cases

4 10 40 80

Risk of IE

Low Moderate High Very high
p.124
受性検査の結果には注意を払う必要がある.

4.6 Corynebacterium 属菌

今回の2023 Duke-ISCVD診断基準17)で新たに掲載された菌の1つ.

Corynebacterium属菌はグラム染色所見が特徴的で,菌体は棍棒状や球菌状を示し,菌種推定ができる.血液培養から分離されても,人工物が体内留置されていない場合は殆ど汚染菌として扱われる.しかしながら,カテーテル関連血流感染や,人工弁,人工血管,植込み型心臓電気デバイスなど,人工物に関連した感染症の原因菌として知られている(稀には自己弁でのIE もある).特に,C. striatumやC. jeikeiumはIEの症例から分離されることがある852, 853).血液培養で複数セットからの検出や,持続的に陽性となる場合は注意を要する.また,多剤耐性を示す株があるため,抗菌薬の選択をする場合には薬剤感受性検査の結果が重要となる.

4.7 Cutibacterium(Propionibacterium) acnes

今回の2023 Duke-ISCVD診断基準17)で新たに掲載された菌の1つ.

Cutibacterium acnesは皮膚や毛根に存在する細菌で,以前はPropionibacterium acnesと呼ばれていた.尋常性ざ瘡(いわゆるニキビ)や毛嚢炎に関連し,血液培養では汚染菌として知られている.そのため,Corynebacterium属菌と同様に,人工物が留置されている患者では汚染菌と

の鑑別が重要である.血液培養が陽性となるにはやや日数を要する(中央値7日) 854, 855).耐性菌は少なく,ペニシリン系薬が第一選択薬になる.

4.8 Pseudomonas aeruginosa および Serratia marcescens

今回の2023 Duke-ISCVD診断基準17)で,人工弁や心臓デバイス関連で新たに掲載された菌の1つ.

グラム陰性桿菌のうち,P. aeruginosaとS. marcescensが植込み型心臓電気デバイス関連感染症において,他のグラム陰性桿菌に比べて検出頻度が有意に高かったという報告がある856, 857).しかし,稀ではあるが,他の腸内細菌目細菌やブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌による発生があることにも留意すべきである856).

4.9 Mycobacterium chimaera

非結核性抗酸菌がIEの原因菌となることはきわめて稀であるが,Mycobacterium chimaeraは心臓手術中のヒータークーラー装置を介した術後の感染症として世界的に問題となった858).この菌は播種性感染を引き起こし,IEを発症する858, 859).感染は長い潜伏期間(平均17ヵ月)を有し,診断が遅れることが多い.植込み型心臓電気デバイスや人工弁埋め込み後の患者で,血液培養や病理検体から本菌が検出された場合には注意を要する.
p.125
付表3 2026年改訂版感染性心内膜炎診療ガイドライン:班構成員の利益相反(COI)に関する開示(2023年1月1日~2025年12月31日)

氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・部門の長と共同研究の立場にある場合)

顧問株保有・

利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄附金

班長:泉 知里アレクシオンファーマバイエル薬品ブリストル・マイヤーズスクイブ第一三共第一三共テルモブリストル・マイヤーズスクイブアレクシオンファーマ栄研化学ICONクリニカルリサーチ生産開発科学研究所

班員:上村 史朗Amgenアボットバスキュラージャパンノバルティスファーマアボットバスキュラージャパンニプロ班員:大田 英揮キヤノンメディカルシステムズ班員:岡田 健次エドワーズライフサイエンス班員:合屋 雅彦日本ライフラインジョンソン・エンド・ジョンソンアボットメディカルジャパン日本メドトロニック班員:古賀 政利第一三共第一三共ボストン・サイエンティフィックジャパン班員:福島 賢慈日本メジフィジックスPDRファーマ班員:三浦 崇エドワーズライフサイエンス平和物産九州メディカルサービス協力員:塩澤 真之アボットメディカルジャパン協力員:山本 剛日本財団外部評価委員:中谷 敏エドワーズライフサイエンス
p.126
氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・部門の長と共同研究の立場にある場合)

顧問株保有・

利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄附金

外部評価委員:塩瀬 明ニプロ日本ライフラインCSLベーリングエドワーズライフサイエンス日本メドトロニックマリンクロットファーマアボットメディカルジャパンセンチュリーメディカルエア・ウォーターCorcym Japanエドワーズライフサイエンスアイティーアイアボットメディカルジャパンカナヤ医科器械ジーエムメディカルジェイ・エム・エス日本メドトロニック平和物産エドワーズライフサイエンス日本ライフラインキシヤ外部評価委員:北岡 裕章アストラゼネカファイザーブリストル・マイヤーズスクイブアルナイラムアレクシオンファーマバイエル薬品※法人表記は省略※以下の構成員については申告事項無し副班長:大門 雅夫班員:大原 貴裕班員:芦原 京美班員:加地 修一郎班員:笹野 央班員:髙橋 淳班員:仲野 和彦班員:光武 耕太郎班員:宮本 朋幸班員:村上 智明班員:山田 博胤協力員:天野 雅史協力員:川村 隆之協力員:坂本 二郎協力員:坂本 哲協力員:志水 太郎協力員:野村 良太協力員:久冨 一輝協力員:邉見 宗一郎協力員:舛本 慧子協力員:柳田 憲一協力員:吉岡 大輔外部評価委員:木村 利美外部評価委員:尾辻 豊※本ガイドライン作成に掛かるすべての費用は日本循環器学会が負担しており,民間企業からの資金提供は受けていない.
p.127
文献

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