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2021 年3 月27 日発行
合同研究班参加学会
日本循環器学会 日本インターベンショナルラジオロジー学会 日本医学放射線学会
日本核医学会 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構日本不整脈心電学会 日本心血管インターベンション治療学会 日本放射線技術学会
班員
小船井 光太郎東京ベイ・浦安市川医療センター東京ベイ・浦安市川医療センター
循環器内科循環器内科加藤 守秋田県立循環器・脳脊髄センター秋田県立循環器・脳脊髄センター
放射線科診療部放射線科診療部
石綿 清雄日比谷石綿クリニック日比谷石綿クリニック池田 隆徳東邦大学大学院医学研究科東邦大学大学院医学研究科
循環器内科学循環器内科学
鈴木 滋東京女子医科大学東医療センター東京女子医科大学東医療センター
放射線科放射線科副島 京子杏林大学医学部付属病院杏林大学医学部付属病院
循環器内科循環器内科
坂本 肇順天堂大学保健医療学部順天堂大学保健医療学部
診療放射線学科診療放射線学科
近藤 浩史帝京大学医学部帝京大学医学部
放射線科学放射線科学
橋本 順東海大学医学部東海大学医学部専門診療学系画像診断学専門診療学系画像診断学
松本 直也日本大学病院日本大学病院循環器内科循環器内科本江 純子
菊名記念病院菊名記念病院循環器センター循環器センター
近森 大志郎
東京医科大学東京医科大学循環器内科循環器内科松本 一真兵庫医科大学病院兵庫医科大学病院
放射線技術部放射線技術部
谷澤 貞子藤田医科大学藤田医科大学循環器内科循環器内科松原 孝祐金沢大学医薬保健研究域金沢大学医薬保健研究域保健学系量子医療技術学保健学系量子医療技術学上妻 謙帝京大学医学部帝京大学医学部
循環器内科循環器内科
班長
2019‒2020 年度活動
2021 年改訂版
循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン
JCS 2021 Guideline on Radiation Safety in Cardiology
協力員
飯森 隆志千葉大学医学部附属病院千葉大学医学部附属病院
放射線部放射線部上田 明子杏林大学医学部杏林大学医学部不整脈先進治療学不整脈先進治療学
天野 英夫東邦大学大学院医学研究科東邦大学大学院医学研究科
循環器内科学循環器内科学
阿部 光一郎
東京医科大学東京医科大学放射線医学放射線医学
鈴木 康之日本大学病院日本大学病院
循環器科循環器科武田 和也
榊原記念病院榊原記念病院
放射線科放射線科
小菅 寿徳東京医科大学東京医科大学循環器内科循環器内科
河合 秀樹藤田医科大学藤田医科大学循環器内科循環器内科
山下 高史東海大学医学部付属病院東海大学医学部付属病院
放射線技術科放射線技術科
日置 紘文帝京大学医学部附属病院帝京大学医学部附属病院
循環器内科循環器内科
仲間 達也東京ベイ・浦安市川医療センター東京ベイ・浦安市川医療センター
循環器内科循環器内科
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外部評価委員
(五十音順,構成員の所属は2021 年3 月現在)
玉木 長良京都府立医科大学京都府立医科大学
放射線医学放射線医学永井 良三
自治医科大学自治医科大学清水 渉日本医科大学附属病院日本医科大学附属病院
循環器内科循環器内科平尾 見三AOI 国際病院AOI 国際病院循環器内科循環器内科
木村 剛京都大学大学院医学研究科京都大学大学院医学研究科
循環器内科学循環器内科学中村 正人東邦大学医療センター大橋病院東邦大学医療センター大橋病院
循環器内科循環器内科
目次
改訂にあたって7
表1推奨クラス分類8表2エビデンスレベル8
第1 章放射線被ばくの現状と考え方9 1. 医療現場での放射線被ばくへの警鐘 ........9 2. 放射線防護の基本 ...................... 10
2.1 医療現場における放射線防護の認識 .. 10 2.2 医療被ばくと職業被ばく ............ 10表3放射線業務従事者の線量限度10 2.3 放射線防護の目的と3 原則 .......... 11表4放射線防護のための具体的目標11 2.4 行為の正当化 ...................... 11 2.5 防護の最適化 ...................... 11 2.6 最適化のための診断参考レベル ...... 11図1医療被ばく防護のための診断参考レベル(DRL) 12 2.7 線量限度 .......................... 12 2.8 被ばく状況の3 タイプ .............. 12
第2 章放射線安全管理の基礎知識13 1. 放射線の人体への影響 .................. 13
1.1 人体への影響の種類と区分 .......... 13図2放射線の人体への影響の区分13 1.2 確定的影響(組織反応)と確率的影響.................................. 13図3放射線被ばく線量と確定的影響(組織反応)の発生率
14 表5放射線による皮膚障害の現れ方14図4放射線被ばく線量と確率的影響の発生率14
1.3 放射線量とその単位 ................ 14 2. 検査室における線量管理 ................ 15
2.1 患者の医療被ばく .................. 15表6血管撮影室における患者の被ばく線量管理15
図5症例1:初期紅斑のしきい値以下で発症16
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図6症例2:PCI 施行12 ヵ月後に紅斑が再燃16図7リアルタイム放射線量計17図8皮膚面の放射線量とその分布の評価(患者背面から観察)
17 図9放射線線量構造化レポートを基にした線量分布表示18図10 リアルタイム線量分布と最大皮膚線量の表示18図11 患者照射基準点での線量測定における幾何学的
配置
18 表7 CT 検査室における患者の被ばく線量管理18図12 円筒形ファントムを用いたCT 線量指数(CTDI)
の測定
19 図13 円筒形ファントムを用いないCT 線量指数
(CTDIfree air)の測定
19 表8核医学検査室における患者の被ばく線量管理20
2.2 医療従事者の職業被ばく ............ 21表9血管撮影室における医療従事者の被ばく線量管理21
表10 医療従事者の放射線量限度22図14 放射線防護具22図15 防護板の散乱線防護効果(血管撮影室の空間散乱
線分布図)
22 表11 CT 検査室における医療従事者の被ばく線量管理22図16 CT 検査室内の散乱線量分布の例23表12 核医学検査室における医療従事者の被ばく線量管理23
3. 医療従事者における線量限度 ............ 24
3.1 等価線量限度 ...................... 24 3.2 水晶体 ............................ 25表13 放射線業務従事者の眼の水晶体防護25
図17 眼と水晶体の構造26図18 眼の水晶体用の線量計27
3.3 皮膚 .............................. 27表14 放射線業務従事者の皮膚防護27 3.4 甲状腺 ............................ 27 3.5 女性に関する事項 .................. 27 3.6 頭部 .............................. 28 3.7 手技内容の共有 .................... 28 4. 女性医療従事者の胎児の被ばく .......... 28表15 妊娠中の女性放射線業務従事者の被ばく管理28
4.1 胎児被ばくの危険性 ................ 28 4.2 胎児の被ばく線量 .................. 29表16 英国における通常の診断手法から受ける胎児線量29 4.3 線量限度としきい線量 .............. 29表17 胎児被ばくによる主な先天性異常の発生時期30
表18 胎児における放射線の確定的影響のしきい線量30
4.4 放射線防護 ........................ 29図19 セパレート型放射線防護衣30
図20 巻きスカート型放射線防護衣30
4.5 放射線安全管理 .................... 30
第3 章放射線被ばく管理の実際31 1. 胸腹部単純X 線検査 .................... 31表19 単純X 線撮影における被ばく線量低減31
1.1 被ばく線量低減のための工夫 ........ 31図21 ポータブル撮影における病室の線量分布32
p.4
1.2 患者への説明 ...................... 32 1.3 Q&A .............................. 32
Q1経過観察のため毎日行う検査 ...... 32 2. CT 検査 ................................ 33表20 CT 検査における患者の被ばく線量低減33
2.1 CT の進歩,普及による被ばく線量増加 .. 33 2.2 被ばく線量低減のための工夫 ........ 33 2.3 被ばくの危険性 .................... 34 2.4 患者への説明 ...................... 34 2.5 Q&A .............................. 35
Q2妊婦に対するCT 検査 ............ 35 Q3小児に対するCT 検査 ............ 35 Q4逐次近似再構成処理での注意点 .... 35 Q5 CT 検査とインターベンションの違い .. 36 Q6実効線量による発癌リスク評価 .... 36 Q7繰り返す頻回のCT 検査での注意点 .. 36 3. 核医学検査 ............................ 36表21 SPECT 検査における被ばく線量低減36
3.1 SPECT 検査 ........................ 36表22 核種ごとの単位放射能あたりの実効線量係数37
表23 201Tl 製剤,99mTc 製剤の年齢ごとの実効線量係数37表24 123I 製剤の実効線量係数37
3.2 PET 検査 .......................... 39表25 18F-FDG の臓器別の吸収線量39
表26 18F-FDG の年齢ごとの実効線量係数40表27 心臓PET 検査用薬剤の診断参考レベル(DRL) 40表28 小児の体幹部の検査における18F-FDG の体重別
の標準的投与量
40 表29 18F の放射能減衰40表30 心臓PET 検査用サイクロトロン製剤の実効線量40
3.3 Q&A .............................. 42
Q8心筋血流シンチグラフィと同日または翌日の心臓カテーテル検査 ........ 42 4. 心臓と胸腹部・頚部血管のインターベンション
...................................... 42表31 心臓と胸腹部・頚部血管のカテーテルインター
ベンションにおける被ばく線量低減
42 4.1 被ばく線量低減のための工夫 ........ 43表32 各種インターベンションにおける患者の皮膚吸収
線量
43 表33 各種インターベンションにおける術者の被ばく線量43図22 防護板の位置による放射線量の違い44図23 心血管インターベンションにおける拡大透視・撮
影と被ばく線量(I.I.)
45 図24 心血管インターベンションにおける拡大透視・撮
影と被ばく線量(FPD)
46 図25 心血管インターベンションにおける放射線照射野
の絞りと被ばく線量
47 4.2 被ばくの危険性と患者への説明 ...... 46 4.3 新しいインターベンション治療における問題点 ............................ 47 4.4 小児に対する配慮 .................. 48 4.5 Q&A .............................. 48
p.5
Q9医療従事者の線量限度 ............ 48 Q10 防護衣の種類による防護効果の違い .. 48 Q11 PCI を受ける患者の被ばく線量 .... 49 Q12 PCI の反復試行と被ばくの影響の蓄積 .. 49 Q13 PCI 時のインフォームドコンセント .. 49 Q14 しきい線量に近づいたときの判断 .. 50 Q15 放射線安全管理者の任務 .......... 50 Q16 寛解した急性皮膚炎への治療の必要性 .. 50 5. 四肢・末梢の血管内治療 ................ 51表34 末梢血管の血管内治療における被ばく線量低減51
5.1 被ばく線量低減のための工夫 ........ 51 5.2 Q&A .............................. 52
Q17 血管内治療での被ばくリスクの注意点 .. 52 Q18 エコーガイド下での手技による被ばくリスク
................................ 52
6. 電気生理学的検査とカテーテルアブレーション
...................................... 52表35 電気生理学的検査,カテーテルアブレーションに
おける被ばく線量低減
52 6.1 電気生理学的検査・治療と被ばく .... 53 6.2 被ばく線量 ........................ 53表36 不整脈のカテーテル検査・治療における患者の放
射線量
53 6.3 3 次元マッピングシステム .......... 53表37 不整脈のカテーテル治療における3 次元マッピン
グシステムの進歩
54 6.4 カテーテルナビゲーションシステム .. 54 6.5 特に注意を要する病態・疾患 ........ 55 6.6 被ばく線量低減のための工夫 ........ 55図26 不整脈のカテーテル治療におけるガラス防護板と
シールドカーテン
56 図27 カテーテル治療のための放射線防護キャビン56
6.7 患者への説明 ...................... 56 6.8 小児に対するカテーテルアブレーション 57 6.9 Q&A .............................. 57
Q19 カテーテルアブレーションでの被ばくの
特徴 ............................ 57
7. デバイス植込み ........................ 57表38 不整脈に対するデバイス植込みにおける医療従事
者と患者の被ばく線量低減
57 7.1 被ばく線量低減のための工夫 ........ 57 7.2 患者への説明 ...................... 57表39 不整脈のデバイス治療における患者の放射線量57 7.3 被ばく線量増加の主な要因 .......... 57 7.4 手術室でのC アーム使用 ............ 58 7.5 Q&A .............................. 58
Q20 デバイス植込みでの被ばくの特徴 .. 58
付表 循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン:班構成員の利益相反(COI)に関する開示 ............ 59文献........................................................................................................ 62
(無断転載を禁ずる)
推奨とエビデンスレベル
p.6
用語解説
放射線被ばく関連パルスレート透視時に1 秒間で照射されるX 線パルス数.単位はp/s(pulses/sec).
ファントム人体の元素組成,密度などを模した模型.アクリル樹脂(polymethyl methacrylate: PMMA),ランドファントム,Mix-DP,Solid Water,タフウォータなどがある.フレームレート撮影時に1 秒間で収集されるフレーム(撮影画像)数.単位はf/s(frames/sec).全身被ばく全身に対する一様な被ばく(放射線による比較的大きな距離を介した被ばく).
局所被ばく人体のある特定の部位が他の部位に比べて多くの放射線を受ける被ばく(放射線による近傍での被ばく).
不均等被ばく管理体に受ける被ばく線量が均等でないことを不均等被ばくといい,防護衣を使用する場合などが該当する.防護衣を使用した場合,基本部位である防護衣内側胸部(女性は腹部)と,体幹部で最も多くの放射線を受けるおそれのある防護衣外側頭頚部の2ヵ所で被ばく線量を測定し評価する.現在,水晶体の線量評価はこの2ヵ所のうちの線量当量の高い方で行う.直接線(一次X 線)撮影や透視のためにX 線管焦点から直接人体へ向けて照射されるX 線.
散乱線(二次X 線) X 線が物質を透過するときに,その中で散乱を繰り返して方向が変わり,体外へ放出されるX 線.放射線業務従事者被ばくの主な原因.
空気カーマ(AK)循環器領域で使用するX 線エネルギーでは空気の吸収線量に等しい.単位はGy(グレイ).装置に表示される入射線量は,積算空気カーマ(air kerma at the patient entrance reference point: Ka,r)と基準空気カーマ率.
面積空気カーマ積算値いわゆる面積線量.血管撮影装置ではビーム中心軸と直角をなす面でのX 線ビーム上での面積における空気カーマの積分値(air kermaarea product: PKA)であり,単位はGy・cm2.従来のdose area product(DAP),kerma-area product(KAP)と同義.
組織反応ある程度以上の線量の放射線を受けることに対する身体組織の反応.細胞死によって症状が起こり,細胞死を起こした細胞が多いほど障害の程度が大きくなる.
確定的影響「組織反応」と同義であるが,「確定的」という表
現が適切ではないとの見解から,最近は組織反応と称されることが多い.確率的影響癌発症と遺伝性影響が含まれ,線量の大きさによって障害の重篤度は変化せずに,発生率のみがほぼ直線的に変化する.
被ばく線量放射線に曝されることによって人体が受ける放射線のエネルギー量.単位はGy(グレイ).線量率単位時間あたりの放射線量.
吸収線量放射線により物質中の単位質量あたりに付与されるエネルギー.単位はGy(グレイ).電離放射線の照射により物質1 kg につき1 J の仕事に相当するエネルギーが与えられるときの吸収線量を1 Gy と定義している.放射線の人体組織などへの影響の評価に用いられる.
線量拘束値ある線源からの個人線量に対する制限値であり,その線源から最も多く被ばくする個人に対する,防護の最適化における線量の上限値となる.しきい線量多数の人がその線量を被ばくしたとき,確定的影響が全体の1% に発生すると推定される線量.
等価線量各組織・臓器での吸収線量に放射線の種類による影響を放射線加重係数として加味した線量.単位はSv(シーベルト).
実効線量等価線量に各組織・臓器への影響の大きさを組織加重係数で重み付けして,人体全体への放射線影響として示す指標.単位はSv(シーベルト).
線量限度管理の対象となるあらゆる放射線源からの被ばく線量の上限値.患者の医療被ばくには線量限度は適用されない.
等価線量限度法令で規定された線量の許容限度.放射線業務従事者に対しては皮膚等価線量,水晶体等価線量および妊娠女性の腹部表面等価線量,公衆に対しては皮膚等価線量と水晶体等価線量が規定されている.
実効線量限度放射線業務従事者に対して5 年間の積算限度,年間限度,公衆での年間限度,緊急作業時が法令で規定されている.
患者照射基準点循環器用X 線透視診断装置で使用されているCアームでは,アイソセンターから焦点側に15 cm の点で,患者皮膚面に近い点である.国際電子標準学会(IEC)にて規定され,日本産業規格(Japanese Industrial Standards: JIS)でも採用.
装置表示線量はこの点での空気カーマを示す.以前は「インターベンショナル基準点」と呼ばれていた.
略語一覧AK air kerma空気カーマALARA as low as reasonably achievable合理的に達成できるかぎり低くCTDI computed tomography dose index CT 線量指数DLP dose-length product線量- 長さ積
DRL diagnostic reference level診断参考レベルFPD flat panel detectorフラットパネルディテクター
ICRP International Commission on Radiological Protection国際放射線防護委員会IVR interventional radiologyインターベンショナルラジオロジーKAP kerma-area product面積空気カーマ積算値(PKA) PSD peak skin dose最大皮膚線量
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改訂にあたって
循環器領域では診断・治療において診療用放射線が頻用される.2006年に公表された日本循環器学会の「循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン」は,心血管インターベンション治療やCT検査の急速な増加に対応して,2011年に大幅に改訂された.また,この2011年版ではクリニカルクエスチョンが設定されるなど,画期的かつ実用的な充実したガイドラインとなった.
その後の経過においても診療放射線管理の重要性がさらに強く認識され,2019年には「医療法施行規則」が改正された.そして日本循環器学会は厚生労働省から「診療用放射線に係る安全管理体制並びに診療用放射性同位元素及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素の取扱いの指
針」の策定を求められた.これまでも国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいて「構造・設備に係る基準」「被ばく線量限度」などが規定されてきたが,放射線診療を受ける者の医療被ばくは人工的な被ばくの大半を占めており,年々増加していることが,今回の指針策定の背景となっている.特にわが国は他国と比べて被ばく量が多いといわれており,これにはさまざまな要因が考えられるが,人口あたりの装置台数が世界一多いCT検査の件数が増加していることも一因と考えられる.医療従事者は医療被ばく低減の重要性を十分に認識する必要がある.
CT 検査関連
ヘリカルスキャン寝台を移動させながら連続撮影する方法.スキャン軌道が螺旋を描くことが名称の由来で,螺旋スキャン,スパイラルスキャンとも呼ばれる.
ヘリカルピッチX 線管が1 回転する間の寝台の移動距離を体軸方向のビーム幅(スライス厚×スライス枚数)で除した値で,ヘリカルスキャンの速度を相対的に表す指標.
不変性試験機器の性能が設定基準を満たすことを確認し,機器の構成要素の性能変化を早期に発見するために実施する,日本産業規格(Japanese Industrial Standards: JIS)で規定された,一連の試験.
放射線線量構造化レポートRadiation Dose Structured Report: RDSR.医用画像機器の標準通信規格であるDigital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)の構造化レポートの一種で,全ての照射情報を保持するレポート.
線量情報管理システム患者の医療被ばく線量の管理を行うために,医用画像機器から出力される線量情報を収集し,一元管理するシステム.「線量管理システム」とも称する.
逐次近似再構成処理オリジナルの投影データと再構成画像の投影データとの矛盾を,繰り返し演算によって最小にしながら再構成画像を得る処理.時間分解能1 画像中の時間成分の幅(時間幅).時間幅が狭いほど時間分解能が高い.
CT 透視ガイド下手技CT 画像をリアルタイムかつ連続的に再構成表示する手法(CT 透視)を用いて,針の刺入位置などをリアルタイムに観察しながら行う手技.核医学検査関連
ドーズキャリブレータバイアルや注射器(シリンジ)内の放射能を測定する装置で,計測値はBq(ベクレル),Ci(キュリー)の単位で表示される.
サイクロトロン電場加速された高エネルギーイオンと標的物質(ターゲット)の核反応により,核医学検査で用
いる201Tl,123I などの放射性核種や短半減期のPET 用核種(11C,13N,15O,18F など)を製造する円形加速装置.
放射性同位体radioisotope: RI.ある元素の同位体のうち,原子核が不安定であるために原子核が崩壊して何らかの放射線を放出するもの.
PET/CT PET(陽電子放出断層撮影)とCT を組み合わせた装置.陽電子放射性核種(11C,13N,15O,18Fなど)を体内に投与し,放出される光子の分布を検出して断層画像化する.
SPECT/CT SPECT(単一光子放射断層撮影)とCT を組み合わせた装置.放射性同位体を体内に投与し,放出されるガンマ線の分布を検出して断層画像化する.
放射性医薬品放射性同位体を用いた医薬品.注射などで体内に投与して診療に用いるものと,試験管内で血液微量成分を測定する目的に使用する体外診断用のものがある.自動分注投与装置18F-FDG などの放射性医薬品を指定量に分注して自動投与を行うための装置.
p.8
循環器領域では冠動脈インターベンションを受けた患者に対し冠動脈CT検査を定期的に行う施設も少なくなく,クリニックレベルでも多数の検査が行われているという,国際的には稀有な状況となっている.また,弁膜症に対する経カテーテル大動脈弁置換術などのカテーテル治療や,心房細動に対するカテーテルアブレーションなどにおいて,術前準備としてMDCT(多列検出器CT)による検査が必要とされるようになり,CTのニーズはますます増加している.このような循環器疾患のインターベンション治療に伴う被ばくは,本ガイドラインの前回改訂版でも大きく取り上げられた.
近年では患者が受ける医療被ばくの他に,医療従事者が受ける職業被ばくも問題となっている.とくに下肢末梢動脈の治療においては線源と術者間の距離が近く,また慢性完全閉塞病変に対するテクニックの確立などに伴って複雑病変に対するインターベンション手技も増加してきている.このような最近の情勢変化により,水晶体を中心とした医療従事者側の被ばくも,社会的に大きな関心を集めている.
今日の医療現場における放射線被ばくで現在の最も大きなテーマは被ばくに関する「行為の正当化」と「防護の最適化」である.今回の改訂では,妊婦の被ばくやCT,核医学などの検査に伴う被ばくに関する記述を充実させ,特に医療者の水晶体被ばくなどについても,時代の要請に応えられるように改訂を行った.
近年の診療ガイドラインでは,クリニカルクエスチョンに関するエビデンスを評価して推奨事項を記載しているものが多いが,その際にMinds方式の推奨グレード・エビデンス分類の表記を行っているものもある.しかしながら,放射線被ばくに関してはそのようなエビデンスが未だ少ないため,Minds方式での記載が困難である項目が多い.本ガイドラインは検索して使用する性格のものでもあることから,実用上の利便性を重視して,旧来の記載法で行うこととした(表1,2).今回の改訂の要点は以下のとおりである
1 放射線被ばくに関する「行為の正当化」と「防護の最適
化」を強調し,各章で詳述した. 2. 推奨表をメッセージの発出として強調した. 3. 線量管理の重要性と具体的項目を明示した.
4 医療従事者被ばくの大きな問題とされ,等価線量限度
が引き下げられた,水晶体の放射線防護を強調した.
5 増加している女性医療従事者の業務上の被ばくをク
ローズアップした.今回の改訂では,新たなエビデンスの蓄積によって推奨クラス,本文記載内容を一部大幅に変更した.また,推奨クラスのクラスIIIに関しては表1のごとく,臨床的有用性を鑑み,「有用性・有効性なし(No benefit)」と「有害(Harm)」とに分類して記載した.
表1推奨クラス分類
クラスI手技・治療が有効・有用であるというエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.
クラスIIaエビデンス・見解から,有効・有用である可能性が高い.
クラスIIbエビデンス・見解から,有効性・有用性がそれほど確立されていない.
クラスIII No benefit手技・治療が有効・有用でないとのエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.クラスIII
Harm手技・治療が,有害であるとのエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.
表2エビデンスレベル
レベルA複数のランダム化介入臨床試験またはメタ解析で実証されたもの.レベルB単一のランダム化介入臨床試験またはランダム化介入でない大規模な臨床試験で実証されたもの.レベルC専門家および/ または小規模臨床試験(後ろ向き試験および登録を含む)で意見が一致したもの.
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第1章 放射線被ばくの現状と考え方
1 医療現場での放射線被ばくへの 警鐘
1895年,レントゲンがX線を発見した.その後,1896年にベクレル,1898年にキュリー夫妻により,ウラン化合物やラジウムなどのラジオアイソトープ(放射性同位元素: RI)が発見された.そして,1929年のフォルスマンによるX線透視下での心臓へのカテーテル挿入をもって放射線診療が始まった.1941年にはクールナンとリチャーズにより心臓カテーテル検査法が確立され,さらに1971年にはハウンズフィールドがX線CTを開発して,これらの放射線診断検査機器が医療現場で積極的に利用されるようになった.
これらはいずれもノーベル物理学賞・化学賞・生理学医学賞の受賞という輝かしい功績であり,高度な画像診断や放射線治療を受けることを可能にした.一方,どの検査・治療手技も放射線被ばくを伴うという欠点があったが,その当時はこれらの物質が人体に与える影響についてはあまり考慮されていなかった.実際,放射線被ばくによる人体への長期的障害に関する科学的データは,広島や長崎の原爆被害に関するものが唯一といってよいほどであったが,皮膚炎,脱毛症,皮膚癌,白血病などが報告されるようになって,放射線利用に関する管理対策が進むようになり,国際放射線防護委員会(ICRP)から放射線防護の基本的な枠組みと防護基準の勧告が行われた.これらはわが国でも放射線防護関係の法令に取り入れられている.
放射線防護の3原則として「行為の正当化」,「防護の最適化」,「線量限度の適用」が重要であり,医療被ばくではとくに正当化と最適化を考慮する必要がある.
米国放射線防護審議会(NCRP)の2006年の報告(Report No. 160)によると,米国人の1年間の放射線被ばく量は6.2 mSvで,その内3.0 mSvが医療被ばくであった1).一方, 1980~1982年の報告では,医療被ばくが0.53 mSv,医療以外からの被ばくは3.1 mSvであった2).すなわち,この約25年間で医療以外からの被ばく量に変化はみられなかったが,画質の改善や放射線防護の取り組みにもかかわらず,
医療被ばくは約6倍に増えていたのである3).
これまで放射線業務従事者に対する実効線量の管理は行われてきたが,患者に対する画像診断に伴う被ばく線量はモニターされていなかった.そこでFazelらは,18~ 64歳の約1億人の医療検査に伴う被ばく線量について調査を行った4).3年の調査期間中に認められた実効線量は,対象者の約8割で年間3 mSv未満であったが,年齢の高い人や女性で高い傾向にあった.また検査法の中では, CT検査や心筋血流シンチグラフィにおいて実効線量が高かった4, 5).心臓CT検査や心臓核医学検査(特に心筋血流イメージング)の検査数は年々増加し,被ばく線量も増えているため3, 6),不要な医療被ばくを減らす必要性が強く示唆された.また,ヨーロッパにおいても,画質の向上とともに医療被ばくの低減を目指し,心臓CT検査や心臓核医学検査の撮像法の改善が図られている7).
