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2021 年3 月27 日発行
日本循環器学会/ 日本心臓病学会/ 日本心臓血管外科学会/ 日本血管外科学会/日本胸部外科学会合同ガイドライン2021年改訂版先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドラインJCS/JCC/JSCS/JSVS/JATS 2021 Guideline on Catheter Intervention for Congenital Heart Disease and Structural Heart Disease
合同研究班・参加学会
日本循環器学会 日本心臓病学会 日本心臓血管外科学会 日本血管外科学会 日本胸部外科学会
日本医学放射線学会 日本インターベンショナルラジオロジー学会 日本小児循環器学会日本心血管インターベンション治療学会 日本先天性心疾患インターベンション学会 日本脳卒中学会
班員
大月 審一大月 審一岡山大学病院岡山大学病院小児循環器科小児循環器科大野 洋平大野 洋平
東海大学医学部東海大学医学部内科学系循環器内科学内科学系循環器内科学
泉 知里泉 知里国立循環器病研究センター国立循環器病研究センター
心臓血管内科心臓血管内科
赤木 禎治赤木 禎治岡山大学病院岡山大学病院循環器内科学循環器内科学
小林 俊樹小林 俊樹埼玉医科大学国際医療センター埼玉医科大学国際医療センター
小児心臓科小児心臓科坂田 芳人坂田 芳人池上総合病院ハートセンター池上総合病院ハートセンター
循環器内科循環器内科
倉谷 徹倉谷 徹大阪大学大学院医学系研究科大阪大学大学院医学系研究科
低侵襲循環器医療学低侵襲循環器医療学
金子 英弘金子 英弘東京大学医学部東京大学医学部
循環器内科循環器内科
須田 憲治須田 憲治久留米大学医学部久留米大学医学部
小児科小児科田島 廣之田島 廣之埼玉医科大学国際医療センター埼玉医科大学国際医療センター
画像診断科画像診断科
杉山 央杉山 央聖隷浜松病院聖隷浜松病院小児循環器科/ 成人先天性心疾患科小児循環器科/ 成人先天性心疾患科
塩瀬 明塩瀬 明九州大学病院九州大学病院心臓血管外科心臓血管外科
前川 裕一郎前川 裕一郎浜松医科大学医学部浜松医科大学医学部
内科学第三講座内科学第三講座松原 広己松原 広己岡山医療センター岡山医療センター
循環器内科循環器内科
原 英彦原 英彦東邦大学医療センター大橋病院東邦大学医療センター大橋病院
循環器内科循環器内科
多田 憲生多田 憲生仙台厚生病院仙台厚生病院循環器内科循環器内科班長坂本 喜三郎坂本 喜三郎静岡県立こども病院静岡県立こども病院
心臓血管外科心臓血管外科
河村 朗夫河村 朗夫国際医療福祉大学成田病院国際医療福祉大学成田病院
循環器内科循環器内科
森野 禎浩森野 禎浩岩手医科大学岩手医科大学循環器内科循環器内科矢崎 諭矢崎 諭榊原記念病院榊原記念病院小児循環器科小児循環器科安河内 聰安河内 聰長野県立こども病院長野県立こども病院
循環器科循環器科山上 宏山上 宏国立病院機構大阪医療センター国立病院機構大阪医療センター
脳卒中内科脳卒中内科
吉村 宣彦吉村 宣彦新潟大学医学部新潟大学医学部
放射線医学放射線医学
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
目次
改訂にあたって8
第1 章総論8 1. 概念, 定義 .............................. 08 2. ガイドラインの必要性と目的 ............ 08 3. ガイドラインの基本方針 ................ 09
3.1 本ガイドラインがカバーする範囲 .... 09 3.2 推奨クラス分類とエビデンスレベル .. 09表1推奨クラス分類10
表2エビデンスレベル10表3 Minds 推奨グレード10表4 Minds エビデンス分類(治療に関する論文のエビデンスレベルの分類)
10 4. わが国で使用できる医療機器と承認機器の
オフラベル使用 ........................ 09 5. 施設,設備と医師の要件 ................ 09 6. 多種分野専門家の統合によるハートチーム医療 10
第2 章カテーテル治療のリスク・合併症11 1. 小児におけるリスク・合併症 ............ 11表5小児に対するカテーテル治療11
表6小児におけるカテーテル検査・治療のリスク因子12表7わが国における小児カテーテル治療の合併症(JCIC 統計データより)
12 表8カテーテル治療における有害事象の重症度13
外部評価委員
高山 守正高山 守正榊原記念病院榊原記念病院肥大型心筋症センター肥大型心筋症センター富田 英富田 英昭和大学病院昭和大学病院小児循環器・成人先天性心疾患センター小児循環器・成人先天性心疾患センター
先崎 秀明先崎 秀明国際医療福祉大学成田病院国際医療福祉大学成田病院
小児科小児科
木村 剛木村 剛京都大学大学院医学研究科京都大学大学院医学研究科
循環器内科循環器内科中西 敏雄中西 敏雄国際医療福祉大学成田病院国際医療福祉大学成田病院
小児科小児科(五十音順,構成員の所属は2021 年3 月現在)
協力員
中澤 賢中澤 賢埼玉医科大学国際医療センター埼玉医科大学国際医療センター
画像診断科画像診断科田波 穣田波 穣埼玉県立小児医療センター埼玉県立小児医療センター
放射線科放射線科中川 直美中川 直美広島市立広島市民病院広島市立広島市民病院
循環器小児科循環器小児科
金 成海金 成海静岡県立こども病院静岡県立こども病院
循環器科循環器科
北野 正尚北野 正尚沖縄県立南部医療センター・こども医療センター沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
小児循環器内科小児循環器内科石津 智子石津 智子
筑波大学医学部筑波大学医学部
循環器内科循環器内科大木 宏一大木 宏一東京都済生会中央病院東京都済生会中央病院脳神経内科・脳卒中センター脳神経内科・脳卒中センター
安藤 誠安藤 誠金沢医科大学病院金沢医科大学病院
心臓血管外科心臓血管外科
有田 武史有田 武史福岡和白病院福岡和白病院循環器内科循環器内科
馬場 健児馬場 健児岡山大学病院岡山大学病院小児循環器科小児循環器科山内 治雄山内 治雄東京大学医学部附属病院東京大学医学部附属病院
心臓外科心臓外科
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表9カテーテル治療における手技別リスク分類14
2. 成人におけるリスク・合併症 ............ 15表10 成人に対するカテーテル治療15
第3 章イメージング17 1. 画像診断法の適応 ...................... 17表11 SHD のカテーテル治療におけるイメージング
検査の推奨
18 1.1 経胸壁心エコー法 .................. 17 1.2 経食道心エコー法 .................. 17表12 経食道心エコー法の絶対禁忌と相対禁忌19 1.3 心腔内エコー法 .................... 17 1.4 CT ................................ 19 1.5 MR ................................ 19 2. 心エコー医要件 ........................ 19表13 心エコー医要件に関する各ガイドラインならびに
学会認定の資格基準
20 3. 心エコー装置要件 ...................... 19
第4 章疾患・病態・手技21 1. 先天性心疾患 .......................... 21
1.1 心房中隔欠損症 .................... 21表14 ASD に対するカテーテル閉鎖術21
表15 ASD に対するカテーテル閉鎖術後のフォロー
アップ
21 図1 ASD の種類22表16 経皮的ASD 閉鎖セット使用に関する施設および
術者の基準
23 表17 経皮的ASD 閉鎖セット使用に関する教育プログ
ラム
23 図2 Amplatzer Septal Occluder を用いた二次孔ASDに対する手技の流れ
23 1.2 開窓Fontan 術後 .................. 27表18 先天性心疾患に対する開窓Fontan の閉鎖27 1.3 心室中隔欠損症 .................... 27表19 米国における筋性部VSD 閉鎖の推奨(参考)と
エビデンスレベル
28 1.4 動脈管開存症 ...................... 28表20 PDA に対するカテーテル治療29
図3 Krichenko 分類によるPDA の形態30図4各種Amplatzer devise 30図5 ADO II の留置法31
1.5 心房中隔裂開術 .................... 33表21 先天性心疾患に対するBAS の適応33 1.6 心房間交通作成 .................... 34表22 先天性心疾患に対する心房間交通作成35 1.7 先天性大動脈弁狭窄 ................ 35表23 先天性AS に対するバルーン拡大術35 1.8 小児の先天性僧帽弁狭窄 ............ 36表24 小児の先天性MS に対する治療36 1.9 肺動脈弁狭窄症および右室流出路狭窄 38表25 肺動脈弁狭窄症(小児)に対するカテーテル治療
の適応
38 表26 右室収縮期圧による肺動脈弁狭窄症の重症度分類38表27 肺動脈弁狭窄症(成人)に対するカテーテル治療
の適応
39 表28 新生児重症肺動脈弁狭窄40表29 VSD を伴わない肺動脈閉鎖に対するカテーテル
治療
40 表30 Fallot 四徴に対する経皮的肺動脈弁形成術42
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
表31 術後右室流出路狭窄に対するバルーン拡大術42
1.10 右室肺動脈導管狭窄 ................ 43表32 右室肺動脈導管狭窄43
表33 米国における右室肺動脈導管狭窄に対する導管拡
大術に関する推奨(参考)
45 1.11 肺動脈主幹部‒ 末梢狭窄 ............ 45表34 肺動脈狭窄に対するバルーン血管形成術45
表35 肺動脈狭窄に対するステント留置術46
1.12 大静脈狭窄,心房スイッチ術後狭窄 .. 47表36 大静脈狭窄,心房スイッチ術後狭窄に対するバ
ルーン血管形成術
47 表37 大静脈狭窄,心房スイッチ術後狭窄に対するステ
ント留置術
47 1.13 肺静脈狭窄 ........................ 47表38 肺静脈狭窄に対するステント留置術48 1.14 大動脈縮窄 ........................ 48表39 未治療CoA または再縮窄に対するバルーン血管
形成術
48 表40 未治療CoA または術後再縮窄に対するステント
留置
49 1.15 体肺短絡術後狭窄 .................. 49表41 体肺短絡術後狭窄に対するカテーテル的血管形成
術
50 1.16 小児の動脈管拡大 .................. 51表42 肺血流減少型心疾患の動脈管に対する経カテーテ
ル的拡大術
51 図6大動脈側起始部と肺動脈への経路による動脈管の分類
52 図7 VSD,肺動脈弁狭窄を伴う完全大血管転位の乳児例に対する動脈管ステント
53 1.17 ハイブリッド治療 .................. 52表43 先天性心疾患におけるハイブリッド治療53 2. 異常血管 .............................. 55
2.1 コイルについて .................... 55表44 塞栓用コイルの種類55
表45 コイル塞栓術56
2.2 AVP について ...................... 56図8わが国で使用可能なAVP 57
表46 わが国で承認されているAVP 57表47 Vascular Plug 57表48 Vascular Plug の適応基準と適応除外基準57
2.3 体肺側副動脈 ...................... 58表49 体肺側副動脈に対するカテーテル閉鎖術58 2.4 静脈‒ 静脈短絡 .................... 59表50 静脈‒ 静脈短絡に対する経カテーテル塞栓術59 2.5 体肺短絡術後血管 .................. 60表51 体肺短絡術後血管に対する経カテーテル的閉塞術60 2.6 冠動静脈瘻 ........................ 60表52 冠動脈瘻に対するカテーテル治療施行60
表53 冠動脈瘻に対するカテーテル治療方法61
2.7 肺動静脈瘻 ........................ 62表54 肺動静脈瘻に対するカテーテル塞栓術62 3. 脳梗塞の予防 .......................... 64
3.1 卵円孔開存 ........................ 64表55 脳梗塞再発予防を目的とした経皮的PFO 閉鎖術
を検討する際に必要な検査法
64 表56 脳梗塞の高リスク塞栓源となる心疾患65表57 PFO の関与があり得る潜因性脳梗塞の診断基準65表58 脳梗塞再発予防を目的とした経皮的PFO 閉鎖術
の適応基準
65 図9 PFO の診断アルゴリズム66図10 PFO 診断のための経胸壁心エコー図でのマイクロ
バブル数によるシャントの分類
p.5
図11 経食道心エコー図での卵円孔の形態評価67
3.2 左心耳閉鎖 ........................ 68表59 PFO 閉鎖術を実施できる施設基準69
表60 PFO 閉鎖術を実施できる実施医基準69図12 非弁膜症性心房細動における経皮的左心耳閉鎖術
と脳卒中予防
70 表61 経皮的左心耳閉鎖における抗血栓療法の適応基準
と除外基準
70 表62 左心耳閉鎖術・切除術71
4. 後天性心疾患 .......................... 71
4.1 成人の大動脈弁狭窄症 .............. 71表63 TAVI 実施施設基準(経カテーテル的心臓弁治療関
連学会協議会基準)
72 表64 TAVI におけるTF アプローチ,代替アプローチ適
応
73 図13 TAVI における解剖学的手技リスク評価74表65 TAVI における代替アプローチを施行する体制75表66 TAVI のTA アプローチ75表67 TAVI のTAo/DAo アプローチ76表68 TAVI のTS アプローチ76表69 大動脈弁複合体・左室のTAVI リスク評価76図14 大動脈弁複合体の評価78表70 成人AS に対するPTAV 適応82表71 保険償還されているPTAV バルーン83表72 逆行性PTAV の実施施設と術者に関する推奨84
4.2 僧帽弁狭窄症 ...................... 85表73 Wilkins スコアによる弁膜性状の評価項目86
表74 MS に対するPTMC 適応87表75 PTMC が不適応と考えられる症例88
4.3 僧帽弁閉鎖不全 .................... 89図15 重症一次性MR の手術適応90
図16 左室収縮機能低下に伴う重症二次性MR の手術適
応
90 図17 MitraClip® G4 システムの全体像と4種類のクリップ91図18 MitraClip® システムの挿入からクリップの固定方法91図19 MitraClip® の治療対象となる僧帽弁尖の解剖学的
特徴
93 4.4 心筋梗塞後心室中隔穿孔 ............ 94表76 心筋梗塞後心室中隔穿孔の管理94 4.5 弁留置後弁周囲逆流 ................ 95表77 PVL に対する経皮的PVL 閉鎖術95 4.6 三尖弁閉鎖不全 .................... 96図20 経皮的PVL 閉鎖術97
5. 後天性大血管疾患 ...................... 98
5.1 大動脈疾患に対するステントグラフト治療 98表78 ステントグラフト治療の解剖学的適応99
表79 大動脈疾患におけるカテーテル治療の病態的適応101表80 ステントグラフト治療における術前評価103表81 Shaggy aorta に対するステントグラフト治療103表82 ステントグラフト治療におけるアクセス103表83 ステントグラフト治療におけるLanding zone 103表84 ステントグラフト治療における腹腔動脈の cover 104表85 ステントグラフトのタッチアップ104
p.6
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
表86 Chimney technique 105表87 エンドリークの分類105表88 エンドリークに対する追加処置105表89 脊髄虚血の予防・治療105図21 前脊髄動脈への側副血行路106表90 ステントグラフト治療における脳梗塞予防106表91 ステントグラフト治療におけるRTAD,SINE 予
防
107 表92 ステントグラフト治療の手術環境107表93 ステントグラフト治療の治療後107
5.2 急性肺血栓塞栓症 ................ 108表94 急性肺血栓塞栓症に対するカテーテル的血栓溶解
療法
108 5.3 CTEPH .......................... 109表95 慢性肺血栓塞栓症に対するカテーテル治療109 6. 心筋症 .............................. 110
6.1 経皮的中隔心筋焼灼術 ............ 110表96 中隔縮小治療111
図22 肥大型心筋症の表現型の分類112表97 肥大型心筋症の分類112表98 左室のdynamic obstruction の定義112図23 肥大型心筋症患者の ICD 植込み適応フローチャー
ト
116 7. 特殊診断治療手技 .................... 115
7.1 成人の心房中隔穿刺術 ............ 115 7.2 小児の心房中隔穿刺術 ............ 119表99 小児に対する心房中隔穿刺術119
表100小児および先天性心疾患における心房中隔穿刺術の適応
119 7.3 経皮的バルーン心膜開窓術 ........ 120表101経皮的バルーン心膜開窓術120
図24 悪性心嚢液に対する経皮的バルーン心膜開窓術121
(無断転載を禁ずる)
推奨とエビデンスレベル
p.7
略語一覧ACC American College of Cardiology米国心臓病学会ACCP American College of Chest Physicians米国胸部医学会ADO AmplatzerTM Duct Occluder
AHA American Heart Association米国心臓協会
AS aortic (valve) stenosis大動脈弁狭窄症
ASD atrial septal defect心房中隔欠損
ASO Amplatzer Septal Occluder
AVP Amplatzer Vascular Plug BAS balloon atrial septostomyバルーンカテーテルによる心房中隔裂開術BIB balloon in balloon
BPA balloon pulmonary angioplastyバルーン肺動脈形成術
BTS Blalock–Taussig shuntブラロック・トーシッヒ短絡,鎖骨下動脈肺動脈吻合CABG coronary artery bypass grafting冠動脈バイパス術CBTR catheter based thrombus removalカテーテル的血栓除去術CDT catheter directed thrombolysisカテーテル的血栓溶解療法CoA coarctation of aorta大動脈縮窄CT computed tomography, computerized tomographyコンピュータ断層撮影CTEPH chronic thromboembolic pulmonary hypertension慢性血栓塞栓性肺高血圧症DAPT dual anti-platelet therapy抗血小板薬2 剤併用療法DOAC direct oral anticoagulants直接経口抗凝固薬
EOA effective orifice area有効弁口面積
ESC European Society of Cardiology欧州心臓病学会IABP intra-aortic balloon pumping大動脈内バルーンパンピングICD implantable cardioverter defibrillator植込み型除細動器iEOA indexed effective orifice area有効弁口面積係数
IVC inferior vena cava下大静脈
IVUS intravascular ultrasound血管内超音波
LVEF left ventricular ejection fraction左室駆出分画( 率)
LVOT left ventricular outflow tract左室流出路
MR mitral (valve) regurgitation僧帽弁逆流MRA magnetic resonance angiography 磁気共鳴血管造影
MRI magnetic resonance imaging磁気共鳴イメージング
MS mitral (valve) stenosis僧帽弁狭窄症OPCAB off-pump coronary artery bypass体外循環非使用冠状動脈バイパスPDA patent ductus arteriosus動脈管開存症PEA pulmonary thromboendarterectomy肺動脈血栓内膜摘除術LVOT PG left ventricular outflow tract pressure gradient左室流出路圧較差PFO patent foramen ovale卵円孔開存
PPM patient-prosthesis mismatch患者人工弁不適合PTAV percutaneous transcatheter aortic valvuloplasty経皮的大動脈弁バルーン形成術PTMC percutaneous transluminal (transvenous) mitral commissurotomy経皮的静脈的僧帽弁交連切開術PTSMA percutaneous transluminal septal myocardial ablation経皮的中隔心筋焼灼術PVL paravalvular leakage弁周囲漏出
PVR plumonary vascular resistance肺血管抵抗retrograde PTAV retrograde percutaneous transcatheter aortic valvuloplasty逆行性大動脈弁バルーン形成術RTAD retrograde type A aortic dissection逆行性A 型大動脈解離SAM systolic anterior motion収縮期前方運動
SAVR surgical aortic valve replacement外科的大動脈弁置換術
SHD structural heart disease構造的心疾患
SINE stent graft-induced new entry
SOV sinus of Valsalvaバルサルバ洞
SRT septal reduction therapy中隔縮小治療
STJ sino-tubular junction上行大動脈接合部
SVC superior vena cava上大静脈
TA trans-apical経心尖TAVI transcatheter aortic valve implantation経カテーテル的大動脈弁植込み術TF trans-femoral経大腿動脈
THV transcatheter heart valve
TS trans-subclavian経鎖骨下動脈
VSD ventricular septal defect心室中隔欠損症
p.8
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
構造的心疾患(structural heart disease: SHD)のカテーテル治療は,近年急速に発展を遂げつつある.2012年には,日本小児循環器学会と日本先天性心疾患インターベンション学会(JCIC,旧称: JPIC)から,初めて「先天性および小児期発症心疾患に対するカテーテル治療の適応ガイドライン」が発表された1).
そして,2014年には成人領域も含めたわが国では初の「先天性心疾患,心臓大血管の構造的心疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン」2)が発表された.今回はこの改訂版である.弁膜症の治療においては2020年に「弁膜症治療のガイドライン(2020年改訂版)」3)が発表されており,同ガイドラインと整合性を保ちながら新たな知見があれば加えることとした.今回の改訂版では,おもに以下の特徴があげられる.
1カテーテル治療に必要なイメージングの項目の追加2心臓外科専門医との協同執筆3脳卒中専門医との協同執筆
構造的心疾患のカテーテル治療の際には,多様な画像診断の果たす役割が大きい.そのため,新たにイメージングの項目を加えた.また,ブレインハートチームという言葉に代表される,領域を超えた専門医の対話・協力が不可欠である.本ガイドラインでは,小児および成人循環器医,心臓外科医,放射線科医,そして新たに脳卒中専門医が参加し,協同して執筆した.
従来のガイドラインのエビデンスレベルの表記では,ランダム化介入臨床試験の結果は登録研究よりエビデンスレベルが高いという考えを基本としているのに対し,Mindsエビデンス分類は,エビデンスレベルのもととなった試験や研究の種類を示したものであり,これらの表記内容は同一ではない.したがって,本ガイドラインにおけるMinds推奨グレード・Mindsエビデンス分類はあくまで参考として記載したものである.
改訂にあたって
第1章 総論
1 概念,定義
心血管疾患のカテーテル治療の発展に伴って構造的心疾患(SHD)という概念が生まれた4, 5).SHDとは,心臓の構造的な異常により病的状態をきたす疾患群である.本カイドラインでは,これらの疾患のカテーテル治療について概説し,現時点での治療適応,治療成績,合併症とその対策
などについて示す.
心臓大血管疾患を手術せずに治したいと思うのは,患者のみならず医療従事者の願いでもあろう.ましてや,それ
2 ガイドラインの必要性と目的
p.9
が手術と同等ないし手術以上の効果があるとすれば,患者にとっては福音である.そのような患者の願いと,機器の発展が相まって,カテーテル治療は近年急速に広まってきている.これには2つの大きな要因がある.その第一は外科的治療では危険が大きく治療対象に含まれなかった高齢者世代の増加,第二はカテーテル治療機器・画像診断技術の革命的な進歩である.
先天性心疾患や心臓大血管の構造的疾患の種類は多岐にわたり,施行する術者も,小児循環器医から,循環器内科医,心臓血管外科医,放射線科医までと幅広い.施行する施設や術者の基準が関連学会で定められた術式もある.本ガイドラインでは現時点で得られる臨床成績の報告と専門家の意見に基づいて,これらの多岐にわたる術式をまとめ,一定の治療方針を勧告した.
原則として,本ガイドラインは胸郭内の疾患に限定することとした.ただし,大動脈瘤など範囲が腹部に及ぶものも含めた.
推奨クラス分類とエビデンスレベルは,ACC/AHAガイドラインに準じて,以下の分類を用いた(表1,表2).また,公益財団法人日本医療機能評価機構のevidencebased medicine(EBM)普及推進事業(Minds)が診療ガイドラインの作成方法として公開している「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007」6)に準拠した推奨グレードとエビデンスレベルも記載した(表3,表4) 6).
推奨クラス分類とエビデンスレベルは,本ガイドライン作成委員の討議によって決定した.先天性心疾患のカテーテル治療では,患者数が比較的少ないこともあり,無作為介入臨床試験が非常に困難である.無作為介入臨床試験により得られた結果が少ないことから,先天性心疾患のカテーテル治療の手技や機器に関する報告では,エビデンスレベルAのものはほとんどなく,多くはBかCである.また先天性心疾患の治療方針は,施設ごとに異なることも多く,各施設で症例ごとに内科と外科とで討論しながら決定しているのが世界各国の実情である.本ガイドラインでは,
3 ガイドラインの基本方針
3.1 本ガイドラインがカバーする範囲
3.2 推奨クラス分類とエビデンスレベルエビデンスレベルB,Cであっても,専門家の意見がカテー
テル治療に限定して広く一致していれば,クラスIとした.したがって,クラスIが必ずしも外科的治療に優って推奨されることを意味するものではない.
成人の弁膜症では心臓外科手術の成績は良好であり,多数の患者が恩恵を受けてきた.しかし危険度の高い超高齢者や,併発する肝臓・腎臓などのほかの重症疾患,悪性腫瘍寛解期など,さまざまな要因が治療成績を左右する.新しい治療にエビデンスレベルの高い科学的証拠を得るには治療法の普及を待つ必要があるが,本ガイドラインでは指針となるクラスを示せなくても,できるだけ新しい情報をもとに解説することに努めた.
わが国で使用できる医療機器は欧米に比べ大きく遅れをとっており,いわゆるdevice lagが生じている.また,米国においても先天性心疾患や構造的心疾患に用いる機器は,いわゆる“オフラベル”での使用が多いことが問題となっているが,医師-患者間の良識ある関係を緊密に保ち,十分な説明への同意と,治療の意義・費用などについて各施設の倫理委員会の承認が得られるならば,公共機関の承認を必要とするものではないとされる5).FDAの人道機器適用免除(humanitarian device exemption)の制度は,わが国では留置機器に関しては制定されていない.しかし高度先進医療などの方法による治療範囲拡大は可能であり,これらの成績報告は本ガイドラインに活かすものとした.
また,わが国で未認可の治療法だが,その存在や結果の発表などは周知のものがある.本ガイドラインでは,それらも,わが国で未認可であることを明記して記載することとした.ただし,推奨のレベルは記載しないこととした.
わが国では,先天性心疾患や心臓大血管の構造的疾患に対するカテーテル治療の専門医のシステムは確立されていない.機器や手技ごとの基準がある場合があり,たとえばAmplatzer 心房中隔欠損(ASD)閉鎖栓留置術, Amplatzer動脈管閉鎖栓留置術,TAVI,MitralClip ®,大動脈ステントグラフト内挿術などは,それぞれ施設基準・術者基準が定められている.
4 わが国で使用できる医療機器と 承認機器のオフラベル使用
5 施設,設備と医師の要件
p.10
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
小児循環器領域にはカテーテル治療専門医制度や確立された教育制度がないが,成人領域には日本心血管インターベンション治療学会による認定医・専門医の制度がある.しかし現時点では,冠動脈疾患をおもな対象とした制度である.心臓大血管の構造的心疾患に対するカテーテル治療を行う際には,対象疾患の診断カテーテルに習熟し,カテーテル治療手技のトレーニングを受けた後に術者となることが望ましい.
カテーテル治療医と心臓血管外科医ならびに,脳神経科医,麻酔科医,画像診断医が協力し,コメディカルを含めたブレインハートチームを構成して初めて良好な成績に到達できる.先天性心疾患や心臓大血管の構造的疾患に対するカテーテル治療を施行する施設では,必要な機器を完備して治療を日常的に施行し,カテーテル室で働く医療関係者がすべての手技の流れに習熟していることが重要である.
6 多種分野専門家の統合による ハートチーム医療
表1 推奨クラス分類
クラスI手技・治療が有効・有用であるというエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.クラスIIaエビデンス・見解から, 有効・有用である可能性が高い.クラスIIbエビデンス・見解から,有効性・有用性がそれほど確立されていない.
クラスIII No benefi t手技・治療が有効・有用でないとのエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.
クラスIII
Harm手技・治療が,有害であるとのエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.
表2 エビデンスレベル
レベルA複数の無作為介入臨床試験,またはメタ解析で実証されたもの.レベルB単一の無作為介入臨床試験,または大規模な無作為介入でない臨床試験で実証されたもの.レベルC専門家,および/または小規模臨床試験(後ろ向き試験および登録を含む)で意見が一致したもの.表3 Minds 推奨グレード
グレードA強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる.
グレードB科学的根拠があり,行うよう勧められる.
グレードC1科学的根拠はないが,行うよう勧められる.
グレードC2科学的根拠はなく,行わないよう勧められる.
グレードD無効性あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないよう勧められる.推奨グレードは,エビデンスのレベル・数と結論のばらつき,臨床的有効性の大きさ,臨床上の適用性,害やコストに関するエビデンスなどから総合的に判断される. (Minds診療ガイドライン選定部会.Minds診療ガイドライン作成の手引き2007医学書院.2007. p.16 6)より)表4 Minds エビデンス分類(治療に関する論文のエビデンスレベルの分類)
Iシステマティック・レビュー/ ランダム化比較試験のメタアナリシス
II 1 つ以上のランダム化比較試験
III非ランダム化比較試験
IVa分析疫学的研究(コホート研究)
IVb分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
V記述研究(症例報告やケースシリーズ)
VI患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見(Minds診療ガイドライン選定部会.Minds診療ガイドライン作成の手引き2007医学書院.2007. p.15 6)より)
p.11
心エコー,造影CTやMRIなどの画像診断法の進歩により,診断を目的とした心臓カテーテル検査は減少した.一方,カテーテル治療法の発展により心臓カテーテル全体におけるカテーテル治療の比率が増加している7).
心臓カテーテルは,観血的な手技である.そのため穿孔を含む血管損傷,出血,血栓,感染,神経系合併症,不整脈などの合併症に加え,造影剤による薬剤性アレルギーやアナフィラキシーショックなどの合併症や有害事象のリスクを0%にすることはできない1, 7-15).小児では,全身麻酔や鎮静を必要とすることが多く,麻酔・鎮静による呼吸抑制や肺合併症のリスク,循環動態への影響などによるリスクが加わる16, 17). さらに,放射線被曝のリスクも成人より大きい18 -20).
小児のリスク因子は,小児であること自体による未熟性や体格の問題に加え,先天性心疾患などの解剖的異常の多様性,容易に循環の破綻を生じる不安定な血行動態,遺伝子疾患のような全身疾患の合併など,手技以外の多くのリスク因子がある7, 10, 14, 21).さらに,緊急的対応を求めら
第2章 カテーテル治療のリスク・合併症
れることが多いうえに,検査・治療手技の多様性と難度が高く,術者を含めた検査・治療チームの熟練など考慮すべきリスク因子は多岐にわたる10, 14, 21-23)(表6).
過去の報告では,カテーテル検査の死亡率は0.14%,重篤な合併症は1.5~2.1%,軽度の合併症は6.8~9.2%とされている.一方,カテーテル治療の死亡を含めた重症合併症の発生率は1.4~7.1%と報告されている10, 11, 13, 14, 22, 23).とくに最近では,CHARM やIMPACTなどのregistry dataを用いた統計解析が行われるようになり,有害事象発生率の集計がより正確に報告解析されるようになっている.
わが国においても,日本先天性心疾患カテーテル治療学会(JCIC)によるアンケート調査が1990年から行われており,2016年からは全国で先天性心疾患,川崎病心血管後遺症,頻拍性不整脈に対するインターベンションを行う全施設によるonline登録システム(JCIC-registry data)として整備されるようになった24-29).
このシステムによると,カテーテル治療件数は年々増加し,現在では不整脈に対するカテーテル治療も含め,年間5,000件近くのカテーテル治療が行われている.報告された死亡率は0.1~0.2%,合併症の発生率は2.7~3.8%(ステント留置を除くと1~2%)とほぼ一定である(表7).手技のなかでは,ステント留置の合併症発生率が9.3~
1 小児におけるリスク・合併症 (表5)
表5 小児に対するカテーテル治療に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベルMinds
推奨グレードMinds
エビデンス
分類
カテーテル治療において,registry data による有害事象発生予測によるリスク層別化を行う. I A B Iカテーテル検査治療の安全な施行のために,非侵襲的診断方法による形態や血行動態に関する術前評価を考慮する. IIa C C1 IVb
カテーテル治療の安全な施行のために,術前計画を考慮する. IIa C C1 IVbカテーテル治療の安全な施行のために,多領域専門職による治療チームで治療内容や合併症対策を情報共有することを考慮する. IIa C C1 IVb
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
18.9%と非常に高く,重症大動脈弁狭窄や肺動脈閉鎖などの新生児の重症例に対するカテーテル治療の合併症発生率が11~19%で,そのほかの手技の2~4%と比較するとこれらの手技のリスクが高いことが示唆されている.また
合併症の発生は,新生児から乳早期症例に多く,年齢的要素も大きいと考えられる.
この20年間,シースの細径化や治療器具の進歩や手技の改善などにより手技自体の安全性は向上してきたが,それにもかかわらず合併症発生率と死亡率は2008年以後ほぼ一定の発生率で推移している.その理由としては,新しい治療法の導入に加え,治療対象や治療適応の拡大に伴って,より難度が高いカテーテル治療が増加していることが考えられる.また,ステント留置に関する合併症発生率が高い理由としては,小児用のステントの開発・導入が進んでいないことも無関係とはいえない.さらに治療を行う施設や術者の増加に伴う術者の熟練度の問題など,さまざまな要因が考えられる30).
診断カテーテルまたは治療目的のカテーテルにかかわらず,頻度が高い合併症としては,穿刺部の血管損傷(動静脈の閉塞,血腫,動静脈瘻)が1.4%,不整脈が1%と報告されている7, 10, 14).このほか,出血,血栓塞栓,感染,神経系合併症,麻酔や薬物に関連した合併症,大血管や心房の穿孔,心室弁の損傷が報告されている.カテーテル治療に特有な合併症としては,バルーン拡大に伴うバルーン破裂や回収困難,血管形成術に伴う血管壁解離や血管穿孔,仮性動脈瘤形成,バルーン弁形成術による弁逆流の出現や増悪,弁輪破裂,ガイドワイヤなどによる右室流出路穿孔,コイル閉鎖栓,ステントなど留置型デバイスの脱落
表7 わが国における小児カテーテル治療の合併症(JCIC 統計データより)
2008 年2009 年2010 年2016 年2017 年2018 年
カテーテル治療総件数3,058 3,571 3,767 4,380 4,804 4,909死亡率(%) 0.1 0.25 0.13 0.3 0.1 0.2合併症発生率(%) 3.1 3.1 2.7 4.1 3.8 3.8大動脈弁形成術3 5.8 14.6 2.4 2.4 10.4肺動脈弁形成術6 6.6 4.4 3.7 3.7 4.1バルーン拡大術1.8 2.8 2.5 4.4 5.3 4.4ステント留置16.7 18.9 10.7 13.3 14.4 9.3心房中隔裂開1 2.1 3 2.7 2.2 4.3コイル塞栓術3.6 2.3 1.8 3.6 3.9 3.9 ASD閉鎖術1.9 1.7 1.2 1.8 1.8 2動脈管閉鎖術1.9 2.3 0.5 4 4 2.2 (日本Pediatric Interventional Cardiology学会.2009
24),日本Pediatric Interventional Cardiology学会.2010 25),日本Pediatric Interventional Cardiology学会.2011
26),金成海,他.2017 27),芳本潤,他.2018 28),金成海,他.2019 29)より作表)
表6 小児におけるカテーテル検査・治療のリスク因子・ 体格・ 未熟性・ 遺伝疾患・ 先天性心疾患・ 不安定な血行動態・ 麻酔・鎮静の必要性・ 高い放射線感受性・ 心臓以外の先天異常の合併気道・肺疾患消化管異常腎疾患肝疾患神経・筋疾患血液疾患・凝固異常・ 検査/治療手技の多様性と難度
vascular approach (穿刺の困難性)緊急的治療が多い多様な治療手技:症例に応じた治療の必要性治療手技の難度治療者および介助者の熟練度施設の治療件数多領域にわたる治療チーム体制小児用検査・治療deviceの開発(Bergersen L, et al. 2011
10),Jayaram N, et al. 2017 14),Lin CH, et al. 2014 21),Holzer RJ, et al. 2020
22),O'Byrne ML, et al. 2019 23)より作表)
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や塞栓,ASD閉鎖栓による心房壁や大動脈壁などへの心侵食や完全房室ブロックなどが報告されている.
患者の体格や年齢も大きなリスク因子である.年齢による有害事象発生について,小児(4.3%)や成人(5.3%)に比べ,新生児期に22.2%と多い14).IMPACT registryのまとめでは,カテーテル治療手技よりも生後30日以内の新生児における診断カテーテルがもっともリスクが高いとされている14).新生児期は体格も小さく,体温管理も難しい。また,臓器の未熟性に加え,原疾患に基づく血行動態異常や麻酔による呼吸循環の変調を来しやすい.さらに,対象となる疾患も重症で,高度な技術を要する手技が多く,緊急的対応を必要とすることが多いことなどが高リスクの要因となっている.血管径が細いため穿刺が困難で時間を要することも多く,動脈穿刺部の合併症が有意に多い.最近では,エコーガイド下で穿刺を行うことにより,血管穿刺の確実性を高め,穿刺時間短縮に加えて合併症を減少させて安全性を高めたという報告もある.
小児においては,放射線被曝の問題も無視できない.小児の心臓カテーテルによる放射線被曝については,診断カテーテルで3.42 ± 3.64 mSv(平均値±標準偏差),カテーテル治療で5.97 ± 7.05 mSvという報告がある19, 20).造影CTの被曝線量の5~7.5 mGyと比較しても非常に多く,積算被曝量に大きな影響を与える.被曝線量は,透視時間,パルス透視のframe/秒,撮像時間,フィルター設定,血管撮影装置の種類により規定され,同じ透視時間であっても放射線感受性が高い新生児・乳児では被曝線量は大きく
なる18).また,小児では甲状腺や乳腺が照射野外に出ないため,透視のたびにリスク臓器が被曝することにもなる.透視時間を必要最低限に短縮するほか,透視のパルスレートを下げ,可能であればリスク臓器を照射野外に外す.フットスイッチはこまめに切り,ラストイメージホールド,デジタルズームの利用や,グリッドを外すなど線量低減のための努力と工夫が必要である.事前に綿密に計画を立てたうえで,漫然と透視や造影を繰り返さず,心エコーなどの画像診断を併用して被曝の低減に努めるべきである31).
小児のカテーテル治療では,対象疾患や治療部位,治療手技によってもリスクは大きく異なる.また発生した有害事象の重症度も,一過性で治療が必要ないものから,死亡に至るものまで多様である.こうした有害事象の発生を予測し,予防する試みがregistry dataを用いて行われるようになった.
有害事象のリスクを層別化するために,Bergersenらは有害事象の重症度を5段階に分けて,実際行った治療部位や手技の様式等の各リスク因子と有害事象の発生率と発生した重症度の関係について解析した(表8)
10).その後,
JayaramらがIMPACT registryに基づいて,Bergersenの5分類を新たに6 つのカテゴリーに分類し直し,さらに血行動態的不安定要因として,先天性心疾患における単心室循環,肺体血流比,体心室拡張末期圧,肺動脈径,肺動脈圧,肺血管抵抗,酸素飽和度などのリスク解析を行って
表8 カテーテル治療における有害事象の重症度
重症度定義例1(なし)状態の変化なし.可能性がある状態変化のために経過観察が必要かもしれないが,治療の適応はない. •バルーン破裂•治療器具の問題2(軽症)生命の危険がない一時的な状態変化で,経過観察および投薬継続や検査などの軽微な処置を必要とするが,完全に回復する. •鼠径穿刺部の血腫•自己回復する不整脈
3(中等症)治療しなければ生命の危険がある一時的な状態変化だが完全に回復する.経過観察および拮抗薬や追加の投薬,ICUでの観察,中等度のカテーテル治療を必要とする. •治療を必要とする不安定な不整脈(血圧は維持) •生命の危機はともなわないが治療を必要とする血管損傷
4(重症)治療しなければ生命に関わる状態変化.永続的な身体機能または構造障害の可能性があり,ICUへの入室または緊急入院,電気的除細動や予定外の気管挿管,または高度の侵襲的処置やカテーテル治療などが必要な可能性がある. •心肺蘇生を必要とする事象•カテーテル治療や外科治療を必要とする事象•脳梗塞5(最重症)死亡および緊急手術,または人工心肺から離脱することによる死亡を予防するため膜型人工肺補助(ECMO)や補助循環処置を必要とする. •死亡事象(Bergersen L, et al. 201110)より) Reprinted from JACC Cardiovasc Interv., 4(9), Bergersen L, et al., 1037-46., Copyright (2011) by The American College of Cardiology Foundation, with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/jacc-cardiovascularinterventions
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
表9 カテーテル治療における手技別リスク分類
手技リスク分類1リスク分類2リスク分類3リスク分類4リスク分類5リスク分類6
診断カテーテル検査・診断カテーテル
検査(年齢>1歳)・診断カテーテル
検査(年齢30日~1歳)・診断カテーテル
検査(年齢<30日)
弁形成術・肺動脈弁形成術
(年齢>30日)・大動脈弁形成術
(年齢>30日)・大動脈弁形成術
(年齢<30日)・肺動脈弁形成術(年齢<30日)
デバイス閉塞術またはコイル塞栓術・心房中隔欠損/
卵円孔開存・冠動静脈瘻・動脈管開存(>6 kg)・Fontan開窓またはバッフル
リーク・体動脈(大動脈
以外)または体静脈・肺動脈または体動脈動静脈奇形・弁周囲リーク・動脈管閉鎖
(体重3~6 kg)・体動脈-肺動脈側副血行・体静脈-肺静脈側副血行・心室中隔欠損・動脈管開存
(体重<3 kg)
バルーン血管形成術・導管・大動脈縮窄・肺動脈分岐
(近位/遠位部)・Fontanバッフル
または開窓・大静脈または
非大静脈・大血管転換術後
の心房中隔・心房中隔・右室-
肺動脈導管拡大(SANO短絡)・体動脈(大動脈以外)・体動脈-肺動脈短絡
ステント留置・導管・大動脈縮窄
ステント留置・肺動脈分岐(近位/遠位部)・Fontanバッフル
または開窓・大静脈または
非大静脈・大血管転換術後
の心房中隔・心房中隔・動脈管開存・右室-
肺動脈導管ステント留置(SANO短絡)・肺静脈・体動脈(大動脈以外)・体動脈-肺動脈短絡
ステント再拡大・ステント再拡大
(大動脈縮窄以外)・ステント再拡大
(大動脈縮窄)
その他・心筋生検
(心移植後)・予定心嚢穿刺・経皮的肺動脈
弁留置・心筋生検(心移植後以外)・異物除去
(snare)・僧帽弁バルーン
拡大・バルーン心房
中隔裂開術・肺動脈弁閉鎖穿通術・心房中隔穿通術
Major adverse event(MAE)予測率(オッズ比)は,リスク分類1 を対照とすると,リスク分類2(1.88[95%信頼区間: 1.49-2.38]),リスク分類3(3.89[3.06-4.96]),リスク分類4(3.87[3.03-4.93]),リスク分類5(8.91[6.95-11.43]),リスク分類6(12.8[9.83-16.68])であった. (Jayaram N, et al. 201714)より) Jayaram N, et al. Circulation. 2017;136(21):2009-2019. https://www.ahajournals.org/journal/circ (c) 2017 American Heart Association Inc.
いる.そのうえで症例の背景にある年齢,遺伝疾患,慢性肺疾患,神経筋疾患,肝疾患,腎疾患,血液凝固異常,血液疾患糖尿病などの因子を組み込んで有害事象発生の予測について報告している(表9)
14).彼らの有害事象発生
リスクの予測においては,手技に関連するリスク因子に加え,血行動態不安定要素,単心室循環,凝固異常,腎機
能不全が層別化に有用という結果であった.同様の試みは,小児に限らず成人先天性心疾患に対するカテーテル治療でも行われており,このようなリスクモデルによる有害事象発生予測については,より安全で効率的なカテーテル治療
p.15
の発展のためには必要不可欠なものと考える10, 13, 14, 22, 23, 30).
一方,registry dataからのリスクモデルによる合併症発生率予測は,施設のカテーテル件数や治療件数にも大きく影響を受けることも指摘されている14, 32, 33).JayaramらのIMPACT registry報告によると,年間カテーテル件数が150例以下の施設では,年間500例以上の施設の1.5%に比べ,有害事象の発生率が2.8%という結果であった32).術者の経験年数と有害事象の関係については,経験年数5年未満の術者では有意に有害事象の発生が多い反面,一術者あたりの年間カテーテル件数と有害事象のあいだには関係がないとする米国の報告がある11).医療制度が異なる米国と,わが国の現状を単純に比較することはできないが,ある一定期間の経験年数を過ぎれば術者の経験値に依存する有害事象発生率は一定となるという事実は,小児カテーテル治療医の教育トレーニングシステムを考えるうえで参考となる34-36).また,この問題を考える場合には,単に術者の手技への熟練度ということよりは,麻酔のバックアップ体制等も含めた多領域にわたる治療チームの成熟度なども考慮すべき問題である.
有害事象や合併症のリスク低減や回避のためには,対象となる症例の全体像と血行動態の把握,治療の目的設定,治療戦略と必要物品の準備,治療効果判定,合併症の予測とその対応について事前に十二分に治療チーム内で情報共有することが重要である.実施する手技や合併症に対する処置に習熟しておくことは言うまでもない1, 7, 22).
診療体制における情報共有も大切である.予定している治療手技と可能性がある有害事象については,治療を受ける患者およびその家族に十分説明しインフォームドコンセントを得ておくことは必須である.そのうえで麻酔科医,新生児科医,集中治療医,心臓血管外科医などの医療スタッフに加え,看護師,放射線技師,臨床工学士,臨床検査技師などと情報共有し,必要な物品とバックアップ体制を整備しておくことが重要である.有害事象のなかには,循環破綻のために補助循環が必要になる場合もあるため,その可能性がある場合には事前に体制を整えておく.また,カテーテル治療物品や合併症の対応に必要な器具については,供給体制の地域差の問題もあるため,カテーテル治療室に必要十分なものを事前に確保して確認しておく必要がある.第2章1.のポイント
小児期,先天性心疾患に対するカテーテル検査と治療は,治療効果も高い反面,死亡を含めた重篤な有害事象を引き起こす可能性がある.実施においてはリスク低減に向けた体制整備が必要である.小児においては,手技に関連したリスク管理に加え,血行動態や心臓以外の合併異常,さらに麻酔を含めた全身管理が安全にカテーテル治療を行うためには重要である.新生児,低体重は病態や手技と独
立した危険因子である.
Registry dataを用いたリスク予測に基づいた小児カテーテル治療体制の整備は,事前の治療計画と治療に関係する多領域専門職とのチーム内の情報共有とともにきわめて重要と考える.
成人におけるもっとも重篤な合併症は,周術期死亡である.胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(TEVAR)や経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI)は,リスクが高い代表的なインターベンションといわれてきた.約10年前に発表されたPARTNER試験では,TAVIの周術期死亡率は3.4~5.0%と報告されていたが37, 38),わが国におけるTAVIのリアルワールドレジストリでは,30日死亡は1.7%であった39).この死亡率の改善は,デバイスの進歩やプロクタリング制度の充実,手技の習熟度が関係しているためと考えられる.
大血管損傷は致死的合併症の一つである.とくに高齢者の動脈硬化が強い症例において生じやすい.急性大動脈解離は,TEVARやTAVIの際に,大動脈壁へ過大なストレスがかかると発症する可能性がある40).シースサイズが大きいTAVIやステントグラフト内挿術では,とりわけ注意を要する.TAVIの主要血管合併症発生率は3.0~7.4%と報告されているが39),腸骨動脈等の破裂の場合には急速に血行動態の破綻をきたすため,オクルージョンバルーンおよび適切なサイズのステントグラフトを事前に用意しなければならない.穿刺部合併症を防ぐため,近年ではエコーガイド下穿刺が普及している.
塞栓症も重大な合併症である.大動脈壁に高度粥腫病
2 成人におけるリスク・ 合併症(表10)
表10 成人に対するカテーテル治療に関する推奨とエビデ
ンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
カテーテル治療のトレーニングシステムの構築を行う. I C合併症発生の際に,必要薬剤や心肺蘇生に必要な機器がすぐに使用できる体制を整え,カテーテル検査室や手術室のスタッフと対応策の共有を行う. I C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
変(shaggy aorta)を有する症例では,全身性塞栓症やコレステロール塞栓症の高リスク群となる.コレステロール塞栓症は40歳以上を対象とした心臓カテーテル手技の0.8%に発症するという報告もあり,予後不良である41).
脳梗塞も重大な合併症である.空気塞栓や血栓塞栓,コレステロール塞栓に代表される動脈原性塞栓,心房細動による心原性血栓塞栓,周術期の一過性血圧低下や低心拍出による脳低灌流,術後安静によって生じる奇異性塞栓等があげられる.長時間の手技により生じたカテーテル内の血栓を飛散させて生じる医原性塞栓や,ヘパリン起因性血小板減少症等にも注意を要する.TAVI施行時の重篤な脳梗塞の合併は1.7%と報告されており39),TEVARにおける脳梗塞は2.5~2.8%と報告されている42, 43).空気塞栓は動脈系アプローチでも発症するが,静脈アプローチの治療においても発症することがある.MitraClip ®や左心耳閉鎖などをはじめ,大口径シースの左房内の手技ではbelow zeroでのカテーテル操作の原則を忘れずに,water sealにてデバイスやカテーテルの挿入を行わなくてはならない.今後は経皮的僧帽弁植込み術,経皮的三尖弁形成術といった新たな治療もわが国で導入予定であり,肺への空気塞栓も防止しなければいけない.鎮静が過剰であったり,睡眠時無呼吸の既往がある患者では,急激な吸気とともに胸腔内が急激に著しい陰圧となることから,大口径シースの取り扱いには十分な注意が必要である.
閉鎖栓を用いた治療は,ASDや卵円孔開存(PFO)といった心房中隔の閉鎖治療だけではなく,今後は心房中隔に孔を開けるシャント作成術や心室中隔欠損(VSD)の治療においても応用されるであろう.こうした治療では,心侵食といった重大合併症のほかに房室ブロックや心機能低下症例での致死性不整脈発生も念頭におかなければいけない.経皮的弁周囲逆流閉鎖術では複数回の開心術を経験した症例も多く,血行動態が破綻した際には速やかにIABPやPCPSといった補助装置の使用や緊急開心術の決断を行う必要がある.また,溶血の悪化や機械弁のスタックも重要であり,デバイスの経皮的あるいは外科的抜去も念頭におかなければいけない.
心タンポナーデは心室内にガイドワイヤーやペーシングカテーテルを挿入する場合にも発生するが,心房中隔穿刺や経皮的左心耳閉鎖術の際の左心耳壁穿孔からも生じうる.これらの手技で血圧低下を認めたら,直ちに心タンポナーデを疑い,適宜ドレナージを行いつつ,その血液をシースから体内に戻す自家輸血が有用である.
放射線皮膚障害はカテーテル治療が長時間におよぶ場合は留意する.3 Gy以上5 Gy未満(レベル2)では, 一過性の脱毛,発赤,びらんが生じる可能性を説明し,被ばく線量と部位を診療録に記載する44).通常は患者本人が見
えにくい背中等に,数週間後に皮膚障害が生じるために患者家族や外来担当医にも説明し,観察を行ってもらう.
薬剤によるアナフィラキシーショックは常に起こりうる.血管造影室内には,アナフィラキシーショックに対応するのに必要な薬剤を準備しておく必要がある.造影剤アレルギーの既往のある患者では,前日からのステロイド投与(13,7,1時間前に0.5~0.7 mg/kgのプレドニン投与)と,手技1時間前の抗ヒスタミン薬投与が推奨されている45).また,手技後にプロタミンにてヘパリンを拮抗する場合の合併症としてプロタミンショックは有名であるが,プロタミンを含有する中間型インスリン製剤を使用している糖尿病患者では,アレルギーリスクが高いことが報告されており注意を要する.
高齢者や慢性腎臓病(CKD)を併せ持つ成人患者では造影剤起因性腎症も重要な合併症である.これは造影剤使用後早期にみられる急性腎障害で,一般的に可逆性である.リスクファクターとして,慢性腎臓病や糖尿病性腎症,造影剤の過量があげられる.予防法として,造影剤の減量,手技前からの生理食塩水や炭酸水素ナトリウムの輸液が推奨されている.また,CKD症例での治療後に行う予防的血液透析の有効性は確立されていない.
また,悪性腫瘍合併例,血栓性素因を有する症例,静脈血栓症の既往を有する症例では,手技後の安静臥床に起因する深部静脈血栓症,肺塞栓症にも留意する必要がある.第2章2.のポイント
経験症例数が増え習熟するとともに合併症は減少し,症例数の多い施設では入院中の死亡率が低いことが知られている.TAVI,TEVAR,ASD/PFO閉鎖術等では,術者が習熟するまでのあいだ,院外から指導医が立ち会い実際の手技をサポートするプロクタリング制度が確立している.ほかの手技においても,経験症例数の少ない術者が施行する際には,経験の多い術者が適切に補佐する体制の構築が望まれる.
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第3章 イメージング
エコー検査,CT,MRなどのイメージングは治療の適応決定,術中モニタリング,術後評価に有用である.本章はSHDのカテーテル治療において,イメージングがどのように貢献するのかに関して,心エコー図,CT,MRについて,その特徴,留意点,適応について述べる.
経胸壁心エコー法はかならず行うべきである.形態評価に加え,血行動態評価や心機能評価を同時に行う.経胸壁心エコー法の読影にあたっては,治療の妥当性やカテーテル治療が可能か,などに関して総合的に判断する能力が必要である.したがって,治療チームにおける心エコー医の満たすべき要件として,疾患の自然歴や血行動態に対する理解に加え,心エコー断層法・ドプラ法計測技術の習得,計測値の妥当性の判断といった基本的事項の習得があげられる.経胸壁心エコー法では,画像不良症例が一定数存在することが最大の欠点である.経胸壁エコー画像不良例では,経食道心エコー法,カテーテルによる血行動態評価,左室造影,心臓MR,CTなど複数の診断法を応用し総合的に判断する47).この際に,各検査の特徴,差異についての理解が必要である.画像診断結果と患者の症状が乖離する場合,重症度評価が難しい場合には,運動あるいは薬剤負荷心エコーが有用である.右左短絡性疾患の診断には,適切な息ごらえ手技(バルサルバ法)を用いた攪拌生理食塩水コントラストエコーに習熟が必要である.
経食道心エコー法は,治療の適応,デバイスの選択,術
1 画像診断法の適応(表11) 46)
1.1 経胸壁心エコー法
1.2 経食道心エコー法中モニタリングにおいて中核となる.とくに僧帽弁や心房
中隔の診断において,3Dエコー図はハートチーム内の情報共有にきわめて有用であり,僧帽弁閉鎖不全に対するデバイス治療の手技を誘導するうえで不可欠である.さらに, 3Dデータから切り出した多断面の2D断層像は,距離分解能および時間分解能が3Dよりも優れており,詳細な病変の観察,任意の断面での距離,面積の計測,容積の計測に有用である.近年の画像技術の進歩により3Dカラードプラ画像の時間分解能,空間分解能は目覚ましく向上しており,精度の高い術前術中診断が可能となり治療成績の向上に寄与している.
経食道心エコー法は侵襲を伴う検査法であり,禁忌(表12) 48, 49)の理解が必須である.また,偶発症48)として咽頭から食道,胃の損傷による出血,穿孔,嚥下障害,嗄声,歯牙損傷,喉頭痙攣,気管支攣縮が報告されており,検査前に十分に説明を行うことが重要である48, 49).通常の経食道心エコー法における主要偶発症の発症率は0.2%程度であるが,重症患者や長時間のモニタリングとなる術中経食道心エコー法ではよりリスクが高くなる.咽頭,食道損傷を回避するため,強い圧迫操作やプローブ形状のロック下のプローベ操作を行わない,プローベ先端温度上昇に留意するなどの注意事項を遵守すべきである.
ASD/PFO閉鎖の術中モニタリングとして,術者が自らエコーを行えるという利点がある.経食道心エコー法よりも患者の苦痛が少なく,局所麻酔で行えることが利点である一方で,操作には習熟を要する.観察可能領域が経食道心エコー法よりも制限されるが,部位によっては経食道エコー法よりも優れている.
1.3 心腔内エコー法
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
表11 SHD のカテーテル治療におけるイメージング検査の推奨
SHD のカテーテル治療経胸壁心エコー法経食道心エコー法心腔内エコー法CT心血管MR血管造影TAVI治療適応の決定+++ ++ - +++ + ++術中モニタリング++ ++ + - - +++術後観察+++ + - + - - MitraClip ®治療適応の決定+++ +++ * - + ++ +術中モニタリング+ +++ * - - - +術後観察+++ ++ - - ++ +経皮的僧帽弁交連切開(PTMC)治療適応の決定+++ +++ - + + ++術中モニタリング++ + ++ - - ++術後観察+++ ++ - - - -左心耳閉鎖治療適応の決定+ +++ - +++ + -術中モニタリング- +++ + - - +++術後観察+ +++ - + - - ASD/PFO閉鎖治療適応の決定+++ +++ * - ++ ++ ++術中モニタリング- +++ * ++ - - ++術後観察+++ + - - - - PTSMA治療適応の決定+++ + - +++ ++ +++術中モニタリング+++ - ++ - - +++術後観察+++ + - +++ ++ - PDA閉鎖治療適応の決定+++ ++ - +++ + +術中モニタリング- - - - - +++術後観察+++ + - ++ + - -: 有用性を示す報告なし,+: 有用な場合がある ,++: 利用可能なら使用が望ましい,+++: 明らかな有用性有益性あり. *3D経食道心エコー図を含む(Silvestry FE, et al. 200946)を参考に作表)
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心電図同期CTは方位分解能に優れた明瞭な画像が得られる.造影剤を用いることにより,冠動脈・胸腹部血管内腔の情報把握に優れている.石灰化病変においては,石灰化の分布の把握,定量的計測が可能である.カテーテル治療におけるアプローチの選択,また経カテーテル大動脈弁留置術における大動脈弁および大動脈基部の構造の評価には不可欠であり,描出不良例が少なく全体像をみることができるため,その有用性が高まっている.一方,造影剤合併症リスク,放射線被曝の問題がある.
右室を含めた心腔容積計測,血流量の測定,心筋組織性状評価が可能である.正確な左室や右室容積の評価に加え,Phase contrast法を用いて弁逆流の定量化,弁膜症などに合併した心機能低下例における心筋の評価にも用いられる.一方,弁構造の評価,石灰化病変の評価には適しておらず,造影剤合併症リスクを有する.
複数の研修,認証の基準が示されている(表13) 49).治
1.4 CT 50)
1.5 MR
2 心エコー医要件療ごとに学会の定める心エコー医の要件を満たすことは最
低条件である.わが国では,SHDの治療を行う施設認証基準として,日本超音波医学会認定超音波専門医,日本麻酔科学会認定経食道エコー認定医,日本心エコー図学会認定,SHD治療認定医の資格(SHD心エコー図認証医)を有する医師がいることがあげられている.実践的技能の獲得・維持・向上のため,一定数の症例経験数,教育講演会の受講,症例検討会などを通じた治療困難事例の共有など継続的教育が必要である.
通常の2D断層像,カラードプラ像,ドプラ波形表示に加え,とくに僧帽弁へのカテーテル治療の際には3D画像を撮ることができる超音波機器が必須である.負荷心エコーでは,各負荷ステージ間の比較を同様の断面で繰り返し行うために,ベースライン像を参照しながら負荷中検査ができるよう負荷心エコー用の心エコー解析モードのオプションの使用が推奨される.
3 心エコー装置要件
表12 経食道心エコー法の絶対禁忌と相対禁忌
絶対禁忌相対禁忌食道腫瘍胸部・頚部の放射線治療歴傍食道型食道裂孔ヘルニア消化管術後活動性消化管出血最近の上部消化管出血食道狭窄バレット食道食道憩室食道静脈瘤食道穿孔,裂傷嚥下障害の既往内臓穿孔頚椎可動性制限(重度頚椎炎など関節炎)
症状を有する食道裂孔ヘルニア凝固障害,血小板減少活動性食道炎活動性消化性潰瘍
(Akaishi M, et al. 201648),Hahn RT, et al. 201349)より作表)
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
表13 心エコー医要件に関する各ガイドラインならびに学会認定の資格基準
ガイドライン/ 学会資格基準日本超音波医学会専門医症例数 (TTE/TEE) 500症例うち30症例手術/特記なし研修期間研修施設3年講習会受講など学会所属3年 学会発表あるいは論文5本更新時教育受講時間学会の定める単位を取得更新時TEE症例数/年特記なしJB-POT 日本周術期経食道心エコー認定症例数 (TTEまたはTTE/TEE)特記なし研修期間特記なし講習会受講など特記なし: ビデオ38問および筆記80問試験更新時教育受講時間半日3から5単位講習(計20単位/5年)更新時TEE症例数/年特記なし日本心エコー図学会認定SHD心エコー認証医症例数 (TTE/TEE) 50/50研修期間36ヵ月講習会受講など1日講習会(1回参加)更新時教育受講時間1日講習会(5年間に2回参加)更新時TEE症例数/年特記なしASE, SCA ガイドライン(Basic, Advanced, Director) (2002, 2006)49)症例数 (TTEまたはTTE/TEE) 150/50, 300/150, 450/300研修期間特記なし総継続教育受講時間20時間,50時間,特記なし更新時教育受講時間15時間/3年 各ステージとも同様更新時TEE症例数/年50症例(うち25症例は実施)各ステージとも同様欧州心エコー図学会(2010)症例数 (TTE/TEE) 250/75 あるいは150/125研修期間2年更新時教育受講時間30時間/5年更新時TEE症例数/年50症例ASE: American Society of Echocardiography,SCA: Society of Cardiovascular Anesthesiologists,TTE: 経胸壁エコー法,TEE: 経食道心エコー法
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第4章 疾患・病態・手技
左右短絡があり肺動脈圧が動脈圧の2/3以下の場合や肺血管抵抗が全身血管抵抗の2/3 以下の場合,肺血管拡張薬に反応し欠損孔のバルーン試験閉鎖下での血行動態に問題がなければ肺血管抵抗が5 Wood 単位以上であっても,経皮的/ 外科的閉鎖術を考慮してもよい.ただし,肺高血圧症の管理に精通している者が治療に加わる必要がある. IIb C血行動態的に有意でない小さな二次孔ASD を有する患者で,ほかの危険因子をもたない場合には,カテーテル閉鎖術は推奨されない. III No benefi t B二次孔ASD 以外のASD を有する患者では,カテーテル閉鎖術は第一選択の治療法として推奨されない. III No benefi t C非可逆的肺血管閉塞性病変の進行を伴う二次孔ASD を有する患者では,カテーテル閉鎖術は行うべきではない. III Harm C *1 血行動態的に有意とは,右心系の容量負荷所見,右心不全,心房位短絡による右心系の圧上昇を指す.解剖学的に適するとは,欠損孔周囲の辺縁が十分あり適切なサイズの閉鎖栓が固定できること,房室弁や肺静脈といった周辺構造に悪影響を与えないことを指す. *2 静脈洞型,冠静脈洞型ASD については経皮的閉鎖術の報告があるが十分なエ
ビデンスに達していない.表15 ASD に対するカテーテル閉鎖術後のフォローアップ
に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
退院後1ヵ月,数ヵ月後,そして1 年後以降は毎年定期的に経過観察を行う. I Bすべての経皮的ASD 閉鎖術施行患者に対し,毎年のフォローアップが推奨されるが,とくに成人症例で右の状態にあるものは,注意深く経過観察を行う. a.肺高血圧症I B
b. 不整脈I B c. 右室または左室
機能低下症例I C d. ほかの弁膜症や
心病変I C
胸痛や失神といったデバイスによる心侵食を疑わせる症状や,脱落を疑わせる動悸症状の出現,脳卒中を疑わせる神経症状の出現時には緊急評価を行う. I C
1 先天性心疾患
1.1 心房中隔欠損症(表14,表15)
表14 ASD に対するカテーテル閉鎖術に関する推奨とエビ
デンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
血行動態的に有意かつ解剖学的に適する
*1 二次孔ASD を有する患者に対し,カテーテル閉鎖術を行う. I A一次孔,静脈洞,冠静脈洞ASD
*2 に対し,外科的閉鎖を行う. I A心房位での一時的な右左短絡を有し,脳卒中や反復する脳虚血発作といった奇異性塞栓症の既往がある患者に対し,二次孔ASD のカテーテル閉鎖術を考慮する. IIa Aほかの弁膜症手術施行予定の場合や,デバイス留置のための辺縁が十分ではない症例においては,二次孔欠損であっても外科的閉鎖術を考慮する. IIa C Platypnea–orthodeoxia 症候群にて低酸素血症を生じた場合は,カテーテル閉鎖術にて欠損孔閉鎖を考慮する. IIa B心房位での一時的な右左短絡を有し,チアノーゼ症状があり心拍出量の維持が欠損孔を通過する短絡に依存しない患者に対し,二次孔ASD のカテーテル閉鎖術を考慮する. IIa B小さな二次孔ASD を有する患者で,血栓塞栓症のリスクがあると推測される場合(経静脈的ペースメーカ留置,長期にわたる静脈カテーテル留置,過凝固状態など)には,カテーテル閉鎖術を考慮してもよい. IIb B
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
1.1.1 背景
心房中隔欠損症(ASD)は先天性心疾患の7~13%を占め,成人で発見される先天性心疾患のうち,大動脈二尖弁を除くともっとも多い疾患である.約2:1で女性に多い.二次孔欠損がもっとも多く,ほかに一次孔欠損,静脈洞欠損,冠静脈洞欠損がある(図1).無治療で放置した場合,右心不全,不整脈,肺高血圧症を合併する.二次孔欠損においては2005年からわが国に導入された経皮的ASD閉鎖術が外科的閉鎖術と並ぶ標準的治療となっている51-53).
