p.94 抽出テキスト
各論A:急性呼吸不全 胸郭損傷 6 1 はじめに 日本における胸部外傷は鈍的外傷が主(約85%)であり,穿通性外傷の頻度は少ない.鈍的外傷の原因は3/4が交通外傷で,残りは高所からの墜落や重量物の下敷きなどさまざまな受傷機転が含まれている. 胸壁損傷は胸部軟部組織損傷と骨性胸郭損傷に分類され,肋骨骨折や気胸・血胸・肺挫傷などの占める割合が非常に多く(表1),呼吸や循環に重大な影響を与える.したがって,胸部外傷では常に胸腔内臓器損傷の合併を考慮する必要があり,受傷早期から適切な処置が必要となる.治療の多く(約85%)は,胸腔ドレナージを含めた呼吸循環管理と適切な鎮痛が主体である. 2 NPPV のエビデンス 1985 年,Branson ら1)は33 例の外傷患者に対して,急性の低酸素血症の治療にCPAP マスクを用いて94%で改善し効果的であるかもしれないと報告した.その33 例の外傷のうち肺挫傷が21 例で,6 例のフレイルチェストが含まれていた. 1990 年,Bolliger ら2)は2 本以上の肋骨骨折と低酸素血 症を認める患者69 例に対して,CPAP と局所麻酔による方法と,即時挿管後にPEEP による間欠的陽圧換気(IPPV)を実施する方法とを比較した.この研究ではランダム化の手法が説明されておらず,盲検は明らかに不可能であり,損傷の重症度スコアも挿管群で高かった.CPAP 群は,平均治療日数が少なく(4.5 日vs. 7.3 日),ICU の平均滞在日数が少なく(5.3 日vs. 9.5 日),入院日数も少なかった(8.4 日vs. 14.6 日) .2 例の死亡はとも レベルIVレベルIII CQ 6胸郭損傷を伴う急性呼吸不全症例の呼吸管理にNPPV を使用すべきか? 回答:外傷におけるNPPV には,1 つのシステマティックレビューと有効性を示す3 つのランダム化比 較試験やいくつかの症例集積研究が報告されているが,外傷は1 例ごとに異なっており,軽症例から重症例,単独胸部外傷から多発外傷などさまざまである.NPPV に十分習熟し,かつ,外傷の管理にも慣れている施設では,症例ごとに適応を吟味して行えば,合併症を併発することなく呼吸機能の改善を早めることができ,挿管を回避して,経口摂取を早期に開始することができる.ただし,陽圧換気に伴う気胸の発生や進行には十分に注意を払うべきである.外傷症例に対するNPPV の使用に習熟していない施設の場合では,前者ほどは推奨し難い.NPPV 装着後30〜60 分程度で治療効果を評価して,改善が得られない症例であれば,躊躇せずに気管挿管に切り換えるべきである. CQ6 推奨:胸郭損傷を伴う急性呼吸不全に対して,NPPV を試みてもよい.【エビデンスレベルII, 推奨度C1(経験があれば推奨度B)】 表1 胸部外傷の頻度 約60%約50%約30%約20%約10%約10% 約8%約8%約5%約3%約3% (標準救急医学,第3 版,医学書院,東京より引用改変 )