一方,厚生労働省医療放射線の適正管理に関する検討会の報告では,わが国では診断装置による医療被ばくの線量が世界的に高いことが指摘されている.特に単純X線撮影が他国と比較して多く,CT検査数はいずれの撮影部位でも最多で,それに伴い単純X線検査やCT検査による被ばく線量は世界平均より高くなっている.
医療被ばく防護の最適化のために,診断参考レベル(DRL)の使用が推奨されている.DRLを設定することにより患者の平均被ばく線量の大幅な低減が可能となるが,わが国のCT検査におけるDRLは他国と比較して高く,適正な管理を進める必要がある.さらに,循環器画像検査や,冠動脈インターベンション,カテーテルアブレーションなどの治療手技による被ばくは,癌治療を除いた全医療被ばくの約40%と報告されており,患者や医療従事者への影響は大きい8-10).
しかしながら,多くの循環器科医師は,検査手技に伴う被ばく量や健康に及ぼす影響についての理解が少なく,経験的な判断で診療が行われることが多い11, 12).そのため,安易に単純X線撮影やCT検査が選択され,撮像範囲を広げて行われる事例も見受けられる.また,リンパ腫や乳癌に対する放射線治療後に生じる心疾患も報告されてい
p.10
る13).照射線量を減らす,心臓が照射野にかからないようにするなどの工夫がなされているが,高線量の照射から数年~数十年後に発症がみられ,その予後は不良で,今後症例数の増加が予想される.
欧米では医療被ばく低減への取り組みが始まっている.わが国においても医療被ばくの適切な低減を進めるために,放射線防護の原則である「正当化」と「最適化」を踏まえた医療を行わなければならない.医療従事者は放射線関連の安全知識を学び,放射線を用いる検査や治療に適切な症例を選択するとともに,被ばく線量を最小限にする最適な方法を実践する必要がある.
2 放射線防護の基本
2.1 医療現場における放射線防護の認識
1895年のレントゲンによるX線の発見と,1896年のベクレルによるウラン放射能の発見以降,放射線・放射能は医療分野で積極的に利用され,多くの恩恵をもたらしたが,一方で医療被ばくによる放射線障害の問題も発生した.循環器領域でもカテーテル検査の手技を応用した経皮的冠動脈インターベンション(PCI)やカテーテルアブレーションが高度化・複雑化したことに伴い,患者の放射線皮膚障害などの事例が報告14, 15)されるようになった.
これらの放射線障害に対し,1994年に米国食品医薬品局(FDA)による報告16)がなされ,わが国でも1995年に日本医学放射線学会から「IVRに伴う患者および術者の被ばくに関する警告」17)が発せられた.また,国際放射線防護委員会(ICRP)からもICRP Publication 73「医学における放射線の防護と安全」(1996年)
18),Publication 85「IVRに
おける放射線傷害の回避」(2000年)
19)が刊行され,日本循
環器学会からは「循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン」20)が公表されて,医療における放射線の安全管理の重要性が示されている.医療現場での放射線防護に関しては,わが国の法令の基になっているICRP Publication 60(1990年勧告) 21)および最新の勧告であるPublication 103(2007年勧告) 22)の放射線防護体系の考え方が基本となる.
2.2 医療被ばくと職業被ばく
ICRP Publication 60(1990年勧告)では放射線被ばくを「医療被ばく」,「職業被ばく」,「公衆被ばく」の3つに分類
し,それぞれの特徴に合わせた放射線防護の考え方を示している21).
医療被ばくは,医療行為によってX線装置より照射されたX線(直接線,または一次X線)を直接受ける被ばく,または,RIを体内へ投与されることによる被ばくである.
医療被ばくにおいて線量限度を定めた場合,慢性疾患にて放射線検査を繰り返し行う症例,生命にかかわる重篤な疾患のためカテーテル治療を行う症例に対し,医療行為を制限しなければならない事態が想定され,患者にとって不利益となる.このため医療被ばくでは,医師による医療行為の正当化が最も重要となり,正当化が適正に行われている状況下では線量限度は適用されないが,医療従事者は診断参考レベル(DRL)
18, 21, 23)を用いて患者の防護の最適
化に努めなければならない.また,家族などの介護者・介助者の被ばく,生物医学研究の志願被験者が受ける被ばくも,医療被ばくとして扱われる22, 24).
職業被ばくは,放射線業務に従事した結果として被ばくすることである.このため,個人線量計を用いた個人モニタリングによる評価が必須となる.従事者の被ばくは,患者に照射されたX線の散乱線(二次X線)による被ばく,または患者体内に投与された放射線同位元素からの被ばくとなるため,1回の検査・治療における被ばく線量は患者に比較して大幅に低いが,心臓カテーテル検査・治療で一次X線を直接手指に受ける場合などには注意が必要となる25).
職業被ばくには,正当化,防護の最適化,線量限度の3原則が適用される.わが国における職業被ばくの線量限度(表3) 21, 26)は,ICRP Publication 60(1990年勧告)を取り入れているが,ICRP Publication 118(2012年) 26)を受けて, 2021年4月より水晶体の等価線量限度が150 mSv/年から100 mSv/5年,かつ50 mSv/年へと大幅に引き下げられることになり,水晶体の線量評価および被ばく防護が重要となる27).
表3放射線業務従事者の線量限度(2021 年4 月より)
実効線量限度等価線量限度100 mSv/5年50 mSv/年女性 5 mSv/3ヵ月にて管理水晶体 100 mSv/5年かつ50 mSv/年皮膚 500 mSv/年妊娠女性内部被ばく 1 mSv/妊娠期間妊娠女性腹部表面 2 mSv/妊娠期間緊急作業時100 mSv (250 mSv福島原発事故対応時)緊急作業時水晶体 300 mSv皮膚 1 Sv (ICRP. 1991 21), 2012 26)より作表)
p.11
なお,職業被ばくと医療被ばく以外の,公衆が受けるすべての被ばくは公衆被ばくとされ,妊娠している女性放射線業務従事者の胚や胎児の被ばくも公衆被ばくとなる.
2.3 放射線防護の目的と3原則
放射線防護の目的を達成するために,ICRP Publication 60(1990年勧告)では以下の3点が挙げられている(表4) 21). 1) 放射線利用が利益をもたらすことが明らかである場
合,放射線被ばくを伴う行為を不当に制限することなく,人の安全を確保すること. 2) 個人の確定的影響(組織反応)の発生を防止すること
(組織反応はある一定線量〔しきい値〕以上の被ばくにより発生するため,その発生が起こらないようにする). 3) 確率的影響の発生を減少させるためにあらゆる合理的
な手段をとること.これらを達成し,人の安全を確保するためには,どのような放射線防護対策を講じる必要があるかを示したのが,放射線防護体系であり,ICRP Publication 113(2007年)以降は「行為の正当化」,「防護の最適化」,「線量限度」の3原則にまとめられている21, 22).
2.4 行為の正当化
行為の正当化は,放射線被ばくを伴う診療行為によって引き起こされる放射線障害よりも患者が受ける便益が確実に勝っていると判断された場合に成立する.ICRP Publication 103(2007年勧告)では,行為の正当化について,医師の経験と専門的判断を尊重しつつ,できるかぎり定量的な決定を行うための支援として,正当化を以下の3つの段階に分類して適用することが提案されている22).第1レベル:医学における放射線利用の正当化
医学における放射線利用は,患者への便益がリスクを上回る場合に許容される.第1レベルの正当化については,放射線の医療への利用が医学的に認められている現時点において議論の余地はない.第2レベル:定義された放射線医学的手法の正当化
特定症状を示す患者グループの診断あるいは治療における放射線利用の正当化が第2レベルに該当する.第2レベルでは,個々の疾患の診断または治療において放射線利
用の便益がリスクを上回るかどうかを,各国の放射線防護当局と専門家が検討して一般的な原則を定める.国や国際レベルで定期的に診療の効果と放射線使用のリスクについて検討すべきとされている.海外においては,英国王立放射線科専門医会,米国放射線専門医会からガイドライン28)が出され,その国での診療の適切性を客観的に保証している例もある.第3レベル:個々の患者への手法の正当化
放射線の医学的利用において,個別の患者における適用の正当化が第3レベルに該当する.第3レベルでは,診断あるいは治療の手法が当該患者においてリスクよりも便益を多く与えると,担当医師が判断する必要がある.医師によりすべての検査や治療がその目的や患者個人の特性を考慮して正当化されるべきであるが,特に高線量を伴う診断や治療においては個別の正当化が重要となる.
2.5 防護の最適化
防護の最適化は,行為の正当化により放射線利用が決定された後に実行される.ICRP Publication 60(1990年勧告)以降は「合理的に達成できるかぎり低く(as low as reasonably achievable):ALARAの原則」という表現が用いられ,個人の被ばく線量を,経済的および社会的な要因を考慮に入れたうえで,合理的に達成できるかぎり低くするように求めている.防護の最適化とは,放射線防護手段に必要となる費用,個人の被ばく線量,防護の方法,診断能や画質などを考慮しつつ,被ばく線量を低くすることであり,必ずしも被ばく線量を最小化することではない.
2.6 最適化のための診断参考レベル
診断参考レベル(DRL)は放射線診療における医療被ばく防護の最適化を推進するためにICRP Publication 73 (1996年)にて提唱された.「調査のためのレベルの一種であり,容易に測定される量,通常は空気中の吸収線量,あるいは単純な標準ファントムや代表的な患者の表面の組織等価物質における吸収線量に適用される」と定義され18),多くの地域や国々で用いられている.国際原子力機関(IAEA)でも,それまで用いていた概念である「ガイダンスレベル」に代えて,DRLを最適化のためのツールとして採用した.
DRLの有用性はICRP Publication 103(2007年勧告)により明確に示され22),実際の線量調査データに基づく設定と柔軟な運用,そして定期的な調査による改訂が必要とさ
表4放射線防護のための具体的目標・放射線診療による利益が不利益より勝っている・組織反応(確定的影響)の発生を防止する・確率的影響の発生を減少させる(ICRP. 1991 21) より作表)
p.12
れた.
DRLの役割として,ICRP Publication 105(2007年)では「特定の医療画像手法のための患者線量が(確率的影響に関して)著しく高いかあるいは低いかを評価する」とされ,「臨床的な目的には寄与しない患者への放射線量を回避する」と記載されている24).ICRP Publication 135(2017年)ではDRLについて詳細に記載されており,DRL決定には画質評価と線量評価の両者を考慮した最適化を達成する方法の実施が必要とされている23).わが国では2015年6月に医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)より,「最新の国内実態調査結果に基づく診断参考レベル」(DRLs 2015)が国内で初めて公表され29),改訂版(Japan DRLs 2020)が2020年に発表された30).
DRL値は,一般的に線量分布の75パーセンタイル(第3四分位数)として設定され(図1) 23),線量限度や線量拘束値ではない.また,検査・治療における最適な線量値を示しているわけではなく,一般より高い線量を用いている施設を識別するために用いられ,DRL値より高い線量を用いている施設に対し線量低減の検討を促すための目安となる. 2.7 線量限度
線量限度は職業被ばくを受ける医療従事者に適用され,個人が受ける線量の上限値である.わが国における放射線業務従事者の線量限度を表3 21)に示す.線量限度の数値と単位はICRPの各時代の概念により変遷している.現在の線量限度はICRP Publication 60(1990年勧告)を取り入れているが,水晶体のしきい線量の見直しにより26),2021年4月より大幅に引き下げられることになった.
医療被ばくでは,診療の目的を達成するために必要となる線量が,個々の患者の体型,症例の複雑性,手技の難易度などにより大きく異なるため,線量限度を設けることは医療行為の制限となる恐れがあることから,医療被ばくには線量限度が適用されない.
2.8 被ばく状況の3タイプ
ICRP Publication 60(1990年勧告)では,放射線防護の行動を「行為」と「介入」に分類している.行為は被ばく線量を増やす活動の総称であり,介入は行為に対するもので,被ばく線量を減らすような活動の総称であった21).
ICRP Publication 103(2007年勧告)からは,被ばく状況のタイプが整理され,あらゆる状況下での被ばくに対応した安全管理の方法,基準が選択可能となるように,「計画被ばく状況」,「緊急時被ばく状況」,「現存被ばく状況」の3タイプに分類された.医療における被ばくはすべてが計画的利用に伴い発生する被ばくであることから,患者や医療従事者の被ばくは計画被ばくに含まれる.
計画被ばくでは,職業被ばくについては線量限度を遵守し,医療被ばくについてはDRLにより患者の被ばくの最
適化を図ることが重要となる.図1医療被ばく防護のための診断参考レベル(DRL) (ICRP. 2017 23) より作図)
DRL(75パーセンタイル)施設数
線量
p.13
1 放射線の人体への影響
1.1 人体への影響の種類と区分
診療に伴う放射線被ばくの人体への影響は,X線検査,核医学検査など線源の位置の違い,線量の大きさの違い,全身被ばく・局所被ばくなどの被ばく形態の違い,影響の発現の仕方の違いなどにより区分される.
発現の仕方では,身体的影響と遺伝的影響,確定的影響(組織反応)と確率的影響に区分される(図2) 21, 22).
身体的影響は被ばくを受けた人のみに影響が出現する.遺伝的影響は生殖細胞が被ばくしたことにより子孫に影響が出現することであるが,ヒトについての遺伝的影響は確認されていない.また,身体的影響には,被ばくして数週間以内に症状が出る急性障害(皮膚障害や脱毛,不妊など)と,被ばくして数ヵ月から数年後に症状が出る晩発性障害(癌や白内障)がある. 1.2 確定的影響(組織反応)と確率的影響
確定的影響は,組織や臓器の一定量以上の細胞集団が放射線被ばくにより損傷を受け,組織の機能を維持できない状態となり,症状を認めることである.ICRP Publication 103(2007年勧告)では,「組織反応」とも呼ばれる22).この症状を認める最小線量が「しきい(閾)線量」であり,「組織反応の発生率が1%と推定される線量」と定義されている22).しきい線量以上では,線量の増加に伴い影響の発生率が急激に高くなる(図3).被ばくによる皮膚への影響としきい線量,発症までの期間を表5 19)に示す.心臓カテーテル検査・治療などで,皮膚吸収線量がしきい線量を超えて増えると症状が重篤になるので,注意が必要となる14, 31).
確率的影響は,放射線の影響を受けた細胞が死滅せずに修復される過程で徐々に多くの細胞が悪性化し,癌や白血病などが発生することである.線量が低くても損傷細胞は生じるため,確率的影響にしきい線量はなく,線量の増加により重篤度は変わらずに発生率が上昇する(図4).確率的影響では,年間100 mSv程度以上で有意に発癌が増
第2章 放射線安全管理の基礎知識
図2放射線の人体への影響の区分(ICRP. 1991 21), 2007 22) より作図)
放射線の影響身体的影響急性障害
晩発性障害皮膚紅斑・脱毛
白血球減少
不妊
白内障
白血病
癌
突然変異
染色体異常遺伝的影響確定的影響(組織反応)
確率的影響
p.14
加するが,100 mSv程度以下でも線量の増加により発生率が上昇すると仮定されている22).
1.3 放射線量とその単位
目に見えない放射線の人体への影響を客観的に評価するためには,放射線量の単位と影響評価のための単位の違いを理解する必要がある. 1.3.1 放射能(radioactivity)
放射性同位元素を用いる核医学検査で使用される単位である.放射能とは原子核内から放射線を放出する能力であり,1秒間に1個の原子核が壊変するときの放射能を,1ベクレル[Bq]とする.ベクレル[Bq]をSI単位系の基本単位で表すと[s –1]となる.
1.3.2 照射線量(exposure)
X線装置から発生するX線のエネルギー量である.空気に対する電離作用を利用し,発生した電子電荷量[クーロン:C]を基準とした量[C/kg]で定義されている.照射線量の旧単位としてレントゲン[R]がある.
1 C/kg = 33.97 Gy
1.3.3 吸収線量(absorbed dose)
放射線により物質が吸収する単位質量あたりのエネルギー量で,特別な単位としてグレイ[Gy]が用いられる.特に,空気中の吸収線量として「空気カーマ(AK)」[Gy]が用いられ,循環器用X線装置には基準点でのAKが表示される.また,吸収線量は各組織に吸収されたエネルギー量であることから組織吸収線量[Gy]と呼ばれ,等価線量や実効線量を算出する基本の線量であり,確定的影響を評価する際に用いられる.
1.3.4 等価線量(equivalent dose)
組織・臓器へ放射線によりどの程度の影響があるかを示した値である.「吸収線量」は組織・臓器に吸収された単位質量あたりのエネルギー量を表すが,同一の組織吸収線量であっても,放射線の種類(X線や中性子線など)により影響の度合いが異なるため,それを補正した線量である.単位はシーベルト[Sv]で,対象となる組織ごとに皮膚等価線量,水晶体等価線量などと呼ばれる.
法令では組織反応(確定的影響)の評価に等価線量を用いることが定められ,放射線業務従事者に対しては皮膚等価線量,水晶体等価線量,妊娠女性の腹部表面等価線量が用いられている.
1.3.5 実効線量(effective dose)
組織・臓器が受けた放射線の影響を人体全体への影響として表す指標である.組織・臓器ごとに受けた等価線量の単純な平均ではなく,組織・臓器ごとの放射線の感受性の違いで重み付けして評価した量であり,単位はシーベルト[Sv]を用いる.実効線量は発癌の誘発など全身での確率的影響の評価に用いられる.循環器領域での医療被ばく
図3放射線被ばく線量と確定的影響(組織反応)の発生率
しきい線量
発生率
線量(Gy)
図4放射線被ばく線量と確率的影響の発生率
発生率
線量(Gy)自然発生率
100 mSv
表5放射線による皮膚障害の現れ方
しきい線量(Gy)症 状発症までの時間
2 3 6 7 14 15 18 18 24早期一過性紅斑一過性脱毛主紅斑反応永久脱毛乾性落屑晩期紅斑湿性落屑虚血性皮膚壊死二次性潰瘍2~24時間3週以内1.5週以内3週以内4週以内8~10週4週以内10週以降6週以降
(ICRP. 2000 19) より改変)
p.15
においては,実効線量が低い値でも局所の等価線量が高い値となることが多いので,注意が必要となる.
法令では放射線業務従事者について5年間の積算線量,年間線量,緊急作業時の実効線量限度が規定されている.
1.3.6 個人線量当量(personal dose equivalent)
放射線業務従事者個人のモニタリングに用いられ,単位はシーベルト[Sv]を用いる.実効線量は1 cm線量当量で評価される.個人線量計の装着部位は胸部(妊娠可能な女性は腹部)であり,放射線防護衣を着用する場合には不均等被ばくとなるため,防護衣内側と外側(通常は頭頚部)の2ヵ所の線量計から求める.なお,水晶体線量当量の測定において防護眼鏡を着用した場合には,防護眼鏡内側の線量評価が必要になることに注意する.
等価線量や実効線量は算出が難しいため,実際に測定できる線量として線量当量が用いられる.
2 検査室における線量管理
2.1 患者の医療被ばく
2.1.1 血管撮影室
表6血管撮影室における患者の被ばく線量管理に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
積算空気カーマ値により線量管理を行う19, 32). I A面積空気カーマ積算値(KAP)により線量管理を行う19, 32). I A最大皮膚入射線量値による線量管理を考慮する19, 32). IIa B
透視時間による線量管理を考慮する19, 32). IIa B撮影フレーム数による線量管理を考慮してもよい19, 32). IIb Cアクリル20 cm を用いた患者照射基準点線量における透視線量率による線量管理を考慮してもよい33). IIb C
a. 積算空気カーマ値,面積空気カーマ積算値
血管撮影室における線量管理として,「診療放射線技師法」34)第28条および「診療放射線技師法施行規則」35)第16
条にて,診療放射線技師が放射線を人体に照射したときは照射録の作成が義務付けられている.照射録には照射の方法を具体的に記載するようにとの指示があるが,患者の医療被ばくの適正管理については,法令上明確に規定されていない.
ICRP Publication 85「Avoidance of Radiation Injuries from Medical Interventional Procedures」(2000年)
19)には,
インターベンショナルラジオロジー(IVR)手技による放射線皮膚障害の実症例などが報告されている.その中で,患者の被ばくで最も重要な点は,IVR手技中に最大線量を受ける部位の皮膚吸収線量であると明記されているが,現在でも術中の最大皮膚線量(PSD)を正確に把握できるシステムは確立されていない.
ICRP Publication 85 ではさらに,各種IVR手技の臨床プロトコルに,各施設における標準的なX線撮影(方向,回数および撮影条件),透視時間,空気カーマ率,およびIVR手技で生じる皮膚の積算線量と照射部位の記載を含めるべきとしている.これらの記載値は,IVR術者に患者皮膚線量の基準値を提供し,これを照射条件と実際の手技の間に発生する皮膚線量と比較することができるとしている.
手技中の最も有用な患者皮膚線量情報は,患者照射基準点(patient entrance reference point: PERP)における空気カーマ(AK) [mGyまたはGy]の積算値である.X線が入射したすべての皮膚部位についての積算値であるため,一般にPSDを過大評価しているので,安全側の管理値となっている.その他の管理値として,上述の同一部位での透視中の空気カーマ率[mGy/min],および全透視時間[min]が推奨されている.
2011年に発表されたPublication 118 26)では,脳・心血管ともにしきい線量として0.5 Gyが提案され,Publication
120 32)にて心血管系のIVRでは心臓臓器線量がこの水準に
至る可能性があると注意喚起している.さらに,放射線リスクに関するインフォームドコンセントの重要性が指摘され,患者の線量データを診療録に記録し管理することを提唱している.管理に当たっては患者線量の注意喚起レベルを設定し,レベルを超えた場合,皮膚障害の早期発見と経過観察を行うこととしている.注意喚起レベルの推奨値はPSDが3 Gy,AKが5 Gy,面積空気カーマ積算値(KAP)は500 Gy・cm2としている.
以下に特徴的な症状を呈した2症例を提示する36).【症例 1】 右冠動脈慢性完全閉塞病変に対してPCIを施行し,1週間後に問題なく退院となった.PCI施行6週間後の外来時にPCI時のワーキングアングルと一致した部位
p.16
に紅斑を確認した.紅斑は徐々に寛解した(図5のA).4年後,同部位の再狭窄に対しPCIを施行した際,翌日にワーキングアングルと一致した部位に再度発赤を確認した(B).総線量(AK)は1.8 Gyと初期紅斑のしきい値を下回っていたが,PCI後は注意深い皮膚観察が必要である.【症例 2】 右冠動脈慢性完全閉塞病変に対してPCIを施行し,総線量(AK)が12 Gyとなった.PCI施行3日後に教育訓練を受けたスタッフは初期紅斑を指摘できたが(図6のC),教育訓練を受けていないスタッフが紅斑を指摘できたのはPCI施行10日後であった(D).PCI施行6ヵ月後には軽度色素沈着を認めるのみであったが(E),PCI施行12ヵ月後に発赤が再燃していた(F).紅斑は繰り返し発症することを考慮し,継続した皮膚観察が必要である. b. 最大皮膚入射線量値
放射線皮膚障害を防ぐにはIVR時の患者のPSDを把握する必要がある.現在,臨床で皮膚入射線量を把握するシステムがいくつか用いられている.図7はセンサー素子にシンチレータを用いたリアルタイム線量計である.線量計本体の読み取り部とセンサー部は光ケーブルでつながっている.センサー部と光ケーブルはX線透過性に優れ,X線画像への影響が少ない.センサーを4チャンネルまで同時
測定可能な線量計もあり,PSD部位と推定される個所に貼付するだけでIVR術中の線量をリアルタイムでモニタリングすることができる37).
一方,胸部RADIREC ®システム38)は,リアルタイムモニタリングは不可能だが,患者皮膚面の線量とその分布を精度高く評価できる(図8).線量測定用のGAFCHROMIC Film ®は線量を黒化度として描出する(図8のB)が,胸部RADIRECは専用の蛍光ガラス線量計を多数挿入したジャケットを装着してIVRを施行し,線量を測定するシステムで(A),IVR後に蛍光ガラス線量計を読み取り,分布図を作成する(C).図8 のB,Cはそれぞれ,GAFCHROMIC Filmと胸部RADIRECを同時に用いて測定した結果の線量分布で,両者で同様の線量分布が確認できる.
近年は線量管理システムが進歩し,撮影装置からの放射線線量構造化レポート(radiation dose structured report: RDSR)を受信して入射皮膚面とPSDを計算し,描出するツールも開発されている(図9).この場合,線量分布図はIVR手技が終了しRDSRが作成された後に表示される.これに対し,IVR術中にリアルタイムに線量分布とPSDを
図5症例1:初期紅斑のしきい値以下で発症2 回目のPCI 施行の翌日
A B
PCI 施行6 週間後7 週間後
8 週間後
図6症例2:PCI 施行12ヵ月後に紅斑が再燃
PCI 施行3 日後
C
PCI 施行6ヵ月後
E
PCI 施行10 日後
D
PCI 施行12ヵ月後
F
p.17
表示するシステムも開発されている(図10).患者モデル上でCアームおよびカテーテル寝台の幾何学的関係とX線条件から患者被ばく線量を可視化している.リアルタイムでPSDの評価が可能で,入射線量が注意喚起レベルに近づいた場合などに,照射視野サイズや照射位置の変更,線量設定の変更などにより,手技中の術者が積極的に線量を低減することが可能となる. c. 診断参考レベル(DRL)を用いた線量適正化
ICRP Publication 73(1996年)
18)では医療被ばくにおけ
る包括的な防護の最適化にDRLを用いることを勧告した.さらにPublication 105(2007年) 24)では,IVRの場合,患者線量の管理を促し,不要な放射線の確率的影響を回避するために原則的にDRLを使用するとしている.一方,国際原子力機関(IAEA)のウェブサイト(Radiation Protection of Patients)の「Radiation doses in interventional fluoroscopy」39)では,確率的影響を推定するために使用する線量はKAPとしている.しかし,組織反応(確定的影響)である放射線皮膚障害はPSDに関連し,患者照射基準点(PERP) [mGyまたはGy]のAKから推定できるとしている. 2020年4月に医療法施行規則が改正40)され,患者の線
量記録・管理が必須項目となった.厚生労働省の指針策定ガイドラインには線量記録・管理に関して具体的に明記されていないが,上記から考えると組織反応(確定的影響)を考慮したAKと確率的影響を考慮したKAPの管理が必要と思われる.さらに日本放射線医学会ではAK,KAPに加え透視時間の記録も必須とし,可能であれば撮影フレーム数の記録も推奨している41).各施設での標準的な体形の患者におけるこれらの中央値と学会から発表されるDRLとを比較し,線量適正化に向けた取り組みが必要となる.