1.1.2 カテーテル治療
二次孔ASDのカテーテル治療は1976年にMillsとKingによって初めて報告され,径26 mmまで5例の欠損孔を二枚傘の閉鎖栓で閉鎖した54).その後27年にわたる経過観察では,4症例で遺残短絡や合併症のない生存が確認されている55).MillsとKingの閉鎖栓は,太いデリバリーシステムと閉鎖栓の扱いにくさのため普及しなかったが,その後,さまざまな改良が加えられた閉鎖栓が考案され,1997年のAmplatzer Septal Occluder(ASO)の登場によって広く普及した56).
わが国ではASOは2005年に認可された.径6 mmから38 mmの閉鎖栓まで使用できる.デリバリーケーブルからの離脱前であれば閉鎖栓の位置修正や回収が可能である.また,コネクティングウエスト径が4 mmと細い多孔性欠損用の閉鎖栓もある.2016年には,わが国で第二の閉鎖栓となるFigulla Flex II(FF II)が導入された.基本構造はASOと同じだが,左房ディスクの中央にハブがないことと,ワイヤがまばらであることから,左右のディスクが開きやすい特徴がある.また,ケーブルとディスクに50度までの
傾斜が可能である.径は6 mmから36 mmまでである.
わが国では,ASDのカテーテル治療は施設基準を満たした施設で,術者基準を満たした医師が,日本先天性心疾患インターベンション学会(JCIC,旧称: JPIC)と日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)の定める教育プログラムを受けた場合のみ使用できる(表16,表17) 57).
わが国に導入された2005年から2018年末までにメーカーおよびJCICとCVITによる集計で,10,999例のデバイス植込みが行われた.近年では,毎年1,200例程度で推移している.現在,わが国で使用できる治療機器は上記の2種類のみであるが,欧州やアジア諸国では数種類の機器が市場に出回っている.図2に実際の手技の流れを示す.
1.1.3 適応
2012年の日本小児循環器学会とJCICによる「先天性および小児期発症心疾患に対するカテーテル治療の適応ガイドライン」1)では,解剖学的に適する二次孔ASDであって血行動態的に有意なもの(右心系の容量負荷所見,右心不全,右心系の圧上昇),右左短絡による奇異性塞栓症の二次予防,右左短絡によるチアノーゼ症状を閉鎖の適応としている.
従来,成人においては,肺体血流比が1.5~2.0以上の場合を適応としてきたが,日本循環器学会の「成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版)」53)によれば,症状の有無,欠損孔の大きさ,肺体血流比によらず,右室の容量負荷(右室拡大)が認められる場合,心房由来の不整脈を併発している場合,ASDによる奇異性塞栓症の発症例,または体位変換性低酸素血症(platypnea-orthodeoxia)が証明された,肺血管抵抗5 Wood単位以下の症例を適応としている.小さな欠損孔の場合でも,成人期に奇異性塞栓をきたす症例や,心房性不整脈を合併し心不全へと進行する症例があるため,個々の病態に応じて有用と判断される場合には閉鎖を試みる価値がある.
解剖学的には38 mm未満の二次孔欠損かつ大動脈周囲縁を除く欠損孔辺縁が5 mm以上である場合が適応とされている.ただし,欠損孔の約60%は大動脈周囲に位置しており,大動脈周囲縁に関しては5 mm未満であっても適応から除外されない58).さらに下方,後方,上方の辺縁欠損例に対する治療成功の報告もある59).欠損孔が複数存在する場合も複数個の閉鎖栓の留置例が報告されている.大動脈周囲縁が乏しい症例に心侵食(閉鎖栓による穿孔)が多いことも報告されているが,両者の因果関係はいまだ不明である60, 61).少なくとも大動脈周囲縁が広範に欠損して
いる例,大動脈周囲縁が完全に欠損している例,大動脈自図1 ASD の種類
SVC
IVC TV
a b
c d e a: 二次孔欠損
b: 上位欠損c: 下位欠損d: 冠静脈洞欠損e: 一次孔欠損
SVC:上大静脈,IVC:下大静脈,TV:三尖弁
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表16 経皮的ASD 閉鎖セット使用に関する施設および術者の基準
施設基準施設は小児循環器修練施設(群)もしくはCVIT認定の研修施設または研修関連施設であって,以下の1,2,3,4すべてを満たすこと.
1 経皮的心房中隔欠損閉鎖術施行チーム(科)による2年間の先天性心疾患もしくは構造的心疾患に対するカテーテルインターベンションの症例数が80例以上の施設. 2 経食道心エコーモニタリングに必要な体制が整備されており,ASDカテーテル治療施行チームによる心疾患の画像形態診断を目的とした経食道心エコーまたは心腔内エコーの2年間の施行数が先天性心疾患に対して100例以上(ただし,経食道心エコー50例以上),または先天性心疾患40症例以上を含む構造的心疾患に対して200例以上(ただし,経食道心エコー100例以上)であること. 3 心臓血管外科の医師が常勤しており,先天性心疾患の開心術年間施行例が2年間で80症例以上,または先天性心疾患40症例以上(うち短絡疾患5例以上)を含む開心術の総症例が160例以上であり,小児・成人問わず緊急の開心術に対応できる医師,設備を有していること. 4 心臓カテーテル室で麻酔科の管理の下に全身麻酔が可能であること.
術者基準術者は以下の1,2,4もしくは1,3,4をいずれも満たしている必要がある.
1 小児循環器専門医,CVIT認定医もしくは専門医もしくは指導医である. 2 申請前々年および前年の2年間の先天性心疾患もしくは構造的心疾患に対する常勤勤務施設において直接施行したカテーテルインターベンション数(主術者または指導的立場での第2術者)が40症例以上であり,かつ,先天性心疾患(短絡を伴うもの)に対する右心カテーテル実施数が20例以上である. 3 勤務継続6ヵ月以上の海外施設において,直前の2年間に20例以上の主術者としての経皮的心房中隔欠損閉鎖セット使用経験があること. 4 過去に閉鎖デバイスやコイルなど心血管内異物のカテーテルによる回収経験,またはJPIC-CVIT教育委員会で認定され
たハンズオンセミナーによる同様の経験がある.
(日本先天性心疾患インターベンション学会. 57)より)表17 経皮的ASD 閉鎖セット使用に関する教育プログラム
教育プログラム教育プログラム受講資格の認定後,以下の教育プログラムを履修し,提出された報告書をもとにJPIC-CVIT教育委員会が受講医師の単独手技実施の可否について審査する.
1 教育担当医師の補助として2症例のインプラント手技を施行(教育担当医師の施設で実施). 2 その後,教育担当医師を補助とし3症例のインプラント手技を施行(受講医師の施設で実施).
教育プログラムではかならず異なる種類の閉鎖栓を使用する.すべてのインプラントに関しては,インプラントが完了しなければならない.閉鎖栓をリリースする前に閉鎖栓を回収した場合は,完了したとはみなさない.インプラントが修了した後に,なんらかの理由で閉鎖栓を回収した場合には,インプラントは完了したものとみなす.上記インプラント教育は,手技を行う医師および経食道心エコーを施行する医師が同時に(同じ症例で)受けること.
(日本先天性心疾患インターベンション学会. 57)より)
大腿静脈からシースを挿入し,右心房側より欠損孔(穴)を通し左心房側に入れる.
閉鎖栓中心部の位置に合わせる.右心房の傘状部を開く.
閉鎖栓を左心房にあるカテーテルの先端まで進めて,左心房側の傘状部を開く.閉鎖栓の中心部(ウエスト)を広げて欠損孔(穴)に近づける.
閉鎖栓が確実に留置されたことを 確認したあと,接続を解除して治療が終了となる.
図2 Amplatzer Septal Occluder を用いた二次孔ASD に対する手技の流れ
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
体が前方に偏位し,一次中隔と二次中隔の整列不整(septal malalignment)を認める症例では,慎重に適応を決定する必要がある62).
一方,二次孔以外の欠損孔,二次孔欠損であっても肺静脈還流異常などの合併形態異常がある場合,デバイスが安定するための適切な辺縁が存在しない場合,38 mmを超える大きな欠損孔は,外科的修復術の適応となる.また,臨床的に有意な房室弁閉鎖不全が併存する場合にも外科的修復術の適応とされるが,これらの閉鎖不全はASDの閉鎖のみで改善する症例もあることから,適応に関しては議論がある.
適応を慎重に判断された二次孔ASDのカテーテル閉鎖術の成績は外科的閉鎖術に匹敵するという報告がある51, 52, 63, 64).カテーテル閉鎖術の合併症の頻度は低く,麻酔時間は短く,入院日数も短い.このため,多くの施設において形態的に適したASDでは,カテーテル閉鎖術が第一選択の治療法として用いられるようになっている.
1.1.4 治療成績およびリスクと合併症
手技的成功率はASOで97.9% 65),FF IIで98.2% 66)と高い.ASOとFF IIを比較した場合,FF IIのほうが手技は容易であり,手技時間も短いことが報告されている66–68).ただし,現時点では両閉鎖栓のあいだで有効性に差はないと考えられている.現在,国内では大動脈周囲縁が欠損している症例にはFF IIを選択されることが多くなってきている.
合併症としては,閉鎖栓の脱落,位置不正,感染,不整脈,タンポナーデや心侵食/心穿孔,房室ブロック,および空気塞栓,血腫などが報告されている59).米国のデータベースから推定されたカテーテル閉鎖術の死亡率は0.093%であり,米国胸部外科学会データベースによる外科的閉鎖術の死亡率0.13%と有意な差はないとされている69).
ASOの主要合併症とされる心侵食と脱落の発生率はそれぞれ0.1~0.47%,0.55~1.76%とされてきたが59, 69–73),最近の米国での市販後調査では,心侵食は0.3%,脱落は0.2%とされている.また,術後の片頭痛の発生率は1.9%と報告されている65).JCICとCVITの集計による,わが国における2018年までの合併症発生率は,心侵食0.15%,脱落0.42%であった.わが国では治療関連死亡はないが,米国ではASO治療関連死亡26例の集計があり,その原因は心侵食50%,手技時の心穿孔15%,脱落11%,空気塞栓8%,血栓4%,その他12%となっている74).
心侵食の多くは,術後72時間以内に発生し,心嚢液貯留から心タンポナーデを生じる.このため術後数日は胸痛,息苦しさなどの症状に注意し,心嚢液の有無について心エコー図による経時的な評価が必要である.一方,閉鎖栓留
置後,数ヵ月から数年を経て発症する症例も報告されている.本合併症を発生するリスクの高い患者として,1欠損孔に対して大きすぎるデバイスを選択された例(欠損孔径の150%を越える閉鎖栓の選択),2大動脈側周囲縁の広範な欠損例,3心房中隔の偏位(malalignment)によりデバイスと心房壁さらに大動脈壁とのあいだの過度な圧迫が生じる例,が考えられている60, 62, 75, 76).このような症例では,閉鎖栓と大動脈壁との機械的摩擦によって穿孔が起こるのではないかと推測されている.国内の心侵食例について,リスク要因を検討した研究では,経食道心エコー図による留置直後のディスクが大動脈側の心房壁を圧迫する最大の深さが2 mmを超える場合は回収もしくはサイズを変更すべきとしている76).
ASOとFF IIの心侵食の発生率の比較は行われておらず,デバイス間の差異について,現時点での評価は難しい.国内ではASO,FF IIともに心侵食が報告されており77, 78),いずれを選択する場合でも,慎重な形態評価と長期にわたる経過観察が必要である.
一方,閉鎖栓の脱落は,ほとんどが術中もしくは術直後に生じる72).このため術後の心エコー評価,および心電図モニタリングを行うことが推奨される.閉鎖栓が比較的小さい場合,もしくは脱落部位が経皮的に回収可能な部位にある場合(右心房,肺動脈,大動脈など)には経皮的な回収が行われる.閉鎖栓の右房側ハブをスネアで捕捉し,経皮的に回収することが可能である79).閉鎖栓が大きい場合,あるいは左心室,右心室内など経皮的な回収が難しい場合には外科的開胸術による回収が必要な場合がある.
1.1.5 小児
小児においては,大欠損で症候性の場合は乳幼児期に外科的閉鎖術が施行される場合が多い.カテーテル治療の大半は長期予後を考慮した待機的治療であるため,一般的には体重が15 kg以上の症例を対象とする.待機することによる不利益が大きい症例では,2歳未満でも可能ではあるが,アクセス血管径の問題や経食道エコーでの詳細な評価がやや困難であることから,慎重な適応判断が求められる.
1.1.6 成人
a. 病態生理
成人の先天性心疾患でもっとも多くみられる疾患であり,40歳以上の先天性心疾患の約35~40%を占める80).幼小児期に自覚症状を伴うことは少なく,成人期までほとんど無症状に経過する.しかし,その生命予後は必ずしも
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良好であるとは限らない.未治療でも20歳までの自然歴は比較的良好であるが,30歳を過ぎると生存率は低下してくる81).また,40歳以降には心房細動の頻度が増し,右心不全の原因となる82).肺高血圧を合併した例では,右心室に容量負荷と圧負荷が同時に加わる.
これまでASDの多くは小児期に発見され,成人に達する前に治療される疾患と考えられていた.しかしながら近年,60~70歳になって初めて発見される例が数多く経験されるようになっている83).平均余命が伸びたこと,心エコーが広く用いられるようになり,軽症例が発見されるようになってきたためと考えられる.このため自然歴としては,これまでのように小児期に発見されて成人期まで移行した場合と,小児期には気づかれずに成人になって初めて診断された場合の2つを考える必要がある.とくに成人期に発見されるASDの自然歴に影響を及ぼす要因として考えられるのが,加齢に伴う左心室のコンプライアンスの低下であり,その結果,短絡量が増大する.治療適応を考慮する場合には,併存症の評価も重要である.60歳以上の患者では心房細動を高頻度に合併し,三尖弁閉鎖不全の頻度や重症度も上昇する.高血圧や虚血性心疾患のため左室拡張能が低下していると,欠損孔の閉鎖が病態を悪化させる可能性もある84). b. 臨床所見i. 症状
成人症例の診断の契機は,動悸・息切れといった一般的な症状である.さらに不整脈,脳梗塞,うっ血性心不全を発症して診断されるなど,心雑音や学校検診などで診断される小児期のASDの臨床像とは異なっている.成人例では動悸や息切れが長期にわたって持続しているために強い自覚症状に乏しく,閉鎖術後に初めて症状が改善したことに気づく場合もある85).特殊な病態として,臥位では無症状であるが立位を取ると高度の低酸素状態を呈するPlatypnea–Orthodeoxia症候群があり,高齢者に認められることが多い.ASD孔を閉鎖することによる低酸素血症の著明な改善が報告されている86, 87). ii. 身体所見
聴診所見ではII音の固定性分裂を聴取し,収縮期駆出性雑音を胸骨左縁第二肋間中心に聴取する.左右短絡が中等症以上で相対的三尖弁狭窄による拡張期ランブルを胸骨左縁下部で聴取することもある.肺高血圧から右心不全を呈している患者では,両下肢の浮腫を認める.しかし,欠損孔が小さい場合には雑音を聴取できない症例や,II音の固定性分裂がない症例も存在し,身体所見から診断に導くことは難しい. c. 検査所見
i. 心電図
多くの場合洞調律であるが,心房細動・粗動を合併している場合もある.左上大静脈遺残合併や静脈洞欠損では冠静脈洞調律(II,III,aVFでの陰性P波)を認めることがある.右軸偏位,(不)完全右脚ブロックは,比較的多くみられるQRS異常で,右室負荷所見がみられた場合はASDの可能性を考え,心エコー図での確認を行う必要がある. ii. 胸部X線検査
左右短絡を反映して肺動脈の拡大と心胸比の増大がみられる.側面像にて右室の拡大を認める.肺高血圧症合併例では肺野が明るくなる.短絡量が小さい症例では,心胸比も正常範囲であり,一般健康診断では見逃される可能性がある.しかし,心胸比正常でも左2弓は突出することが多く,見逃さないようにする. iii. 心エコー・経胸壁心エコー
もっとも診断精度の高い検査法である.右心系拡大の有無,推定右室圧,心室中隔の奇異性運動,欠損孔と短絡血流を同定し,診断する.エコーによる肺体血流比の算出も参考になる.経胸壁心エコーで診断する場合,多断面でスキャンすることが重要である.傍胸骨短軸断面,傍胸骨四腔断面を基本断面とし,必要に応じて心窩部アプローチや右胸壁アプローチを用いることでより正確な診断が可能である88).ASDに合併する心内構造異常として左上肺静脈遺残と部分肺静脈灌流異常の合併には注意が必要である.上方静脈洞型欠損では部分肺静脈灌流異常を合併することが多く,経食道エコーや造影CTを行う必要がある.・経食道心エコー
経食道心エコーによる欠損孔の形態評価は非常に重要である89).なかでも欠損孔の最大径の計測と周囲縁の評価が重要である.大動脈周囲縁は治療の可否に関係しないが,上大静脈や左心房上縁が欠損する症例,下大静脈縁が欠損する症例,房室弁周囲縁の欠損する症例はカテーテルによる閉鎖栓の留置が難しく,手術を選択することがある.経食道エコーによる評価では,すべての周囲縁が5 mm以上ある症例は全体の約25%に過ぎず,約65%は大動脈側の周囲縁が欠損(5 mm未満)していると報告されている.一方,後下縁が欠損している症例もあるが,周囲縁の欠損領域が狭い場合にはカテーテル治療可能な場合が多い.三次元画像はカテーテル治療にきわめて有用である.とくに欠損孔が大きい症例や多発性欠損例では,デバイス選択などの治療戦略決定にきわめて有用である.
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
iv. CT
コンピュータ断層撮影(CT)は,心臓の内部構造や肺血管の構造異常解明や肺体血流比の推測に有用である90).欠損孔の評価のみならず,部分肺静脈還流異常の評価にも役立つ.成人では,冠動脈疾患のスクリーニングにも有用である. v. MRI
シネモード磁気共鳴像(MRI)により心機能評価が可能であり,欠損孔の存在診断のみならず肺静脈還流異常などの合併形態異常の評価にも有用である.右心機能評価のゴールドスタンダードであり,右室駆出率や拡張末期容積といった心機能評価や運動耐容能の評価にも有用である91). vi. 心臓カテーテル検査
エコー診断の向上によりカテーテル検査の必要性は少なくなったが,左右短絡量や右左短絡の程度,肺体血流比と肺血管抵抗を評価し,経皮的閉鎖術の適応を評価する.肺血管抵抗が5 Wood単位以上の肺高血圧を合併している場合には,閉鎖術の適応に関して検討を要する.高度の肺高血圧症を認めた場合は,酸素や薬物負荷試験を施行し肺血管病変の可逆性を検討する.冠動脈疾患,弁膜症などの評価が必要な場合は左心カテーテルも施行する. d. 成人症例における特殊な病態i. 肺高血圧症
肺動脈圧もしくは肺血管抵抗値が,体血圧と体血管抵抗値のそれぞれ2/3以上では,慎重な治療適応決定が必要である.酸素負荷や薬物負荷試験による肺血管の反応性の評価が必要となる92).ASDによる肺高血圧症なのか,ほかの要因なのかの鑑別にも努める.一方,肺高血圧症の薬物療法が急速に進展しており,肺高血圧症を伴ったASDでも薬物療法とカテーテル治療を組み合わせた“treat and repair”という治療法の有効性が報告されている93–96).肺血管作動薬に反応性がある肺高血圧症合併例には,肺血管可逆性評価を行ったのち,適応があればカテーテル閉鎖術を実施することを考慮する.肺血管抵抗(PVR)<2.3 Wood単位(肺血管抵抗係数[PVRI]<4 Wood単位・m 2)を満たす症例については,閉鎖術を考慮する(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC).PVR 2.3~4.6 Wood単位(PVRI 4~8 Wood単位・m 2)の場合には,専門施設にて十分な評価のもと,有益性が期待できる場合 にのみ閉鎖を考慮してもよい(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC) *.閉鎖術を施行する場合には,肺動脈圧と肺動脈楔入圧の双方を経時的にモニターしながら行う.
* 詳細は肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版) 97)を参照ii. 房室弁閉鎖不全
成人例でしばしば認められる三尖弁閉鎖不全や僧帽弁閉鎖不全は,経皮的ASD閉鎖術の禁忌とはならない.三尖弁閉鎖不全はASDの閉鎖後に右心系容量負荷が軽減することによって改善することがある98).形態異常を伴う僧帽弁閉鎖不全症の合併は原則として外科的修復術の適応となるが,形態異常を伴わない中等度以下の逆流であれば,通常,欠損孔の閉鎖だけで弁逆流の増加を招くことはないとされる99).ただし,軽度~中等度の僧帽弁閉鎖不全でも閉鎖後に中等度以上となることがあり,留置後,閉鎖栓をリリースする前に逆流が増悪しないかを観察し,増悪を認めたら閉鎖栓をリリースしないなどの注意が必要である. iii. 治療後の薬物管理
術後,抗血小板薬を少なくとも6ヵ月間投与する.そのうち一定期間は2剤併用投与を考慮する.心房細動や奇異性塞栓合併例では適切な抗凝固療法を継続する.心不全を合併している症例では病態に応じて薬物治療を継続する.高齢者で左室拡張障害が疑われる場合には,欠損孔をバルーンカテーテルで試験閉鎖して血行動態評価を行うことがあるが,かならずしも閉鎖栓留置後の血行動態を予想するものではないという報告もある.閉鎖術後6ヵ月以内は,感染性心内膜炎の予防が必要であるが,まれに遠隔期に感染性心内膜炎を発症したとの報告もある100).血液透析患者では,シャントの穿刺時には術後1年間の感染性心内膜炎予防のための抗菌薬投与が推奨されている. iv. 高齢者
これまで高齢者のASDに対しては,開胸手術のリスクと予後の兼ね合いから,積極的な治療は勧められてこなかった.カテーテル治療では,高齢者であっても比較的安全に治療が可能である.高齢者では欠損孔閉鎖直後の左心室に対する急性容量負荷が左室拡張末期圧の上昇を招き,心不全を増悪させる可能性もある.このため,術前から適切な心不全薬物療法を行い,さらに閉鎖術中の肺動脈楔入圧モニターなどで血行動態評価を行うことが望ましい.欠損孔の閉鎖によって肺うっ血が消失し日常生活能が大きく改善することが報告されており,高齢であることにより治療の適応からはずれることはない101). v. 不整脈
成人例で問題となるのは心房細動の合併である.ASD患者では,50代で15%,70代以降では60%以上と非常に高率に心房細動を合併することが知られており,心房細動を合併したASDに対する経皮的閉鎖術の適応評価は重要である102).カテーテル治療では外科治療で生じる心房切開線を旋回する心房頻拍を回避できる可能性があり,治療後の不整脈発生は外科治療より少ない可能性が報告され
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ている103).近年,心房細動に対するカテーテルアブレーションが広く普及しており,心房細動の既往もしくは可能性のある成人ASDではカテーテル閉鎖術に先行してカテーテルアブレーションを実施し,遠隔期の心房細動発生を予防することが望ましい104).慢性(永続性)心房細動の場合には,抗凝固療法を継続したままデバイス閉鎖のみを実施しても臨床症状の改善が得られることが報告されている105).小児期の閉鎖術に伴う術後不整脈として房室ブロックが報告されており,欠損孔に対し大きな閉鎖栓を留置することが要因とされているが,成人ではまれである106). vi. フォローアップ
肺高血圧症,不整脈,慢性心不全を有する患者では,病態に応じて外来受診間隔を調整することが推奨される.
1.2 開窓Fontan術後(表18)
Fontanの開窓作成と後の経カテーテル閉鎖術は,高リスク患者において手術の生存率向上と術後の合併症低減をもたらすとして1990年に初めて報告された.この戦略のコンセプトは,Fontan循環の成立がボーダーラインの患者(心室機能低下,肺動脈狭窄,肺血管抵抗上昇の合併など)において,Fontan循環に右左短絡をもたらす解放経路を作成し,酸素飽和度の低下と引き換えに心拍出量を維持することにある.
開窓の作成が真に患者に恩恵をもたらすのかについては議論があるが,高リスク患者の手術生存率向上と,術後の胸腔ドレーン排液量の減少,留置期間の短縮,心拍出量の上昇,長期的な不整脈の頻度の減少が報告されている107–110).しかしながら,単心室患者の究極の治療到達点は体循環と肺循環の分離にある.加えて,長期的に開窓を有する患者においては,チアノーゼと静脈血流停滞がある状況下で心房位の短絡に起因する奇異性塞栓症のリスク増加が懸念される.近年の報告では,胸腔ドレナージの量と留置期間に関して,低リスク患者では開窓の有無で差はなく,開窓の恩恵は高リスク患者においてのみ見られたとされている111).開窓の閉鎖について本来はほかの適応のために作られた閉鎖デバイスを用いて閉鎖する数々の手技が報告されている112–117).両心カテーテル評価と造影を行っ
たあとに,静脈側から開窓部にカテーテルを通し,一時的な閉鎖試験を行う(10~20分).血行動態の変化が耐容可能(酸素飽和度の上昇に伴うFontan循環の圧上昇と心拍出量の低下が許容範囲内)と判断されたら,デバイスを選択して閉鎖を行う.デバイスのタイプはFontan手術の種類,患者の体格,開窓の形態的な特徴などによるが,わが国で多く用いられる心外導管のグラフトにパンチアウトする形態では,ダブルディスク型のデバイスが適する場合が多いと考えられる.国内のダブルディスクデバイスで開窓閉鎖に適応を取得したデバイスはない.過去の報告では,この手技の成功率は高く合併症も少ない.閉鎖後の観察では,酸素飽和度の上昇と臨床症状の改善は持続するが,客観的運動負荷試験における所見の改善に関しては諸説がある118–122).急性の閉鎖試験に耐容した患者においてカテーテル治療が長期予後を改善するか否かは明らかでない部分があるが,開窓の自然閉鎖は良好なFontan循環を示唆し,閉鎖不能な血行動態は死亡やFontan循環不全の指標になるとされる123).
1.3 心室中隔欠損症
心室中隔欠損症(VSD)は先天性心疾患の約20%を占める.短絡量に応じて左心不全,肺高血圧,不整脈などを合併する.心室中隔は膜様部(membranous)と筋性部(muscular)に分けられ,さらに筋性部は右室の形態から流入部(inlet),肉柱部(trabecular),流出部(outlet portion)の3部分に分けられる.VSDはこれらのいかなる部位にも発生し,単孔性の場合が多いが,多孔性の場合もある.ときには肉柱部にスイスチーズ様の多孔性に存在する場合がある.日本人では流出部の筋性欠損が多い特徴がある.日本循環器学会の「成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017年改訂版)」53)では,VSDの外科的修復術の適応は欠損孔の部位によらず肺体血流比が1.5以上,もしくは小短絡でも大動脈弁逸脱や大動脈弁閉鎖不全が顕著で進行性の場合,もしくは圧較差50 mmHg以上の右室流出路狭窄を認める場合(右室二腔症)とされている.AHA/ ACCのガイドライン124)の推奨もほぼ同様で,肺動脈圧が体血圧の1/2以下かつ肺血管抵抗が体血管抵抗の1/3以下であって,左室容量負荷を認め,肺体血流比が1.5以上の場合,VSDにより生じた大動脈弁閉鎖不全が進行性である膜様部もしくは流出部のVSDでは閉鎖が勧められている.
膜様部VSDに関しては,新生児期から成人に至るまで外科的閉鎖術が有効かつ安全に施行されている.カテーテル
表18 先天性心疾患に対する開窓Fontan の閉鎖に関する
推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
慢性期の開窓Fontan 術後患者において,血行動態が良好かつ試験閉鎖結果が適切であれば,カテーテル閉鎖を考慮する. IIa C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
による閉鎖は,Amplatzer membranous VSD Occluderやほかのメーカーのmembranous VSD Occluder,コイルあるいは動脈管用閉鎖栓を用いた閉鎖が海外で施行されている125).合併症の頻度は比較的高く,Amplatzer membranous VSD Occluderでは,永久的なペースメーカが必要となった完全房室ブロックを2~4%に認めた.また,デバイス脱落(2%),大動脈閉鎖不全の増悪(9%),三尖弁閉鎖不全の増悪(9%)などの合併症の報告もある126, 127).近年のメタ解析では,膜様部VSDに対するカテーテル治療の成績として,成功率は97.8%,合併症の発生率は遺残短絡15.9%,不整脈10.3%,弁機能障害4.1%,完全房室ブロック1.1%とされている128).また,外科的閉鎖術とカテーテル治療を比較したランダム化比較試験では,両者の有効性と重篤な有害事象の発生率には差がなく,輸血回避率や入院期間などにおいてカテーテル治療が有益であったと報告されている129).なお,わが国では膜性部VSD治療用の閉鎖栓は未認可である.
筋性部VSDに関しては,外科的な閉鎖が困難で死亡率は0~17%と低くなく,再手術率も5~10%と高い130–133).欧米では,左室・左房に容量負荷がある筋性部VSDに対する経皮的またはハイブリッドアプローチによる経心室的カテーテル治療が積極的に施行されている134–137).
米国での閉鎖栓を用いた筋性部VSD閉鎖の基準は次のようになっている138).1体重が5 kg以上で心室中隔の形状が閉鎖に適している筋性部VSDの場合は,経皮的な閉鎖の適応となりうる.2体重が5 kg未満,あるいは心室中隔の形状が特異な場合は,手技またはデバイスに関連した合併症の危険性が高くなるため,外科的な閉鎖または経心室的なカテーテル治療を検討する.
除外項目はVSDから大動脈弁,肺動脈弁,僧帽弁,および三尖弁までの長さが4 mm未満,肺血管抵抗が7 U・m 2以上,敗血症,および6ヵ月以上抗血小板薬が使用できないことである.
合併症としては心停止,血圧低下,右室穿孔,大動脈弁損傷,三尖弁閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全,軽度の左室流出路狭窄の出現,デバイス塞栓,溶血,脳卒中・TIA,心室頻拍,房室ブロックなどが報告されている134).近年の米国における多施設研究では,経心室的カテーテル治療は併施する心臓手術がない場合では手技的成功率は100%であり,中期的な完全閉鎖率も90%と高く房室ブロックや有意な房室弁逆流の合併はなかったとされている16).わが国では筋性部VSD用の閉鎖栓も未認可である.
VSDの閉鎖栓はわが国では未認可であるため,推奨レベルを呈示しない.米国での筋性部VSD閉鎖の推奨レベル139)を参考のために示す(表19).表19 米国における筋性部VSD 閉鎖の推奨(参考)と
エビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
有意な左右短絡
*がある5 kg 以上の乳幼児,小児,成人において経皮的に筋性部VSD の閉鎖を考慮する. IIa
B
有意な左右短絡の筋性部VSD と人工心肺を用いた治療が必要なほかの先天性心疾患を有する新生児,5 kg 未満の乳児および小児では,人工心肺中もしくは先行してハイブリッドアプローチにより経右室的に筋性部VSD のデバイス閉鎖を考慮してもよい. IIb有意な左右短絡がある筋性部VSD であっても,房室弁や半月弁と十分な距離がない場合は,デバイスによる閉鎖を行うべきではない. III時間経過で縮小が期待できる小~中サイズの筋性部VSD を有するが症状や肺高血圧の所見がない症例では,閉鎖を行うべきではない. III * Qp/Qs 2.0 以上または左室・左房の容量負荷があるもの. (Feltes TF, et al. 2011139)より作表)
1.4 動脈管開存症(表20)
動脈管開存症(PDA)のカテーテル治療は1967年に初めて報告されたが141),大径のシースが必要で,かつ手技が複雑であるため普及しなかった.Rashkindらが1979年にsingle-disk 142),1987年には改良されたdouble-disk 143)を用いた閉鎖術を報告して以来,普及するようになった.1990年代前半に,Gianturcoコイルを用いたPDAの閉鎖術が報告され144, 145),より細い5 Frカテーテルを用いて閉鎖が可能という点が画期的であった.その後,種々の閉鎖栓,閉鎖術が開発され,現在,わが国で使用可能なPDA閉鎖用のデバイスは,コイル,Amplatzer TM Duct Occluder(ADO), Amplatzer TM Duct Occluder II(ADO II),およびAmplatzer Piccolo TM Occluderである.PDAの形態分類には大動脈造影側面像を用いたKrichenko分類が広く用いられている(図3)
146).多くのPDA患児は乳児期から小児期に発見されて治療されるが,症状が比較的乏しいために成人期まで放置される症例や,成人期に初めて診断される症例もまれではない.とくに近年,高齢者心不全の原因としてPDAが散見されるようになった.高齢者のPDAはその形態や血行動態が小児期とは大きく異なり,カテーテル治療の適応に関して
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も注意を要する84).
1.4.1 コイルによる動脈管開存閉鎖術
PDAの閉鎖にはさまざまなコイルが用いられ,材質,直径,巻数,太さ,ダクロン糸のつき方などに特徴がある.プッシャブルコイルであるGianturcoコイルも,習熟すれば安全に使用できるが147),ほとんどの施設でより安全なデタッチャブルシステムにより閉鎖術が施行されている.これには0.038インチFlipper ® PDAコイルを使用する場合と, 0.052インチGianturcoコイル先端の球状部を3 Fr心筋生検鉗子で把持してデタッチャブルシステムとしたものを用いる2つの方法があった.わが国でADOが保険適用となった2009年以前は,複数コイルの同時留置,0.052インチGianturcoコイルの使用などにより,最小径4 mm以上の動脈管にもコイルによる閉鎖術が試みられた148).しかし,動脈管が太くなると,コイルの脱落・遊走などの合併症もまれではないことから,コイルの適応は最小径2~3 mm
以下の動脈管と考えられている149–151).なお,0.052インチGianturcoコイルと3 Fr心筋生検鉗子はすでに製造が中止され,日本国内では販売されていない.
コイルによるPDA閉鎖術については多くの報告がある. 1990年代半ばに施行されたコイル閉鎖術535例(最小径中央値2.0 mm)の検討では,成功率95%,24時間以内の完全閉鎖率75%であり152),欧州での集計では,1,258例(1,291回)のコイル閉鎖術の結果,閉鎖率は留置直後で59%,1年で95%である153).
1.4.2 コイル閉鎖術の問題点,合併症とその対策
a. 過剰コイルの血管内突出
コイルの過剰な巻き数部が肺動脈内または大動脈内に突出して左肺動脈または大動脈が狭窄する場合がある.小児例では,わずかな突出は成長とともに軽減するが,有意な圧較差を残す場合には,コイルを回収して再閉鎖を行うなどの対処が必要となる. b. 肺動脈・胸腹部大動脈内へのコイルの脱落
通常,コイルの離脱時に発生するが,まれに数日後にも発生する.肺動脈側に塞栓することが多く,その部位はコイルの大きさ,脱落した個数によりさまざまである.通常, 4 Fr(5 mm,10 mm径)のキャッチングスネアと5 Frロングシースなどを用いれば,その回収は可能である.血行動態も安定しているため,落ち着いて回収する.なお,静脈側からアプローチする場合,コイルが三尖弁腱索に絡まるのを防ぐため,肺動脈内でロングシースなどに回収することが望ましい154). c. 赤血球破砕症候群
PDAに対するカテーテル治療後には速やかな血栓性閉塞をきたすように,抗血栓療法や抗血小板薬を用いることはない.遺残短絡のために多数の赤血球が破砕された場合,ヘモグロビン尿を発症する155, 156).ハプトグロビンを投与しながら経過を観察すると,血栓形成とともに自然に改善することもあるが,乳酸脱水素酵素(LDH)上昇が持続,ヘモグロビン低下が進行する場合には追加治療を考慮する.体内のハプトグロビンが消費された後に顕性化するため,退院後に発見される可能性がある.
1.4.3 Amplatzer デバイス(図4)
a. ADO
ADOは2009年に保険収載された.デリバリー用のロングシースは5~7 Frである.わが国では,施設基準を満たした施設の術者基準を満たした医師が,JCICとCVITの定める教育プログラムを受けた場合にのみADOを使用で
表20 PDA に対するカテーテル治療に関する推奨とエビデ
ンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
左右短絡を有する中等大より大きい動脈管で,解剖,患者の体格が適しており,以下の条件を満たす動脈管開存の場合,カテーテル治療を行う. 1 ほかに外科手術を必要とする心血管系合併症を有さない. 2 多呼吸,体重増加不良などの症状がある. 3 胸部X 線,心エコー検査などで肺血
流増加所見,左心系の容量負荷所見を認める. I B左心系の容量負荷はなく,動脈管は小さいが,聴診で動脈管による心雑音が聴取される動脈管開存の場合,カテーテル治療を考慮する. IIa C動脈管の短絡血流は肺血管閉塞性病変のため両方向性であるが,酸素負荷,肺血管拡張薬により血管抵抗が減少し,左右方向になる動脈管開存の場合,カテーテル治療を考慮してもよい. IIb C左右短絡を有する小さな動脈管で,心拡大がなく,動脈管による心雑音を聴取しないが,心エコー検査で乱流シグナルを認め,動脈管を短絡する加速血流が検出される脈管開存の場合,カテーテル治療を考慮してもよい. IIb C動脈管は肺高血圧,肺血管閉塞性病変のため両方向性か右左方向で,酸素負荷,肺血管拡張薬に反応しない脈管開存の場合,カテーテル治療は行うべきではない. III Harm C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
きる.
現在わが国で使用可能なADOサイズは7種類あり,大動脈端径/肺動脈端径/スカート径/長さ(mm)の順に, 5/4/9/5,6/4/10/7,8/6/12/7,10/8/16/8,12/10/16/8, 14/12/20/8,16/14/22/8 である.14/12/20/8,16/14/22/8 は受注輸入されている.原則的に,ADO肺動脈端径が動脈管最小径より2 mm以上大きいものを選択する.計算上12 mmまでの動脈管が閉鎖対象となるが,一般に動脈管径が大きくなるほど,より大きいサイズのADOを使用す
る必要がある.以下の場合は,左肺動脈狭窄の合併を回避するためにADOの回収が勧められる. 1 左肺動脈起始部に3 mm以上または左肺動脈径の1/3以
上突出する場合. 2 ドプラで計測した左肺動脈血流速度がADO離脱前に3.0
m/秒以上またはカテーテル前血流速度の1.75倍以上. ADOに関する米国における多施設共同研究157)では99%
図3 Krichenko 分類によるPDA の形態(Krichenko A, et al. 1989 146)を参考に作図)
A 型B 型C 型
D 型E 型
A型(円錐型): 最小部が肺動脈側かつ膨大部が大動脈側
D型(動脈瘤型):最小部が複数箇所存在E型(伸展円錐型):細長い管型で最小部が気管より前方に存在
B型(窓型): 最小部が大動脈側かつ動脈管径が短小C型(管型):最小部のない管型
図4各種 Amplatzer devise
A: AmplatzerTM Duct Occluder B: AmplatzerTM Duct Occluder II C: Amplatzer PiccoloTM Occluder D: AmplatzerTM Vascular Plug II
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に留置可能で,完全閉鎖率は当日89%,1年後99.7%と良好で,透視時間も中央値7.1分と短い.ADOはコルク栓に似た形態で肺動脈側にretention diskを有さないため,離脱後に肺動脈端が動脈管内に移動し,閉鎖栓が大動脈内に突出・脱落することがある.この現象は動脈管が伸縮性に富む場合,とくに小さな乳児で起こりやすい158).ADO離脱前には下行大動脈およびデリバリーシースから造影し,1ADO肺動脈端が動脈管内でなく肺動脈内にある, 2ADO体部が動脈管の最狭部に挟まれてウエストを形成した形態で固定されていること,を確認する.ADOの導入により,太い動脈管もより確実かつ容易に閉鎖することが可能になったが,幼児の場合は大動脈縮窄を合併する可能性があるのでKrichenko分類のB型の閉鎖は難しく,D型でも困難な場合がある159). b. ADO II
ADO IIは2019年に保険収載された.大動脈側と肺動脈側の両側に脱落防止用のディスクが存在するので,動脈・静脈のどちらからもアプローチ可能な構造となっている(図5).現在,わが国で使用可能なデバイスは8種類あり,それらのサイズは以下である.ウエスト径/全長/ディスク外径の順に,3/4/9,3/6/9,4/4/10,4/6/10,5/4/11,5/6/11, 6/4/12,6/6/12.動脈管の直径(ダクトオクルーダーの中心部が配置される動脈管径)と長さ(膨大部から肺動脈端までの長さ)からデバイスを決定する.デリバリーカテーテルは4 Frまたは5 Frである.適応となる動脈管最小径が5.5 mm以下とADOより細い動脈管が対象となるが,長さは12 mm未満とより長い動脈管に対応しており,ADOでは閉鎖が困難な場合があるKrichenko分類のC,D,E型の非円錐形の動脈管に対しても両側のディスクがあるため脱落のリスクが軽減される.米国の25施設で行われた単群,非盲検,多
施設共同試験の結果では,C型4例,D型10例,E型38例を含む合計192例(年齢6ヵ月~18歳)が登録され,留置成功率は92.7%(178/192)であった.残存短絡とデバイス塞栓はともに0.5%であった160).しかし,とくにC,D,E型を閉鎖した場合にディスクの上端が大動脈側へ突出(多い報告で15~16%)
161, 162)して大動脈縮窄を合併する場合があり,
体格が小さい乳幼児ではとくに注意を要する. c. Amplatzer PiccoloTM Occluder
Amplazter Piccolo TM Occluderは,おもに早産児PDA閉鎖用に開発されたデバイスである.2019年1月にFDAで承認され,わが国では2020年4月に保険収載された. ADO IIと同様に中心部のウエストと,その両端の保持ディスクから構成されている.動静脈のどちらからもアプローチが可能である.デバイスサイズ(mm)はウエスト径/両ディスク間長/ディスク径の順に,3/2/4,3/4/4,3/6/4, 4/2/5.25,4/4/5.25,4/6/5.25,5/2/6.5,5/4/6.5,5/6/6.5があり,4 Frのデリバリーカテーテルで留置可能である.体重700 g以上での留置が認められていて,体重2 kg以下の早産児の場合は,通常動脈管形態がF型(ホッケースティック様で長い)であり,ディスクの突出による大動脈縮窄と左肺動脈狭窄を避けるようデバイス全体を動脈管内へ留置する.基本的にウエスト径がPDA最小径より1 mm大きく,両ディスク間長が動脈管長以下のデバイスが選択される.
一方,体重2 kg以上の場合は,A型の割合が多くなり,またデバイス塞栓も発生しやすくなるので,ADO IIと同様に,ウエストは動脈管内に,両側の保持ディスクはそれぞれ動脈管の大動脈側および肺動脈側に留置する.動脈側・静脈側のどちらからでも留置可能だが,体重2 kg以下の場合は大腿動脈閉塞を避けるため,大腿静脈からアクセスする.適応となる動脈管径は4 mm以下,長さ3 mm以上とされており,ADO IIの対象となる動脈管よりさらに細く,短い.ディスク径が小さいため,体重2 kg以上の場合は大動脈側に突出させずに留置できるが,脱落のリスクは上昇する.
米国の前向き多施設共同試験では,治療時の平均月齢1.25ヵ月,平均体重1.25±0.35kg(範囲0.7~2.0)の早産児100例に本デバイスが留置された.PDAの平均最小径2.8±0.7 mm(範囲1.4~4.0),最大径は4.1±0.6 mm(2.0 ~6.0),長さは10.6±2.2 mm(5.3~19.2)で,その形態はほとんどがF型(70%)とC型(16%)であり,そのうちの83.8%は最短長のデバイス(3/2/4,4/2/5.25,5/2/6.25)が留置された.閉鎖成功率は99%で,6ヵ月後の閉鎖率は100%であった.術中の脱落を2例に認め,デバイスは回収され,アップサイズデバイスが留置された.左肺動脈狭
図5 ADO II の留置法(Saliba Z, et al. 2009 160)より) Saliba Z, et al. J Interv Cardiol. 2009; 22(6): 496-502. John Wiley and Sons. (c) 2009, the Authors. Journal compilation (c) 2009 Wiley pediodicals, Inc.
A: 動脈側からADOIIを留置B: 肺動脈側からADOIIを留置
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
窄はなく,2例で大動脈縮窄が進行し,ステント留置が施行された.三尖弁閉鎖不全の増悪が5例に認めれており,注意が必要である163). d. AVP II
わが国,FDAともに,AVP IIは心臓および頭蓋内血管への適応は承認されていないが,米国,ヨーロッパでおもに5 kg未満の乳児のPDAに使用されている.AVP IIの構造はADO IIと同様に中心部のウエストと両端の保持ディスクから構成されているが,ウエスト径と保持ディスクの径が同径で大動脈や肺動脈突出のリスクがより低いことが期待されている.デバイス径は3~22 mm,長さは6~18 mmまでの計11種類のバリエーションを有している.このうち,使用頻度が比較的高い,デバイス径8 mmまでは4 Frの,10 mm,12 mmは5 Frのデリバリーシースで留置可能である.ただし内腔支持力が弱いシースではデリバリーが困難な場合がある.米国での単施設後ろ向き研究では, C型5%,D型9%,E型28%を含む67例のうち,43例(64%)をAVP IIで閉鎖し,Krichenko分類にかかわらず閉鎖成功率は100%で,大動脈や左肺動脈への突出・狭窄や遺残短絡はない164).ADOでは閉鎖困難な膨大部が浅い動脈管も閉鎖可能だが,動脈管の長さが6 mm未満の短い管状動脈管は大動脈側に突出の恐れがある.閉鎖方法は41例(95%)が静脈側アプローチでデバイスの選択は動脈管最狭窄部の2倍以上,動脈管の中央部の1~2 mm以上のサイズで留置される.
1.4.4 PDAに対するカテーテル治療のさまざまな問題
a. 心雑音のないPDA(silent PDA)をどうするか
Silent PDAが感染性心内膜炎の原因になるか否かについてはいまだ議論がある.現時点で,silent PDAの閉鎖の意義を裏づけるデータはない.Lloydらによれば,silent PDAにおける感染性心内膜炎の発生率は連続性雑音を聴取する症例の1,000分の1以下と推測される165).しかし, 1心雑音は胸壁の厚さ,診察室周囲の環境,脈拍数,さらには短絡血流の方向などに影響を受け,短絡量のみで規定されていないこと166),2成人の動脈管は概して大きいが,小児期にsilent PDAと診断された動脈管も成長する可能性があること,3年齢とともに血圧が上昇し,動脈管前後の圧較差が増大したとき,感染性心内膜炎の危険率が上昇する可能性があること,は留意すべきである. b. 乳児期早期のPDAをカテーテル治療で閉鎖するか
カテーテル治療のデバイスでコイルやADOしか使用できなかった時代には,乳児期早期のPDAのカテーテル治療の対象は外科的介入が困難な重症例に限られ,未熟児・新生児など体格が小さな症例は外科的介入を行うべきとされてきた.Fisherらは月齢1~11ヵ月,体重2.6~7.8 kg,
動脈管最狭部径1.5~5.0 mmの12例に対し,ADOによる閉鎖術を行った結果,2例で結紮術が必要となり,9例で手技・透視時間が長かったと報告している167).乳児例ではADOのretention skirtが小径の大動脈に突出する可能性が高く,体重10 kg未満では合併症の発症率も高くなるため,十分に注意する159).
しかし,ADO II,Amplatzer Piccolo TM Occluder,適応外ではあるがAVP II等のデバイスの参入により,乳児期早期のPDAに対するカテーテル治療の成績は向上している.英国の13施設による多施設共同研究で体重6 kg未満(平均体重4.9±1.0 kg,月齢5.7±3.0ヵ月)の患者408例に対して,ADO(220例),ADO II(56例),Amplatzer Piccolo TM Occluder(41例),コイル(40例),AVP II(7例)を用いてカテーテル治療を施行し,92%(374例)が合併症なく閉鎖でき,最終フォローアップ時に95%が完全閉鎖していた.7例(1.7%)に左肺動脈や大動脈への突出を認め,20例(5%)にデバイス塞栓を認めたが,体重4 kg未満,4~5 kg未満,5 kg以上の3群で合併症発生率に有意差は認められなかった168). c. 新生児期のPDAを閉鎖するか
在胎週数27週未満で出生した早産児の50%以上は,心不全症状を発症し169),従来から薬物治療が第一選択で,無効な場合に外科的閉鎖術が行われてきた.しかし,外科的結紮術には,出血,反回神経麻痺,横隔神経麻痺,乳糜胸,偽性瘤,あるいは創部感染等の合併症がある170).カテーテル治療に関しては,ADOは硬く太いデリバリーシースが小さな右室流出路を急峻な角度で走行して血行動態を悪化させやすく,またシースが折れ曲がりやすいため167), 5 kg未満では推奨されない.また,新生児は早期産であればより腎機能が未成熟なため171),造影剤の使用により造影剤腎症をきたしやすいこともカテーテル治療の障害となってきた.しかし,Amplatzer Piccolo TM Occluderが使用可能となり,700 g以上の早産児のPDAが比較的安全に閉鎖されるようになった163).また,適応外使用になるが,新生児に対するAVP IIによる閉鎖も報告されている.米国の単施設での検討では,F型(早産児)24例(手技時日齢30日,手技時体重1,249 g)をAVP IIで閉鎖した.左肺動脈狭窄をきたしてデバイスを回収した3例を除く,21例(88%)に留置が可能であった.1例に左肺動脈狭窄を合併し,ステント留置が施行された.大動脈や遺残短絡はなかった172).大動脈側の膨大部径が小さい症例に,AVP IIは大動脈側への突出が少なく,有用であり,Amplatzer Piccolo TM Occluderで閉鎖が不可能な場合の代替手段になりうる.
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d. 成人期のPDAに対するカテーテル治療
成人期のPDAは決してまれではない.多くの場合,動悸,息切れなどの心不全症状を有しており,長期の左心系容量負荷のため,心房細動,僧帽弁閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全を合併することが多い.成人のPDAを外科的に閉鎖するには,小児期のように単純な結紮術は困難で,人工心肺を用いた開心術を選択する必要があり,カテーテル治療の有用性は高い.加齢に伴う大動脈弓の形態変化によって,動脈管形態も,小児期に多くみられる円錐型(Krichenko分類A型)のものに代わって,動脈管長が短く大動脈側が開大した形態の症例が多くなる.さらに動脈管周囲や動脈管そのものに石灰化病変を伴う場合や,動脈瘤を形成する場合があり,慎重に評価する必要がある.小児例と比べ動脈管長が長い場合があり,小児に用いるADOでは長さが不十分な症例があり,形態に応じてVascular Plug IIが用いられている164).CTを用いた動脈管の3D構築像は,成人のPDAではとくに有用である.成人のPDAでは動脈管径が大きなものが多く,石灰化病変を伴っていることが多いため,カテーテル治療後も残存短絡が生じやすく,まれに重度の遷延する溶血を合併する症例も報告されている148, 173).抗凝固薬の使用例では,とくに注意が必要である.PDAにほかの大動脈病変を合併している場合,カバードステントを用いて大動脈の形成とPDAの閉鎖を同時に行ったとの報告もある174).まれな合併症としてカテーテル治療後の大動脈解離の報告もある175).
1.5 心房中隔裂開術(表21)
1.5.1 適応
右心系低形成心疾患(三尖弁閉鎖症,純型肺動脈閉鎖症,純型肺動脈狭窄症など)で体静脈血の左心系への還流が心房間交通に依存している疾患群,左心系の閉塞性疾患(左
心低形成症候群など)で肺静脈血の還流が心房間交通に依存している疾患群,大血管転位症のように動静脈血の混合を心房間交通に依存している疾患群がある.このような疾患群で心房間交通が狭小化している場合にバルーン心房中隔裂開術(BAS)が行われ,心房間交通の拡大を図る.
大血管転位症のように動静脈血の混合を心房間交通に依存している疾患群での本法の適応は,原疾患に対する心内修復術の時期との兼ね合いで決定する.低酸素血症が高度で,ほかの方法(例: プロスタグランジンE1投与)で改善せず,心内修復術が間に合わないときに本法を施行する.左心系の閉塞性疾患(左心低形成症候群など)で肺静脈血の還流が心房間交通に依存している疾患群では, BASを行うか,最初からステントを用いた心房間交通作成術を行うかは,議論のあるところで,症例により決定する.右心系低形成心疾患で体静脈血の左心系への還流が心房間交通に依存している疾患群では,原疾患に対する治療を行うと,循環が心房間交通に依存しなくなることがあるので,適応の判定は慎重に行うべきである.
BASにはバルーンを用いて拡大するRashkind法とStatic法,そのほかにブレード法がある.しかし,BAS用のブレードカテーテルは,現在わが国では入手不可能となっている.またBASを行ってもすぐに狭小化してしまう心房間交通に対するステントの留置の有用性も報告されている176–178).
1.5.2 Rashkind法
1966年にRashikindとMillerによって行われたもっとも古いカテーテル治療である179).通常は心カテーテル検査室にて,透視と心エコーによりカテーテル先端の位置確認をしながら行われる.バルーンが肺静脈,左心耳内,僧帽弁位にないことを確認しながら希釈造影剤でバルーンを拡大し,膨らんだバルーンを左房内より右房内に引き抜き心房中隔を裂開する.引き抜き時に引きすぎると,バルーンが下大静脈にまで達して下大静脈の損傷を招くことがあるため,注意が必要である.まれに,心臓カテーテル検査室への移送も困難な症例では,ICU内で心エコーガイドのみにて行われることもある.Rashkind法用のバルーンカテーテルはわが国ではラシュキンドカテーテル(日本メドトロニック社)が使用可能であったが,2020年末に有害事象により世界中で回収の報告が出ている.現在,わが国ではRashkind法用のバルーンカテーテルがないため,回収対象となっている本カテーテルを使用しているが,Z-5バルーン(ヌーメド社)を保険償還の申請中である.
表21 先天性心疾患に対するBAS の適応に関する推奨と
エビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
心房間交通が狭小化し,ほかに十分な動静脈血の混合部位をもたない大血管転位を認める場合,BAS を行う. I C肺静脈血の還流が心房間交通に依存している左心系の閉塞性疾患を認める場合, BAS を行う. I C心房間交通が狭小化した右心系低形成疾患を認める場合,BAS を考慮する. IIa C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
a. 合併症
バルーンが破裂することがある180).破片が飛散せず空気抜きが完全であれば,身体への重篤な影響はないが,破片が飛散したり空気抜きが不完全な場合,塞栓により脳梗塞等が発生しうる.大きなバルーン断端は回収可能なことがある181).バルーンが心室に入っていると,腱索を断裂することがある.心耳のjuxtapositionの例では,右心耳にバルーンが入ると,穿孔することがある.バルーンを膨らませたまま下大静脈の遠位まで引きすぎると,下大静脈の破裂が発生しうる. b. Rashkind法の限界
大血管転位症で本法を行う場合,生後1ヵ月を過ぎると,心房中隔が厚くなり,バルーンで裂開できなくなることがある.また左心低形成症候群では,生直後から心房中隔壁は厚いことが多い.BASが有効でない場合には,ブレード法やステントを用いた方法を適用する.
1.5.3 Static法
BAS用バルーンカテーテルを用いるのではなく,弁拡張用バルーンもしくは血管形成用のバルーンカテーテルを用いて心房間交通を拡大する方法である.2021年中にはStatic BASに対して保険償還をもつTMP-PEDカテーテル(東海メディカル社)が販売される予定である.Rashkind法では裂開困難となった心房中隔の拡大や,Rashkind法用のバルーンカテーテルが挿入困難な症例,太いイントロデューサー・シースの留置が困難な症例で行われることが多い.
まず,カテーテルを用いてガイドワイヤを左房内もしくは肺静脈まで先進させる.ガイドワイヤにバルーンカテーテルを沿わせて心房中隔位までもって行き,バルーンを広げて心房間交通を拡大する.Rashkind法用のバルーンカテーテルが引き抜き可能な症例では,心房間交通の拡大効果はRashkind法が優れている.しかし,心房中隔が肥厚してRashkind法用のバルーンカテーテルが右房まで引き抜けない症例では,Static法が有効な方法である.
1.5.4 ブレード法
Parkが開発した方法である182, 183).カテーテル先端に刃が収められていて,手前のワイヤを押すと刃が出る仕組みになっている.左房内で刃を開き,手前に引いて心房中隔を切開する.透視で,刃の方向が左下方を向くようにしてカテーテルを引く.刃の長さに大・中・小のサイズがある. BAS用のブレードカテーテルは,現在わが国では入手不可能となっている. 1.5.5 単独施行までに必要と考えられる症例数
手技的にはもっとも基礎的なものであり,卵円孔へのカテーテル挿入とバルーンの位置確認が重要である.単独施行に必要な症例の経験数は,Rashkind法が3例,Static法が5例程度と考えられる.
1.6 心房間交通作成
1.6.1 Brockenbrough法
左心低形成症候群の小児や,肺動脈性肺高血圧症の患者では,心房中隔にまったく交通がない場合がある.そのような患者で,心房間交通を作成する場合には, Brockenbrough法による中隔穿刺が行われる.以前は肺動脈造影や透視のみで左房の位置確認をしていたが,近年では安全性を確保するために,経食道心エコーや心腔内エコーガイド下の手技が勧められている.成人では習熟を要する手技ではあるが,合併症の頻度は高くない(針穿孔3%以下,心タンポナーデ1%以下,死亡0.5%以下)
184).新生
児では,習熟した術者によってのみ行われるべき合併症の頻度が高い手技である.最近では高周波通電用のBrockenbrough針が開発され,本法でも導入されている185).また,小児用に高周波通電用のワイヤも使用可能となっている.
1.6.2 心房間交通に対するステント留置
心房中隔が肥厚しており,BASを行っても十分な効果を得られない場合や,短時間で再狭窄を起こしてしまう場合に本法が行われることがあり176–178),左心低形成症候群を中心とした疾患群に施行される.しかし,わが国ではこの数年間に年間5例前後行われているのみである.
手技のモニターは,透視とともに経食道心エコーもしくは経胸壁心エコーが用いられる.BASの直後に行われたときや,左心低形成症候群によくみられる卵円孔の位置が高位で左房壁に接しているような場所の場合には,ステントが留置直後に落下する可能性もあり,ほかの心房間交通拡大術とは異なるリスクを有している.
1.6.3 特発性肺高血圧症の末期右心不全に対する 心房間短絡の作成(表22)
肺高血圧症が進行して肺血管抵抗が著しく上昇すると,右室から肺への心拍出量が減少し,低拍出症に陥る.このような病態の場合,心房中隔に短絡を形成して心房間での右–左短絡を作成し,左室よりの体循環拍出血流量を確保
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する方法である186–189).Brockenbrough法で心房中隔を穿刺し,そこに8~12 mm径のバルーンカテーテルを挿入して心房間交通を作成する.大きな欠損孔を作ると低酸素症が強くなりすぎるため,小さめのバルーンより開始したほうが安全であるが,死亡率は16%と高いことが報告されている.しかし,放置すれば1年生存率が40%以下の症例が対象であり,許容範囲とされている184, 185).
1.7 先天性大動脈弁狭窄(表23)
先天性大動脈弁狭窄(AS)に対するバルーン拡大術は, 1983年のLababidiによる8歳男児に対する報告に始まる190).同じ1980年代に,乳児・新生児に対する適用が報告され191, 192),その後,現在まで数多くの報告がなされているが,ほとんどが単施設からの観察研究であり,外科的弁形成術とのランダム化比較試験は存在しない.しかし,その低侵襲性と急性効果から,欧米のみならず,わが国においても,重症度の高いASにおいては第一選択の手法として確立してきた193).小児において,適切な手法によるバルーン拡大術を単回あるいは段階的に適用することで,長期に有効性が得られる場合もあるが,大部分の症例でいずれは再狭窄や弁逆流が生じるために外科治療を要する.したがって,バルーン拡大術はあくまでも姑息的治療の位置付けとされる194–200).