放射線障害のリスクが高いIVR領域では装置の線量管理も重要な要素となる.現在,装置のアイソセンターからX線焦点側に15 cm移動したPERPでの線量測定には,図11 33, 42)に示す2とおりの方法がある.国際電気標準会議(IEC)の装置表示値の規格では,アクリル(メタクリル樹脂:PMMA)を寝台に設置し,寝台を可能なかぎり線量計から離した状態で空気カーマ率を測定する.一方,わが国における一般的な測定方法は,医療放射線防護連絡協議会が報告した「IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン」33)に則り,線量計の上にアクリルを設置し,
図8皮膚面の放射線量とその分布の評価(患者背面から観察)
A
胸部RADIREC® による線量測定0 210 (mGy)
C
胸部RADIREC での測定結果
B
GAFCHROMIC Film® (XR-RV3) での測定結果
図7リアルタイム放射線量計シンチレーション光ファイバー線量計(アクロバイオ株式会社 提供)
光ケーブル式4チャネルリアルタイム線量計(トーレック株式会社 提供)
p.18
被写体からの散乱線を加味した空気カーマ率を測定する.医療被ばく研究情報ネットワークの「DRLs 2015」29)もこの配置での測定値が用いられ,日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構でも装置管理に有用と推奨している.この2とおりの測定方法の違いを把握し,装置表示AK値と散乱線を考慮した入射表面線量の関係を理解しておくことが,臨床でのAK値とPSDとの関係を理解することにつながると考える. 2.1.2 CT検査室
表7 CT 検査室における患者の被ばく線量管理に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
CT 線量指数(CTDI)および線量- 長さ積(DLP)による線量管理を行う43–45). I B
図9 放射線線量構造化レポートを基にした線量分布表示(EIZO株式会社 提供)図10 リアルタイム線量分布と最大皮膚線量の表示
(キヤノンメディカルシステムズ株式会社 提供)
最大入射皮膚線量
照射野内の最大入射皮膚線量
アイソセンター
国際電気標準会議(IEC)の
規格による方法わが国における一般的な方法
15 cm
X線管
焦点アクリル
20 cm
寝台
線量計
FPD
アイソセンター
15 cm患者照射基準点(IVR-P)
X線管
焦点アクリル
20 cm
寝台線量計
FPD
図11 患者照射基準点(PERP)での線量測定における幾何学的配置焦点–検出器(フラットパネルディテクター:FPD)間距離は各施設で臨床に用いられている距離で測定する.ただし,多くの施設は100 cmで測定している(日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構,2016年度装置基準線量報告)ことから,100 cmで測定すると他施設との線量比較が容易である. (IEC. 2010 42), 医療放射線防護連絡協議会. 2004 33) より作図)
p.19
少なくとも半年に1 度,CTDIw(重み付けCTDI100)またはCTDIfree air(自由空気中CTDI)による線量測定を行う44). I B size-specific dose estimates による線量管理を考慮する46–48). IIa B a. 標準的指標としてのCTDI
CT検査での線量評価において標準的手法となっているのは,CT用電離箱線量計とアクリル(PMMA)樹脂製円筒型ファントムを用いたCT線量指数(CTDI)の測定(図12)である43).アクリル樹脂製円筒型ファントムは,小児の頭部・体幹部用および成人の頭部用に直径160 mm,成人の体幹部用に直径320 mmのものが用いられる49).
CTDIの測定の際には,一般的に10 cmの電離長を有するペンシル型CT用電離箱線量計を使用することから,実用的な値としてCTDI100 が用いられる.CTDI100 では, -50 ~ +50 mmの範囲の線量プロファイルの積分値を求めるという手法がとられる.CTDI100はCTDI測定用ファントムの中心部および周辺部の4ヵ所(ファントム辺縁より1 cm内側の12時方向,3時方向,6時方向,9時方向)で測定し,加重平均を行うことによって,平均線量(weighted CTDI: CTDIw)として取り扱われる50).
さらに,ヘリカルスキャンの場合はCTDIwをヘリカルピッチで除することによって,アキシャルスキャンの場合はCTDIwに「公称スライス厚×スライス数/連続するスキャン間の寝台移動量」を乗じることによって,中心スキャン部分における平均線量(volume CTDI: CTDIvol)を表すことができる51–53).CTDIvolは,一連のスキャン開始前に制御盤上にmGy単位(AK)で表示されることが規定されているので49),検査開始前には表示されているCTDIvolを必ず確認すべきである.また,CT用電離箱線量計やアクリル樹脂製円筒型ファントムを有している施設では,表示されているCTDIvolと測定により得られたCTDIvolの両者を比較することによって,表示値の精度を定期的に確認することが望ましい.
b. CTDIによる装置の定期点検
CT装置は「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)第2条第8項に規定されている,保守点検,修理その他の管理に専門的な知識および技能を必要とする「特定保守管理医療機器」に分類されており,その適正な動作を保証するためには,使用者による日常の保守点検(始業点検,終業点検)と定められた期間ごとの定期点検が必要である.この業務は,修理点検が可能なメーカーまたは有資格者に委託することが可能である.一般に業者による定期点検の項目は,装置付属の技術リファレンスマニュアルなどに従って行われるが,その内容の多くはCT装置の不変性試験44)に準拠している. CT装置の不変性試験では,線量はCTDIwまたはアクリル樹脂製円筒型ファントムを置かずに測定するCTDIfree air(図13)で評価することとされており,少なくとも半年に1回測定されなければならない. c. その他の評価指標
CTDIvolは患者が受ける吸収線量とは異なるものであるが54),CTDIvolから患者が受ける吸収線量を推定するための方法として,米国医学物理学会(AAPM)のReport No.
204 46)では,体幹部断面の長径および短径(またはそこか
ら求めた実効直径)に対応した換算係数を乗じて求める方法が提唱されており(size-specific dose estimates: SSDE),また,臓器の種類によるX線の吸収率差を考慮した水等価直径に応じた換算係数も提示されている47).SSDEの計算方法は国際規格としてもまとめられており48),今後新たな線量指数として「CT装置の基礎安全及び基本性能に関する規格」への取り入れが行われ,CTDIvolと同様に一連の検査開始前に制御盤上に表示される見込みである.
DLP(線量–長さ積)は「X線が照射された範囲におけるCTDIvolの積算値」と定義されており,CTDIvol同様,一連の検査の開始前に制御盤上にmGy・cm単位で表示される
図12 円筒形ファントムを用いたCT 線量指数(CTDI)の
測定図13 円筒形ファントムを用いないCT 線量指数(CTDIfree air)
の測定
p.20
ことが規定されている49).CTDIvolが増加するほど患者の部位当たりの被ばく線量は増加するが,CTDIvolが一定であったとしても,スキャン範囲が広ければそれだけ患者の総被ばく線量は増加することになるため,DLPはスキャン範囲による影響を加味した指標ということができる.
DLPもCTDIvolと同様に患者の被ばく線量を直接表す値ではないが45),ICRP Publication 102(2007年) 55)には, DLPから実効線量を推定するための換算係数が提示されている.実効線量とは,放射線による全身の被ばく量を表すために用いられる値であるが,全身に均等に被ばくした場合を前提としているため,CTのような局所被ばくの場合には被検者の被ばく線量を適切に評価できない可能性があることが指摘されており56),その利用には注意が必要である.
患者の臓器・組織の吸収線量や実効線量を簡便に計算・推定するための手法として,線量計算ソフトウェアを用いる方法がある.これらは特定のCT装置と特定のスキャンパラメータにおける臓器・組織の吸収線量の基本データセットをあらかじめもっており,これに計算したいCT装置やスキャンパラメータを入力することで補正を行い,臓器・組織吸収線量や実効線量などを表示させるという仕組みになっている. d. 線量管理・線量記録の具体的方法
2019年3月の医療法施行規則の改正に伴い,2020年4月より「管理・記録対象医療機器等を用いた診療にあたっては,当該診療を受ける者の医療被ばくによる線量を記録すること」が義務化されており,全身用X線CT診断装置を用いた検査も線量管理・線量記録の対象に含まれている.
CT検査による患者の線量管理の具体的手法として, DRLに基づく線量の最適化が挙げられる.CTのDRLはCTDIvolおよびDLPで設定されていることから,それぞれの検査におけるCTDIvolおよびDLPを記録し管理することが,現段階では最も有効な手段である.これらの値は装置から出力される放射線線量構造化レポート(RDSR)にも含まれるため,記録・収集しやすいという利点がある.
DRLとの比較を定期的に行うためには,自施設における線量調査を定期的に行うことが望まれる.線量調査の際には,検査プロトコル単位で標準体格の患者のデータをそれぞれ30例ずつ集めることが望ましいとされている23).線量調査は前向きに行っても後ろ向きに行ってもよいが,後者の場合は線量情報管理システムを活用すれば簡便に実施することが可能であり,この場合は30例という数字にこだわらず,調査対象期間の全例を対象とすればよい.
また,一部の線量情報管理システムでは,検査単位で患者の臓器線量,実効線量を算出することも可能で,患者単位での線量管理も容易に行える.また,施設内にCT被ば
く線量および撮影プロトコルなどを管理するチームを作ることによって,その調査・解析結果を活用した最適化を推し進めることが可能となる.
2.1.3 核医学検査室
表8核医学検査室における患者の被ばく線量管理に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
実投与量による線量管理を行う29, 57, 58). I B PET/CT 検査およびSPECT/CT 検査のCT 撮影においてはボリュームCTDIw (CTDIvol)または線量- 長さ積(DLP)による線量管理を行う29, 57–59). I B
患者の被ばく線量管理を考慮する23). IIa B
a. 規則改正への対応
2019年3月に「医療法施行規則の一部を改正する省令」が公布され,その後に発出された「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行等について」(厚生労働省医政局長通知) 40)では,X線装置などを有する医療機関の管理者は診療放射線利用の安全管理の責任者を配置し,その責任者は安全利用の指針を策定する必要があることが示された.診療用放射線の安全利用を目的とした改善のための方策として,核医学領域においては,2020年4月1日より「X線CT組合せ型ポジトロンCT装置」,「X線CT組合せ型SPECT装置」,「陽電子断層撮影診療用放射性同位元素」,「診療用放射性同位元素」について,被ばく線量を適正に管理・記録することになった.
これまで核医学領域において具体的な管理方法などは示されておらず,各施設においても対応に苦慮している状況であったが,2020年3月,「核医学分野における診療用放射線の安全利用のための指針策定のガイドライン」57)が公表され,今後はこれを参考に進めていく必要がある.しかし,すでに各施設では自施設の運用に沿った形で独自に被ばく線量管理を進めているのが現状である. b. 線量の記録と管理
核医学領域における被ばく線量記録は,放射性医薬品およびPET/CT装置とSPECT/CT装置におけるCT撮影線量が対象となる.
放射性医薬品は放射性医薬品名,投与時刻,実投与量を記録するが,取り扱いが簡便なことから国内では標識ずみの製剤を使用する医療機関が多い.標識ずみの製剤は
p.21
検定日時における放射能量が放射性医薬品基準によって定められているため,物理学的な半減期による補正から実投与量を求めることが実際的であり,全量投与した場合は残量測定を行わずに誤差範囲として扱ってよいと考える29, 58).また,院内製造の放射性医薬品においては,ドーズキャリブレータで測定後に投与,または自動分注投与装置を用いた投与を行っており,この場合は測定値を実投与量として用いる.なお,企業の線量管理システムの中には,核医学検査装置などから出力されるRadiopharmaceutical Radiation Structured Report(RRDSR)やDigital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)画像から,投与薬剤名と実投与量の情報を自動的に取得・記録し,臓器吸収線量や実効線量を計算するシステムもある.
PET/CT検査やSPECT/CT検査において,CT撮影における線量記録はCTDIvolやDLPを用いるが,診断時のCT検査とは違って検査目的(減弱補正用,融合画像用など)により撮影条件が異なるため,目的別にCTDIvol,DLPなどを記録する必要がある59).なお,線量管理システムによりCT撮影における実効線量計測機能と組み合わせることで,投与量の情報も含め患者の被ばく線量を総合的に管理することも可能である.
なお,小児については「小児核医学検査適正施行のコンセンサスガイドライン」と比較する必要がある60).
線量管理については,自施設の標準的な患者での実投与量を20~30例以上集め,その中央値とDRLを比較することにより,投与量の最適化に努める.また,PET/CT検査,SPECT/CT検査などでは組み合わせる2 つのモダリティのDRLを個別に設定して提示することが適切である23).各種ガイドラインなどを参考に,画質も十分考慮した上で,自施設の核医学検査の撮像プロトコルの管理を行い,最適化を進めることが重要である. c. 機器の保守点検と管理体制
核医学撮像装置は医療法施行規則などにより,医療機器としての保守点検を適正に実施することが義務付けられている.
2006年6月21日付けで公布された「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」により,医療法の一部が改正され,各医療施設において医療機器に関わる安全管理の体制を確保することが必要となった.本改正では特定保守管理医療機器として,PET装置,SPECT装置など核医学装置が規定された.また, 2018年6月12日付けで「医療機器に係る安全管理のための体制確保に係る運用上の留意点について」が公布され,保守点検計画を策定すべき医療機器にCT 装置や MRI 装置が追加された.特定保守管理医療機器は保守点検,修理その他の管理
に専門的な知識と技能を必要とすることから,適正な管理が行われなければならない.日本画像医療システム工業会が策定した規格には,日常診断に使用されている核医学診断装置やその付属装置・機器の性能や安全性の保守点検基準について規定されている61–64).
2.2 医療従事者の職業被ばく
2.2.1 血管撮影室
表9血管撮影室における医療従事者の被ばく線量管理に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
不均等被ばく管理を行う19, 65). I A
放射線防護衣を着用する19). I A
放射線防護眼鏡を着用する19). I A天吊り防護板,防護衝立,寝台鉛カーテンなどの防護具を用いる19). I A
甲状腺防護具の着用を考慮する19). IIa B
均等被ばく管理は推奨されない19, 65). III No benefit C a. 個人線量計の装着
血管撮影室で防護衣を着用して業務にあたるスタッフは,「電離放射線障害防止規則」65)の第8条第3項において,不均等被ばく管理の対象とされている.この場合,防護エプロンの内側に個人線量計を1個(男性は胸部,女性は腹部〔妊娠の可能性がなく職場に届け出ている場合は胸部〕),加えて体幹部で最も多く放射線にさらされるおそれのある部位(通常は頭頚部),さらに末端部が最も多く放射線にさらされるおそれがある場合は末端部(IVR手技においては手指25))に個人線量計を1個装着する.ただし,末端部の被ばく線量が体幹部の被ばく線量を下回る場合は,末端部での個人線量計は不要である.まとめると,不均等被ばく管理には,胸部(腹部)+頭頚部,または胸部(腹部)+末端部,または胸部(腹部)+頭頚部+末端部の3とおりの装着部位が考えられ,個人線量計は2個以上必要となる. b. 水晶体の線量限度
現在わが国では眼の水晶体の線量限度に関する法令が改正され,医療従事者の線量限度は表10 65, 66)のように
p.22
なっている.水晶体の線量限度が引き下げられた要因は, ICRP Publication 118(2012年) 26)にて,水晶体はこれまで考えられていたより放射線感受性が高く,放射線白内障はより低い線量でも発症する可能性があるとし,放射線白内障の発症のしきい値を5 Gyから0.5 Gyに大幅に下げたことである.循環器領域のIVRを行う医師の場合,放射線防護眼鏡を着用しても線量限度を超えることがあり,天吊り防護板,防護衝立,寝台鉛カーテン(図14)を正しく使いこなして,水晶体の被ばく線量を低減する工夫が必要である(図15)
19, 27, 67–69).
図14 放射線防護具A:防護眼鏡,0.07 mm 鉛当量, 42 g(東レ・メディカル株式会社 提供) B:寝台鉛カーテンと鉛アクリルシールド
A B
寝台鉛カーテン寝台鉛カーテン
鉛アクリルシールド鉛アクリルシールド
図15 防護板の散乱線防護効果(血管撮影室の空間散乱線分布図)天吊り防護板天吊り防護板
表10 医療従事者の放射線量限度
適 用線量限度(職業被ばく)実効線量決められた5年間の平均が1年あたり20 mSv(任意の1年に50 mSvを超えない)年等価線量眼の水晶体
皮膚手先および足先決められた5年間の平均が1年あたり20 mSv(任意の1年に50 mSvを超えない) 500 mSv/年500 mSv/年(労働省. 1972 65), 厚生労働省. 2020 66) より作表) 2.2.2 CT検査室
表11 CT 検査室における医療従事者の被ばく線量管理に
関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
従事者がCT 撮影時に検査室にとどまる場合には防護眼鏡を着用する70). I C従事者がCT 撮影時に検査室にとどまる場合には防護衣の着用を考慮する70–72). IIa C CT 透視ガイド下穿刺の際にはニードルガイドなどの補助器具や放射線防護用掛布などの使用を考慮する73). IIa B a. 個人線量計の装着
CT撮影の際には基本的に放射線業務従事者は操作室側に退避するため,被ばくが問題になることは少ないが,検査室の隔壁などによって散乱線を完全に遮蔽できるわけではないため,業務に従事する際には必ず個人線量計を着用しなければならない.また,小児や意識レベルの低い患者の抑制,あるいは造影剤注入時の血管外漏出の確認などの目的でCT撮影時に検査室にとどまる場合には,被ばく線
p.23
量低減のために防護衣と防護眼鏡の着用が有効である71, 72).その際には不均等被ばくとなるため,防護衣の内側の胸部(男性,または妊娠する可能性がないと診断された女性)または腹部(その他の女性)に1ヵ所と,防護衣の外側の頚部に1ヵ所の,計2ヵ所に個人線量計を取り付ける必要がある.特に,CT撮影時に検査室にとどまることが多い従事者は,防護眼鏡を装着するとともに,水晶体専用の線量計を防護眼鏡の内側に装着することが推奨される.
検査室内の散乱線量分布を把握しておくことも被ばく線量低減のために有効である71, 72).図16に検査室内の散乱線量分布の一例を示す. b. 造影剤投与時の観察に伴う被ばく
造影剤を静脈投与する場合には,循環する速度に個人差が生じるが,それを考慮し,個々の患者に合わせたタイミングで撮影するために,ボーラストラッキング法(指定したスライス断面で動脈への造影剤の流入をリアルタイムで観察し,目的の濃度に達した時点で撮影を開始する方法) 74)やテストボーラス法(本番の撮影を行う前に試験的に造影剤を注入し,最適の撮影開始タイミングを調べる方法) 75)が用いられる.これらの方法では造影剤注入開始後,比較的早いタイミングでX線照射が開始されるため,患者の横で血管外漏出を確認する従事者は被ばくすることとなり,造影検査の頻度が高い施設ではこれらの手法を適用する頻度も高いことから,被ばく線量低減策を講じる必要がある.特に心臓CTでは,1画像あたりに寄与する投影データの時間的な感度分布である時間分解能を向上させるために,速いX線管回転速度と高い管電流による照射が行われることから,患者の横にいる従事者の被ばく線量も他のCT検査より高くなる可能性がある.
具体的な被ばく線量低減策としては,防護衣や防護眼鏡を着用することに加えて,検査室内に透明タイプの防護衝立などを設置しておくことも有効である.防護衝立による
散乱線の遮蔽能力は防護衣や防護眼鏡よりも高く,防護衝立の後ろ側で血管外漏出の確認を行うことによって,その従事者の被ばく線量を大幅に低減することが可能である.また,造影剤投与終了後はすみやかに検査室外に退避し,必要以上に検査室にとどまらないことも重要である. c. CT透視ガイド下の手技
CT透視ガイド下手技における従事者被ばく管理は,基本的に血管撮影室における従事者被ばく管理に準じて行うが,それに加えて,CT透視ガイド下手技の際には通常のX線透視よりもX線出力が高く,かつ従事者の手指が直接被ばくすることも多いため,照射野に入る可能性のある手指に手指用被ばく線量計を着用して手技を行うことが望ましい.被ばく線量低減のためには,できるだけ手指が照射野内に入らないように工夫することが必要であり,さらにCT透視ガイド下穿刺用の補助器具(ニードルガイドなど)や放射線防護用掛布などの使用も有効である73).
2.2.3 核医学検査室
表12 核医学検査室における医療従事者の被ばく線量管理
に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
PET 用薬剤の投与に自動分注投与装置の使用を考慮する46). IIa C複数の従事者で対応して,患者と接する時間を減らすことを考慮する44, 47). IIa C放射線防護衣または放射線防護衝立の利用を考慮する47, 53). IIa C
a. 心臓核医学検査の普及
心臓疾患に対する心臓核医学検査は,診断,重症度評価,治療方針の決定や予後評価に広く用いられている.また,心臓核医学検査の有用性とエビデンスレベルについては,2003年にAHA/ACC/ASNCからガイドラインが発表されているが76),わが国においてもこれまでの数多くの報告を基に,心臓疾患に対する心臓核医学検査の有効かつ効率的な使用を提案することを目的に,「心臓核医学検査ガイドライン」が発表されている77).
現在,わが国における心臓核医学検査は,SPECT検査とPET検査を含め,核医学検査の主流を占めている. 201Tlによる心筋血流シンチグラフィは1970年代より今日まで虚血,梗塞の存在診断,部位診断,重症度評価,残存心筋の判定,血行再建の適応決定,治療効果判定,予後予測
など,冠動脈疾患に対して幅広い臨床応用の報告がなされ図16 CT 検査室内の散乱線量分布の例
H*(10)(mSv)
29.2 25.6 21.9 18.3 14.6 11.0 7.3 3.7
0.0 寝台
ガントリ
p.24
てきた77).1980年代に入り, 201Tl心筋血流シンチグラフィとほぼ同等の診断価値を有する99mTc標識の心筋血流シンチグラフィ製剤が使用されるようになり,心電図同期法の利点を活かして現在でも広く用いられている77).さらに心筋の交感神経活動の状態を反映し,特に心不全に伴う交感神経機能活性の亢進状態を評価する123I-MIBGシンチグラフィ,また心筋における脂肪酸代謝を評価し,虚血性心疾患,心筋症,不全心においてその有用性が示されている123I-BMIPPシンチグラフィもわが国において広く臨床応用されている77).
一方,PET検査において,わが国では2002年より18F-FDGによる心筋梗塞後の心筋バイアビリティ診断が保険適用となった.心筋バイアビリティ診断における18F-FDG PET検査の有用性は確立されており,ゴールドスタンダードとなっている76, 78, 79).また,心筋代謝と血流を組み合わせて血流代謝のミスマッチを検出することにより生存心筋,心筋瘢痕を鑑別することが可能で,予後評価や血行再建術の適応決定などについて有用な情報が得られる77).さらに, 82Rb, 13N-アンモニア, 15O-H2Oを用いて心筋血流定量評価が可能であり,心筋血流予備能は心筋虚血診断において重要な指標となる.
小児における心臓核医学検査は種々の先天性および後天性冠動脈疾患(主に川崎病),心筋症,心筋障害,右室圧負荷などが適応となる77).小児心筋血流シンチグラフィの施行,判定にあたっては,その特殊性に留意する必要がある77).また小児の検査に伴う被ばくについても十分な配慮が必要である.小児においては運動負荷に比べ薬物負荷の方が,心筋血流シンチグラフィの集積低下がより明瞭に出現する80).未知の冠動脈狭窄の検出や冠動脈狭窄進展の経時的評価には,薬物負荷が多く用いられる80, 81).これに対し,運動によって引き起こされる異常を評価したい場合(既知の冠動脈異常による運動時虚血の存在,運動時心電図異常の成因,心筋虚血に対する治療効果判定など)は運動負荷が選択され,目的に応じた負荷方法の適切な選択が必要である. b. 被ばくと被ばく防護の現状
心臓核医学領域での医療従事者の被ばく線量について, ICRP Publication 128(2015年)を基に心臓核医学検査で使用する放射性医薬品ごとに実効線量係数を比較してみると, 201Tl心筋血流シンチグラフィで0.14 mSv/MBq, 99mTc- MIBI心筋血流シンチグラフィで0.009 mSv/MBq(安静時),0.0079 mSv/MBq(負荷時), 99mTc-テトロホスミン心筋血流シンチグラフィで0.008 mSv/MBq(安静時),0.0069 mSv/MBq(負荷時), 123I-MIBGおよび123I-BMIPP心筋脂肪酸代謝シンチグラフィで0.032 mSv/MBq, 18F-FDG PETで0.019 mSv/MBqであり,検査や使用する放射性医
薬品によって実効線量係数は異なる81–83).
心臓核医学検査従事者の被ばくとしては,金谷らが心臓検査に携わる医療従事者の被ばく線量を推定している.心筋( 201Tl: 110~140 MBq)で0.13±0.10 μSv,心筋( 99mTc: 296~740 MBq)で0.47±0.27 μSvであった.一方,静注時の実効線量は, 99mTc製剤を185 MBq投与した場合で0.10±0.05 μSv,740 MBqの場合で0.33±0.13 μSvであり,0.5 mm鉛当量の防護衣着用により50~70%遮蔽可能であると述べている84).特に,PET検査に関わる心臓核医学診療従事者の被ばくは,実効線量率が大きいため,短時間で多くの線量を被ばくすることが想定される.そのため,放射線業務従事者個人の被ばく管理は重要であり,その低減に努める必要がある.また,管理者は放射線業務従事者の被ばく線量の評価を定期的に行い,1年間につき5 mSvを目標値とすることが望ましいとされている85).
PET検査に関わる作業者の被ばく線量として,投与・説明をする医師:25~40 μSv/月,患者誘導やPET装置操作に関わる診療放射線技師:110 μSv/月,薬剤合成,品質検査,分注などに関わる薬剤師:25 μSv/月,サイクロトロンオペレータ:100 μSv/月と,アンケート調査の結果が報告されている86).さらに,放射線業務従事者の手指被ばく線量についてFujibuchiらは,放射性医薬品の投与に関わる医師は22.4 μSv/日,PET検査の18F-FDGでは51.3 μSv/人(右指:53.9 μSv,左指:47.2 μSv),
99mTc製剤を調剤する放射
線技師は29.6 μSv/日, 18F-FDG検査に関わる薬剤師は31.5 μSv/回,放射線技師は1.9 μSv/人と報告している87).
水晶体被ばくに関して,SPECT検査の実効線量からは,年間の水晶体の等価線量も数 μSvと十分低い値と考えられるが,PET検査に関しては自動分注投与装置導入を検討し,投与時や撮影時については勤務体制の検討や遮蔽,時間の短縮を図ることで,十分に被ばく線量低減が可能であるとされている88).
3 医療従事者における線量限度
3.1 等価線量限度
医療従事者の被ばくはほとんどが患者からの散乱線によるものであり,術者が受ける線量を低減するには,患者からの散乱線を制御することが重要となる.したがって,患者の受ける線量をできるだけ少なくすることが術者の線量
p.25
低減につながる.
法令により,放射線業務従事者は以下の等価線量限度を超えて被ばくしないように管理しなければならない. 1 5年間につき100 mSv 2 1年間につき50 mSv 3 女性については,上記の他,3ヵ月間につき5 mSv 4 妊娠中の女性については,上記の他,本人の申し出な
どにより病院または診療所の管理者が妊娠の事実を知ったときから出産までの間につき,内部被ばくに関して1 mSv 5 妊娠中の女性の腹部表面については,上記4に規定す
る期間につき2 mSv 6 眼の水晶体については,5年間の平均で20 mSv/年,か
つ,いずれの1年においても50 mSvを超えない7 皮膚については,1年間につき500 mSv
また,事業者は放射線障害のおそれがある場所の線量の測定,放射線業務従事者の外部被ばく線量の測定とその測定値に基づく各部位の等価線量の算定・記録など,種々の義務を負っている.
水晶体に関しては,原爆被爆者やチェルノブイリ事故復旧作業員などに関する疫学調査の知見を踏まえて,しきい線量が見直され,2021年4月から等価線量限度が引き下げられる.以下に各部位の従事者被ばくについて説明する.
3.2 水晶体
表13 放射線業務従事者の眼の水晶体防護のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
水晶体の等価線量が5 年間の平均で20 mSv/ 年,かつ,いずれの1 年においても50 mSv を超えないように管理する26). I A不均等被ばく管理で年間20 mSv を超えた従事者はその時点で5 年間を管理の対象とし,その後,水晶体専用の線量計を使用して,5 年間で100 mSv を超えないように管理する89). I A防護眼鏡は医療スタッフを含め同時に作業する人数分を用意する90). I A正面と側面からの放射線防護が可能な防護眼鏡を着用することを考慮する91, 92). IIa B
3.2.1 等価線量限度
2011年4月,ICRPは「組織反応に関する声明」において,計画被ばく状況における職業被ばくに関する水晶体の等価線量限度を,「年間150 mSvを超えない」から「定められた
5年間の平均で20 mSv/年,かついずれの1年においても50 mSvを超えない」に変更した26).この勧告の基準は国際原子力機関(IAEA)の「放射線防護と放射線源の安全:国際基本安全基準」に採用され,欧米ではすでに複数の国がICRPの水晶体の等価線量限度を法令に取り入れている.わが国でも2021年4月から,水晶体の等価線量限度が引き下げられる予定である.
3.2.2 水晶体の機能,構造,特性
水晶体は外から入ってきた光を屈折させ,網膜上に焦点を合わせるための凸レンズとしての機能を有している(図17) 93) .角膜に接する前方に単層上皮細胞層を有するほか,水晶体嚢と呼ばれる膜に包み込まれており,水晶体嚢の前半分は前嚢,後半分は後嚢,前嚢と後嚢の境界は赤道部と呼ばれる.
本来は透明な水晶体が何らかの原因で混濁することがあり,混濁が進行した症状を白内障という.白内障の主たる原因は加齢であり,60歳以上の集団では96%以上に水晶体混濁が認められるとの報告がある94).水晶体の混濁は,それによる視力障害が進行して生活の質を下げるようになると手術によって治療されることが多いが,放射線被ばくでも生じることがあり,白内障手術が必要なほどの視力障害(放射線白内障)に進行しうる.放射線白内障の発症は主として,放射線が水晶体上皮細胞の異常分化を誘発し,異形成の線維性細胞を生み,微小混濁を形成することによる.最近の報告で,微小混濁が視力障害性白内障へと進行する場合があるとされたため,しきい値(等価線量限度)が引き下げられた.
白内障手術によって人工水晶体眼または無水晶体眼となった場合は,被ばくによって混濁する水晶体が存在しないため,白内障は発症しない95).
3.2.3 被ばくの現状
新基準を満たさない放射線業務従事者のほとんどが一般医療分野である96).医師の診療科別の等価線量分布によれば,1年間で20 mSvを超えるのは循環器内科,消化器内科,消化器外科の順に多く,50 mSvを超えるのは消化器内科,整形外科,脳神経外科,循環器内科の順に多い.循環器内科に限れば,20 mSv超が15.4%,50 mSv超が0.3%であり,わが国でも新基準になった場合に基準を超える割合が高いので,早急に対応が必要である97).
3.2.4 防護眼鏡
防護眼鏡には一般的な眼鏡と同様の形のものから,顔の
p.26
両横までレンズが広がる形状やゴーグルタイプのもの,自家眼鏡使用者のためのものまで,さまざまな形のものがある.レンズの放射線遮蔽効果も最大で90%あり,適切な利用は水晶体の被ばく線量低減に有効である.X線管を2個備える装置やX線管の位置を細かく変える手技では,広い範囲からの放射線を防護できるゴーグルタイプが効果的である.
手技の際に透視台の近傍に立つ術者と医療スタッフ,患者の容態管理などの目的でカテーテル室内に残る医師などは,防護眼鏡の着用が必要である.また,「労働安全衛生規則」第596条では,保護具は同時に作業する従事者の人数と同数以上を備え,常時有効かつ清潔に保持することを事業者に求めており,安全衛生管理上も病院管理者が必要な人数分以上の防護眼鏡を揃えておく必要がある90).
3.2.5 被ばく管理の問題点
a. 計測法
放射線防護衣の内側と外側に個人線量計を装着しての不均等被ばく管理が推奨されているが,使用率は約30%にとどまり,残りは均等被ばく管理が行われている.均等被ばく管理の場合,水晶体被ばくは過小評価されることになる.また,不均等被ばく管理において,眼の近傍で測定することは現行の規制で求められていないことから,頭頚部の計測で代用しており,その場合は過大評価の可能性がある91).
厚生労働省のガイドラインでは次回の改訂で以下のように変更することが検討されている.「これまでの個人線量計を用いた測定方法で放射線診療に従事した結果,水晶体の等価線量が年間20 mSvを超えた従事者は,その時点で,水晶体の等価線量限度の5年間管理の対象者とし,5
年間で100 mSvを超えないように管理する.さらに該当者には,水晶体の専用の線量計を渡し,これを防護眼鏡の遮蔽範囲内に装着して,放射線診療に従事し,十分に放射線安全に努める等の管理者からの指導を受ける」89).IVRに従事し,年間20 mSvを超える被ばくの恐れがある循環器科医は,当初から防護眼鏡の内側に専用線量計(図18)を装着して手技を行うことが推奨される.
防護眼鏡を使用し,その内側に線量計を装着することで, 60~90%の遮蔽効果がある91, 92).水晶体の被ばくは立ち位置の関係から右眼より左眼が多く,防護効果も左眼のほうが大きい.また,防護眼鏡の形状によっても防護効果に違いがあり,側面までレンズが広がるゴーグルタイプが薦められる.
現在販売されている防護眼鏡装着用の線量計は落下しやすく,また術者視野を妨げるため,普及していない.製造企業による線量計の改良が望まれる. b. 経済的負担
防護眼鏡と線量計の購入は,放射線業務従事者全体に普及させる場合,経済的負担が大きくなる.行政機関が負担するのか,各施設で負担するのか,検討する必要がある. c. 高度技術者の被ばく
慢性完全閉塞病変など,高度技術者でないと治療が成功しにくい症例が存在する.また僻地医療では医師が少なく,特定医師に放射線被ばくが集中することがある.これらの場合,新基準を超える可能性があり,医療継続が難しくなる.多くの医師への技術の伝承,僻地医療者の充実が必要である.
図17 眼と水晶体の構造(放射線審議会 眼の水晶体の放射線防護検討部会. 2018 93) より)
眼水晶体
房水チン小帯
水晶体
毛様体赤道
赤道
前嚢核後嚢
水晶体上皮細胞皮質後嚢下
p.27
3.3 皮膚
表14 放射線業務従事者の皮膚防護のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
皮膚等価線量が年間500 mGy を超えないように管理する97). I A
医療従事者の皮膚の線量限度は500 mGy/年である97).皮膚癌については,業務上疾病の労災認定基準は定められていないが,慢性放射線皮膚障害については,以下のとおり認定基準が定められている98). 1 3ヵ月以上の期間におおむね25000 mSvまたはこれを超
える線量の電離放射線を皮膚に慢性的に被ばくした事実があること. 2 開始後おおむね数年またはこれを超える期間を経た後
に発生した疾病であること. 3 乾性落屑などの症状を経過した後に生じた慢性潰瘍ま
たは機能障害を伴う萎縮性瘢痕が認められる疾病であること.手指の被ばく線量を測定するための指輪型の個人線量計がある.繊細な手技を行う際には違和感があるかもしれないが,照射野近傍に手指を置いて操作する場合,手指の被ばく線量は体幹部に着用した個人線量計が示すよりも多いことが予想される.そのため,被ばく線量が最大となる手指に指輪型の個人線量計を装着し,皮膚(手指)の線量限度である年間500 mSvを超えないようにする被ばく管理が必要である.手指に装着できない場合は,手首に装着するタイプの線量計も有効である99, 100).
手指などが照射野に入ることの多い手技の場合,術者は散乱線による被ばくの低減のために,可能ならば防護手袋
を利用する.清潔手技に対応した防護手袋は,散乱線の被ばく低減には効果的であるが,術者の手が透視されるような直接線被ばくの低減を考えて開発されたものではない.ほとんどの透視装置には被写体の大きさに応じて自動的に画質を調整する自動調節機能があるため,術者の手が患者の上に乗ると装置は体厚の大きな被写体になったと判断して自動的にX線量を増加させる.また,照射野の近くで心臓マッサージをするなど,清潔状態で使用しなくてよい場合には,遮蔽能力が一般的な防護衣と同程度の0.35 mm鉛当量の手袋を使用する.
3.4 甲状腺
甲状腺に関しては医療従事者の線量限度は設定されていない.
厚生労働省の「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」の報告101)では,原発事故による放射線被ばくによる甲状腺癌発症リスクの上昇が報告されているが102),甲状腺癌の発症が統計的に有意に増加する最小被ばく線量を示す報告は認められなかった.甲状腺癌を含む全固形癌を対象とした原子放射線の影響に関する国連科学委員会などの知見では,被ばく線量が100~200 mSv以上において統計的に有意なリスクの上昇は認められるものの,発癌リスクの推定に用いられる疫学的研究方法はおよそ100 mSvまでの線量範囲での癌のリスクを直接明らかにする力をもたないとされている.よって,累積被ばく線量が100 mSv以下になるように,放射線防護が必要である.甲状腺癌に関する報告では,原発事故後5年目から9年目の期間以降で甲状腺癌発症リスクが有意に上昇したとするものがある103).
ネックガードは甲状腺の防護を目的として装着する防護用具で,防護衣と同じ含鉛シートで作られている.0.25 mm鉛当量の含鉛シート製ネックガードは防護衣と同様に約90%の遮蔽効果があり,着用する必要がある104–106).
3.5 女性に関する事項
女性の乳房について,放射線障害の組織加重係数はICRP Publication 60(1990年勧告)の「0.05」がPublication 103(2007年勧告)で「0.12」に改訂され,よりいっそうの被ばく防護が必要となった.乳房に関して医療従事者の線量限度は設定されていない.患者被ばくを防ぐ努力が医療従事者の被ばく防護につながる.
日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン2018年版」107)では,被ばくと乳癌との関係について以下のようにステート
図18 眼の水晶体用の線量計(株式会社千代田テクノル 提供)
p.28
メントが出されている. 1) 高線量の被ばくが乳癌発症リスクを増加させることは
確実であり,そのリスクは若年期に被ばくした場合に最も高い108). 2) 頻回のX線検査や胸部への放射線療法などの医療被ば
くが,乳癌発症リスクを増加させることはほぼ確実であり,そのリスクは若年期に被ばくした場合に高い109). 3) 低線量被ばくが乳癌発症リスクを増加させるかどうか
は結論付けられない110).以上より,医療従事者も若年からの被ばく,頻回の被ばくを防ぐ必要がある.
乳房の防護には防護服が有用である.放射線を遮る割合は鉛を基準(鉛当量)として表示され,鉛当量が0.25 mmと0.35 mmの防護衣がある.一般的にIVRやCT透視などで使用する放射線の強さでは,検査室内に散乱する放射線を鉛当量0.25 mmの防護衣では90%,0.35 mmでは95%遮蔽する能力を持っている.鉛当量0.25 mmの防護衣に比較し,0.35 mmの防護衣では遮蔽効果が高いが,防護衣の重量が増す.腰への負担を軽減するためには上下セパレートタイプが適しているが,介助などで同じ場所に立つなど,放射線を受ける体の面が患者の方に固定される場合は,背面が開いたエプロン様の形状でも十分に防護できる.各自の診療状況に合わせて防護衣を選択する必要がある.
3.6 頭部
インターベンション施行医で頭頚部癌が発症した症例のうち,左側に発症した割合が85%と報告され111),照射線源が術者の左側にあることから,被ばくによる影響が懸念された.しかし,報告された論文が少なく,明らかな関係は不明瞭である.
頭部に放射線防護キャップをつけた研究では112),明らかな被ばく線量低減は得られず,有用性については不明確である.防護板などによる装置側の遮蔽,使用放射線量自体の低減を徹底する必要がある.
3.7 手技内容の共有
関連するすべての医療従事者があらかじめ手技を知ることは,適切な防護に役立つ.当日の手技の概略を事前に医療従事者間で共有できるように説明する必要がある.
ほとんどの病院では手術の前などに「タイムアウト」を導入し,医療安全に役立てている.放射線診療も手術と同様に,医師,看護師,診療放射線技師,臨床工学士などのさまざまな職種の者が関与する.当日の手技の概略を事前に術者が説明し,あらかじめ手技内容の情報を共有するこ
とは,患者情報の収集ミスの防止にもつながり,より安全な放射線診療を可能にする.手技の行程表が事前に用意されていれば,防護板と清潔ビニール,防護眼鏡などを的確に準備でき,適切な術者の立ち位置の事前予測も可能である.
4 女性医療従事者の胎児の被ばく
表15 妊娠中の女性放射線業務従事者の被ばく管理に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
胎児の被ばくの危険性を認識する113). I B各種撮影法による胎児の被ばく量を把握する113). I B医療従事者本人に対する放射線安全管理を行う113). I B
4.1 胎児被ばくの危険性
ICRP Publication 84「妊娠と医療放射線」(2000年)
113)
では,冒頭の緒論の中で「数千人の妊娠している患者や放射線作業者が,毎年,電離放射線に被ばくしている.知識の不足のため,大きな不安と,おそらくは不必要な多くの妊娠中絶が生じている.胎児に正当化されないリスクの増加をもたらし,適切でないと考えられる被ばくもあるが,多くの患者にとって被ばくは適切なものである」と述べている.このことは,胎児に対する放射線被ばくの危険性が過大評価されている可能性を示している.しかしながら, Publication 84 では「妊娠している患者に対する医療被ばくは,日常的な放射線診療に比べてより多くの倫理的な配慮がなされる」とも記載されている.
胎児に対する放射線被ばくで問題となるのは,しきい線量を超えた被ばくにより奇形や遺伝子異常などが生じることである.その影響の結果は胎児期により異なり,胎児死亡,奇形,精神遅滞などがある.ICRPは100 mGy以下では胎児への影響はないとしている.また,10 mGy以上の被ばくにより白血病やその他の癌の発生が増加する可能性がある.胎児期の被ばくの影響は成人に比べて2~3倍大きいと考えられており,被ばく線量の増加に伴って癌の発
p.29
生率も上昇するが,成人では100 mGy以下の被ばくで癌の発生率が上昇するかどうかは科学的に不明であることを念頭に置く必要がある114).
以上のことを考慮したうえで,放射線被ばくの正当化と最適化を十分検討し,その結果を対象となる女性にしっかりと説明し,当事者の理解を深めることが重要である.
4.2 胎児の被ばく線量
循環器診療においては胸部領域が検査や治療の対象となることが多い.この場合,被ばく部位が骨盤と離れているため,胎児の被ばく量は基準を超えるものではなく,限定的である.もちろん,胎児を含んだ部分が検査や治療の対象となる場合はその限りではない.しかしながら,放射線が入射する表面の線量がそのまま胎児の被ばく線量となるわけではなく,母体で吸収された残りが胎児の被ばくとなる.
ICRP Publication 84「妊娠と医療放射線」(2000年)に記載されている「英国における通常の診断手法から受けるおよその胎児線量」を表16に示す113, 115).現在,胸部単純X線撮影のDRL 29)は入射表面線量で0.3 mGyである113).この値は多くの集積データから導かれており,実臨床の値と解離はないと考えられている.胸部単純X線撮影のときの胎児線量は0.01 mGy以下と,DRLと比較して1/30以下となることから,被ばく部位が胎児と離れている場合の被ばく線量の低さがわかる.一方,腹部単純X線撮影では, DRLは入射表面線量で3 mGy,胎児線量は平均で1.4 mGyで,1/2程度の比率となる.しかしながら,双方のデータが公表された時期は,DRLが2015年であるが胎児線量は1998年となっており,イメージングシステムや撮影装置の進歩から考えると胎児線量が高く想定されている可能性は否めず,その比率はより低くなると考えられる.
一般にCT検査の胎児被ばく線量は単純X線撮影の被ばく線量より高いが,中でも骨盤で25 mGyとかなり高い線量であることがわかる(表16).DRLの値は上腹部~骨盤1相で20 mGyとなっているが,これは被写体となるアクリル樹脂の1点における平均的な線量であるCTDIを表しているため単純に比較はできないものの,1998年の胎児線量よりは低い値となっている.また,昨今,逐次近似再構成処理という画像処理技術が登場し(第3章,p. 34,35参照),画像の質を確保しつつ被ばくを低減できる手法として浸透してきており116),胎児線量のさらなる低減が期待できる117). 4.3 線量限度としきい線量
妊婦の職業被ばくの線量限度は法律で定められている.「電離放射線障害防止規則」97)では「妊婦の内部被ばくによる実効線量は1ミリシーベルトを超えないこと」,「外部被ばくによる腹部表面の等価線量は2ミリシーベルトを超えないこと」とされている.職業被ばくは繰り返されることが常であり,業務による被ばくが避けられないことを考慮して,詳細な限度が設けられ,また個人被ばく線量計などを用いて管理されている.なお,患者の被ばくは医療被ばくであり,必要な検査や治療を受けられないことを避けるために線量限度は適用されないため,胎児被ばくで悪性腫瘍,遺伝的影響などが懸念される.
胎児被ばくにおける障害発生の胎児発育期間としきい線量を表17,18に示す118).ICRPは,胎児線量が100 mGy以下あれば感受性が最も高い時期においても胎児の健康影響を考慮する必要はないとしている114).さらに現在の医療機器では胎児被ばくが100 mGyに達するとは考え難く,胎児被ばくは放射線診断領域では問題にならないと考える.しかしながら,このことはあくまでも専門的知見であり,通常よりさらにデリケートな精神状態にある妊婦には,十分な説明が必要であることはいうまでもない.
4.4 放射線防護
妊娠中の医療従事者は上記の点も含めて適切な放射線
表16 英国における通常の診断手法から受ける胎児線量
検 査平均線量(mGy)最大線量(mGy)
従来型X線検査腹部胸部静脈性尿路造影腰椎骨盤頭蓋骨胸椎1.4 <0.01 1.7 1.7 1.1 <0.01 <0.01 4.2 <0.01 10 10 4 <0.01 <0.01透視検査バリウム造影(上部消化管)バリウム注腸造影1.1 6.8 5.8 24 CT検査腹部胸部頭部腰椎骨盤8.0 0.06 <0.005 2.4 25 49 0.96 <0.005 8.6 79 (ICRP 84, 2002 113)より引用,Sharp C, et al. 1998 115)より改変)
p.30
防護を行う必要がある.図19 のようなセパレート型の防護衣を着用したうえで,鉛当量 0.25 mmの巻きスカート型の防護衣を使用すると,前面は 2 枚重なるため 0.5 mm,側面は 0.25 mmとなり,周囲からの被ばくを低減できる(図20).前面で正確に重ねることが重要で,妊娠期間を通じて防護衣が体形にフィットしていることを確認する.必要に応じて大きなサイズの防護衣,腹部に合わせた妊婦用の防護衣,または腹部周囲にエプロン型の防護衣を追加して着用してもよい.ただし,防護衣が重くなると腰痛や筋骨格系の問題が生じやすいので,注意が必要である.
4.5 放射線安全管理
女性医療従事者が妊娠した場合,直ちに管理者に報告する必要がある.法令では妊娠の期間中(妊娠と診断されてから出産までの期間)の腹部表面における等価線量の線量限度は2 mSvと規定されている.また,腹部表面における等価線量について,1ヵ月ごと,および全妊娠期間中の合計線量を記録することが義務づけられている.胎児については,妊娠期間中に受ける吸収線量を1 mSv以内とする必要がある.
法令では妊娠した医療従事者の被ばく状況を十分に把握し管理することを規定している.しかし,放射線や放射性物質を使用する作業を完全に避けることや,放射線区域への立ち入りやその場所での作業を禁止するものではない.現在のエビデンスに基づけば,適切な放射線防護が行われ線量限度が遵守されているという条件下では,妊娠中の医療従事者の胎児に対する遺伝的または発達上のリスクはきわめて低い119).管理者および当事者は,これらの条件
を十分に把握し,日常業務にあたることが重要である.いずれにしても,女性医療従事者は妊娠が判明した時点で管理者と十分な話し合いを行い,妊娠中も安心して業務を継続できるようにする必要がある.
図19 セパレート型放射線防護衣
図20 巻きスカート型放射線防護衣
表17 胎児被ばくによる主な先天性異常の発生時期
着床前器官形成期胎児期
妊娠期間0~9日2~8週8~15週15~25週25週~堕胎奇形発育遅滞精神遅滞新生物遺伝的影響+++
- - - - - + +++
+ - + - - - + +++
+ - - - + + + - - - + - + -
(Kusama T, et al. 2002 118) より) John Wiley & Sons. ©Japanese Teratology Society
表18 胎児における放射線の確定的影響のしきい線量
確定的影響しきい線量(mGy)致死性著しい奇形精神遅滞100< 100~200 120 (Kusama T, et al. 2002 118) より) John Wiley & Sons. ©Japanese Teratology Society
p.31
第3章 放射線被ばく管理の実際
1 胸腹部単純X線検査
表19 単純X 線撮影における被ばく線量低減のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
医療従事者
介助者は患者から2 m 以上離れる120). I B散乱線の線量分布図を示すことを考慮する121). IIa C患者最新のイメージングモダリティを用いることを考慮する122). IIa B被ばくに関する危険性の患者への説明個々の患者と家族の状況に即したリスクコミュニケーションを行う123–125). I C
1.1 被ばく線量低減のための工夫
1.1.1 医療従事者
単純X線撮影における医療従事者の被ばくは,静止姿勢保持が困難,単独で立位を保持することが危険,撮影体位の保持が難しいといった患者の,介助者となった場合がほとんどである.
衝立などの防護用具を使用することが現実的でない場合は,適正な照射条件の選択とX線源から適切な距離を取ることが一般的な防護措置である.
医療法では,「移動型及び携帯型エックス線装置並びに手術中に使用するエックス線装置にあっては,エックス線管焦点及び患者から2 m以上離れた位置において操作できる構造とすること」120)とされており,患者の家族や介助者,訪問者はX線管容器および患者から2 m以上離れることが
推奨されている.図21は病室ベッド上での患者胸部臥位および座位で撮影時の空間線量分布である121).患者のベッド周辺から2 m以上離れればほとんど検知できない線量となり,防護衣を着用しなくても十分安全であることがわかる.
1.1.2 患者
循環器領域における単純X線検査での撮影部位は胸部や腹部が大半で,IVRやCT検査と比較して撮影線量は低い.DRLで比較した場合,数値の性質は異なるものの, IVRは20 mGy/min(透視線量率),CT検査は胸部1相で15 mGy(CTDIvol),上腹部~骨盤1相で20 mGy(CTDIvol)であるのに対し,胸部単純X線撮影(正面)は0.3 mGy,腹部単純X線撮影(正面)3.0 mGyと線量が低い.さらに近年は,フィルムでのアナログ撮影に代わり,コンピューテッドラジオグラフィ(CR)やフラットパネルディテクター(FPD)によるデジタル撮影がほとんどとなっている.FPDでの撮影はフィルムやCRよりさらに被ばく線量低減が可能といった報告もある122).
しかしながら,集中治療室で治療を受けている患者などは,経過観察のためほぼ毎日撮影することもまれではない. 1回の撮影線量は低いが,日ごとに累積するため,主治医は検査の正当性を認識したうえで撮影依頼を行うべきである.
成人では100 mGy以下の被ばくでも癌の発生率が上昇するかどうかは科学的に不明確であるが,小児が成人と同等線量の放射線を被ばくした場合,その影響は同じではない.特に確率的影響において,低年齢での被ばくほど将来癌になる確率が高くなり,0歳から6歳くらいまでの乳幼児の被ばくでは,20歳から60歳くらいまでの成人の被ばくに比べて,固形癌と白血病の発症率とすべての癌による死亡率が2~3倍程度に高くなると評価されている126, 127).
単純X線撮影での放射線は低線量であり,組織反応の懸念は少ないものの,確率的影響を念頭に置いて検査を行うことが重要である.
p.32
1.2 患者への説明
放射線診療には被ばくの危険性がつねに潜んでいることはいうまでもない.放射線防護の観点より,医療における「行為の正当化」と「線量の最適化」が図られなければならない.行為の正当化の条件は,放射線診療の便益が被ばくによる放射線障害の不利益を上回っていることである.医療を受ける患者に対し,放射線診療の便益性と危険性(放射線被ばく)について伝えることが重要となる.
2019年3月に「医療法施行規則の一部を改正する省令」が公布され,放射線診療に係る安全管理体制に関する規定について,2020年4月1日から施行されることとなった.これに伴い,各医療施設は診療用放射線の安全利用のための指針を策定することが必須となった.その内容の一つとして,「医療従事者と患者間の情報共有に関する基本方針」という項目があり,放射線診療を受ける患者に対する説明についての方針を記載することが求められている.これは,前述した放射線診療の便益性と危険性(放射線被ばく)について患者にしっかりと伝え,理解を得ることに他ならない.
しかしながら,放射線診療に関する情報を提供する医療者側の理解と患者の理解にはかなりのギャップがあるという報告もある123).そもそも放射線診療に限らず,治療を受
ける患者の背景や病態は多種多様であり,それぞれの患者と家族状況に即したリスクコミュニケーションが必要となる124).
放射線診療の便益とリスクに関する効果的なコミュニケーションは,適正な医療の一環である.適正な放射線診療の実践にはリスクコミュニケーションが重要な要素であることは,WHOからも発信されており125),法改正の根拠とも合致する重要事項である.
1.3 Q&A
【Q 1】 経過観察のため毎日行う検査
循環器疾患でICUなどに入院・入室している患者は,経過観察のために毎日,胸部単純X線撮影を行うことも少なくありませんが,繰り返す検査に伴う被ばくに関してはどのように考えるべきでしょうか. A 胸部や腹部の単純X線撮影での被ばく線量は,CT検査などと比較すると低い.しかし,患者の被ばく線量の大小だけでなく,診療上必要な経過観察ための検査としての正当性が重要である.必要と判断された場合,患者の診断目的を達成しうる画質を得る一方で,線量の最適化は必須である.