1.7.1 新生児重症AS
AS病変が高度なほど,左室容量は小さいか,収縮力が低下する傾向にある.また,左室容量や収縮力が正常に近くても,顕著な心内膜線維弾性症が進展し,拡張能低下を伴う場合がある.このような左室機能不全が併発し,体循環が動脈管を経由した右室からの拍出に依存する循環動態を呈する疾患を重症AS(critical aortic stenosis)と定義
する201).狭窄解除後に,必要に応じて左室リクルートメントを適用することにより左室機能の改善が期待されるが202),二心室循環が成立しないと判断される場合には,肺静脈還流障害による肺高血圧が進展する前に,ハイブリッド治療(外科的両側肺動脈バンディング術+動脈管ステント留置術)またはNorwood型第1期手術に切り替える必要がある.
経皮的バルーン拡大術の際には,順行性アプローチと逆行性アプローチがあるが,小さい左室内でのカテーテルの反転,カテーテルやガイドワイヤによる僧帽弁の損傷のリスク等から,順行性アプローチが選択されることは少ない.逆行性アプローチでは,大腿動脈,総頚動脈,臍帯動脈,腋窩動脈にシースを留置する.なかでも,同じ個体でももっとも径が大きく,大動脈弁まで直達できることから,
表22 先天性心疾患に対する心房間交通作成に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
適応のある疾患に対し,心房中隔穿刺針を用いた心房中隔穿刺を行う. I C左心低形成症候群などで左房圧が高く,肺静脈還流が心房間交通に依存している疾患に対し,左房圧減圧のためにステント留置
*を考慮する. IIa C特発性肺高血圧症の末期右心不全に対し,心房間交通の作成を考慮する. IIa C * この場合,カテーテルを右心房から左心房へ通すルートおよび治療法には,大
腿静脈,臍静脈,肝臓穿刺,ハイブリッド法などがある.表23 先天性AS に対するバルーン拡大術に関する推奨と
エビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
新生児の動脈管依存性重症AS や,左室収縮能が低下した先天性AS に対し,二心室修復を想定する場合には,圧較差にかかわらずバルーン拡大術もしくは外科的弁形成術を行う. I B症状のない先天性AS では,安静時の心臓カテーテル検査で測定した収縮期圧較差50 mmHg 以上でバルーン拡大術もしくは外科的弁形成術を行う. I B胸痛,失神などの症状がある場合,心電図でストレインパターンが認められる場合は,圧較差40 mmHg 以上でバルーン拡大術もしくは外科的弁形成術を行う. I C運動競技への参加や挙児希望の場合は,圧較差40 mmHg 以上でバルーン拡大術もしくは外科的弁形成術を考慮する. IIa C新生児の動脈管依存性重症AS や,左室収縮能が低下した先天性AS に対し,有意な左室低形成あるいは心内膜線維弾性症が顕著である場合に,バルーン拡大術もしくは外科的弁形成術を考慮してもよい. IIb Cカテーテルで測定した圧較差が40 mmHg 未満で,無症状あるいは心電図でストレインパターンが認められない先天性AS に対し,バルーン拡大術もしくは外科的弁形成術を行うべきではない. III Harm C外科的弁形成術が適応となる中等度以上の大動脈弁逆流を伴う先天性ASに対し,バルーン拡大術を行うべきではない. III Harm C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
総頚動脈が選択されることが多い203).その際,かつては外科的カットダウンによりシースが留置されたが,近年は3 Frシースに対応する細径のバルーンカテーテルが使用され,エコーガイド下に穿刺留置,シース抜去後の用手止血も可能となっている.適用するバルーン径は大動脈弁弁輪径の0.9~1.0倍とされる.中等度以上の大動脈弁逆流がある場合には適応外となる.あくまで急性期を乗り切るための姑息的治療という位置付けであることから,小さめのバルーン径を選択し,効果をみながら段階的に拡張を繰り返す方針をとる.
1.7.2 乳幼児期以降のAS
心臓カテーテル検査で測定した安静時収縮期圧較差(peak to peak)が50 mmHg以上,また,胸痛,失神などの症状がある場合,心電図で左側胸部誘導にストレインパターンが認められる場合,運動競技への参加や挙児希望の場合は,圧較差40 mmHg以上がバルーン拡大術の適応となる139, 204).中等度以上の大動脈弁逆流があればバルーン拡大術の適応はない.ドプラ心エコー法で測定した瞬時大動脈弁収縮期圧較差は,心臓カテーテル検査で測定した収縮期圧較差に比べて過大評価される.そのためドプラ心エコー法で得られた収縮期圧較差は参考値とする.
バルーン拡大術の際には,新生児と同様に大動脈弁弁輪径の0.9~1.0倍のバルーン径を選択する.年長児で弁輪径が11 mm以上と大きな症例には,シングルバルーン法では6 Fr以上のシースが必要となるため,大腿動脈の損傷や血栓性閉塞を生じやすくなるため,ダブルバルーン法が選択される205).左室機能が保たれていれば,長径4 cmの長めのバルーンを用いて,高頻度ペーシングによりバルーンの拍出を抑えて安定をはかる206).
1.7.3 効果および合併症
経胸壁ないし経食道心エコーガイドを併用すると,手技中の効果判定にも有用であり,大動脈弁逆流が軽く被曝放射線量も低下する傾向があるとの報告もある207).的確な手技が効果的に実施されると,収縮期圧較差は20ないし35 mmHg低下し,大動脈弁逆流はほとんど起こらない. Valvuloplasty and angioplasty of congenital anomalies (VACA)Registryでは,1984~1992年に23施設から小児606例の報告があった.全体では60%の収縮期圧較差の低下がみられ,不成功,すなわち60 mmHg以上の圧較差残存,有意合併症や死亡の原因としては,生後3ヵ月未満,術前の高度な圧較差,バルーン径/弁輪径比0.9未満,未治療大動脈縮窄(CoA)の併存,日齢がより小さいことがあげられた208, 209).この結果からも,バルーン径/弁輪径比は0.9~1.0が推奨され,それより大きなバルーンでは大動
脈弁逆流の発生率が有意に増加することが示されている.
1990年代の報告では,バルーン拡大術の成功率は90%前後で209, 210),2000年代の比較的大規模の調査によると,再治療回避率は10年後で50%前後である211, 212).急性期の治療効果に関してはバルーン拡大術と外科的弁形成術とのあいだに差はなく,長期的な再手術回避率については外科的弁形成術が優れるという報告がある200, 213).初回の治療方法については,今後カテーテル治療と外科手術の比較検討が必要である.
1.8 小児の先天性僧帽弁狭窄症(表24)
先天性僧帽弁狭窄症(MS)は,先天性心疾患の0.2~ 0.4%を占めるまれな疾患である.重症例の自然歴は不良であり,4~5歳までに死亡する214, 215).また,外科的治療の死亡率も高い214, 215).小児ではリウマチ性MSに対する経皮的カテーテル僧帽弁形成術の報告があるが216, 217),先天性MSはまれな疾患であるがゆえに本症に対するバルーン弁形成術の報告は少ない218, 219).
1.8.1 バルーン弁形成術の適応
ほかの心疾患を合併する先天性MS(多くはCoA,AS)の治療は合併形態異常の治療を優先する.合併形態異常がない場合,MSに対する治療の適応は,呼吸困難,体重増加不良などの症状がある場合や,肺高血圧がある場合である.左右短絡疾患と異なり,本症の場合は肺高血圧がかなり長期間続いても血管閉塞性病変に進行することは少ない.ただし,肺高血圧が高度の場合には肺水腫となり突然死することもあり,治療の適応となる.
先天性MSは外科的修復が困難で予後不良の疾患である.僧帽弁の弁輪が狭小であるため,弁輪部への一般的な人工弁置換が困難であることが多く,弁上に(人工血管等も利用して)人工弁を装着する選択肢もある220).先天性MSに対する外科的僧帽弁形成術,僧帽弁置換術の死亡率は6~48%という報告もある215, 220–222).また,身体の発育
表24 小児の先天性MS に対する治療に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
幼児期早期までの先天性MS では,まずバルーン弁形成術を施行する方針を考慮してもよいが,慎重な適応決定と合併症発生時の対処を計画しておく必要がある. IIb C
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に伴い,再置換術が必要となることもある.治療の困難性ゆえに,先天性MSのうち手術やカテーテル治療の適応となるのは中等症以上の症例で,MSに起因する症状を認めるか体重増加不良がある場合である219).
リウマチ性MSに対するバルーン弁形成術の後は,融合した交連部が分離するとされている217).先天性MSにおけるカテーテル治療の効果発現の機序を調べた報告はないが,先天性MSにおいても,交連部や弁尖の亀裂が生じ,さらに弁下組織間隙の拡大が起こると推測されている223).先天性MSに対するバルーン弁形成術は,乳頭筋を2個認めるいわゆる典型的MSに対し施行したとの報告が多い218, 219).乳頭筋が一つのパラシュート僧帽弁は,バルーン弁形成術により弁下組織が拡大するとは考えにくいため,一般的にはバルーン弁形成術の適応とされないが219), Grifkaらは3例にバルーン弁形成術を施行し,2例で経過良好であったという224).また,MSのなかでも僧帽弁上輪による狭窄は,通常,外科的に輪を切除できるので,カテーテル治療の適応とはならない224).Mooreらの報告でも,4例の弁上輪に対するカテーテル拡大術ののち,全例で僧帽弁閉鎖不全が増悪して弁置換となっている219).したがって,二つの乳頭筋を認めた典型的MSのみをバルーン弁形成術の対象とし,パラシュート弁や弁上輪は適応外とすべきである225–227).
僧帽弁口面積に関して,Raoらは1.0~1.5 cm 2/m 2以下の場合にバルーン弁形成術の適応となると述べている228).成人の正常僧帽弁弁口面積は4~6 cm 2 で,2 cm 2以下で軽度MS,1 cm 2以下となると高度MSとされる217, 223).参考値として体表面積1.7 m 2を用いて計算すると,正常値は2.3~3.5 cm 2/m 2 で,1.1 cm 2/m 2以下で軽度MS,0.6 cm 2/ m 2以下で高度MSとなる229).同じ僧帽弁口面積でも,心拍数や心拍出量が多いと左房圧は上昇する.小児では心拍数や心拍出係数が成人に比べ高いため230),弁口面積が同じでもより重症となる可能性がある.
1.8.2 バルーン弁形成術の方法
バルーン弁形成術は全身麻酔下に施行する.鼠径部を穿刺し,右心,左心カテーテルを施行する.僧帽弁逆流は左室造影からSellers分類231)にしたがって評価する. Gorlinの式から僧帽弁口面積を計算する232).
透視と経食道心エコーを用いて穿刺針の位置をモニターしながら,心房中隔を穿刺する.心房中隔穿刺部位を5 mmのバルーンで拡大したのち,7 Frのロングシースを左房に挿入する.バルーンは,通常の拡張用バルーンカテーテル,またはイノウエ・バルーン(東レメディカル)を用いる.バルーンの径は,左房造影で計測した弁輪径の0.6~0.8倍で開始し,経食道心エコーで左室流入血流速
度,僧帽弁逆流の程度をモニターしながら,効果のない場合は径を徐々に増やし,弁輪径と同等の径のバルーンまで用いる233).
1.8.3 急性期効果
Kveselisらは3例にバルーン弁形成術を試み,1例でのみ施行,弁口面積が0.7 cm 2/m 2から0.85 cm 2/m 2に拡大した234).Spevakらによる初期の経験では,9例で僧帽弁口面積が1.1 cm 2/m 2から1.8 cm 2/m 2に拡大した218).さらに, Mooreらはその後の経験を追加し,18例中15例で有意に左房圧が減少し,僧帽弁口面積は0.7±0.3 cm 2/m 2から1.0 ±0.5 cm 2/m 2へ増加した219).
1.8.4 急性期合併症
バルーン弁形成術に伴う合併症には,僧帽弁逆流,心タンポナーデ,房室ブロック,残存心房間交通,左房内血栓などが報告されている218, 219, 224, 234).緊急手術を必要とする僧帽弁逆流は成人では1%未満で,その原因は僧帽弁の前尖または後尖の断裂であったとされている217).小児では,急性期における中等度以上の僧帽弁逆流は22%,軽度の僧帽弁逆流は28%で,腱索の断裂がみられた症例も報告されている219).心タンポナーデの合併は,成人では3%以下とされているが,小児ではGrifkaらにより,10%と報告されている224).
1.8.5 中長期成績
再狭窄,僧帽弁逆流の悪化,弁置換が必要となった症例があり219),術後は中長期的に,再狭窄や僧帽弁閉鎖不全が発生しうることを念頭に置いてフォローアップする必要がある.
1.8.6 外科的治療か,カテーテル治療か
外科的治療では,僧帽弁形成術や僧帽弁置換術が行われる235, 236).しかし本症では,僧帽弁輪径が小さくかつ異形成の強い弁が多いので形成術で対応困難な例も少なくない.こうした症例では,乳幼児を中心に十分なサイズの弁が入らないこともあり,成績は不良である.
バルーン弁形成術では,術後に高度な僧帽弁閉鎖不全が比較的高率に発生する.それゆえ,年長児で弁輪径が比較的大きい場合には,手術を第一選択とするのが一般的である.しかし,僧帽弁上に人工弁を植え込まざるをえないような乳幼児例や,それ以上の年齢でも弁輪狭小例では手術の死亡率は高く,術後の罹病率も高いことから,乳頭筋が二つあり,腱索が短い典型的なMSの場合には,カテー
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
テル治療が考慮される.Mooreらの報告では,乳児例でもバルーン弁形成術後経過良好の例もある219).また,彼らの成績では術後24ヵ月までの生存率は手術とバルーン弁形成術で同等であった219).いずれの治療方針を選択してもリスクは高いため,とくに幼児期早期までの症例では,まずバルーン弁形成術を施行するという方針も一法であろう237, 238).
1.8.7 結論
小児のMSに対するバルーン弁形成術においては,慎重な適応決定と合併症発生時の対処を計画しておく必要がある.
1.9 肺動脈弁狭窄症および右室流出路狭窄
1.9.1 小児の肺動脈弁狭窄症(表25)
a. 自然歴
1940年代には人工心肺を使用せずに肺動脈弁形成術が行われていたが,1950年代に入ると,人工心肺使用下で直視下での肺動脈弁形成術が行われるようになった.1958 ~1969年に心臓カテーテル検査を施行した肺動脈弁狭窄症586例の手術後および非手術後の自然歴が,1993年に報告されている239).右室–肺動脈圧較差50 mmHg以下の症例の大部分は手術をせず,圧較差80 mmHg以上の症例の大部分は手術をしている.圧較差50~80 mmHgの症例では,手術・非手術が混在している.これらの患者の 25年間生存率は健常人の生存率と変わらなかったことから,圧較差50 mmHg以上の肺動脈弁狭窄症を治療適応とするとされた.ただし,圧較差の基準を50 mmHgとするのか,
40 mmHgとするのかは,検討の余地があるとしている.また,圧較差25 mmHg以下の症例の圧較差増大例はなく,全体で細菌性心内膜炎は1例にしか発生しなかった. b. 肺動脈弁狭窄症に対する治療の適応
肺動脈弁狭窄症の重症度は表26に示すとおりである.右室–肺動脈圧間の圧較差50 mmHg以下の場合は,治療を施さなくても生命予後は悪化しない240).したがって,治療の絶対的適応はない.ただし,圧較差30~50 mmHgの症例に対する治療方針はいまだ議論の余地がある.1961 ~1978年に施行された自然歴調査では,圧較差25~49 mmHgの症例は状況に応じて治療法を選択すべきと述べられている241).
中等症以上の症例に対し,従来は外科的治療が行われていたが,その成績は良好で新生児期以降の手術死亡率は0~2%,長期予後も正常人と変わらないことが示されている240).手術の侵襲を考えると圧較差40~50 mmHg以上が手術適応と考えられる.
カテーテル治療が肺動脈弁狭窄症の治療に本格的に行われるようになったのは1980年代に入ってからであり, 1982年にJohns Hopkins大学のKanらがバルーン肺動脈弁形成術の最初の報告をした242).以来,次第に外科的治療はカテーテル治療にとって代わられ,今日ではわが国でも,幼児,小児,成人を含め単独の肺動脈弁狭窄症に対する手術はほとんど行われなくなった.今のところ新生児重症例を除いて死亡例は784例の集計で1例のみである243).カテーテル治療は圧較差40 mmHg以上が適応とされている209).
ドプラ心エコーまたはカテーテルで測定した圧較差に乖離があることがある.多くの場合,カテーテルで測定した圧較差のほうがドプラ心エコーでの圧較差より低いが,ドプラ心エコーで40 mmHg以上の圧較差を認めれば,カテーテル治療の適応がある. c. カテーテル治療の年齢
通常, 月齢が低いほど合併症発生率は増加するので,中等度の肺動脈弁狭窄症例は乳幼児期以降に治療が行われるのがよいと考えられる.しかし,重症例は早期の治療が望ましく,新生児の重症例では圧較差にかかわらず,ただちに治療を行う.また,高齢者でもカテーテル治療は有効
表26 右室収縮期圧による肺動脈弁狭窄症の重症度分類
軽症50 mmHg以下中等症50 mmHg ~体血圧重症体血圧以上
表25 肺動脈弁狭窄症(小児)に対するカテーテル治療の
適応に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
ドプラ心エコーまたはカテーテルで測定した右室ー肺動脈間の圧較差が40 mmHg 以上の肺動脈弁狭窄症に対し,カテーテル治療を行う. I Aドプラ心エコーまたはカテーテルで測定した右室ー肺動脈間の圧較差が40 mmHg 以下でも,右室収縮低下を有する,臨床的に明らかな肺動脈弁狭窄症に対し,カテーテル治療を行う. I Cドプラ心エコーまたはカテーテルで測定した右室ー肺動脈間の圧較差が40 mmHg 以上の異形成肺動脈弁狭窄症に対し,カテーテル治療を考慮してもよい. IIb C
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であり,乳児から小児,成人,老人まで年齢制限はない. d. 経皮的肺動脈弁形成術の方法
弁輪径の120~140%の径のバルーンで拡大する.術後に肺動脈弁閉鎖不全を10~40%に認めるので,120~ 125%の径のバルーンを第一選択にするという見解もある. e. カテーテル治療の成績
短期,長期成績ともに良好である.超音波ドプラを用いたフォローアップでは,再狭窄をきたした症例はなく,術後2~3年までの中期遠隔成績は良好である243). f. カテーテル治療の限界
異形成弁の場合は,バルーン形成術の効果はないか少ない.異形成弁の定義は,弁尖が厚く可動性が少ないことである234, 244, 245).肺動脈の狭窄後拡張はないか著明ではない.ときに弁上部狭窄様になっていることもある.低身長,特異的顔貌などを特徴とするNoonan症候群に合併することが多い.40 mmHg以上の圧較差がそれ以下になったものを有効とすると,有効率は42%(急性期),33%(フォローアップ)にすぎない.本症に対するカテーテル治療は禁忌ではないが,とくに2歳以下では弁や弁上の形態を観察して症例を選択するという報告がある224).
1.9.2 成人の肺動脈弁狭窄症(表27)
経皮的肺動脈弁形成術は,1982年にKanらによって初めて報告された242).以後,数多くの成功例の報告がなされ,中等症や重症の肺動脈弁狭窄症に対して第一選択の治療法として位置づけられている.初回経皮的弁形成術後に再度の経皮的弁形成術を必要とすることはまれではないが,形成術後の中長期予後は良好であることが数多く報告されている246).
経皮的弁形成術と外科的弁切開術の長期成績を比較した検討によると,両者で圧較差改善は同等であるが,外科的弁切開術はより重度の肺動脈弁逆流を合併していたことが報告されている247).また,成人の石灰化を伴う肺動脈
弁狭窄症に対しても有効性が報告されている246).有効性の観点から議論の分かれるところではあるが,手技に伴う合併症の発生率が低いことから,異形成弁を伴うNoonan症候群に対しても施行されることがある.
肺動脈弁狭窄症は軽症であっても小児期に心雑音で発見されることが多いため,成人期に新たに発見される症例は比較的まれである.しかしながら,小児期に診断されていても無症状のため成人期まで経過がみられた症例,小児期にカテーテル治療を受けたが残存狭窄を有している症例,小児期に外科治療を行った症例の術後肺動脈弁狭窄症などは,成人期にカテーテル治療の適応となる場合がある.成人期の症例でカテーテル治療の適応を検討する場合には,1弁の性状(石灰化の評価),2右室流出路狭窄の程度,3ほかの外科的治療を必要とする心内病変がないかを十分検討しておく必要がある.とくに,肺動脈弁狭窄症に伴う右室肥大が明らかな成人症例では,肺動脈弁狭窄症に加え右室流出路狭窄を合併している場合が多い.このような症例ではカテーテル治療により十分な肺動脈弁の可動性が得られたにもかかわらず, 右室肥大に伴う肺動脈弁下部の漏斗部狭窄が残存しているため,術直後に右室圧が改善しない症例を経験する246, 248).このような症例では,自然経過もしくはβ遮断薬の投与によって心筋肥厚の改善とともに次第に軽快することもある.このような場合,バルーンのサイズアップをしても,流出路周囲組織の損傷をきたす危険性があるため,右室流出路狭窄が明らかな場合には,外科的治療の選択を考慮すべきである139).
カテーテル治療の適応は,外科的治療適応と同一で,肺動脈弁レベルでの圧較差40 mmHg以上とされている.成人でも無症状のことが多いが,ドプラ心エコーにて圧較差40 mmHg を認めた場合には,経皮的肺動脈弁形成術の適応とされている139).カテーテルでの圧較差は,ドプラよりも圧較差が小さくなることも経験するが,弁尖の開放制限が確認されれば,無症状の時期に待機的に経皮的肺動脈弁形成術を行うことが多い249, 250).確実な治療効果を得るために,かつては肺動脈弁輪径の140%や150%と比較的大きめのバルーン径が選択されていた.肺動脈弁逆流は10 ~40%の症例に生じるが,右室拡大や機能不全をきたすことから,肺動脈弁輪径の120%と小さめのバルーンが使用されるようになってきている251, 252).肺動脈弁輪径が20 mm以上の場合に,ダブルバルーンテクニック205)が用いられることがある.使用されるバルーン径は,Radtkeらによって提唱された計算式253)に準じて選択されている.成人症例では術中のバルーンを安定させるため,イノウエ・バルーンやダンベル型のバルーンカテーテルを用いた
表27 肺動脈弁狭窄症(成人)に対するカテーテル治療の
適応に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
心エコー検査上,肺動脈弁の前後で40 mmHg 以上の圧較差を認める肺動脈弁狭窄,右室機能不全を有する臨床的に明らかな肺動脈弁狭窄症例に対し,カテーテル治療を行う. I A上記の基準を有するものの,異形成弁または強い異形成の形態を呈する肺動脈弁狭窄症例に対し,カテーテル治療を考慮してもよい. IIb C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
弁形成術が行われることがあり,その有効性も確認されている248, 254).
1.9.3 新生児重症肺動脈弁狭窄(表28)
新生児重症肺動脈弁狭窄(critical pulmonary valve stenosis)は,新生児において,肺動脈弁狭窄が非常に重度で,肺血流が動脈管に依存する血行動態を呈する.右室低形成例や,右室と冠動脈に類洞交通が存在する症例がある.肺動脈弁の形態,右室容積,三尖弁弁輪径や類洞交通の有無により治療法が異なるため,術前の評価は重要である.類洞交通は13%程度に合併し,三尖弁の低形成例に多く合併する255).バルーン肺動脈弁形成術直後には,著明に肥厚した心筋や右室の低形成のため動脈管依存の状態が継続する症例が10~20%程度存在するが255, 256),狭窄の解除により右室壁肥厚の減少,右室拡張能の改善,および右室の発育が期待される257–260).
1990年に報告された新生児重症肺動脈弁狭窄に対するカテーテル治療の重度の合併症は1.8%(3/168例)と,小児期や成人期のカテーテル治療よりも高い240).施行の際には,ガイドワイヤによる右室流出路の損傷や,心タンポナーデ等の種々の合併症に注意する必要がある.
右室容積が小さい場合には,肺血流を確保するためにBlalock–Taussig短絡術や動脈管ステント留置術が必要となる場合がある255, 261).肺動脈弁の発育も期待しうるが,弁輪径が小さいほど再肺動脈弁形成術や右室流出路再建術が必要となる255).年長児とは異なり,半数以上の症例に中等度以上の肺動脈弁閉鎖不全を合併し,なかには肺動脈弁閉鎖不全が進行する症例もある251, 255, 263).肺動脈弁弁輪径の125%以上の径のバルーンを用いて弁形成術を行った場合に,遠隔期に肺動脈弁閉鎖不全のために弁置換術が必要となる可能性が高くなる255, 264).・リスクと合併症
右室流出路付近でのカテーテルやガイドワイヤの操作により,右室流出路の損傷や穿孔をきたし,心嚢液貯留や心タンポナーデとなる場合がある.ガイドワイヤによる刺激などで,動脈管が収縮し,緊急Blalock–Taussigシャント術や動脈管ステント留置術などが必要となる場合があり得る. 1.9.4 純型肺動脈弁閉鎖(VSDを伴わない肺動脈閉鎖) (表29)
心室中隔欠損を伴わない肺動脈弁閉鎖は,肺動脈弁弁輪径,右室容積や三尖弁弁輪径によって,多様な経過をとる疾患である265).治療法も二心室修復からFontan手術までと幅広い.治療戦略や最終目標は解剖学的特徴から選択されるが,治療方針は施設間で異なる266, 267). a. カテーテル治療の適応
カテーテル治療のよい適応は,右室が流入部,肉柱部,流出路からなるtripartiteで,肺動脈弁が膜様の閉鎖であることである.肺動脈弁が膜様に閉鎖している場合には,閉鎖肺動脈弁を形成することにより,右室–肺動脈の順行性血流が漸増し,二心室修復が期待できる268–271).右心室が小さい症例ほど治療が難しく,また右室漏斗部が筋性閉鎖の場合にはカテーテル治療は不可能である272, 273).右室容積は三尖弁弁輪径に相関する.三尖弁弁輪径Zスコアが-2.5以上の場合は,肺動脈弁形成術後に右室は発育し二心室循環が成立する.Zスコアが-4.5以下は,肺動脈弁形成術を施行しても右室は発育しないので二心室循環は成立しない.Zスコアが-4.5~-2.5の場合は,しばしば右室心尖の発育が乏しいbipartiteの症例が含まれ,肺動脈弁形成術後に暫時動脈管またはシャントの付加肺血流が必
表28 新生児重症肺動脈弁狭窄に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
動脈管に依存した肺循環を呈する新生児重症肺動脈弁狭窄に対し,カテーテル治療を行う. I A表29 VSD を伴わない肺動脈閉鎖に対するカテーテル治療
に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
膜様閉鎖の肺動脈閉鎖で,右室に依存する有意な類洞交通を認めず,適切な三尖弁弁輪径,右室容積を有する症例に対し,カテーテル治療を考慮する. IIa C膜様閉鎖の肺動脈閉鎖で,適切な三尖弁弁輪径,右室容積を有するが,類洞交通を認め,広範囲ではないが右室に依存する冠循環を有する症例に対し.カテーテル治療を考慮してもよい. IIb C三尖弁弁輪径,右室容積が著しく低形成で,経皮的肺動脈弁形成術による右室の発育を促す効果が期待できない症例
*に対し,カテーテル治療を考慮してもよい. IIb C右室流出路が筋性閉鎖の症例に対し,カテーテル治療は推奨されない. III No benefit C類洞交通を有し,冠循環が広範囲に右室に依存する症例に対し,カテーテル治療を行うべきではない. III Harm C * この場合には,肺動脈への順行性の血流を作成し,短絡術を回避する目的で経
皮的肺動脈弁形成術を施行する.
p.41
要となる場合があるが,右室が発育する症例があるので,弁形成術を施行する価値はあると考えられる266, 273–275).
右室–冠動脈交通が20~50%に認められるが,大きな交通は漏斗部筋性閉鎖の症例に多い.また右室–冠動脈交通で問題となるのは,その存在自体ではなく,右室を減圧した場合に冠動脈灌流が障害されることである.それらの症例の多くは右室が非常に小さい.右室依存性の冠動脈灌流が認められた症例の多くは漏斗部開存例であり,外科的弁切開を施行した82例中,左右両方の冠動脈に狭窄を有した3例(3例中)と片方の冠動脈狭窄を有した1例(6例中),計4例は術後に死亡している276).右室造影,左室造影,必要なら大動脈造影,冠動脈造影をして右室依存性の冠動脈灌流および冠動脈の狭窄・離断の有無を明白にする必要がある.
右室容積がある程度あっても,弁形成術後に右室の拡張障害が改善するには通常1~3週間要する277).そのあいだはプロスタグランジンE1の点滴を続ける.長期化する場合や酸素飽和度が維持できない場合は短絡術を施行するか,動脈管にステントを留置する278).三尖弁異形成やEbstein病などによる重度の三尖弁閉鎖不全を合併する頻度は高い.その場合は,三尖弁形成術,右室流出路再建術やStarnes手術の適応となる.
三尖弁弁輪径,右室容積が著しく低形成で,経皮的肺動脈弁形成術による右室の発育を促す効果がほとんど期待できない症例でも,肺動脈への順行性の血流を作成し短絡術を回避する目的で,経皮的肺動脈弁形成術を施行することがある. b. 方法
純型肺動脈弁閉鎖に対する経皮的バルーン弁形成術は技術的に難易度が高く,重篤な合併症の頻度も高いので,経験のある小児循環器医によって施行されるべきである. i. ガイディングカテーテル
右室造影などを参考にして,右室流出路形態に合う4 Frまたは5 Frの右ジャドキンズカテーテル(JR)などを選択する.カテーテルのハブにYコネクターをセットすると常時造影ができる.カテーテルを右房から右室へ挿入し,前後運動させながら時計回転させて,右室流出路まで運ぶ.右室に挿入しがたい場合は,ディフレクティングワイヤなどを使用する.肺動脈弁直下まで進めたら,Yコネクターの側管から造影して位置を確認する. ii. ガイドワイヤとマイクロカテーテル
以前は0.014インチガイドワイヤのハードサイドなどを用いて弁を穿通していたが,2016年からNykanen RFワイヤが使用可能となった268, 279).どちらを使用する場合も,通常,肺動脈弁は右室流出路の上方というより後方に位置するので,穿通後にワイヤが主肺動脈上壁へ向かわないように注意する.ワイヤ先端5 mm程度を約45度屈曲させる
のが一法である.ワイヤ穿通後に追従させるマイクロカテーテルはプッシャビリティーに優れ,ワイヤとの口径差が少ないものを選択する(たとえば,Nykanen RFワイヤの場合は,先端が2.6 Frにテイパーされている2.7 Frマイクロカテーテルなど).マイクロカテーテルとワイヤをガイディングカテーテル先端まで進める.ワイヤの先端を弁に接触させて,再度造影をして位置を確認する.穿通部位は弁の中央が理想的だが,中央よりやや上方にしか位置させられない場合もある.その場合もワイヤが後方を向いていれば,主肺動脈を穿孔しにくい. iii. 弁穿通
ワイヤハードサイドでの穿通では,ある程度の押す力が必要となる.弁が穿通されると押していたテンションが消失する.一方,Nykanen RFワイヤは弁に接触させた状態で通電するだけで穿通できる.弁穿通に成功したら, Nykanenをより遠位の左右肺動脈または動脈管へ進める.続いてマイクロカテーテルを追従させる.ガイドワイヤの場合は,弁穿通後にソフトサイドへ交換して同様の操作を行う方法もある.穿通時に動脈側から動脈管を通し肺動脈弁上にスネアワイヤを開いて,弁の位置のマーカーにする方法がある. iv. 弁形成術
マイクロカテーテルを左または右肺動脈末梢,または動脈管から下行大動脈へ進めて,硬い0.014インチガイドワイヤなどを留置する.カテーテルを抜去して,2~3 mm径15 mm長のバルーンカテーテルなどを肺動脈弁まで進めて,前拡張を行う.続いて,弁輪径の120%程度の径のバルーンカテーテルを肺動脈弁まで進めて,通常気圧で弁形成術を行う.バルーンカテーテルが弁を通過しにくい場合は,大動脈からスネアカテーテルを進めて,ワイヤをつかんでワイヤループを作成してからバルーンカテーテルをデリバリーする方法がある.肺動脈弁穿通には,経験と技術が要求され,右室流出路の損傷,心タンポナーデに注意しながら慎重に行う必要がある280). c. 成功率
成功率は50~100%と,施設間・術者間に差がある271, 273–276, 278, 281).成功率やカテーテル治療後の経過は,右室容積,右室拡張能,肺動脈弁・弁下狭窄,肺動脈弁閉鎖不全,肺高血圧,三尖弁閉鎖不全の程度に左右される.プロスタグランジンE1投与を終了するまでに通常1~2週間を要する.酸素飽和度が維持できない場合は,Blalock– Taussig短絡術や動脈管ステント留置術275, 282)が必要となる. d. 合併症
合併症発生率は高い.右室流出路付近でのカテーテル
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
やガイドワイヤの操作により,右室流出路の損傷,穿孔をきたし,心タンポナーデや死亡など重篤な結果をもたらすことがある271, 275, 278).ガイドワイヤによる刺激で,動脈管の狭小化ないし閉塞をきたすことがある.術後感染症も起こりうる.
1.9.5 Fallot四徴に対する経皮的肺動脈弁形成術(表30)
Fallot四徴を含む複雑先天性心疾患に対する経皮的肺動脈弁形成術の有効性が報告されている283–286).順行性血流を増加させることにより,肺動脈弁弁輪径や肺血管床が発育する287–289).肺動脈弁閉鎖不全の観点から,外科的に直視下での弁形成術を選択するようになってきたが,それも選択肢の一つである283, 290, 291).肺動脈弁下狭窄が重度の場合は,肺動脈弁形成術は有益ではない292, 293).チアノーゼの進行など数ヵ月以内にBlalock–Taussig短絡術などが必要となる場合が多く,肺動脈弁形成術の直後に低酸素発作をきたし,Blalock–Taussig短絡術などの外科手術が必要となるリスクを有する.また,VSDが肺動脈弁下にあり,弁輪狭窄がない場合には,肺動脈弁形成術により肺血流過多による肺高血圧をきたすことがあり,注意を要する.バルーン肺動脈弁形成術時の肺動脈弁弁輪径のZスコアが-3.5~-2.0程度であれば,心内修復術時に弁輪を温存できる可能性が高くなるが289),Zスコアが-3.5未満の場合は,多くはtrans annular patchが必要となる289, 293).弁輪温存後の肺動脈弁閉鎖不全を最小限に抑えるために使用バルーン径は弁輪の120%程度で十分である289).
肺動脈弁下狭窄を伴う場合にステント留置術は有効である.とくに弁輪温存が期待できず,かつ左右肺動脈の低形成を伴いBlalock–Taussig短絡術が施行しにくい場合が適応である.右室流出路(弁下から弁上まで)にステント留置術を施行すると,左右肺動脈は均等に良好に成長する61, 62).・リスクと合併症
右室流出路付近でのカテーテルやガイドワイヤの操作により,右室流出路の損傷,穿孔をきたし,心タンポナーデなど,重篤な結果をもたらす場合がある296).ガイドワイヤによる刺激で動脈管が収縮し,動脈管の狭小化ないし閉塞
をきたすことがある.低酸素発作を誘発する可能性があり,懸念される場合はβブロッカーの予防投薬が望ましい289).肺動脈弁下にVSDがある場合には,肺血流過多にならないように注意する.
1.9.6 術後右室流出路狭窄(表31)
a. 概要
術後右室流出路狭窄は,右室流出路から主肺動脈にかけての狭窄である.右室流出路狭窄は肺動脈狭窄と同様の手技で治療されるが,肺動脈拡大よりも治療成功率が低い.最近では高耐圧バルーンやダブルバルーン法などの改良がなされてきた.疾患としてはFallot四徴症や両大血管右室起始症に対する右室流出路形成術後の再狭窄が多い.そのほかにも大血管転位症に対するJatene術後など,多岐にわたる先天性心疾患の術後で認められる.狭窄の原因としては,手術で用いた弁付きパッチの弁の肥厚や可動性不良によるものがもっとも多い297).そのほか,流出路を形成した部位の遠位端,血管吻合部,大動脈と胸骨による圧迫,肺動脈の伸展やねじれなどがある. b. 適応
肺動脈–右室の収縮期圧較差40~50 mmHg 以上の弁性ないし吻合部狭窄が適応となる298).右心室と左心室の収縮期血圧の比が0.67~0.7以上の場合も適応となる.しかし,高血圧を伴う成人では,右心室と左心室の収縮期血圧での判断は困難となる. c. 方法
血管造影による狭窄部の描出が大切である.狭窄部径,狭窄遠位部位の正常血管径(対照血管径)の計測が可能になるように,撮影の方向を選択する.右室流出路の場合は,側面造影が有用なことが多い.拡大用バルーンカテーテルを狭窄部位に進めるためには,硬い(スティッフ)ガイドワ
表30 Fallot 四徴に対する経皮的肺動脈弁形成術に関する
推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
Fallot 四徴を含む複雑先天性心疾患例で,重度の弁下狭窄を伴わない肺動脈弁狭窄を有する症例に対し,経皮的肺動脈弁形成術を考慮してもよい. IIb C表31 術後右室流出路狭窄に対するバルーン拡大術に関す
る推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
術後右室流出路狭窄に対するバルーン拡大術の適応は,外科的再手術も考慮して慎重に決定する. I Cカテーテル法で測定した収縮期血圧で, 40~50 mmHg 以上の圧較差を認める場合,または右心室と左心室の収縮期血圧の比が0.67~0.7 以上の場合,術後右室流出路の弁性ないし吻合部狭窄に対し,バルーン拡大術を考慮する. IIa C
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イヤによる支持が重要である.あらかじめ末梢の肺動脈まで先進させたカテーテルを用いて,スーパースティッフガイドワイヤを末梢肺動脈に留置する.このガイドワイヤを肺動脈末梢に固定することで,その後のバルーンのサイズアップなど,バルーンの入れ替えを容易にすることが可能となる.バルーンサイズの選択は対照血管径の1~1.2倍にとどめる.前述のとおり,右室流出路形成術後の場合,狭窄の原因は手術時に用いたパッチに縫着された弁の機能不全によることが多く,造影上は弁の複雑な折れ込みや突出物として視認される.このような場合には造影上の主肺動脈の径などを参考とし,導管狭窄に対する拡大と同様に,流出路径と同じサイズのバルーンサイズを選択する.拡大する際,血圧の低下が認められるため,動脈圧をモニターする. d. 治療成績
バルーン拡大術により,右室–肺動脈間の圧較差は低下することが多い.しかし,その効果は一時的なこともある.最終的には再狭窄をきたすことが多く,長期的な狭窄解除に至ることは少ない299).小児では,再手術の時期を遅らせる効果がある. e. リスクと合併症
ワイヤやロングシースなどの操作に伴う血管損傷,過拡張による血管損傷のリスクがある.
1.10 右室肺動脈導管狭窄(表32)
1.10.1 概要
肺動脈閉鎖を伴うVSD,総動脈幹遺残,あるいは肺動脈狭窄を伴う完全大血管転位症に対するRastelli手術や,大動脈弁狭窄に対するRoss手術後などでは,心室–肺動脈間に導管が用いられる.導管の材質は,欧米ではホモグラフトが多く,わが国では人工血管(ePTFE)が多い. 1990年の右室肺動脈間導管狭窄に対するステント留置の報告298, 300, 301)以降,導管へのステント留置やバルーン拡大術が行われるようになってきた.導管狭窄の原因としては,導管内の弁の肥厚や石灰化,可動性低下が多く.周囲組織からの圧迫や導管のねじれ,導管内膜の増殖・石灰化によることもある.成長に伴う相対的導管狭窄の場合には,カテーテル治療は無効で手術の検討が必要である.
1.10.2 バルーン拡大術の適応
肺動脈–右室の平均圧較差が35 mm Hg以上の場合(収縮期圧較差50 mmHg 以上の場合)は適応となる298).右心室と左心室の収縮期圧の比率が0.67~0.7以上も適応となる.しかし高血圧を伴う成人では,この基準での判断が困
難になる.導管狭窄の主体が導管内の弁の硬化およびそれに伴う可動性の低下のため,ほとんどの例で肺動脈弁閉鎖不全を伴うことから,欧米では肺動脈弁閉鎖不全の適応で経皮的肺動脈弁留置術を考慮することが少なくない.
1.10.3 バルーン拡大術の方法
スティッフガイドワイヤによるバルーンカテーテルの支持が大切である.スティッフタイプのガイドワイヤを末梢肺動脈まで先進させてバルーンカテーテルを支持できるようにする.バルーンサイズは手術で留置した導管の径まで拡大可能である.太い導管の場合には,ダブルバルーン法などでバルーンを組み合わせて導管径になるようにして拡大する302).導管および導管内弁に石灰化を伴うことが多く,超高耐圧バルーンが必要となることが多い.
弁部の硬化・石灰化のためにバルーンの拡大時にバルーン破裂を起こすことが少なくない.バルーン破裂後の回収を考慮し,バルーン抜去の際に三尖弁・弁下組織を損傷しないように,あらかじめワイヤを誘導する際には先端バルーン付きカテーテルで右房から肺動脈に進めることが望ましい.
1.10.4 ステント留置
狭窄部にステントを留置することがある.一般的に導管径と同じサイズのステントを選択する.また,ステントの形状は直線であるため,ステント長と狭窄部の形態から周囲の構造物の圧迫などを予測してステントを選択する必要
表32 右室肺動脈導管狭窄に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
以下の条件が満たされる場合に,導管寿命を延長させる目的でステント留置術を考慮する. 1 肺動脈弁逆流の増悪による心機能への影響に比較し,狭窄が解除されることの有用性が勝ると考えられる場合. 2 冠動脈のステントによる圧迫がない場合. 3 肺動脈分岐部の血流を障害しない場
合. IIa Bカテーテル法で測定した平均圧較差,35 mmHg 以上の圧較差を認める場合,または右心室と左心室の収縮期血圧の比が0.67~0.7 以上の場合,小児期・成人期ともに右室流出路導管狭窄に対してバルーン拡大術を考慮してもよい. IIb C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
がある.20 mm以上の径の導管に対しては,ステントも導管径にまで拡大する必要がある.わが国で使用可能なステントPalmaz extra-large stent(P4010),Palmaz large stent (308,188)のうち,20 mm以上に拡大可能なものは, P4010のみである.ステント留置は肺動脈弁逆流を増加させることから,導管にステントを留置することは限定的である.乳児期に行ったRastelli手術などでは導管径が小さいため,それにあわせたステントを選択すれば,導管径までは拡大が可能となる.しかし導管径が十分でないため,根本的な治療ではなく,手術による次の導管交換までの時間を延長する目的で行われる.冠動脈の圧迫に関しては予測が困難であるため,あらかじめ想定されるステント径と同径のバルーンで拡大しながら冠動脈造影を同時に行い,圧迫の有無を判断する.
留置に際し,Palmaz largeステントは単体であり,導管径に近いバルーンカテーテルに用手的にリマウントする必要がある.留置に際しては,バルーンに対する適合サイズのシースより2 Fr以上太いロングシースを用いる.ステントは直線的な構造物であるため,ロングシースをなるべく直線的に狭窄部を超えて留置する必要がある.シースを留置したのち,ステントつきバルーンを狭窄部位まで進めるback loading法と,体外であらかじめステントをロングシースの先端部分まで進めておき,大腿静脈に留置したショートシースの中にロングシースとステントを一緒にして狭窄部位まで進めるfront loading法がある.治療対象部位に到達したら,バルーンがシース外に出るようにロングシースのみを引き,ロングシースから造影を行い,最終的なステントの位置確認を行う.位置が決まったら,バルーンを拡大しステントを留置する.バルーン拡大に際してステントがバルーンから移動しないようBalloon in Balloon(BIB)を用いることもある.BIBにはinnerとouterのバルーンがあり,2段階でステントを拡大する仕組みになっている.
1.10.5 成績
バルーン拡大術により,急性期には圧較差の改善が認められる303).しかしながら,長期的には効果は限定的である304, 305).狭窄解除の点からは,導管狭窄に対するステント留置は有用であり,導管の寿命を数年延長できる306).しかしながら,肺動脈弁閉鎖不全残存のため最終的には人工導管の再置換または経皮的肺動脈弁留置術が必要になる.
1.10.6 リスクと合併症
導管破損のリスクがあるため,導管径を超えないバルーン径を選択する.ステントでは留置後に胸骨の圧迫によるステント破損のリスクがある.冠動脈と走行が近い場合は,ステントによる冠動脈の圧迫のリスクがあり,心電図をモ
ニターしながらのバルーン拡張やバルーン拡大と同時に冠動脈造影を行う必要がある.またステント挿入に伴い,肺動脈弁逆流は増悪する.
1.10.7 Melody® Valveを用いた導管拡大術
Melody ® valve(Medtronic,Minneapolis,MN)は,グルタールアルデヒド処理をした18 mmのウシ頚静脈弁をプラチナ製のバルーン拡張型ステント(Cheatham platinumステント)に縫着したもので,18,20,22 mmのBIBカテーテルにマウントされている.22 Frのデリバリーシステムを用いて留置する.2000年にBonhoefferにより報告された307).2006年にカナダと欧州で認可され,続いて2007年に米国の5施設で前向き多施設共同研究が開始308), 2015年FDAのPMA認可を受けた.この研究におけるMelody ® valveの適応基準は,右室流出路に生体弁(18~ 20 mm以上)あるいは,導管(16 mm以上)が挿入されているもので,以下の基準を満たす場合であった.1 5歳以上,2体重30 kg 以上,3 New York Heart Association (NYHA)心機能分類I度で,重度の肺動脈弁逆流と右心室の拡大あるいは機能低下のあるもの,またはドプラ平均圧較差40 mmHg 以上,4 NYHA心機能分類II度以上で,中等度以上の肺動脈弁逆流があるもの,またはドプラ平均圧較差35 mmHg. a. 適応
上記の適応基準を参考に,肺動脈弁逆流と導管狭窄に対して適応を決定する. b. 方法
留置前の狭窄が強い場合は,高耐圧バルーンによる前拡張が行われる.冠動脈造影を同時に行い,冠動脈の圧迫の有無を確認する.また高度狭窄の場合は,前拡張によりカテーテルを狭窄部に進めることが容易になる.
留置システムはBIBバルーンカテーテルとその外側に装着されているアウターシースからなり,BIBバルーンに弁付きステントを用手的にマウントし,それを外側からアウターシースで覆って,狭窄部に進める.狭窄部に到達したら,アウターシースを引くことで弁付きステントがむき出しになるので,バルーンを拡張し留置する. c. 治療成績と合併症
2010年にまとめられた124例の中期成績の報告では,有意な逆流の減少や狭窄解除が得られている309).ステントの移動,冠動脈の圧迫,肺動脈分岐狭窄,ホモグラフト導管破裂,ステントの破損,穿刺静脈のトラブルが合併症として報告されており,術前の磁気共鳴イメージング(MRI),コンピュータ断層撮影(CT)を用いた解剖の評価,十分な
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計測,過大サイズのバルーンを用いないこと,先天性心疾患の経験豊富な外科医との協力体制で行うこと,カバードステントの使用が可能なこと,などが対策としてあげられている.なお,Melody ® valveはわが国では未承認である.
1.10.8 SAPIENを用いた導管拡大術(表33)
Edwards SAPIEN Transcatheter Heart Valve(Edwards Lifesciences Co., Irvine, CA, USA)はウシ心膜から作製した三尖の弁尖をステンレス製のステントに縫着したものである.本来は成人の大動脈弁位への留置を目的として開発された弁で,Melody ® valveが18~22 mm径であるのに対し,SAPIEN XTは23~26 mm,SAPIEN 3 は20~29 mmに拡大可能である.弁留置に先立ってステントを留置し導管状にする.そのうえでこのなかに弁を留置する.当初,経皮的大動脈弁置換に用いられてきたが,2010年末には欧州の経皮的肺動脈弁置換への使用が認可された. 2011年の米国4施設からの多施設共同研究(Compassion study)において,その有用性が報告され310),2016年米国FDAより肺動脈弁への適応拡大が承認された311).この臨床研究では,体重35 kg以上,留置時の導管径が16 mm以上24 mm以下,MRIで40%以上の肺動脈弁逆流率であるか,エコーでIII度以上の肺動脈弁逆流のあるものを適応としている.現在,SAPIEN 3によるCompassion S3試験が進行中である. a. 方法
SAPIEN 3留置に先立ってステントを留置する(prestenting)場合と,pre-stentせず直接留置する場合がある.狭窄病変がSAPIEN 3の長さを超える場合は,pre-stentが必須である.わが国では,pre-stentがないことがpre-stentが承認導入されるまでの導入時の前提になっており,狭窄の長さがSAPIEN 3の高さの範囲の適応が限られる.生体弁に対するSAPIEN 3の適応は,狭窄が生体弁の弁部にとどまるため適応範囲が広いと考えられる. b. 合併症
Melody ® valveと同様であり,留置前にバルーン拡大し冠動脈圧迫を評価する必要がある. 1.11 肺動脈主幹部‒末梢狭窄
1.11.1 バルーン血管形成術(表34)
1981年のLockらによる肺動脈狭窄に対するバルーン血管形成術の動物実験の報告312)以来,肺動脈主幹部,末梢肺動脈を対象として施行される313, 314). a. 適応
肺動脈主幹部では右室収縮期圧/左室収縮期圧(大動脈収縮期圧)2/3以上の場合に適応となる.分岐部末梢性肺動脈狭窄では健側肺が代償するため圧較差は参考にとどめ(圧較差15~20 mmHg以上),造影による形態,肺血流シンチグラフィ(患側/健側肺血流比0.5未満,ないし血流分布率35%以上65%未満)を勘案して適用を決める.
Glenn術後やFontan術後,または心機能低下例では,圧の基準や肺血流シンチグラフィでは判定できないため,形態により決定することがある.第二分枝以降の末梢肺動脈狭窄に対しては,多発性の場合に適応となる.多発性の場合,右室圧上昇をきたすことがあり,右室圧低下のために肺血管床の増加が必要と考えられる病態で,形態的にバルーン血管形成術が有効であると推測される病変に対して施行される場合がある.対象血管径が8 mm未満の場合は,ステント留置よりもバルーン拡張やカッティングバルーンが第一選択とされる.
バルーン血管形成術の成功を最狭窄部径の50%以上の拡張または圧較差の50%以上の減少と定義すると,成功率は50~60%と報告されている299, 315–319).バルーン血管形成術の利点は血管が成長することである320, 321).
表33 米国における右室肺動脈導管狭窄に対する導管拡大
術に関する推奨(参考) *
推奨クラスエビデンス
レベル
中等度から高度な肺動脈弁逆流,導管狭窄に対し,導管拡大術を考慮する. IIa * 2020年現在,わが国でも導入に向けて準備中である.表34 肺動脈狭窄に対するバルーン血管形成術に関する
推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
有意な末梢性肺動脈狭窄や,一次治療としてステント留置が選択できない体格の小さい患者の肺動脈狭窄に対し,バルーン血管形成術を行う. I B肺動脈遠位の有意な狭窄,一次治療としてステント留置が適さない大きな近位の肺動脈に対し,バルーン血管形成術を行う. I B狭窄近位の肺動脈圧または右室圧が体血圧の2/3 以上の有意な主肺動脈狭窄に対し,バルーン血管形成術を行う(先天性の肺動脈弁直上の狭窄の場合,バルーンのみでは拡大できないことが多い). I C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
b. 特殊なバルーン血管形成術i. ダブルバルーン法
2本同時に拡張する方法で,15 mm以上の血管拡張径を確保する必要がある場合に使われることが多い.Yeagerらの方法により換算直径を算出する302).利点として,高耐圧バルーンが使用できるため有効性が高く,完全閉塞しないため体血圧をある程度保つことができる.欠点として,手技が煩雑になり,医療経済性に劣ることがあげられる. ii. カッティングバルーン法
通常のバルーン血管形成術でwaistが残存する小口径の硬い病変に対して用いる322).通常のバルーン血管形成術に抵抗性の血管に対してのみ使用すべきである.カッティングバルーンはその構造上,金属ブレードをバルーンに接着して製作されており,取り扱いに慣れた術者により使用することが望まれる.カッティングバルーンのバルーン径は6 mmまでであり,それ以上に拡張が必要な病変は超高耐圧バルーンが代替として用いられる. c. リスクと合併症
有効性拡大のためには狭窄部やその周辺を過拡大する必要があり,内膜–中膜の亀裂が認められることが多い.有効性と合併症は表裏の関係であり,重度の肺動脈損傷を起こすことがある.術後病変では周囲組織の癒着により血管外漏出が縦隔および胸腔内に広がることは少ないが,心房壁や大動脈壁に癒着している部分が穿孔した場合は,心房–肺動脈交通や大動脈–肺動脈交通のため急激で重篤な循環障害をきたすことがある.また,スティッフワイヤが右心房,右心室を進展し,徐脈や期外収縮などの不整脈が誘発されることがあり、ワイヤ先端が末梢肺血管を損傷し肺出血が起こることもある.バルーン血管形成術後,再狭窄が起こることもあり,経過観察が必要である.
1.11.2 ステント留置術(表35)
先天性心疾患に対するステント留置術は1980年代後半から施行されている323, 324).標的病変としては肺動脈狭窄に対する使用実績がもっとも多く,次いで大動脈縮窄,大静脈狭窄などに使用されている.また欧米では導管や短絡血管(右室–肺動脈[RV–PA]短絡)に対するステント留置術が広く行われている.わが国では使用可能なステントに制限があることから,成長途上の小児においてはバルーン血管形成術が選択されることが多い.しかし,狭窄率が小さい病変,長い範囲にわたる狭窄病変,弾性反跳(elastic recoil)を呈する病変などではバルーン血管形成術の効果は不十分で,ステント留置術が必要となることが多い325–327).
欧米では,体格や解剖学的に可能であれば成人血管径まで拡張可能なステント治療が第一選択とされている.今
後,欧米で使用されている大血管ステントがわが国に導入されれば,普及すると予想され,一次治療としての適応が広がることも考えられる.ステントを成長途上の小児に対して使用する場合,成長に伴いステントを再拡大する必要性を予想して,最大拡張可能径を意識してステントを選択すべきである328–330).現在,わが国で利用可能なステントとして,大血管(肺動脈,大動脈)にはPalmaz XL(P4010 [胆管用ステントで血管には適応がない]),またはPalmaz Large(P308,P188[末梢血管用])があるが,わが国では肺動脈狭窄におけるCheatham Platinum(CP)ステントの医師主導型臨床試験が終了しており,早期の承認が待たれる331).中血管にはPalmaz medium stent,Palmaz Genesis (腎動脈用),Express Vascular LD(末梢血管用)があり,小口径のステントでは冠動脈用のステント(肺動脈には保険適用はない)が用いられることがある.中口径以下のステント(成人血管径まで拡張できないステント)を留置する場合は,あくまで姑息的手段と認識し,将来の外科的ステント摘出やステント留置部肺動脈形成(ステントを切断して血管形成)について事前に外科医との十分な打ち合わせが必要である.ステント留置の際には,一般にバルーン血管形成術を直前には行わないが,硬い病変でステント拡張が困難と予想される例や,狭窄高度でロングシースの挿入困難が予想される例では,前治療として適切なバルーン
表35 肺動脈狭窄に対するステント留置術に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
成人の血管径まで拡大できるステントを留置できる体格の患者では,有意な肺動脈狭窄に対する一次治療として,ステント留置を行う. I B心臓手術後で肺動脈分枝狭窄による循環動態の異常が原因と考えられる重篤な患者に対し,体格や血管径にかかわらずステント留置を考慮する. IIa B主肺動脈狭窄により右室圧が上昇している場合,ステントが肺動脈弁を損傷せず,また肺動脈分岐部の障害にならなければ,一次治療としてステント留置を考慮する. IIa B体格の小さい患者の重症の肺動脈分枝狭窄に対し,成人の血管径まで拡大できない小または中口径ステント留置を考慮する.これらのステントは将来の外科的治療(導管置換やFontan 手術)の際に,外科的に拡大または摘出する必要がある. IIa C
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血管形成術を行うことがある.術前の造影はできるだけ病変の長軸に直角となるように角度を設定して撮影し,狭窄部径,ステントがカバーすべき長さ,周辺血管径をもとに使用器材を決定する.適応判定の際に注意すべき点として,病変の周辺構造との関係を検討する.ステント留置により冠動脈や大動脈,肺静脈などが圧迫を受けないか,CTやMRIによる評価が有用である.・リスクと合併症
肺動脈損傷や不整脈のほか,ステントの位置不良や移動,ステントによる側枝の閉塞,異常内膜増殖による再狭窄などのリスクがあり328, 329),死亡のリスクを伴う手技である.
1.12 大静脈狭窄,心房スイッチ術後狭窄
1.12.1 バルーン血管形成術(表36)
先天性の上大静脈,下大静脈狭窄や,Mustard術後またはSenning術後狭窄,部分肺静脈還流異常における上大静脈術後狭窄,Glenn術後吻合部狭窄,Fontan術後の体静脈狭窄に対して行われる.有意の狭窄でも静脈系では狭窄部圧較差は5 mmHg以下のことが多く,圧較差,形態,循環動態を総合的に勘案して適応を判断する.病変の多くがバルーン血管形成術で完了することは少なく,ステント留置が必要になることが多い.・リスクと合併症
血管穿孔のリスクは,ほかの部位よりも低い332, 333).
1.12.2 ステント留置術(表37)
成人血管径まで拡張できるステントが留置可能であれば,ステント留置の適応はバルーン血管形成術と同様である332, 333).ステント留置により周囲組織を圧迫する可能性について,あらかじめ造影CTで評価することが有用である.ステントはPalmaz XL(P4010)またはPalmaz Large (P308,P188)が使用される.・リスクと合併症
静脈は柔軟性に富むため,ステント留置時の位置不良や移動には注意が必要である.血管損傷のリスクは少ないが,十分な血流が得られない場合は血栓のリスクがある.
1.13 肺静脈狭窄
1.13.1 バルーン血管形成術
本治療法に対する適応には,孤立性先天性肺静脈狭窄,複雑心疾患に合併した肺静脈狭窄,肺静脈還流異常術後
の狭窄,心臓移植術後狭窄,高周波アブレーションによる瘢痕狭窄,心臓外腫瘍の外側からの圧迫,サルコイドーシス,線維性縦隔炎などの縦隔炎症疾患による肺静脈狭窄などがある.従来の報告は,アブレーション後の瘢痕狭窄と還流異常術後の狭窄に対する報告が多い.再狭窄率が高く,姑息的な解除にとどまることがほとんどである.・リスクと合併症
血管穿孔のリスクはほかの部位よりも低い.
1.13.2 ステント留置術(表38)
8 mm以上の拡張が可能であればステント留置がバルーン血管形成術に比較して有効性が高く,開存率が高いと報告されている.成人例におけるアブレーション後の瘢痕狭窄334–340)に対するステント留置では,8~10 mm以上に拡張することができた場合,再狭窄率が低い341, 342).小児領域における肺静脈狭窄にステント留置をすることは,再狭窄・閉塞のリスクが高く343–349),sutureless marsupialization手術(再手術・死亡回避率が約50%)の適応を含め,外科医と総
合的に判断するべきである.・リスクと合併症
ほかの部位に対する血管形成術やステント留置と同様であるが,ステントが左房に脱落した場合には,重大な結果をもたらす可能性がある.
表37 大静脈狭窄,心房スイッチ術後狭窄に対するステン
ト留置術に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
鎖骨や鼠径靭帯よりも,中枢の有意な体静脈狭窄を解除するためにステント留置を行う. I B Mustard 術後およびSenning 術後など,術後の大静脈狭窄を解除するために,ステント留置を行う. I C
表36 大静脈狭窄,心房スイッチ術後狭窄に対するバルー
ン血管形成術に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
大静脈狭窄や複雑な静脈狭窄に対し,バルーン血管形成術を考慮する. IIa C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
1.14 大動脈縮窄(表39,表40)
大動脈縮窄(CoA)は欧米では頻度が高く,先天性心疾患の5~8%を占めるとされるが,2018年のわが国でのサーベイランスでは2.8%であった.単純型で縮窄の程度が軽いと成人まで診断されず,成人後に高血圧の原因となる場合もある350–352).Turner症候群に合併することもある.合併心疾患は大動脈二尖弁,大動脈弁狭窄,大動脈弁下狭窄,僧帽弁狭窄,僧帽弁上輪などの頻度が高い.VSDや両大血管右室起始などを合併する複合型は新生児期・乳児期に発症して早期の外科的修復術が行われる.
1.14.1 カテーテル治療の適応
複合型CoAでは乳児期早期にCoAの修復と肺動脈絞扼術を行い,成長後に心内修復術を行う方法と,一期的にCoAと心内構造異常(主としてVSD)を治す方法とがある.いずれの場合でも,術後にCoA修復部の再狭窄をきたす可能性があり,その際には乳幼児ではバルーン血管形成術の適応となる.