図21 ポータブル撮影における病室の線量分布
管電圧 120 kV,稼働負荷 4 mAs
胸部臥位床上 90 cm胸部座位床上 90 cm
1 m単位:μSv
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2 CT検査
表20 CT 検査における患者の被ばく線量低減のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
管電流値の設定の際に自動照射制御を使用することにより,患者の体格に合わせた撮影線量の最適化を行う128, 129). I B安定した低心拍数(<65/min)の患者の冠動脈CT 撮影において,前向き心電図同期ノンヘリカルスキャン法や,高いヘリカルピッチを使用した前向き心電図同期ヘリカルスキャン法の適用を考慮する130―132). IIa C画像ノイズ低減のために,画像再構成法として逐次近似再構成処理の適用を考慮する133–135). IIa B
2.1 CTの進歩,普及による被ばく線量増加
近年におけるCT検査技術の向上は目覚ましく,多列検出器の導入,X線管の回転速度向上や容量増大により,広範囲の撮影や高速撮影,薄いスライスでの評価が可能となり,CT検査の適応が拡大した.
循環器領域はCT検査技術の向上の恩恵を大きく受けている分野の一つであるが,撮影の高速化による繰り返し撮影や広範囲撮影は,1検査あたりの被ばく線量を増加させる要因となる.また,体軸方向の空間分解能を向上させるために薄いスライスを用いる場合には画像ノイズが増加するため,このノイズを低減させる目的で線量を増やせば被ばくが増加する136).さらに,検査の適応拡大に伴ってわが国におけるCT検査数は増加しており,国民1人あたりのCT検査による被ばく線量増加が懸念されている.それに伴い医療被ばくの把握と管理が求められている.
2.2 被ばく線量低減のための工夫
放射線管理と防護に関する基本原則に基づくと,放射線を用いて施行したCT検査から得られる情報の利益が被ばくによる健康影響のリスクを上回る場合にのみ,CT検査は正当化され,設備や撮像条件が最適化されているという前提のもとに行われるべきである.近年,CT装置の進歩に伴い安定して高精度の画像が得られるようになったが,一方で悪性腫瘍の診断におけるCT検査の関与が以前より
懸念されており,常に正当化と最適化に留意しなければならない.なお,循環器領域のCT検査における正当化に関しては,日本循環器学会が作成した各種疾患の診療ガイドラインが参考となる137).
2.2.1 目的と患者の体格に合わせた最適化
患者の被ばく線量を低減するためには,撮影のための線量を検査目的や患者に合わせて最適化することが有効である.検査目的に合わせた最適化については,あらかじめ施設で検査目的ごとの標準プロトコルを決定しておくことが望まれる.また,患者に合わせた最適化については,患者の体格に応じた管電流値の設定が必要となるが,撮影者の感覚や経験に委ねるものとならないように,可能なかぎり自動照射制御を用いることが推奨される128, 129).
2.2.2 自動照射制御
自動照射制御には,患者の身体のサイズを認識して管電流値を調整する,体軸方向のX線吸収差を認識して管電流値を変調する,断面方向のX線吸収差を認識して管電流値を変調する,という3つの機能があり,これらを組み合わせて管電流値が設定され,撮影線量が決定される.それぞれの装置によって有する機能は異なっているため,あらかじめ確認しておく必要がある.
近年では,体表面近くにある乳腺などの組織の被ばくを選択的に低減するために,X線が体前面に照射されるときに管電流値を下げる自動照射制御を搭載したCT装置も普及している.装置によっては選択できるヘリカルピッチに制限があったり,画像ノイズが増加したりするため,その使用には注意を要するが,特に若年者に対しては使用を考慮することが望ましい.
心臓CT検査では心電図同期撮影が行われるが,心電図同期ヘリカルスキャンではヘリカルピッチを小さく設定しなければならず,患者被ばく線量が増大する傾向にある.この問題を軽減するために,心電図同期自動照射制御を併用する方法がある.この方法では,任意の心位相のみ(一般的には収縮末期~拡張期)を設定した最大管電流で撮影し,その他の心位相では低管電流で撮影することにより,被ばく線量低減を図ることが可能である.心電図同期自動照射制御を併用した場合,不整脈などによりRR間隔が変化すると,最大管電流での撮影を想定した心位相において低管電流で撮影されてしまう可能性があるが,撮影中に不整脈が出現すると自動照射制御が自動的にオフとなる仕組みを備えた装置もある.患者の状態や装置の心電図同期自動照射制御の特性を見極めつつ,その適用の可否を判断す
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ることが望まれる.
心臓CT検査においてさらに被ばく線量を低減する方法として,前向き心電図同期ノンヘリカルスキャン法や,高いヘリカルピッチを使用した前向き心電図同期ヘリカルスキャン法などがある.これらの手法は通常の心電図同期ヘリカルスキャンと比べると被ばく線量を大幅に低減できるが,高心拍症例や不整脈症例では診断に必要な画質を得られない可能性が高く,65/min未満の安定した低心拍の患者への,またはβ 遮断薬を投与したうえでの限定的な使用に留めるのが望ましい130–132).
2.2.3 低管電圧撮影,逐次近似再構成処理
その他にも,低管電圧撮影や逐次近似再構成処理を用いることによって,被ばく線量を低減できる可能性がある.患者の体格に応じて低管電圧を適用することは,被ばく線量低減に有効であるが,冠動脈が石灰化した症例ではブルーミングアーチファクトが増加するとの報告がある138).また,画像コントラストを変化させるとともに,画像ノイズの増加にもつながる可能性があることから,その適用は慎重に行われるべきである.
CT撮影時に撮影線量を低減させることにより画像ノイズが増加した場合でも,逐次近似再構成処理でノイズを低減させることによって,結果的に撮影線量の低減前と同等の画像ノイズレベルを維持しながら被ばく線量を低減することが可能である133–135).しかし,逐次近似再構成処理により得られる画像のノイズの周波数特性は処理の種類により異なり,特に処理の強度を上げた場合に視覚的な違和感が生じることも知られている.したがって,逐次近似再構成処理を適用する場合には,視覚評価により診断に必要な画質が得られているかどうかを必ず確認するとともに,処理強度の最適化を行うべきである(Q&A参照).
2.3 被ばくの危険性
被ばくに関する危険性を考える際には,線量の把握が重要となる.CT検査においてはCDTIvolやDLPを基に線量を評価する.CT検査での被ばく線量がどの程度であるかは使用する装置により異なり,同じ装置でも撮影回数やヘリカルピッチ,電流量などのパラメータ設定により異なる136).したがって,各装置においてプロトコルごとに標準的な線量を把握しておくことが重要である.なお,現在行われている体幹部のCT検査のほとんどにおいては自動照射制御が用いられているため,同一のプロトコルにおいても患者の体格により被ばく線量は大きく異なる.したがって,個々の患者に対してCT検査における被ばく線量を事前に正確に把握することは困難であるが, 1回の検査にお
ける臓器・組織線量はおおむね数十mGy以下,実効線量は数十mSv以下とされている.
CT検査による人体への放射線の影響も確定的影響(組織反応)と確率的影響に分けて考えるべきである.確定的影響はしきい線量を超えた場合に生じる障害であり,1回の通常CT検査で臓器・組織線量がしきい線量を超えることは考えにくい.ただし,胎児の奇形などに関するしきい線量は100 mGyと低いため,妊婦の骨盤部を複数回撮影した場合にはしきい線量を超える可能性がある.また,眼の水晶体のしきい線量が近年500 mGyに引き下げられ,心臓や脳に対しても同様のしきい線量が提唱されたため26),これらの組織・臓器を撮影範囲に含む複数回のCT検査においては,確定的影響が発生する可能性を考慮して十分に配慮する必要がある.
画像診断検査などの低レベルの放射線により癌を発症するリスクは明確にされていない.若年者に対するCT検査後に発癌が有意に増加しているという報告も近年散見される139–141).一方で,CT検査が行われた背景には何らかの異常が存在しており,その異常が癌の発生に関係しているだけで,CT検査が発癌を誘発したとは必ずしもいえないという意見もある141, 142).いずれにせよ,1回のCT検査による医療被ばくの実効線量は通常100 mSv未満であり,個人に確率的影響が生じるリスクは決して大きくないが,多数例の集団としてみると発癌という影響は無視できない.
2.4 患者への説明
2020年4月,医療法施行規則改正に際して厚生労働省により作成された「診療用放射線の安全利用のための指針策定に関するガイドライン」143)によると,「放射線診療を受ける者に対する説明行為は,当該診療を受ける者に対する診療の実施を指示した主治医又は主治の歯科医師が責任を持って対応する」,「リスク・ベネフィットを考慮した検査・治療の必要性(正当化に関する事項)」を踏まえた説明を検査前に行う,と記載されている.すなわち心血管領域のCT検査を指示する主治医には,本検査における被ばくのデメリットを踏まえて,他の検査法と比較して本検査における正当性を検討したうえで,それを患者に説明する義務が求められる.
CT検査においてもインフォームドコンセントを得る必要があり,CT検査における被ばくについて,患者の不安や関心,理解力に応じて説明を行わなければならない144, 145).前述のとおり,厚生労働省のガイドラインでは,検査の実施を指示した主治医または主治の歯科医師が責任をもって
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対応することになっている.以下の内容を考慮した説明文書を施設が用意することが望ましい.
まず,CT検査の必要性や有用性に関して具体的に説明する.その際に,超音波検査やMRI検査など被ばくを伴わない代替の検査の有無と,それらの検査に対するCT検査の優位性にも触れる.CT検査で異常が見つからなかった場合には,無駄な被ばくをしたと誤解する患者もいるため,異常が見つからなかった場合のベネフィットに関しても触れておくことが望ましい.
次に,CT検査の被ばく線量に関しても説明する.しかし,被ばく線量評価に用いられる単位を患者に理解してもらうことは必ずしも容易ではない.また,自施設における同一プロトコル検査の標準的な線量を基に個々の検査における線量を検査前に概算することは可能であるが,煩雑であり,ときに不確かである.多くの場合には,これから行おうとしているCT検査が自然放射線と比較してどの程度の量であるかを大まかに説明するのが現実的かもしれない.
被ばくの影響に関しては,確定的影響と確率的影響に分けて考えるべきである.前述のように,通常の1回のCT検査で確定的影響が生じるとは考えにくい.CT検査における被ばくは通常100 mSv未満であり,この線量での放射線発癌のリスクは実証されていないが,仮にリスクがあるとしても,生活習慣など他の要因による癌のリスクと比較するとごくわずかである.これらの点を踏まえて,状況に応じた説明を行うべきである.なお,妊婦に対しては特別な配慮を行ったうえでの説明が必要である.
検査前の説明において,各施設で行っている医療被ばく低減に関する取り組みについても触れることが望ましい.
2.5 Q&A
【Q 2】 妊婦に対するCT検査
妊娠中の患者に対するCT検査では,被ばくの影響をどのように考え,どのように対応すればよいですか. A 妊娠中の患者に対するCT検査に際しては,通常より多くの配慮がなされるべきである.まず,放射線を用いない超音波検査やMRI検査などで代用できないかを検討する.代用が困難な場合には,CT検査で胎児の吸収線量が必要最小限になるように注意を払う.
胎児に対する放射線の影響は受胎後の被ばくの時期と吸収線量に依存する.器官形成期(受胎後3~8週)に100 mGy以上の被ばくが生じた場合には奇形発生率が上昇する可能性がある.一方,受胎後8~25週の期間における100 mGy以上の被ばくでは中枢神経障害が生じうる.いずれにせよ,胎児線量が100 mGy未満であれば妊娠中絶の
理由としてはならない113, 146).
妊娠のほぼ全期間を通して,100 mGy以上の被ばくでは胎芽・胎児に小児とほぼ同程度に癌誘発のリスクがあると想定されている.一方,100 mGyより少ない低線量被ばくによる発癌や遺伝的影響のリスクの有無に関しては,一致した見解が得られているわけではないが,少ない線量でも線量の増加とともに影響の発生率が上昇するという直線しきい値(linear non-threshold: LNT)モデルに基づき,防護の最適化を行う必要がある.【Q 3】 小児に対するCT検査
放射線感受性が高い小児に対するCT検査では,どのような配慮が必要ですか. A 正当化に関しては,原則として妊婦に対する検査と同様に,放射線を用いない超音波検査やMRI検査などで十分な情報が得られない場合にCT検査の施行を考慮すべきである.ただし,MRI検査のために鎮静が必要な場合には,鎮静に伴うリスクも加味する.先天性心疾患や小児期心疾患における検査の適応に関しては日本循環器学会のガイドラインが参考となる147, 148).
最適化に関しては,診断が可能な最小限の線量での検査を目指すべきであり(ALARAの原則,p. 11参照),低管電圧撮影や患者の体格に応じた細かい管電流値の設定,自動照射制御や逐次近似再構成処理などの技術を積極的に活用する147).なお,冠動脈を評価対象としない場合には,より被ばく線量の少ない心電図非同期撮影で十分な情報が得られることも少なくない.【Q 4】 逐次近似再構成処理での注意点
逐次近似再構成処理を用いることで被ばく線量低減が可能であると聞きました.同法を用いる際に注意すべき点はありますか. A 近年,各CT装置メーカーにおいて逐次近似再構成処理が臨床導入されている.患者被ばくを考慮し,CT撮影時に使用する放射線量を低下させた場合,従来の画像再構成法を用いるとノイズの増加による画質の劣化が生じる.そこで,逐次近似再構成処理を用い,その増えたノイズを低減することで,線量低下の際のノイズレベルの維持が可能である.一方で,逐次近似再構成処理が空間分解能やノイズの周波数特性に悪影響を及ぼす点に十分注意を払う必要がある149).
なお,CT値の標準偏差(ノイズレベルの評価),コントラスト/ノイズ比(低コントラスト分解能の評価),バーパターンの見え方やワイヤ法によるmodulation transfer function(MTF) (空間分解能の評価)など,画質の物理特性に関する従来の指標は,逐次近似再構成処理を用いた
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画像においては本来の特性を表していない危険性がある.したがって,逐次近似再構成処理を適用する場合には,診断に必要な画質が得られているかどうかを視覚評価により必ず確認するべきである.【Q 5】 CT検査とインターベンションの違い
通常のCT検査では放射線皮膚障害が生じないのに,血管撮影装置を用いたインターベンションの際には放射線皮膚障害が問題となることがあるのは,なぜですか. A CT装置ではX線管を患者の体軸を中心に回転させながら照射するため,X線の入射部位は分散している.一方,血管撮影装置ではX線管をある方向に固定した状態で照射を行うことが多く,照射されたX線の多くは特定の皮膚面から入射する.また,血管撮影装置ではCT装置と比較してX線管の電圧が低いため,X線の透過性が低く,入射皮膚面付近で相対的に多く吸収される.したがって,血管撮影装置では入射面の皮膚に限局して多くのX線が吸収されるため,放射線皮膚障害が生じうる.【Q 6】 実効線量による発癌リスク評価
実効線量をもとに患者の発癌リスクを評価するのは不適切であると聞きましたが,なぜですか. A ICRPは特定の個人の被ばくのリスクに関する後ろ向きの評価や人体被ばくの疫学評価のために,実効線量を用いるべきではないとしている24).そもそも,実効線量の計算に用いられている組織加重係数は作業者や一般人の集団における確率的影響を評価する目的で定められているが,実際には臓器・組織の放射線感受性は年齢や性別に依存する.したがって,性別や年齢がさまざまな患者の集団や個人にこの組織加重係数を適用することは不適切と考えられる.患者のリスク評価には,個々の臓器線量を算出し,患者の年齢と性別を加味した臓器ごとのリスク係数を適用する必要がある22).【Q 7】 繰り返す頻回のCT検査での注意点
冠動脈疾患の診断・治療や,胸部・腹部大動脈瘤の経過観察の手段として,CT検査を行うことが増えていますが,CT検査を繰り返し頻回に行う際にはどのようなことに注意すべきでしょうか. A CT検査を繰り返し頻回に行うと積算線量が増加するため,検査の間隔を含めて適応を十分に検討し,安心のための安易な検査は慎まなければならない.真に検査対象となる疾患によっては,経過観察時に撮影範囲,撮影回数(単純CT撮影やダイナミックスタディを行うかどうか),管電流量などを減らして線量低減を行っても,臨床的に必要な情報が十分に得られる可能性があることにも留意すべきである. 3 核医学検査
表21 SPECT 検査における被ばく線量低減のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
医療従事者被ばく線量低減の3 原則(時間・遮蔽・距離)を遵守する. I A患者アンガー型カメラでは99mTc 製剤を用いる150, 151). I B工学的改良を活用する(吸収補正,腹臥位撮像,ソフトウェア補正,半導体SPECT 装置)150). I B患者の体重に合わせて投与量を最適化する152). I C
3.1 SPECT検査
3.1.1 核種
SPECT検査に使用される核種には201Tl製剤(塩化タリウム:TlCl), 99mTc製剤(テトロホスミン,MIBI), 123I製剤(BMIPP,MIBG)があり,これらの使用による被ばく線量の計算はICRP Publicationに基づいて計算されている. 201Tl製剤の実効線量係数が,ICRP Publication 80 (1998年)では0.22 mSv/MBq,Publication 53 Addendum 5(2001年)では0.17 mSv/MBqと改訂ごとに低くなる傾向があるが,日本心臓核医学会(JSNC)ワーキンググループでは被ばく線量の計算においてPublication 106(2008年)およびPublication 128(2014年)に記載されている0.14 mSv/MBqを採用している150).
核種ごとの単位放射能あたりの実効線量係数については表22, 201Tl製剤, 99mTc製剤の年齢ごとの実効線量係数については表23, 123I製剤の実効線量係数については表24に示すとおりである150). 201Tl製剤と99mTc製剤のいずれによる被ばくについても,成人と比較して低年齢であるほど実効線量係数が増加する点に留意すべきである.
3.1.2 撮像装置
SPECT検査に使用される撮像装置には従来のアンガー
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型装置と,近年使用されている半導体装置がある.半導体装置ではガンマ線に対する感度がアンガー型装置よりも高いことから,低投与量でも通常のアンガー型装置と同等またはそれ以上の画質が得られる.したがってJSNCでは,特に201Tl製剤を使用する場合は半導体装置の使用を含む工学的改良の導入を強く推奨している150).
201Tlは99mTcに比べて半減期が約12倍であるため,単位放射能あたりの被ばく線量がおよそ15~18倍となる. 99mTc製剤の標準投与量を1110 MBqとした場合, 201Tl製剤で被ばくを同等に抑えるための投与量は70 MBq以下となり,通常のパラレルホールコリメータを使用したアンガー型装置ではカウントと画質が低下する.そのため, 99mTc製
剤の利用が推奨されるが,半導体装置では201Tl製剤を使用しても,後述するプロトコルの工夫により被ばく線量を抑えた撮像が可能である.
3.1.3検査プロトコルa. 201Tl製剤による負荷先行プロトコル
70歳以下では201Tl製剤による検査を避け99mTc製剤を使用することがINCAPS研究151)により推奨されているが,半導体装置では低放射能量の201Tl製剤を用いたプロトコルの一例として, 201Tl製剤1.0 MBq/kg(運動負荷),0.6 MBq/kg(アデノシン負荷)で,負荷10分,後期像20分収集を行い,十分な画質が得られている152).この投与量では運動負荷で体重64 kgまで,アデノシン負荷で体重107 kgまでは1検査あたり9 mSvの被ばくで検査を行うことができる.
70歳以下では201Tl製剤と99mTc製剤による2核種検査を避けることがINCAPS研究により推奨されているが,前述の被ばく線量低減の観点から,高齢者以外でアンガー型装
表22 核種ごとの単位放射能あたりの実効線量係数
201TlCl 99mTc- テトロホスミン99mTc-MIBI
運動安静運動安静
成人の実効線量係数(mSv/MBq) 0.14 0.0069 0.0080 0.0079 0.0090再分配あり静注時点での実投与量(MBq)投与あたりの被ばく量(mSv) 1検査あたりの被ばく量(mSv) 111 15.54 15.54 350 702 2.415 5.616 8.031 350 670 2.765 6.021 8.786再分配なし静注時点での実投与量(MBq)投与あたりの被ばく量(mSv) 1検査あたりの被ばく量(mSv) 418 660 2.884 5.28 8.164 366 660 2.891 5.940 8.831日本心臓核医学会ワーキンググループ報告による.99mTc製剤の投与量は,テトロホスミンでは296/740 MBq,MIBIでは259/740 MBqシリンジを使用し,9時の時点でテトロホスミンは350/1115 MBq,MIBIは350/1062 MBqに再分配したもの(上段)と,再分配せずに実測したもの(下段)を,それぞれ9時と13時に投与したと想定した実投与量の概算値を示す. (片渕哲朗ほか. 2019 150) より改変)
表23 201Tl 製剤,99mTc 製剤の年齢ごとの実効線量係数
成人15 歳10 歳5 歳1 歳
201TlCl 99mTc-テトロホスミン(運動) 99mTc-テトロホスミン(安静) 99mTc-MIBI(運動) 99mTc-MIBI(安静) 0.14 0.0069 0.0080 0.0079 0.0090 0.2 0.0088 0.01 0.01 0.012 0.56 0.013 0.015 0.016 0.018 0.79 0.021 0.024 0.023 0.028 1.3 0.039 0.046 0.045 0.053単位:mSv/MBq (片渕哲朗ほか. 2019 150) より)
表24 123 I 製剤の実効線量係数
123I BMIPP 123I MIBG
実効線量係数(mSv/MBq)投与量(MBq)投与あたり被ばく線量(mSv) 0.016 111 1.776 0.013 111 1.443 BMIPP: ICRP Pub. 128による.MIBG: ICRP Pub. 80による. (片渕哲朗ほか. 2019 150) より)
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置によるSPECT検査を実施する際にこの手法は推奨されないと考えられる.一方,半導体装置を用いた2核種同時収集のプロトコル153)において,安静時99mTc製剤150 MBq,負荷時201Tl製剤50 MBqを用いることにより,1検査あたり約8.2 mSvの被ばくで検査が可能である. b. 99mTc製剤を用いたプロトコル
わが国のDRL(DRLs 2015) 29)において99mTc製剤2回投与検査のDRLを1200 MBqとしており,この投与量を遵守して行うかぎり,安静先行,負荷先行のいずれのプロトコルでも実施可能である.また,半導体装置による14分間収集を用いた99mTc製剤1日法のプロトコルにおいて1 mSv以下の被ばく線量に抑えたとする報告もある154).
負荷検査のみを実施するstress-only imagingでは,負荷後に画像を確認し,明らかな心筋血流低下がないと判断した場合は安静時検査を省略する.負荷時の撮像後に画像読影を行って安静時撮像の省略の可否判断を要するため,運用上のハードルはあるが,負荷時の画像に異常がなければ安静時の撮像を行う特段の理由はない. 99mTc製剤による心筋血流SPECT検査では負荷時と安静時で1回ずつ核種を投与するため,特に1日法のプロトコルにおいて安静時撮像を省略できれば,被ばく線量を大幅に低減できる151).わが国ではstress-only imagingにより全症例の約2/3で安静時検査を省略できたとする報告155)があり,被ばく線量の低減に大きく寄与している.
負荷時の画像のみで確実に正常と判断するために,画質の確保と診断精度を高く保つ目的で負荷時の投与量を多くして運用することも考えられる.しかしJSNCでは,心臓核医学検査における被ばくは確率的影響の領域であり,集団の被ばくを低減することが第一義であるとし,個別の検査において負荷時の投与量がいくらか多くても問題にならないとしている.また,前述の理由から同学会ではstressonly imagingの実施を強く推奨している150).SPECT検査に先行して冠動脈CTなどの検査が実施されている複合的な画像診断(sequential imaging)の臨床シナリオでは,より積極的に考慮すべき検査法と考えられる.
3.1.4 被ばく線量低減のための工夫
a. 医療従事者
わが国では金谷らが,心臓核医学検査を担当する医師のアイソトープ静注時の被ばくについて, 99mTc製剤555 MBqで0.20 μSv,740 MBqで0.33 μSvと報告している84).また, 99mTc製剤1200 MBqを用いた短時間プロトコルの検討では,検査を主導する者と手伝う者に分けて検討を行い,前者で6.2 μSv,後者で2.5 μSvと報告している156).両者の被ばく線量に違いを生じる原因として,検査時の動線,担当作業の違いが考えられる.
職業被ばくにおいて,時間・遮蔽・距離の3原則により被ばく線量低減を図ることができるが,超音波検査(特に心エコー)を実施する医療従事者ではこれが困難である. 201Tl検査後の検討では患者腹部表面で約0.3 μSv/minと報告されており,密着して検査を行う心エコーの術者でもおおむね同等と考えられる157).JSNCでは0.25 mm鉛当量の防護衣によって, 99mTc製剤の場合で約40%超の被ばく線量低減が得られることから,必要に応じて防護衣を使用することが望ましいとしている150).また,核医学検査をオーダーする医師への啓発を通じて,心エコー検査を核医学検査と同日に実施することを可能なかぎり避けるか,同日に実施する場合には心エコーを核医学検査よりも先に実施するような配慮が望ましいと考えられる. b. 患者
INCAPS研究151)では患者の防護のために下記の8項目の「best practices」が提示されている.
1 201Tl製剤の利用を避ける
70歳以下では201Tl製剤による検査を避ける.前述の検査プロトコルに記載のとおり,アンガー型装置を使用した若年者と70歳以下を対象とする検査では99mTc製剤が推奨される.小児においては,将来の確率的および確定的影響が大きくなることから,特に99mTc製剤は201Tl製剤に比べて放射線被ばくが少ないこと,また乳幼児の小心臓においてより明瞭な画像が得られることから, 99mTc製剤の使用が推奨される.小児における心筋負荷安静プロトコルにおいて, 201Tl製剤は99mTc製剤に比べて約8~10倍の被ばく線量が見込まれる. 2 2核種の利用を避ける
アンガー型装置では201Tl製剤と99mTc製剤による2核種検査を避けることが望ましいとされる.わが国で行われている123I-BMIPPおよび123I-MIBGと201Tlの組み合わせによる2核種検査は,吟味された対象において検査を行うべきである.
3 99mTc製剤の使用量を適正化する
99mTc製剤の投与量を1332 MBq以下に抑え,実効線量を15 mSv以下に抑えるとしているが,「ALARAの原則」(p. 11参照)から適正な画質が得られる範囲で可能なかぎり少ない投与量が推奨される.わが国のDRL(DRLs 2015)では, 99mTc製剤2回投与検査のDRLを1200 MBqとしており,これを遵守することが推奨される.
4 201Tl製剤の使用量を適正化する
201Tl製剤の投与量を129.5 MBq以下に抑えることが推奨されている.わが国の「DRLs 2015」では201Tl心筋血流シンチグラフィがこの値を上回っていたが,今後大幅に値
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が下がると考えられる.少なくともアンガー型装置では201Tl製剤の使用は推奨されない. 5 stress-only imagingを利用する
前述のとおり,stress-only imagingでは安静時の撮像を省略できることがあるので,大幅な被ばく線量低減を期待できる. 6 技術的な手法を用いて線量を低減する
INCAPS研究では4つの技術的な手法が提示され,a) 吸収補正,b) 複数の姿勢(腹臥位など)で撮像,c) ソフトウェア補正,d) 工学的改良の4つのうち1つ以上を用いることを推奨している.