単純型CoAでは,初期治療として手術を行う場合とカテーテル治療を行う場合とがある.未手術のCoAに対す
るバルーン血管形成術では,若年において再狭窄率が高く,破裂や動脈瘤形成の危険性が看過できないため353–355),成長後まで耐容できるステントが使用できない体格では外科治療が選択される場合が多い.一方,手術後の再狭窄に対しては,複合型と同様に乳幼児ではバルーン血管形成術が行われることが多い.比較的限局性の狭窄で,大動脈弓部の低形成がない場合,成人に近い体格の学童以上の患者では15~20 mm以上に拡大できるステントを用いて拡大することが行われる356–359).近年では破裂や動脈瘤形成のリスクを考慮して,欧米ではカバードステントが用いられることが多く,血管壁の合併症が低減されている360–364).米国では2016年にカバードステントがCoAを適応として承認されたが140, 365),わが国ではいまだCoAを適応として
表38 肺静脈狭窄に対するステント留置術に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
高周波アブレーション術後の後天的な有意の肺静脈狭窄では,ステント留置を行う. I C年長児,思春期における肺移植後の後天性肺静脈狭窄,腫瘍による外部からの圧迫に対し,ステント留置を行う. I B孤発性の先天性肺静脈狭窄に対し,ステント留置を考慮してもよい. IIb C乳児,幼小児における肺移植後の後天性肺静脈狭窄,腫瘍による外部からの圧迫に対し,ステント留置を考慮してもよい. IIb C総肺静脈還流異常術後の肺静脈狭窄に対する治療として,ステント留置を考慮してもよい. IIb C複雑心疾患に伴う総肺静脈還流異常で肺静脈閉塞をきたしている重症例では,手術成績がきわめて不良な総肺静脈還流異常の早期の外科的介入を回避する目的で,ステント留置を考慮してもよい. IIb C外科的治療を必要とするほかの先天性心疾患を合併した肺静脈狭窄に対し,血管形成術やステント留置は行うべきではない. III Harm C表39 未治療CoA または再縮窄に対するバルーン血管形
成術に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
カテーテル検査により計測した縮窄部を介する収縮期圧較差≧20 mmHg で適切な形態の場合,年齢にかかわらず再縮窄に対してバルーン血管形成術を行う.ただし,安全にステントを留置できる体格(体重25 kg 以上)の場合には,ステント留置を優先する. I Cカテーテル検査により計測した縮窄部を介する収縮期圧較差<20 mmHg であっても,適切な形態の場合,豊富な側副血管により圧較差が過小評価されている場合,および単心室または有意な心室機能障害を伴う場合には,年齢にかかわらず再縮窄に対してバルーン血管形成術を行う.ただし,安全にステントを留置できる体格(体重25 kg 以上)の場合には,ステント留置を優先する. I C重症の心室機能障害,重症僧帽弁逆流,心拍出量の低下,心機能により悪影響を受ける多臓器疾患などの危険因子を有する場合,年齢にかかわらず未治療縮窄に対するバルーン血管形成術を考慮する. IIa Cカテーテル検査により計測した縮窄部を介する収縮期圧較差≧20 mmHg で適切な形態の生後4~6ヵ月以後の患児に対し,未治療縮窄に対するバルーン血管形成術を考慮してもよい. IIb C複雑な形態,または結合織疾患やTurner症候群を合併する未治療縮窄または再縮窄では,バルーン血管形成術を考慮してもよいが,個々の症例ごとに慎重に検討すべきである. IIb C
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認可されたステントはなく,2000年前後からPALMAZ large stentやPALMAZ extra-large stentがオフラベルで使用されている.
カテーテル治療の適応は狭窄部の圧較差もしくは上下肢の血圧差が20 mmHg以上か,縮窄による上半身の高血圧,心収縮力低下があるときである.心内短絡が残っている場合や側副血管の増生が顕著な場合は圧較差が20 mmHg未満でもカテーテル治療の適応となる場合がある. 1.14.2 リスクと合併症
大腿動脈損傷,大動脈解離・瘤形成,大動脈破裂,ステントの位置不良/移動,脳血管障害などが報告されている359).
1.14.3 術後遠隔期の問題
CoA患者においては,手術もしくはカテーテル治療によって修復された後も,対処すべき問題が継続することが知られている.CoA治療後の患者の生存率は正常より低い.その理由の多くは高血圧に起因しており,高血圧は術後長期経過例の1/3~2/3に認められる366–368).治療時の年齢が高いほど高血圧の頻度は高い.また治療後の安静時の評価にて圧較差が解消されていても,運動時は治療部位より近位での血圧は健常よりも高くなるとされている.よって定期的な経過観察において,高血圧がある場合には降圧薬を適切に使用すべきである369–371).加えて動脈硬化性病変や脳動脈瘤の合併も知られており,念頭に置く必要がある372, 373).
1.15 体肺短絡術後狭窄
1.15.1 体肺短絡術の種類
肺動脈弁狭窄や肺動脈閉鎖などを伴う肺血流減少性先天性心疾患に対して,体肺短絡術が施行される.近年では,乳児期に体肺短絡術をせずに,一期的に二心室修復術を行う症例も増加している.一方,二心室が存在しても二心室修復が適応とならない症例や,左心低形成症候群に代表されるような単心室血行動態のため,Fontan手術に向けての段階的手術の過程での初回姑息術として体肺短絡術が施行される例も数多く存在する.そのような疾患群において, Blalock–Taussig短絡術(BTS)などの体肺短絡路作成術による肺血流の付加は,現在でも重要な位置を占めている.体肺短絡路作成術には,1945年にFallot四徴症の3例の患児に行われたBTS原法(鎖骨下動脈を切離して肺動脈に吻合)
374)にはじまり,Waterston–Cooley短絡術(上行大動脈–右肺動脈吻合),Potts短絡術(下行大動脈–左肺動脈吻合)があげられる.現在は,基礎疾患の解剖学的状態や循環動態に応じて,expanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)人工血管を介在させる,以下の3つの方法のいずれかが選択されることが主流となっている. 1BTS変法(modified Blalock-Taussig shunt: mBTS)左右いずれかの鎖骨下動脈から肺動脈へ血流を供給する.
表40 未治療CoA または術後再縮窄に対するステント留
置に関する推奨とエビデンスレベル*
推奨クラスエビデンス
レベル
カテーテルにより計測した縮窄部収縮期圧較差≧20 mmHg であり,安全にステントを留置できる体格(体重25 kg 以上)で,成人の大動脈径までステントを拡大留置できる術後再縮窄に対してステント留置を行う. I Bカテーテルにより計測した縮窄部収縮期圧較差≧20 mmHg または<20 mmHgであっても,合併する高血圧を十分説明できる形態の未治療縮窄または術後再縮窄では,一次治療として,成人の大動脈径まで拡大できるステント留置を考慮する. IIa Bカテーテルにより計測した縮窄部収縮期圧較差≧20 mmHg の長い範囲にわたる未治療縮窄または術後再縮窄では,一次治療として,成人の大動脈径まで拡大できるステント留置を考慮する. IIa B手術やカテーテル治療によっても改善できない複雑な大動脈弓の狭窄があり,さらなる手術のリスクが高いと考えられる乳児・新生児のCoA に対してはステント留置を考慮してもよい.成人の大動脈径まで拡大できないステントを留置した場合,拡大しうる最大径までこのステントを拡大しても大動脈狭窄を十分解除できなくなった時点で,手術によりステントを除去または拡大する必要がある. IIb Cカテーテルにより計測した縮窄部を介する収縮期圧較差<20 mmHg であるが,左室拡張末期圧が上昇し解剖学的に狭窄を認める場合,またはカテーテルにより計測した縮窄部を介する収縮期圧較差<20 mmHg であるが圧較差を過小評価するような有意な側副血管を認める場合には,未治療縮窄または術後再縮窄に対する初期治療として,成人の大動脈径まで拡大できるステント留置を考慮してもよい. IIb C * わが国ではCoA の治療を適応として認可されたステントはないが,
オフラベルでステント留置が行われてきた歴史に鑑み,推奨レベルを示す.
p.50
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
2セントラル短絡術(central shunt: CS)上行大動脈から肺動脈へ人工血管で血流を供給する. 3 心室–肺動脈導管(ventriculo-pulmonary arterial conduit:
VPC)心室から肺動脈へ人工血管で血流を供給する. mBTS,CSは,基礎疾患の状況に応じて,側開胸または胸骨正中切開のいずれかによるアプローチが選択される.胸骨正中切開の場合は,より精緻な吻合や肺動脈形成の追加を可能とするために,人工心肺や膜型人工肺などの補助循環を併用して行われることがある.肺血流供給の程度は,吻合される人工血管の径,長さ,角度や狭窄,あるいは供給先の肺動脈へのほかの付加的血流や肺血管抵抗に依存する.そのいずれかに障害があると狭窄や閉塞をきたすことになる.基本的には収縮期から拡張期にかけて連続性に血流が供給され,人工血管が太く短いほど肺血流が増える.このため,左心低形成症候群に対するNorwood手術に代表されるような開心姑息術では,拡張期の冠血流低下も相まって,術後死亡や心不全につながりやすく,成績不良の主因とされた375).一方,VPCは胸骨正中切開と人工心肺のもとで,心室(通常は右室)前面の切開と筋切除により開窓した部位に人工血管が吻合される.心室切開に伴う心機能低下が懸念されるが,大動脈血流の拡張期盗血現象をきたすことなく十分な肺血流を保ち,Norwood手術の成績を向上させた術式として広く施行されている376, 377).
1.15.2 体肺短絡術後狭窄に対するカテーテル的拡大術(表41)
体肺短絡術後には,前述したいずれかの障害により人工血管の吻合部あるいは内部に狭窄や閉塞をきたし,再手術やカテーテル的拡大術の対象となる場合がある.手技的な吻合部狭窄のほか,血栓形成や内膜増生が主因となることが多く,急性閉塞の場合は緊急治療を要する.早期再手術の成績は不良であり,1990年頃からその代替治療としてカテーテル的拡大術が報告されるようになった378–380).mBTS, VPCに対して,バルーン血管拡張術,ステント留置術のいずれにおいても数多くの報告があるが,その適応や治療法選択に関してはランダム化比較試験を行うことは難しく,症例対照研究のみである.いずれも,比較的高い確率で安全に手技を遂行することが可能であり,術前後で酸素化が改善した,次に控える心臓外科手術を待機的に計画可能であった,とする報告が多い381, 382).
バルーン血管形成術では,0.014インチないし0.018インチガイドワイヤ対応の細径のバルーンが使用される.また,ステント留置術でも,近年はおもに0.014インチないし0.018インチガイドワイヤ対応の,より薄く,柔軟な構造のステントが使用されている.なお,屈曲病変へのステント
デリバリーは,より柔軟で,より長さが短いものほど容易になる.
血栓形成に伴う完全閉塞の急性期,亜急性期においては,ガイドワイヤで再開通させてからカテーテル的形成術が施行される383, 384).低酸素血症が重篤で,循環動態が不安定な場合は,先に人工心肺を装着して酸素化と循環状態を安定させてからカテーテル的再開通・形成術を行う380).一方,急性の狭窄・閉塞に対する対応以外に,とくにVPCでは,心室側吻合部に残存した心筋および内膜の肥厚により経時的に狭窄を呈することが多い.この部位のバルーン拡大術はある程度は有効だが381),ステント留置術のほうが効果は確実である385, 386).VPCの内部には弁が装着されていることもあるが,その場合には比較的早期にカテーテル治療を要したと報告されている387).また, BTS,VPCいずれにおいても,術後急性期の肺血流過多による心不全を防ぐため,血管クリップを用いて人工血管に狭窄を作成して肺血流を制限し,数ヵ月を経た成長後にバルーンあるいはステントでクリップを外して狭窄を解除する,段階的な肺血流増加治療も施行されている388).
バルーン形成術に比べ,ステント留置術は拡張された内腔の保持が良好で,リコイル現象が少ないことから効果が高い.しかし,屈曲・狭窄した病変を通過させることがより難しく,またロングシースあるいはガイディングカテー
表41 体肺短絡術後狭窄に対するカテーテル的血管形成術
に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
肺動脈弁狭窄や肺動脈閉鎖などを伴う肺血流減少性先天性心疾患,あるいは左心低形成症候群に代表されるような単心室循環の先天性心疾患に伴う体肺短絡路作成術において,狭窄・閉塞をきたした場合には,バルーンまたはステントによるカテーテル的血管形成術は再手術を考慮する. IIa B初期に造設した体肺短絡路が,経時的な変化や患児の成長に伴い相対的に狭窄をきたすことをあらかじめ考慮し,次段階手術への待機,肺血管床成長を目的としてカテーテル的拡大術を考慮してもよい. IIb C体肺短絡術後狭窄に対するカテーテル治療は先天性心疾患カテーテル治療の豊富な経験と,心臓外科チームとの協議による適応決定,また術中術後の補助循環装着や開心術への移行を含めたバックアップ体制のもとで行うことを考慮してもよい. IIb C
p.51
テルを併用し,確認造影による正確な位置決めを要するなど,高度な技術が要求される.
合併症には,短絡血管の再閉塞,血栓の移動や新たな形成による肺梗塞,脳梗塞などの塞栓症,ステントの脱落,ガイドワイヤによる血管損傷や肺うっ血に起因する気道出血,カテーテルが心腔内を通過する際の弁逆流の悪化や不整脈の出現などがあげられる.また,循環動態が不安定なことが多く,とくに左心低形成症候群や右室型単心室の心室内を経由してのステント留置術は,血行動態の悪化から重篤な状態に陥りやすいので注意を要する389).先天性心疾患カテーテル治療の豊富な経験と,心臓外科チームとの協議による適応決定,また術中術後の補助循環装着や開心術への移行を含めたバックアップ体制が必要である.
1.16 小児の動脈管拡大(表42)
先天性心疾患には循環と生命維持のために動脈管に依存するものがあり,大きく以下の3つの病態に分類される. 1 肺血流が動脈管に依存する心疾患.肺動脈閉鎖症,重
症肺動脈弁狭窄症など. 2 体血流が動脈管に依存する心疾患.左心低形成症候群,
重症大動脈弁狭窄,大動脈縮窄・離断など. 3 肺静脈還流血の体循環への混合に動脈管が必要となる
心疾患.完全大血管転位など. 3については,心房間レベルの混合に依存するところが
大きく,カテーテル治療の対象も心房間交通の拡大が主体で,動脈管の拡大の適応となることはない.また,2については,本章の「1.17.1 左心低形成症候群・単心室循環」で,動脈管に対するステント留置につき詳しく述べられている.本項では,1肺血流が動脈管に依存する場合の経カテーテル的拡大術について述べる.
1.16.1 治療の実際
PDA維持のための初期治療としては,プロスタグランジン持続静注が基本であり,わが国でもプロスタグランジンE1・α-CD製剤,リポプロスタグランジンE1製剤が薬価収載されている.そのいずれかを用いて出生後まもない時期に入院治療を継続し,ある程度の全身状態安定や成長がみられた時点で体肺短絡路造設等の姑息術や,心内修復術,重度狭窄あるいは閉鎖した肺動脈弁に対するバルーン拡大術を行い,動脈管依存状態から離脱していくことが確立された治療方針とされている.
バルーンあるいはステントによる動脈管拡大術は保険適用とされていないが,上記のような薬剤による動脈管の維持や,体肺短絡術の代替として行われる.長期のプロスタグランジン持続静注による医療費や静脈点滴路感染の問題が大きい場合,早産,低出生体重,重度の循環不全,出血傾向などで全身状態が心臓外科手術に耐えられないと判断される場合がその対象となり得る.
動脈管は自然に閉鎖傾向となることが多いためにバルーン拡大術の効果は一時的であると考えられている.ステント留置により拡大を維持する報告がなされている.肺血流減少型先天性心疾患の動脈管に対するステント留置術は1992年にはじめて報告された.右室高度低形成および類洞交通を合併する肺動脈閉鎖,肺動脈閉鎖・共通房室弁を伴う心房内臓錯位症候群の各1例を対象として,冠動脈用のPalmaz–Schatzステントを留置するものであったが,留置手技は困難であり短期間の生命維持にとどまった390).その後,1998年にSchneiderらが,21例の肺動脈閉鎖・重症肺動脈弁狭窄の新生児に対する良好な成績を報告した(Palmazステント使用で,病院死亡は2例,その他19例は肺動脈弁のバルーン拡大術により動脈管依存状態から離脱) 391).さらに,2004年には,Gewillingら,Alwiらがそれぞれ10例,69例の同疾患群に対する動脈管ヘのステント留置術を報告した.この頃になると0.014インチのガイドワイヤや,4 Frないし5 Frのシースもしくはガイディングカテーテルを併用して,現在も使用されるような細径の冠動脈用ステントを留置するというより低侵襲な手技が取り入れられていた392, 393).体血流が動脈管に依存する疾患
表42 肺血流減少型心疾患の動脈管に対する経カテーテル
的拡大術の推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
肺血流が動脈管に依存する先天性心疾患に対する初期治療は,プロスタグランジン持続静注が第一選択となる.体肺短絡術や心内修復術,狭窄・閉鎖した肺動脈弁のバルーン拡大術が次の治療方針となることが一般的である.しかし,長期のプロスタグランジン持続静注による医療費や静脈点滴路感染の問題が大きい場合,早産,低出生体重,重度の循環不全,出血傾向などで全身状態が心臓外科手術に耐えられないと判断されるといった場合には,代替の方針としてステント留置による動脈管の維持を考慮する. IIa C動脈管に対するステント留置術は,先天性心疾患カテーテル治療の豊富な経験と,心臓外科チームとの協議による適応決定,また術中術後の補助循環装着や開心術への移行を含めたバックアップ体制のもとで行うことを考慮する. IIa C
p.52
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
群でのステント留置術と異なり,自己拡張型ステントが用いられることは少なく,ほぼ全例においてバルーン拡張型ステントが用いられている.また,大腿静脈を穿刺し心腔内を経由して動脈管に到達する順行性アプローチのほか,大腿動脈穿刺,総頚動脈・腋窩動脈穿刺による逆行性アプローチが症例に応じて選択される194).
心室と大血管との解剖学的な関係により,動脈管の形態と起始部は異なっており394),おもに次の4群に分類される(図6).グループ1のような横走する動脈管への挿入には大腿動脈穿刺が適しているが,腋窩動脈と同様に総頚動脈と比べて血管径が小さく,血管狭窄・閉塞のリスクがある点に留意する必要がある.グループ3のような垂直に起始する動脈管に対しては,総頚動脈穿刺により直線的な経路を形成でき,ステント挿入に有利と考えられる.さらに穿刺部から動脈管までの距離が短く,ロングシースへの入れ替えが不要となる(図7).グループ4の動脈管は総頚動脈や大腿動脈からのアプローチが容易であり,ステント留置術のよい適応である.異所性鎖骨下動脈から起始する動脈管の場合は血管輪を形成する可能性があるため,次段階の手術時に離断が必要となる394).
1.16.2 留意点
合併症としては,ステントの急性閉塞,血栓形成による肺梗塞,脳梗塞などの塞栓症,ステントの脱落,ガイドワイヤによる損傷や急な肺うっ血に起因する気道出血,カテーテルが心腔内を通過する場合には弁逆流の悪化や不整脈などがあげられ,循環動態が不安定な新生児が対象
となることが多く重篤な状態に陥りやすい.ステントを適切な位置に固定するためには,動脈管の最狭部を有意に上回る径のバルーンでステントを拡張させる必要があり,通常は3.5ないし4 mm以上を選択することとなる.外科的に造設したBlalock–Taussigシャント等に比べると,動脈管の経路は短いことも相まって,ステント留置後急性期には高肺血流性心不全に陥りやすく,注意深い管理が必要となる.以上のことから,カテーテル治療には,熟練した技術と,補助循環装着や開心術への移行を含めた心臓外科チームを中心とするバックアップ体制が必須である.
一方,確立した治療方針とされる体肺短絡造設術も,一定の合併症発生率や死亡率を有する比較的リスクの高い手技であることが明らかになっている.日本心臓血管手術データベース先天性部門によると,わが国における体肺動脈短絡術は2015~2016年の2年間で1,179例あり,56例(4.7%)が術後90日以内もしくは在院中に死亡した395).治療成績の比較や症例に応じた治療法選択の検討がなされておらず,今後の課題と考えられる.
1.17 ハイブリッド治療(表43)
循環器疾患領域におけるハイブリッド治療とは,通常,カテーテル治療と,心臓血管外科による手術を組み合わせた治療をさす.血管拡張用ステントや欠損孔に対する閉鎖栓などの治療用デバイスは,太いシース・イントロデュー
図6 大動脈側起始部と肺動脈への経路による動脈管の分類(鈴木康太, ほか. 2020394)より)
A B C D A(グループ1)「横走する」動脈管.胸部大動脈から起始し,胸部大動脈と動脈管がなす角度が鋭角 (< 90度)となる.典型的には重症肺動脈弁狭窄やVSDを伴わない肺動脈閉鎖でみられる.多くが直線的だが,ときに屈曲・蛇行を伴う. B(グループ2)グループ1 より鈍角 (90~ 135度)に起始し,典型的には単心室に伴う重症肺動脈弁狭窄でみられる. C(グループ3)「垂直な」動脈管で大動脈弓
横走部から起始する.多くが屈曲・蛇行を伴い,典型的にはVSDを伴う肺動脈閉鎖でみられる. D(グループ4)大動脈弓と対側の腕頭動脈や鎖骨下動脈から起始する(左側大動脈弓・右動脈管ま
たは右側大動脈弓・左動脈管).
p.53
サーを要するものが多く,目標とする病変部へ到達させる際には,患児の体格が小さいほど血管の太さや心内への物理的負荷が問題となり,技術的にも侵襲的にも困難となる.一方,開心術においては,大きな切開創や体外循環,心停止を含めた外科的侵襲とそれらによる中枢神経系や発達への影響が問題となり,筋性部VSDや末梢肺動脈など,直視下に到達して修復することが困難な病変も存在する.そのような病変に対して,外科的切開による病変部へのより直接的なアプローチのなかで,カテーテル治療を行う治療形態を先天性心疾患に対するハイブリッド治療とよぶ.
ハイブリッド治療を行う環境“hybrid suite”には,シングルプレーンの血管撮影装置が備わった心臓血管外科用手術室“hybrid OR”と,手術室と同じフロアで同じく空気清浄度クラスII以上の清潔域内に設けられた血管撮影室“hybrid catheterization suite”の2種類が提唱されている.後者では開胸下あるいは補助循環使用下にアプローチ可能なように,コンパクトで可動域の大きいバイプレーン・フラットパネル・ディテクターに加えて,手術用無影燈,術野記録用カメラや血管内視鏡を備える.全身麻酔が可能であり,看護師や臨床工学士を含めた多職種チームの連携が前提とされる.
1.17.1 左心低形成症候群,単心室循環
左心低形成症候群や単心室は,適切な時期での段階的手術介入が不可欠な自然予後不良の重症心疾患群であり,機能的修復術としてFontan型手術が到達目標とされる396, 397).新生児期・乳児期早期に第一段階の姑息的手術の対象になることが多く,機能的単心室に接続する狭窄の
ない体循環,狭窄のない心房間交通,適度に調節された肺血流路,十分な冠血流の4つを構築することが救命への鍵となる.以降の段階的治療間でも,これらのバランスを維持することが予後のQOLにとって重要となる.
1990年代以前は,Norwood第1期手術の侵襲の大きさと術後管理の困難さから成績不良であったが,2000年以降は早期生存率が80~90%を超える施設がみられ,第3期Fontan型手術への段階的治療が確立してきた377, 398).しかし,Norwood第1期手術では,新生児期の長時間の体外循環による多臓器とくに中枢神経・発達への障害,二期的胸骨閉鎖とそれらに伴う重症感染症,心室機能低下例への対応,大量の輸血,入院期間の長期化などの問題も残され,頭蓋内出血・気道出血などの出血傾向や34週以前の早期産児には基本的に施行できない399).
AkintuerkとMichel–Behnkeらは,1998~2002年,動脈管依存性の左心系狭窄疾患の新生児20例に対して,透視下に動脈管へのバルーン拡張型ステント留置と両側肺動脈絞扼術を同時,もしくは引き続いて行うハイブリッド治療を行った.同時に行う場合には開胸下,主肺動脈にシースを留置した.急性期に2例,遠隔期に3例死亡がみられたものの,動脈管と肺動脈は最高331日間維持され,2例が心臓移植に,11例が第2期の大動脈弓再建+両方向性Glenn手術に,2例が二心室治療に到達したと報告した400, 401).また,GalantowiczとCheathamらは,2001年以
表43 先天性心疾患におけるハイブリッド治療の推奨とエ
ビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
左心低形成症候群や体循環系狭窄病変を有する単心室の新生児に対し,Norwood第1 期手術のような従来の開心姑息術の代替として,第1 期ハイブリッド治療(両側肺動脈絞扼術,動脈管ステント留置,および必要に応じて心房間交通拡大を人工心肺非使用で開胸下にカテーテル手技を組み合わせて行う)を考慮する. IIa B前もって評価されている血管狭窄病変に対し,アプローチが困難な症例において,あるいは他の病変の開心術を行うと同時に,術中ステント留置を考慮する. IIa C左心低形成症候群や体循環系狭窄病変を有する単心室の新生児に対する第1 期ハイブリッド治療や術中ステント留置は,設備の整った“hybrid suite”と諸専門分野から構成されるチーム“multidisciplinary team” のもとで行う. IIa C
A: 大動脈弓から起始する垂直かつ屈曲した動脈管を示す血管造影所見. B: ステント後の血管造影所見.動脈管が直線化し肺動脈への良好な血流が得られている.
図7 VSD,肺動脈弁狭窄を伴う完全大血管転位の乳児例
に対する動脈管ステント(鈴木康太, ほか. 2020394)より改変)
A B 3Fシース
大動脈弓
肺動脈の一部
動脈管 全長
p.54
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
降,同様の第1期ハイブリッド治療の報告を数多く行ってきた.動脈管に留置するステントはおもに自己拡張型ステントを選択し,動脈管に狭窄を伴っている場合はバルーン拡張型ステントを選択する.心房間交通の狭窄がある場合,必要に応じて退院までにバルーンやステントで拡大する.その後,この第1期ハイブリッド治療は,低体重児,心室機能不全,三尖弁逆流,狭小な上行大動脈,多臓器不全合併,心臓外先天性異常,染色体異常合併といった高リスクな症例に選択的に行う施設と,ほぼすべての症例に第一選択として行われる施設に分かれるようになった.近年では,前述したNorwood第1期手術と同等の生存率に到達しているとの報告もある.その後の生存率,第3期のFontan型手術到達率,神経発達予後の比較検討については明らかになっていない389, 402–405).
このような成績を受けて,左心低形成症候群や,大動脈弁下部ないし大動脈弓のいずれかの体循環系に狭窄病変を有する単心室症例に対して,人工心肺を使用しない初回姑息術としての両側肺動脈絞扼術および動脈管ステント留置というハイブリッド治療が世界的に普及するようになった406, 407).本治療の普及には,心臓移植への橋渡しとしての側面がある.
一方,わが国では補填材料としてのホモグラフトの使用に制限があり,動脈管ステントにより下行大動脈組織が侵食されていると,その後の大動脈弓再建が困難となる408).また,技術的なlearning curve以外に,動脈管ステントが大動脈弓峡部を“jail”するための,冠血流の更なる低下(大動脈縮窄の増悪),段階間の早期死亡・壊死性腸炎の発生という諸問題がある409–412).そのため,早期の両側肺動脈絞扼術後に,一定期間プロスタグランジンE1製剤持続静注で動脈管を維持し,全身状態の安定する生後1ヵ月前後に経皮的に動脈管にステント留置を行うか,BTシャントか心室–肺動脈導管を伴うNorwood手術を行うとする報告も多い.
動脈管ステント後の冠血流低下に対しては,同時に主肺動脈から腕頭動脈への“reverse BT shunt”を造設する方針を打ち出した報告もあるが413),現在,こちらは一般化せず,退院後も大動脈峡部の狭窄所見を心エコーで頻回に観察し,その傾向を認めれば動脈管ステントのセル間を通して小さな冠動脈用ステントで追加拡大する報告もなされている414).
1.17.2 術中ステント留置
先天性心疾患に伴う血管狭窄へのステント留置・拡大術は,すでに標準的な治療手段の一つとして確立している327, 415,).小児の血管へステントを永続的に留置する場合,狭窄の解除だけでなく,成人期までの成長を見込んだ径ま
でバルーンによる再拡張が可能なステントを選択する配慮と,健常な部分(末梢動脈分岐部,頚部血管など)に過剰に突出させないステント長の選択と位置決めがきわめて重要となる.ステントの種類により,拡張前の太さ(profile),柔軟性(flexibility),追従性(trackability),放射支持力(radial strength),最大拡張可能径(maximum expanded diameter),長軸方向への短縮率(fore shortening)が異なり,ステントを選択する際には,これらステントの性質と,病変部の状態,体格,循環動態,留置手技・経路を分析して決定する.性別や最終身長,原疾患などの個人差にもよるが,一般的には,肺動脈第1分枝で約16~18 mm (Fontan型手術後は約13~15 mm),胸部大動脈で約18~ 25 mmの最大拡張可能径をもつステントを留置すべきであり,経皮的にアプローチするのに7~10 Frのロングシース(+2 Fr大きいショートシース)や硬いガイドワイヤを必要とし,とくに乳幼児では難易度や侵襲性が高い.
こうした困難を解決する方法として,術中ステント留置が1992年に初めて報告された416).術中ステント留置では,イントロデューサー・シースを使用せず,あるいは病変部のすぐ近くに挿入してバルーン拡張型ステントを留置するものである.シースを使用しない場合は,術前の画像診断によりあらかじめバルーン・ステント径を決定し,直視下あるいは血管内視鏡補助下に位置決めを行う.また,シースを挿入する場合は,術野にCアームを導入し,シースの側管から前後で造影を行い確認することができる.肺動脈分岐部狭窄にもっとも適応があるが,大動脈,体肺動脈短絡血管,大静脈や動脈管への適応も報告されている.利点は,シースに制限されず成人期までの成長を見込んだステントを直接的に到達させられることであり,アプローチ血管や病変部の閉塞例,ほかの修復手術と同時施行例にはとくに適応があり,血行動態の変化やステント脱落,血管穿孔といった合併症が少ないなどである.ステントの遠位端や拡張径の厳密な調節のためには,“hybrid suite”における血管内視鏡やCアームの併用が有利とされる417–419).
1.17.3 経心室的(perventricular)筋性部VSDカテー テル治療
筋性部(肉柱部)VSDのなかでも,中隔縁柱(septomarginal trabeculation)よりも奥に存在するものは,ときに多発性(スイスチーズ様)となることも相まって外科的に視認し閉鎖することは困難とされており,ときに左室切開や,乳児期に肺動脈絞扼術を行って段階的治療を要することがある.
1997年のAmplatzer TM Septal Occluder(ASO)のあと,
p.55
1999年に筋性部VSD閉鎖用にデザインされたAmplatzer Muscular VSD Occluder(AMVSDO)の臨床使用例が報告された420).2枚のディスクをつなぐconnecting waistの厚みがASOでは3 または4 mmであるのに対して, AMVSDOでは心室中隔に対応して7 mmであり,直径は欠損孔の大きさに対応して2 mm刻みに4~18 mmのサイズがある.2枚のディスクはconnecting waistよりも半径で4 mm大きく,多くの場合,内頚静脈から6~9 Frのシースを欠損孔に通過させ,留置される.しかし,体重5 kg未満の乳児の場合は,経皮的アプローチが困難で合併症が有意に多くなる134).
太いシースを経皮的に導入することが困難な乳児や,同時に肺動脈絞扼解除などのほかの手術操作を行う適応がある場合,前胸部の小切開により心拍動下に右室自由壁を直接穿刺し,ガイドワイヤを欠損孔に通し,短いシースを欠損孔に通過させてAMVSDOを留置する経心室的(perventricular)カテーテル治療を行うと,人工心肺も用いずに低侵襲に治療され得る.手術室にて,透視や造影を併用せず経食道心エコーガイド下に行われるこのハイブリッド治療は,Aminらにより動物実験での有効性,安全性が報告され421),2005年Bachaらにより多施設による12例の臨床報告がなされた422).手技上の合併症はなく, 12ヵ月後には全例無症状で少量の遺残短絡が2例のみにみられ,遠隔期に2例の突然死がみられている423).比較的どの施設でも施行しやすいハイブリッド治療と考えられ,各国に普及し良好な成績を収めている424).わが国でもAMVSDOの導入が期待されている.
先天的ないし後天的に発生した異常血管が血行動態に悪影響を及ぼす場合や,出血源となる場合,コイル塞栓術が考慮される.原疾患に対する手術の適応があり,手術中に異常血管の結紮が可能である場合には,コイル塞栓術は適応にはならない.1975年にGianturcoらがステンレススチールコイルによる腫瘍動脈塞栓 を報告して以来425),さまざまな領域においてコイル塞栓術が応用されるようになり,適応が拡大してきている.
2 異常血管
2.1 コイルについてさまざまな塞栓物質が使用されるが,その選択は病変部
への到達経路,病変の大きさや形状,血流量や速度,病変部から脱落した際の危険性などから決定される.コイルは塞栓子の一つで,太いデリバリーシステムが不要で,動脈からのアプローチも容易であるという利点を有する.ただ,コイルはもともとワイヤを螺旋状に形成したものであり,その剛性・形状からみて,血流が遅く,狭窄・蛇行した細い血管や瘤状の病変には適しているものの,血流量が多く,狭窄・蛇行のない太い血管や開窓型病変などの塞栓には適さない.さらに以前は,コイルをカテーテルからワイヤで押し出すプッシャブルタイプで,いったんカテーテルから出すと回収することができなかった.近年ではコイルをカテーテル尖端から病変部に出しても回収が可能なデタッチャブルタイプのコイルが使用可能となり,以前はコイル塞栓の対象となりにくかった血管に対する塞栓術も比較的安全に施行できるようになった.デタッチャブルタイプには機械式,電気式,水圧式がある.コイルの太さも,0.035インチのスタンダードコイルや,0.010~0.020インチのマイクロコイルなど,多くのデタッチャブルコイルが使用可能である(表44) 426).また一部のコイルには,ダクロン繊維が付いていたり,コイル表面にコーティングしたハイドロゲルが時間とともに膨潤化したりすることで,血栓性や塞栓性が高められている.現在コイルは脳動脈瘤に使用され
2.1.1 コイルの種類
表44 塞栓用コイルの種類
デタッチャブルプッシャブル
スタンダードコイル機械式Flipper PDA VortX Tornadeなど
マイクロコイル機械式IDC Detach Penumbra VortX Tornade Hilal Nesterなど
電気式GDC Micrus Microplex ED Azur水圧式Orbit
PDA: 動脈管開存,IDC: interlocking detachable coil, GDC: Guglielmi detachable coil (金正海, ほか. 2019426)より)
p.56
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
ることがもっとも多いということもあり,塞栓術後にMRI画像を損なわないようにとの配慮から,プラチナ製のコイルが増えている.
2.1.2 コイル塞栓術の適応疾患
先天性心疾患の領域でコイル塞栓術の対象となる病変には動脈管144, 145, 147, 427),主要体肺側副動脈428, 429),体肺短絡血管,正常血管から肺内に発育していった体肺側副動脈430-434),Fontan手術後やGlenn手術後の静脈–静脈短絡435-437),冠動脈瘻,肺動静脈瘻などがある.PDAでは直径2 mm以下の例,主要体肺側副動脈においては,中心肺動脈とdual supplyの血管,中心肺動脈へ統合できない,あるいは心内修復術時に結紮できなかった血管が治療対象となる.外科的に閉鎖しきれなかったBTS 438, 439)のような体肺短絡手術後症例に対しても,コイル塞栓術は行われている.Fontan手術前後では,短絡量が多い体肺側副動脈に対してコイル塞栓術が施行される.またFontan手術後もしくは両方向性Glenn手術後には,静脈–静脈短絡に対するコイル塞栓術が施行される.冠動脈瘻においてコイル塞栓術が適応となるのは,病変部位までカテーテルが挿入可能で,閉塞予定部位から遠位に正常冠動脈がなく,コイル留置可能な狭窄がある場合である440).肺動静脈瘻は有症状例が治療の対象となる441, 442).
2.1.3 コイル塞栓術の合併症(表45)
すべてのコイル塞栓術に共通する合併症はコイルの脱落・迷入である.動脈管や体肺側副動脈などの左右短絡血管では,多くの場合,コイルが脱落しても肺動脈や側副動脈の末梢にコイルが留まるため,重篤な合併症とはなりにくい.一方,静脈–静脈短絡,肺動静脈瘻などの右左短絡血管へのコイル塞栓術では,コイル脱落・迷入は中枢神経系をはじめとする全身臓器の塞栓症を生じるため,重大な結果をもたらす.したがって,これらの血管病変に対する塞栓術にはデタッチャブルコイルもしくはVascular Plugを積極的に使用し,コイル脱落・迷入の予防に努めるべき
である.また,比較的大きな動脈性の血管では,コイル留置後の遺残血流により溶血をきたすことがあるため,完全閉塞を目指すべきである.一方,コイル塞栓術が有効であればあるほど,異常血管のすべての血流を遮断することになるため,組織壊死を目的とした塞栓術でない限り,塞栓する血管がその組織への唯一の血液供給源ではないことを確認しておくべきである.
血管塞栓用プラグAmplatzer Vascular Plug(AVP)は,ナイチノール合金で編んだメッシュによる円筒状構造を呈す.とくに高流量の中型~大型血管において良好な塞栓効果を示し,成功率が高く,再発率も低い443).米国では2004年に最初に承認され,わが国でも2012年に導入された444).
2.2.1 Vascular Plugの種類と特徴(図8,表46)
AVPの源流はAmplatzer Septal OccluderとAmplatzer Duct Occluderである443).
基本構造は自己拡張型のMRI対応血管プラグとプッシャー・ワイヤからなる.プラグ両端のエックス線不透過プラチナ・マーカーにより,高いエックス線視認性を有する.プラグ本体はステンレス・スチール製螺旋でワイヤと接合されており,正確な位置決め後にワイヤを反時計方向に回転させ,リリースされる.ワイヤからリリースするまでは位置修正が可能となっている.
プラグは自己拡張型メッシュ製であり,十分な拡張力を有するため移動はきわめてまれである.再開通もまれであり,AVP留置1,200例中5例のみであったと報告されている443).留置後の変形も報告されているが,臨床上は問題にならない445).
AVPには4つのモデルがあり,血管解剖,血行動態などに応じてそれぞれ特徴的なデザインと形状を有し,わが国ではAVP,AVP II,AVP 4の3種類が承認されている.それぞれの形態を図8,表46に示す443).
原型であるAVPは4~16 mm径で,円筒型プラグ一つのみの形状のため,7~8 mmの短い病変に使われる446). AVP IIは3~22 mm径で,円筒型プラグ両側に扁平ディスクを備えており,6層のメッシュ構造となるため塞栓効果は高い.圧迫挿入により比較的短いランデイング・ゾーンにも留置可能となっている447).AVP 4は4~8 mm径で, 2つの円筒型プラグからなる.細径のため屈曲した血管にも対応可能とされる.4 Fr診断用カテーテルを通じて留置
2.2 AVPについて
表45 コイル塞栓術に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
静脈静脈短絡や肺動静脈瘻などの右左短絡血管に対する塞栓術には,塞栓子の脱落・迷入の予防のために,デタッチャブルコイルやVascular Plug を使用する. I C組織壊死を目的とした塞栓術でない限り,塞栓する血管がその組織への唯一の血液供給源ではないことの確認を行う. I C
p.57
可能であるが,braided shaftのほうがより容易である448).
Vascular Plugは,経皮的に動静脈に留置することにより血流を遮断させる血管塞栓用デバイスである.金属コイル単独では塞栓が難しいとされる血管径が大きく高流量の血管に塞栓効果が期待できる.Vascular Plugの適応基準と適応除外基準を表48に示す.心臓および頭蓋内血管は適応除外となるため,弁周囲漏出閉鎖,PDAなどには適応とならない.海外からは,適応外での使用がいくつか報告されている164, 449-452).
2.2.2適応(表47) Vascular Plugの使用方法は以下のとおりである.
・血管造影にて塞栓予定部位の血管径を計測し,デバイ
スのサイズを決定する.AVPのサイズ選択は留置血管径の30~50%増が推奨されている.・適合サイズのシース/ガイディングカテーテルが目的
部位まで挿入できることを確認する.・適合シース/ガイディングカテーテル内にAVPを挿入
し,塞栓部位まで誘導する.
2.2.3 使用方法
表47 Vascular Plug に関する推奨とエビデンスクラス
推奨クラスエビデンス
レベル
2 mm 以上の血管性病変の閉塞では, Vascular Plug を使用する. I C表48 Vascular Plug の適応基準と適応除外基準
適応基準
1血管性病変の閉塞術: 動静脈奇形,動静脈瘻,動脈瘤など. 2血流改変術: 胃十二指腸動脈,内腸骨動脈など. 3出血性病変に対する止血術.適応除外基準
1留置血管径が2 mm未満. 2心臓および頭蓋内血管(弁周囲漏出閉鎖,PDAなどには適応
とならない).
表46 わが国で承認されているAVP
AVP AVP II AVP 4
Configuration Single lobar plug Tri-lobar plug Bilobar plug (lower profile) Sheath(Fr) 4~6 4~7 4~5 Guiding catheter 5~8 5~9 4~5 Diameter(mm) 4~16 3~22 4~8 Increments(mm) 2 2 1 Length (mm) 7~8 6~18 10~13.5
AVP AVP II AVP 4
図8わが国で使用可能なAVP (Wang W, et al. 2012443)より改変) Reprinted by permission from Springer Nature Customer Service Centre GmbH: Springer Science Business Media, Cardiovasc Intervent Radiol. 2012;35(4):725-40., (c) 2012 Springer Science+Business Media, LLC and the Cardiovascular and Interventional Radiological Society of Europe (CIRSE)
p.58
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
・シース/ガイディングカテーテルを手前に引き,AVP
を展開する.・AVPはシース/ガイディングカテーテルへの再挿入が
可能であり,適宜位置修正を行う.・位置決めが終了したら,プッシャー・ワイヤを手前(反
時計方向)に回転させ,AVPを最終的に離脱させる.実際には,プラグはdog-bone様に見える.・離脱後,必ず経時的に造影を行い,血流停止を確認
後,手技を終了する.・塞栓効果が不十分なときは,金属コイルなどによる追
加塞栓術を行う443).・留置後の変形も報告されており,慎重な経過観察が必
要である445).
AVPの使用資格基準は以下のとおり. 1術者としてコイル塞栓術を20例以上経験していること. 2AVPの製品および適正使用に関する講習を受講してい
ること.
2.3 体肺側副動脈(表49)
体肺側副動脈はさまざまな先天性心疾患に合併し,その形態,走行部位,左右短絡の程度など個々の症例で異なっていて,循環動態への影響がわずかで治療を考慮しなくてよいものもあれば,重篤な症状を引き起こすものもある.体肺側副動脈に対するカテーテル閉鎖術139)が考慮されるべき例は以下の3つに大別される.
1つめは単心室患者のGlenn術後やFontan術後に体肺側副動脈がみられる例である.単心室の血行動態において左右短絡は容量負荷や静脈圧の増加につながり,Glenn循環,Fontan循環では外科的にデザインされた肺循環と競合的に働き,結果として肺動脈圧を上昇させてしまう可能性がある430-434, 453-461).術後早期には体肺側副動脈の影響により人工呼吸器装着期間やICU滞在日数が延長してしまう例もまれではない.体肺側副動脈が単心室患者の胸水の増加や蛋白漏出性胃腸症の発症に関係しているとする報告もあるが,真の関連性はいまだ不明であり今後の検討が重要となっている.また,状態の悪い単心室患者の体肺側副動脈を閉鎖することで症状の改善を認めるという報告は多数存在するが,Glenn手術前,Fontan手術前の安定した患者に対するルーチン的な体肺側副動脈閉鎖の有効性については議論の余地がある462-465).ただし手術時に認められる効用としては,体外心肺循環時に肺静脈からの還流血が減少することによる視認性の向上,効果的な組織循環の確保
2.2.4 AVP使用資格基準
などがあげられるため,外科医と適応を協議することも重要である.
2つめはFallot四徴や肺動脈閉鎖兼VSDに伴う主要体肺側副動脈の例である428-431, 444, 454, 466).高度チアノーゼや肺血流の減少を伴う例,とくに本来の肺動脈が低形成の例では,体肺側副動脈による左右短絡は肺血流を増加させチアノーゼ軽減に寄与する.また,このタイプの体肺側副動脈の解剖はとりわけ多種多様にわたっている.肺血流の相当な部分を担い統合化(uniforcalization)を必要とするものから,肺血流のごくわずかな部分しか担わないものまであり,本来の肺動脈やほかの体肺側副動脈と交通を有するものもあれば,まったく交通を有しないものもある.これらの体肺側副動脈の閉鎖を決定するには,左右短絡の程度,肺高血圧の有無,チアノーゼの程度,肺血流量,該当肺血管床に対する体肺側副動脈と本来の肺動脈の血流供給状態などを総合的に考慮しなければならない.本来の静脈血による肺血流の供給,可能な限り均等な肺血流の分布および低い肺動脈圧を実現するには,外科医との協力や事前の綿密な計画が重要である.
3つめは大血管転位症などの先天性心疾患で体肺側副動脈による過大な左右短絡を認める例である428, 430, 467-470).これは術前の主たる心疾患に隠されてしまい,手術後に発見
表49 体肺側副動脈に対するカテーテル閉鎖術に関する推
奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
うっ血性心不全,高肺血流状態,呼吸障害,もしくは著しい胸水貯留や蛋白漏出性胃腸症をきたす相当量の左右短絡を伴う体肺側副動脈に対し,カテーテル閉鎖術を行う. I B単心室患者でのGlenn 手術前やFontan手術前のカテーテル検査で指摘された,無症状ではあるが相当量の短絡量を有する体肺側副動脈に対してカテーテル閉鎖術を考慮してもよい. IIb B体肺側副動脈を伴う肺動脈閉鎖症例で,元来の肺動脈からの十分な血流供給がある体肺側副動脈に対し,カテーテル閉鎖術を考慮してもよい. IIb B肺血流低下による重篤なチアノーゼをきたしている症例での体肺側副動脈に対し,カテーテル閉鎖術は行うべきではない.. III Harm C体肺側副動脈を伴う肺動脈閉鎖症例で,元来の肺動脈との統合化が可能と考えられる体肺側副動脈に対し,カテーテル閉鎖術は行うべきではない. III Harm C
p.59
されることもしばしばである.術後に原因不明の高肺血流によるうっ血性心不全を呈する場合には,体肺側副動脈も念頭に検査を進めていく必要がある.
心エコー検査で体肺側副動脈が検出される場合もある.カテーテル検査,血管造影検査が診断にもっとも有用だが,確定診断のみでなく閉鎖術を考慮した場合に施行される.また,MRIによって短絡量を定量化し,手術後の影響との関連を示唆する報告もあり471),MRIやCTも治療方針決定の助けになり得る.
体肺側副動脈のカテーテル治療では,さまざまなデバイスが使用されてきたが,現在はコイルとAVPがおもに使用されている425, 430-432, 444, 454, 466, 472-488).体肺側副動脈は複数の動脈系からの血流供給で成立している場合が多い.そのため,大動脈側の近位部のみを閉塞した場合,時間経過とともに末梢が交通している別の側副血管からの血流供給によって側副血管が発達し,対象血管へのアプローチを困難にする場合があることは念頭に置いておかなければならない.最大の効果が得られるように最適なデバイス選択をしたうえで,最適な位置に閉鎖デバイスを留置するように心がけるべきである.
体肺側副動脈のカテーテル閉鎖術による合併症のなかでも注意すべきものは,重要な動脈系へのデバイスの脱落およびそれによる梗塞である.総頚動脈や鎖骨下動脈のような大動脈分枝血管から起始している体肺側副動脈の塞栓術の際,脳動脈にコイルが移動すれば,脳梗塞をきたす可能性がある.また,臓器への栄養血管などにコイルが迷入すれば該当臓器の梗塞が発生する可能性がある.このように,適切なデバイス選択と留置が必要である.また,対象血管が細いためカテーテル操作による血管損傷を起因とする造影剤血管外漏出も起こり得る.
2.4 静脈‒静脈短絡(表50)
静脈–静脈短絡はGlenn手術後やFontan手術後症例に認められ,高圧の静脈系から低圧の静脈系への短絡を意味する.とくに高圧の体静脈系から低圧の肺静脈(左心房)系への大きな右左短絡は明らかなチアノーゼを引き起こす.静脈–静脈短絡が発達する予測因子は,高い肺動静脈圧較差と高い体静脈圧とされている435-437, 489-491).Fontan術
2.3.1 診断
2.3.2 治療
2.3.3 合併症前には閉塞していて認めなかった無名静脈から左房への静
脈が,Fontan術後には開通して,右左短絡を引き起こすことがある.そのほか,頚部静脈から肺静脈系への短絡,肝静脈系から左房への短絡などが発生しうる.
Fontan術後の体静脈から肺静脈または左房への短絡には,可能であれば経カテーテル塞栓術を行う.上半身の体静脈から横隔膜より下位への短絡はGlenn手術前であれば経カテーテル塞栓術を行う.Fontan手術が予定されている場合,横隔膜より下位の体静脈への短絡は塞栓術を行う必要はない.Fontan術後には心臓より下位への体静脈への短絡は静脈系に還流するようになるため,問題とならないからである.
大きい短絡を塞栓する場合には,バルーン閉塞テストを実施してチアノーゼの改善を確認するとともに,体静脈圧上昇や心拍出量低下などが許容範囲にあるかどうか確認したほうがよい.・リスクと合併症
合併症としてはほかの塞栓術の手技と同様に,遺残短絡やコイル脱落があげられる.ほかに注意すべき点として,遠隔期に短絡再開通が起こる場合がある.
表50 静脈‒ 静脈短絡に対する経カテーテル塞栓術に関す
る推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
静脈– 静脈短絡は,高度チアノーゼや塞栓症のリスクがある患者の場合,経カテーテル塞栓術を行う. I C Glenn 手術後に横隔膜より下位への静脈– 静脈短絡が発達し,高度チアノーゼを引き起こしている患者の場合,ただちにFontan 手術を行うのでなければ経カテーテル塞栓術を行うI C Fontan 手術前のカテーテル検査で体静脈– 肺静脈短絡がみつかった患者の場合,重篤なチアノーゼを引き起こしていなくても,経カテーテル塞栓術を考慮する. IIa C横隔膜より下位への体静脈– 肺静脈短絡を有するGlenn 手術前の患者の場合,経カテーテル塞栓術を考慮してもよい. IIb B Fontan手術が予定されている患者の場合,横隔膜より下位での短絡は症状が軽度であれば塞栓術は推奨されない. III No benefit C
p.60
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
2.5 体肺短絡術後血管(表51)
BTSなどの体動脈–肺動脈短絡術は,心内修復術後で短絡に依存せずに肺血流量が十分確保できるようになると不要になる.必要なくなった短絡が残存していれば過度に肺血流量を増やすなどの悪影響を及ぼす可能性があるため,根治術を行う時などに同時に閉鎖を考慮するのが一般的である.ただし,外科的な短絡閉鎖術の合併症リスクには,横隔神経麻痺,反回神経麻痺や胸管損傷などがあげられる.カテーテル治療の進歩に伴い,体肺短絡血管に対する経カテーテル的閉塞術の有効性と安全性が示されるようになってきた139).
経カテーテル的閉鎖術にはコイルやAVP等,さまざまなデバイスが使用されているが,より細径のカテーテルやシースが好まれるため,BTSに対する閉鎖術にはMReye Flipper, Detachable Embolizationコイル(Cook Medical Inc.など)などのコイルがおもに使用されている8, 438, 439, 492-495).BTSに対する経カテーテル的閉鎖術の際に動脈側と静脈側でワイヤでのAVループを作成することにより,ガイディングカテーテルの目的部位への到達や,デバイス留置が容易になる場合もある.BTS(とりわけ短絡内に狭窄がないもの)に対するカテーテル的閉鎖術では,デバイスの脱落による塞栓症のリスクを少なくする方法として,“controlled release”デバイスの使用,短絡吻合部の肺動脈側へのステント留置,短絡の遠位側を一時的にバルーン閉鎖してフローコントロールを行うなどの方法8, 492)が考慮される. BTS以外の体肺短絡術に関して諸外国から,Potts短絡
に対してはカバードステントやAMVSDO 496, 497)の使用が,またWaterston短絡に対してはAmplatzer Septal Occluder (ASO)など8)の使用が報告されている.・リスクと合併症
経カテーテル的BTS閉塞術の合併症として,コイルまたはデバイスの脱落による塞栓症498)があるが,前述したシャント吻合部肺動脈側へのステント留置や,バルーン閉鎖によってフローコントロールを行う439, 492-495)ことにより,塞栓症のリスクを軽減することが可能である.
経カテーテル的BTS閉塞術では,切り離されていないGORE-TEX tubeが残存しているため,患児の成長に伴い肺動脈が上方に引っ張られる“tenting”を引き起こす可能性があり,この潜在的な合併症に関して長期的なフォローアップが必要と考えられる.
2.6 冠動静脈瘻(表52)
冠動脈瘻は冠動脈と心腔または血管のあいだに毛細血管相を介さない交通を有する病態で,先天性のものが多いが,術後に発生するものもまれでない499).左右いずれの冠動脈からも発生するが,右冠動脈から発生するものが最多で,左前下行枝が続く500, 501).還流部位は右心系が90%を占め,右室,肺動脈,右房の順に多く,左心系では左房が多い502-504).還流部が複数みられることもある.まれに巨大な瘻による容量負荷により新生児期に心不全に陥る例があるが,多くは明らかな症状がなくカラードプラエコーにより偶然発見されることも多い505).
適応は明らかではない.冠動脈瘻の病態には,1有意な短絡によるうっ血性心不全,2冠血流盗血現象による狭心症,3感染性心内膜炎,4瘤化した瘻の破裂,5瘻内血栓形成,がある506, 507).無症状でも有意な短絡量(Qp/Qs
2.6.1 小児のカテーテル治療の適応 表51 体肺短絡術後血管に対する経カテーテル的閉塞術に
関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
純型肺動脈閉鎖症や重症肺動脈弁狭窄症の短絡術後で,体動脈– 肺動脈短絡に依存せずに十分な酸素化が得られる患者に対し,経カテーテル的閉塞術を行う. I C先天性心疾患の心内修復術後に,BTS から相当量の遺残短絡を認めた場合,経カテーテル的塞栓術を行う. I C外科的に短絡閉塞が困難または手術時のリスクを増加させると考えられる場合には,短絡閉鎖試験で重篤な低酸素血症がなければ,手術直前に経カテーテル的塞栓術を考慮する. IIa C短絡閉鎖試験で許容できない低酸素血症を引き起こした場合は,修復術前に経カテーテル的塞栓術を行うべきではない. III Harm C表52 冠動脈瘻に対するカテーテル治療施行に関する推奨
とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
先天性心疾患・構造的心疾患に対する専門知識があり,トレーニングを受けた医師が経カテーテル的閉鎖術を行う. I C経カテーテル的閉鎖に際しては,冠動脈瘻の経路と正常冠動脈側枝の完全な描出を行う. I C
p.61
≧1.3)を有していれば閉鎖適応とする向きもあるが508),自然縮小(うち13%は完全閉鎖)する例も存在し506),体格が大きくなれば治療の合併症も少なくなるため,無症状であれば適切な年齢・体格まで待機することを考える509).一方で,内膜肥厚による狭窄により心筋梗塞のリスクがあるため,3~5歳以上で顕著な瘻を有する場合は閉鎖を考慮すべきとの意見もある510).また,心不全症状がコントロールできない場合は出生後早期でも治療を考慮する511).感染性心内膜炎は全年齢を通じて起こり,頻度は3~4%と考えられるが,瘻の大きいすべての例で発生しており512),小さい瘻を予防的に閉鎖する適応はない.小児期には狭心症,瘤化した瘻の破裂,瘻内血栓形成はまれである506).
無症状でも中等度以上の瘻であれば閉鎖の適応と考えられる.瘻の大きさに関する明確な規定はないが,1軽度:瘻孔より中枢の冠動脈径が正常の冠動脈径の2倍未満の拡大,2中等度: 2倍以上3倍未満の拡大,3高度: 3倍以上の拡大,とする意見がある510).また,加齢とともに拡大する傾向にあり有症状となる頻度は増える.瘤化した瘻の破裂はおもに50歳以上の症例にみられ506),瘻内血栓形成も成人に多く急性心筋梗塞,発作性心房細動,心室性不整脈の原因となる513).冠血流盗血現象に起因する心筋虚血は狭心症を生じることもあるが,無症状の場合でも運動負荷心電図,負荷心筋シンチグラフィーで捉えることができる507, 514, 515).
多くの冠動脈瘻は,経カテーテル的にコイルや閉鎖栓により閉じることが可能である440, 509, 516, 517).外科手術に比して侵襲が少なく,手技中に還流部位やその大きさ,流入血管を明確に把握できるため,第一選択の治療法である516).カテーテル治療を第一選択とする条件としては,1瘻孔まで安全にカテーテルが挿入可能,2有意な正常側枝を閉塞することなく塞栓が可能,3塞栓部位に狭窄を有する, 4塞栓子のlanding zoneから冠動脈口および瘻孔まで距離がある,5瘻孔が複数あっても塞栓の妨げにならない, 6ほかに修復を要する心内病変がない,などがあげられる440, 507, 517).また,複数の供給血管,複数の瘻孔,叢状のネットワークなど複雑な解剖を有する場合には,術前の三次元CTが治療を計画するうえで有用である518).
塞栓子としては,コイル,AVP,ADOなどが用いられる.塞栓部径が5 mm未満の場合にはコイル,5 mm以上の場合にはコイル以外のデバイスが考慮されるが517, 519),わが国ではAVPの心臓血管への適用がないため,コイル,
2.6.2 成人のカテーテル治療の適応
2.6.3 治療方法(表53)マイクロコイルが汎用される.コイルの場合,塞栓部径の
1.3~1.5倍,少なくとも瘻孔の1.3倍のコイルを選択する509, 517).瘻孔が大きいほど血流が多く,通常の造影では正常側枝が認識されにくくなる.このためバルーンカテーテルを瘻孔まで進めバルーンを膨らませ,瘻孔を閉鎖して造影すると,末梢の正常冠動脈側枝が明らかになる.また5 ~10分間試験閉塞することで心筋虚血が起こらないか,すなわち閉塞部位が適切か否かの判断に役立つ509, 520).通常のコイルをデリバリーできるカテーテルを塞栓部まで挿入するのが困難な場合,とくに屈曲の強い病変ではマイクロカテーテルで到達可能なことが多く,マイクロコイルでの閉鎖を試みる.血流量が多くコイルが流される恐れのある場合には,手前の冠動脈をバルーンで一時的に閉塞することで血流を遮断し,そのあいだにコイルを留置する509).ただし大きな瘻孔に対してはマイクロコイルでは留置後も脱落のリスクが大きい.この場合,ワイヤを動脈側から冠動脈瘻を通過し右心系まで挿入してスネアし,AV loopを作り,これをガイドに静脈側から十分な太さのカテーテルまたはシースを瘻まで進め,より大きく強固な塞栓子での閉塞を行う507, 520).盲端を残すと内部で血栓が形成され心筋梗塞のリスクとなり得るため,最末梢の正常冠動脈側枝が出た直後の瘻まで完全に閉塞することが理想的である520).成人ではcovered stentの使用も可能であり,とくに瘻孔部に近接して動脈硬化性病変を合併している場合に有用とされている521).
表53 冠動脈瘻に対するカテーテル治療方法に関する推奨
とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
有症状例に対し,カテーテル治療を行う. I B無症状であるが大きな冠動脈瘻を有する例に対し,カテーテル治療を行う. I C無症状であるが中等度以上の冠動脈瘻を有する例に対し,カテーテル治療を考慮する. IIa C無症状であるが負荷試験で心電図,心筋シンチに心筋虚血の所見が出現する例に対し,カテーテル治療を考慮する. IIa C閉鎖後,6~12ヵ月間のワルファリン内服している例に対し,カテーテル治療を考慮する. IIa C無症状で,臨床的に有意な所見のない例に対し,カテーテル治療を行うべきではない. III Harm C
p.62
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
カテーテル塞栓後の抗血小板薬や抗凝固薬の投与の適応は不明であるが,閉塞後にはそれまで高血流であった血流が減少し,拡大している冠動脈内の血流速度が低下するために血栓が生じやすくなることが指摘されている522, 523).このため,手技中からヘパリン持続投与を行う.術後はすみやかにワルファリンを導入し,PT-INR 2.0~3.0の管理を6~12ヵ月続け,冠動脈造影などで冠動脈のリモデリング,すなわち径が正常に近づいたことを確認できれば中止するという意見がある517, 524).
2.7 肺動静脈瘻(表54)
肺動静脈瘻は肺内の動静脈間に正常な肺毛細血管を経ない交通を有し,肺内右左短絡を生じる疾患である.瘤状の嚢に1本の流入,流出血管を有する単純なものが約80~ 90%を占め,叢状の塊を形成し,複数の流入,流出血管を有するものが5~10%,全肺野にわたって小さな瘻がびまん性に多発するものが5%,まれに肺動脈の枝が左心房に連絡するものがみられる525, 526).無症状のものが多いため,有病率はこれまでに考えられていたより高く2,630例中1例と報告されている527).びまん性多発性を除くと胸膜近くの肺底部に多い528).このため息切れや低酸素血症は立位になった時に出現しやすい(orthodeoxia).脳梗塞,脳膿瘍など奇異性塞栓が疑われる症例は2.5~25%といわれてきたが529),脳画像診断を行うと約50%の症例で皮質または皮質下に梗塞の所見が認められている530).奇異性塞栓は多発性で太い流入動脈を有するもの,すなわち瘻の総表面積が大きいもので多く531),流入血管径が3 mmを超えると有意に高リスクとなる530).また瘻の破裂による喀血,血胸,空気塞栓を発症する例もあり,空気塞栓も中枢神経症状の原因となり得る532).肺高血圧は,血管抵抗による高肺血
流に対する防御反応である一方で,瘻の拡大,破裂のリスクを上昇させる533).
先天性が圧倒的に多いが,胸部手術,外傷,肝硬変に伴う肝肺症候群,グレン手術やフォンタン手術後など後天性のものも知られている534, 535).70~90%は遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia: HHT)に合併する530, 536).半数近くの症例は無症状で,とくに小児期に有症状となることはまれである528).症状の出現には病変部の数より大きさのほうが関連する528).
無症状例では胸部単純X線写真で偶然発見されることが多い.動脈血酸素飽和度の低下,とくにorthodeoxiaがある場合,奇異性塞栓を発症した場合には本症を鑑別診断にあげる必要がある537).右左短絡の証明にはコントラストエコーの感度が95~100%と高く537),左房へのコントラスト流入が,右房への出現直後ではなく,4心拍以降にみられた場合には肺内シャントが示唆される538).コントラストエコーが陽性であれば造影CTを行うことで診断に至るが,画像上明らかなものが認められなかった場合は微細肺動静脈瘻を疑う537).
HHTは,1鼻出血,2毛細管拡張,3内臓の動静脈瘻, 4家族歴のうち3個以上を有することで診断される難治性希少疾患である539).単発性の約40%,多発性・びまん性の約60~90%がHHTと診断される540).一方でHHTに肺動静脈奇形(PAVMs)を発症するのは15~50%といわれる541).同じ遺伝子変異でも表現型が異なり,一家系内に無症状の例から重症肺病変を有する例までが混在することがある.したがって肺動静脈瘻の患者を診察する際には診断基準について詳しく診察,問診することが重要である. HHT患者の80%に,endoglin遺伝子かアクチビン様受容体キナーゼ(activin-like receptor kinase: ALK1)遺伝子の変異が認められる539).
低酸素血症や息切れ,脳膿瘍,脳梗塞などの臨床症状,あるいは肺,胸膜への出血の既往を有する症例ではすみやかに治療を行う.無症状の場合,以前のガイドラインでは>3 mmが治療適応とされていたが,デバイスの進歩により安全にカテーテル治療が可能になったことを受け,現在ではCTで認識される大きさ(2 mm以上)の肺動静脈瘻は治療適応と考えられている539, 542).治療方法は経カテーテ
2.7.1 診断
2.7.2 HHT
2.7.3 治療適応
表54 肺動静脈瘻に対するカテーテル塞栓術に関する推奨
とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
有症状である肺動静脈瘻に対し,カテーテル塞栓術を行う. I Cカテーテル塞栓術後6ヵ月およびその後3 ~5 年ごとの造影CT によるフォローアップを行う. I C無症状だがCT で2 mm 以上の径を有する肺動静脈瘻を1 個以上もつ成人に対し,カテーテル塞栓術を考慮する. II C無症状の小児例に対し,カテーテル塞栓術は行うべきではない. III Harm C
p.63
ル的塞栓術が第一選択であり,外科的切除術の適応は血胸発症例,肺動脈枝と肺静脈または左房直接交通の例,一葉内に限局した多発例に限られる539, 543, 544).
マルチスライス造影CTは病変部の描出にもっとも有用な検査で,流入動脈と流出静脈の同定,流入動脈径と動静脈瘻径の正確な計測に役立つ.3D再構成により病変部位を立体的に把握し,塞栓術に有用な血管造影の角度を決定する.これらの情報はとくに病変が複数存在する場合に有用かつ必須である542).造影MRIは血管造影に比して, 2 mm程度の小病変の描出にも優れており,CTと同様に病変部の把握に有用である545).
手技中の塞栓症(空気塞栓を含む)を予防するために十分なヘパリン化を行い,システムは閉鎖式もしくはダブルフラッシュ法を用いる542).病変部上流で肺動脈造影を行うが,このとき吸気で息止めをすることにより,肺底部近くの病変の重なりがなくなり,より明確に認識できる.また経路がよりストレートに近くなるため,とくに屈曲の強い流入血管ではカテーテルを病変部へ到達させやすくなる542).肺動脈は分枝が多く,瘻がどの枝から派生しているかを立体的に把握しなければ到達が難しいため2方向以上の造影画像を用いて枝を同定する.続いてexchange wireを病変部近傍まで到達させ,これをガイドに,ガイディングシース内にangledカテーテルを挿入したものを進めていく542).正常な還流を障害しないために,またほかの血管流入による再発を防ぐために,流入血管の瘻に可能な限り近い部分を閉塞することが望ましい542, 546). a. 塞栓材料
肺動静脈瘻の塞栓術にはコイルまたはVascular Plugが用いられる. i. コイル
瘤内もしくは末梢へのコイルの逸脱を防ぐために,firstコイルは位置修正が可能なデタッチャブルタイプを用い,これをアンカーとして流入動脈に留置する.流入動脈径に対し120~130%径のものを選択する.完全閉塞を得るためにfiberedコイルやpackingコイルを追加留置する.流入動脈径が太く,血流量が多く,コイルの安定性が不良な場合は,デリバリーカテーテルとは別にバルーンカテーテルを留置部位上流の肺動脈枝に留置する.さらに,これを膨らませて一時的に血流を遮断または減少させ,そのあいだにコイルを留置する547).
流入血管が複数の場合もあるため,塞栓後はより中枢側
2.7.4 術前評価
2.7.5 塞栓術の実際から造影してほかの流入血管が残存していないかどうかを
確認する542).再発はコイルの不十分な充填(packing不良,使用コイル数の不足)によるものが多いが,この場合すでに留置しているコイル内にガイドワイヤを通過させるのは困難であるためカテーテルの到達が難しく,加えて残存しているlanding zoneが短いため追加の塞栓術は煩雑で難しくなる546).したがって初回の治療時にコイルを十分に充填することが重要となる. ii. Vascular Plug
Vascular Plugは太い流入動脈でも逸脱が少なく,かつ塞栓性が高いため,太い肺動静脈瘻にとくに有用である546).塞栓術後は再発の有無を確認するために定期的な造影CTが必要であるが,コイルに比較しアーチファクトが少ないというメリットがある548).また,コイルが多数の留置を必要とするのに対し,Vascular Plugは1個でも閉塞可能なため,手技時間が短く,1セッションで多数の病変を治療することも可能である547, 549).近年,よりlow profileのものが市販され,細い屈曲した血管へのアプローチが容易になったことから,Vascular Plugの有用性が高い548).もっとも広く使用されているのは,Amplatzer Vascular Plug(AVP)で,AVP,AVP II,AVP 4 の3種類が肺動静脈瘻の閉鎖に用いられる.逸脱を防ぐためには流入動脈径の130~150%径のデバイスを選択する必要がある547, 548, 549).AVP 4はlow profileであり,屈曲や細径のため,太いガイディングシースの挿入が困難な血管に有用である.しかし,サイズ展開がφ4~8 mmのため,6 mm以上の流入血管には不適である549).AVPは4~16 mm, AVP IIは3~22 mmのサイズ展開があるため,より太い流入血管の閉鎖に適する.
AVP IIは血流に対し6枚のニチノールメッシュ面を有するため,AVPより塞栓効果が高い.しかし,AVPに比して長いlanding zoneを必要とするため,landing zoneが短い場合はAVPを選択する543).再疎通のリスクを低減するには留置したVascular Plugの近位側にコイルを追加することが有用だとする意見もある550).
再疎通率,症状の改善とも,Vascular Plugのほうが良好であり,第一選択はVascular Plugである.血管の蛇行,屈曲,径などの要因でVascular Plugの挿入が不可能な場合に,コイルを選択する543).
新たな瘻の発生や既知の瘻の拡大もみられることから,治療例,無治療例に関わらず生涯に渡るフォローアップが不可欠である537, 552).HHTの患者では,肺動静脈瘻に限らず他臓器にも症状を呈するため,多科にわたって全身的な
2.7.6 フォローアップ
p.64
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
フォローアップ・管理を要する546).無治療例,すなわち無症状の小瘻(<3 mm)例での拡大は少ないが,5年ごとのCTが勧められている551).塞栓術後後には,不完全な塞栓・再疎通,または未治療の瘻の増大傾向有無を確認するため,術後6ヵ月およびその後3~5年ごとに造影CTでフォローすることが推奨されている537, 539).動静脈瘻の再開通や増大がみられたときは,再度塞栓術を行う.
一過性の胸膜痛が3~31%ともっとも多い.これに対しては出血リスクを下げる観点からNSAIDsよりアセトアミノフェンのほうが好ましい542).空気塞栓による狭心症,徐脈,神経症状が5%以下でみられる539).ほかの塞栓術と同様に,塞栓子の脱落,迷入には注意を要する.
脳梗塞のうち,卵円孔開存(PFO)等の右左シャントを介して静脈系の血栓が動脈系へ流入して発症したと考えられるものを,奇異性脳塞栓症という.これまで,奇異性脳塞栓症の再発予防については,明確な有効性を示す治療法が確立しておらず,一般的にアスピリンが用いられてきた.
2017年に,3つのランダム化比較試験において,PFOを有する原因不明の脳梗塞の再発予防における経皮的PFO閉鎖術の有効性と安全性が示された553-555).対象症例は,充分な原因検索を行ったうえでも原因が特定できない脳梗塞例であり,PFOがその発症に関与したと考えられる症例である.本治療の再発予防効果はアスピリンをはじめとする抗血小板療法に対して示されたものであり,抗凝固療法との比較では有効性は確立していない.したがって,個々の症例において脳梗塞発症機序を十分に評価し,PFO以外の原因とともに静脈血栓の有無を確認したうえで,慎重に適応を決定しなければならない.表55 556)に脳梗塞の再発予防を目的とした経皮的PFO閉鎖術を検討するうえで必須となる検査を示す.
a. 潜因性脳梗塞
潜因性脳梗塞(cryptogenic stroke)とは,脳動脈硬化や
2.7.7 合併症
3 脳梗塞の予防
3.1 卵円孔開存
3.1.1 潜因性脳梗塞とPFO心疾患に起因する塞栓症など既知の機序(表56) 556)では
説明がつかず,さらなる原因検索を進めたあとにも発症機序が明らかではない,あるいは原因が特定できない脳梗塞である. b. PFOと潜因性脳梗塞
PFOは健常者の約25%に認めるが,潜因性脳梗塞の患者では約50%に併存するといわれている.これまでの報告では,PFOを含む右左シャント疾患と静脈血栓をともに認める奇異性脳塞栓症の確診例は,急性期脳梗塞の5%に過ぎず557),PFOを有する潜因性脳梗塞例の多くは奇異性脳塞栓症と確診できていない.その原因として,PFOの診断精度が一定でないことや,静脈血栓の検索が困難なことがあげられる.表57 556)にPFOの関与があり得る潜因性脳梗塞の診断基準を示す. c. 潜因性脳梗塞に対するPFO閉鎖術のエビデンス
当初,PFOを有する潜因性脳梗塞を対象とし,カテーテルによる本治療の有効性を検討したランダム化比較試験では558-560),各試験で設定したエンドポイントにおいて本治療の有効性を示すことはできなかった.長期の経過観察調査が継続して行われたことにより本治療の有効性が示唆され,再度注目を集めることとなった.2017年に3つのランダム化臨床試験の結果が公表された553-555).これらの検討をもとに,国内では2019年末に潜因性脳梗塞再発予防を
表55 脳梗塞再発予防を目的とした経皮的PFO 閉鎖術を
検討する際に必要な検査法1.必須・頭部MRI(MRI撮像禁忌・困難例では頭部CT)・12誘導心電図・ホルター心電図等による24時間以上の心電図モニター・経胸壁心エコー図・経食道心エコー図・梗塞巣に関連する頚部動脈の画像検査(カテーテル血管造影, MRA,CTA,頚部超音波検査のいずれか)・梗塞巣に関連する頭蓋内動脈の画像検査(カテーテル血管造影, MRA,CTAのいずれか) (これらが行えない場合は,経頭蓋超音波ドプラ法)・脳梗塞を起こしうる特殊な原因(血管炎,血栓性素因,悪性腫
瘍等)検索のための各種検査2.推奨・静脈血栓塞栓症(肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症)に関する画像検査(造影体部下肢CT,または下肢静脈超音波検査のいずれか)・右左シャント検出のための,経頭蓋超音波ドプラ法または経胸壁心エコー図を用いたマイクロバブルテスト・大動脈CTAまたはMRA・(60歳より高齢の場合)1週間以上の長期間心電図モニター,ま
たは植込み型心電図記録計による観察(日本心血管インターベンション治療学会, ほか. 2019556)より)
p.65
潜因性脳梗塞患者に対しPFOの検出を行う場合,経胸壁心エコー図,経頭蓋超音波ドプラ法,経食道心エコー図によるコントラストエコー評価が重要である.心房中隔瘤を伴い安静時からカラードプラ法でシャントが確認されるような大きなPFOの診断は比較的容易である.しかし,多くのPFOによるシャントは安静時に認めることはまれであり,十分なバルサルバ負荷をかけて検査する必要がある.通常左房圧は右房圧よりも数mmHg高いが,バルサルバ負荷中~解除時あるいは咳をすることにより,一時的に右房圧が左房圧よりも高くなり,右左シャントが検出しやすくなる.経食道心エコー図の際に鎮静を用いると,バルサルバ負荷が不十分となり,PFOを検出できない可能性がある.とくに咽頭反射の強い若年者に対して深い鎮静をかけた経食道心エコー図では注意を要する.
一般的に,右左シャントを検出するうえで,経頭蓋超音波ドプラ法がもっとも感度が高いといわれているが,シャント部位の特定はできない.コントラストを用いた経胸壁心エコー図は,外来で簡便に実施可能であり,十分なバルサルバ負荷を行えばスクリーニングに有用である561).経食道心エコー図はPFOの形態診断も可能であるが,鎮静下の検査ではバルサルバ負荷が不十分なことがあり,右左シャントの検出力が低下する恐れがある.そのため,鎮静
3.1.3 PFOの検出と評価
表56 脳梗塞の高リスク塞栓源となる心疾患・左房内血栓・左室内血栓・心房細動・発作性心房細動・洞不全症候群・持続性心房粗動・1ヵ月以内の心筋梗塞・リウマチ性僧帽弁・大動脈弁疾患・機械弁・28%未満の低駆出率を伴う陳旧性心筋梗塞・30%未満の低駆出率を伴う鬱血性心不全・拡張型心筋症・非感染性血栓性心内膜炎・感染性心内膜炎・乳頭状線維弾性腫・左房粘液腫(日本心血管インターベンション治療学会, ほか. 2019556)より)
目的とする経皮的PFO閉鎖術が保険承認された.
脳梗塞再発予防を目的とした経皮的PFO閉鎖術の適応基準を表58 556)に示す.PFOの関与があり得る潜因性脳梗塞の診断基準(表57)に合致することが必須条件である.本閉鎖術は,脳梗塞を発症した症例での再発予防を目的として施行されるもので,一次予防には科学的根拠がないので勧められない.
なお,60歳より高齢の症例における経皮的PFO閉鎖術の有効性・安全性は確立していない.60歳より高齢の症例において本治療の施行を検討する場合は,1週間以上の長期間心電図モニターや植込み型心電図記録計による観察を行い,潜在性心房細動が検出されないことを十分に確認し,本治療の有用性があるかを慎重に検討する必要がある.
3.1.2 潜因性脳梗塞患者に対する経皮的PFO閉鎖術の 適応基準
表57 PFO の関与があり得る潜因性脳梗塞の診断基準
1.卵円孔開存を有し,塞栓性機序が考えられる. 2.単一穿通枝領域脳梗塞(ラクナ梗塞など)でないことのMRI(またはCT)での同定. 3.梗塞巣に関連する頚部動脈または脳動脈の閉塞ないし50%以上の狭窄が存在しない. 4.高リスク塞栓源心疾患が存在しない(表56参照). 5.大動脈原性脳塞栓症の確診例ではない. 6.脳梗塞を起こしうる特殊な原因(血管炎,動脈解離,可逆性脳血管攣縮症候群,薬剤不正使用,血栓性素因,悪性腫瘍など)が存在しない. (日本心血管インターベンション治療学会, ほか. 2019556)より)表58 脳梗塞再発予防を目的とした経皮的PFO 閉鎖術の
適応基準1.必須条件:下記の条件をすべて満たす場合に本治療の施行が検討される・卵円孔開存の関与があり得る潜因性脳梗塞の診断基準に合致した患者.・閉鎖術施行後一定期間の抗血栓療法施行が可能と判断される患者.・原則として,60歳未満の患者.・(女性の場合)妊娠していない,かつ1年以内の妊娠を希望しな
い患者. 2.推奨基準:上記を満たし,かつ下記のいずれかの条件に当てはまる場合には本治療の施行が推奨される・下記のような機能的,解剖学的に高リスクの卵円孔開存を有する場合. 1シャント量が多い. 2心房中隔瘤(atrial septal aneurysm: ASA)の合併. 3下大静脈弁(Eustachian valve: EV)の合併. 4キアリ網(Chiari network)の合併. 5安静時(非バルサルバ負荷下)右左シャントを有する. 6長いトンネルを有する卵円孔開存.・適切に施行された抗血栓療法中に上記潜因性脳梗塞を発症した
場合. (日本心血管インターベンション治療学会, ほか. 2019556)より)
p.66
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
る症例が高リスクPFOというスコアシステムの報告もある562).
現在,国内で使用可能な機器は,AMPLATZER PFO Occluderのみである.これはASDの閉鎖栓と同様に,形状記憶合金のワイヤを編み込んだ自己展開式であり,左心房側と右心房側の2枚のディスクで構成される.左心房側ディスクは18~30 mm,右心房側ディスクは18~35 mmであり, PFO部に合わせてサイズを選択する.PFO Occluderは,8 ~9 Frのデリバリーカテーテルを用いて大腿静脈より経皮的に挿入し,PFOを通過させて左心房側と右心房側でそれぞれのディスクを展開することにより閉鎖する.
以下に該当する患者に対する経皮的PFO閉鎖術は禁忌である.
1心臓内に腫瘤・疣贅または腫瘍が認められる患者. 2留置部位およびアクセス経路に血栓を認める患者. 3心臓内または血管内の構造が,デバイス留置の操作に
適さない形状やサイズの患者. 4術前に活動性心内膜炎を発症した患者,感染症が完
治していない患者. 5抗血栓療法が実施できない患者. 6既知の凝固促進状態がある患者. 7ニッケルアレルギーがある患者.
RESPECT研究では,本治療を行った499例中,手技関連の重篤な有害事象が12例(2.4%),デバイス関連の重篤な有害事象が13例(2.6%)にみられた553, 560).
手技関連の有害事象は次のとおりであった.薬剤アレル
3.1.6 経皮的PFO閉鎖機器
3.1.7 禁忌
3.1.8 有害事象
経頭蓋超音波ドプラ法(バルサルバ負荷,マイクロバブルテスト)経胸壁心エコー図(バルサルバ負荷,マイクロバブルテスト)または
陰性または判断できない
経食道心エコー図(バルサルバ負荷,マイクロバブルテスト)
陽性陽性
を行わずに,十分な咽頭麻酔のみで実施する場合がある. PFOの診断アルゴリズムを図9 556)に示す.
経胸壁心エコー図は右左シャントの検出力が低いといわれている.しかし,コントラスト剤注入法や十分なバルサルバ負荷を行うことで,検出力が向上する.バルサルバ負荷時に,右上腹部を用手的に圧迫することにより,確実なバルサルバ負荷をかけることができる.コントラスト剤は,一気に右心系全体が均一に染まる十分な量を注入することが重要である.バルサルバ負荷時,あるいはバルサルバ負荷を解除した直後に左心系で確認されるマイクロバブル数でシャント量を判定する(図10) 556).バルサルバ負荷解除後3心拍以内に左心系にマイクロバブルが確認される場合, PFOの可能性が高い.
経食道心エコー図では,卵円孔の形態(PFO高,トンネル長,中隔振幅幅)を評価することが重要である(図11)
561).
トンネル長が10 mm以上の場合,ロングトンネルと評価する.また,中隔振幅幅(septal excursion distance: SED)が,左房側または右房側に10 mm以上もしくは両心房側に合計15 mm以上ある場合,心房中隔瘤と診断する49).これまでの研究で,1短絡量の大きな例,2心房中隔瘤合併は脳梗塞を発症しやすい高リスクPFOと考えられている.さらに卵円孔形態的評価を組み合わせ,1long-tunnel PFO(≧10 mm),2振幅の大きな心房中隔(hypermobile PFO),3右房内のeustachian valveやChiari’s networkの存在,4短絡量の大きなPFO,5下大静脈(IVC)とPFOトンネルのなす角度が浅く(≦10°C),IVCの血流が直接PFOトンネルに流入する例,の5項目中2項目以上を有す
3.1.4 経胸壁心エコー図によるマイクロバブルテストの 施行と判定方法
3.1.5 PFOの形態
図9 PFO の診断アルゴリズム(日本心血管インターベンション治療学会, ほか. 2019556)より)
p.67
ギー(1例),心房細動(1例),心臓穿孔(1例),心内血栓(1例),下肢静脈血栓症(1例),心嚢水貯留(1例),心タンポナーデ(2例),血管穿孔(1例),穿刺部血腫(2例),迷走神経反射(1例).
デバイス関連の有害事象は次のとおりであった.心房細動(1例),心房粗動(1例),心内血栓(1例),胸部圧迫感(1例),感染性心内膜炎(1例),虚血性脳卒中(2例),肺塞栓症(2例),再治療を必要とする残存シャント(2例),敗血症(1例),一過性の心室細動(1例).
a. 術前に抗血小板療法を施行されている場合
抗血小板薬1剤投与中であれば,本治療施行の周術期は抗血小板薬2剤併用療法(たとえばアスピリン+クロピドグレル)に変更する.抗血小板薬2剤投与中であればそれを継続し,本治療施行後最低1ヵ月間は2剤を継続する.それ以降は,抗血小板薬1剤(アスピリン等)に減量する. b. 術前に抗凝固療法を施行されている場合
抗凝固療法のみを継続している症例で,本治療の施行が可能かどうかを判断できる科学的根拠は,現時点では示されていない.しかしながら,わが国においてASDに対
3.1.9 周術期管理する経皮的閉鎖術が施行される場合,抗凝固療法をそのま
ま継続するか,あるいはさらに1剤の抗血小板薬を追加して行われているのが実状である.この実状を鑑み,抗凝固療法が施行されている症例で本治療を施行する場合,各施設の方針や施行医の判断のもと,抗凝固療法のみを継続するか,あるいは抗凝固療法に加え抗血小板薬1剤を1ヵ月程度併用して施行することを推奨する.術後1ヵ月以降は,個々の症例に応じて抗凝固療法あるいは抗血小板療法を継続する.
閉鎖機器留置後に抗血栓療法を中止することに対する安全性は確認されていないため,抗血栓療法を中止する必要がある場合は慎重に検討する必要がある.また,本治療施行後は,閉鎖機器による血栓形成の予防のために,一定期間の抗血栓療法を行う必要がある. a. 抗血栓療法の期間
REDUCE試験554),CLOSE試験555)では,本治療施行後の観察期間中(すなわち数年間)は抗血小板薬の投与が継続された.RESPECT研究553)では,本治療施行6ヵ月後の時点で各施設の判断により抗血小板薬の中止が可能となっているが,6ヵ月経過後も継続されている症例が多かった.したがって,本治療施行後の抗血小板療法の中止の可否についての科学的根拠はない.閉鎖機器による血栓形成の予防に関しては,わが国では,本治療施行がASDに対して施行された場合,抗血小板療法は6ヵ月程度継続の後,中止されることが多い.一方で,本閉鎖機器の対象となる潜因性脳梗塞の原因は,PFOのみとは限らない.したがって,現時点のエビデンスを鑑み,本治療の対象となる患者
3.1.10 術後長期管理
シャント量の判定は,左心系の確認されるマイクロバブル数により以下のように分類する.シャントなし:0個グレード1:1~5個グレード2: 6~19個グレード3:20個以上
グレード4: opacification(左心系全体が描出)
グレード1グレード2
グレード 3グレード 4
図10 PFO 診断のための経胸壁心エコー図でのマイクロバ
ブル数によるシャントの分類(日本心血管インターベンション治療学会, ほか. 2019556)より)図11 経食道心エコー図での卵円孔の形態評価
(日本心血管インターベンション治療学会, ほか. 2019556)より)
p.68
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
の脳梗塞二次予防の観点からは,抗血栓療法を長期継続することを考慮する必要がある. b. 抗凝固療法施行症例での抗血小板療法への変更
肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版) 563)に準じて,抗凝固療法の中止が可能となれば,抗血小板薬への変更を行うことを検討してもよい.ただし,大半の症例で抗血小板療法が実施されたRESPECT試験においては,本治療施行群で肺塞栓症を含めた静脈血栓塞栓イベント発症率が高かった.したがって,本治療の対象となる患者の静脈血栓塞栓イベント予防の観点からは,本治療施行後における抗凝固療法から抗血小板薬への変更は慎重に判断する必要がある. c. 臨床症状・徴候の観察
治療後に一過性の心房細動や頭痛が発生しうることが報告されているが,2017年に公表された3研究を含むメタ解析では,これらの合併症が有効性に影響を及ぼすことはなかった564-566).しかし,とくに60歳以上の患者における治療後の心房細動と脳梗塞の発生率はいまだ明らかではないため,慎重な経過観察を行う必要がある.
a. 実施医療機関
PFO閉鎖術では,十分な脳梗塞の原因検索を行うと同時に,安全に機器の留置を行う必要がある.したがって,本治療を実施する医療機関には,日本脳卒中学会専門医,日本循環器学会専門医,および日本心血管インターベンション治療学会の専門医または認定医が在籍していることが必須である.これらの医師から構成されるブレインハートチームにおいて情報を共有し,脳梗塞病型診断の確認,内科的治療(抗血栓療法)と閉鎖術(+抗血栓療法)との比較,治療の難易度,併存疾患の有無等を多角的に検討したうえで,患者および家族に有効性と安全性を説明し,治療法の決定を行う.患者は外来または入院中に,脳卒中専門医とカテーテル治療施行医の双方の診察を受けるべきである. b. ブレインハートチーム内での役割分担
ブレインハートチーム内での役割分担は以下のとおりである. 1脳卒中専門医は,脳梗塞の病型診断を行う.「PFOの
関与があり得る潜因性脳梗塞の診断基準」556)から,本治療の対象となり得る症例の選択を行う. 2循環器内科医は,PFOの診断,および解剖学的リスク
の評価を行う. 3カテーテル手技担当医は,当該症例のカテーテル治療
の難易度等の判断を行う.
3.1.11 治療実施体制施設基準と実施医基準を表59,表60に示す.
PFOは形態が多様であり,場合によってはASD閉鎖栓の選択が望ましい症例が存在する.とくに注意を要するPFO形態(大きな心房中隔瘤を有する症例,安静時より有意な左右短絡を認める症例など)に本治療を実施する場合には,日本心血管インターベンション治療学会が認定した指導医と緊密に連携をとり,治療計画を立てる必要がある.このため本治療を国内に導入するにあたっては,安全性担保のため一定期間(導入後1年)は手技がもっとも類似するASD閉鎖術を, 25例以上実施した医師が在籍する施設のみでの実施とする.この期間を用いて,実施数25例未満の医師や,これまで経皮的ASD閉鎖術の実施経験のない医師が在籍する施設は,「経皮的PFO閉鎖術研修プログラム」を受講し,本治療の目的・内容を理解する.
日本心血管インターベンション治療学会に設置される専門委員会は,本治療に関する安全性,有効性,新たな知見に関し調査を行い,その評価と情報公開を行う.また安全性に問題があると判断される施設,実施症例の登録を怠っている施設等に対して,該当施設の治療チームの再教育や閉鎖栓の供給停止等,本治療が適切に実施されるための対応を求めることができる.
施設認定の申請書類には,本治療研修プログラム受講修了者全員の氏名を明記することが必要である.
また,今後,関連学会などで本治療法施行に関連する適応基準や認定医制度が設けられた場合には,日本脳卒中学会,日本心血管インターベンション治療学会,日本循環器学会などの機関で構成される委員会で協議する.
虚血性脳卒中のうち,心原性脳塞栓症は予後が悪く,原因の多くを占める非弁膜症性心房細動(nonvalvular atrial fibrillation: NVAF)を有する患者の脳卒中の発症予防は注目されている.日本循環器学会/日本不整脈心電学会による2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン567),および日本脳卒中学会の「脳卒中治療ガイドライン2015(追補2019)」568)では,直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants: DOAC)もしくはワルファリンが推奨されているが,出血リスクが高く,抗凝固療法の長期継続が困難な患者も少なくない.
一方,NVAFにおける90%以上の血栓は,左心耳(left atrial appendage: LAA)で形成されるため,「抗凝固療法の
3.1.12 施設基準と実施医基準
3.1.13 留意事項
3.2 左心耳閉鎖
p.69
耳を除去する」という考えが,約20年前から提唱されていた569, 570).経皮的に左心耳を閉鎖する治療法として,わが国においては,2019年に薬事承認を得たWATCHMAN(Boston Scientific,Marlborough,MA,USA)左心耳閉鎖システムが最初のデバイスとなった.米国,欧州における心房細動治療ガイドラインでは,経皮的左心耳閉鎖術はクラスIIbの推奨度となっている571, 572).わが国では脳卒中の高リスク群でかつ長期の抗凝固療法継続が困難な心房細動患者の治療の選択肢として普及しつつある.
左心耳を外科的に除去するとその後の脳卒中発症が減るという報告から573),開心術の際に左心耳の切除や縫合閉鎖が広く行われてきた.しかし,初期および遠隔期の成績で問題が多く574),不完全閉鎖による脳卒中のリスクが残存した.そのため,経皮的な治療法としてWATCHMANが開発された.
WATCHMANによる左心耳閉鎖の脳卒中予防効果に関して,出血リスクの高いNVAF患者を対象とした2つのランダム化比較試験において,ワルファリンに対する非劣性が明らかになっている575, 576).これらの試験の5年後の解析では(図12),脳卒中,心血管死,全身性塞栓症の複合エンドポイントにおいて,両群間に有意な差は認めなかった.虚血性脳卒中または全身性塞栓症に関しては,むしろワルファリン群において低率である傾向が認められたが(HR: 1.71[信頼区間0.94-3.11],P=0.08),術後7日以降のみを対象とするとその傾向は認めず,手技に関連した虚血性脳卒中または全身塞栓症が影響していると考えられた.一方で左心耳閉鎖群では,ワルファリン群に対して,出血性脳卒中,身体機能障害を残す脳卒中もしくは致死的脳卒中,心血管死亡もしくは原因不明死,全死亡,および手技に関連しない出血が有意に減少した577).このことからデバイスを用いた左心耳閉鎖術では,出血性脳卒中や全身の出血性合併症が減少し,それによる死亡率低下が期待できるが,塞栓症予防効果においてはワルファリンを上回る効果は証明されていない.デバイスによる治療では,周術期の塞栓症を増加させないことが重要であると考えられる.WATCHMANデバイスを用いたPRORECT AF試験の初期においては,心嚢液貯留や心タンポナーデといった合併症の多いことが問題となったが,試験の後半では減少し,ラーニングカーブの存在が示唆された578).
WATCHMANの現行の治療プロトコールでは,術後はワルファリンにアスピリンを加えて45日間経過観察を行う.その後,経食道心エコー図にて問題がないことを確認した後にワルファリンを中止し,抗血小板薬2剤併用療法(dual anti-
3.2.1 経皮的左心耳閉鎖
3.2.2 経皮的左心耳閉鎖における抗血栓療法
継続が困難な患者においては外科的・経皮的手段により左心
表59 PFO 閉鎖術を実施できる施設基準・日本循環器学会認定循環器専門医が3名以上在籍する循環器専
門医研修施設であること.・日本心血管インターベンション治療学会専門医もしくは認定医
が3名以上在籍する心血管インターベンション治療学会認定研修施設で,2年間の先天性心疾患もしくは構造的心疾患に対するカテーテルインターベンションの症例数が80例以上の施設.・日本脳卒中学会専門医が1名以上在籍する脳卒中学会認定研修
教育施設であること.脳卒中の診療科を有さない循環器専門施設の場合は,近隣の脳卒中学会認定研修教育施設と文書による診療連携を確立し,定期的なブレインハートチーム協議が行われていること.・心臓血管外科専門医が1名以上在籍する心臓血管外科専門医認定修練施設で,開心術(体外循環非使用冠状動脈バイパス[OPCAB]を含まない)の症例が年間50例以上あり,緊急開心術が実施可能であること.・日本超音波医学会認定超音波専門医,日本周術期経食道心エコー(JB-POT)認定試験合格者,ないし日本心エコー図学会が認証している「SHD心エコー図認証医」が1名以上在籍し,先天性心疾患あるいは構造的心疾患に対し年間100例以上の経食道心エコー図を実施していること,そのうち10例以上はPFO診断を目的としたバブルスタディーが実施されていること.・日本心血管インターベンション治療学会が実施する「経皮的
PFO閉鎖術研修プログラム」を受講し,本手技の目的と内容を習熟した担当医が2名以上在籍すること.・全身麻酔ができ経食道心エコー図もしくは心腔内心エコー図が実
施可能なカテーテル室を有すること.ただし本手技に十分習熟するまでは,全身麻酔を用いた経食道心エコー図による手技を推奨する.・医療安全研修が行われていること.・実施症例の全例登録を確約すること. (日本心血管インターベンション治療学会, ほか. 2019556)より)表60 PFO 閉鎖術を実施できる実施医基準・本治療を実施する術者は,日本心血管インターベンション治療
学会専門医もしくは認定医,あるいは経皮的ASD閉鎖術の術者資格を有する日本循環器学会専門医であること.・経皮的ASD閉鎖術の術者認定を受け,過去3年間に25症例以
上実施した医師で,日本心血管インターベンション治療学会が主催する「経皮的PFO閉鎖術研修プログラム」を受講し認定を受けていること.・経皮的ASD閉鎖術の術者認定を受けたが過去3年間に25症例に
満たない医師は,日本心血管インターベンション治療学会が主催する「経皮的PFO閉鎖術研修プログラム」を受講し認定を受け,日本心血管インターベンション治療学会が認定した指導医のもと,2例以上の閉鎖術を実施し単独施行の認定を得ること.・経皮的ASD閉鎖術の術者認定をもたない医師は,日本心血管イ
ンターベンション治療学会が主催する「経皮的PFO閉鎖術研修プログラム」を受講し認定を受けること.さらに日本心血管インターベンション治療学会が認定した指導医の施設で2例以上の閉鎖術を見学し,その後指導医の補助のもと3例以上の閉鎖術を実施し単独施行の認定を得ること. (日本心血管インターベンション治療学会, ほか. 2019556)より)
p.70
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
platelet therapy: DAPT)に変更する.DAPTによる6ヵ月間のフォローアップに問題がなければ,最終的にアスピリン単剤を生涯続けることとなっている.これは2005年に開始されたPRORECT AF試験のプロトコールであり,DOACが使用可能となった現在とは状況が異なっている点に注意が必要である.わが国への導入に際しては,PRORECT AF試験と同一のプロトコールを採用している.
現状では,DOACを用いたWATCHMAN使用プロトコールは確立されていない.また,海外で用いられているWATCHMAN以外のデバイスや新世代のWATCHMANでは,植え込み後に抗凝固療法を速やかに中止してDAPTを行うプロトコールであるが,わが国では未導入である.海外では数多くのデバイスが使用されているが,確固たるエビデンスがあるのは現時点でWATCHMANのみである.また,従来のRCTは,いずれもワルファリンとの比較であり,出血合併症が少ないとされるDOACと比較した場合の脳卒中発症予防効果は不明であることに留意しなければならない.ワルファリンで出血イベントがあっても,DOACに変更することによって出血イベントの抑制が期待できる症例では,薬物療法による脳卒中予防効果が期待できる.
わが国では関連学会ワーキンググループでの協議のもと,適正使用指針578a)が発表された(表61).つまりCHADS2スコアまたはCHA2DS2-VAScスコアによる脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高く,本来ならば長期的な抗凝固療法が推奨されるNVAF患者にのみ考慮されるべきである.そして,これらの患者のうち出血の危険性が高いと判断される以下の1つまたは複数の要因をもち,出血の危険性等のために長期的な抗凝固療法が困難な場合に検討される治療である.なお,前述のPRORECT AF,PREVAIL 試験では,CHA2DS2-
VAScスコアが2以上の患者が対象であった.なお,機械的人工臓弁の植込み患者,凝固能亢進状態の患者,または再発性DVT患者など,非弁膜症性心房細動以外の理由で経口抗凝固薬の長期使用が必要な患者は本治療の適応ではない.除外基準は表61のとおりである.
表61 経皮的左心耳閉鎖における抗血栓療法の適応基準と
除外基準a. 適応基準1CHADS2スコアまたはCHA2DS2-VAScスコアに基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高く,長期的に抗凝固療法が推奨される非弁膜症性心房細動患者. 2以下のうちの1つ以上を含む,出血の危険性が高い患者.
・ HAS-BLEDスコアが3以上の患者.・ 転倒にともなう外傷に対して治療を必要とした既往が複数回ある患者.・ びまん性脳アミロイド血管症の既往のある患者.・ 抗血小板薬の2剤以上の併用が長期(1年以上)にわたって必要な患者.・ 出血学術研究協議会(BARC)のタイプ3に該当する大出血の
既往を有する患者. b. 除外基準1心腔内(とくに心房内)血栓が認められる患者. 2ASDまたは卵円孔開存に対する修復治療(外科手術,デバイス留置等),あるいは心房中隔の縫合閉鎖の既往がある患者. 3左心耳の解剖学的構造が閉鎖デバイスに適応しない患者. 4左心耳閉鎖術が禁忌である患者(経食道心エコープローブや施術に必要なカテーテルの挿入が困難等). 5抗凝固療法,アスピリンまたはチエノピリジン系薬剤の使用が
禁忌である患者. (日本循環器学会.578a)より)
0.1 1 10 0.01
有効性全脳卒中または全身性塞栓症虚血性脳卒中または全身性塞栓症出血性脳卒中虚血性脳卒中または全身性塞栓症(>7日) Disabling/Fatal stroke(MRS change of≧2) Non-Disabling stroke CV/unexplained death全死亡大出血大出血,non procedure-related
Favors watchman
ハザード比(95%信頼区間)
Favors Warfarin 0.82 0.96 1.71 0.2 1.4 0.45 1.37 0.59
0.73 0.91 0.48 0.3 0.9 0.08 0.0022 0.3 0.03 0.35 0.03
0.04 0.6 0.0003
ハザード比 P値
図12 非弁膜症性心房細動における経皮的左心耳閉鎖術と脳卒中予防(Reddy VY, et al. 2017577)より) Reprinted from J Am Coll Cardiol., 70(24), Reddy VY, et al., 2964-2975., Copyright (2017) The Authors, with permission from Elsevier.https://www.sciencedirect.com/journal/journal-of-the-american-college-of-cardiology
p.71
心臓の外科手術の際に行われる左心耳閉鎖は,技術的な変遷を経て今日に至る.近年,外科的左心耳閉鎖の安全性を支持する報告が散見される.心房細動を有する高齢患者に対し心臓外科手術の際に左心耳閉鎖を行い,術後血栓塞栓症のリスクを評価した観察研究では579),米国胸部外科学会データベースを用い,メディケアの請求データにリンクさせて,術後3年以内の血栓塞栓症による再入院(脳卒中,一過性虚血性発作,または全身塞栓症)を一次エンドポイントとして行われた.対象は心臓外科手術を受けた10,524例の患者のうち,左心耳閉鎖が施行された患者3,892例(37%)である.平均2.6年間のフォローアップで,左心耳を閉鎖した群は,左心耳を閉鎖しなかった群と比較して,血栓塞栓症による再入院率が低かった(4.2% vs. 6.2%,HR: 0.66[95%CI: 0.56- 0.79],P <0.001).全死亡は(17.3% vs. 23.9%,HR: 0.70 [95%CI: 0.64-0.77],P<0.001)で,複合エンドポイントは(20.5% vs. 28.7%,HR: 0.69[95%CI: 0.63-0.75],P<0.001)であった.この結果は,心房細動を有する高齢患者において,外科的左心耳閉鎖は術後の血栓塞栓症を減少させる可能性があることを示唆している.抗凝固療法によって層別化されたサブグループ解析では,心房細動の既往があり,外科的左心耳閉鎖を受けたため退院時に抗凝固療法が不要となった患者での血栓塞栓症発症率は,左心耳閉鎖も抗凝固療法も受けなかった群と比べて有意に低かった.
一方,プロペンシティスコアマッチングを行った解析研究では,外科手術と同時に左心耳閉鎖を行っても長期の血栓塞栓症イベント発症率に差がみられなかったという結果であった.各群は461名であり,それぞれ約半数に心房細動がみられてた.外科的左心耳閉鎖群は,術後早期の心房細動発症の独立したリスク因子になった(調整オッズ比: 3.88[95% CI: 2.89–5.20]),ただし,これらは脳卒中や死亡とは関連がなかったと報告された580).
これらのエビデンスおよびわが国における現状を鑑み,左心耳閉鎖・切除における推奨とエビデンスレベルを表62に示す.
3.2.3 外科的左心耳閉鎖・切除術 4. 後天性心疾患
4.1 成人の大動脈弁狭窄症
近年,大動脈弁狭窄症(AS)が,高齢者を中心に増加している.これらの患者では,全身状態ならびに重要臓器の予備能の低下や,種々の要因(胸部放射線治療後,心臓外科手術の既往,大動脈プラーク病変,陶磁器様石灰化大動脈)のために,外科的弁置換術が困難となる症例が多い.これらの患者に対する治療として,経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI)が,重要な役割を担うようになってきた.わが国においては,2013年に“SAPIEN XT”が薬事承認されて以降急速に普及し,重要な役割を担っている.前回の「先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン」2)以降もデバイスが発展し,新しいエビデンスが発信され,海外のガイドラインが改訂されている581, 582).
これまで外科的大動脈弁置換術(SAVR)とTAVIとの適応のふりわけは,STS score,Euro SCORE,Japan SCOREなどSAVRリスクを軸にして行われてきた.しかし,2020年の日本循環器学会などの合同研究班による「弁膜症治療のガイドライン」3)では,「SAVRかTAVIかの選択は,年齢,個々の外科弁・TAVI弁の耐久性テータ,SAVR手技リスク,TAVI手技リスク,解剖学的特徴,フレイルなどを鑑み,すべてのAS患者に対しSAVR,TAVI両方の治療について十分な最新の情報に基づく正しいインフォームドコンセントがなされたうえで,個々の患者の価値観や希望も加味し,最終的には弁膜症チームの議論を経て決定されるべきである」と提唱している.
本項ではTAVI,および1990年代より行われてきた,経皮的大動脈弁バルーン形成術 (PTAV)に関して,技術的な面を中心に概説する.
a. ハートチームの役割とTAVI治療のシステム
TAVI施行にあたっては,弁膜症手術の経験が豊富な心臓血管外科医,冠動脈形成術や経皮的弁形成術の経験が豊富な循環器内科医,さらには弁膜症手術麻酔の経験が豊富な麻酔科医によって構成された弁膜症チームにて行われるべきである.経食道心エコーは,術前の評価や植込み後の人工弁の位置確認,僧帽弁および三尖弁の逆流や植込み後の人工弁
4.1.1 経カテーテル的大動脈弁植込み術 表62 左心耳閉鎖術・切除術の推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
脳梗塞リスクが高いものの出血リスクも高いなど長期抗凝固療法が不適切と考えられる心房細動症例に対し,経皮的左心耳閉鎖を考慮してもよい. IIb B開心術施行の際に,外科的左心耳閉鎖・切除を考慮してもよい. IIb B
p.72
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
機能,さらには,術中合併症をリアルタイムで評価するうえで重要である。そのため,術野とは独立したエコー専門医が必要である.
近年,局所麻酔下TAVIも普及しつつあり,全身麻酔下TAVIと比較し,非劣性もしくは優位584, 585)であったとの報告も散見される.ただし,局所麻酔下で施行しても患者病態の変化に対応できるよう,麻酔科管理は有用であると考えられる.
施設は,開心術が可能な手術室で,設置型透視装置を備えるハイブリッド室が必要であり,下記の経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会にて作成された「経カテーテル的大動脈弁置換術実施施設基準」585a)(表63)を満たした施設で行われる. b. アクセス
TAVIにおいては,バルーン拡張型・自己拡張型などの展開様式を有するtranscatheter heart valve(THV)が大動脈弁位に留置されるが,挿入経路として経大腿動脈(trans-femoral: TF)アプローチの占める割合は臨床導入当初の約半数から近年では90%を超えるまで増加している586-590).
TF アプローチでは,大腿・腸骨動脈を経由し大動脈を逆行性に進行する.そのため,これらの経路に高度の狭窄・蛇行を有する症例では,デバイスの挙上が不可能となるリスクがある.また,経路に解離・瘤形成・高度粥状変化を認める症例では,破裂・塞栓リスクが高くなるため,代替アプローチ(alternative approach)が必要となる.代替アプローチは
表63 TAVI 実施施設基準(経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会基準)
手術成績・ 緊急開心・胸部大動脈手術の経験があること.・ 大動脈弁置換術(大動脈基部置換術を含む)が年間20例以上あること.・ 冠動脈に関する血管内治療(PCI)が年間100例以上あること.・ 大動脈に対するステントグラフト治療(TEVARまたはEVAR)が年間10例以上あること.・ 経食道心エコー検査が年間200例以上行われていること.設置機器・ 開心術が可能な手術室で設置型透視装置を備えていること(ハイブリッド手術室).また必要な設備および装置を清潔下で使用できる十分
なスペースがあること.ハイブリッド手術室として以下の基準が必要である.・ 空気清浄度class II以上.・ 設置型透視装置を備える.・ 速やかに開胸手術に移行可能である.・ 術中経食道心エコー検査が実施可能であること.・ 経皮的心肺補助装置,緊急開心・胸部大動脈手術が実施可能であること.・ 施設として,麻酔科医/体外循環技術認定士の緊急動員に配慮すること.・ 各施設においてTAVI開始にあたっては,現地調査(インスペクション)による施設認定を必須とする.人員・ 心臓血管外科専門医が3名以上在籍すること.・ 循環器専門医が3名以上在籍すること.・ 日本心血管インターベンション治療学会専門医が1名以上在籍すること.・ 麻酔科医(常勤)が1名以上在籍すること.・ 実際の手技にあたっては,循環器専門医と心臓血管外科専門医がそれぞれ1名以上参加すること.・ 上記基準のメンバーを含めた弁膜症チームが,手術適応から手技および術前術中術後管理にわたりバランスよく機能していること.施設・ 心臓血管外科専門医基幹施設であること.・ 日本心血管インターベンション治療学会研修施設または研修関連施設であること.・ 日本循環器学会認定専門医研修施設であること.・ JCVSDにデータを全例登録していること.レジストリ・ NCD登録事業(TAVI Registry)に参加し,フォローアップを含め全例登録すること.継続条件および見直し・ この条件はTAVIの安全性を鑑みて3年後に見直す. PCI: 経皮的冠動脈インターベンション,TEVAR:胸部大動脈ステントグラフト内挿術,EVAR: 腹部大動脈ステントグラフト内挿術, NCD: National Clinical Database (経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会.585a)より)
p.73
胸郭を経由するアプローチである経心尖(trans-apical: TA),経上行大動脈(trans-aortic/direct aortic: TAo/DAo)の2つに加え,大腿動脈以外の末梢血管アプローチとなる経鎖骨下動脈(trans-subclavian: TS),経頚動脈(trans-carotid: TC),経静脈性(trans-caval)などが報告されている591, 592).これらのうち,TA,TAo/DAo,TSは広く代替アプローチとして用いられ,かつわが国でも薬事承認されているアプローチとなるため,本ガイドラインではこれらのアプローチについてのみとり上げることとした. i. TFアプローチ,代替アプローチの適応評価(表64)
大腿動脈は解剖学的にアクセスが比較的安全・容易である.代替アプローチに比較しTFの優位性を示す報告も複数認められることから593-595),アプローチはTFを第一選択とし, TFを安全に施行できないと思われる症例に対し代替アプローチを選択するのが原則となる.
TFの施行可能性および安全性を判断するうえでは,THVによりプロファイルや適合シース,操作性に差異がある.まずは大動脈基部の解剖からみた適性評価を十分に行ったうえでTHVとそれに伴う適合シースを選択することがスタートとなる.次に,1大腿・腸骨動脈の狭小化,270度以上の石灰化,高度蛇行の有無,2弓部・下行・胸腹部・腹部大動脈動脈の高度粥状変化,解離・動脈瘤の有無,高度蛇行,人工物(人工血管,ステントグラフト,ステントなど)の有無を評価することが必要となる.さらにこれら12の要素を同時かつ詳細に評価可能であるイメージング法はthin slice造影CTであり,リスクを評価する際に撮影する心電図同期大動脈基部CTとともに胸腹部thin slice CTを施行することが強く勧められる(図13a~e) 596).また,大動脈・末梢動脈疾患の画像評価ならびに損傷時の治療選択肢を事前に十分考慮し,麻酔法/疼痛管理の選択にも配慮する必要があることから,心臓血管外科・循環器内科・麻酔科・放射線科などにより構成されたハートチームによる総合的な評価が必要となる.・TF アプローチ
TF アプローチには外科的カットダウンと経皮的アプローチがある.外科的カットダウンは合併症が多いとの報告もあるが,経皮的アプローチでは止血デバイスに起因する合併症のリスクがあるため,その操作に習熟することが求められる597).
穿刺点の詳細な評価と正確な位置への穿刺が出発点となる.穿刺点前壁の石灰化,浅大腿動脈と深大腿動脈分岐部の位置,骨盤部に入り込む外腸骨動脈への移行部を確認したうえで穿刺点を決定する.術前CTを用いてこれらの評価を行い,術中は透視とエコーによるガイドを用いて穿刺を行う.肥満のために穿刺点が深い場合,穿刺点前壁に石灰化がある場合,大腿動脈に至適穿刺点がなく外腸骨動脈への穿刺が必要な場合などは,外科的カットダウンが推奨される.止血デバイスの使用時は,エコーガイドに行うことが合併症を減
らすという報告もある598).・代替アプローチを施行する体制(表65)
代替アプローチは,TF アプローチよりかならずしも技術的難易度は高くはないが,TF アプローチが制限される点において動脈硬化性病変が非常に進行している患者が対象となる.そのため治療リスクが高く,ある程度TF-TAVIに習熟してから行うことが推奨される.また,施行頻度が限られることから,チームとして代替アプローチの習熟度は上がりにくく599),術者・助手の立ち位置がTFとは大きく異なるため,透視装置/モニター,その他各種機材の配置,人員配置を事前に十分にシミュレーションすることが推奨される.また,大動脈生体弁SAPIEN3 では,TAもしくはTAo/DAoを行う際には,TFで用いるCommanderシステムとは異なるデリバリーシステムであるCertitudeを用いるため,器具の取り扱いについて十分に習得する必要がある.さらに,TA アプローチでは,TAVI弁のマウント方向がTF/TAoとは逆になるため,手術機材の準備においても注意を要する.このため,施行経験のない代替アプローチを行う際には,TF手技の経験の寡多によらずProctorを招聘し,代替アプローチ特有のピットフォー
表64 TAVI におけるTF アプローチ,代替アプローチの適応
の推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
胸腹部 thin slice 造影CTによる上行~腹部大動脈および腸骨・大腿動脈の狭小化・石灰化・粥状硬化・瘤状変化・解離の有無の評価を行う. I C心臓弁膜症・大動脈疾患・末梢血管疾患の診断および治療の経験が豊富な循環器内科,心臓血管外科,画像評価や判断に長けた医師または技師,麻酔リスクを判断する麻酔科医師などによって構成されたHeart teamによるアクセスの評価を行う. I A 270度以上の高度な石灰化・蛇行を有し,各デバイスIFUに規定される最小血管径を下回る腸骨・大腿動脈を有する症例に対し,代替アプローチの選択を考慮する. IIa A高度の粥状変化・大動脈病変を下行・胸腹部・腹部大動脈に有する症例に対し,代替アプローチの選択を考慮する. IIa A TF アプローチが安全に施行可能と考えられる症例に対し,代替アプローチの選択を考慮してもよい. IIb B全身麻酔が困難と考えられる患者に対し,TA アプローチ,DAo アプローチを行うべきではない. III Harm C
p.74
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
アプローチTF アプローチTA アプローチ
TAo/DAo
TS アプローチ
評価事項アプローチ評価事項
1 腸骨大腿動脈
□血管径<各デバイスIFUに規定される最小血管径□石灰化 (>270°)
2 高度粥状変化6 心尖部の菲薄化,瘤状変化
7 心尖部の偏位,胸腔の高度癒着
3 高度蛇行
4 大動脈瘤
5. 人工物(人工血管,ステントグラフトなど) a 8 上行大動脈偏位
9 上行大動脈拡大
10 上行大動脈石灰化
9 上行大動脈拡大
11 開存している右内胸動脈グラフト
12 鎖骨下動脈,大動脈弓部の性状,走行,血管径
13 椎骨脳底動脈系の分枝形態,頭蓋内交通
14. 開存している内胸動脈グラフトの存在15. 閉塞リスクを伴う椎骨動脈が分岐する鎖骨下動脈
b
d
e 9 上行大動脈拡大
c f g
h
i
j
k
図13 TAVI における解剖学的手技リスク評価
p.75
ルを回避することが望ましい. ii. TAアプローチ(表66)
TA アプローチはSAPIEN導入初期から用いられ,確立したアプローチの一つである589, 599, 600).TAは唯一の順行性挿入経路であるが,自己拡張型デバイスではTAに対応するものがなく,SAPIENシリーズのみがとりうるアプローチとなっている.また左肋間小開胸での心尖部露出を行うため,全身麻酔が施行できない症例では選択することができない.
TAでは穿刺部破綻から生じる大量出血を回避することが重要である.そのため,心尖部の菲薄化・瘤状変化をきたしている症例は,適応から除外することが推奨される(図13f).穿刺部位としては解剖学的心尖部ではなく,その前側方の左室前壁を用いることになる.心尖部穿刺部位を確実に露出するためには,事前に心尖部の偏位の有無,胸腔の高度癒着を疑わせる所見の有無をCTで確認することが重要となる.アプローチ肋間の決定の際には,CTのみならず超音波検査もしくはX線を併用することが推奨されるが,これは吸気位/両上肢挙上位で撮像されるCTは手術体位/呼吸変動に反映されないからである.
心尖部穿刺部位には巾着縫合をかけて出血をコントロールするが,その際に冠動脈左前下行枝に近づかないよう注意する必要がある.また,冠動脈バイパス既往がある症例ではバイパスグラフトの損傷を回避するため,事前に冠動脈/バイパスグラフトの走行をCT等を用いて確認することが推奨される.
TAでは心筋を貫いてデバイスを挿入し,その後,縫合止血処置を行うため,左室の局所的機能低下が生じる可能性が報告されていることから601),高度低心機能症例においては慎重な適応判断が必要となる.Edwardsの新しいシステムにより,low profile化が進んだため,以前と比較して巾着縫合方
法および術後止血処置が容易となり,手術リスクはきわめて軽減できたと考えられる. iii. TAo/DAo アプローチ(表67)
TAo/DAo アプローチは,上部胸骨部分切開もしくは右肋間小開胸にて露出された上行大動脈から直接デバイスを挿入する手技である.多くの心臓外科医は,心尖部よりも上行大動脈のとり扱いに習熟しており,デバイスではSAPIENのみならずEvolutも選択できることなどから,近年ではTAに変わるアプローチとして選択される機会が増加している.同じ経胸郭アプローチであるTAとの比較では,TAを上回る良好な成績が報告されている600, 602-605).TA同様,全身麻酔が施行できない症例では選択できない.
切開法としては,上部胸骨部分切開法と右肋間開胸法(通常第2肋間)があるが,事前にCTによる上行大動脈の評価が切開法の選択の参考になる(図13g).また,冠動脈バイパス既往を有する症例において開存した右内胸動脈グラフトは,上行大動脈を横切るため,損傷リスクが高くなることからTAo/DAoの選択を回避するのが推奨される.
TAo/DAoでは,上行大動脈穿刺部位から大動脈弁輪までの距離が制限されいる.そのため,シース挿入の深さを確保しつつ,デバイス留置操作を行ううえで最低限必要な距離(Evolut: 6 cm,SAPIEN: 5.5~6.0 cm)を事前に計測し,穿刺部位を決定することが推奨される.限定されたワーキングスペース内でシースを挿入することになるが,シースの走行が大動脈弁輪に対して直線状に配置できる穿刺部を選択する
表65 TAVI における代替アプローチを施行する体制の推
奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
大動脈・心尖部の破綻や出血に即応可能である,経験が豊富な心臓血管外科,麻酔科,コメディカルを含むハートチームを構成する. I A代替アプローチを行う際の透視装置・モニター及び各機材の配置,人員配置を事前に十分にシミュレーションを行う. I A代替アプローチを行う前に,チームとしてTFアプローチによるTAVIを経験することを考慮する. IIa C施行経験のない代替アプローチを行う際,TFアプローチ手技の経験の多寡によらずproctorの招聘を考慮する. IIa C表66 TAVI のTA アプローチにおける推奨とエビデンス
レベル
推奨クラスエビデンス
レベル
胸部thin slice CTによる心尖部穿刺位置・アプローチ肋間/ 冠動脈バイパス既往例におけるバイパスグラフト走行の確認を行う. I C超音波検査もしくはX線によるアプローチ肋間を確認する. IIa C高度低心機能例に対し,TA アプローチを考慮してもよい. IIb C心尖部の菲薄化・瘤状変化例に対し, TA アプローチを行うべきではない. III Harm C心尖部縫合(手術)を行っている症例に対し,TA アプローチを行うべきではない. III Harm C左胸腔の高度癒着を疑わせる胸膜肥厚・胸膜石灰化を有する症例に対し,TA アプローチを行うべきではない. III Harm C
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
ことも重要となる.さらに,出血や塞栓を回避するため,挿入予定部位となる上行大動脈に,拡大,石灰化,粥状硬化・解離などがないことを造影CTにて事前に確認することが推奨される(図13h,i). iv. TS アプローチ(表68)
TS アプローチは胸骨切開・肋間開胸を要さない貴重な代替アプローチとして広く利用されている.一般的に,鎖骨下動脈へのアプローチは外科的露出にてなされるが,経皮的アプローチにて施行されている報告も存在することから,代替アプローチのなかでは選択される優先度が高まっている.近年ではTF アプローチと比較して同等以上の成績が報告されており590, 592),評価が高まっている.
TS アプローチでは,鎖骨下動脈からは椎骨動脈および内胸動脈が分岐するため,シース/デバイス挿入に伴う血流遮断の影響を事前に十分に検討することが推奨される(図13j).椎骨脳底動脈系の評価には,磁気共鳴血管造影(MRA)もしくは造影CTによる分岐形態・頭蓋内交通を評価し,血流低下・遮断のリスクを把握する.図13kは右椎骨動脈低形成で左椎骨動脈優位の症例だが,左鎖骨下動脈アプローチTAVIを行ったところ,術後に椎骨脳底動脈系の脳梗塞を発
症した.また,内胸動脈グラフトを用いた冠動脈バイパスを施行している症例においては,デバイス挿入時のグラフト血流不全に伴う循環破綻を避けるため,同側からのアプローチは回避するのが望ましい.さらに,右鎖骨下動脈からのアプローチに際しては,大動脈弁輪への進入角度が強く制限されるため,企業プロトコールに従った角度のみでの使用を遵守すべきである.
また,わが国における左鎖骨下動脈の走行は,椎骨動脈分岐末梢にて急角度に弯曲している症例が多く,シース挿入およびデバイス挿入において解離を発症することが多い.そのため,シースおよびデバイス挿入には十分な注意を要する.現状では,このアプローチはEvolutでのみ可能であるが, SAPIEN3においても,早々にこのアプローチ可能となることを希望する. c. 大動脈弁複合体・左室
大動脈弁複合体の評価は人工弁サイズ選択および合併症のリスク評価のために不可欠である(表69).以前は経食道エコーなどを用いて行っていたが,心電図同期の造影剤を用いたmulti-slice CTを中心とした評価が一般的となっている596, 606).造影CTを用いた大動脈基部の評価には以下が含まれる.大動脈弁輪サイズ,石灰化評価(大動脈弁輪,左室流流出路,大動脈弁複合体),バルサルバ洞(SOV),冠動脈高,上行大動脈接合部(STJ),大動脈弁形態異常(二尖弁の評価)である.
表67 TAVI のTAo/DAo アプローチにおける推奨とエ
ビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
胸部thin slice CTによる上行大動脈の偏位・血管径・性状の確認を行う. I C上行大動脈穿刺予定部位から弁輪部までの距離の計測を行う. I C開存する右内胸動脈グラフトがある症例における,DAアプローチの選択を考慮してもよい. IIb C
表68 TAVI のTS アプローチにおける推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
胸部造影thin slice CTによる鎖骨下動脈および大動脈弓部の性状・走行・血管径の確認を行う. I C椎骨脳底動脈系の分枝形態,頭蓋内交通の精査を行う. I C開存するITAグラフトを分岐している鎖骨下動脈に対し,TS アプローチを考慮してもよい. IIb C閉塞リスクを伴う椎骨動脈を分岐している鎖骨下動脈に対し TS アプローチを考慮してもよい. IIb C表69 大動脈弁複合体・左室のTAVI リスク評価の推奨と
エビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
心電図同期造影CTによる大動脈弁基部の解剖学的,TAVIリスク術前評価を行う. I A LVOTカルシウムの重症度評価, 冠動脈閉塞リスク評価を行う. I C心電図所見,膜性中隔長から房室電動障害のリスク評価を行う. I C造影CTによる二尖弁のTAVIリスク評価を考慮する. IIa C
Horizontal aorta評価を考慮する. IIa C造影CTによる膜性中隔長評価を考慮する. IIa C左室内血栓症例に対し,TAVIを行うべきではない. III Harm C
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i. 大動脈弁輪のサイズ測定とoversizing rate
術前の正確な大動脈弁輪サイズ測定は,致死的合併症である大動脈弁輪部破裂や術後長期予後悪化因子である弁留置後弁周囲逆流(PVL) 607, 608)を予防するうえで重要である.弁輪の面積,周囲長,長径,短径の計測を行って弁輪サイズを決定し,人工弁のサイズ選択を行う596).人工弁のサイズ選択では,各人工弁メーカーから提供されるサイジング表,および人工弁-大動脈弁輪サイズ比を表す“oversizing”が有用である.oversizingは以下のように定義される.
oversizing(%)=(人工弁ノミナルサイズ/測定弁輪サイズ-1)×100
バルーン拡張型人工弁においては,過剰なoversizingは大動脈弁輪破裂のリスクとなり,過少なoversizingはPVLのリスクと考えられている609-611). ii. 弁輪部石灰化および左室流出路の石灰化(LVOTカルシウム)
弁輪部石灰化および左室流出路(LVOT)の石灰化(LVOTカルシウム)の重症度評価を行う.LVOTカルシウムの重症度は,定性的あるいは半定量的に評価され,下記のように軽度,中等度,重度に分類される596, 609, 612).軽度,中等度,重度のLVOTカルシウムの例を画像に示した(図14a). 1 軽度: 大動脈弁輪と左室流出路において石灰化が「1つ」で,「5 mm以内の長さ,かつ周囲長の10%未満」609, 612). 2 中等度: 「石灰化が2 つ」または「石灰化が1つでその石灰化が5 mm以上の長さを持つ,または周囲長の10%以上を占める」609, 612). 3 重度: 「大動脈弁輪やLVOTの内腔に突出する石灰化がある」596)または「3 つ以上の石灰化がある」または「1 つの石灰化が10 mm以上の長さ,または周囲長の20%以上を占める」609, 612).