JSNCでは,以下の4つの技術的手法の利用を提示している.e) 収集時間を長くする,f) 工学的改良(半導体装置など),g) 複数の姿勢(腹臥位など)で撮像,h) ソフトウェア補正(開口補正など).このうち,eは最も一般的な技術的手法であるが,装置性能の向上により,投与量を低減しても収集時間の負担が少ない程度の時間の延長で画質を確保できるようになっている.fは感度を上げる方法であり,特に201Tl製剤を使用する場合は半導体装置による工学的改良の導入を強く推奨している. 7 体重に合わせて投与量を最適化する
わが国ではシリンジ製剤を利用していることが多く,投与量を個別に調整することが難しいが,被ばく線量低減の観点からは体重の重い被検者の場合と同量の製剤を体重の軽い被検者に投与する理由はない.JSNCでは体重50 kg以下では投与量を減量することを推奨している.また,小児についても日本核医学会が公表している投与量テーブルを利用することを推奨している150). 8 shine-throughを避けるように負荷・安静の投与量を調
整する「shine-through」とは,1回目の検査(負荷先行プロトコルでは負荷,安静先行プロトコルでは安静)で投与されたアイソトープのカウントが2回目の検査の画像に重なることによって,画像に影響を与えてしまう現象である. 99mTc製剤1日法の場合,2回目の投与量を1回目の3倍以上にすることを推奨している.シリンジ製剤を主に用いているわが国の場合,370 MBqと740 MBqのシリンジ製剤を9時に1:3に再配分したものを利用すると,実投与量はわずかながら減少し,画質改善だけでなく被ばく線量低減も達成できることから,shine-throughを避けるために投与量の比率を1:3以上に調整することが望ましいと考えられる. 3.2 PET検査
3.2.1 デリバリ製剤
現時点では18F-FDGのみがデリバリで供給されている.薬剤の添付文書に記載されている患者の臓器別の吸収線量を表25に示す82).
各臓器の吸収線量から求めた確率的影響の指標である実効線量を表26に示す81).成人に対し200 MBq投与の場合には実効線量は3.8 mSvとなる.実効線量と確率的影響(発癌など)との関連については「3.2.4被ばくの危険性と患者への説明」を参照されたい.「Japan DRLs 2020」に記載された18F-FDGのDRLを表27に示す30).この値は,多施設において成人の被検者に対し所定の条件の下で行われた検査で用いられた投与量の75パーセンタイルを示したものである.投与量がこの値よりも多い場合には,投与量が最も多い方から1/4の施設に含まれることになり,投与量の低減を考慮すべき目安となる.
表26に示したように,被検者の年齢に依存して実効線量が大きく異なり,PET/CT検査のCT撮影による被ばくも加わるため,小児・若年者に検査を行う場合には配慮が必要となる.日本核医学会の「小児核医学検査適正施行のコンセンサスガイドライン」の第1部「小児核医学検査の適正投与量」に記載されている放射性医薬品のクラス分類と,各クラスの体重別係数を基に計算した体重と標準的な投与量を表28に示す60).あくまでも小児における目安としての標準的な投与量であり,状況に応じて適宜増減を加える必要がある.日本核医学会の「全身PET撮像のための標準的
表25 18F-FDG の臓器別の吸収線量
臓器吸収線量(mGy/MBq)臓器吸収線量(mGy/MBq)副腎膀胱骨表面脳乳房胆嚢胃小腸大腸心臓腎肝肺0.012 0.13 0.011 0.038 0.0088 0.013 0.011 0.012 0.013 0.067 0.017 0.021 0.020筋肉食道卵巣膵臓赤色骨髄皮膚脾臓精巣胸腺甲状腺子宮その他0.010 0.012 0.014 0.013 0.011 0.0078 0.011 0.011 0.012 0.010 0.018 0.012実効線量係数0.019 mSv/MBq (ICRP. 2008 82) より作表)
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プロトコール」158)では標準投与放射能量を2.0~5.0 MBq/ kgとしており,3.7 MBq/kgの場合には体重30~70 kgの患者への投与量は111~259 MBqとなる.
デリバリで供給される製剤では,放射能量が固定されている場合には,減衰表(表29)
159)を利用して体重ごとの適
切な投与量となるように,検定時刻と投与時刻との間隔を調整する.一方で,多数の検定時刻を設定し,さまざまな放射能量を含有する製剤を供給(フレキシブルドーズ)している製薬会社もある.検定時刻が1日あたり15とおり,各検定時での放射能量が5とおりあり,同程度の投与量を設定する場合でも放射能量と検定時刻の組み合わせが多いので,注文する際に注意したい.
18F-FDGの添付文書には,妊婦,産婦,授乳婦などへの投与について以下のように記載されている159).「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には原則として投与しないこと.授乳中の婦人には,原則として投与しないことが望ましいが,診断上の有益性が被ばくによる不利益を上回ると判断される場合にのみ投与すること.なお,授乳婦に投
表27 心臓PET 検査用薬剤の診断参考レベル(DRL)
検査放射性薬剤DRL(MBq)心筋糖代謝デリバリ18F-FDG院内製剤18F-FDG
18F-FDG(体重あたりの投与量) 240 240 5
心筋血流院内製剤13N-NH3 520 (医療被ばく研究情報ネットワーク:J-RIME. 2020 30) より)
表28 小児の体幹部の検査における18F-FDG の体重別の標準的投与量
体重(kg)投与量(MBq)
3 6 10 20 30 40 50 26.0 30.8 48.8 87.5 123.5 159.5 192.8
(日本核医学会. 2019 60) より作表)表29 18F の放射能減衰
経過時間(分)残存放射能
(%)経過時間
(分)残存放射能
(%)
-110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10
0 10 200.3 188.0 176.5 165.7 155.6 146.0 137.1 128.7 120.9 113.5 106.5 100.0 93.9 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 88.1 82.7 77.7 72.9 68.5 64.3 60.3 56.7 53.2 49.9 46.9 44.0 41.3
( 18F-FDGの添付文書159) より)
表30 心臓PET 検査用サイクロトロン製剤の実効線量
検査放射性薬剤投与量(MBq)実効線量(mSv)心筋血流心筋血流13N-NH3 15O-H2O 550 2000 2 2 (UNSCEAR. 2000 161) より作表)
表26 18F-FDG の年齢ごとの実効線量係数
年齢実効線量係数(mSv/MBq)成人15歳10歳5歳1歳0.019 0.025 0.036 0.050 0.095
(ICRP. 1998 81) より作表)与した場合,24時間授乳を中止し投与後12時間は乳幼児
との密接な接触を避けるよう指導すること」.
PET/CT検査では放射性医薬品に起因する被ばく線量にCT撮影による被ばく線量が加わる.後者は装置により異なり,吸収補正条件では~2 mSv程度,融合画像条件では~12 mSv程度であるが160),技術の進歩とともにこれらの値は低下傾向にある.メーカーの協力を得て,自施設のPET/CT撮像条件での被ばく線量を知り,さらにその線量でのリスクを調べておくとよい.
3.2.2 院内製剤
18F-FDG院内製剤のDRL(表27) 30)や小児における投与量(表28) 60)もデリバリ製剤と同様である. 18F-FDG以外のサイクロトロン製剤の被ばく線量として, 13N-NH3を用いた心筋血流検査, 15O-H2Oを用いた心筋血流検査での実効線量を表30に示す161).実効線量と確率的影響との関連については「3.2.4被ばくの危険性と患者への説明」を参照されたい.
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3.2.3 被ばく線量低減のための工夫
a. 医療従事者
PET核種は単光子核種と比較して放出されるガンマ線のエネルギーが高いため,医療従事者の被ばく線量低減には十分に注意を払う必要がある.個人被ばく線量計の使用により被ばく線量を測定する.ガイドラインではPET検査による職業被ばくに関して,1年間につき5 mSv程度を目標値とした手順書やマニュアルを作成することが望ましいとされる85).今後, 18F-flurpiridazなどのデリバリ可能な新たな18F製剤が発売されることになれば,ダイナミック撮像を行うことが予想され, 13Nや15Oを用いた検査と同様に医療従事者の被ばくが増加する恐れがある.被ばく線量低減に向けた新たな指針の検討が必要と考えられる.
被ばく線量低減のための工夫として具体的に以下のようなことが挙げられる85, 160, 162). 1) 検査室内での患者の動線と,スタッフやPET検査以
外の目的で検査室にいる人たちの動線とが,可能なかぎり重ならないようにする.これは施設の設計段階から考慮する. 2) 説明などで患者と接触する際には可能なかぎりラジオ
アイソトープ(RI)投与前に行う.投与後の接触は必要最小限にする. 3) 移動困難,または移動に介助が必要な患者の場合には,
検査室スタッフ以外の人に介助をあらかじめ依頼しておくことにより,スタッフへの被ばくの集中を防ぐ. 4) 防護用衝立はPET専用のものを使用する.特に医師・
看護師ではPET用薬剤投与時に被ばくが多くなる傾向にある.その対策として,PET用薬剤自動投与装置の導入,抜針時間の短縮や防護板の利用,針廃棄箱の設置などが有効とされている. 5) RI投与前の点滴ルートの確保を確実に行う.投与中に
注射液漏れが生じると,点滴ルートの再確保などのためにスタッフが受ける被ばく線量が増加する.ラインの接続部のゆるみなどによる液漏れにも注意する. 6) 撮像室への呼び出しなどはPHSやインターフォンなど
を利用する. 7) 診療放射線技師は撮像時のポジショニングなどで被ば
く線量が多くなる傾向にあるため,ポジショニングなどの時間を可能なかぎり短縮する,検査寝台操作は操作室で行うなどの対策をとることが望ましい.撮像室の監視は監視窓では限界があるため,監視装置を設置するのがよい. 8) 特定の医療スタッフに被ばくが集中しないように,業
務のローテーションを考慮する. 9) 検査が終了して所定の時間後に待機室から出てきた患
者から医療スタッフが受ける被ばく線量は少ないが,患者送迎用の車やバスの運転手などのように接する患者の数が多いスタッフについては,被ばく線量低減のための配慮が必要となる.多数の18F-FDG検査を行う施設では,案内,受付,会計,送迎などの業務従事者と患者に適切な指導,措置を行い,モニタリングなどによりその有効性を確認する. 10) 通常市販の自動投与装置を用いて投与されるデリバリ
製剤とは異なり,サイクロトロン製造核種を用いた検査では施設ごとに固有の投与方式やプロトコルがあるため,医療スタッフの被ばく線量低減について十分な配慮が必要となる.特に自動投与装置を使用せず手動で投与を行う場合に, 15Oや13Nでは18Fと比較して半減期がきわめて短いため,投与前の準備段階において実際の投与量よりもかなり多い放射能量を取り扱う必要があり,被ばくに注意を要する.放出ガンマ線のエネルギーが高いため,遮蔽による被ばく線量の低減効果には限界があり,距離と時間(特に後者)において工夫が求められる.経験の少ないスタッフが行う場合には,コールドランによる投与動作や立ち位置などのシミュレーションを念入りに行うことで慣れておき,実際の検査でスムーズな動作ができるようにしておく.薬剤製造にかかわるスタッフの被ばくについては本ガイドラインでは割愛する. b. 患者,患者家族,介護者
18F-FDGを用いた検査において放射線業務従事者は,患者やその家族・介護者,それ以外の周囲の者,一般公衆の被ばくを軽減するため,以下の方策を考慮する85, 160, 162). 1) 患者には薬剤投与前後に積極的な飲水を促す.ただし
心不全や腎不全の患者などではこの限りではない.撮像前と管理区域から退出する前に排尿を指導する. 2) 18F-FDG投与後1半減期(2時間を目安とする)以内は,
患者は管理区域内の周囲から遮蔽された待機室で待機し,公衆を含む周囲の人への被ばくを抑える. 3) 18F-FDG投与後は,放射線に影響を受けやすい妊娠中
の女性や10歳未満の小児との接触時間を短くし,また距離を取ることを指導する.前述のごとく,デリバリ製剤の添付文書には,「授乳婦に投与した場合,24時間授乳を中止し投与後12時間は乳幼児との密接な接触を避けるよう指導すること」と書かれている. 4) 患者の周囲に長時間いる者については,必要に応じて
個人被ばく線量計を用いたモニタリングを行う. 18F-FDG以外のサイクロトロン製造核種を用いた検査での被ばく線量低減の工夫は,基本的にはデリバリ製剤のそ
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れに準じるが,核種の物理学的半減期が短いため,医療従事者を除けば患者周囲の者への被ばくが問題となることは少ない.
3.2.4 被ばくの危険性と患者への説明
a. 患者
被ばくのリスク(影響)には確定的影響(組織反応)と確率的影響(発癌,遺伝的影響)がある.PET検査の核種では半減期が短く,検査で用いられる投与量ではしきい値以下であるため,前者の影響は通常問題とならない.
考慮する必要があるのは確率的影響で,問題となるのは発癌や癌による死亡の危険性である.確率的影響で線量の増加に伴って上昇するのは,症状の重症度ではなく発生確率である.PET検査のレベルでの低線量被ばくにおいても,発癌の危険性はきわめて低いが0ではない.
ICRP Publication 103(2007年勧告)には,1 Svの被ばくにより確率的影響と関連する生涯死亡率が約5%上昇すると記載されている22).これ以下の低線量の被ばくのリスクを正確に求めることは困難で,便宜上,リスクと実効線量との間にしきい値のない直線的な関係があると仮定して見積もると,10 mSvの被ばくであれば0.05%の死亡率の上昇に相当する.しかしながら,被ばく線量が低下するにしたがって放射線障害に対する修復機序が良好にはたらくため,実際のリスクはこの直線近似よりも低いと考えられている.安全管理の上ではリスクを高めに厳しく見積もって直線近似としている.
患者や家族への検査の説明の際に必ずしも上記の詳細に言及する必要はないが,説明を行う者が上記の点を理解したうえで,検査により得られる利益が放射線被ばくによるリスクを上回っていることへの理解が得られるような説明を行う必要がある. b. 患者の家族,介護者
核医学検査では患者自身が線源となって周囲の人を被ばくさせる.被ばく線量は線源からの距離の2乗に反比例するため,患者と周囲の人との間に距離を置くことが重要となり,インフォームドコンセントの際にも言及しておきたい.放射線感受性が高い乳児や幼児が近距離で患者と接する際には注意が必要で,具体的には授乳や抱っこなどが相当する.前述のごとく, 18F-FDGの添付文書には「授乳婦に投与した場合,24時間授乳を中止し投与後12時間は乳幼児との密接な接触を避けるよう指導すること」と記載されている159). 3.3 Q&A
【Q 8】 心筋血流シンチグラフィと同日または翌日の心
臓カテーテル検査心筋バイアビリティの評価のため201Tl製剤や99mTc製剤を使用し,投与日やその翌日に心臓カテーテル検査を行う場合,患者の血液,カテーテル器具の放射性医薬品による汚染はどのように考えるべきでしょうか. A 核医学検査で患者に投与する放射性医薬品は少量なので,一般的には投与した日,またはその翌日に心臓カテーテル検査を実施しても,術者やその他のスタッフの被ばくに問題はない.ただし, 201Tlと99mTcの半減期はそれぞれ約73時間,6時間なので,検査には99mTc製剤が推奨される.
患者の血液にはごくわずかであっても,放射性医薬品が残っているため,心臓カテーテル検査に使用した注射針やカテーテルなどは汚染されている可能性がある.また,放射性医薬品は尿中に多く排泄されるため,患者の尿は血液以上に取り扱いに注意しなければならない.核医学検査を実施した患者の蓄尿バッグや使用済みのオムツも,カテーテルや注射針と同様の扱いをする必要がある.オムツなどの回収期間の目安は, 201Tl製剤は7日間, 99mTc製剤は投与日である163).一定期間の保管後,放射能汚染の程度が測定器で検出されないレベルであることを確認し,感染性廃棄物として廃棄する.
4 心臓と胸腹部・頚部血管の インターベンション
表31 心臓と胸腹部・頚部血管のカテーテルインターベン
ションにおける被ばく線量低減のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
医療従事者および患者外部被ばく線量低減の3 原則(時間・遮蔽・距離)を遵守する164). I A撮影のフレームレートを可能なかぎり15 f/s 以下とする19, 164). I B医療従事者防護板と放射線防護衣を使用する106, 165, 166). I B
p.43
水晶体被ばく線量低減のために防護眼鏡を着用する167, 168). I B個人線量計を用いた被ばく線量モニタリングを徹底する19, 164). I B頚部の個人線量測定値が4 mSv 以上/月の従事者はネックガードの着用を考慮する169–171). IIa B
4.1 被ばく線量低減のための工夫
4.1.1 増加する被ばくと皮膚障害
過去20年の間に心血管疾患領域においては,カテーテル検査・治療などに代表されるX線透視撮影が画像診断技術として大きく進歩し,広く用いられるようになった.この革新により心血管疾患の診断・治療能力は大幅に向上
しているが,その反面で患者の放射線被ばくの機会を増やす結果となった.循環器疾患でのX線装置を用いる画像検査においては,医療従事者は患者被ばくが生じることを肝に銘じて検査・治療の予定を組むべきと考える.
カテーテルインターベンションにおける医療被ばくで最も問題になるのは皮膚障害であることを常に意識することが重要で,その皮膚線量は透視時間とパルスレート,撮影フレームレートや撮影時間に大きく左右される.また,カテーテル検査・治療の内容と患者の体格により放射線量は大きく異なるため,手技ごとの皮膚吸収線量(表32,33)を熟知しておくことも重要である172–178).
透視装置の進歩によって画像をより鮮明に視認できるようになったため,心血管疾患におけるカテーテルインターベンションはより複雑な手技で行えるようになった.しか
表32 各種インターベンションにおける患者の皮膚吸収線量
手 技患者皮膚吸収線量(Gy)文献
頭頚部血管病変の塞栓術脳動静脈奇形:(中央値)3.74脳動脈瘤:(中央値)3.78腫瘍:(中央値)3.77 Miller DL, et al. 2003 172)肝細胞癌に対する動脈塞栓術従来装置:1.07±0.44 FPD装置:0.28±0.13 Suzuki S, et al. 2005 173)肝動注カテーテル留置術0.89±0.87鈴木滋ほか. 2005 174)胆道ドレナージ(中央値)1.16 Miller DL, et al. 2003 172)下大静脈フィルター留置術(中央値)0.22消化管出血に対するIVR (中央値)2.77子宮動脈塞栓術(中央値)2.75経皮的冠動脈インターベンション2.2±2.2 Suzuki S, et al. 2006 175)胸部ステントグラフト内挿術0.87±0.41芳賀喜裕ほか. 2015 176)腹部ステントグラフト内挿術1.11±0.57経カテーテル大動脈弁留置術経大腿動脈:0.53±0.26経心尖部:0.33±0.13 Saurenn LD, et al. 2011 177)
表33 各種インターベンションにおける術者の被ばく線量
手 技術者被ばく線量(μSv)文献
頭頚部血管病変の塞栓術眉間:170±120左手:150±180防護衣外側胸部:90±70鈴木滋ほか. 2004 178)肝細胞癌に対する動脈塞栓術防護衣外側胸部:64.5±23.2 Suzuki S, et al. 2005 173)
経皮的冠動脈インターベンション眉間:290±420左手:860±2450防護衣外側胸部:380±920鈴木滋ほか. 2004 178)
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しながら,放射線外部被ばく線量低減においては,「時間(照射時間を短くする)」,「遮蔽(放射線を可能なかぎり遮蔽する)」,「距離(線源から十分に離れる)」の3原則を常に意識し,徹底することが求められる164).
4.1.2 医療従事者
医療従事者の被ばくが患者のそれと異なるのは,患者は放射線医療機器による検査・治療により直接的な健康上の利益を受けることが期待できるのに対し,医療従事者の場合は放射線業務中の被ばくが健康に対して不利益になる可能性しかないことである.しかしながら,すべての医療従事者には医療行為を行うという社会的責務がある以上は,最大限の被ばく線量低減の工夫を凝らしながらその責務を果たす必要がある.以下に防護の具体的方法を提示する. 1 被ばく線量を把握する.
放射線防護衣の内側(男性は胸部,女性は腹部)に1個,放射線防護衣の外側に不均等被ばく用として,体幹部で放射線を最も多く受けるおそれのある部位(IVRでは頭頚部左側)に1個,合計2個の個人線量計を装着する19). 2 コート式の放射線防護衣を着用する.
エプロン式(体幹の後面が空いているもの)の防護衣ではコート式のものに比べ,患者に背中を向けて作業をする際に背面の被ばく量が増加する.背側を0.25 mm鉛当量の防護衣でカバーした場合,背側の組織吸収線量を半分程度に低減させることができることから,コート式を用いるべきである.また,放射線防護衣の鉛当量規格は0.25 mmと0.35 mmの2種あるが,数値が上がるほど放射線遮蔽能力が高くなる一方で,重くなるため術者の身体的な負担が大きくなる.0.25 mmと0.35 mmとで放射線遮蔽能力に大きな差はないので,術者の負担が少ない0.25 mmの軽いものを選択することにより,腰痛軽減などの対策が可能であ
る165). 3 甲状腺の被ばく線量低減のために必ずネックガードを
着用する.
0.25 mm鉛当量のシート製ネックガードは,防護衣と同様
に約90%の遮蔽効果がある.甲状腺保護のためネックガードをエプロン式放射線防護衣と併用することで,放射線防護衣のみよりも実効線量を50%低減することが可能となる169).甲状腺被ばくによる発癌リスクは被ばく時の年齢に大きく依存し,男性では30歳以上,女性では40歳以上ではリスクはきわめて小さいとされている170).したがって,全員が行うべきということではないが,ネックガード未使用で1ヵ月間の襟付近の個人モニター測定値が4 mSv以上の術者は,ネックガードによる甲状腺防護が必要である171). 4 水晶体の被ばく線量低減のため防護眼鏡を使用する.
0.07 mm鉛当量の比較的薄い防護眼鏡でも,約60%の
防護効果がある.白内障の原因となる水晶体への被ばく線量低減に適切な防護眼鏡としては,顔面に密着し,側面もしっかり遮蔽されるものを使用すべきである167, 168). 5 透視・撮影時に可能なかぎり患者から離れる. 6 可動性の含鉛アクリル板(防護板),鉛カーテンを積極
的に使用する.術者被ばくのほとんどが患者からの散乱線によるものであり,防護板(アクリル板)をできるかぎり防護対象(術者)に近づけて患者と術者の間に設置することで,散乱線による術者の被ばくを減らすことが可能である.特にcranial viewやcaudal viewでは,防護板の位置を調整しないと散乱線による術者の被ばくが多くなるので,注意が必要である(図22).また放射線防護衣着用だけでは防護しえない下方からの散乱線による生殖腺などの被ばくを防ぐために
図22 防護板の位置による放射線量の違い
防護板の位置が不適切な例線量率 0.77 mSv/h (防護板を可能なかぎり術者と患者の両方に近づけるべき)防護板の位置が適切な例線量率0.45 mSv/h
p.45
も,鉛カーテンラバーシールドをカテーテルテーブルに垂らすように取り付けるとよい106, 166). 7 照射野にできるだけ手指を入れないように工夫する.
4.1.3 患者
患者の被ばく線量の低減を徹底するための具体的方法を挙げる. 1 不必要な透視・撮影を行わない. 2 撮影フレームレートを下げ,撮影時間を短くする. 3 可能なかぎりパルスレートを下げる. 4 付加フィルタを使用する.
PCIなどの手技で使用される連続X線中に含まれるエネルギーの低い光子は画像形成に関与せず,患者の皮膚に吸収されて患者の被ばく線量増大の原因となるが,付加フィルタを使用すれば低エネルギー光子の大部分をカットできる.通常,付加フィルタは透視装置に装着されていることが多いが,古い機種は未装着のこともあるので,各施設で確認する必要がある179). 5 X線管から患者を可能なかぎり離す.
X線管から患者を離すと,X線管焦点とX線受像器の距離が広がるためX線の出力は増大するが,患者の皮膚に到達する前に減衰するので,皮膚線量は低下する.カテーテルテーブルが低い位置にあるとX線管と患者との距離が短
く,被ばく線量が多くなるので165),検査・治療の手技に影響のない範囲でカテーテルテーブルを高くして,X線管から患者を離す. 6 X線受像器を患者に可能なかぎり近づける.
患者からX線受像器(イメージインテンシファイア〔I.I.〕,フラットパネルディテクター〔FPD〕)を離すとX線管からX線受像器までの距離が大きくなる.この状況では,X線透視装置は均一の画像を得るためにX線照射量を多くするよう自動調整するので,患者の被ばく線量が多くなる.したがって,X線受像器を可能なかぎり患者に近づける.前述の5と連動した操作であり,患者とX線管との距離はできるだけ大きく,患者とX線受像器の距離はできるだけ小さくするように心がける165). 7 拡大透視・撮影は必要最小限にとどめる.
透視・撮影視野を拡大すると照射される線量が増加するため,患者の被ばく線量は多くなる.出力蛍光面の明るさが入力蛍光面のサイズに依存するI.I.では,入力視野を小さくすると出力画像が光量不足となるため,入射線量を上げて出力画像の明るさを保つ必要があった(図23).一方,近年使用が増加しているFPD装置では,I.I.のような収束電極による輝度の増幅をしないため,視野を拡大しても出力画
図23 心血管インターベンションにおける拡大透視・撮影と被ばく線量(イメージインテンシファイア:I.I.)
患者が受ける線量・術者が受ける線量は I.I. サイズ 7 インチの線量を 1 として比較した.
1.0 線量単位
X 線管X 線管
I.I. サイズ 7 インチ患者への線量
1.0 線量単位≪1.3 線量単位0.7 線量単位
I.I. サイズ 5 インチ
I.I. I.I.
p.46
像の明るさは維持される.しかし,そのままではノイズが目立つ画像になるため,視野の拡大に応じて入力線量を増やし,ノイズ劣化を防止するように制御されている(図24).手技内容によっては拡大視野がPCIを安全に施行するために必須の機能であるが,皮膚障害防止のためにも必要最小限にとどめるべきである180). 8 同一方向での長時間の透視・撮影を避ける.
X線透視装置の機能として,均一な画像を得るためにX線受像器に入射する線量が一定になるように制御されている.このため,左前斜位像では患者の右背部から脊柱・縦隔を通して心臓を観察することになり,多くの線量が照射される.左前斜位でさらにcranialやcaudalへ透視装置を動かすと,X線が通過する体の厚さが増すため,さらに線量が増える.したがって,長時間の左前斜位 cranial viewや左前斜位 caudal viewが必要な症例では,パルスレートを下げるなどの工夫をすべきである32). 9 必要な照射野での透視・撮影とする.
図25は照射野を全開にした場合と70%に絞った場合の比較である.照射野を絞ることにより,単位面積あたりの線量は変わらないものの,皮膚障害を起こす可能性のある照射面積を小さくすることが可能である19, 181). 4.2 被ばくの危険性と患者への説明
人体に対する放射線の影響は,身体的影響としての急性障害および晩発性障害と,生殖腺細胞被ばくによる遺伝的影響とに分けられる(p. 13の図2).また被ばく線量とともに障害の程度(重症度)が増大する「確定的影響(組織反応)」と,被ばく線量に障害の発生率が比例する「確率的影響」とに区別される(図3,4).
一般的に,皮膚・水晶体・造血器などへの影響は「確定的影響」であり,しきい値を超えないように放射線被ばくを制御することにより予防できる.体幹部におけるインターベンションでは前述のように皮膚障害が最も懸念されるが,頭頚部においては白内障や脱毛といった別の危険性が生じうるため,インターベンションの対象部位に応じた術前のインフォームドコンセントが必要となる.
臨床的に関連のある障害をもたらす可能性があり,医学的経過観察が必要な注意喚起レベルの放射線量を「実体放射線量レベル(substantial radiation dose level: SRDL)」といい,現在提案されているSRDLとして患者の皮膚線量3 Gyが挙げられる165).このSRDLを超えると早期の皮膚障
図24 心血管インターベンションにおける拡大透視・撮影と被ばく線量(フラットパネルディテクタ:FPD)
患者が受ける線量・術者が受ける線量は FPD サイズ 7.5 インチの線量を 1 として比較した.
1.0 線量単位
X 線管
FPD FPD
X 線管
FPD サイズ 7.5 インチ患者への線量
1.0 線量単位≪1.3 線量単位0.7 線量単位
FPD サイズ 4.5 インチ
p.47
害を認める可能性が高いため,患者には2~4週間後に放射線入射部位の皮膚を観察するように伝えるべきである182).
ICRP Publication 118(2012年)では水晶体被ばくによる白内障発症のしきい線量を5 Gyから0.5 Gyへと引き下げる勧告がなされ,水晶体被ばく防護の最適化を強調している26).職業被ばくについて定められた,5年間の平均で20 mSv/年,かつ,いずれの1年においても50 mSvを超えないとする水晶体等価線量限度についても,明記された.
これらに対し,発癌・遺伝的影響などは確率的影響であるため,予防のためのしきい線量は存在しない.リスクを容認できる範囲内で放射線量を制御することが必要となる.
4.3 新しいインターベンション治療における 問題点
近年,多くの施設でハイブリッド手術室が普及してきている.カテーテル血管内治療と外科的治療の同時施行が可能であり,循環器領域では大動脈ステントグラフト内挿術,経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)などで使用されている.
一般的に血管撮影用Cアームは天井走行式と床置き式がある.天井走行式Cアームは,天井にCアームを移動させ
るレールが存在するため,設置できるシーリングアームの場所に制限がある.また,手術室では室内の清浄度を保つためhigh efficiency particulate air(HEPA)フィルタを天井面に設置する必要があり,レールとの干渉具合を加味してその設置位置を検討しなければならない.さらに,手術室では無影灯が必須となるため,場所の制限と無影灯の優先とにより,天吊りの防護板を適正な位置に設置できない施設が多いと思われる.
加えて,ハイブリッド手術では術者の立ち位置がさまざまであり,天吊り防護板では全ての位置をカバーしきれないことがありうる.手術用寝台も製品の仕様上,下方からの散乱線による被ばく防護のための鉛カーテンラバーシールドをテーブルから垂らすことができないことが多い.この場合,自立式の床置き防護板で対処することが重要である.床置き防護板ではケーブル類も全て装置内や床下に収納することにより,天井面をフリーにできる.これにより, HEPAフィルタやシーリングアームを配置する位置を柔軟に選べるので,天吊りの防護板を適正な位置に設置できることが多い.自施設にハイブリッド手術室がある場合は,その特性を十分に理解して放射線防護に努める必要がある.
図25 心血管インターベンションにおける放射線照射野の絞りと被ばく線量
単位面積あたりの入射線量は変わらない
1.0 線量単位
X 線管X 線管
FPD FPD
0.75 線量単位0.75 線量単位
術者が受ける線量は照射野全開の線量を 1 として比較した(FPD サイズ 7.5 インチ).
照射野全開照射野制限
可動絞り器
p.48
4.4 小児に対する配慮
心エコー法,CT,MRIなど非侵襲的検査法の進歩に伴い,以前のようなルーチンの診断検査法としての心臓カテーテル検査は施行されなくなってきた183).しかし,重症の先天性心疾患を有する小児は,早ければ新生児期より心臓カテーテル検査やインターベンション治療を受けることになる.近年では治療機器の進歩により,従来は外科的手術により根治可能であった先天性心疾患に対してもインターベンション治療が行われるようになった.心血管造影手技全体の約7%は0~15歳の小児に行われていると推定される161).
小児における放射線の確率的影響の感受性は成人の約2 ~3倍と高く21).さらに実効線量とKAPの関係は年齢によって大きく変わり,同じKAP値でも実効線量に約10倍の差が生じる184).小児は潜在的予測寿命が成人より長いので,放射線関連後遺症を発症しうる時間がより長い.小児では,透視ガイド下インターベンション手技1回あたりの致死的癌発症の確率は約0.07~0.08%と推定されているが,このリスクは患者の年齢,基本的な平均余命,手技の実施方法によって大きく異なる可能性がある185, 186).
最も広範に実施されている手技はバルーン弁形成術,心房中隔欠損・卵円孔開存または動脈管開存に対する閉鎖術,肺動脈狭窄・大動脈狭窄に対する人工弁留置術,および電気生理学的検査である187).診断カテーテル検査に比べカテーテル治療は透視時間が長く,シネ撮影回数も多いので,被ばく線量が多くなる188).したがって,「ALARAの原則」(p. 11参照)に基づいた防護の最適化を図ることがきわめて重要である189).
被ばく線量低減の方策は成人に対するものと同様であるが,体格の小さい小児では被写体からの散乱線発生が少ないため,8歳まで,または体重20 kg未満では散乱線除去グリッドを外して手技を行うことで,被ばく線量を低減できる189–192).小児のカテーテル検査・治療はバイプレーン装置にて行うことが推奨されており193),側面像への上肢の投影を回避するために上肢を挙上させて行う.自然肢位で肘が側面画面内に映り込むため,上肢をしっかり挙上させる必要があるが,長時間に及ぶ上肢挙上は末梢神経障害をきたす場合があるので注意する194).
小児は体格が小さいため穿刺部位と撮影部位が近く,術者がX線管に近い位置で手技を行う場面が多い.また全身麻酔と鎮静下にて行われるため,術者だけでなく麻酔医を含めたスタッフに対する被ばくについても,吊り下げ式防護板,防護スカート,防護衝立,防護眼鏡などで防護措置を徹底しなければならない104). 4.5 Q&A
【Q 9 】 医療従事者の線量限度
インターベンション治療従事者は被ばく線量が多く,放射線障害が心配です.年間どのくらいの治療に携わった場合に健康に影響がでますか. A 現行のX線装置の完成度は高く,装置からの漏洩はほとんど考えなくてよい.術者の被ばくに寄与するのは主に患者からの散乱線であり,術者の被ばく線量を低減するには散乱線を制御することが重要となる.換言すれば,患者の被ばく線量低減が術者の被ばく線量低減につながる.
PCIは高線量率のX線透視を長時間行うため,患者の近傍で作業するPCI術者の被ばく線量は,他の放射線業務従事者に比べて高く,眼の水晶体の白内障が起きた事例が報告されている.ICRP publication 118(2012年)を受けてわが国でも医療従事者の実効線量限度は2021年4月から,水晶体について5年合計で100 mSv,かつ50 mSv/年,皮膚は500 mSv/年と変更される.法令では,心カテーテル検査などに従事する放射線業務従事者は,第2章の「3. 医療従事者における線量限度」で示した線量限度を超えて被ばくしないように管理しなければならない.
そのためには防護衣や防護眼鏡などの防護用具を用いて被ばく線量低減を図るとともに,ガラスバッジ® などの個人線量計を着用し,線量限度を超えないように管理された環境下で作業することが重要である104–106).【Q 10】 防護衣の種類による防護効果の違い
放射線業務従事者の放射線障害の予防手段としての防護衣には,鉛当量の違いと,コート型,エプロン型,セパレート型がありますが,被ばく線量低減効果にどのような違いがありますか. A 防護衣は防護能力が高いほどよいが,一般的に防護能力の高いものは重い.重い防護衣を着用すると,診療行為に対する集中力の低下や腰痛の原因になることもある.
現在JISでは鉛当量が0.25 mm,0.35 mm,0.50 mmのシートを防護衣の材質として規定している.一般的に鉛当量の大きなものほど防護能力は高くなるが,それに伴ってより重くなる.防護衣の遮蔽材の厚さと遮蔽能力を実際に計測したところ0.25 mm鉛当量で十分な遮蔽能力が得られており,0.25 mmと0.35 mmとで遮蔽能力に有意差はない104, 106, 196).したがって術者は,重い素材で全身を包むのではなく,0.25 mm程度の比較的軽いものを使用し,その他の防護用具を併用することが推奨される.
患者に対して背中を向けないようにすれば,背側から入射するX線量はさほど大きくはないので,重量も大きく作
p.49
業性も低下するコート型の防護衣で身体を覆うよりは,軽量のエプロン型防護衣を着用して,術中に患者に背中を向けないように注意すればよい.また,エプロン型はその重量が主に肩にかかるのに対し,セパレート型は肩と腰に重量が分散するため,術者の疲労が少なく作業性に優れる104–106, 197).【Q 11】 PCIを受ける患者の被ばく線量
PCI時の患者の被ばく線量を低減するにはどうすればいいですか. A 被ばく線量低減の原則を十分に理解している必要がある.すなわちPCI施行時に使用するX線など,体外にある線源からの線量低減の3原則は,1時間(照射時間を短くする:time),2遮蔽(放射線を遮蔽する:shield),3距離(線源から離れる:distance)である.各項目について検討して,それぞれの施設で可能なことから実施し,患者の受ける線量の低減に努めることが推奨される.また,合計透視時間や撮影フレーム数が同じでも,患者の体格,X線管の位置,X線の照射部位,入射角度,照射野に上腕がある,透視モードなど,さまざまな要因によって患者の最大皮膚吸収線量が大きく異なることにも留意する必要がある19, 181, 198).【Q 12】 PCIの反復試行と被ばくの影響の蓄積
多枝病変や再狭窄を繰り返す病変に対しPCIを反復して施行する場合に,被ばくの影響は蓄積されるのでしょうか.蓄積されるのであれば,どれくらいの間隔を空ければよいでしょうか.また,放射線累積照射量が多くなってきた患者において,再造影検査などの検査の間隔を長くすることにより将来皮膚障害が生じにくくなる,ということはないのでしょうか. A 同じ線量であっても,一度に被ばくした場合と分割して被ばくした場合とではリスクが異なる.一般的には分割して照射した方が,細胞の修復機能が発揮されやすいので,健康への影響のリスクが小さいと考えられる.また,細胞の種類により放射線損傷の修復機能は異なり,癌細胞よりも正常細胞は修復機能に優れると考えられるので,放射線治療では一般に分割照射が行われる.これは線量率効果を利用したものである.近年では細胞を用いた実験で線量率効果を定量的に評価する試みもある.
しかし,PCIにおいて照射の間隔を空けることによる放射線影響の低減効果は,必ずしも明確ではない.したがって,患者が放射線により受ける影響は,確定的影響(組織反応)と確率的影響の2種類に分けて考え,患者の病状に応じた診療計画を策定する必要がある. 1) 確定的影響
PCIにおける放射線の影響については,確定的影響である放射線皮膚障害の防止が最も重要である.すなわち,
PCI頻回施行症例では放射線皮膚障害のリスクを可能な範囲で低減する必要がある.
われわれは放射線治療でのデータを基に(ICRP Publication 141〔2019年〕),湿性皮膚炎を生じるしきい線量の分割照射による変化を検討したところ,照射面積の減少,分割回数の増大に従って,湿性皮膚炎を生じる線量が大きくなった.ヒトの皮膚では,10 cm 2の面積に紅斑を生じるX線のしきい線量は,1回短時間被ばくの場合には6~8 Gy,多数回分割照射で30 Gy以上となる.一方,放射線生物学的な修復過程の時間スケールとしては1000~10000秒(約16~160分)とされているので,それ以上に間隔を空けてもリスク低減効果は小さいと推察される.すなわち,同じ線量でも,分割照射したほうが,また照射範囲が狭いほど,皮膚への影響は起こりにくい.
放射線皮膚障害の重篤化を避けるという観点からは,術後に十分に観察期間をとって対応を準備しておくことも有用である.被ばく線量が多かった手技の後は,可能であれば症状が出現する可能性のある期間,次回の手技を控えるべきである.いずれにしても,照射野を小さくする方が放射線皮膚障害のリスクの低減効果は相対的に大きい.また,照射された皮膚の範囲を把握しておくと,次回に照射する場合に放射線皮膚障害のリスクを小さくできる.放射線を照射する皮膚の領域を変えれば,少なくとも累積線量が大きく増加することはない. 2) 確率的影響
累積された被ばく線量の健康リスクは必ずしも明らかではない.ただし,線量が累積されても,そのリスクは治療を行わなかった場合の冠動脈疾患のリスクに比べるとはるかに小さいと考えられる.したがって,患者の年齢が低いなどの特別な事情がなければ,確率的影響のリスク制御の意義は相対的には小さく,照射間隔のみにこだわることに明確な利益はないと考えられる199, 200).【Q 13】 PCI時のインフォームドコンセント
患者が安心してカテーテル検査・治療を受けられるようにするために,放射線障害についてどのように説明するべきでしょうか. A PCIは手技の時間が長くなると放射線皮膚障害が発生する可能性があり,それに関する十分な説明が必須である.インフォームドコンセントのマニュアルなどを作成し,施設における説明内容を統一しておくことが大切である.放射線の影響の説明では,専門用語と数値を羅列するのではなく,患者は何に不安を抱いているのかを理解し,安心できるような説明を心掛ける.具体的には次のような内容を説明するとよい.
p.50
1) 放射線皮膚障害を起こす放射線量にはしきい値(放射
線を受けた人の1%に影響が現れる放射線量)がある. 2) 経過によっては皮膚入射線量がしきい値を超えること
もあるが,その場合は治療継続について了解を得るようにしている. 3) 装置を管理し,常に最適な線量で検査を実施している. 4) 照射条件をモニターするなどして皮膚入射線量の把握
に努めている. 5) 放射線皮膚障害が生じた場合の対応方法が策定され
ている.なお,このような説明は緊急検査時においても不可欠である180, 201).【Q 14】 しきい線量に近づいたときの判断
複雑病変でPCI手技時間が長くなり,皮膚障害のしきい線量に近づいた時,手技を継続するかどうかの決定はどのように行えばよいでしょうか. A 早期一過性紅斑のしきい線量は2 Gyである.単位時間あたりの被ばく線量には施設,撮影条件(患者の体格,撮影角度,フレームレートなど)により大きな差があるため,各施設で2 Gyに相当する透視・撮影時間および装置に表示されるAK値(Gy)の目安を定めておく必要がある.透視・撮影時間および装置に表示されるAK値の累計が目安の数値に達する可能性が高いことが判明した時点で,手技の続行・中止を決定する.待期的か緊急かを問わず,基本的には患者の利益を優先するが,その時点で患者と家族の意思を再度確認することが望ましい.
しきい線量に達する可能性が高いと判断しても手技を継続する場合は,さらにいっそう被ばく線量の軽減に努める.透視のパルスレートや撮影のフレームレートを下げる,透視・撮影角度を変えて患者の皮膚照射野を異なる位置に移動する,などの工夫も考えられる.【Q 15】 放射線安全管理者の任務
治療後に,患者の被ばく線量が皮膚障害のしきい線量を超えた可能性があることがわかった場合,どのように対処すればよいでしょうか. A 2020年4月1日から,医療法により設置が義務づけられた放射線安全管理責任者は,検査・治療の担当医に予測される線量と皮膚障害の程度を伝え,以下のとおりその後の対応を依頼する. 1) 患者とその家族から再度インフォームドコンセントを
得る. 2) 患者皮膚吸収線量報告書を作成して関係者に報告し,
経過観察の資料とする. 3) 検査直後の初期障害として一過性の紅斑を認めたら,
照射部位の観察を検査担当医が自ら行うように指示する.場合によっては病棟担当医,看護師に指示する.
4) 予測される皮膚障害の程度によっては,皮膚科医に照
射部位と被ばく線量,予測される皮膚障害の程度を伝え,協力を要請する.皮膚吸収線量報告書と併せて,検査状況報告書(検査記録)や放射線皮膚障害に関する参考文献も添えることが望ましい. 5) 皮膚障害のしきい値を超える線量が照射されたことを
記録する.なお,短期間に繰り返し施行したPCIでは,しきい値より低い線量で皮膚障害を来すことがあるため,照射部位と線量を把握して記録に残し,過剰な照射の防止に努める.
患者への対応としては,放射線皮膚障害が発生する可能性のある部位を教え,施設における放射線皮膚障害に対する対応方針を説明し,以下のように伝える. 1) 被ばく線量がしきい線量に達した可能性があるが,診
断・治療は必要不可欠なものであった. 2) 経過観察のため定期的な受診が必要である. 3) 放射線を照射された局所を掻かないようにし,入浴時
は刺激の強い入浴剤や石鹸の使用を避け,医師から処方された薬以外のものを塗布しないこと. 4) 放射線による影響は遅れて出現することもあるため,
皮膚の症状に変化があれば受診すること.これらの内容を含めて施設におけるマニュアルを作成し,準備しておくことが望まれる180, 201).【Q 16】 寛解した急性皮膚炎への治療の必要性
放射線障害が軽微な急性皮膚炎ですみやかに寛解した場合,その後の外来診療で何らかの投薬や皮膚科受診が必要でしょうか. A 自然に消失した早期の軽微な皮膚障害は,早期一過性紅斑(しきい線量2 Gy)または,主紅斑(しきい線量6 Gy)と考えられる.主紅斑の場合には治癒後に色素沈着(または色素脱失)が残ることが多い.色素沈着が残らずに治癒した場合には,後に晩発性の皮膚障害を発症する可能性はきわめて小さいので,経過観察も特に必要ない.
一方,皮疹は治癒したものの,その部位に何らかの色調異常が残った場合には,当初は軽微な変化でも,後になって晩発性の皮膚障害を発症する可能性を否定できないため,皮膚科医師による定期的な経過観察が必要である.受診の頻度と期間は3ヵ月に1回,1年間程度が望ましい.ただし,色素異常が残った場合でも,それ以上の変化がなければ観察のみで治療は特に必要はない180).
p.51
5 四肢・末梢の血管内治療
表34 末梢血管の血管内治療における被ばく線量低減のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
医療従事者および患者透視時間を可能なかぎり短くし,適切な透視パルスレート,画像フレームレートを選択する(冠動脈治療と同一の装置を使用する場合,末梢血管に適切な設定に変更する)202, 203). I B患者をX 線管から可能なかぎり離し,X線受像器(フラットパネルディテクターなど)を可能なかぎり患者に近づけて,照射野を適切に絞る202, 203). I B体表面エコー法,血管内超音波法の併用を考慮してもよい204). IIb C医療従事者術者と放射線照射野が可能なかぎり離れるように穿刺部位を選択する202. 203). I B適切な防護デバイス(防護衣,防護眼鏡など)を使用する202, 203). I B術者の手が照射野に近づいたり映り込んだりすることを避ける202, 203). I B造影剤注入にオートインジェクター(自動分注投与装置)を使用し,撮影(とくにdigital subtraction angiography)時,医療スタッフは可能なかぎり照射部位から離れることを考慮する202, 203). IIa B
5.1 被ばく線量低減のための工夫
社会の高齢化と食生活の欧米化が進む中で,わが国における末梢動脈疾患の罹患率は上昇している.一方,昨今の急速な治療技術・機器の進歩に伴い,血管内治療(EVT)の適応が拡大している205).従来は血管外科医・放射線科医によって治療されることが多かった分野であるが,冠動脈疾患の合併率の高さやEVT適応の拡大などにより,昨今とくにわが国において循環器内科医が診療・治療にあたることが増加している.循環器内科医の多くは冠動脈インターベンション(PCI)には精通しているが,末梢動脈疾患のEVTに関する経験値は個人間・施設間で格差が大きい.効果的な被ばくリスク低減のために,EVT特有の被ばくリスクに関する知識の習得が必須である202, 203).
5.1.1 撮影方法
EVTで頻用されるdigital subtraction angiography(DSA)は,骨をはじめとする血管撮影に不要な画像要素をデジタル的に除去して,血管の情報だけを表示することにより,血管の情報をより鮮明に収集する.造影剤投与量を低減できる撮影方法であるが,被ばく線量が通常のdigital angiography(DA)と比較して高い.必要最小限の撮影に留める,可能であれば造影剤注入にオートインジェクター(自動分注投与装置)を使用して術者,助手,スタッフはいったん退室する,などの基本を徹底するべきである. PCIで用いられる小さなFPDでは,撮影範囲が狭く,結果として撮影回数が多くなることを念頭に起き,撮影方法を選択する必要がある.
5.1.2 アプローチ部位
EVTで用いる透視線量はPCIと比較するとやや低い傾向にあり206),一般的に被ばくリスクも低い可能性があるが,アプローチ部位によっては照射部位と術者や助手の距離が近くなることも多く,PCI施行時とは違った被ばく線量低減の工夫が必要となる.
下肢動脈の治療において,対側の大腿動脈からのクロスオーバー(山越え)アプローチは一般的に行われる手技であるが,右大腿穿刺→左下肢治療と左大腿穿刺→右下肢治療では,術者とFPDの位置関係が大きく異なる.右大腿穿刺から左下肢の治療を行う場合はX線管が術者から遠ざかることになるので,術者の被ばくリスクが高まることはないが,左大腿を穿刺し右下肢の治療を行うとX線管は術者側に近づくことになり,被ばくリスクは高くなる.左大腿穿刺→右下肢治療で術者への直接線照射を避けるには,FPDを抱え込むような形で手技を行わなければならない場合もあり,被ばくリスク管理の観点からは避けるべきである.代替手段として同側大腿動脈を順行性に穿刺して治療を行うことが望ましい.治療戦略決定時に被ばくリスクを考慮に入れて穿刺部位を選択すべきである.
また,逆行性アプローチなどを用いる複雑な治療手技では照射時間と線量が増加する207).さらに,穿刺箇所と術者(の手)が非常に近接する(場合によっては直接線の照射を避けられない)ため,順行性アプローチのみで成功できる場合と比較して被ばくリスクは高い.昨今,X線管近くで手技を行う術者の被ばくとの関連が疑われる健康被害の報告もあり208),直接線被ばくの可能なかぎりの回避,X線管との適切な距離設定,ゴーグルやグローブの着用,天吊り式防護板の有効利用,適切な透視パルスレート・画像
p.52
フレームレートの選択,照射野の絞りの適用,また不必要な撮影の回避と透視収集機能による代用などが重要である209).
わが国を中心に行われている,体表面エコーや血管内超音波を用いてのワイヤ操作を行うことが,患者・医療従事者双方の被ばく線量低減につながる可能性はあるが,エコーガイドの有無による被ばく線量の違いを検討した良質な臨床研究は少ない.エコーガイドのみでは十分な手技成功率が得られない可能性もあり,今後の検証が期待される204).
5.1.3 その他の一般的注意
前述のように,EVTにおける患者の放射線被ばくリスクはPCIと比較すると低い可能性があるが,昨今のEVTの適応拡大に伴い,複雑病変に対するEVTの機会も増加し,被ばくリスクが上昇する可能性がある.被ばくリスク低減の観点から,低侵襲であるというEVTの利点を活かすためにも,不必要に長時間の手技は避けるべきである.複雑かつ長時間の手技が予想される場合,あるいは手技時間が予想以上に長くなった場合は,治療戦略の再考や,より専門性の高い施設での治療なども視野に入れて,患者利益を最大限にすることが必要である.
医療従事者,特に術者の被ばくリスクに関しては,前述のように,撮影方法によって被ばくリスクが異なること,アプローチ部位と治療部位の組み合わせによりPCIとは異なる被ばくリスクがあることを理解する必要がある.EVTに適切な被ばくリスク低減のため,次のような取り組みが必要である. 1) 適切な透視パルスレート,画像フレームレートを選択
する(冠動脈造影/PCIと同様の設定で手技を行わない) 202, 203). 2) 治療戦略上可能であれば,穿刺部位(術者の立ち位置)
と治療部位が離れるような穿刺部位を選択する202, 203). 3) 特にDSA撮影においては,撮影のための造影剤注入
にはオートインジェクターを用いて,術者・助手は可能なかぎり照射部位から離れる. EVTは昨今,急速に発展し,適応拡大されてきた分野であり,PCIなどの分野と比較すると,各撮影方法の被ばくリスクに関する基礎データの蓄積が乏しい.今後の各施設,各団体におけるデータの蓄積,評価が望まれる.
5.2 Q&A
【Q 17】 血管内治療での被ばくリスクの注意点
EVTにおける医療従事者の被ばくリスクで,PCIの場合と異なる点,注意するべき点を教えてください.
A EVTはPCIと比較して透視線量は低いが,撮影方法,アプローチ部位と治療部位の関係によって術者の被ばくリスクが大きく異なることを知る必要がある.例えば,DA撮影と比較してDSA撮影は高線量であるため,術者・医療スタッフは退室しての撮影(造影剤注入にはオートインジェクターを使用する)が望ましい.また,治療戦略選択時にも,可能なかぎり術者とX線管の距離を取れるアプローチを選択する202, 203).手技中も不必要な拡大透視や,放射線照射野に術者の手が写り込むことは避けるべきである202, 203).【Q 18】 エコーガイド下での手技による被ばくリスク
体表面エコーや血管内超音波のガイド下での手技により,EVTでの被ばくリスクを低減できますか. A 大腿膝窩動脈の治療に関しては,体表面エコーガイド下で手技を行うことにより,透視時間を短縮し,被ばくリスクを低減できる可能性があるが,それを検討した良いデザインの研究はない.エコーガイドのみでの手技では良質な画像を描出できず,十分な手技成功率が得られなかったという報告もあるため204),症例に応じた選択が必要である.また,透視を併用する場合,エコー法施行者の手が照射野に映り込むことは絶対に避けなければならない.
血管内超音波併用についても,透視時間に関する質の高い研究はなく,血管内超音波を併用すると細かい部分にこだわるあまり逆に手技時間・透視時間が長くなる可能性もあるので,状況に応じた使用が望ましい.
6 電気生理学的検査とカテーテル アブレーション
表35 電気生理学的検査,カテーテルアブレーションにおける被ばく線量低減のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
医療従事者カテーテルアブレーション中に3 次元マッピングシステムを用いる210, 211). I Aアブレーション中のフレームレート,パルスレートは可能なかぎり低くする210, 211). I A患者皮膚の被ばく線量を3 Gy 以下にとどめる210). I B
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6.1 電気生理学的検査・治療と被ばく
近年,心房細動に対するカテーテルアブレーションが急激に増加している.特により複雑な不整脈に対するアブレーションが増加し,手技時間が長くなり,複数回の手技を要する症例も経験される.また,正確な3次元情報を得るために術前に造影心臓CTやFPDを回転させながら撮影する回転血管造影も施行されている.これらにおいて患者の被ばくを認識することが重要である.