重度のLVOTカルシウムは,大動脈弁輪破裂のリスク因子609, 613)である.また,バルーン拡張型人工弁においては,過剰なoversizingは大動脈弁破裂のリスクになることから, LVOTカルシウムの存在下ではoversizing率にとくに注意を払う必要がある609, 610, 612).問題なのは重度のLVOTカルシウムは,同時にPVLのリスク因子であることである611, 612, 614-617).デバイス留置後に有意なPVLとデバイスの拡張,圧着不良を認めれば,後拡張施行が選択肢となるが,後拡張が弁輪破裂のリスクとなりうる.実際に重度のLVOTカルシウムがある患者は,ない患者に比べて後拡張を要する場合が多い618).理論上,自己拡張型人工弁は大動脈弁輪破裂を起こさないが,後拡張時に弁輪破裂に到る場合もあるため注意が必要である.重度のLVOTカルシウムがある症例においては,観察研究からバルーン拡張型人工弁より自己拡張型人工弁が大動脈弁輪破裂のリスクが低いと考えられているが619),エビデンスは不足している.いずれのデバイスを用いる場合にも,重度
のLVOTカルシウムがある症例では,高リスクであることは認知すべきである. iii. 冠動脈高,SOV径,大動脈弁尖評価
SOV径および冠動脈高の測定は,弁留置後冠動脈閉塞のリスク評価に有用である.冠動脈の高さの測定では,大動脈弁輪がなす平面と冠動脈入口部までの鉛直方向の距離を測定する.「冠動脈の高さが12 mm未満」と「SOV径が30 mm未満」の両者が並存する場合に,とくに冠動脈閉塞リスクが高くなる596, 620).また,エビデンスは不十分であるが,大動脈弁弁尖の石灰化も冠動脈閉塞リスクであることが示唆されている621)(図14b).冠動脈閉塞高リスク症例では,冠動脈プロテクションも考慮すべきである622, 623).
バルーン拡張型人工弁の場合には,人工弁のステントフレーム自体またはステントフレームで圧排された大動脈弁が直接冠動脈入口部を閉塞することで冠動脈閉塞が発生する.一方で,自己拡張型人工弁はバルーン拡張型人工弁のような直接圧排による閉塞のほかに,自己拡張型人工弁のインナースカート部分でSOV自体を閉塞する可能性がある.とくに, STJ高が低く,STJ径が小さい症例に自己拡張型人工弁を高い位置に留置した場合には,後者の機序による閉塞も起こりうる624, 625)(図14c).自己拡張型人工弁の製造メーカーが提供するサイジングチャートには,各デバイスサイズの最小SOV径と最小STJ高の記載がある.推奨基準に従うことでリスクを低減すると考えられる. iv. STJ径,STJ高
STJ径はバルーン拡張型人工弁使用時の大動脈損傷リスクに関係すると考えられている.人工弁径や人工弁留置前バルーン拡張時のバルーン径に比して,STJ径が小さく,石灰化を伴う場合には,大動脈損傷をきたす可能性があるため注意を要する.ただし,その頻度は明らかにはなっておらず,ごくまれであると推察される596, 626, 627).また,STJ径が小さく,STJ高が低い症例の場合には,自己拡張型人工弁使用時のSOV閉塞のリスクとなる(図14c).とくに自己拡張型人工弁が高く留置された場合には,そのリスクが高まる624, 625). v. 二尖弁
CTを用いて二尖弁の有無と二尖弁の形態を評価する628-631).二尖弁患者における術前CTの大動脈弁輪の測定は,三尖弁同様に弁輪を用いる632).二尖弁に対する新世代デバイス(SAPIEN3,EvolutR)を用いたTAVIの有効性と安全性は,三尖弁に対するTAVIと同等であることが観察研究から示唆されているが633-635),ランダム化比較試験は行われていない633-636).とくに,低リスクの患者に対するランダム化比較試験(PARTNER3 trial,Evolut low risk trial) 57, 58)からは,二尖弁は除外されている.日常臨床で遭遇する若年者の
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
大動脈弁複合体
大動脈弁基部破裂
冠動脈閉塞
二尖弁□LVOT カルシウム軽度
重度
>20%
小径
低い小さい有り中等度両弁共通事項□後拡張を避ける
バルーン拡張型人工弁□Oversize 率<20% □Underfilling
両弁共通事項□後拡張を避けるバルーン拡張型人工弁□Oversize 率<20% □Underfilling
□冠動脈保護□小サイズ人工弁に変更検討□後拡張を避ける
□小サイズ人工弁に変更検討□留置深度を深く□冠動脈保護□バルーン拡張型人工弁
適切な人工弁サイズ選択
適切な人工弁サイズ選択
TAVI高リスク
□Oversize 率
□SOV 径
バルーン拡張型人工弁□冠動脈高□SOV 径□弁尖石灰化
自己拡張型人工弁□冠動脈高□弁尖石灰化□SOV 径□STJ高□STJ径
□Raphe 石灰化□弁尖石灰化
評価事項リスク評価対応
Evolut サイズSOV 径STJ 高23 mm ≧16 mm
高リスク
b
a
c
d 26 mm 29 mm 34 mm
≧25 mm ≧27 mm ≧29 mm ≧31 mm ≧15 mm ≧15 mm ≧15 mm
I II
I
低リスクI II
I II III IV
II
III IV
III IV
III IVバルーン拡張型人工弁□弁輪破裂高リスク
自己拡張型人工弁□有意なPVL 残存リスク□後拡張は弁輪破裂リスクTAVI 回避要検討
中等度リスクIII IV V VI
V VI
VII VIII
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症候性大動脈弁狭窄症は二尖弁であることが多いが,現時点では,若年の二尖弁患者はTAVIにおける低リスクには分類されない.また,二尖弁のなかでも石灰化ラッフェが存在し,かつ大動脈弁複合体に高度の石灰化病変を認める場合には,周術期合併症発生率が高いと報告されている639).図14dのVII,VIIIは,石灰化ラッフェが存在し,かつ大動脈弁複合体に高度石灰化病変を認める高リスクの例である.二尖弁患者に対して新世代のバルーン拡張型人工弁と自己拡張型人工弁の治療成績を比較したレジストリ研究では,バルーン拡張型人工弁に比べて自己拡張型人工弁は,有効弁口面積(EOA)が大きく,PVLが多かった635).二尖弁のTAVIに関するエビデンスの蓄積が期待される. vi. 狭小弁輪
狭小弁輪の定義は文献によって異なるが,おおむねCT計測による大動脈弁輪径で23 mm以下としている640-644).狭小弁輪における注意点は患者人工弁不適合(PPM)発生リスクである.人工弁のEOAが体格に比して不十分であることをPPMとよび,PPMは有効弁口面積係数(iEOA)が0.65~ 0.85 cm 2/m 2を中等症PPM,0.65 cm 2/m 2未満を重症PPMと
定義される645).外科的大動脈弁置換術後(SAVR)に発生するPPMは,遠隔期死亡率や心不全入院の頻度を上昇させるが646, 647),TAVI後の重症PPMも予後不良因子である648).さらにPPMを有する症例は,生体弁の石灰化が速く,早期に人工弁の劣化をきたしやすい649).SAVRと比較すると, TAVIの人工弁はソーイングカフをもたないため,PPMの発生率が低い.そのため狭小弁輪を有する症例において, TAVIはより治療効果の高い選択肢であることが指摘されている646, 650, 651).欧米人よりも日本人はTAVI後のPPMの発生率は低い.その理由としては,日本人は大動脈弁輪と体表面積が小さく,弁輪サイズ/体表面積が大きいことが示唆されている652).Intra-annularデザインのTAVIの人工弁は, Supra-annularデザインの人工弁に比べて,相対的にEOAが小さい653-656).欧米人と比較して,日本人はTAVI後のPPMが少ないが652),TAVI後PPMの長期予後については明らかになっていない.とくに若年者にTAVIが選択される場合には,PPMリスクへの配慮が必要である.
□Horizontal aorta
□左室内血栓
□右脚ブロック
□一度房室ブロック
□膜性中隔長あり
あり
<2 mmあり自己拡張型人工弁は注意
TAVI 禁忌
□Device 選択□留置深度を浅く□後拡張を避ける□Oversizing 率を小さく□術後一時的ペースメーカーの留置
房室伝導障害f g Pre-shaped ワイヤ使用
左室□求心性肥大高度
e
a: LVOT カルシウムは軽度・中等度・重度に分類し,リスク評価を行う.画像I,III,Vはいずれも大動脈弁輪面を示す.画像II,IV,VIは大動脈弁,左室流出路の長軸像を示す.画像はそれぞれLVOT カルシウムの石灰化の程度を示す.画像I,IIは軽度,画像III,IVは中等度,画像V,VIは重度の例である(本文参照). b: TAVI後左冠動脈閉塞をきたした症例の造影CT画像.左冠尖の弁尖に石灰化を認める. c: STJ高が低く,STJ径,SOV径が小さいSOVを有する患者のCT画像.Iは大動脈弁輪サイズ,IIはSOV径,IIIはSTJ径,IVはSTJ高. d: 二尖弁の石灰化ラッフェおよび大動脈弁高度石灰化の画像の例.I,III,V,VIIは大動脈弁の短軸像.II,IV,VI,VIIIは短軸のボリュームレンダリング画像.I,IIは石灰化ラッフェ(-),高度石灰化(-).III,IVは石灰化ラッフェ(+),高度石灰化(-).V,VIは石灰化ラッフェ(-),高度石灰化(+).VII,VIIIは石灰化ラッフェ(+),高度石灰化(+). SOV: バルサルバ洞,STJ: 上行大動脈接合部
図14 大動脈弁複合体の評価
p.80
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
vii. Horizontal aorta
大動脈と左室がなす角度が大きく,水平方向に寝ているような形態の大動脈はhorizontal aortaとよばれる.大動脈と左室がなす角度は大動脈弁と冠状断における水平軸が形成する角(aortic angulation)で代用され,TAVI術前のCTを用いて計測される.Horizontal aortaの明確な定義はない.過去の研究では,Aortic angulationの平均値である48度を比較のためのカットオフ値として用いている657, 658).なお,自己拡張型人工弁のPivotal trialでは,aortic angulationが70度以上の症例は研究から除外されている659, 660).Horizontal aortaの症例では,デバイスが大動脈弁に対してCoaxialになりづらいため,trans-femoralアプローチでは,手技が困難であると考えられている(図14f).とくにhorizontal aortaの症例では,自己拡張型人工弁はバルーン拡張型人工弁に比較して,留置が難しいと考えられているが657),最近の報告ではバルーン拡張型人工弁と手技成功に差がないとされている661). horizontal aortaの症例では,いずれのデバイスを使用する場合にも,デバイス留置に注意を払う必要がある.なお,transapicalアプローチでは,horizontal aortaは手技上の問題にはならない. viii. 左室
経心尖アプローチ以外のTAVIでは,人工弁カテーテルを操作するために左室内に剛性の高いスティッフワイヤを留置する必要がある.一般的に大動脈弁狭窄症では,求心性肥大によって左室内腔が狭小化するため(図14e),本操作は注意が必要である.カテーテルからワイヤ先端が出るときや,ワイヤを心筋に強く押し付ける操作などによって,左室穿孔が生じるリスクがある.以前は,ワイヤを現場でシェーピングして先端にカーブを作っていたため,術者間において左室穿孔の発生率にはばらつきがあったが,最近はこれを改善するためにpre-shapedワイヤが多く使用されている.
術前にはあらかじめ拡張期のマルチスライスCTや,エコーによって左室の形態,つまり内腔の狭小化(図14e), horizontal aorta(図14f),sigmoid septumなどの存在とその程度を評価することが求められる.また,左室内血栓は禁忌となる(図14g). ix. 房室伝導障害
TAVI後の房室伝導障害による新規ペースメーカ植込みについては,現在においても一定数で生じている.遠隔期死亡率には差を認めないものの,再入院率に影響するといった報告もあり,TAVIの残された課題の一つである662).術後ペースメーカの危険因子は,患者背景因子としては右脚ブロック, 1度房室ブロックがあげられる663-665).手技関連因子としては,デバイス留置深度,デバイスのオーバーサイズ率,後拡張があげられる666-668).CorevalveシリーズがSAPIENシリーズよりもおおむね多い637, 638, 664-669).最近では,His束が膜性中隔
と筋性中隔のあいだから左側に出るという解剖学的特徴から,膜性中隔が短いほど房室伝導障害が起きやすいとされ注目されている670, 671) .
術後管理では,術前に右脚ブロックを認めず術中に心電図変化を認めないものは,術後24時間もしくは一晩のモニター監視を行うことで,一時的ペースメーカ抜去が可能である.術前に右脚ブロックや一度房室ブロックを認める症例,または術中に心電図変化があった症例に対しては少なくとも一晩の一時的ペースメーカ管理を行い,その後に高度房室ブロックもしくは完全房室ブロックが残るものは永久式ペースメーカの適応となる672). d. 各種の人工心臓弁i. SAPIEN 3
SAPIEN 3は第三世代バルーン拡張型人工弁である.生体弁にはウシの心のう膜が用いられている.フレームはコバルトニッケルクロム製であり,前代のSAPIEN XTに比べてステントフレームの改良がされており,拡張留置後の形態が柔軟性に富んでいる673).また,ポリエチレンテフレタレート(PET)によるアウタースカート構造によって,PVLの抑制を図っている.SAPIEN 3の留置に使用されるデリバリーシステムは,カテーテル先端を手動に湾曲させる構造となっており,蛇行血管への通過性が高い.イントロデューサーシースは20 mm,23 mm,26 mmサイズが14 Fr,29 mmサイズは16 Frであり,機器が通過する際,一時的にその直径が拡大するエクスパンダブル構造となっている.
バルーン拡張型人工弁であるために,留置時はrapid pacingを行い,意図する位置への人工弁留置を行う.シンプルさがSAPIEN 3の特徴である.これに加えて,ステントフレーム改良により複雑な大動脈基部形態症例に対応できることが長所である.しかし,バルーン拡張型であるために基部破裂のような組織損傷のリスクを伴う.
バルーン拡張において,規定のボリュームを全量注入することが勧められている.しかし,大動脈弁輪破裂や房室伝導障害などの合併症を回避するために,これらの解剖学的高リスク症例に対しては,強く大きく広げすぎない工夫がなされている.具体的な方法としては,ゆっくり拡張を行うslow inflation,後拡張の回避,そして規定のボリュームから数mL少なく注入するunderfillingがあげられる.後拡張を行うかどうかはPVLの程度やLVOTカルシウム,房室伝導障害,有効弁口面積などから複合的に判断する必要がある618, 674-676). Underfillingに関しては,現場では大動脈弁輪破裂回避を期待して行われることが多い677).一方で有効弁口面積が損なわれる懸念もある678).これらに関しては施設や術者間でばらつきがあり,また報告に乏しく,いまだその効果に関しては
p.81
議論の余地がある.
またバルーン拡張型人工弁では,oversizing rateが小さいまたは負の値になる場合には,デリバリーバルーンの規定のボリュームから数mL多く使用して拡張を行うoverfillingもしばしば行われる673, 679-682).Overfillingを行うことにより人工弁ステントを大きく広げることができる679, 681).
SAPIEN 3は術後の冠動脈アクセスを考慮した構造をとっている.すなわち,ステント長が短いために留置の高さによってはSAPIEN 3よりも高い位置から直接冠動脈にアクセスすることが可能である.SAPIEN 3が高く留置された場合においても,大動脈側のストラットは大きくデザインされており,カテーテルの通過を容易にしている.ただし,SAPIEN 3の交連部となる部位は人工弁の弁尖構造に覆われカテーテル挿入が困難となる可能性がある683). ii. コアバルブEvolutシリーズ
コアバルブEvolutシリーズは,ニチノール性形状記憶合金フレームによる自己拡張型人工弁である.生体弁にはブタ心のう膜が用いられている.弁輪より上部に弁尖が位置するようにデザインされるスープラアニュラーポジションによって,弁口面積を大きく確保し,さらに円形状に弁が機能するように設計されている.わが国で,第一世代のコアバルブが使用開始となったのは2015年だが,2016年には改良型のEvolutシリーズが登場した.これは,デリバリーシステムの改良によって人工弁が均一に展開されるセルフセンターリングや,至適留置位置を達成するために留置のやり直しを行うリキャプチャー,リポジション機能が加わり留置手技が容易になった.さらに最新のEvolut PRO+においては,ブタ心のう膜のアウタースカートを追加することによるPVLの軽減を図りつつ,最小14 Fr相当のロープロファイルを実現している.
コアバルブEvolutシリーズの長所として,自己拡張であるために,留置においては大動脈弁基部損傷のリスクがないということがあげられる.また,留置の際にrapid pacingは不要である.さらには,有効弁口面積が大きくとれることが人工弁選択において重要な点である.短所としては,前述のとおりペースメーカー率がSAPIENシリーズよりも多いということがあげられる.房室伝導障害は膜性中隔長に起因するという報告から,より高い留置位置をめざすことでこれを回避することが可能である670, 671).しかし,自己拡張とスープラアニュラーデザインを併せもつEvolutシリーズにとって,高すぎる留置位置は冠動脈閉塞リスクが生じるため,とくにSTJ高が低く,STJ径が小さい症例に対しては房室伝導障害と冠動脈閉塞リスクのバランスをとった留置位置に注意する必要がある624, 625).
また,自己拡張能によって慢性期の冠動脈閉塞率がバルーン拡張型人工弁に比べて高いため注意を要する621).さらに
は,プラットフォームが縦に長く,ストラットが小さいこと,スープラアニュラーポジションであることにより,コロナリーアクセスが容易ではない場合がある684, 685). e. 機能不全に陥った外科生体弁へのTAVI(TAV-in- SAV)
外科的に置換された人工弁が機能不全をきたした際に, TAVIを応用した経カテーテル的人工弁植込み術(TAV-in- SAV)の有用性が示されている686, 687).わが国では2018年7月に自己拡張弁であるEvolut R,2020年1月にバルーン拡張弁であるSAPIEN 3がそれぞれ保険適用となった.「2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン」では,手術リスクの高い,有症候性の重症大動脈弁位人工弁狭窄症または重症大動脈弁位経弁逆流に対して,TAV in SAVが推奨されている(クラスIIa,レベルC) 3).
人工弁機能不全の重症度評価については,Valve-in-Valve registry,EAPCI/ESC/EACTSが定義を提唱しており688),これらをもとに治療適応を決定されたい.また,劣化したTAVI弁に対するTAVI(TAV-in-TAV)は,現状のところわが国においては保険適用となっていない.
術前に重度のpatient-prosthesis mismatch(PPM)をきたしている症例や,外科的人工弁のサイズが小さい症例については,早期・長期ともに成績が不良と報告されている687, 689, 690).外科的人工弁は,その種類によりラベルサイズと内径とがそれぞれ異なるため,術前に各人工弁メーカーに確認するほか691), CTを用いて正確に評価する必要がある.現状として, Evolutシリーズにおいては外科弁の内径が17 mm以上, SAPIEN 3においては16.5 mm以上を推奨としていることも留意されたい.TAV-in-SAVの有効弁口面積が外科弁のフレームに制限されてしまうという問題点を解決するため,最近の外科生体弁にはフレームが拡張する機能をもつものが採用されているが,拡張によるデバイス選択が複雑になる可能性がある.
また,TAV-in-SAV時の冠動脈閉塞のリスクは通常のTAVIと比較して高いとされ,注意が必要である620, 621).外巻き外科弁692),ステントレス生体弁は,TAV in SAVによる冠動脈閉塞リスクが高いとされる693).TAVI弁留置による仮想円から冠動脈入口部までの距離(virtual transcatheter valve to coronary ostium distance: VTC)が4 mm未満では,冠動脈閉塞のリスクが高いとされており,そのような症例に対しては冠動脈ステント留置を要したり,最近ではBASILICAといった手法も報告され,その評価が期待される694, 695). f. まとめ
TAVIのデバイスの進歩は目覚ましい。今後さらに改良され,新しいエビデンスが発信されその適応も拡大することが
p.82
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
予想される.今後も新しいエビデンスに基づいたガイドラインの改定が適宜なされるべきである.
経皮的大動脈弁形成術(PTAV)は,狭窄弁をバルーン拡張することにより,硬化肥厚と石灰沈着が混在する病変組織に圧折線と微小粉砕骨折を形成して,弁膜の可動性と弁口面積の改善を図る治療法である696).その術式は,経動脈的に大動脈を経由して大動脈弁に到達する逆行性アプローチと,経静脈的アクセスから経心房中隔的に左心室を経て大動脈弁にデバイスを進める順行性アプローチの2種類に大別される.いずれのアプローチも,弁置換術やTAVIに先立つブリッジ治療か,もしくはそれらが不可能な患者に対する症状緩解としての役割が主体である. a. 成人ASに対するPTAVの適応
表70に成人ASに対するPTAVの適応を示す.重症ASにちなんで心原性ショックをきたしている例では,迅速に血行動態の安定化を図る必要がある.ただちに弁置換術あるいはTAVIを行うことができない場合,PTAVにより迅速に血行動態の安定化を図ることが可能である697).また,ASに加えて,そのほかの心血管系合併疾患(僧帽弁疾患,虚血性心疾患,心筋症,心房細動など)のため,症候に対するAS単独の関与や重症度の判定が困難な症例が存在する.このような状況では,PTAVによりASを軽減させて,ASが血行動態に与えてきた影響を評価することが可能である. b. 逆行性PTAV
逆行性大動脈弁バルーン形成術(retrograde PTAV)とは,大動脈側から狭窄した弁を介してデバイスを挿入する方法である. i. 手技とポイント・症例選択と術前の準備
1 心エコー図: 大動脈三尖弁を確認する.二尖弁・単尖
弁を除外し,重症度を評価する.大動脈弁逆流は軽症まではPTAVが可能とされる.弁性状の評価は経胸壁心エコー図のみならず経食道心エコー法を併用する. 2 造影心臓CT: 大動脈弁の正確な計測にはCTが適する.
石灰化の程度,大きさ,分布,弁輪形状,長短径・面積などの計測,SOV,弁下部などを評価し,使用するバルーン径を決める.あわせて上行・弓部・下行大動脈壁性状も評価する. 3 頭部MRIまたはCT: PTAVによる脳塞栓の発生はまれで
はなく,術前の脳の状態ならびに頭蓋内血管を評価する. 4 患者・家族への説明と同意: PTAVは短期効果しか期
待できず,合併症もまれではなく,開心術・TAVIな
4.1.2 PTAV
どへの橋渡しの意味しかないことを繰り返し説明し,それでも緊急では開心術を必要とする場合もあるとし,同意を得る.・カテーテル手技
1 前処置とアプローチ: 複数の静脈ライン確保と輸液を
行い,局所麻酔+鎮静薬で苦痛をとる.TEEによる術中評価・モニターを行う場合は,全身麻酔とする.鼠径部にて大腿動脈・大腿静脈穿刺を行い,シースを挿入する.用いる弁拡張バルーンにより動脈シースのサイズは異なり,通常8~12 Frを用いる.縫合止血器具を事前にセットして用いると止血は容易である.状態が不安定な患者が治療対象であり,対側の大腿動脈にもシースを挿入し,ピッグテールなどを大動脈に残し,左室・大動脈同時圧評価を可能とするとともに,緊急時の大動脈内バルーンポンプ・経皮的心肺補助のルートを保持しておくのがよい.長時間留置を考慮し,右頚静脈にシースを挿入し,一時ペーシングカテーテル留置に備える.ヘパリン3,000~5,000単
表70 成人AS に対するPTAV 適応の推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
PTAVにより全身状態ならびに心血行動態の改善を得たのちに,待機的に弁置換術またはTAVIを予定している場合.症候性重症(弁口面積1.0 cm2未満)のAS症例に対し,PTAVを考慮してもよい. IIb C全身麻酔下での非心臓手術が予定されており,術中の血行動態の安定化ならびに耐術能の確保が必要な場合,症候性重症AS に対し,PTAVを考慮してもよい. IIb C外科的弁置換術またはTAVIの双方ともに著しくハイリスク,もしくは適応とならない症候性重症AS患者に対して,症候寛解治療が必要な場合,PTAVを考慮してもよい. IIb C形態ならびに血行動態上,重症ASの可能性が高いが,合併する心血管系疾患や多臓器疾患のため,ASの関与ならびに重症度が不確定な症例に対し,診断的治療をかねてPTAVを考慮してもよい. IIb C軽症~中等度(弁口面積1.0 cm2以上)のASに対し,心不全徴候を有する症例に対して症候寛解を目的にPTAVを行うべきではない.
III Harm
症候性重症AS症例に対し,外科的弁置換術またはTAVIの実施が可能であるにもかかわらず,代替治療として症候寛解を目的にPTAVを行うべきではない. III Harm
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位程度で抗凝固を行う. 2 血行動態評価と造影: 右心カテーテルと熱希釈法によ
る心拍出量測定を行い,同時圧測定で弁口面積を評価する.冠動脈病変の情報がなければ造影する.3つのSOVの底面が同一平面に並ぶperpendicular viewを求め,大動脈造影を行う.ただし,慢性腎臓病の患者では必須ではない. 3 右室一時ペーシングカテーテルの挿入: 右室心尖部付
近の心内電気刺激応答の良好な位置に先端を固定する. 4 狭窄弁ワイヤ通過と左室内腔での安定したワイヤ留
置: 狭窄弁口の安定した通過には熟練を要する.ストレートのコイルワイヤまたは親水性ワイヤを用いて5 FrのAmplatz Left(AL1)あるいはJR4カテーテルの先端の方向と位置を操作すると狭窄大動脈弁口に挿入しやすい.通過したらカテーテルを左室流入部程度まで進め,260~300 cmの通常ワイヤに交換し,先端を強く押さないようにしながら左室内壁に沿った大きなループを作り固定,カテーテルを抜いてピッグテールカテーテルに交換する.上行大動脈と左室の同時圧を記録する. 5 スティッフワイヤの彎曲成型と安定した位置確保: サ
ファリワイヤまたはコンフィーダワイヤなどのプリシェイプドワイヤを,注意深く左室内心尖部まで進める.ワイヤは押し過ぎず,大きく浮かないように注意し,
ループした彎曲部を心尖部に入れて固定する.左室穿孔や心タンポナーデを防止するきわめて重要なポイントである. 6 拡張バルーンの選択と挿入:保険償還されている
PTAVのバルーンを表71に示す.PTAVでは高度弁逆流,弁輪破裂,心タンポナーデ,左室穿孔など重篤な合併症が起こりうるため,TAVIや開心術のバックアップ下で実施することが望ましい.バルーンサイズの選択は弁輪短径以下にとどめ,石灰化の偏在などにより径は小さくして行うほうがより安全である. 7 高頻拍ペーシングとバルーン拡張: バルーン中央を透
視下で狭窄弁に置く.ペーシングは160~200 bpmで行い,血圧を一時的に50 mmHg以下に5~10秒程度下げ,このあいだに2~3秒でバルーンを拡張する.バルーン拡張前に2~3秒のペーシングで同期不全を調べ,不全があれば心拍数を下げる.バルーン拡張時はバルーンが前後に動きがちであるため固定する.イノウエ・バルーンに関しては,高頻拍ペーシングは必須ではない. 8 大動脈造影と圧較差・血行動態評価: バルーンカテー
テルは上行大動脈に引き,腎機能に問題がなければ大動脈造影を行う.大動脈弁逆流の程度,造影剤の心嚢などへの漏れなどに注意する.同時圧較差,造影
表71 保険償還されているPTAV バルーン
名称バルーン直径 (mm)バルーン長(mm)シースサイズ(Fr)シャフトサイズ(Fr)
Z-MED II 16 40 9 7
18 40 10 8 20 40 12 8 22 40 12 9
VACS II 16 40 7 7
18 40 8 8 20 40 8 8 22 40 8 8
VACS III 16 40 9 7
18 40 10 8 20 40 12 8 22 40 12 9
イノウエ・バルーン20 (18~20) 35 10 10
22 (20~22) 35 10 10
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
所見,心エコー所見などで手技完了の可否を決める.・止血と術後管理
大径のバルーンカテーテル,シースを用いた場合は血管の損傷に注意し,必要であれば躊躇せずに外科的処置を行う.術後は心血管集中治療室にて厳重に管理すべきである.通常の血液検査とともに胸部X線,心電図を定期的にフォローし,早期に心エコー図で新たな合併症発生の有無と治療効果を確認する. ii. 逆行性PTAVの合併症と対策
1 血行動態破綻: 左室破裂,大動脈弁輪破裂,SOV破
裂,心タンポナーデ,suicide ventricleがそれぞれ1 ~2%の頻度で起こる.迅速な心嚢ドレナージ, PCPSによる循環管理,開心術への移行などを要する. 2 重症大動脈弁逆流: 弁尖の閉鎖不良となり1~2%に
出現.弁置換を要する.弁尖の一部がバルーン拡張により固定されてしまうstuck leafletが原因の場合は,ピッグテールカテーテルで弁尖を動かすことにより改善することがあると言われている.TAVIのバックアップがあれば,速やかにTAVI弁を入れることで解決することが多い. 3 肺水腫・左心不全・低心拍出量症候群: 昇圧薬,容量
負荷など循環呼吸管理に先を見越しての対応が必要. 4 重症不整脈: 心室細動,心室頻拍,完全房室ブロック
には,除細動,一時ペーシング,デバイス,薬物で対応. 5 脳塞栓・脳梗塞: 1~3%程度に発生する.脳動脈狭
窄例の遷延低血圧なども成因となる. 6 血管合併症: 大腿動脈,腸骨動脈などに病変のある例
が多く,術前に評価をして回避すること. iii. 逆行性PTAVの実施施設・チームならびに術者として推奨される事項
安全で有効な治療の実施には,熟練した術者のみならず,臨床所見の総合的評価に秀でた循環器内科医,弁膜症とPTAV・外科手術を熟知した心エコー診断医,多数例の大動脈弁手術の実施経験がある心臓外科医,ならびに放射線技師,看護師などのハートチームが,高いリスクを有する患者への対応に重要である.表72にこれまでの報告と全国的に高齢者ASが増加している現状を考慮して,実施施設ならびに実施術者の推奨事項を示した. c. 順行性PTAV
順行性大動脈弁バルーン形成術(antegrade PTAV)による順行性アプローチも,弁置換術やTAVIに先立つブリッジ治療か,もしくはそれらが不可能な患者に対する症候寛解治療としての役割が主体である点においては逆行性アプローチと相違はない.しかし,順行性アプローチの特長を活用すると,適切な条件下においては独自の治療効果を期
待することができる. i. 術式と特長698, 699)
順行性アプローチで用いるワイヤの経路は,下肢大腿静脈(14 Frシース)を起点として,下大静脈から右房に進み,経心房中隔的に左房に入った後は左室内に挿入される.左室で反転されて大動脈弁を通過したあとは,順行性に大動脈を進んで最終的に下行大動脈に至る.下行大動脈のワイヤ遠位部は経動脈的(最小4 Frシースが必要)に留置されたスネアカテーテルにより捕捉固定されて,安定したワイヤループの形状を保持するようにする.動脈シースの留置部位については上肢下肢を問うことなく,重症下肢閉塞性動脈硬化症や大動脈病変を有する患者に対しても施術が可能である.さらに,動脈アクセスに余裕があることから,血行動態不安定例に対応して大動脈内バルーンパンピング(IABP)を追加することも可能である700).
作成されたワイヤループを用いて,バルーンカテーテルを静脈側から経心房中隔的に順行性に大動脈弁位に進めて拡張術を行う.
塞栓の原因となるプラークは,大動脈壁と弁膜大動脈側に存在しているため,順行性のデバイス操作においては塞栓原となる大動脈側プラークを擦過するリスクは小さい.
14 Fr静脈シースを介して,イノウエバルーンを経静脈的・順行性に大動脈弁位に導入することが可能である.同バルーンの特長として,独自の拡張パターンにより確実なバルーン形成効果が得られること,迅速な拡張弛緩サイクルにより血行動態への干渉が少ないこと,一本のバルーンで幅広い拡張径を選択できること,そして,耐久性に優れており多数回の拡張を行うことができることなどがあげら
表72 逆行性PTAV の実施施設と術者に関する推奨
実施施設1. 日本心血管インターベンション治療学会教育研修施設・研修関連施設. 2. 心臓血管外科専門医基幹施設. 3. 大動脈弁疾患治療への内科医・外科医・心エコー診断医らによるハートチームを構成した治療の実施. 4. 外科的大動脈弁置換術の日常での実施と緊急心血管手術の体制. 5. 心エコー診断医による経食道心エコー実施,年間100例以上. 6. PTAVの毎年の実施術者条件を満たす術者が常勤の施設.実施術者1. 日本心血管インターベンション治療学会認定医・専門医または名誉専門医. 2. PTAVの経験が計10例以上,または最近3年間で5例以上. 3. 1~2 を満たす術者を助手とした指導下で,1 を満たす術者が実施.
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れる.目標とする拡張径よりもステップダウンした径から拡張を開始して,拡張径を徐々に増大させながら,各径で複数回の拡張を注意深く繰り返すことにより,従来の逆行性バルーン拡張に抵抗するような高度な石灰化狭窄弁に対しても,安全に十分な治療効果を得ることが可能である701). ii. 順行性PTAVの治療効果と安全性701)
イノウエ・バルーンを用いた順行性PTAVの治療効果の平均像として,術直後の弁口面積は術前値の1.8倍に改善する.従来の逆行性PTAVと比較すると,治療直後の弁口面積は20%ほど増大することが示されている.術後の経過において,可動性と弁口面積が再び減少する再狭窄の発生を避けることはできないが,初期治療効果の改善により,症例によっては治療効果が複数年にわたって持続することもある.また,症候再発症例については,経年的な弁構築の劣化は存在するものの,施術を繰り返すことにより再治療を行うことも可能である.
順行性PTAV施行に伴う合併症は,心室中隔穿刺術によるものとバルーン操作に伴うものを合わせて,急性大動脈弁逆流(AR)が1%,心タンポナーデが1.3%,大動脈解離は0.5%未満,心停止や急激な心血行動態破綻は1%未満であり,施術死亡率については0.5%未満にとどまっている. iii. 順行性PTAVの利点
順行性PTAVの利点をまとめると次のようになる. 1大動脈や下肢動脈の性状や形態に制限されることなく
施術が可能である. 2血管系合併症が少ない. 3大動脈塞栓性プラークの擦過,遊離による塞栓症リス
クが最小限である. 4血行動態不安定で,IABPの併用が容易である. 5ASにMSを合併した連合弁膜症例において,シング
ルバルーンにより一期的に連続して,PTAVと経皮経静脈的僧帽弁交連切開術(PTMC)を施術することができる702). iv. 順行性PTAVの問題点ならびに限界
施術の過程が逆行性アプローチに較べて複雑であり,治療成績と安全性は術者の熟達度と経験に大きく依存することがあげられる.不適切なワイヤループは,心筋,僧帽弁,大動脈弁に機械的負荷をかけて,一過性に逆流量の増加を招き,血行動態の不安定化に至ることがある.そのため,術中のワイヤループの維持に習熟することが重要である.とりわけ左心内ループの左室肥大のため左室内腔が狭小している症例,左室流出路を有する肥大型心筋症,僧帽弁狭窄症の合併や,著明な僧帽弁輪石灰化を有する患者では,ループの維持とデバイス操作の難度が増すために十分に経験を積んだ術者による施術が必要になる.また高齢患者を対象とするため,解剖学上の心血管構築の偏位(下大静脈
の蛇行,伴走動脈による圧迫,心臓構築の偏位)や中隔肥厚を呈しており,心房中隔穿刺術に熟練を要する場合がある. v. 順行性PTAVの利点
逆行性アプローチは,下肢動脈病変が高度な症例では血管系合併症のリスクが大きい.また,大動脈病変が高度(大動脈壁病変,瘤状変化,蛇行屈曲などの変形)な症例においては,末梢動脈塞栓症,脳梗塞,コレステロール塞栓症などのリスクが高くなるだけではなく,カテーテル操作自体が難しくなる場合がある.これらの症例においては,順行性PTAVが有利である. vi. 順行性PTAVが不適応もしくは困難となる症例
1 心房中隔穿刺術が禁忌となる症例(下肢大腿静脈アプ
ローチが困難な症例,著しく胸腰椎が変形した症例,下大静脈フィルター留置症例,心房中隔パッチ閉鎖術後の症例). 2 止血困難な凝固能異常また血小板異常を有している症例. 3 左心系(左房,左室)すなわちデバイスの通過経路に
活動性の有意な血栓や心臓腫瘍が存在する症例.ただし,左心耳に限局した血栓については,注意深い操作により施術が可能である. 4 感染性心内膜炎,僧帽弁人工弁留置術後の症例. 5 僧帽弁狭窄症,高度僧帽弁石灰化,左室肥大にともな
う流出路もしくは心内腔狭窄例など,理想的なワイヤループの形状を作成することが困難な症例では,イノウエ・バルーンの操作が難しくなる場合があり,熟練した術者による注意深い施術が必要になる. vii. 特殊な臨床的背景を有するAS症例に対する順行性PTAV
ASが主病像である場合,Sellers 分類III度を含むそれ以下のARが併存していても,注意深い拡張形成を行うことにより,施術が可能である.多くの症例で術前後のARに有意な変化を認めることはない.高度硬化石灰化を伴う二尖弁ASに対しても,順行性PTAVにより,十分な拡張形成効果を期待することができる.また再狭窄による症候再発を繰り返す症例に対しても,PTAVを繰り返すことにより,初回と同等の治療効果を得ることが可能である.いずれの病態においても,弁置換術(外科的もしくは経カテーテル的)の適用が困難な患者に限定して,症候寛解と血行動態の安定化を目的として行われる.
僧帽弁狭窄症(MS)の成因は,リウマチ性変性,動脈硬化性変化の2種類に大別される.リウマチ性MSにおいて
4.2 僧帽弁狭窄症
p.86
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
は,弁尖の肥厚および石灰化,交連部の癒合,腱索・乳頭筋の肥厚・短縮および癒合,弁輪部の縮小がみられる.これらの病理変化により弁口部狭窄をきたすと同時に,左室心筋や左房筋にまで病変が波及する場合がある.動脈硬化性MSにおいては,僧帽弁輪の石灰化から始まり,弁尖方向に病変が進展することが特徴である.
典型的なリウマチ性MS症例は減少傾向にあるが,過去に僧帽弁交連切開術の既往がある再施行患者,高度な動脈硬化性病変が混在する高齢患者や透析患者が増加傾向にあり,より高リスクで複雑な病態を呈する症例の割合が増加している.一般的に,弁口面積が1.5 cm 2以下の中等度以上のMSに進行すると,左房から左室への血液流入障害を生ずるようになり,左房圧の上昇とそれに伴う労作負荷時の臨床症状が出現すると考えられる.この段階に至ると,内科的治療の効果は一時的な症候寛解にとどまり,交連切開術や弁置換術により僧帽弁口の機械的狭窄を改善することが必要になる.
弁膜の性状がPTMCに適していれば,PTMCにより外科的治療と同等の治療効果,ならびに長期予後の改善を期待することができる.PTMCは手術に比べて施術に伴う侵襲度が小さい利点がある.
経胸壁心エコー法により,僧帽弁弁口面積,僧帽弁逆流症,心機能,合併大動脈弁または三尖弁疾患,ならびに僧帽弁の詳細な性状を評価する.経食道心エコーは必ずしも必要ではないが,左房内血栓の評価を目的として施行されることがある.とくに心房細動合併例では必須である.弁膜と弁下部組織の変形ならびに石灰化の重症度が,PTMCの適応決定に大きく影響するが,より客観性のある指標としてWilkinsスコアが汎用されている(表73).Wilkinsスコアは弁膜可動性,弁下部組織変化,弁膜肥厚,石灰化と4項目について評価を行い,項目ごとに0~4点で病変重症度に応じて得点化する.総合点が上昇するに従い,弁
4.2.1 術前評価膜の変形石灰化がより高度であることを示している.同ス
コアは,施術成功率,僧帽弁閉鎖不全(MR)発生のリスク,長期予後と密接に相関する指標となるが,8点以下はPTMCに適した弁膜形態と判断され,良好な長期予後を期待することができる.しかし,12点以上の症例では,合併症リスクが増大すると同時に,短期および長期治療効果が著しく低下する703).
適応決定に関わる因子として,弁口面積に基づくMS重症度,左房内圧上昇に伴う心不全症状,心エコー上の弁膜形状に基づくPTMCの至適性(Wilkinsスコア),合併MRの程度,左房内血栓の有無,肺高血圧症の重症度,患者の臨床的背景(外科的手術に対する耐容性,年齢,妊娠挙児希望)があげられる.治療に際して,左房内血栓や中等度~重症MRといった禁忌項目が除外されていることが前提となる704).
中等度から高度MSが確診されているが,変形・石灰化が強く施術に不適な弁膜形状を有する症例については,重症の心不全症候(NYHA心機能分類III ~IV度)を示しながら外科的弁膜置換術が著しく高リスクとなる症例に限定して,PTMCの適応が支持されている.これらの患者群には,脆弱な高齢患者,重篤な合併疾患や重要臓器機能低下のために全身状態が不良な患者が含まれている.
施術に適した弁膜性状を有する中等度から重症MS症例のうち,あらたな心房細動発症のみを臨床徴候としている症例に対しては,血栓塞栓症や心房細動発症の予防措置としての臨床的効果は確立していない.そのため,PTMCの積極的な施術は支持されていない705).
軽症MS(弁口面積が1.5 cm 2以上)については,MS自体の症状や血行動態に対する関与は稀薄であると考えられ,施術は勧められていない.
また特殊な臨床的状況として,PTMCに適した弁膜性状を有する中等度から重症MS症例では,以下の場合にお
4.2.2 PTMCの適応(表74)
表73 Wilkins スコアによる弁膜性状の評価項目
重症度弁膜可動性弁下部組織変化弁膜の肥厚石灰化
1 わずかな制限 わずかな肥厚 ほぼ正常(4~5 mm) わずかな輝度亢進
2 弁尖の可動性不良 弁中部,基部は正常 腱索の近位2/3まで肥厚 弁中央は正常 弁辺縁は肥厚 (5~8 mm) 弁辺縁の輝度亢進
3 弁基部のみ可動性あり 腱索の遠位1/3以上まで肥 厚 弁膜全体に肥厚(5~8 mm) 弁中央部までの輝度亢進
4 ほとんど可動性なし 全腱索に肥厚,短縮, 乳頭筋まで及ぶ弁全体の強い肥厚,短縮,乳頭筋まで及ぶ弁膜の大部分で輝度亢進
p.87
いてPTMCの適応が支持される(クラスIIa).
1急性肺水腫や心停止を呈したMSに対して,緊急の血
行動態再建を目的とする場合. 2妊婦または妊娠を希望する患者のうち,現在無症候で
あっても,妊娠ならびに出産に伴う血行動態負荷による心不全発症が懸念される場合706). 3無症候患者であっても,全身麻酔下で外科手術が予
定されており,術中の血行動態安定化が必要な場合.妊婦症例のPTMCは,妊娠後期に入って胎児の器官形成が完了して安定した段階において,放射線使用を最小限にして行う.
経静脈的経心房中隔的アプローチにより,左房を介して僧帽弁拡張形成デバイスを導入する.複数のバルーンを用
4.2.3 PTMCの実際いたダブルバルーンテクニックや金属製交連切開術用デバ
イスなどが使用されたこともあるが707),現況においては,イノウエ・バルーンの治療効率,有効性ならびに安全性が確立されているために,同バルーンによるシングルバルーンテクニックが主流となっている708).
MS症例に対する心房中隔穿刺術においては,左房拡張が著しいために,通常の解剖と比較して穿刺点が後下方に偏位することが多い.バルーンカテーテルの操作性を考慮すると,穿刺位置の選択はきわめて重要であり,一般的に, 1左房下縁から左房内に入ること,2高位の心房中隔筋性部の穿刺を避けることが勧められている709).心腔内エコーの使用は,心房中隔穿刺術を適切な位置で安全に施行するうえで有用である.左房内に挿入されたワイヤに沿って,イノウエ・バルーンカテーテルを挿入し,スタイレット操作により左房から左室にバルーンを導入する.その際,バルーンカテーテルが弁下部組織にトラップされていないことを確認したうえで拡張を始める.
注入する希釈造影剤量に応じて,単一のイノウエ・バルーンを用いて拡張径を段階的に調節する.患者の身長,年齢,臨床的背景,MRの併存,弁膜変形ならびに石灰化の重症度を総合的に判断して,開始拡張径,ステップアップの程度,目標最終拡張径を推定する.選択した目標最終拡張径から3~4 mm減じた径から開始して,血行動態の改善やMRの出現に留意しながら,1~2 mm幅で拡張径を段階的に増大させながら拡張操作を繰り返す710).
PTMCの治療効果のメカニズムは,癒合した交連部に裂開を形成することである.そのため,心エコー上の弁膜性状は,治療効果を予測するうえで重要な手がかりとなる.
交連部癒着が軽度にとどまり両側対称に分布し,弁腹部が柔軟で肥厚がないために拡張期にドーム状変形を示すような形状が,PTMCの理想的な適応症例である711).一方,弁膜変形と石灰化が重症化するにつれて,治療効果は低下し,リスクが増大する.交連部の一方に高度な癒着が偏在している場合には,過拡張により非癒着側に過裂開が生じる可能性がある.癒着の重症化に従って交連部に石灰化が生じると,拡張に抵抗して病変部の離開が困難になる例が増加する.弁尖,弁腹に硬化肥厚が進行した例では,交連部癒着の離開は達成されても,開口のパターン(スリット状の開閉)に改善が得られないために,不十分な弁口面積にとどまることが多い.弁尖・弁腹に石灰化病変が存在する場合,バルーン拡張により周囲の脆弱な非石灰化部分に裂傷が発生することがあり,前尖に高度裂傷をきたすと重篤なMRの原因となることがある712).
いずれの症例も慎重な段階的拡張法を行い,術中血行動態評価による左房圧と拡張期経弁圧較差の減少と,術中
表74 MS に対するPTMC 適応の推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
症候性 (NYHA心機能分類II ~IV度)の中等度以上MS(弁口面積が1.5 cm2以下)で弁形態がPTMCに適している症例に対し,PTMCを行う. I B無症候であるが,肺動脈収縮期圧が安静時50 mmHg以上または運動負荷時60 mmHgの肺高血圧を合併している中等度以上MSで,弁形態がPTMCに適している症例に対し,PTMCを行う. I B臨床症状が強く(NYHA心機能分類III ~ IV), MRや左房内血栓が合併しないものの,弁形態は,かならずしもPTMCに適しておらず,手術のリスクが高いために外科的弁膜置換術の適応が困難な症例に対し,PTMCを考慮する. IIa C症候性(NYHA心機能分類II ~IV度)の弁口面積1.5 cm2以上のMSで,運動負荷時肺動脈収縮期圧が60 mmHg以上,平均肺動脈楔入圧が25 mmHg以上,または平均左房左室間圧較差が15 mmHg以上のいずれかに該当する症例に対し, PTMCを考慮してもよい. IIb C無症候性であるが,新たに心房細動が発生したMSで,弁形態がPTMCに適している症例に対し,PTMCを考慮してもよい. IIb C軽症のMS症例に対し,PTMCを行うべきではない. III Harm C活動性の左房内血栓または中等度以上のMRを有する症例に対し,PTMCを行うべきではない. III Harm C
p.88
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
心エコーにより弁膜開口と可動性の改善を逐次確認する.そして重篤な逆流症の発生を未然に防ぐと同時に,最大の弁口面積を得るようにする.
成功率や合併症の発生は施設や術者の熟練度に多分に依存している.治療効果の平均像として,弁口面積が1.0 cm 2 から1.8~2.2 cm 2 へ増加し,経弁圧較差は13 mmHgから6 mmHgに減少し,左房圧は24 mmHgから19 mmHgに減圧する713).PTMC後に左房のコンプライアンスとポンプ機能が改善するため,心拍出量は平均20%増加し,肺動脈圧は10~25%減少する714).心房細動の改善がみられるのは20~25%の患者にとどまっているが,左房圧負荷による伸展のほかに,リウマチ性病変の心房筋への波及が発症に大きく関与していると考えられている.
合併症として,有意なMRを12.5%の症例で認めており, 2.5%の患者では重症MRのために入院中に外科的弁置換術が行われた715).入院中の死亡率は1%未満にとどまっているが,おもに高齢者,全身状態が不良な患者,ならびに心原性ショックに対して施術された患者にみられている.活動性の左房内血栓を確実に除外し,血栓が存在する場合も適切な抗凝固治療を十分期間行うことにより,脳梗塞の合併は1%前後に抑えられている.心穿孔は心房中隔穿刺術に関係するものとカテーテル操作に起因する例をあわせて約1%報告された.
肺体血流比が1.5を超える心房中隔交通の残存が2%の症例でみられるが,左房内圧が高い症例に発生しやすい傾向がある.
長期予後ともっとも強い相関関係があるのが,Wilkinsスコアである(表73).弁膜の形状が理想的な若年患者であれば,5年後のイベントフリー生存率は80%といわれている.一方,高齢患者にみられるように弁膜の変形が高度な症例では,5年後のイベントフリー生存率は60%に低下することが報告されている.
長期予後に影響を与えると同時に心血管イベント発生(死亡,外科的弁膜手術,再PTMC)の増加につながる因子として,Wilkinsスコアが8点を超えること,高齢患者,外科的交連裂開術の既往,術前の心機能がNYHA心機能分類IV度,術後の肺高血圧の持続,術前MRが2度以上もしくは術後MRが3度以上であること,そして心房細動の持続をあげることができる716-718).
弁膜の性状が良好な若年層に限ると,PTMC成功例の12年間のフォローアップでは,その予後は外科的交連切開
4.2.4 短期的効果と合併症
4.2.5 長期成績とそれを規定する因子術群と同等の成績であったという報告がある719).
以下の臨床的状況下では,PTMCは困難であるか不適応となる.
1胸腰椎の著明な変形,胸縦隔内の疾患または腫瘍によ
る心臓の変形や圧迫などにより,心房中隔穿刺術が著しく困難な症例. 2新鮮な左房内血栓,または抗凝固療法に抵抗を示す左
房血栓を認める症例.とくにその存在位置が重要であり,左房壁に付着した血栓や可動性のある血栓については,絶対禁忌となる.左心耳血栓については,十分な抗凝固療法を3ヵ月以上施行したうえで,注意深い施術操作により左心耳へのデバイスの迷入を避けることができれば,可能であると考えられる720). 3術前に中等度~高度なMRが認められる症例. 4弁膜の変形と石灰化が著明な症例(Wilkinsスコアが
12点以上). 5心臓血管外科的手術の対象となる他疾患(バイパス手
術が必要な冠動脈疾患,三尖弁縫縮術が適応となる重症三尖弁逆流[TR],重症三尖弁狭窄[TS],重症大動脈弁逆流[AR]を合併した症例については,MSとあわせて一括して外科的に治療することが望ましい.とくに重症ARの合併例では,すでに大動脈弁の拡張期逆流により左室に著明な圧容量負荷が加わっており,PTMCにより経僧帽弁流入血流量が増加すると血行動態が破綻する可能性がある.そのため,外科的
4.2.6 PTMCの不適応症例(表75)
表75 PTMC が不適応と考えられる症例の推奨とエビデン
スレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
僧帽弁の変形・石灰化が著明であり,とくに交連部石灰化を有する例に対するPTMCは推奨されない. III No benefit C外科的治療の適応となる連合弁膜症 (重症AR,TR,TSの合併)または冠動脈バイパス手術が考慮される重症冠動脈病変を合併する症例に対するPTMCは推奨されない. III No benefit C新鮮な,もしくは治療に抵抗性を示す左房内血栓を有する症例に対し,PTMCは行うべきではない. III Harm C 3度以上のMRを合併する症例に対し, PTMCは行うべきではない. III Harm C心房中隔穿刺術が著しく困難な症例に対し,PTMCは行うべきではない. III Harm C
p.89
に連合弁膜症を治療することが必要になる.
僧帽弁閉鎖不全(MR)は,心臓弁膜症のうちもっとも頻繁に遭遇し,弁尖や弁輪,腱索などの弁構造異常,左室・左房機能障害などによって僧帽弁の閉鎖が不完全となり,血流が左室から左房に逆流することによって生じる疾患である.逆流により,左房圧の上昇と容量負荷・拡大が起こり,さらに逆流量の増加例では左室容量の増大が起こる.腱索断裂や乳頭筋断裂などで起こる急性MRでは,左房と左室は容量負荷を代償できず,急激な肺水腫やショックを呈し,緊急の外科的治療を要することがある.一方,慢性MRの進行は緩徐であり,容量負荷は左房および左室の拡大により代償され,左室駆出率(LVEF)も正常ないし亢進する.しかし,経過とともに代償機能は破綻し,左室拡大の進行,左室心筋の伸展から収縮力低下をきたす.この結果,肺うっ血と心拍出量低下が生じ,顕性左心不全となる.高度閉鎖不全例は約90%が10年間に外科手術適応となるか死亡するとされ,同時に突然死のリスクも高い.
僧帽弁複合体の構造に異常がなくても,拡張型心筋症や虚血性心筋症ではびまん性あるいは局所左室機能障害により,また慢性心房細動に伴う弁輪拡大により二次的にMRとなる.この病態は機能性MRとよばれる.左室拡大により乳頭筋と僧帽弁輪の距離が延長し,収縮期に僧帽弁尖が弁輪部まで戻れず(tethering),間隙から左房への逆流を生じる.上記左室拡大例における中等度以上の逆流は患者の予後を左右する.
一般に外科手術が原則である.外科手術の治療指針は,日本循環器学会他,関連学会合同研究班による「2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン」により示されている3).手術に関する適否は,重症度,心不全症状,LVEF,および左室収縮末期径からの判断が推奨されている(図15,図16).しかし,左室機能の低下を示す患者ではリスクが高く,遠隔期生存率はかならずしも良好でない.左室収縮力が高度に低下している患者では,逆流の消失は後負荷増大となり,術後低心拍出症候群をきたしやすく,手術死亡が多いため,手術の適応とはしがたい.したがって,左室機能低下に伴う高度MR患者は,手術の適応としていないのが現状である.このため,高度MRであっても,LVEFが30~40%の患者では62%,LVEFが30%未満の患者では
4.3 僧帽弁閉鎖不全
4.3.1 MRの病態
4.3.2 治療86%で,手術が実施されていない721).さらに慢性閉塞性
肺疾患などの心臓以外の全身麻酔が困難な重篤な合併症例では,手術を実施できない.
edge-to-edge法とは,僧帽弁前尖・後尖の中央に糸をかけて8の字状に縫合する外科手術法の一つである.この方法を経カテーテル的に可能とすることを目的に開発されたデバイスが,“MitraClip ®システム”である.本デバイスは,僧帽弁を把持するクリップ部とそのデリバリーシステム,スティーラブルガイドカテーテルから構成される(図17).全身麻酔下に,経食道心エコーガイド下で治療手技が実施される.経大腿静脈的に心房中隔穿刺術を行ったのち,留置されたワイヤを通じて左心房までシステムを到達させる.続いてX線透視装置および経食道心エコーガイド下でクリップ先端を進め,僧帽弁の逆流部位を通し左心室までクリップを進め,開いたクリップのArm-Gripper間に僧帽弁前尖および後尖をつかみ,両弁尖が十分に把持されたことを確認したのちに逆流の減少を評価する.左室流入波形より僧帽弁圧較差を評価し,MRの改善が十分得られたことを確認したあとにクリップを固定し,留置を行う(図18)
722).
逆流減少が不十分,あるいは十分な減少が得られても僧帽弁圧較差が基準以上に上昇するようであれば,把持したクリップを開放し,別の位置にずらして同様に固定を行う.1個のクリップ固定で逆流の減少が不十分であれば,2個目を追加することもしばしば行われる.
2018年4月よりわが国で使用可能となったデバイスは, “MitraClip ®NTシステム”(第二世代デバイス)であった.現在は,“MitraClip ®G4システム”という第四世代デバイスが使用可能となっている.第二世代デバイスに比べてクリップarmがより幅広いもの(NTW/XTW),より長いもの(XT/XTW)など,計4種類のクリップ選択が可能となり,各gripperがそれぞれ独立して弁尖の把持が可能となるなどの特徴を有している(図17).
欧米では,開心術が不可能あるいは高リスクな重症心不全患者を対象に,MitraClip ®が施行されている.すでに10万人以上の患者に施行されており,経カテーテル僧帽弁治療デバイスのなかでもっとも多くのエビデンスを有している.欧州では2008年に一次性MR,二次性MRに,米国では2013年に一次性MR,2019年に二次性MRに対して承認された.
欧州心臓病学会(ESC)/欧州心臓胸部外科学会により共同で策定された「心臓弁膜症に対する治療のガイドライン
4.3.3 Edge-to-Edge法による僧帽弁逆流の治療
4.3.4 MitraClip ®治療の欧米での位置づけと現状
p.90
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
重症一次性MR EROA≧0.4 cm2,逆流量≧60 mL,VC幅≧0.7 cmなど*
症状なし症状あり
左室機能低下LVEF≦60%またはLVESD≧40 mm(LVESDI≧24 mm/m2)
外科治療の効果が
期待できる**
安全に耐久性のある
弁形成が可能**
半年から一年毎の経過観察経時的にLVEFが低下または
LVESDが増大するものは
手術適応を考慮僧帽弁形成術
推奨クラスIIa僧帽弁形成術(僧帽弁置換術)
推奨クラスIIa僧帽弁形成術(僧帽弁置換術)
推奨クラスI僧帽弁形成術(僧帽弁置換術)
推奨クラスIIa内科治療
著明な左室機能低下
LVEF≦30%
新規発症心房細動または安静時PASP>50 mmHg
なし
なし
いいえいいえ
はいはい
なしあり
ありあり
図15 重症一次性MR の手術適応(日本循環器学会 / 日本胸部外科学会 / 日本血管外科学会 / 日本心臓血管外科学会. 20203)より)
*重症度評価については本文参照,
**弁膜症チームの協議により判断するMR: 僧帽弁逆流,EROA: 有効逆流弁口面積,VC: 縮流部,LVEF: 左室駆出率,LVESD: 左室収縮末期径,LVESDI: 左室収縮末期径係数, PASP: 肺動脈収縮期圧,CABG: 冠動脈バイパス手術,CRT: 心臓再同期療法,PCI: 経皮的冠動脈インターベンション
重症二次性MR
CRT/PCIまで考慮した
内科治療
心不全症状
LVEF
>30% >30% ≦30% ≦30%
LVEF
CABGの適応
僧帽弁形成術推奨クラスI僧帽弁手術推奨クラスIIbカテーテル手術
推奨クラスIIb弁膜症チーム
による検討定期観察
なしあり
なしあり
*
図16 左室収縮機能低下に伴う重症二次性MR の手術適応[2020年改訂版 弁膜症治療のガイドラインからの変更点]図10「左室収縮機能低下に伴う二次性MRの手術適応」より,重症二次性MRの部分を抜粋した. (日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会.20203)より改変)
*年齢,手術リスクに基づいて弁膜症チームで決定するMR: 僧帽弁逆流,EROA: 有効逆流弁口面積,VC: 縮流部,LVEF: 左室駆出率,LVESD: 左室収縮末期径,LVESDI: 左室収縮末期径係数, PASP: 肺動脈収縮期圧,CABG: 冠動脈バイパス手術,CRT: 心臓再同期療法,PCI: 経皮的冠動脈インターベンション
p.91
2017年改訂版」では,一次性MRに関しては,重症でエコー基準を満たし,手術不能あるいは高リスクとハートチームにより判断された患者において考慮されうる(クラスIIb,レベルC) 581).二次性MRに関しては,最適な薬物治療(適応があれば心室再同期療法含めて)にも関わらず症状を有し,LVEFが30%以上の重症例であり,エコー基準を満たし,手術リスクが低くなく,血行再建の適応がない場合に考慮されうる(クラスIIb,レベルC).LVEFが30%未満の場合は,個々の患者の状況に応じて補助人工心臓あるいは心移植につき慎重に評価したのち,考慮されう
る(クラスIIb,レベルC).また,本治療法の実施にあたり,循環器内科,心臓外科を含めた関連する複数の専門医により構成されたハートチームが必要であると記載されている.
米国では,2013年に外科的治療が高リスクで困難とされる変性性弁逸脱によるMRに対し,MitraClip ®の臨床使用をFDAが承認した.また,2014年の“AHA/ACC Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease”に本治療法をとりあげた582).経カテーテル治療に
図17 MitraClip ® G4 システムの全体像と4 種類のクリップ
図18 MitraClip ® システムの挿入からクリップの固定方法(Feldman T, et al. 2011722)より) "Reprinted from J Am Coll Cardiol., 63(20), Feldman T, Young A., 2057-2068., Copyright (2014) by the American College of Cardiology Foundation, with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/journal-of-the-americancollege-of-cardiology"
4 種類のクリップ
Clip delivery system (CDS)
Stabilizer
Clip
Steerable guide catheter (SGC) Gripper line
p.92
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
よる僧帽弁形成術は,NYHA心機能分類III ~IV度の重症な心不全を有する一次性MRで,併存する条件により手術が禁忌であり妥当な生命予後が期待される患者を対象に,クラスIIb,レベルBでの推奨を示した723).2017年の“AHA/ACC Focused Update”においても同様の位置づけとなっている582).後述するCOAPT試験の結果を受けて,米国では2019年に二次性MRに対してもMitraClip ®が承認され,2020年にAHA/ACCガイドラインが更新された.ガイドラインに遵守した最適薬物療法下において心不全症状を有する(NYHA心機能分類II ~IV度),左室収縮機能障害(LVEF<50%)に伴う慢性重症二次性MRの患者において,経食道心エコー法にて適切な解剖と判明しており,LVEFが20~50%,LVESD≦70 mm,肺動脈収縮期圧≦70 mmHgである場合に,クラスIIa,レベルBとされ,初めてクラスIIaの推奨を示した723a).
一次性MRに対するMitraClip ®治療のエビデンスは比較的初期のものに限られている.おもに症候性重症患者について,MitraClip ®と弁形成および弁置換を含む従来の外科手術を比較した北米の多施設共同ランダム化比較試験であるEVEREST II試験では,一年での生存率に有意差は認められなかったものの,1年以内の僧帽弁手術施行率はMitraClip ®群で有意に高かった724).MitraClip ®は解剖学的な制約があるため,外科手術リスクが低い患者における一次性MRに対しては手術が第一選択となる.一方,手術リスクが高い患者でエコー基準を満たしていれば適応となりうる.重症一次性MRに対して次世代MitraClip ®デバイスを使用したMitraClip ®と外科的僧帽弁形成術を無作為で比較するREPAIR MR試験(NCT04198870)が現在準備段階となっており,今後のエビデンスの蓄積が期待される.
二次性MRに対する単独の僧帽弁手術の有効性については,いまだにcontroversialであり,予後を改善するデータも存在しない.実際,欧米およびわが国のガイドラインにおいても,慢性重症二次性MRに対する単独の僧帽弁手術に関してはクラスIIb,レベルBあるいはCとなっている.そのため,こうした患者に対するアンメットニーズが存在しており,MitraClip ®が期待されている.実際,欧州における実臨床では,MitraClip ®の7割程度が二次性MRに対して行われている.近年,左室機能障害に伴う二次性MRを対象として,ガイドラインを遵守した薬物療法群と薬物療法にMitraClip ®を追加した群を無作為に比較した2つの重要な試験,COAPT試験とMITRA-FR試験が報告され
4.3.5 一次性および二次性MRに対するMitraClip
®治療のエビデンスた725, 726).COAPT試験では,MitraClip ®群で2年後の心
不全再入院リスクが47%低下しただけでなく,全死亡リスクも38%低下しており,二次性MR患者に対する治療介入として初めて死亡率を有意に減少させた.一方,同時期に報告されたMITRA-FR試験では,心不全再入院および全死亡いずれのリスクにおいても,MitraClip ®の追加で減少しないという結果であった.なぜ異なった結果となったのか,さまざまな考察がなされている727, 728).MRの重症度の指標である有効逆流弁口面積がCOAPT試験で平均41 mm 2,MITRA-FR試験で平均31 mm 2 と,MITRA-FR試験のほうがより重症度の低い患者が登録されていた.一方,左室拡張末期容量係数はCOAPT試験で平均101 mL/m 2, MITRA-FR試験で平均135 mL/m 2と,MITRA-FR試験のほうがより左室拡大の進行した患者が登録されていた.また,ガイドラインを遵守した薬物療法はCOAPT試験がより厳格であったのに対し,MITRA-FR試験では不十分であったことが指摘されている.MitraClip ® 自体も, COAPT試験ではより成功率が高く合併症発生率が低かったのに対し,MITRA-FR試験では成功率・合併症率ともにCOAPT試験と比較して劣っていた.
わが国で実施されたMitraClip ®の安全性・有効性を評価する多施設共同治験(AVJ-514)では,LVEFが30%以上の症候性重症一次性および二次性MRで,ハートチームで外科手術高リスクと判断された患者が対象とされた.平均年齢80歳,STSスコア10.2%で,一次性・二次性の割合はほぼ半数ずつであった.MitraClip ®による主要有害イベントおよびデバイス合併症は0%,治療後のMR≦2+で定義された急性手技成功は87%であった.これによりわが国では,LVEFが30%以上の一次性および二次性MRが治療対象となった.COAPT試験のサブ解析により, LVEFが20~30%の患者においてもMitraClip ®による心不全あるいは死亡抑制効果が確認されたことを受けて,わが国では,2020年5月よりLVEFが20%以上と適応が拡大された.
a. 適応基準策定の考え方
現在も国外では介入研究が実施中であり,今後,継続的に当該基準の見直しが必要であると考える. b. 対象疾患等
慢性期(急性期を脱した状態を含む)で,至適薬物療法を行っているにもかかわらず,心不全症状を有する高度MR(MRの重症度は安静時,負荷時を問わない)患者のう
4.3.6 MitraClip ®のわが国での位置づけと現状
4.3.7 わが国におけるMitraClip ®治療の適応基準
p.93
ち,MRの改善により症候が軽快することが期待されるにもかかわらず,外科手術が困難かつMitraClip ®に適した僧帽弁の形態である患者. c. 選択基準i. 全般的選択基準
1LVEF≧20%で症候性重症一次性・二次性MR(安静
時ないし負荷時にMR≧3+)を有し,MitraClip ®により症候が軽快することが期待される患者. 2手術リスクが高い症例であること.手術リスクは,心
不全を専門とする医師や心臓血管外科専門医を含む循環器内科医と心臓血管外科医で構成されるハートチームで評価すること. 3大腿静脈アプローチおよび経心房中隔穿刺法が適用
可能な患者*. *「最新のガイドラインに準じた至適薬物療法が十分に行われていない二次性MR」「心不全急性増悪」「強心薬に依存している状態,ただし一時的な使用であれば依存とはみなされない」「補助循環を使用している症例」を除く.
ii. 解剖学的選択基準(MitraClip ®システムに関する基準)
1主たる逆流ジェットがA2/P2弁尖に存在する(A1-P1
あるいはA3-P3病変も治療可能であるが,技術的難易度や腱索にからむリスクが上がる). 2弁尖の解剖学的特徴を有する(図19) 729). 3弁尖のテザリングが存在する場合(二次性MR).
・接合部長(coaptation length)≧2 mm・接合部の深さ(coaptation depth)<11 mm 4弁尖のflailが存在する場合(一次性MR).
・Flailギャップ(flail gap)<10 mm・Flail幅(flail width)<15 mm d. 本治療法が不適な患者
1MitraClip ®システムを大腿静脈に挿入困難,あるい
は同側に深部静脈血栓症が存在する. 2弁尖の解剖学的特徴により,機器の操作・留置が困
難,あるいは十分なMR改善が期待できない.例としては以下を含むが,この限りではない.
図19 MitraClip ® の治療対象となる僧帽弁尖の解剖学的特徴(Feldman T, et al. 2009729) より) Reprinted from J Am Coll Cardiol., 54(8), Feldman T., et al., 686-94., Copyright (2009) by the American College of Cardiology Foundation, with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/journal-of-the-american-college-of-cardiology
p.94
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
・MitraClip ®留置予定部位の石灰化.・MitraClip ®留置予定部位の顕著な裂隙.・2ヵ所以上で高度なMRを認め,MitraClip ®治療による病態の改善が望めない.・MitraClip ®治療により弁尖の動きが著しく制限され,僧帽弁狭窄をきたす可能性が高い.・後尖<7 mm・僧帽弁口面積<3.0 cm
2 ・僧帽弁の活動性感染性心内膜炎など僧帽弁に活動性
を有する変性病変が存在する.・僧帽弁位人工弁置換術後.・心臓内腫瘍,心臓内血栓,心臓内疣腫(vegetation)の存在.・食道疾患などにより経食道心エコーの実施が不可能.・MitraClip ®システムの素材,施術に使用する薬剤に対し,禁忌あるいは過敏症を有することが既知.・非心臓性併発疾患があり,余命が1年未満と推定される. e. 施設実施基準,実施医基準
チームとして行う治療法であり,特定の医師のみで施行すべきでない.カテーテル治療,心エコー検査,心不全診療,心臓血管外科の各領域の専門医を含むチーム構成が可能であり,MitraClip ®システムを用いた施術を安全に実施することが可能と判断される設備と実績を有する施設であることが求められる.
本件についてはすでに策定され関連学会に配布されている.前述のように,今後,継続的に当該基準の見直しが行われる予定であり,本項では割愛する.
日本循環器学会の「ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)」において心筋梗塞後心室中隔穿孔に対する治療方針が解説されている730).しかし,明確なエビデンスは海外・国内を問わず存在しない.カテーテルによる経皮的心室中隔穿孔閉鎖術は未承認の治療法である.本項では,有効性・有用性についての報告があるか,専門家の見解が一致しているものについて記載した.
心筋梗塞後心室中隔穿孔はいったん発症すると予後不良であり,緊急の外科的治療が望まれる730, 731).しかし実臨床では,組織学的脆弱性から発症直後には緊急手術が困難であると判断され,理論的には早急な外科手術が必要な場合でも,壊死組織と周囲組織の瘢痕化や脆弱化が改
4.4 心筋梗塞後心室中隔穿孔(表76)
4.4.1 適応善するまで,大動脈内バルーンポンプなど種々の補助循環
装置を挿入し待機することもある732, 733).また状態不良でショックの患者も多く,開心術は不可能と判断される場合も多い.薬物治療のみでは予後不良であり,ほとんどの症例が死亡する.本治療はこのような症例に対して,早期に穿孔部を閉鎖する方法である.
心室中隔穿孔の発生率は再灌流療法の発達とともに減少し,急性心筋梗塞(ST上昇型)患者の0.2%程度になってきている734).以前は,発症から穿孔までの期間は3~5日とされていたが,GUSTO-IおよびSHOCK trial registryによれば,血栓溶解療法を受けている患者では心筋梗塞後最初の24時間がもっとも穿孔の可能性が高いとされている734, 735).左心機能が良好で血行動態が落ち着いている場合でも,穿孔部位の拡大から急激な循環動態の破綻をきたすことがあるため736),実際には血行動態が落ち着いていても緊急手術が施行されているとは言いがたい.最近の研究では,血行動態が落ち着いていれば外科手術を3~4週間待つべきであるという報告が相次いでいる737).外科手術では,穿孔部のパッチ閉鎖術が行われ,虚血が解除されていなければ冠動脈バイパス術(CABG)が同時に施行される.心筋梗塞発症3日目~4週間以内の早期手術の術後院内死亡率は52.4%で,発症1週間目以降~4週間目以降に施行された手術では術後院内死亡率は7.6%であった
4.4.2 外科的治療と内科的治療
表76 心筋梗塞後心室中隔穿孔の管理に関する推奨とエビ
デンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
心筋梗塞後心室中隔穿孔を併発した際には,血行動態の如何にかかわらずICUに搬送し,侵襲的モニタリングおよびIABP挿入を行う. I B心室中隔穿孔を合併した患者において,血行動態が維持できない場合には早急な外科的修復を行う. I B心室中隔穿孔の修復と同時に冠動脈バイパス術を行う. I B血行動態が維持できる場合には1週間以上あけてからの外科的修復術を考慮する. IIa C・わが国で承認されたデバイスが存在しないため,本ガイドラインではカテーテ
ルによる心室中隔穿孔閉鎖術の推奨レベルを呈示しない.・補助循環装置にて血行動態が維持できる場合には,発症後1 週間以上あけてか
らの治療が有効である可能性がある.・わが国でカテーテルによる心室中隔穿孔閉鎖術が施行される場合には,経皮的
心腔内短絡閉鎖デバイスを扱う施設および術者に限って行われるべきである.
p.95
737).The society of thoracic surgeons (STS)データベースからは手術死亡率は全体で42.9%であった.心筋梗塞発症後7日以内の手術死亡率は54.1%で,7日以降では18.4%であった.とくに発症後6時間以内に手術施行した症例では,死亡に関するオッズ比は6.18ともっとも高かった738).心原性ショックの患者は死亡率が高く,SHOCK registryでは87%であった739).しかし,手術患者の死亡率は内科的治療を行った患者に比べれば有意に低く,GUSTO-Iによれば,外科的治療群と内科的治療群の死亡率はそれぞれ47%,94%であった.
米国のレジストリでは,18例(5例は心筋梗塞発症後6日以内の急性期,残りの症例は梗塞の診断後14~95日に実施)にAmplatzer VSD occluderが用いられ,88.9%でデバイス留置に成功し,30日死亡率は28%であった.2例では残存短絡のために2回目の治療を要した.残存短絡は,軽微なものが6例,中等度のものが2例であった740).欧州の単一施設報告では,ASOあるいはVSD occluderを用いて29例治療し,初期成功率は86%,30日死亡率は35%であった.30日死亡率が高い理由は,超急性期治療(中央値1日)によるとされている.発症早期にデバイス留置術を行い,短絡を軽減させ壊死心筋が組織学的に強固になる発症3~4週後に外科的閉鎖術を行うと,治療成績が向上する可能性があるとの報告がある741). 51例の心室中隔穿孔症例に外科手術またはAmplatzer Post Infarct Muscular VSD Occluderを用いて閉鎖を行ったカナダからの単一施設報告では,治療までは平均4日間で,術後早期死亡率は33%であった.12例が経皮的治療を受け,予後不良因子である後壁VSD群の30日死亡率は42%であった742).同報告でも,中程度までの心室中隔穿孔症例は経皮的治療が可能であり,大きな心室中隔穿孔症例であってもデバイスを留置することによって心不全を改善させ,心筋の線維化を待ち患者を安定させ,待機的外科手術をより高い成功率で施行可能であるとしている.遺残短絡は溶血を起こすこともあるが,デバイスの血栓化,内皮化によって数ヵ月後に遺残短絡が自然消失したとの報告がある743).わが国では,2012年に発症28日目以降にASOを用いて治療し,生存退院したという報告がある744).ASO認可施設において認定術者による心筋梗塞後心室中隔穿孔閉鎖術が可能であることを証明している.閉鎖デバイスは複数あるが,治療成績の向上のためには,最適なデザインとサイズの器具を用いることが重要である.ADOなども症例によっては有効である745).
4.4.3 カテーテルによる経皮的心室中隔穿孔閉鎖術
4.5 弁留置後弁周囲逆流(表77)弁留置後弁周囲逆流(PVL)は,人工弁植込み術後の5
~17%に生じるといわれている746).無症候性が多いが,溶血,心不全または双方を呈することがある.有症候例では外科手術が推奨されてきたが,再手術は基礎にある組織脆弱性,炎症,または石灰化のためにかならずしも成功するとは限らない.再手術に関する死亡率も高く,6~42%と報告されている.周術期の合併症が多く,再発率も20 ~37%と高率で,10年生存率は63%と報告されている747).こうした高リスク症例に対して経皮的PVL閉鎖術が行われるようになった.
1992年にPVLに対する経皮的閉鎖術が初めて報告された748).同報告では,7例全例でデバイス留置に成功している.1例のみ急性期合併症(溶血,乏尿,デバイス塞栓)を生じ,デバイスをより大きいサイズに交換するための再治療かつ肺動脈に飛んだデバイスをカテーテル的に回収する処置が必要であった.
2011年の報告では,115名の患者の141欠損孔に対し,適応外使用にてAmplatzer Septal Occluder,Duct Occluder,Muscular Ventricular Septal Defect OccluderおよびVascular Plug IIが用いられた.適応は溶血性貧血または心不全を有する開心術の高リスクの患者(STSスコアは平均6.9)であった.デバイスは125欠損孔に植込まれ
4.5.1 経皮的閉鎖術の歴史
表77 PVL に対する経皮的PVL 閉鎖術の推奨とエビデン
スレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
経胸壁心エコー図にてPVLを認める症例では,定期的に心エコーを繰り返し, PVLの増悪の有無の評価を行う. I C有症候性のPVLを認める症例に経食道心エコー図を行い,PVLの位置,広がり,形態の確認を行う. I C有症候性のPVLを認める症例に対し,外科的再手術により閉鎖術を行う. I C難治性溶血または重症心不全といった症候性PVLで,欠損孔の形態が現在使用可能なデバイス留置に適している症例であり,かつ外科的修復術が高リスクである場合,経皮的PVL閉鎖術を熟知した術者のいる施設においてハートチームアプローチにて同治療を考慮する. IIa B無症候性のPVLに対し,外科的もしくは経皮的PVL閉鎖術を行うべきではない. III Harm C
p.96
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
(合計欠損孔の89%),19症例は多発性であった.成功を1度以上の逆流の減少と定義した場合,77%の成功率であった.30日以内の合併症は8.7%に生じた(突然死・原因不明死1.7%,脳卒中2.6%,緊急外科手術0.9%,出血5.2%). 2症例にてデバイスの脱落・塞栓を生じたが,すべてカテーテル的に回収可能であった.手技による死亡はなかった749).
2016年の報告では,259例の患者における308のPVLに対して経皮的閉鎖を行い(僧帽弁周囲44%,大動脈弁周囲48%,両方2%,TAVI後5%,肺動脈弁周囲0.4%),デバイス留置成功が91%であったが,院内死亡は2.9%にみられた.臨床的には術前の重症~中等症の逆流が95%にみられたが,術後には25%に減少していた750).2020年の欧州からの多施設国際共同研究の報告751)では,Occlutech PLDデバイスを用いて治療が行われ,136例が登録された(僧帽弁周囲67.6%,大動脈弁周囲32.4%).NYHA心機能分類クラスIII/IVの心不全患者は,治療前77.3%にみられたが,治療後16.9%まで減少した.溶血性貧血のための輸血率は,僧帽弁周囲へのPVL治療で36.8%から5.9%に減少し,大動脈弁周囲の治療では8.3%から0%と改善した. 6ヵ月間のフォローアップにおいて全死亡は7.4%であった.合併症は,デバイスの弁尖との干渉(0.7%),経皮的に回収したデバイス塞栓(0.7%),遅発性デバイス塞栓(0.7%),再発性溶血性貧血(2.2%),新規発症溶血性貧血(0.7%),外科的人工弁手術(2.2%),再経皮的PVL閉鎖(0.7%)があげられた.
わが国では,2015年に最初の経皮的PVL閉鎖術の報告752)があり,その後少数例での報告が続き,欧州で承認されているOcclutech PLDデバイスを用いた前向き多施設臨床試験であるtRanscathEter cloSurE of pAravalvular Leaks (RESEAL)が行われた.本試験では29症例が登録され(僧帽弁周囲逆流26例,大動脈弁周囲逆流3例),グレード1以上の逆流改善をエンドポイントとした手技成功は, site解析で93.1%,core-lab解析で65.5%であった.安全性1次エンドポイントである30日および院内死亡は3.4%であった(unpublished data).
術前の経胸壁心エコー,CT,術中の3D経食道心エコー,透視画像は,PVLの位置,大きさ,形状を同定する鍵であり,これらの画像診断の果たす役割は非常に大きい.
僧帽弁周囲の欠損孔については,経大腿静脈での順行性経中隔アプローチにて治療が可能である(図20a).代替アプローチとしては,経大腿動脈での逆行性経大動脈弁アプローチ(図20b)や経心尖部アプローチ(図20c)があ
4.5.2 経皮的閉鎖術の実際げられる.欠損孔が楕円形または半月型の場合は,大きな
デバイス1つを留置するよりも,複数のより小さいデバイスの同時・連続展開のほうが成功率が高く,人工弁とのコンタクトが最小限となり,よりよい結果と安全性が担保される.傍大動脈弁欠損孔では,経大腿もしくは上腕動脈の逆行性アプローチにてデバイスで閉じることが可能であるが(図20d),慎重な解剖学的評価と治療計画の立案が必要である.経皮的PVL閉鎖術は開心術後のみならず, TAVI後においても適応となる.
2017年に発表された欧州の弁膜症ガイドラインでは,外科的高リスク患者におけるPVLについては,ハートチームにて議論し経皮的閉鎖を考慮してもよい(クラスIIb)と記載されている581).また,同年にアップデートされた米国の弁膜症ガイドラインでは,経皮的PVL閉鎖術は難治性溶血またはNYHA心機能分類クラスIII/IVの心不全患者において,手術リスクが高い場合はPVL閉鎖の専門家がいる施設で行い,カテーテル治療に適した解剖学的特徴をもっている場合にクラスIIaで適応となっている753).
三尖弁は僧帽弁と比較して,coaptation zoneの幅が狭い.さらに右室圧が低く,僧帽弁ほどtightな閉鎖を要しないことから,軽度の三尖弁閉鎖不全は健常者にも高率に認められる.三尖弁閉鎖不全の病態は,リウマチ熱や感染性心内膜炎,外傷,カルチノイド,Marfan症候群,三尖弁逸脱,Ebstein病など,三尖弁の解剖が障害される一次性と,左心不全や肺高血圧に続発する右室の拡張や右心不全,さらには心房細動による右房拡大などが原因で発生する二次性(機能性)に分類される.頻度としては,二次性が主である754).
近年,未治療の三尖弁閉鎖不全の予後が不良であるとの報告が相次いでいる755-757).これを受けて,三尖弁閉鎖不全に対する外科的早期介入がガイドラインでも強調されるようになった.
三尖弁閉鎖不全に対する経カテーテル治療は,有症候性の手術高リスク症例に対する外科手術の代替治療として期待されるものの,現時点で欧米の弁膜症治療ガイドラインにおいても推奨度の記載は存在しない.
経カテーテル三尖弁閉鎖不全症の治療オプションとしては,経カテーテル三尖弁置換術,経カテーテル三尖弁輪形成術,経カテーテル三尖弁尖修復術などがあげられる.
経カテーテル三尖弁置換術は,既存の弁輪リングや生体
4.6 三尖弁閉鎖不全
4.6.1 三尖弁閉鎖不全に対するカテーテル治療
p.97
弁の内側に経カテーテル的に人工弁を留置するvalve-inringあるいはvalve-in-valveテクニックが用いられる758- 762).この手技では,経静脈的にMelody弁やSAPIEN弁が留置される.近年では,治療歴のないnativeな三尖弁に対する経カテーテル三尖弁置換術も試みられている.
経カテーテル三尖弁輪形成術としては,Cardiobandシステム763)を用いてpartial bandを三尖弁輪に留置し,弁輪
を絞めることで三尖弁逆流を減少させる方法が主である. Cardiobandは,経カテーテル三尖弁治療のデバイスとしては初めてCEマークを取得した(2018年4月)Cardiobandを用いた経カテーテル三尖弁輪形成術の安全性・有効性については,現在,TRI-REPAIR studyによって検討が行わ
人工弁
人工弁人工弁
人工弁
a. 経大腿静脈での順行性経中隔アプローチ
c. 経心尖部アプローチ
図20 経皮的PVL 閉鎖術赤い矢印はシースとデバイスの挿入方向を示すd. 経大腿もしくは上腕動脈の逆行性アプローチ
b. 経大腿動脈での逆行性経大動脈弁アプローチ
下大静脈→右房→左房を経由して僧帽弁輪にあるPVLに到達する順行性経中隔アプローチ(下大静脈経由)
心尖部→左室を経由して僧帽弁輪にあるPVLに到達する心尖部アプローチ(心尖部経由)大動脈から人工弁輪にあるPVLに到達する逆行性アプローチ(大動脈弁経由)
大動脈→左室を経由して僧帽弁輪にあるPVLに到達する逆行性アプローチ(大動脈弁経由)
p.98
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
れている.Cardioband以外のデバイスは,Trialignシステム,Tricinchデバイスなどが臨床応用されている764, 765).
経カテーテル三尖弁尖修復術では,MitraClip ®システムやMitraClip ®と同様の機構で弁尖を把持するデバイスであるPASCALシステムが用いられる.MitraClip ®システムを用いた経カテーテル三尖弁尖修復術については, TRILUMINATE studyによって治療の安全性・有効性が確認されている766).TRILUMINATE studyでは,欧米の21施設において心不全症状を伴う三尖弁閉鎖不全(中等度以上)を有する85症例(平均78歳,女性56例)を対象として行われた.三尖弁閉鎖不全治療用に改変されたMitraClip ®(TriClip)を用いて治療を行ったところ,術後30日の段階で86%の症例で三尖弁閉鎖不全が有意に減少し,心不全症状の改善も認められた.三尖弁閉鎖不全や心不全症状の改善は術後6ヵ月時点でも持続していた.周術期死亡症例や緊急開胸手術を要する症例は認められなかった.術後6ヵ月時点での死亡率は5%であった.
三尖弁閉鎖不全に対する経カテーテル治療は,経カテーテル弁膜症治療の分野では,もっとも新しく,数多くの臨床研究が活発に行われている.
わが国においては,左心系手術時に三尖弁閉鎖不全を合併した場合の外科的介入は積極的に行われているものの,三尖弁閉鎖不全に対する単独の外科的治療は限定的にしか施行されていない14).単独三尖弁手術は術後成績が不良であるとの報告もあることから756, 768, 769),三尖弁単独に治療介入を必要とする手術高リスク症例に対する経カテーテル治療は大いに期待される.また,大動脈弁狭窄や僧帽弁閉鎖不全に対して経カテーテル治療を行う症例においても,三尖弁閉鎖不全の合併は予後を悪化させるとの報告もあることから769-771),左心系の弁膜症に対する経カテーテル治療を行う症例における,三尖弁への経カテーテル治療の役割についても,今後十分な検討を要する.薬物治療と比較して,経カテーテル三尖弁閉鎖不全治療が予後を改善するとのエビデンスも登場しつつあり772),この領域のさらなる発展が期待される.
4.6.2 今後の展望ステントグラフトは,1991 年に腹部大動脈瘤に対して
Parodi らの論文により世界的注目を浴びた773).わが国では,1993年に加藤らが大動脈解離に対してステントグラフト治療を行い,胸部大動脈疾患を中心にステントグラフト治療が行われるようになった.さらに2007年4月に企業製造の腹部用ステントグラフトが,2008年3月に企業製造の胸部用ステントグラフトが薬事承認・保険収載され,急速に普及した.また,欧米と比較してアジアでは発生率が3倍高いとされている大動脈解離に対しても,わが国独自の試みがなされており,独自のデータも輩出している774-776).
しかし,わが国では,「特定保険医療材料の材料価格算定に関する留意事項」777)において,「腹部大動脈用ステントグラフトは腹部大動脈瘤に対して外科手術が第一選択とならない患者で,かつ,当該材料の解剖学的適応を満たす患者に対して,ステントグラフト内挿術が行われた場合にのみ算定できる」「胸部大動脈用ステントグラフトは,1回の手術に対し1個を限度として算定できる.なお,以下の場合には1回の手術に対して2個を限度として算定して差し支えない」とされ,保険医療材料としての制限がある.本ガイドラインにおいては,これらに縛られず,医学的見地により,わが国ならびに欧米でのエビデンスを反映させた.
また,7学会合同研究班による「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版)」778)には,血管内治療での治療推奨が詳細に記載されている.2011年以降,検査,治療方法,成績に関しては大きな変化はないため,上記ガイドラインを参照していただきたい.本ガイドラインでは,2011年以降に変更のあった血管内治療の適応について,解剖学的適応,病態的適応,治療におけるシステムからの適応に分けて評価を行った.
なお,診断・治療法の推奨基準とエビデンスは ACCF/ AHAガイドライン779)に準じて分類を用いた.
ステントグラフトを用いた治療では,解剖学的部位によりその適応は著しく変化する.そのため解剖学的部位によりその適応を判断した.ただし,現時点でのデバイスの使用適応を満たしたうえでのガイドラインであり,デバイス
5 後天性大血管疾患
5.1 大動脈疾患に対するステントグラフト治療
5.1.1 解剖学的適応(表78)
p.99
およびデリバリーシステムの改良によりこの適応は十分変化しうることを考慮する必要がある. a.上行大動脈瘤
上行大動脈瘤に対する適応は,わが国および諸外国において,2019年 10月時点で認められておらず,現状のデバイスでは血管内治療は推奨されない.しかしながら上行大動脈の限局性病変に対するステントグラフトの報告は散見されており,手術不能例に対する治療手段としての潜在的可能性が論じられている780, 781).また,A型大動脈解離に対するステントグラフトの開発が進んでおり,米国ではA型大動脈解離を対象としたearly feasibility studyが2018年に開始されていることから,今後は上行大動脈病変に対する血管内治療の適応が大きく変化する可能性がある.
また,上行大動脈に限局せず弓部に至る広範囲の上行弓部大動脈瘤(A型大動脈解離を含む)に対しては,上行から弓部大動脈を人工血管置換し,末梢側にステントグラフトを追加する術式(オープンステントグラフト[frozen elephant trunk technique]あるいはelephant trunk + TEVAR) 782-748)が可能であるが,広範囲上行弓部大動脈瘤に対する通常手術のわが国の成績は海外と比較して良好であるので,各施設で十分に検討し,術式を選択することが望ましい.
b. 弓部大動脈瘤
瘤径は,通常外科手術における適応を遵守し,55 mm以上を適応としている.ただし,今後の流体力学的検討など,新しい方法を用いたリスク解析をさらに進め,その手術適応を検討する必要があると考えられる.
大動脈弓部疾患に対するステントグラフトを用いた血管内治療は,弓部分枝バイパス(debranching)を併用するdebranching TEVARを主として発展してきた.Debranching手術(頚部分枝バイパス手術)は,ステントグラフト留置に必要な中枢留置部(proximal landing zone)を得る際に,被覆される弓部分枝の血流を確保するために行われる785, 786). Debranchingの術式は中枢留置予定部位に応じて異なり,上行大動脈(zone 0)への中枢留置を行う際には上行大動脈からのdebranching手術(開胸debranching)が一般的に行われ,zone 1,zone 2への中枢留置予定症例においては開胸を伴わないdebranching手術(transpositionもしくはbypass)が選択される.Debranching手術においては,上行大動脈もしくは弓部分枝の全遮断/部分遮断を要するため,術前造影CTによる塞栓リスクの評価ならびに脳血管画像による血流遮断リスクが評価されるのが望ましい.
表78 ステントグラフト治療の解剖学的適応の推奨とエビデンスレベル
大動脈瘤の部位外科手術のリスク,瘤の大きさ・部位推奨クラスエビデンス
レベル
55 mm以下の胸部大動脈瘤に対し,ステントグラフト治療を行うべきではない. III Harm C上行大動脈瘤に対し,ステントグラフト治療を行うべきではない. III Harm C
弓部大動脈瘤に対するdebranching TEVAR高リスク例,inoperativeに対して考慮する. IIa B
低リスク例に対して考慮してもよい. IIb C
下行大動脈瘤に対するステントグラフト治療高リスク例,inoperativeに対して行う. I B
低リスク例に対して考慮する. IIa C
胸腹部大動脈瘤に対するhybrid TEVAR高リスク例,inoperativeに対して考慮する. IIa B
低リスク例に対して行うべきではない. III Harm C
腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療最大短径(男性55 mm以上,女性50 mm以上)に対して行う. I A
最大短径(40 mm以上,50 mm未満)に対して考慮してもよい. IIb B juxta,supra AAAに行して行うべきではない. III Harm C
すべての症例は,TEVAR,EVARの解剖学的適応内であること. juxta: 傍腎,supra: 副腎,AAA: 腹部大動脈瘤,TEVAR: 胸部大動脈ステントグラフト内挿術,EVAR: 腹部大動脈ステントグラフト内挿術
p.100
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
Debranching TEVARの適応については,体外循環・低体温法,心停止を要しないことから,外科治療高リスク例には適応を考慮されるべきである787-789).
弓部へのデバイス留置に際しては,弯曲した弓部大動脈に対するデバイス小弯惻の浮き上がりはbird beakとよばれ,遠隔期のmigration,collapse,エンドリークの原因となることが指摘されている790-792).このため,デバイス特性に応じた口径・シーリング長を確保することに加え,弓部弯曲へのデバイス追従性を考慮したうえで治療計画を立てることが必要となる.
近年では,弓部分枝への血流温存をdebranching手術に依存しない方法として,開窓型ステントグラフトおよび分枝型ステントグラフトが臨床使用されている.とくにzone 0治療においては開胸操作が不要となることから, debranching TEVARより一層の低侵襲化が図られることが期待されている793-796).また,わが国では,弓部遠位に限局する動脈瘤に対して治療が可能になる開窓型ステントグラフト(fenestrated stentgraft)「カワスミNajuta胸部ステントグラフトシステム」(Kawasumi)が,2013年6月に薬事承認されている.
このようなデバイスおよび留置技術の進化に伴い,弓部大動脈瘤に対するステントグラフトの成績は向上しているが786, 797, 798),わが国では全弓部置換の良好な成績も報告されている799, 800)ことから,血管内治療に対する施設間の治療方針の差異が大きく,低リスク症例への適応については今後も引き続き検討が必要である. c. 下行大動脈瘤
下行大動脈瘤に対するステントグラフトは,外科手術に比較して,急性期死亡率,有害事象発生率が低く,中期成績も良好であるため801-803),解剖学的適応例においては,第一選択の治療として考慮されるべきである804-807).また,ステントグラフトは脊髄神経障害の発生率が低く,QOLも保たれやすいため,その適応は拡大されつつある.瘤径としては外科手術と同様に55 mm以上を適応とする778). d. 胸腹部大動脈瘤
腹腔動脈分枝直上まで,あるいは側副血行が確保された腹腔動脈を閉鎖するのみでlanding zone が確保できる胸腹部大動脈瘤に対するステントグラフトは,下行大動脈瘤と同様の適応と考えられる.一方で,上腸間膜動脈や両側腎動脈分岐レベルまでのステントグラフト内挿を要する症例では,腹部分枝バイパスを行ったうえでのハイブリッド治療が選択肢となる.このハイブリッド治療は,外科手術と比べて脊髄神経障害のリスクが低いことが報告されており808-810),また,人工心肺を使用せず治療が可能となるため,開胸手術の高リスク症例に対して有効とされている811, 812).ただし,腹部主要血管に対するlong bypassの開
存成績が施設間で安定しないため,低リスク症例への適応は慎重になされるべきである.
また,branchedデバイス,fenestratedデバイスは,わが国では未承認であるため,今回のガイドラインには含まない.ただし欧米では承認されており,許容できる周術期成績が報告されている813-815).今後,わが国において保険償還されたなら,その適応について十分検討する必要がある.また,Chimney法,sandwich法については後述する. e. 腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤は,解剖学的適応の範囲であれば良好な成績が報告されている816, 817).瘤径における適応は,男性55 mm以上,女性50 mm以上とされている778).それ以下の小径大動脈瘤に関しては,その治療において有用であるという報告がなく,非劣性が報告されたにすぎない818).また,傍腎動脈および腎動脈上大動脈瘤(Crawford IV型)に関しては,現状のデバイスではその有用性の報告は少ない.
腹部大動脈瘤に対するEVAR後に発生するタイプIIエンドリークに関して,遠隔期予後への寄与について議論があったが,破裂に関与するリスクが低く経過観察可能との報告が多くなされていた819-822).しかし,近年では国際的にタイプIIエンドリークによるEVAR後の瘤径拡大を懸念する報告も多く認めることから823-827),術後遠隔期では慎重な経過観察が必要と考えられ,瘤径拡大例に対しては治療介入が推奨される828).ただし,タイプIIエンドリークに対する血管内治療もしくは直接穿刺による塞栓治療は, EVAR後に瘤径拡大を発症する限り,大動脈治療の原則である「破裂防止」を根本から覆すことになる.今後,その予防もしくは治療に対する研究は急務であり,タイプIIエンドリークを対処しない限り,今後EVARの適応を再考する必要があると考える.
大動脈疾患における病態別にカテーテル治療の適応について以下に記載する.ただし真性大動脈瘤に関しては,上記解剖学的適応に準じる. a. 外傷性大動脈損傷
最近の報告では,外傷性大動脈損傷,とくに動脈管索および下行大動脈に発生する大動脈損傷に対してのステントグラフトは,広く推奨されている778, 807, 829, 830).大動脈損傷を伴う外傷例の大部分は,大動脈以外にも合併外傷を伴っていることから,体外循環を用いた手術のリスクが高い.よって大動脈損傷の治療を短時間で終了させ,付随する合併外傷の治療に速やかに移行が可能なステントグラフトは
5.1.2 病態的適応(表79)
p.101
第一選択治療として考慮されるべきである.ステントグラフトにより,大動脈損傷を伴う多発外傷の治療成績は飛躍的に向上したとされ831),近年導入されたデバイスにより急峻な大動脈への追従性が向上したことが成績向上に寄与していると考えられている. b. 大動脈瘤破裂
胸部下行大動脈瘤破裂に対するステントグラフトの成績は,外科手術に比べて良好で832-834),推奨される治療である778).これは前項の外傷と同様,外科手術に比べて,短時間で破裂部位の出血をコントロールできるためである.ただステントグラフトは下行大動脈においては推奨できるが,解剖学的に治療困難な上行大動脈,弓部大動脈,胸腹部大動脈に関しては推奨できない.また現在の流通状況では,多様なデバイスを院内に常備することは困難である.今後,緊急時のデバイスの搬送について,環境改善が望まれる.また,腹部大動脈瘤においては,血行動態を維持しながら手術に移行できる準備をしたうえでのステントグラフトは,良好な成績を収めている835-837).ただ慎重な治療
戦略が必要である. c. A型解離
上記解剖学的適応にて記載したとおり,急性・慢性においても現在のデバイスでは推奨できない.また,遠位弓部(左鎖骨下動脈末梢)からの逆行性解離においても,中枢側landing zoneが解離部分となるため,現状のデバイスではその有用性について明確にした報告はない. d. 急性B型解離
解離により合併症を有する急性B型解離(complicated type B)に対しては,わが国および欧米のガイドラインにおいてステントグラフトが推奨されており778, 806, 807),その手技はほぼ確立されていることから,第一選択治療として考慮されるべきである838-843).Complicated type Bとしての定義は,原則としては大動脈破裂と脳・脊髄・腹部分枝・腎・末梢血管への血流障害である844).しかし,近年complicated Bについての解釈は拡大傾向があり,持続す
表79 大動脈疾患におけるカテーテル治療の病態的適応の推奨とエビデンスレベル
病態推奨クラスエビデンス
レベル
外傷性大動脈損傷カテーテル治療を行う. I B
大動脈瘤破裂下行大動脈の大動脈瘤破裂に対し,カテーテル治療を考慮する. IIa B
腹部大動脈の大動脈瘤破裂に対し,カテーテル治療を考慮する. IIa Bその他の部位の大動脈瘤破裂に対し,カテーテル治療を行うべきではない. III Harm C
A型解離急性,慢性ともにA型解離ではカテーテル治療を行うべきではない. III Harm C
逆行性解離に対し,カテーテル治療を考慮してもよい. IIb C
急性B型解離解離により合併症を有する急性B型解離(acute complicated type)に対し,ステントグラフトを行う. I C
解離による分枝血管閉塞にstentingを考慮する. IIa Bカテーテルによる開窓術を考慮する. IIa B Acute uncomplicated typeでは瘤化防止を目的としてステントグラフトを考慮してもよい. IIb C
慢性B型解離外科的治療適応がある症例に対して考慮してもよい. IIb C
遠隔期リスク因子を有するChronic uncomplicatedに対し,早期(発症6ヵ月以内)の予防的エントリー閉鎖を考慮する. IIa B
感染性大動脈瘤,大動脈~気管瘻,食道瘻破裂もしくは破裂予防のためのTEVARを考慮する. IIa B
根治手術としてのTEVARを行うべきではない. III Harm B
すべての症例は,TEVAR,EVARの解剖学的適応内であること. TEVAR: 胸部大動脈ステントグラフト内挿術,EVAR: 腹部大動脈ステントグラフト内挿術
p.102
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
る痛み,十分な投薬でもコントロールできない高血圧,早期大動脈径拡大が含まれる論文も散見される845).さらにカテーテルを用いた開窓術(re-entry作成術) 846, 847)や解離によって生じた分枝血管の狭窄,閉塞に対するstentingは多くの論文でその有用性が報告され,その早期成績も良好であることから,必要に応じてステントグラフトと併用されるのが望ましい.
合併症,症状を有さない症例(acute uncomplicated type)に対する治療方法は,ステントグラフトによる瘤化予防を目的とした先制的エントリー閉鎖の有効性に関するエビデンスは確立しておらず848, 849),通常内科的治療が第一選択とさている806, 849, 850).降圧および心拍数コントロールを中心とした至適薬物療法を行ったあとに,画像検査により大動脈解離の状態を確認する.内科的治療の遠隔期に偽腔拡大する症例が少なからず認められることから,解剖学的適合が得られる症例においては症例の選別を行ったうえで比較的早期のステントグラフト治療が考慮されるべきである.
症例の選別に関しては,発症時の画像解析による解剖学的因子の検討から遠隔期予後を予測する試みがなされている.もっとも汎用される因子は発症時の大動脈径である.大動脈全体径40 mm以上が遠隔期大動脈拡大のリスク因子であるとわが国より報告され,諸家により追認されている851-853).その他,偽腔径22 mm以上や854),entryの大きさが10 mm以上が大動脈関連イベントの予測因子としている報告もある855).偽腔の状態に関しては,一般的に偽腔開存型が予後不良とされているが852, 856),partial thrombosisがpatent(double barrel type)もしくはcomplete thrombosisより予後が悪く,また偽腔のpartial thrombosisのほうが大動脈の拡大を早く生じるとの報告もある857, 858).偽腔内の血流をどのように評価するかが課題であり,解剖学的評価だけでなく,真腔および偽腔内の血流,ベクトル,圧変化などを検討することにより,さらなる解析が望まれる. e. 慢性B型解離
慢性B型解離に対する,ステントグラフトを用いたエントリー閉鎖術による破裂予防の有用性は明らかではないが859),エントリーの閉鎖により偽腔への血流が遮断されることで,偽腔内の血栓化が促され,遠隔期に偽腔が退縮し真腔が拡大(大動脈リモデリング)することが報告されている860-862).
慢性B型解離に対するステントグラフトの有効性を検証するために行われた,前向きランダム化比較試験における5年間のフォローアップ863, 864)では,TEVAR群において偽腔の完全血栓化が90.6%の症例に認められた.また,大動脈に限定した死亡率および大動脈拡大率では,内科的治
療と比較して有意に良好な成績が示された.このことから,慢性B型解離に対するTEVARの有効性がおおむね肯定されている778, 849, 865).一方で,エントリー閉鎖後に偽腔血栓化もしくは大動脈リモデリングが得られない症例では,有効性が乏しいことが知られており,術前の大動脈口径やリエントリー数などが残存偽腔内血流および予後に関与するとの報告がある866, 867).また,INSTEAD試験では,解離発症から39日後(中央値)に比較的早期にTEVARを行ったことが,良好な遠隔期予後をもたらした可能性がある.解離発症から3~6ヵ月以内が,大動脈リモデリングの可能性を考慮した至適治療介入時期との報告もあることから868-871),遠隔期リスク因子を有する治療適応症例においては,発症早期(おおむね6ヵ月以内)での施術が考慮されるべきである.また,エントリー閉鎖後に有効な偽腔血栓化もしくは大動脈リモデリングが得られなかった場合に備え,リエントリー閉鎖術などの追加治療選択肢を事前に考慮したうえでTEVARの適応が検討されるべきである. f. 感染性大動脈瘤,大動脈~気管瘻,食道瘻
全身状態が不良な症例に対しての,外科手術までの破裂防止を考慮した橋渡し的な使用の有用性は明らかである872, 873).一方で,根治を目的としたステントグラフトは,遠隔期予後が外科手術と変わらないとする報告があるものの,感染再発のリスクがあり遠隔期成績が劣るとの報告もあることから,その有用性についてはいまだ一定の見解は得られていない874-876).また,大動脈~気管瘻,食道瘻に関しては,破裂状態を修復し,一時的に循環動態を安定させる点で有用性はあるが,感染をいかに治療するかが問題であり,根治術として有用性が高いとする論文は少ない.
ステントグラフトを安全に目的部位に運び,適切かつ十分なlanding zoneを確保して留置することが手技成功の要点である. a. 術前プランニング(表80,表81,表82)
成功の鍵は,術前のプランニングである.MDCTを撮影し,3D viewerを用いて詳細に観察することで治療対象部位,および大動脈弓部から鼠径部に至る血管性状を確認する.MDCTは,壁の性状,アクセスルートの状態などを詳細に評価するためにthin sliceでの撮影が望ましい.さらにlanding zoneの径および長さと病変長を測定し,適切なサイズのステントグラフトを選択する.また,治療部位が腹部大動脈であってもガイドワイヤやカテーテルが先進するため,胸部領域を含む全大動脈の血管性状を評価することが望ましい.
5.1.3 ステントグラフト治療の方法
p.103
粥状硬化病変(shaggy aorta)など,血管性状の悪い症例では塞栓症のリスクが高い.腸管虚血を含めた全身性塞栓症をきたすと,ときに致死的になりうるため,術前に全大動脈の血管性状を詳細に評価し,血管性状の悪い症例(Atheromatous glade III以上)へのステントグラフト治療は,その適応について慎重に検討する必要がある877).
胸部および胸腹部大動脈瘤の治療における重篤な合併症の一つに,脊髄虚血による対麻痺がある.脊髄神経障害の発生のリスク因子には,広範囲の肋間動脈閉塞,腹部大動脈瘤治療(手術あるいはEVAR)の既往,鎖骨下動脈もしくは内腸骨動脈などの側副血行路の閉塞があり810, 878),
術前に評価しておく必要がある.
TEVAR施行のためには,胸部ステントグラフト用シース,あるいはシース一体型のデバイス本体が通過するためのアクセスルートが必要である.通常は鼠径部を切開して大腿動脈を露出し,カットダウンにてシースを挿入するが,外腸骨動脈の狭窄や石灰化により大腿動脈からのアプローチが困難である場合は,腸骨動脈あるいは腹部大動脈からアプローチする方法や,腸骨動脈から導管を立てる方法もある.
胸部大動脈ステントグラフトは,腹部大動脈用のデバイスに比べてシースサイズが大きいため,アクセスルートである腸骨動脈の損傷には注意を要する.術後腸骨動脈の解離に対しては合併症の項目に記載した. b. Landing zone(表83)
ステントグラフト治療において,もっとも重要なのは動脈瘤の中枢側および末梢側において適切な正常径大動脈とステントグラフトとの接合部分(landing zone)を確保することである.Landing zoneの性状がよく,長いほうがエンドリークの発生が少なく,良好な結果が得られる.胸部および腹部大動脈領域に対しステントグラフト治療を行う際は,各デバイスのinstructions for the use(IFU)を順守することが望ましい.
弓部など屈曲部にステントグラフトを留置する際は,ステントグラフト小弯側の浮き上がり(bird-beak)がエンドリークを規定する重要なリスク因子になりうるため791, 879, 880), landing zoneの選択にあたっては,留置の際にbird-beakを形成しないように留意することが望ましい. i. 左鎖骨下動脈cover
遠位弓部瘤および近位胸部下行大動脈瘤の治療を行う場合は,動脈瘤中枢側のlanding zone確保のため,左鎖骨下動脈のcoverを意図的に行うことがある.この場合,脳梗塞や脊髄虚血の合併症が多いことが報告されており881),可能な限りバイパス手術による左鎖骨下動脈の再建を行うべきである.左鎖骨下動脈をcoverせざるをえない症例では,右鎖骨下動脈および右椎骨動脈の開存状態,および左
表80 ステントグラフト治療における術前評価についての
推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
術前治療対象となる動脈瘤および大動脈頚部から鼠径部に至る全大動脈領域の血管性状(蛇行,壁在血栓,石灰化)をthin slice CTにて評価する. I C術前CT検査にてlanding zoneの径および治療長を計測し,適切なサイズのステントグラフトを選択する. I C術前治療対象となる動脈瘤および大動脈頚部から鼠径部に至る全大動脈領域の血管性状(蛇行,壁在血栓,石灰化)をthin slice CTにて評価する. I C術前CT検査にてlanding zoneの径および治療長を計測し,適切なサイズのステントグラフトを選択する. I C
表81 Shaggy aorta に対するステントグラフト治療の推
奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
Shaggy aorta症例に対し,ステントグラフト治療を考慮してもよい. IIb C
表82 ステントグラフト治療におけるアクセスについての
推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
術前にアクセスルート(径,屈曲の程度,血栓,石灰化の程度)を評価する. I C使用するステントグラフトのシース口径を熟知する. I Cアクセスルート損傷時の対応物品を準備する. I C
表83 ステントグラフト治療におけるLanding zone につ
いての推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
ステントグラフト治療を行う際は,各deviceのinstructions for the use(IFU)を順守する. IIa B
p.104
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
右の椎骨動脈が脳底動脈レベルで交通していることを確認する必要がある.MRA,造影CT,血管造影にて,左右椎骨動脈の状態を確認し,場合によっては左鎖骨下動脈起始部にてバルーン閉塞試験を行うことも有用である.左右椎骨動脈の交通が確認できない場合,あるいは左内胸動脈を用いてCABGを施行している症例では,鎖骨下動脈バイパス術の追加が必須となる882). ii.腹腔動脈のcover(表84)
胸腹部大動脈瘤においては,その動脈瘤末梢側のlanding zone確保のため,腹腔動脈のcoverを意図的に行う場合がある.大部分の症例で,腹腔動脈は上腸間膜動脈を介した側副血行にて灌流されるため,腹部臓器や消化管血流に支障をきたすことは少ないが,可能な限りCTもしくは血管造影で上腸間膜動脈などからの側副血行路があることを確認する必要がある. c. ステントグラフトのデリバリー
通常,胸部大動脈用ステントグラフトは,スティッフタイプのガイドワイヤを用いてアクセスルートを直線化し,十分なサポートのもとにデリバリーを行う.しかし,屈曲の高度な症例,とくに胸腹部移行部が90度以上屈曲しているような症例では,上腕動脈から大腿動脈のあいだにthrough and through wireを作成してデリバリーシステムを挿入するのも一つのオプションである. d. ステントグラフトのタッチアップ(表85)
グラフト留置後,ステントグラフトとlanding zoneの大動脈との接合を良好なものにするため,バルーンカテーテルにてタッチアップを行うことが多い.胸部大動脈においては,腹部と比較して血流量が大きく,流速も早いため,オクリュージョンタイプのバルーンでは,血流によりバルーンが移動し,ステントグラフトのmigrationにつながる可能性がある.非閉塞性のバルーンカテーテルを用いるか,
高頻度ペーシングあるいは下大静脈オクリュージョンにより心拍出量を抑制した状態でタッチアップを行うことで,ステントグラフトのmigrationを予防する方法もある.またタッチアップは,大動脈弓部など,血流の影響を大きく受ける位置におけるグラフト展開時に,migrationを予防するためにも有用である.
大動脈解離症例に対するバルーンカテーテルでのタッチアップは,再解離のリスクがあるため,ステントグラフト留置後の造影検査にてエンドリークの有無を評価したうえでタッチアップを行うかどうかについては慎重に判断することが望ましい. e. Chimney technique(表86)
Chimney techniqueは分枝血流をbareあるいはcovered stentにて確保し,分枝血流を温存しつつlanding zoneを確保する方法である.近年,とくに弓部大動脈領域でdebranching TEVARの代替手段として有用であるといった報告も散見される883).一方,gutterによるタイプIエンドリーク出現のリスクや,遠隔期成績についての報告がないといった問題点もある884).そのため,緊急時Z0-2 にlandingを確保する必要のある症例で,open repairや頚部分枝をdebranchするようなoptionがないとき,あるいは不慮的に頚部分枝を閉塞させたときのサルベージ手段として考慮されるべき手法である. f. ステントグラフト治療の合併症i. エンドリーク(表87,表88)
エンドリーク(endoleak)は,大動脈瘤に対するステントグラフト治療における最大の問題である.エンドリークとはステントグラフト内挿術後に,瘤内が完全に血栓化せず,瘤壁に血圧のかかる状態が継続する現象で,タイプI ~Vに分類される.
タイプIエンドリークおよびタイプIIIエンドリークは,ステントグラフト内挿術後の瘤破裂のリスク因子であり,放置した場合の予後は不良である885).よって,術中にタイプIエンドリークおよびタイプIIIエンドリークが残存する場合は,バルーン拡張,ステントグラフトの追加留置など適切な根治治療が必須である.また,弓部大動脈など屈曲部へのステントグラフト留置においては,ステントグラフト小弯側の浮き上がり(bird beak)が遠隔期のタイプIエンドリーク発生を規定する重要な因子として認識されつつある790).Bird beak形成にはステントグラフトの種類も影響しており,大動脈屈曲率など解剖学的要件から適切なステントグラフトを選択することも重要である.
タイプIIエンドリークは,とくに腹部大動脈瘤に対するEVAR後に認めることが多く,その発生率は20~40%と
表84 ステントグラフト治療における腹腔動脈のcover に
ついての推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
腹腔動脈をcoverする際は,画像診断にて側副血行路を確認する. IIa C
表85 ステントグラフトのタッチアップについての推奨と
エビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
ステントグラフトのタッチアップを行う際は,厳密な血流管理下で行う必要がある. IIa C
p.105
ラフト治療において,もっとも重篤な合併症の一つに脊髄虚血(SCI)に起因する対麻痺がある.術後対麻痺は,患者のQOLや生命予後さえも急激に悪化させうる.SCI発生に関するリスク因子には,ステントグラフト留置に伴う広範囲の肋間動脈閉塞,周術期の低血圧,腹部大動脈瘤治療歴,鎖骨下動脈の閉塞,内腸骨動脈の閉塞などが報告されている889).広範囲カバーを要する症例において, SCI発生リスク軽減のため,分割手術により段階的に治療することも検討すべきである.
SCI予防においては,術前にMDCTやMRIにより前脊髄動脈(ASA)およびASAへの側副血行路を同定することが重要である890).とくに鎖骨下動脈などから由来する側副血行路の重要性には注目が集まっており(図21),鎖骨下動脈の血行再建によりSCI発生リスクが軽減できることが報告されている891).また,SCIの発生リスクが高い症例では,あらかじめ脳脊髄液ドレナージ術を行い,脳脊髄圧を下げ,脊髄灌流を維持することでSCI発生リスクを軽減できる可能性がある.しかし,脳脊髄液ドレナージ術にも,手技による出血,血腫形成などの合併症もあり,それぞれの症例および施設の経験からリスク–ベネフィットを考慮し施行することが望ましい.また,術前に脳脊髄液ドレナージ術を行っていない症例で術後SCIを認めた場合,脊髄液ドレナージ術の追加を検討すべきである.また,SCI予防には周術期の血圧管理も重要であり,ステントグラフト留置直後より平均血圧を80 mmHg以上に維持すべきであるとの報告もある889).
対麻痺は,手術直後に発生する場合もあるが,術後数日を経て麻痺を生じる場合もある.術後数日は慎重に経過観察を行い(不整脈発症による血圧低下にも慎重に対応する必要あり),対麻痺を疑う症状を認めた場合,後述する脳
報告されている886).EVAR後の瘤拡大の原因の多くはタイプIIエンドリークであることが広く認識されるようになり,タイプIIエンドリークの克服は喫緊の課題である.現在のところ,タイプIIエンドリークに対する有効な予防法は確立していないが,EVER前の下腸間膜動脈(IMA)塞栓術やEVAR後のトラネキサム酸投与が有効であるとの報告もある887, 888).しかしながら,タイプIIエンドリークを完全にゼロにすることはできておらず,タイプIIエンドリークの残存に伴い瘤拡大を認める場合は,コイル塞栓術などの追加処置を検討する必要があり,最悪の場合,人工血管置換術を行うことも念頭に置く必要がある. ii. SCI(表89)
胸部大動脈瘤および胸腹部大動脈瘤に対するステントグ
表87 エンドリークの分類
タイプIステントグラフトとlanding zoneにおける接合不全に基づいたリーク.タイプIaが中枢側からのリーク,タイプIbが末梢側からのリークである.タイプII大動脈瘤から分岐する側枝からの逆流によるリークで,side branch endoleakともよばれる.
タイプIIIステントグラフト-ステントグラフト間の接合部,あるいはステントグラフトのグラフト損傷などに伴うリークで,junction leakともよばれる.
タイプIVステントグラフトのporosityからのリークで, porosity leakともよばれる.留置後急性期にみられても,慢性期には消失する場合もある.
タイプV画像診断上,明らかなエンドリークは指摘できないにもかかわらず瘤径の拡大傾向をきたすもので, endotensionともよばれる.
表86 Chimney technique の推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
緊急時のサルベージ手段として, Chimney techniqueを考慮する. IIa C
表88 エンドリークに対する追加処置の推奨とエビデンス
レベル
推奨クラスエビデンス
レベル
エンドリーク(タイプI)に対し,根治治療を行う. I Bエンドリーク(タイプIII)に対し,根治治療を行う. I B瘤径拡大を伴うエンドリーク(タイプII)に対し,追加治療を考慮する. IIa C表89 脊髄虚血の予防・治療に関する推奨とエビデンスレ
ベル
推奨クラスエビデン
スレベル
広範囲カバーを要する症例に対し,分割手術を考慮する. IIa C左鎖骨下動脈の血行再建を考慮する. IIa C脊髄虚血の高リスク症例において,術前に脳脊髄液ドレナージ術を考慮する. IIa C脊髄虚血の治療として,脳脊髄液ドレナージ術を考慮する. IIa C 80 mmHg以上を目標に平均血圧を維持することを考慮する. IIa C
p.106
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
梗塞との鑑別を速やかに行い,血圧の維持,脳脊髄液ドレナージ術などを考慮する.早期に対処することで,神経障害の軽減や回復がみられると報告されている. iii. 脳梗塞(表90)
とくに弓部大動脈瘤に対するステントグラフト治療で危惧される合併症が脳梗塞であり,大動脈弓部や頚動脈,鎖骨下動脈でのガイドワイヤやカテーテルおよびステントグラフト本体の操作やデリバリーシステム内のairに起因すると考えられている.とくに,弓部分枝の外科的再建を伴うハイブリッド手術や開窓型/分枝型ステントグラフトを使用した手術など,弓部分枝への操作を伴う場合,そのリスクが高くなる.また,脳梗塞のリスク因子としてshaggy aorta脳梗塞既往,血行再建なしでの左鎖骨下動脈塞栓などが報告されている.術前のCT検査により血管性状を吟味し,粥状硬化病変が強い部位へのlandingは避けるべきであり,左鎖骨下動脈の閉塞が必要な症例では積極的に血行再建を行うことが脳梗塞予防の観点からも推奨される892).また,弓部領域のステントグラフト治療においてバルーン
カテーテルを用いた弓部分枝のプロテクションが脳梗塞発生予防に有効であることが報告されており893, 894),今後はフィルターデバイスなど新たな脳梗塞予防法の開発が期待される895). iv. 塞栓症
大動脈瘤に対するステントグラフト治療では,ガイドワイヤやカテーテル操作,シース挿入やステントグラフトの展開などによる塞栓症に伴う臓器障害が起こりうる896).と
鎖骨下動脈からの側方下行枝内胸動脈
内腸骨動脈
外腸骨動脈からの上行枝
椎骨動脈
前脊柱動脈Th5-8
Th9-L1
L2-5
図21 前脊髄動脈への側副血行路
(Shijo T, et al. 2020891)より) Shijo T, et al. Eur J Cardiothorac Surg. 2015;48(6):960-7. doi: 10.1093/ejcts/ezv027. Translated and reprinted by permission of Oxford University Press on behalf of the European Association for Cardio-Thoracic Surgery. Translation Disclaimer: OUP and EACTS are not responsible or in any way liable for the accuracy of the translation. The Licensee is solely responsible for the translation in this publication/reprint.
Th:胸椎,L: 腰椎
表90 ステントグラフト治療における脳梗塞予防に関する
推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
左鎖骨下動脈の血行再建を考慮する. IIa C
p.107
vii. アクセスルートの血管損傷
大動脈瘤に対するステントグラフト治療のアクセスルートは,大腿動脈アプローチが第一選択となる.しかし,体格の小さな女性や,高度に石灰化した腸骨動脈では,容易にアクセスルートの損傷をきたしうる.血管破裂をきたした場合は,急速に血行動態が破綻するため,損傷の疑われる症例では,シース抜去の際にとくに注意を要する.あらかじめ閉塞が可能なバルーンカテーテルを準備するとともに(対側からオクルージョンバルーンを前もって挿入するなど,緊急に対応できるようにすることが肝要である),適切なサイズのステントグラフト(ヘパリン使用血管用ステントグラフトなど)を準備したうえで,シースの抜去を行う.輸血製剤を院内に準備しておくことも必要である.血管損傷を認めた場合,近年の屈曲追従性の良好なcovered stent,あるいは開腹手術による早急な対応が重要である.
ステントグラフト治療を行ううえで必要な環境については,欧米でも多く論じられている.今回,現在のわが国の状況も考慮しながら述べる. a. 外科医を含むaortic teamでの手技の施行および通常手術への移行可能な手術環境
ステントグラフト治療において,外科手術へ移行せざるをえない場合がある.そのため,外科医のバックアップは手術を安全に行ううえで,きわめて重要である898).また,今後の治療成績向上のためには,より精密な手技や脳保護
5.1.4 ステントグラフト治療におけるシステム (表92,表93)
くにshaggy aortaなど,血管性状の悪い症例では塞栓症のリスクが高く,腸管虚血を含めた全身性塞栓症をきたした場合には,ときに致死的になりうる.血管性状の悪い症例へのステントグラフト治療は,その適応について慎重に検討する必要がある. v. 大動脈解離(RTAD,SINE)(表91)
大動脈解離に対するステントグラフト治療においては,真性大動脈瘤とは異なる特有の合併症が報告されており,代表的な合併症として逆行性A型解離(retrograde type A aortic dissection: RTAD)およびstent graft-induced new entry(SINE)とよばれるステントグラフト末端で生じる新たな内膜損傷があげられる.
RTADのリスク因子としては,landing zoneとして38 mm径以上の大動脈の使用,過大なオーバーサイズ,上行大動脈拡大例,先天性2尖弁などが報告されており,逆行性A型大動脈解離となった場合,早急な心嚢ドレナージや人工血管置換術を考慮する必要がある892).
また,SINEに関してもやはりステントグラフトの過大なオーバーサイズが要因となっており,さらにはステントグラフト末梢の大動脈に対する開度やデバイスの種類もリスク因子として報告されている897).大動脈解離に対するステントグラフト治療においては,過大なオーバーサイズを回避し,ステントグラフト末梢端は遠位弓部の弯曲部を避け,下行大動脈直線部に留置するなどの真性大動脈瘤とは異なる治療戦略が求められる. vi. ステントグラフト感染
ステントグラフト治療後遠隔期の合併症として,ステントグラフト感染があげられる.ステントグラフト感染を疑った場合,通常の培養検査・血液検査・画像検査に加え, PET–CT検査(保険適応外検査)やガリウムシンチグラフィが診断の一助となることがある.治療に関しては,画像診断の評価および抗生剤投与後の臨床経過を考慮して,人工血管置換術を絶えず考慮すべきである.
表91 ステントグラフト治療におけるRTAD,SINE 予防
に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
中枢landing zoneとして,38 mm径以下の大動脈の使用を考慮する. IIa B中枢/末梢landing zoneでの過大なオーバーサイズを避けることを考慮する. IIa B下行大動脈直線部を末梢landing zoneとして使用することを考慮する. IIa C表93 ステントグラフト治療の治療後についての推奨とエ
ビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
治療後に画像診断によるフォローを行う. I C
表92 ステントグラフト治療の手術環境についての推奨と
エビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
Open repairへの速やかな移行が可能な手術環境で行う. I C Open repairへの速やかな移行が可能なチームで,治療を行う. I C
Hybrid手術室での治療を考慮する. IIa C
p.108
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
rt-PA投与は,末梢静脈投与群と治療効果に有意差はみられなかった900).したがって,現在では単にカテーテルを肺動脈に誘導し,血栓溶解薬を局所投与する方法は否定的で,パルス・スプレー法などの併用が不可欠である.米国で推奨されている薬剤投与量は以下のとおり. i. ウロキナーゼ
ヘパリン2,000単位とともに,25万単位/時を2時間で投与し,その後10万単位/時を12~24時間持続投与する. ii. rt-PA
ボーラスで10 mg投与したあと,20 mg/時を2時間で投与するか,100 mgを7時間かけて持続投与する.
このように,米国ではわが国の5~10倍量である901).最近,脳出血などの重篤な出血性合併症への反省から,投与量を半量以下に抑える動注法や,超音波による血栓溶解増強を併用する試みも発表され,成果を得ている902).現在,わが国で承認されている血栓溶解薬はモンテプラーゼ(mt-PA製剤)のみで,静脈からの全身投与が想定されている.