電気生理学的検査・治療では主に透視が使用され,撮影はほとんど行われない.また,ガイドワイヤよりもX線透過性の低い電極カテーテルを使用するため,透視のパルスレートを低下させて検査を行うことが可能である.これらのことは,PCIと比較すると防護上有利な要素であるが,カテーテルアブレーションでは放射線の照射角を固定させて透視を使用する可能性が高く,その場合は同じ部位に連続的に照射が行われる.とくに左前斜位で長時間照射が行われた場合には右肩甲骨下,右上肢に集中的に被ばくする可能性がある.
X線照射条件決定に関与しない照射野周辺に患者の上腕が入った場合も,X線管と皮膚間の距離が腕の太さ分だけ短くなり,皮膚入射面での線量が多くなる.さらに,腕がX線受像器中心部に入ると,腕の分だけX線照射条件が高くなるとともにX線管・皮膚間距離が短くなるため,照射野内にある上腕皮膚が受ける線量はきわめて高くなる.したがって,X線入射角度を変えたり,上腕を体幹部から離すなど,可能なかぎり上腕が照射野から外れるようにする必要がある.
不整脈治療においては心臓内の部位を正確に知るため,またカテーテルと心筋の接触の強さや接触方向などを知るために,透視が用いられることが多い.透視を最小限に抑えながらこれらの情報を得るために,3次元マッピングシステムが開発された.実際に3次元マッピングシステムの進歩により,透視の使用頻度は格段に低くなっている. 6.2 被ばく線量
電気生理学的検査,カテーテルアブレーション,デバイス植込み手技に伴う放射線被ばく線量には,報告により大きなばらつきがあるが,一般に中隔穿刺を行い左房へのアプローチを要する心房細動や,広範囲なマッピングを要する心室頻拍などでは,線量が多くなる傾向にある.心外膜穿刺を要するアブレーション手技も,穿刺や通電前の冠動脈造影を要するほか,穿刺針の確認のため頻回の透視を要する.2014年の欧州の報告による,主な不整脈カテーテル検査・治療手技における被ばく線量を表36に示す211, 212).
報告による線量のばらつきには,患者要因(体格・解剖など),使用機器,術者の経験などが関与するが,特に術者の被ばくに関する認識は重要な因子である.経験を積んだ医師が最適な透視設定で手技を行えば被ばく線量は少ない.術者・看護師・放射線技師・臨床工学技士といった,手技に関わるすべてのスタッフが被ばく線量低減に向けた意識をもつことが重要で,周知のためのレクチャーや,症例ごとの線量の報告と情報共有213, 214)が重要である.
6.3 3次元マッピングシステム
3次元マッピングシステムは1990年代に欧米で使用され始め,2000年にわが国に導入された.同時期に始まった心房細動に対するカテーテル治療にも早期から積極的に使用され215),治療成績や安全性の向上に大きく寄与している.
複数カテーテルの表示 最初に導入されたCARTO ® Unixはアブレーションカテーテルのみが表示可能であったが,EnSite ®システムは2006年当初からアブレーションカテーテルのみならずリングカテーテルなど診断カテーテルも表示が可能であり,透視下で行う肺静脈隔離・線状焼灼に比較して手技時間,透視時間が短いうえに,より高い成功率が得られることが報告された215, 216).カテーテルで心筋に接触してその3次元情報を記録することにより,正確
表36 不整脈のカテーテル検査・治療における患者の放射線量
放射線量(mSv)中央値(最小値~最大値)右前斜位での皮膚入射線量(mGy)平均値(最小値~最大値)左前斜位での皮膚入射線量(mGy)平均値(最小値~最大値)
電気生理学的検査3.2(1.3~23.9)アブレーション心房細動上室頻拍心室頻拍15.2(1.6~59.6) 16.6(6.6~59.6) 4.4(1.6~25) 12.5(3~≧45) 262(14~2049) 147(28~536) 129(38~271) 568(24~2599) 277(6~1104) 229(31~688) (Heidbuchel H, et al. 2014 211) および Seguchi S, et al. 2016 212) より作表)
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な解剖を再構築することが可能である.心筋壁までのカテーテルの距離,カテーテルの安定性,診断カテーテルとの位置関係などが非透視下に3次元マップ上で視認できるので,透視の使用頻度を抑えることができる.
CT/MRI画像との統合 2008年頃より,術前に撮影したCTまたはMRI画像を3次元マッピングシステムのソフトウェアで3次元再構築し,術中に作成するマップと統合することが可能となり,より正確なマッピングが可能となった(CARTO XP,EnSite Version 8).これらのシステムにより,治療成績の向上,透視時間の軽減などの効果が報告された217, 218).また,MRI画像との統合よりもさらに透視時間を短縮できることが報告されている219).
心腔内エコー画像の表示 心腔内エコーシステムは汎用性の高い機器で,とくに心房細動のアブレーションでは心房中隔穿刺を行うこともあるため,使用頻度は高い.術前に画像撮影ができない場合でも,術中に心腔内エコーを用いて心筋をトレースすることにより描出した画像を3次元マップと統合するシステム(CARTO Sound)も開発された.CARTO Soundシステムでは,術中にエコーで描出した動脈弁,冠動脈,乳頭筋などの解剖情報のみならず,エコー輝度を用いて瘢痕化した心筋を描出することが可能である.それらを3次元マップと統合可能で,心房細動だけでなく心室頻拍アブレーションなどでも,被ばくを増やさずに得られる情報として有用である220).
多極電極によるマッピング 当初の3次元マッピングシステムではアブレーションカテーテル先端の双極電極でのみマッピングが可能であったが,2000年代後半からは多極電極でのマッピングが可能となり,短時間でより詳細なマッピングが可能となっている.2016年からは新たにボストンサイエンティフィック社の超高密度マッピングシステム(Rhythmia ®)がわが国にも導入されている.カテーテルの形状がバスケット型であり,安全性の高いマッピングが短時間に可能であるが,被ばく線量低減への寄与についてはまだ明らかではない.
コンタクトフォースの搭載 2010年代に入り,アブレーションカテーテル先端でコンタクトフォース(接触の強さ)をリアルタイムに計測,表示可能となった.操作感覚だけでなく,非透視下にも正確にカテーテルの位置,接触の強さ,安定性を視認できるようになり,大幅な被ばく線量低減,透視時間短縮が得られたことが報告されている221–223).
このように3次元マッピングシステムの進歩は,治療効果と安全性を高めるとともに,被ばく線量低減に寄与してきた(表37).単施設で12年間に心房細動アブレーションを行った約1900例の検討では,初期の2004~2006年には平均透視時間61分,線量1365 mGyであったが,2013~ 2015年の2年間ではそれぞれ17分,304 mGyにまで減少
し,さらにコンタクトフォースカテーテルを使用した症例では11分,200 mGyであったと報告されている223).現在, 3次元マッピングシステムに表示可能なシースも使用可能となり,さらなる被ばく線量低減が期待される.
6.4 カテーテルナビゲーションシステム
カテーテル操作を補助するため3次元マッピングシステムと併用するナビゲーションシステムも開発され,被ばく線量低減に寄与している.
6.4.1 リモート磁気ナビゲーションシステム
微弱な磁場を形成する特殊なシステム内で磁気センサー付きカテーテルを使用することにより,ジョイスティックを用いてカテーテルを別室など遠隔操作するシステム(Niobe ® ES)である224).術者は3次元マッピングシステム(CARTO RMT)上でカテーテルを視認しながら遠隔操作するため,術中の被ばくを回避でき,またカテーテル先端が非常に柔らかいので透視の使用は限定的である.本システムは特に特殊な解剖を有する症例(先天性心疾患術後,高度の胸郭異常など)でのアブレーションにおいて,従来のシステムと比較し被ばく線量低減を期待できる225).また近年のメタ解析は,本システムを用いた心房細動アブレーションにおいて透視時間が有意に減少したと報告している226).
6.4.2 非透視カテーテルナビゲーションシステム
センサーを内蔵した専用カテーテルやガイドワイヤ先端が,保存した透視画像上に表示されるシステム(MediGuide ®)である.前胸部に貼付した生体リファレンスパッチにより心電図と呼吸に同期して保存されている透視画像が再生されるため,透視下でカテーテルやガイドワイヤを操作するのと同様の感覚が得られる.心房細動をは
表37 不整脈のカテーテル治療における3 次元マッピングシステムの進歩
2000 国内最初の3次元マッピングシステムの販売開始
複数カテーテル表示(EnSite® NavX,CARTO® 3) 2005
2010 2015 多極電極によるマッピング
コンタクトフォース搭載アブレーションカテーテル
CT/MRI画像と統合心腔内エコー画像表示(CARTO Soundモジュール)
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じめ,上室頻拍,流出路心室期外収縮などのアブレーションにおいて,本システムの使用による被ばく線量低減が報告されている.本システムを用いた,前向き登録の心房細動アブレーションの1000例では,透視時間0.9分,線量345.1 cGy・cm 2と報告されている227).
専用ガイドワイヤは主に心室再同期療法の際の冠静脈洞リード挿入時に使用され,低線量の透視設定との併用で, 95%もの被ばく線量低減効果が報告されている228).また,アブレーションに際しても,心房中隔穿刺時に専用ガイドワイヤをBrockenbrough針に内挿して先端に留置すると,非透視下に針先端を視認しながら操作できるので,低被ばく線量での中隔穿刺が可能と報告されている229).あるいは心外膜穿刺の際に硬膜外穿刺針先端に内挿し,あらかじめ保存した冠動脈造影画像上で針先端を視認するといった工夫により,低被ばく線量での手技が可能である230).
6.4.3 透視画像と3次元マッピングの統合
類似のシステムとして,透視画像と3次元マッピングを統合するCARTO Univuがある.頻用する方向(左右前斜位など)の透視や,冠動脈,マッピングするチャンバーの造影を保存すると,3次元マップをその画像上に統合できるシステムである231).ただし,決められた角度でしか表示されないため,前述のナビゲーションシステムの代用とはならない.しかしながら,非透視カテーテルナビゲーションシステムやリモート磁気ナビゲーションシステムは,高額かつカテーテル室設計レベルからの整備が必要であり,保有する施設が限定されるが,CARTO Univuは従来のマッピングシステムに追加可能なモジュールであり,汎用性は高いと考えられる.
ここまで述べた3次元マッピングシステム,カテーテルナビゲーションシステムはフローに精通した術者が使用することにより,被ばく線量低減に大きく寄与する.近年は上に述べたシステムを使用して「透視ゼロ」のアブレーションが可能とする報告もあり232, 233),特に小児や妊婦といった対象では,その利点が大きいと考えられる.しかしながら,穿刺やワイヤ操作を含む手技のどの局面においても,透視が必要となる可能性はある.ゼロ透視に固執するあまり,必要な確認を避けて患者をリスクにさらすことは慎むべきである.
6.5 特に注意を要する病態・疾患
複雑心奇形に伴う小児・成人先天性心疾患患者では,乳幼児期より繰り返しカテーテル検査を含む放射線被ばくを伴う画像検査を受けていることが少なくない.アブレーションに際して,通常と異なる心臓の解剖のため,頻回の
透視を要することも多い.解剖を術前に十分把握しておくことが必要である.またカテーテルナビゲーションシステムの使用は,被ばく線量低減とカテーテル操作の観点から,特に複雑奇形では有用性が高い.
また,最も症例数の多い心房細動アブレーションでは,多くの施設で術前に心臓CT検査を行い,肺静脈形態,左心耳血栓,心外膜脂肪などの評価を行っている.3次元マッピングシステムへの統合が可能となったことが術中被ばく線量低減に寄与している一方,良好なCT画像の取得に必要な心電図同期の撮影により線量は増加する234).
心房細動の再発,心房頻拍・心房粗動などの出現により複数回のアブレーションを要することは少なくなく,反復する手技・術前検査による被ばく線量増加が懸念される.術前検査をCTからMRIへ切り替えることは一つの対策となりうる.
6.6 被ばく線量低減のための工夫
6.6.1 一般的注意点
カテーテル治療においては,最近の3次元マッピングの進歩により,心臓の解剖が正確に把握できるようになったこと,カテーテルと心筋との接触の強さを判断できるようになったことから,透視時間が最小限に抑えられるようになった.電極カテーテルは透視のパルス数,撮影のフレーム数を最小限に抑えても問題はない.
被ばく線量低減の3原則は時間・遮蔽・距離である.照射時間の短縮が最も効果が高いので,無駄な照射を極力避けて透視時間を最短にし,不要な撮影は回避すること.
散乱線の線量は線源からの距離の2乗に反比例して減衰するため,照射野から可能なかぎり距離をとることが必要である.また,直接線は散乱線よりも著明に線量が高いため,照射野に手指が入らないようにする.医療従事者の被ばくは主に患者からの散乱線によるものである.X線管側の散乱線の発生が多く,側面X線管を用いる際にはX線管は術者の反対側にあることが望ましい.患者の被ばく線量低減は術者の被ばく線量低減にもつながることを自覚する.不整脈治療においては左前斜位を用いて角度を固定するため,一定部位への被ばくが多い.また,心房・心室中隔を正面視するための極端な角度は線量増加につながるので,避ける必要がある.
心房細動のアブレーションの際,食道温度計を用いることも多く,コメディカルがその操作を行うことがある.透視下での操作は防護板のない状況であり,操作中は術者も
p.56
透視を控えるといった注意が必要である.術中,患者と近距離で作業をする看護師に対しても,声がけをしながら不要な被ばくを避ける.また術者の手元の被ばくは軽視できず,散乱線防護のためにX線防護シールド(RADPAD ®)の使用も考慮すべきであろう.ビスマスとアンチモンの混合素材であり,アブレーション,デバイス植込みなどにおける放射線減衰率は60%以上と報告され,術者のみならず在室している者への散乱線も減衰するので,有用である235).
患者側の被ばくに関しては,特に心房細動アブレーションで術前に撮影されるMDCT(多列検出器CT)による被ばくも軽視できない.術前,術後にルーチンで撮影することは避けるべきであろう.
6.6.2 透視装置の設定
透視ではパルスレートを低くすること,撮影ではフレームレートを画質に問題がない範囲で下げることが必要である.最近ではフレームレートを3 f/sから1 f/sに下げることが多い.透視時間を最短化し,X線管からの距離を長くするためにカテーテルテーブルを高くし,FPDやイメージインテンシファイア(I.I.)を患者に近づける.3次元マッピングシステムを用いてマップ上でのカテーテル操作に慣れるようにする.不要な撮影は避けることが重要であるが,危険回避のためには透視の使用を躊躇しないことも大切である.
不要な視野拡大は患者が受ける線量を増加させるので,皮膚障害防止のためにも視野は必要最小限に留める.照射野を絞っても患者が受ける単位面積あたりの線量は変わらないが,不要な部位への照射を避けるうえで重要である.照射野を絞ることにより,角度を変えて透視・撮影した際に重複する領域を小さくできるので,皮膚障害回避のうえでも有用である.照射野を絞ると術者の被ばく線量は減少する.放射線技師が積極的に絞りを調整することも重要である.
シールドに関しては,ガラス防護板とテーブル下のシールドカーテンとの間に隙間が生じないように,必要に応じてフラップを用いるなどしてオーバーラップさせることが重要である(図26).
6.6.3 防護キャビンの使用
心房細動治療など長時間被ばくすることがあるアブレーション手技が一般的となるにつれ,術者の被ばく線量低減を目的とした放射線防護キャビンが開発された(図27).厚さ2 mmの鉛ガラスで作られた3つの面をもつ箱型をしており,術者はその箱の内部から腕を通し,手技を行うものである.使用され始めた初期の頃から,アブレーション236),
デバイス植込み237)のいずれにおいても,防護服と同等かそれ以上の放射線防護効果が報告され,特に全身がカバーされる点で優れている.
6.7 患者への説明
放射線による皮膚障害に関する説明では,患者の不安のみを無駄に増やさないように心がける.放射線皮膚障害を起こす放射線量にはしきい値があること,経過によってしきい値を超える線量に達することがあるが,その場合は治療の継続の有無に関する了解を取るようにしていること,また装置を管理し,常に適切な線量で検査を実施していること,放射線皮膚障害が生じた場合の対応方法が策定されていること,などを説明する.統一したフォーマットを用いて一貫した説明を行うことが重要である.
図26 不整脈のカテーテル治療におけるガラス防護板と
シールドカーテンフラップで隙間をふさぐ.ガラス防護板
フラップ
シールドカーテン
図27 カテーテル治療のための放射線防護キャビン(センチュリーメディカル株式会社 提供)
正面ガラス部
腕出し入れ部
正面ボディ部
掛け部上面・側面ガラス部
側面ボディ部
キャスター
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6.8 小児に対するカテーテルアブレーション
小児に対して行われるカテーテルアブレーションの件数が増えてきている.小児は成人と比較して放射線感受性が高いものの,被写体厚が薄いため単位時間あたりの線量(線量率)は低い.低レートパルス透視は患者の被ばく線量低減に有用で,小児では心拍数が多いため使用されていない施設もあるが,実際に利用して確認することが重要である.また,グリッドを外す手法も有用である.グリッドは被写体からの散乱線を除去して画質を維持するための機器で,FPDやI.I.の前面に装着されている.FPDやI.I.を被写体から10~20 cm離すことにより散乱線を除去することができる.FPDやI.I.を用いると成人では画像が拡大して目的部位が視野に収まらないことがあるが,小児は目的部位も小さいため問題ない.
6.9 Q&A
【Q 19】 カテーテルアブレーションでの被ばくの特徴
カテーテルアブレーションにおける放射線被ばくにはどのような特徴がありますか. A 電気生理学的検査やカテーテルアブレーションでは撮影が行われることはまれで,透視がほとんどである.また, PCIで用いられるガイドワイヤよりもX線等価性が低い電極カテーテルやガイドワイヤを使用することが多いため,パルスレートを低下させても十分見ることが可能である. PCIと比較して透視の照射角が一定であることが多く,特に左前斜位での照射が用いられることが多い.以前は右肩甲骨,右上腕に対する被ばくが多かったが,最近の3次元マッピングシステムの進歩により被ばくは著明に軽減されている.
7 デバイス植込み
表38 不整脈に対するデバイス植込みにおける医療従事者と患者の被ばく線量低減のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベル
デバイス植込み時には可能なかぎりパルスレートを低くする211). I Aポータブル装置はアンダーチューブにて使用する211). I A
デバイス植込みに際しては可能なかぎり据置型装置を使用する211, 238). I B
7.1 被ばく線量低減のための工夫
患者の被ばく軽減は術者の医療被ばく軽減にも役立つ.デバイス植込みに際しては臨床工学技士,看護師などコメディカルも入室していることが多いため,X線管や患者付近にコメディカルがいないことを確認して透視を用いる.
7.2 患者への説明
デバイス植込みに伴う被ばく線量は一般的にきわめて低いが,冠静脈洞へのリード留置を要する両心室ペースメーカ/除細動器(CRT-P/CRT-D)植込みは被ばく線量が多くなることがある.術式に伴う合併症の説明,放射線による皮膚障害に関する説明をあらかじめ行い,患者の不安のみを無駄に増さないように心がける.放射線皮膚障害を起こす放射線量にはしきい値があること,経過によってしきい値を超える線量に達することがあるが,その場合は治療の継続の有無に関する了解を取るようにしていること,また装置を管理し,常に適切な線量で検査を実施していること,放射線皮膚障害が生じた場合の対応方法が策定されていること,などを説明する.統一したフォーマットを用いて一貫した説明を行うことが重要である.2014年の欧州の報告による主な不整脈デバイス治療手技における被ばく線量を表39に示す211).
7.3 被ばく線量増加の主な要因
冠静脈洞にリードを挿入する心臓再同期療法(CRT)では,通常のデバイス(シングル,またはデュアルチャンバーのペースメーカ,または植込み型除細動器〔ICD〕)に比較して解剖学的により難しい部位へのリード留置が行われ
表39 不整脈のデバイス治療における患者の放射線量
放射線量(mSv)中央値(最小値~最大値)
VVI/DDDペースメーカ,ICD植込みCRT-P/CRT-D植込み4(1.4~17) 22(2.0~16) (Heidbuchel H, et al. 2014 211) より作表)
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る.留置部位の検討のために冠静脈洞の造影(特にシネモード)を行うので,通常のデバイス植込みよりも被ばく線量が多い239).また,CRTでは左前斜位が多く用いられるため放射線量が多いこと,さらには通常左側植込みであるため,術者の頭部が散乱線に多くさらされることに注意が必要である.
右前斜位より左前斜位のほうがX線管焦点と患者の皮膚面が近くなるので,同じ時間X線を照射しても,左前斜位では右前斜位に比べて患者への入射線量が約2倍になる.また,X線入射方向が右前斜位の場合には,患者の左背部から肺を通して心臓を観察することになるが,左前斜位では患者の右背部から脊柱や縦隔を通して心臓を観察することになる.肺は空気が多く含まれており容易にX線が透過するが,脊柱や縦隔は密度が高いため透過しにくく,多くの線量を必要とする.このため,左前斜位で長時間の透視・撮影を行った患者の右傍脊椎領域において被ばく線量が高くなり,皮膚障害部位が多くなる239).
デバイス植込み,特にCRTではCアームよりもカテーテル室の透視が用いられることが多い.テーブル下の散乱線防止カーテン(シールドカーテン)は通常患者の右側に設置されているため,左側の植込みの際に移動させることを忘れてはならない.また,X線防護シールド(RADPAD ®)はデバイス植込みでも80%以上の被ばく線量低減が可能であったと報告されている238). 7.4 手術室でのCアーム使用
ポータブル型Cアーム装置は出力が小さいため,透視・撮影の画質では据置型装置に及ばない.据置型と同様にパルスレートを落とすことにより被ばく線量を低減できるが,連続透視に比較してX線管の熱上昇が高いため,常時の使用は難しい.ズームアップにより皮膚入射線量率が上昇するため,過度の視野拡大を避けることも必要である.また,ポータブル装置では患者と術者の上半身への被ばく線量を抑えるために,ベッドの下(アンダーチューブ)にての使用が望ましい.
7.5 Q&A
【Q 20】 デバイス植込みでの被ばくの特徴
デバイス(ペースメーカ,ICD,CRT-P/CRT-Dなど)植込みにおける被ばくにはどのような特徴がありますか. A カテーテルアブレーションでは3次元マッピングを使用することが増え,それに伴い術中の被ばく線量は減少している.一方,デバイス植込みは3次元マッピングを用いることもほとんどなく,また手術室でCアームなどを用いることもあるため,術者も不要な透視や撮影を行わないように注意が必要である.中でも心臓再同期療法のデバイス(CRT-P/CRT-D)では,左前斜位の透視や静脈造影による撮影が多いので,可能なかぎり低いフレームレート,パルスレートを用いる.
p.59
付表 2021 年改訂版 循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン:班構成員の利益相反(COI)に関する提示(2018 年1 月1 日~2020 年12 月31 日)
氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・
部門の長と共同研究の立場にある場合)
顧問株保有・
利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄附金
班長:上妻 謙アボットバスキュラージャパンサノフィゼオンメディカルテルモバイエル薬品ブリストル・マイヤーズスクイブボストン・サイエンティフィックジャパン生命科学インスティテュート第一三共日本ベーリンガーインゲルハイム武田薬品工業ノバルティスファーマ日本メドトロニックアボットメディカルジャパンボストン・サイエンティフィックジャパン第一三共オーバスネイチメディカル班員:池田 隆徳バイエル薬品ブリストル・マイヤーズスクイブ小野薬品工業第一三共第一三共日本メドトロニック日本ライフライン班員:小船井 光太郎アステラス・アムジェン・バイオファーマサノフィボストン・サイエンティフィックジャパン班員:鈴木 滋GE ヘルスケア・ジャパンキヤノンメディカルシステムズバイエル薬品長瀬ランダウア小野薬品工業エーザイ
ゲルベ・ジャパンバイエル薬品ボストン・サイエンティフィックジャパン第一三共富士薬品
班員:副島 京子アボットメディカルジャパンジョンソン・エンド・ジョンソンバイエル薬品バイオトロニックジャパンブリストル・マイヤーズスクイブ第一三共日本ベーリンガーインゲルハイム日本メドトロニック
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氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・
部門の長と共同研究の立場にある場合)
顧問株保有・
利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄附金
班員:近森 大志郎シミッククインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンウイン・インターナショナルバイエル薬品第一三共富士フイルムRIファーマ富士フイルム富山化学武田薬品工業アボットバスキュラージャパンセント・ジュード・メディカル班員:橋本 順日本メジフィジックス富士フイルム富山化学ゲルベ・ジャパン班員:本江 純子ボストン・サイエンティフィックジャパンニプロテルモ班員:松本 直也日本メジフィジックス富士フイルム富山化学富士フイルム富山化学協力員:飯森 隆志茨城県立医療大学日本アイソトープ協会日本メジフィジックス富士フイルム富山化学オーム社メジカルビュー社医療科学社山代印刷協力員:上田 明子アボットジャパン協力員:鈴木 康之日本メジフィジックス協力員:武田 和也フィリップス・ジャパンボストン・サイエンティフィックジャパンセンチュリーメディカルアボットバスキュラージャパン協力員:仲間 達也クックメディカルジャパンセンチュリーメディカルテルモボストン・サイエンティフィックジャパンカネカメディックスメディコン日本メドトロニックオーバスネイチメディカル協力員:日置 紘文テルモアボットバスキュラージャパン第一三共小野薬品工業
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氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・
部門の長と共同研究の立場にある場合)
顧問株保有・
利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄附金
外部評価委員:木村 剛アボットバスキュラージャパンサノフィブリストル・マイヤーズスクイブボストン・サイエンティフィックジャパン興和日本ベーリンガーインゲルハイムエドワーズライフサイエンスEP クルーズファイザー興和第一三共アステラス製薬エムアイディ大塚製薬第一三共田辺三菱製薬日本ベーリンガーインゲルハイム武田薬品工業外部評価委員:清水 渉バイエル薬品ファイザーブリストル・マイヤーズスクイブ小野薬品工業第一三共日本ベーリンガーインゲルハイム第一三共日本ベーリンガーインゲルハイムアボットメディカルジャパンブリストル・マイヤーズスクイブ小野薬品工業第一三共日本ベーリンガーインゲルハイム外部評価委員:平尾 見三バイエル薬品第一三共日本ベーリンガーインゲルハイムバイエル薬品武田薬品工業アボットバスキュラージャパンアボットメディカルジャパンウイン・インターナショナルグッドマンジョンソン・エンド・ジョンソンボストン・サイエンティフィックジャパン竹山日本メドトロニック日本ライフライン*法人表記は省略*以下の構成員については特に申告事項なし班員:石綿 清雄班員:加藤 守班員:近藤 浩史班員:坂本 肇班員:谷澤 貞子班員:松原 孝祐班員:松本 一真協力員:山下 高史協力員:天野 英夫協力員:河合 秀樹協力員:小菅 寿徳協力員:阿部 光一郎外部評価委員:玉木 長良外部評価委員:永井 良三外部評価委員:中村 正人
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文献
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