2016年の米国胸部医学会(ACCP)ガイドラインでは,血栓溶解薬は肺動脈に留置したカテーテルからでなく,末梢静脈から投与することが推奨されている(Grade 2C) 903).一方,2014年のESCガイドラインでは,血栓溶解療法による出血の危険が高い中リスク群患者に限って推奨されている(クラスIIb,レベルB) 902, 904). b. カテーテル的血栓除去術(CBTR)
血栓溶解療法以外のカテーテル治療は,血栓吸引術(aspiration thrombectomy),血栓破砕術(fragmentation),流体力学的血栓除去術(rheolytic thrombectomy)の3項目に分けるのが一般的で,これらのほとんどが血栓溶解療法を併用している.少数のコホート研究ではあるが,本法の臨床成果は外科的血栓摘徐術に匹敵することが示唆されている905).治療効果の評価に際しては,血行動態や酸素化の改善を重視すべきで,血管造影所見にとらわれすぎ
技術を要することは言うまでもない.欧米では,aortic teamを重要視する傾向にあり,わが国でも外科医を含め,放射線科医や脳神経外科医などによる包括的かつ多様なチーム作りが急務である.
手術室の環境については,速やかに手術に移行できる環境,さらに胸部大動脈瘤においては,体外循環装置など外科手術に移行したときの補助手段を速やかに行う環境が不可欠である. b. 治療後の画像診断を含んだフォロー
ステントグラフト治療特有の合併症としてのエンドリーク,migrationがあるため,画像診断によるフォローは不可欠であり,長期間にわたるフォローを考慮する必要がある898).
胸部下行大動脈瘤におけるTEVARの良好な短期および中期成績は,さまざまな試験の結果からも明らかであり,今後,TEVARが第一選択となっていくものと考える.一方で弓部および胸腹部大動脈瘤については,ようやくsemi order-madeのfenestrated stentgraftであるNajutaがわが国で承認され,今後治療の幅が広がってくると考えられるが,debranched TEVARの長期成績も含めて,TEVARと外科手術の成績の比較が待たれる.また,branched デバイスが今後さらに開発され,臨床導入されるようになれば,治療戦略も変化するものと考えられる.
胸部大動脈瘤患者の生命予後は不良であり,心血管イベントの二次予防のため,動脈硬化危険因子のコントロールがきわめて重要である.また,慢性期の大動脈関連イベントを早期に発見するためにも,生涯にわたる経過観察と,適切な画像診断が望まれる.
急性広範型肺血栓塞栓症のうち,さまざまな治療を行ったにもかかわらず不安定な血行動態が持続する患者が本治療法の適応である899).ほかの内科的治療法や外科的治療法との多施設前向きランダム化比較試験は実施されていない.便宜上,カテーテル的血栓溶解療法(CDT)とカテーテル的血栓除去術(CBTR)に分けられる. a. カテーテル的血栓溶解療法(CDT)
CDTは,血栓溶解療法の治療成績を向上させ,出血性副作用の発現を抑える目的で行われてきた.しかし,多施設前向きランダム化比較試験によれば,肺動脈内への
5.1.5 まとめ
5.2 急性肺血栓塞栓症(表94)
5.2.1 カテーテル治療法
表94 急性肺血栓塞栓症に対するカテーテル的血栓溶解療
法に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
全身血栓溶解療法が禁忌・無効な高リスク群に対し,熟練した術者・専門施設によるカテーテル的血栓除去術を考慮する. IIa C全身血栓溶解療法による出血の危険が高い中リスク群に対し,カテーテル的血栓溶解療法を考慮してもよい(単なる肺動脈内投与は勧められない). IIb C
p.109
てはならない906).一般的合併症として,血管壁損傷,末梢塞栓,血栓症再発,外傷性溶血,血液損失などが起こりうることを熟知しておく必要があり,カテーテル挿入部位の大出血は2%(348例中8例),右室穿孔は0.3%(348例中1例)と報告されている905).
最新のメタ解析では,臨床成功率86.6%,重篤な合併症率2.4%と報告されている907).また,3年にわたる101例の前向き登録研究でも,臨床成功率は94%,平均肺動脈圧(mmHg)は51.17から37.23に低下し,手技に伴う大出血はみられない908).
2016年のACCPガイドラインでは,カテーテル的血栓除去術(CBTR)は,重症患者に限って熟練した専門施設で施行することが推奨されている(Grade 2C) 903).一方, 2014年のESCガイドラインでは,高リスク群で血栓溶解療法が禁忌・無効な患者における外科的血栓摘徐術の代替治療として推奨されている(クラスIIa,レベルC) 904). i. 血栓吸引術(aspiration thrombectomy)
Greenfield embolectomy デバイスは,米国では認可されているが,わが国ではまったく使用されていない.これに対し,ガイディングカテーテルを用いた血栓吸引療法に関するまとまった報告があり,その簡便性と良好な結果から注目を集めている909).一方,肺動脈にも応用されている経皮的血栓除去用カテーテルは,通常0.014インチ・ガイドワイヤに沿わせて使用できるため安全性は高いが,一方で,吸引ルーメンが小さく吸引能は落ちる.Indigo ®, FlowTriever ®,AngioVac ®などのsuction thrombectomyも注目されてきているが,わが国では未導入である. ii. 血栓破砕術(fragmentation)
末梢側肺動脈総容量は中枢側の2倍以上存在するということを理論的根拠として,中枢側肺動脈内の塊状血栓を直接破砕し,末梢に微小血栓を再分布させる手技である901).血栓は回収されないが,砕かれて小さくなれば総表面積は増えるため,血栓溶解薬の効果も増強する.以前よりさまざまな血栓破砕用デバイスが開発されてきているが901, 905, 906),実際には,ピッグテイルカテーテルを回転させることにより塊状血栓を破砕し,末梢に離散させる方法910)と,バルーンカテーテルにより塊状血栓を押しつぶす方法が用いられている.手技に伴う遠隔塞栓に対しては,ガイディングカテーテルや特殊なデバイス(Aspirex)を用いた血栓吸引術を追加するハイブリッド治療が提唱され,これが標準術式と評価されている906, 911). iii. 流体力学的血栓除去術(rheolytic thrombectomy)
AngioJet TMなどがこれにあたるが,現在わが国で使用できるデバイスはない. 5.3 CTEPH(表95)
急性肺塞栓症例の3.8%では,血栓が器質化して残存し,肺動脈の狭窄・閉塞を広範にきたし肺高血圧症を呈するようになる912).これは慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)とよばれ,有効な治療なしでは長期生存は望めない913).病変の主座が区域動脈またはそれより近位にある,いわゆる中枢型CTEPHに対しては,超低体温循環停止による肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)が標準的治療として確立している914).病変の主座が区域動脈の遠位側にある,いわゆる末梢型に対しては,可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤であるリオシグアトが2014年1月より保険承認となっている.リオシグアトは,末梢型CTEPH患者の血行動態・運動耐用能を改善することが,前向きの二重盲検試験で確認されているが915),その改善程度はPEAに及ぶものではない.
2001年に,末梢型CTEPH患者18例のバルーン肺動脈形成術(BPA)の結果が米国から報告された916).右心不全による死亡1例,術後肺障害11例(うち3例で人工呼吸器管理)と手技に伴う合併症が高率である.一方で,十分な肺動脈圧の低下が得られず(術後平均肺動脈圧33.7±10.2 mmHg),その後,欧米では普及するに至らなかった.わが国では手術適応のない末梢型CTEPHの頻度が高いこと,有効な薬物治療が存在しなかったことから,2004年頃からBPAの治療手技や術後管理の改良が試みられ917),技術的な進歩に加えて病変性状や合併症発生メカニズムに関する知識の集積により,2012年以降になって本手技の有用性と安全性が向上・普及し918, 919),世界的にも脚光を浴びるようになってきた920, 921).
BPAの対象となるのは,1PEAの施行困難例,またはPEA後の遺残肺高血圧症例,2内科的治療を行ってもNYHA心機能分類とWHO肺高血圧症機能分類III度以上の自覚症状を有する,3病状およびリスク・ベネフィットを十分に説明したうえで本人および家族がBPAを希望している,4重度の多臓器不全を有さないCTEPH症例,と
5.3.1 適応と治療手技
表95 慢性肺血栓塞栓症に対するカテーテル治療に関する
推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
末梢型CTEPHに対し,循環器学会認定BPA実施医によりBPAを行う. I C
p.110
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
なっている922).内経静脈または大腿静脈より6~7 Frのガイディングカテーテルを肺動脈まで進め,0.014インチのガイドワイヤにより病変を通過,バルーンカテーテルで開大するのが一般的である.治療の成功率は病変形態に左右され,ワイヤなどによる血管損傷が治療中の主たる合併症である923).治療後病変は時間経過とともに自然に開大することが多く,ステントの留置は通常不要である.1病変に関してみるともっともシンプルな血管形成術であるが,程度の差こそあれ全18の肺動脈区域枝のほぼすべてに病変が存在するため,BPAの最低限の治療ゴールである「血行動態の正常化(平均肺動脈圧25 mmHg未満)により右心不全の発生を防ぎ,生命予後を改善すること」を達成するためには,この治療手技を反復して行わなければならない.一度の治療ですべての病変を治療することは困難で,治療を完結するためには1症例あたり通算4~6回の施行を要する.
初期の報告では,術後再灌流性肺水腫が60%と高頻度にみられたとされていたが917),現在では,これら術後合併症の多くは治療に伴う血管損傷に基づく肺障害と考えられている924).肺障害の発生は経験症例数の増加のみでも減少するが917, 921),先端荷重の低いガイドワイヤや血管径に比べて小径のバルーンを使用することにより,最近の報告では,10%程度とさらに減少傾向にある921).わが国のレジストリでは,BPAによる血行動態の改善,運動耐容能の改善はPEAに匹敵するほどで,半数以上の例で血行動態の正常化が得られている925).海外からの報告でも,安全性は確立されており,効果も症例数の増加とともに改善しつつある921).5年までの生命予後も良好であることが知られているが919),10年以上の長期生存に関してはいまだ歴史が浅いため不明である.
BPAは広く全国で行われているが,依然として治療手技は施設ごとに異なり,その標準化に関して今後の検討が必要である.また,BPA適応の根拠たるPEA適応の客観的な判断基準に関しても,いまだ確立はしていない.BPAの安全性・有効性は実施施設・実施医の経験により支えられているが,CTEPHは希少疾患でありBPAの十分な経験を積むことは容易ではない.元来,慢性疾患である本症に対して緊急治療が必要となることはまれであり,十分な経験のある施設・医師における実施が望ましい.この観点から,日本循環器学会はBPA指導施設・実施医・指導医の認定を行っている926).
5.3.2 合併症と治療成績
5.3.3 まとめ6.1 経皮的中隔心筋焼灼術(表96)
肥大型心筋症は,一般成人の約0.2%に認められる遺伝性疾患である.日本循環器学会/日本心不全学会の心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版) 927)では,図22のとおりに定義されている.肥大型心筋症類似の形態を示す,ファブリー病やアミロイドーシスは,疾患特異的な治療が可能であり,肥大型心筋症の診断には,二次性心筋症の除外が重要である.
肥大型心筋症の表現型による分類を表97に示す927).肥大型心筋症のうち,安静時に30 mmHg以上の左室流出路圧較差を認める,あるいは安静時の左室流出路圧較差は30 mmHg未満であるが,誘発時に30 mmHg以上の圧較差を認める場合に閉塞性肥大型心筋症と分類される.また,左室の誘発性閉塞の定義を表98に示す.
心エコーを行う際にバルサルバ負荷をかける,半仰臥位,座位,立位での評価を行う.有症候性であり,前述の誘発で左室流出路閉塞が確認できない場合は,エルゴメーターなどを用いて運動負荷心エコーを行う.また,心臓カテーテル検査では,MTAKAカテーテルを左室内に,もう1本のカテーテルを上行大動脈に留置し,peak to peakの圧較差を測定する.その際に,バルサルバ負荷,PVCによる誘発,ニトログリセリン注などにより誘発による圧較差の有無を判定する.
経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)は,閉塞性肥大型心筋症あるいは心室中部閉塞性肥大型心筋症を対象にカテーテルを用いて行う手技である.具体的には,有意な圧較差を生じる原因となっている肥大心筋を灌流する冠動脈(多くは左前下行枝から分岐している中隔枝)を介してエタノールを注入し,肥大心筋の菲薄化により最終的に圧較差の軽減を図る.1995年に,Sigwartが初めてPTSMAの3例を報告した928).Sigwartの発表に先駆けて,1980年代に閉塞性肥大型心筋症の心筋梗塞合併症例で圧較差が消失
6 心筋症
6.1.1 肥大型心筋症の定義と閉塞性肥大型心筋症
6.1.2 誘発性閉塞の診断法
6.1.3 PTSMA
p.111
表96 中隔縮小治療の推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベルMinds
推奨グレードMinds
エビデンス
分類
多職種からなるハートチームの一員である経験ある術者により中隔縮小治療を行う. I C C1 VI最大耐用量の薬物療法施行にもかかわらず,NYHA 心機能分類III~IV の心不全症状を有し,安静時あるいは誘発時の左室流出路圧較差が50 mmHg 以上の症状の改善を目的として,中隔縮小治療を行う. I B B IVb最適な薬物療法が施行されているにもかかわらず,安静時あるいは誘発時の左室流出路圧較差が50 mmHg 以上により引き起こされる胸痛または繰り返す労作性失神の再発予防を目的として,中隔縮小治療を行う. I B B IVb左室流出路閉塞のある薬剤抵抗性肥大型心筋症に対し,外科的中隔心筋切除術を第一に考慮する. IIa C C1 IVb中隔以外のほかの部位,たとえば僧帽弁置換あるいは僧帽弁形成術あるいは乳頭筋に対する手術が必要な症例における経皮的中隔心筋焼灼術より 中隔心筋切除術を考慮する. IIa C C1 VI僧帽弁の収縮期前方運動によらない中等度から重症の僧帽弁閉鎖不全症を伴う安静時あるいは誘発時の左室流出路圧較差が50 mmHg 以上の症候性症例に対し,僧帽弁置換術あるいは形成術を考慮する. IIa C C1 V重大な併存症のある患者や,高齢で開心術が禁忌か危険が大きいと考えられる薬剤抵抗性の症状がある患者に対し,経皮的中隔心筋焼灼術を考慮する. IIa C C1 V僧帽弁尖- 中隔接触部での中隔壁厚が16 mm 以上,あるいは中隔心筋切除後で中等度から重症僧帽弁閉鎖不全症があり安静時あるいは誘発時の左室流出路圧較差が50 mmHg 以上の症例に対し,僧帽弁置換術あるいは形成術を考慮してもよい. IIb C C1 V薬剤抵抗性かつ中等度以上の心不全症状(NYHA 心機能分類II~III 度) を有し,ほかの治療が困難な左室中流部閉塞を有する患者に対し,経皮的中隔心筋焼灼術を考慮してもよい. IIb C C1 V経皮的中隔心筋焼灼術による中隔縮小効果が不十分な患者に対し,2 回目の経皮的中隔心筋焼灼術を考慮してもよい. IIb C C1 V無症状ないし薬物療法にて運動耐容能の保たれた閉塞性肥大型心筋症に対し,中隔縮小治療を行うべきではない. III Harm C C2 V症状はあるが安静時あるいは誘発時の左室流出路圧較差を認めない肥大型心筋症に対し,中隔縮小治療を行うべきではない. III Harm C C2 V中隔縮小治療を実施できる患者に対し,左室流出路閉塞の解除の目的で僧帽弁置換術を行うべきではない. III Harm C C2 V開心術の適応となるほかの弁膜症,冠動脈疾患などを併存する患者に対し,経皮的中隔心筋焼灼術を行うべきではない. III Harm C C2 V外科的治療非適応を除く20 歳未満の患者に対する経皮的中隔心筋焼灼術,ならびに40 歳未満の患者に対する積極的な経皮的中隔心筋焼灼術は行うべきではない. III Harm C C2 V肥大型心筋症の長期的かつ多面的ケアプログラムのない施設で中隔縮小治療を行うべきではない. III Harm C C2 V閉塞を生じる心室中隔局所の壁厚が30 mm 以上の患者に対し,経皮的中隔心筋焼灼術を行うべきではない. III Harm C C2 IVb
わが国では,以前よりPTSMAという用語が頻用されているが,ほぼ同様の意味で,alcohol septal ablation
6.1.4 PTSMAの同義語
したという報告929)がされており,PTSMA発案のきっかけともいわれている.
p.112
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
(ASA),transcoronary ablation of septal hypertrophy (TASH),nonsurgical septal reduction therapy(NSRT), nonsurgical myocardial reduction(NSMR)という表現も使用される930).欧米では,ASAの使用が一般的であ
る.文献などを参照する際には注意が必要である.
a. SRTの適応
ACC/AHAガイドライン2011 931),ESCガイドライン
2014 932),2014年版先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾
患に対するカテーテル治療のガイドライン2)および日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版) 927)において,PTSMAおよび外科的中隔心筋切除術は中隔縮小治療(SRT)と総称されている.したがって,PTSMAの適応を考える際には,まずは当該症例がSRTの適応か否かを検討する.そして,適応と判断した場合に,外科的中隔心筋切除術あるいはPTSMAのどちらを優先されるかどうかを検討する.SRTの適応症例は,i. 左室流出路閉塞を伴う肥大型心筋症すなわち閉塞性肥大型心筋症,あるいは心室中部閉塞性肥大型心筋症であること,かつii. 薬物療法抵抗性であること, iii. 症候性であること,である. i. 左室流出路閉塞の有無および程度の評価(表97,表98)と心室中部閉塞性肥大型心筋症
安静時にドプラエコー上,ピークの左室流出路圧較差(peak LVOT PG)が30 mmHg以上であれば,左室流出路閉塞があると診断するが,侵襲的治療の適応となるのは50 mmHg以上である931, 932).また,誘発型左室流出路閉塞は,安静時peak LVOT PGが30 mmHg未満であるが,誘発時には30 mmHg以上の圧較差を認める場合を指す.誘発型も同様に,誘発時にpeak LVOT PGが50 mmHg以上を認める場合に治療適応とされる.肥大に伴う心室中部での30 mmHg以上の圧較差を認める場合,心室中部閉塞性肥大型心筋症とよぶ. ii. 薬物療法抵抗性
閉塞性肥大型心筋症に対して用いられる薬物のうち,日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)で,クラスIおよびIIaで推奨されている薬剤は,β遮断薬,非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬であるべラパミルおよびIa群抗不整脈薬(シベンゾリンあるいはジソピラミド)である927).β遮断薬,べラパミルに加え,シベンゾリンあるいはジソピラミドを追加,またはβ遮断薬にシベンゾリンあるいはジソピラミドを追加し,それでも症候性であれば薬物療法抵抗性と判断する. iii. 症候性か否か
閉塞性肥大型心筋症あるいは心室中部閉塞性肥大型心筋症に伴う症状,たとえば,息切れ,動悸,胸痛,失神などの有無を詳細な病歴聴取にて確認する.症状がない症例
6.1.5 PTSMAの適応
表97 肥大型心筋症の分類
1 閉塞性肥大型心筋症(HOCM)
・ HOCM(basal obstruction)
安静時に30 mmHg以上の左室流出路圧較差を認める.・ HOCM(labile/provocable obstruction)
安静時に圧較差は30 mmHg未満であるが,運動などの生理的な誘発で30 mmHg以上の圧較差を認める. 2. 非閉塞性肥大型心筋症(non-obstructive HCM)安静時および誘発時に30 mmHg以上の圧較差を認めない. 3. 心室中部閉塞性肥大型心筋症(MVO)肥大に伴う心室中部での30 mmHg以上の圧較差を認める. 4. 心尖部肥大型心筋症(apical HCM)心尖部に限局して肥大を認める. 5. 拡張相肥大型心筋症(dilated phase of HCM: D-HCM)肥大型心筋症の経過中に,肥大した心室壁厚が減少・菲薄化し,心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下(左室駆出率50 %未満)をきたし,拡張型心筋症様病態を呈する. (日本循環器学会, 日本心不全学会. 2019927)より)
左室壁15 mm以上の心肥大(肥大型心筋症の家族歴がある場合は13 mm以上)
・サルコメア遺伝子変異を認める・サルコメア遺伝子変異は認めないがほかの二次性心筋症は否定されている・遺伝子検査は施行できていないがほかの二次性心筋症は否定されている二次性心筋症
高血圧などの圧負荷や二次性心筋症を疑う所見があるか?
ないある
肥大型心筋症
図22 肥大型心筋症の表現型の分類(日本循環器学会, 日本心不全学会. 2019927)より)
表98 左室のdynamic obstruction の定義
閉塞状態条件圧較差閉塞性安静時≧30 mmHg非閉塞性安静時生理的誘発<30 mmHg <30 mmHg誘発性閉塞安静時生理的誘発<30 mmHg ≧30 mmHg
p.113
については,peak LVOT PGが50 mmHg以上あったとしてもSRTの適応とはならない.最適な薬物療法が行われており,かつNYHA心機能分類III度以上の心不全症状,繰り返す労作時の失神などを認める場合はSRTの適応と考える.
上記のi,ii,iiiの条件を満たした場合,SRT,すなわち中隔心筋切除術あるいはPTSMAを考慮する.
PTSMAの適応を考える際には,まず,中隔心筋切除術の適応を考える.開胸にて同時に修復できる併存心疾患がある場合は,中隔心筋切除術を選択する.本ガイドラインにおける,中隔心筋切除術を積極的に考慮すべき症例についての記載は,2014年版先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患に対するカテーテル治療のガイドライン2)を踏襲した.詳細は次のとおりである.
1外科治療を要する左室流出路または僧帽弁腱索複合
体の構造的異常を有する症例. 2外科治療を要する器質的大動脈弁または僧帽弁疾患
を合併している症例. 3上記1,2を除く閉塞性肥大型心筋症で,とくに若
年・青壮年の症例. 4閉塞を生じる心室中隔局所の壁厚が30 mm 以上の閉
塞性肥大型心筋症の症例933). 5PTSMAによる中隔縮小効果が不十分な症例.僧帽弁腱索複合体の構造的異常の有無につき確認することは,SRTを実施するうえで非常に重要な点であり,経胸壁および経食道心エコー,心臓CT,心臓MRIなどのさまざまな画像モダリティを用いて確認する934).なお,冠動脈の解剖上PTSMAに不向きな症例(PTSMAの適応と判断し,PTSMAを試みた際にガイドワイヤにより標的心筋を灌流している中隔枝が選択できない,ガイドワイヤによる選択が可能でもオーバー・ザ・ワイヤ[OTW]バルーンが通過せず中隔枝をバルーンにより閉塞できないなど)があり,そのような症例は,PTSMAが施行できず,中隔心筋切除術が選択される. b. 年齢
前述のとおり,若年者に対しては,中隔心筋切除術を施行するべきと考えるが(併存疾患などで開胸手術が困難など特別な状況でない限り,PTSMAを治療の選択肢として考えるべきではない),中高年に対しては,はっきりとした年齢での線引きがあるわけではない.過去の文献に基づいて65歳未満は中隔心筋切除術,65歳以上は両者いずれも選択可能という意見935)もあるが,最近では50歳以下の症例においてもPTSMAの成績は容認できるという報告936)もあり,40歳以上の症例については,単に年齢だけではなく症例ごとに背景因子やさまざまな検査所見(経胸壁あるいは経食道エコー,心臓CT,心臓MRIなど) 937 -939)をふま
えて,循環器内科医,心臓血管外科医などで構成されるハートチームで議論し,どちらが当該症例にとって有効な治療かを検討するのが望ましい. c. 術者経験
PTSMAは,ほかの侵襲的治療同様,経験により治療成績が左右される940).PTSMAの適応となる症例は,重症の心不全症状などを伴っており,臨床的に状態不良の症例が多い.そのため,安全かつ確実で長期間にわたって効果が持続する結果を求められる.長期予後を改善する有効な治療を行うには,肥大型心筋症の病態,診断および合併疾患に精通している必要があり,安易な手技は慎むべきである. ACC/AHAガイドライン2011において,経験のある術者とは,20例以上の第一術者としての経験があり,50例以上の治療経験のある施設で手技に携わっていることと定義されている.ACC/AHAガイドライン2011 931),ESCガイドライン2014 932),2014年版先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患に対するカテーテル治療のガイドライン2)および2018年改訂版日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン心筋症診療ガイドライン927)ではクラスIとして931, 932),経験のある術者により施行されるべき,とする記載があることを明記しておく.
a. 手技前i. 心エコー
PTSMA施行にあたっては,術前に焼灼予定となる中隔心筋領域を同定し,僧帽弁前尖の収縮期前方運動(SAM)による僧帽弁閉鎖不全症の程度などを把握しておくことが重要である.高齢者においては,閉塞性肥大型心筋症に大動脈弁狭窄を合併する場合があり,SRTの適応を判断するうえで圧較差の評価には注意が必要である. ii. 心臓MRI
経胸壁および経食道心エコーと比べて,僧帽弁前尖のSAMと弁下部の状態の描出に優れている.中部心室の肥大に関連した心室中部閉塞性肥大型心筋症も同様に評価が可能である.心エコー検査で識別できない肥大部位の識別や僧帽弁や乳頭筋の構造的異常を明らかにすることが可能なことがあり,SRTの適応を判断する際には禁忌でない限り,心臓MRIを行うことが推奨される941-943). iii. 心臓CT
心臓CTの解像度が飛躍的に上昇し,中隔枝の評価を行うことが可能となり,2008年以降,PTSMA施行前の心臓CTの活用法につき,多くの検討がなされてきた937, 944-947).閉塞性肥大型心筋症では,僧帽弁腱索複合体の異常を合
6.1.6 手技前および手技中の画像評価
p.114
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
併しやすいことが知られており948),心臓CTで計測される左室内弁下組織異常の体積が大きいほど薬剤抵抗性の左室流出路閉塞をきたしやすいことが報告されている949).左室内構造をより明確に視覚化するために,心臓CTの情報から3Dプリンターを用いて心臓モデルを作成する試みも始まっており,外科的心筋切除術とPTSMAの治療法選択,ならびに心筋切除術前のシミュレーションに活用する報告がなされている950, 951).心臓CTは,冠動脈と心筋の両者を同時に描出することができるため,中隔枝と栄養されている心筋の関係性をある程度明らかにすることができる.この観点から,心臓CTは,手技前に可能な限り施行すべきであると考える.具体的にPTSMA施行前に心臓CTを行う利点としては,以下の3点があげられる.
1標的中隔枝の支配領域の大体の把握が可能であるこ
と. 2標的中隔枝の派生元の冠動脈からの分岐角度の把握
が可能であること952). 3標的中隔枝が,左前下行枝以外から派生している可
能性につき知ることができること. b. 手技中・選択的心筋コントラストエコー法
PTSMAの実施には,閉塞の原因となる中隔心筋を同定することが必須である.1990年代には,近位部中隔枝を1本ずつバルーンで閉塞し,圧較差の軽減をみて有効かどうかを決めたが,判別困難な場合が多い.Faberらにより心筋コントラストエコーが治療の効果と合併症の軽減に有用と報告され,PTSMAは安全に実施できる治療として確立された953).当初,選択的心筋コントラストエコーには,コントラスト剤のレボビストが用いられたが,2012年に欧州での製造が終了し,現在は膠質液やヨード造影剤が撹拌され用いられている.2014年ESCガイドラインでは,選択的心筋コントラストエコーの併用がクラスIで強く推奨されている932).当該部位を灌流する中隔枝を,心エコーと冠動脈造影所見より推定し,選択的心筋コントラストエコー法により最終的に同定するという手技は,治療成績の安定化および合併症(不適切な領域へのエタノール注入,たとえば右室自由壁や乳頭筋など)の回避に大きく寄与する930, 954, 955).選択的心筋コントラストエコーで確認した領域へのエタノール注入により,標的心筋は少しずつ白染化する.エタノールの白染は一様となるように行い,領域内は可能な限り徹底した焼灼とする.
1選択的心筋コントラストエコー下で手技を行う. 2一時的ペースメーカを留置して手技を行い,最短でも
6.1.7 手技上のポイント48時間は留置する.
3オーバー・ザ・ワイヤバルーンは,血管造影上で推測
した中隔枝径より若干大きめのサイズを選択する. 4エタノールはかならず緩徐(毎分0.3 mL以下)に注入
し,冠動脈中隔枝の灌流範囲により1.0~2.5 mL/枝を基本とする.注入速度が速いと生理的血管床を超えてエタノールが流出し,後述する合併症発生の要因となる.
治療のエンドポイントについては,左室流出路閉塞症例の場合,治療前に比べて50%以上の圧較差の減少956),終了時点での安静時圧較差が10 mmHg以下かつ誘発時のピークの圧較差が治療前と比べて80%以上減少957, 958),持続的な完全房室ブロックを認めた場合などがあげられているが,統一した見解はない.手技終了時に,安静時圧較差はできるだけ低く,誘発時も30 mmHg以下であり,SAMが消失していることが理想的である.しかし,左室内腔の狭い症例では,閉塞心筋の収縮が無収縮となってもSAMは必ずしも消失しないことがある.その場合,治療直後には圧較差は十分に減少せず,焼灼部の縮小まで待つ必要がある.エタノール焼灼により心筋は凝固壊死となり,病理組織的には虚血心筋壊死とは異なるが,不十分な焼灼は灌流域に生存心筋が残存する可能性があり,致死的不整脈発生の原因となりうる.そのため,合併症を防ぐという観点からも,閉塞責任領域の中隔壁焼灼は心エコー観察下に徹底して行い,エタノールにより標的域が一様に濃く白染するまで行うべきとされる.隣接する複数枝の焼灼では,焼灼領域が術前に目的とした焼灼標的域を焼灼できれば手技を終了する.なお,左室流出路閉塞とは違い,中流部閉塞はSAMを伴わない閉塞であり,手技直後は十分な圧較差の減少が得られないことがある.したがって,治療のエンドポイントは,あらかじめ目的としていた領域を焼灼できれば終了とする.なお,有意な閉塞解除には,手技後6 ~12ヵ月を要することも多い.
治療成績は欧米からの報告が多く930),症例数は報告によりばらつきはあるものの,多くても600~700症例,観察期間は長くて10年である.新規に恒久的ペースメーカ挿入が必要となる率は,10~30%,院内死亡率は1~2%,再度PTSMAが必要となる率は5~15%,5~10年生存率は80~95%であった935, 956, 959-966).2016年に,欧州の7ヵ国,10 の3次医療機関で,1996年から2015年のあいだにPTSMAを施行された1,275症例が登録された,Euro-
6.1.8 治療のエンドポイント
6.1.9 PTSMAの治療成績927)
p.115
ASAレジストリ研究の結果が報告された967).登録症例の平均年齢は58±14歳,女性が49%,フォローアップの中央期間は5.7年であった.30日死亡率は1%,1年,5年, 10年生存率は各98%,89%,77%であった.左室流出路圧較差は,67±36 mmHgから16±21 mmHgへ減少した.より多くの量のエタノール使用は,左室流出路圧較差減少に対してより効果的であったが,同時に周術期の完全房室ブロックの発症率も上昇した.86%の症例がNYHA心機能分類I度以上の改善を認めた.本報告では,PTSMAに伴う周術期合併症は低く,また長期死亡率も低率であり,重症症候性閉塞性肥大型心筋症に対するPTSMAは,症状軽減および左室流出路閉塞の解除に有効な治療法であると結論づけた.ただし,術後の左室流出路閉塞の増悪は,症状および予後の悪化と関連があり,流出路閉塞解除のために,適切な治療が選択されるべきとしている.なお,本報告を解釈するうえで,PTSMAの経験が豊富な施設での成績であるという点に注意すべきである.
頻脈性不整脈(心室頻拍,心室細動)および徐脈性不整脈(完全房室ブロックなど)のほかに,エタノール注入,カテーテル手技や一時的ペースメーカ挿入,留置に伴う合併症がある.各合併症の頻度では,完全房室ブロックがもっとも多い合併症であり,10~15%とされる968-970).完全房室ブロックについては,注入したエタノール量と関連があるという報告もあり967),焼灼心筋量が多ければ合併率は上昇するが,エタノール量が少なくても中隔最基部を栄養する中隔枝にエタノールを注入した場合は併発する場合もある.手技中の完全房室ブロック合併は血圧低下をきたし,手技の継続を困難にすることがあるので術者は合併した際の対応について習熟する必要がある927).文献上,心室細動をはじめとした心室性不整脈の発生率は0.5~3%前後936, 967, 969),カテーテル関連合併症(穿刺部合併症や冠動脈解離など)は0.5~1%前後969, 971),エタノール漏出に伴う左前下行枝領域の心筋梗塞930)や一時的ペースメーカ挿入および留置に伴う心タンポナーデはきわめてまれとされている.
日本循環器学会/日本心不全学会心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)における植込み型除細動器(ICD)植込みの二次予防と一次予防は図23のとおりである927).明らかな致死的不整脈の既往は,二次予防としてクラスIの適応とされる.一方,一次予防のためのICD植込みは,主要リスク因子と修飾因子により判断される.閉塞性肥大型心
6.1.10 PTSMAの合併症
6.1.11 ICDの適応筋症であることが,突然死リスクの修飾因子の1つとして
あげられており,SRTを行ううえで,事前にICDの植込みが必要か否かを検討することはきわめて重要である.ICD適応の症例においては,SRTを行う前にICD植込みを躊躇するべきではない.
7.1 成人の心房中隔穿刺術
心房中隔穿刺術は,心房中隔を穿刺し,経静脈的に右房から左房にカテーテルを挿入する手技である.1955年にRossらにより考案されて以来,手技と器材に加えられた改変はごくわずかであり,古典的な技術の一つとして現在に引き継がれてきた972-974).1950年代後半から1960年代後半には,左心房と左心室の内圧を測定する診断手法として,重要な役割を担っていた.ところが1970年代に入ると,経動脈的逆行性アプローチが主流となり,その件数は激減した.1980~1990年代になると,そのおもな適用は経皮的僧帽弁バルーン裂開術施術時における経皮的アプローチの手段に限られていた.この傾向は,2000年代に入り大きく変化した.構造的心疾患に対するカテーテルインターベンションや電気生理学検査,カテーテルアブレーションの進歩に相まって,的確で安全な心房中隔穿刺術が追求されるようになってきた.
a. 左心内圧血行動態評価
肺動脈楔入圧は,左房圧を代替するパラメーターとして使用されているが,肺高血圧,高度僧帽弁逆流症,僧帽弁人工弁置換術後,僧帽弁狭窄症,肺動脈静脈の先天性形態異常を有する症例においては,両測定値間に大きな乖離を生じて診断治療に影響を及ぼす可能性がある975, 976).このような状況下において,正確な左房圧や経僧帽弁圧較差を診断するためには,心房中隔穿刺術により直接左房にアプローチする必要がある.人工弁置換術後の大動脈弁977),大動脈弁位に疣贅を有する感染性心内膜炎など,逆行性に大動脈弁を通過させることが禁忌となる症例や,高度な大動脈弁狭窄症症例に対しても,逆行性ワイヤ通過,カテーテル操作による大動脈弁石灰化プラークの剥離,塞栓
7 特殊診断治療手技
7.1.1 心房中隔穿刺術の概要
7.1.2 適応
p.116
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
3経皮的僧帽弁弁尖クリップ留置形成術980). 4経皮的左心耳閉鎖術981). 5人工弁周囲逆流症に対する経カテーテル的閉鎖術982).
とくに僧帽弁置換術後の人工弁周囲逆流に対して,経心房中隔アプローチにより閉鎖用デバイス(Occluder)を留置する.
a. 卵円窩の性状
穿刺のポイントとなる卵円窩は,心房中隔の後方部に位置しており,その上縁は弓状の筋性縁(limbus)で境界されている.通常,卵円窩の厚みは中隔筋性部の1/3以下と菲薄化しており,穿刺針やダイレーターによる穿通が容易な部位である983, 984).
7.1.3 手技
性合併症,血行動態の不安定化を回避することを目的として,経心房中隔アプローチを行う場合がある978). b. 左房・僧帽弁輪に対するカテーテルアブレーション
心臓電気生理学検査ならびにカテーテルアブレーションで,左心系に存在する不整脈源の焼灼や心房細動症例における肺静脈電気的隔離術を施術する際に,経心房中隔アプローチにより肺静脈,僧帽弁輪に正確に到達することが重要になる979). c. 経心房中隔アプローチを要するカテーテル治療
経心房中隔アプローチを要するカテーテル治療として,以下があげられる. 1経皮的経静脈的僧帽弁バルーン裂開形成術709). 2経皮的経静脈的順行性大動脈弁バルーン形成術698).経
心房中隔的に,左房-左室-大動脈弁-大動脈と順行性にワイヤループを形成させて,バルーンを大動脈弁位に導入して拡張する.
心室細動・心室頻拍による心停止の既往持続性心室頻拍の既往ICD植込み(2次予防)クラスI
ICD植込み(1次予防)クラスIIa
ICD植込み(1次予防)クラスIIb
ICD植込み(1次予防)クラスIII
主要リスク因子のうち下記のいずれかを有する・最近の心原性あるいは原因不明の失神・左室壁厚30 mm以上の著明な肥大・2014ESCガイドライン計算式ハイリスク
主要リスク因子のうち下記を複数有する・突然死の家族歴・非持続性心室頻拍・運動時の血圧反応異常
主要リスク因子のうち下記を1つのみ有する・突然死の家族歴・非持続性心室頻拍・運動時の血圧反応異常
修飾因子を有する修飾因子を有する
NO
NO
NO
NO NO
NO
YES
YES YES
YES YES
YES
図23 肥大型心筋症患者の ICD 植込み適応フローチャート註: 第1 度近親者の突然死の家族歴は,2011 年ACCF/AHA ガイドラインでは,とくにリスクの高い因子としている.心筋症診療ガイドライン(2018 年改訂版)927)における取扱いには議論があった.日本人の肥大型心筋症の予後の報告において,突然死の家族歴がとくにリスクの高い因子であるか結果が一致しなかったため,心筋症診療ガイドライン(2018 年改訂版)927)では,本リスク単独ではICD 植込み適応とはしなかった. (日本循環器学会, 日本心不全学会. 2019927)より)
p.117
b. 使用するデバイスi. 心房中隔穿刺針
心房中隔穿刺針(brockenbrough needle)の仕様は,考案時から変更されることなく,現在もその原型をとどめている.18ゲージのシャフト部と,21ゲージの先端穿刺部位により構成されており,手元部位には穿刺針先端カーブの方向を示す矢印状のインディケーターが付いているが,患者の尾側から頭側方向に眺めた心臓断面を時計盤になぞらえることにより,穿刺針の穿刺方向は時間として表現される.金属針のbrockenbrough needleを基本として,BRKシリーズには,BRK,BRK1(大弯,large curve)と先端カーブの大きさが違う穿刺針が存在する.最近では,高周波エネルギー穿刺針(RF needle)も一般的になっている. RF needleでは,針の先端から高周波発生装置より発生する高周波エネルギーを通電,焼灼することで心房中隔に孔を作成する.弾力性がある厚い心房中隔や,針先端が滑りやすい場合など,金属針による機械的穿刺では難渋する症例においても,安全に行うことが可能である.したがって,一般的な症例に加えて,中隔瘤の症例,線維化硬化変性中隔の症例,左房が小さく近接組織への損傷リスクがある症例,卵円窩の下部(二次中隔)への穿刺が必要な症例など,多様な状況において効率よく安全に行える方法として,汎用されるようになっている985). ii. 左房シース
心房中隔穿刺後に左房内に挿入されるシースには,原型ともいうべきMullins sheathをはじめ,先端にさまざまな屈曲角度を有するLAMPまたはSLシリーズが存在する.これらのシースは治療内容に応じて選択される.
左心房内のカテーテルアブレーションなど,先端固定型シースでは安定したアクセスが困難な症例においては,先端可動性シースが有用な場合がある986). c. 施術のステップ
経皮的アクセス部位は右大腿静脈を基本とする.上大静脈(SVC)において,左房シースダイレーター内腔にbrockenbrough needleを,先端がダイレーター内に収まるように進めておく.このダイレーターと穿刺針のユニットをSVCから右房に向けて下降させていくのだが,この過程で穿刺針の矢印は右房とSVCの接合部で約3時方向,さらに心房中隔に沿って,より後下方の卵円窩に移動するに従い,5時前後を指すようになる.加えて,SVCから橈骨動脈に移行する時点,また卵円窩を捉える時点の双方で,画面右側方向(患者からみて左側方向)に針先の移動を認めることが一般的である.
穿刺針先端が卵円窩を捉えると,ダイレーター先端を介して左房の拍動を触知することが多い.透視において,側面像に近い深い左前斜位像で,穿刺針先端が大動脈なら
びにSOVの後下方にあることを確認する.次に,心房中隔がもっとも伸長されてみえる右前斜位45~60度で,改めてSOVの後下方に針の先端が位置しており,さらに心房後縁から十分な距離を維持していることを確認して,穿刺を行う.穿刺針先端による左房圧の検知,穿刺針先端からの動脈血吸引,場合によっては先端造影により左房へのアクセスが得られたことを確診したうえで,左房穿刺針とダイレーターのユニットを左房内に挿入する.最終的には,ダイレーター先端から左房内に挿入されたワイヤを介して,ダイレーターとシースのユニットを左房内に留置して,左房シースのサイドアームから十分に生理食塩水でフラッシュを行う. d. 抗凝固薬
穿刺部のアクセスが確保されたら,3000 Uのヘパリンを静脈投与する.さらに,心房中隔穿刺が完了した段階で,総量が120~180 U/kgになるようヘパリンを追加投与する.手技中も活性化凝固時間(ACT)が,経皮経管的僧帽弁交連切開(PTMC)では250秒以上,PVIでは300秒以上を維持するように,経時的にヘパリンを追加投与する.
従来,経心房中隔穿刺において,透視画像による両心房輪郭と大動脈の位置関係の把握,穿刺針先端の動き,穿刺針先端圧モニター,ダイレーター先端を通じて得られる心内腔構築の触感などが,穿刺部位決定の拠り所とされてきたが,これらは術者の施術経験ならびに習熟度に依存するところが大きかった184, 987).
卵円窩の位置は,心血管構築や胸腰椎の変形,弁膜疾患をはじめ,合併心疾患の併存など,各種の病態に応じて多様な偏位を示す.たとえば僧帽弁狭窄症では,左房の拡張に相まって穿刺位置は大動脈に比してより後方から下方に移動することが多い.一方,大動脈弁狭窄症では,大動脈が下方に拡張または水平化してくるため,穿刺位置はより上方内側に相対的に移動する.施術の内容と挿入されるデバイスのサイズに応じて,適切な穿刺点の選択が重要になる.
さらに,各施術において卵円窩の適切な位置における穿刺はきわめて重要であり,その後の治療過程・結果に大きな影響を及ぼす. a. 造影による心房中隔穿刺点の同定
卵円窩の穿刺位置を正確かつ客観的に視認化できるように,これまでもいくつかの工夫が加えられてきた.右房-左房造影を行うことにより,右房と左房の位置とその重なりから,穿刺点を決定することが可能である709).また,穿
7.1.4 心房中隔穿刺術の施術効率と安全性の向上
p.118
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
刺針先端から造影剤を少量注入することにより,中隔に染み状のステインをつくり,穿刺点のテント状変形を確認することもある. b. 心腔内エコーの活用
施術全般の安全性ならびに確実性を飛躍的に向上させるデバイスとして心腔内エコー(ICE)が近年汎用されるようになってきた988).
回転式トランスデューサー(血管内超音波[IVUS]に用いられる360度メカニカル方式)を用いたICEは比較的廉価であり,IVUSと同様の入出力装置に接続して使用することが可能である.ただし,穿刺針やダイレーター先端を視認することは困難であり,心房中隔壁のテント状変形の描出に基づいて適切な穿刺点を同定する989).最近は,断層心エコー同様のフェーズドアレイ方式の心腔内エコーが一般的に用いられるようになっている989).これにより経食道超音波に匹敵する高精度の心内腔画像が得られる.適切な穿刺位置の同定に加えて,左房内血栓の有無,弁膜形成時の治療効果や心タンポナーデといった合併症を各時点でモニターすることにより,治療効率と安全性の向上に活用することができる990, 991).
a. MitraClip ®を用いた僧帽弁弁尖クリップ留置形成術
僧帽弁弁輪より4.5 cm(MitraClip ® NTの場合)の高さを確保するために,穿刺部位は卵円窩の高位後壁側の穿刺が有利とされる992). b. PTMC
卵円窩から僧帽弁口,そして心尖部方向にイノウエ・バルーンが同軸性を保ちながら円滑に導入されるように,心房中隔アプローチ位置と僧帽弁輪の距離と角度が適切に確保されていることが重要になる.そのためには,卵円窩の中-下位後壁側の穿刺が有利なことが多い. c. 経皮的左心耳閉鎖術
左心耳は左房上位前方に開口しているため,卵円窩壁下縁からのアクセスが有利である. d. 肺静脈電気的隔離術(PVI)
肺静脈開口部は左房後壁に位置しており,右下肺静脈にデバイスを導入することも考慮して,卵円窩前側下方で穿刺することが有利であることが多い993).
いずれの状況も,CT画像,ICE,TEEを駆使したリアルタイムの画像を組合せることにより,穿刺困難に陥っている理由を的確に診断する必要がある.
7.1.5 位置特異的穿刺(site-specific puncture)
7.1.6 注意を要する解剖学的状況(穿刺困難例) a. 心房拡張または中隔偏位症例
巨大右房症例,または心臓・縦隔が胸腔内で左側に偏位している症例,また脊椎・縦隔変形症例では,下大静脈の右房開口部から卵円窩に至る距離が離れているために,穿刺針先端が卵円窩に到達しないことがある.また,心房が拡張偏位して,右房と左房の配列が水平位になるために心房中隔が垂直位(頭-尾側)である症例では,卵円窩に対して穿刺針を正接(tangent)に方向づけすることが困難となり,針先が滑りやすくなる.このような卵円窩の偏位が顕著な場合は,通常用いるBRKよりも曲率の大きいBRK1を利用すると穿刺が容易になることがある. b. 可動性に富む卵円窩,小左房
心房中隔瘤に代表されるように可動性が大きな中隔では,穿刺針先端が左房内深く,場合によっては左房壁にまで到達して左房壁の穿孔に至ることがありうる.同様のトラブルは左房内腔が狭小な場合にも生じやすい.
穿刺針の先端が左房内腔に進入するや否や,0.014から0.018インチの血管形成用ワイヤを穿刺針内腔から左房内,そして左上肺静脈に進め,同ワイヤをモノレールとして,安全に穿刺針と左房カテーテルのユニットを左房内に導入するようにする.中隔の過剰な伸展を防止するうえで,RFニードルの使用も有用である. c. 心房中隔肥厚例
心房中隔肥厚の原因は多岐にわたるが,代表的なものとして脂肪変性(lipomatous change)に伴って肥厚する例,心房中隔穿刺再施術,開胸心臓外科手術の既往,高齢患者,また腎透析患者などにみられる卵円窩の硬化変性などがあげられる.RFニードルの使用により,施術が容易となるケースが多い.
1下大静脈(IVC)の閉塞. 2重篤な出血素因. 3心房粘液腫の合併. 4左房内血栓.とくに心房中隔に血栓が存在する場合は
絶対禁忌となる.左心耳に限局された血栓や,経口抗凝固薬が十分な期間投与されている場合は,施術が可能である.そのほか,禁忌ではないが危険性が高いために,心腔内エコーや経食道心エコーのガイド下に十分な注意のもとに行うべき症例として以下があげられる.
1左側大腿静脈からアクセスされた症例. 2硬化した腸骨動脈や大動脈の著しい屈曲蛇行により
静脈の圧迫や走行の偏位がみられる症例. 3胸腰椎の高度な側弯,変形のために,IVCから右房・
7.1.7 心房中隔穿刺術が不適応となる症例
p.119
左房に至る経路に屈曲や偏位が存在する場合. 4上行大動脈が著しく拡張した症例. 5胸縦隔腫瘍や大量の心嚢液により,心房が周囲から圧
迫されている症例. 6巨大右房のため,心房中隔穿刺点の偏位が著明な症例.
a. 心嚢液貯留
不適切な位置での穿刺,すなわち心嚢腔や大動脈壁や冠状静脈洞の誤穿刺,または心房中隔解離が心外膜に及ぶ際に生じる.心タンポナーデを生じる血行動態上有意なもの,また心嚢腔内出血は認めるものの血行動態上温存されているものの双方を合わせて,3.2%に心嚢液貯留が認められていると報告されているが,穿刺困難例でその発生率が高くなる.
穿刺針の先端部のみによる穿刺に留まる場合には,心タンポナーデに至ることはきわめてまれである.ただし,この段階で適切に誤穿刺が認識されることなく,ダイレーターが挿入されると急速に心タンポナーデ発生が生ずる.巨大右房症例においては,右房からいったん心嚢腔に抜けて左房にエントリーするために,デバイスの抜去後に初めて発症する.
早期診断,抗凝固薬の中和,必要に応じて迅速かつ的確な心嚢ドレナージにより対応するが,ダイレーターまたはシース挿入例では,穿通孔の自然閉鎖が困難となり,外科的処置が必要とされることが多い. b. 血栓・空気塞栓症
冠動脈や脳血管への塞栓症を生じることがある.迅速に穿刺術を完了して適切な抗凝固療法を行い,穿刺針とダイレーターを的確なタイミングで十分にフラッシュ操作することにより,血栓形成を予防する.施術中,穿刺針先端の圧力を注意深くモニターして,圧波形の鈍化がみられたときには,血栓形成を見逃さないようにする.また,穿刺針がダイレーター内に収まっている段階では,針先端から空気を吸引することがあるので,フラッシュの際には吸引を避けるようにする.左房内にカテーテルやシースが挿入されたのちは,システム内への気泡の混入に十分注意する.ペースメーカーリードが挿入されている症例では,同部位に付着した血栓の可能性に注意し,また左房内血栓の有無を術前エコーにより除外しておくことが重要である. c. 術後ASDの残存
術後に有意なASDが残存する可能性がある.その因子として,菲薄な心房中隔,多数回の穿刺,デバイスの径,術中の機械的ストレスの程度,さらに左房圧上昇などが含まれる.すべての症例において,施術を完了してデバイス
7.1.8 合併症994-996)を抜去したのちに,残存した心房中隔シャントを介した塞
栓症発症のリスクを念頭に入れる必要があり,デバイス抜去後の右房内や大腿静脈におけるフラッシュ操作には,細心の注意を払う必要がある.
7.2 小児の心房中隔穿刺術(表99)
左心系の診断や治療のためのルートが必要な場合は適応となる997, 998).左心系へは大動脈から逆行性に到達する方法もあるが,右房からの心房中隔穿刺のほうが,メリットがある場合や,心房中隔穿刺でしか左房に到達できない場合にリスクを考慮したうえで適応を決定する.適応となる疾患,病態を表100に示す997-1001).小児の心臓は非常に柔らかい一方で,疾患によっては心房中隔が非常に厚く穿刺しにくいこともある.先天性心疾患では,心房,心室,大血管の位置が通常と異なることが多いので,注意が必要である.
穿刺針には,小児用(62 cm)と成人用(72 cm)とがあ
7.2.1 適応
7.2.2 手技
表100 小児および先天性心疾患における心房中隔穿刺術
の適応1. 電気生理学的検査,カテーテルアブレーション1)正常心の左房起源不整脈2)Fontan術後の左房起源心房頻拍3)Mustard術後,Senning術後の左房側の頻拍2. 左心低形成症候群術前で,心房間交通狭小化3. 完全大血管転換症術前で,心房間交通が閉鎖4. 先天性僧帽弁狭窄症に対するバルーン形成術5. 大動脈弁狭窄や大動脈縮窄に対するバルーン拡張術を順行性に行う6. 大動脈弁人工弁置換術後,左室圧を測定7. 肺静脈圧,肺静脈楔入圧の測定8. 肺静脈楔入造影(肺動脈を逆行性に造影する) 9. 肺静脈狭窄に対するカテーテル治療
表99 小児に対する心房中隔穿刺術の推奨とエビデンスレ
ベル
推奨クラスエビデンス
レベル
左心系の診断や治療のためのルートが必要な場合,心房中隔穿刺は有用な方法である.小児の場合,体格が小さく,先天性心疾患では心房,心室,大血管の位置が通常と異なることが多いため,経験ある術者によって,十分な合併症対策を講じたうえで心房中隔穿刺を行う. I C
p.120
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
り,体格に応じて選択する.シースは5~9 Frである. Mullinsシースや電気生理学的検査用のシースなどがある.ガイドワイヤを先行させ,シース+ダイレーターをIVCないし無名静脈に進める.IVCにシース+ダイレーターを置き,透視をみながら穿刺針を進める.このとき,穿刺針のなかに付属のワイヤを入れたままにしておく.穿刺針は,心房の解剖にあわせて曲げたほうがよい場合もある.先端の針と穿刺針本体の接合がゆるくなることがあるため,先端の針の部分は曲げてはならない.穿刺針がダイレーターの5 cm手前にきたら,付属のワイヤを抜き,穿刺針をダイレーターの2~5 mm手前にまで進める.シース+ダイレーター+穿刺針をゆっくり引いて,上大静脈内で左後方に向ける.穿孔のリスクがあるため,シース+ダイレーター+穿刺針は,高さを固定したまま回転させてはならない.左後方に向けたままゆっくり抜くと,卵円窩に落ちるとき手応えを感じる.さらに少し引き,卵円窩にダイレーターの先端が乗るようにする.
透視下でダイレーターの方向を確かめながら,ダイレーターを卵円窩の表面上をゆっくり進め,心房中隔を軽く押す.経食道心エコーないしICEを用いて,心房中隔がテント状に押されていることを確かめる.ICEを用いる際には,エコーカテーテルの位置を変えて,ダイレーター+穿刺針の先端を捉える工夫をすることが重要である.
心房中隔がテント状に押されていたら,穿刺針を5 mm程度進め,ダイレーターから出す.穿刺針が貫通すると,手元に“ぷつん”と感触が伝わることが普通である.左房に穿刺針が入ったら,コントラストエコーか造影剤で確認する.左房内の造影剤は渦状に消え去るのが特徴である.左房に穿刺針が入っていることを確認後,穿刺針の手元は体外で固定してダイレーターのみをわずかに進め,ダイレーターを左房に進める.その後,穿刺針を抜き,先端を曲げた0.025インチアルゴンタイプガイドワイヤに替え,ガイドワイヤを左房内に十分進めたのちに,シース+ダイレーターを左房内へ進める.
脈にシースが入っている場合には,ピッグテール・カテーテルを上行大動脈に留置しておくと,心房中隔穿刺時の大動脈の位置の指標になる.
穿刺に際しては,機械的な力により穿通するbrockenbrough needleのほかに,高周波エネルギー穿刺針1002)や近年は高周波を用いた穿刺ワイヤ(Baylis Medical Co.)が使用される.穿孔の瞬間,通電は切れるので,穿刺針より安全に心房中隔穿刺が施行できる可能性があるが,その安全性や有効性は今後の課題である1001, 1003).
これらの方法は,いくつかある方法のうちの一つで,術者が慣れた方法を用いるべきである.近年,心房中隔穿刺は30 kg未満の小児でも安全に行え
ることが報告されているが1004, 1005),空気塞栓,血栓の予防に最大限の注意を払うべきである998).小児では心房内のダイレーター操作で穿孔することがある.先天性心疾患では,大動脈の位置が通常と異なることがあり,大動脈を穿刺することがある1006, 1007).穿刺針のみでタンポナーデになることはまれであるが,誤った部位に穿刺された穿刺針を抜去する際には,心エコーで心嚢液をモニターする.シースやダイレーターが誤った部位に挿入された場合には,不用意に抜かないことが大切である.抜去する際には,細いガイドワイヤを残し,再挿入できるようにしてから右心房まで抜く.出血をコントロールして,抜去するようにする.輸血の準備,外科医の待機,手術室の準備,心嚢穿刺の準備,手術室への移動など,あらかじめ必要な準備を行う.
7.3 経皮的バルーン心膜開窓術(表101)
悪性新生物による再発性心嚢液貯留や再発性心タンポナーデに対し,歴史的に外科的心膜開窓術が施行されていたが,原疾患が予後不良であることや外科手術高リスクの症例も多いことから,より低侵襲の処置が望まれてきた.一方で,心嚢ドレナージのみでは再発が多いために,1990年にバルーンカテーテルを用いた経皮的心膜開窓術が報告され1008),徐々に世界中で施行されるようになった.
わが国でも1990年代から同治療が試みられ,2001年に
7.2.3 リスク
7.3.1 経皮的バルーン心膜開窓術の成績
表101 経皮的バルーン心膜開窓術の推奨とエビデンスレ
ベル
推奨クラスエビデンス
レベル
心タンポナーデもしくは大量心嚢液貯留では,症状緩和と血行動態の改善,心嚢液の診断を確立するために心嚢穿刺を行う. I B心タンポナーデもしくは大量心嚢液貯留では,心嚢液再発防止と心膜内治療を考慮し,心嚢ドレナージカテーテル留置を行う. I B心嚢穿刺に習熟した術者とスタッフにより,心臓カテーテル検査室にて,心タンポナーデもしくは大量心嚢液貯留の再発予防のために経皮的バルーン心膜開窓術を考慮してもよい. IIb B
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は開心術後の再発性心嚢液貯留症例に対する有効性が初めて報告された1009).
本治療の対象疾患は再発性心嚢液貯留で,悪性疾患に多くみられ,予後不良で全身状態の悪い患者も多い.そのため,できるだけ低侵襲な処置が望まれる.現在,カテーテルを心嚢内に留置する持続ドレナージ,心嚢内に硬化剤を注入して壁側および臓側心膜の癒着を生じさせて心嚢液貯留自体を防止する癒着術,そして経皮的バルーン心膜開窓術や胸腔鏡を用いた胸腔鏡下心膜切開術が行われている.
悪性心嚢液に対する経皮的バルーン心膜開窓術は,心嚢穿刺と比べて,心嚢液貯留再発率が少ないことが報告されている(38.3% vs. 10.3%,図24)
1010).手技に伴う死亡
は,心嚢穿刺では1.0%,経皮的バルーン心膜開窓術では0.6%であると報告されている.
経皮的バルーン心膜開窓術は,再発性心嚢液貯留や再発性心タンポナーデに効果的で安全な手段と考えられる.ただし,胸腔もしくは腹腔へ心嚢液を排出するため,胸腔穿刺が再度必要になる場合もある.また,悪性心嚢液の場合には,悪性細胞の播種のリスクがある.そのため,あくまでも症状緩和のための治療という位置づけになる.ESCの「心膜疾患の診断と管理のためのガイドライン」では,悪性心嚢液再貯留予防のために経皮的バルーン心膜開窓術を考慮してもよい(クラスIIb,レベルB)と記載されている1011).
7.3.2 経皮的バルーン心膜開窓術の推奨度
心嚢液貯留再発率(%)
0 10 20 30 40 50
心嚢ドレナージカテーテル留置
心嚢穿刺排液
心膜癒着術
経皮的バルーン
心膜開窓術
図24 悪性心嚢液に対する経皮的バルーン心膜開窓術(Virk SA, et al. 20151010)より) Reproduced from Heart. Virk SA, et al. 2015;101(20):1619-26. with permission from BMJ Publishing Group Ltd.
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先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・部門の長と共同研究の立場にある場合)
顧問株保有・
利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その
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班長:河村 朗夫ツムラファイザー興和島津製作所アボット バスキュラー ジャパン第一三共ファイザー班員:赤木 禎治日本ライフラインアボットメディカルジャパン班員:泉 知里エドワーズライフサイエンスノバルティスファーマ大塚製薬第一三共第一三共班員:大野 洋平日本メドトロニック日本メ
ドトロニック
班員:金子 英弘第一三共班員:倉谷 徹エドワーズライフサイエンス日本メドトロニック班員:塩瀬 明アボットメディカルジャパンテルモ大塚製薬日本アビオメッド日本メドトロニック日本ライフラインエア・ウォーターエドワーズライフサイエンスセンチュリーメディカルUSCI ジャパンアステラス製薬アボットメディカルジャパンエーザイエドワーズライフサイエンスカナヤ医科器械サンメディカル技術研究所テルモフクダ電子西部北販売リヴァノヴァカルディオキシヤ泉工医科工業日本メドトロニック日本ライフライン平和物産班員:多田 憲生エドワーズライフサイエンス日本メドトロニック
付表 2021 年改訂版 先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患 (structural heart disease)に対する カテーテル治療のガイドライン:班構成員の利益相反(COI)に関する開示(2018 年1 月1 日~2020 年12 月31 日)
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班員:前川 裕一郎サノフィバイエル薬品ブリストル・マイヤーズ スクイブ日本ベーリンガーインゲルハイム第一三共日本メドトロニックアボット バスキュラー ジャパンアボットメディカルジャパンオーバスネイチメディカルテルモバイオトロニックジャパンボストン・サイエンティフィック ジャパン日本メドトロニック班員:松原 広己バイエル薬品アクテリオンファーマシューティカルズ ジャパンヤンセンファーマ持田製薬アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン日本新薬班員:森野 禎浩アボット バスキュラー ジャパンアムジェンエドワーズライフサイエンスサノフィテルモノバルティスファーマバイエル薬品ブリストル・マイヤーズ スクイブボストン・サイエンティフィック ジャパン第一三共日本ライフラインEP クルーズアボット バスキュラー ジャパンエイツーヘルスケア生産開発科学研究所第一三共エドワーズライフサイエンステルモバイエル薬品ボストン・サイエンティフィックジャパン小野薬品工業大塚製薬日本ライフライン富士フイルムRIファーマ武田薬品工業班員:安河内 聰アクテリオンファーマシューティカルズ ジャパン班員:山上 宏日本ストライカーバイエル薬品第一三共ブリストル・マイヤーズ スクイブ協力員:有田 武史エドワーズライフサイエンス協力員:中澤 賢テルモ日本ストライカーアストラゼネカ日本メドトロニックバイエル薬品ボストン・サイエンティフィックジャパン日本ゴアクックメディカルジャパン日本ライフライン
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外部評価委員:木村 剛アボット バスキュラー ジャパンサノフィブリストル・マイヤーズ スクイブボストン・サイエンティフィックジャパン興和日本ベーリンガーインゲルハイムエドワーズライフサイエンスEP クルーズファイザー興和第一三共アステラス製薬エムアイディ大塚製薬第一三共田辺三菱製薬日本ベーリンガーインゲルハイム武田薬品工業外部評価委員:先崎 秀明いわき市外部評価委員:高山 守正第一三共*法人表記は省略*以下の構成員については特に申告事項なし班長:坂本 喜三郎班員:大月 審一班員:小林 俊樹班員:坂田 芳人班員:杉山 央班員:須田 憲治班員:田島 廣之班員:原 英彦班員:矢崎 諭班員:吉村 宣彦協力員:安藤 誠協力員:石津 智子協力員:大木 宏一協力員:北野 正尚協力員:金 成海協力員:田波 穣協力員:中川 直美協力員:馬場 健児協力員:山内 治雄外部評価委員:富田 英外部評価委員:中西 敏雄以上
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