p.53 抽出テキスト
1 はじめに 阪神・淡路大震災(1995 年)1)を経たのち,日本の医療は在宅や介護の場へと広がりをみせたが,大規模自然災害に伴う電力喪失という状況に対しては,いまだ盤石ではない状況にある.東日本大震災(2011 年)では東北地方から首都圏に至る地域で800 万戸以上の停電が報告2)されるなど,極めて広域のライフラインが失われるという未曾有の事態となった.被災地では最低限の日常生活すら困難となり,多数の人々が避難所での集団生活を余儀なくされた. これらの人々においては被災に伴う精神的なストレスに加え,生活や医療環境の急激な変化による睡眠障害や健康状態の悪化が報告されている3). NPPV の定義や平常時における実施上の安全確保については本書の別項に示されるが,本項ではNPPV に代表される「陽圧による換気補助技術のうち,気管挿管を伴わないもの」について,災害という緊急事態に着目して留意点を記述することとする.また,一般に指摘4)されているようにIPPV(侵襲的陽圧換気)とNPPV を区別するとともに,境界領域にある事例についても触れたい. 2 NPPV からみた大規模災害への備え NPPV からみた大規模災害は,「大規模かつ継続的な電源喪失と医療材料や医療担当者の確保困難により, NPPV の実施・継続が困難になりうる事態」と言い換えることができる.この表現は,現在NPPV に用いられている換気装置の大多数が何らかの電源を要する機器であること,およびNPPV がIPPV に比して気道確保の確実性に劣ることから,IPPV に増してケア担当者による注意深い観察を要する技術であることに基づく.したがって,大規模災害が発生した時点において,どのような環境で,どのような機器を用い,どのようなケア担当者によってNPPV が行われているかにより,災害時の対処や必要な備えは異なる. a.災害発生時のNPPV の実施 災害発生時においてもなお,NPPV 実施が必要な場面は,1医療施設内,2在宅医療環境,3災害医療現場に大別される.以下,状況ごとに解説を加える. 1)医療機関(院内)におけるNPPV 医療機関で用いられるNPPV 機器は,主に電気あるいは圧縮空気によって駆動され,酸素ブレンダーを装備する機種では正確な投与酸素濃度の制御が可能である.これらは,一般に「ICU 用ベンチレーター」と呼ばれ,電子制御,圧駆動式の本来はIPPV 用の人工呼吸器である. ICU 用ベンチレーターとNPPV 専用機の大きな違いは専用の呼気回路を有するか否かであり,NPPV 専用機では意図的なリークを前提とする専用の回路またはインターフェイスが必要である.電動式機器は電源が確保できれば外部のガス圧源なしで作動可能である. 一方,多くのICU 用ベンチレーターでは,本体とは別のコンプレッサーまたは圧源(医療用ガスの配管)を駆動力とし,さらに電子制御のための電源も別途必要である. NPPV は呼気をインテンショナル(意図的)リークによって外気に放出するため,常に一定の漏れを許容するという特性から,大量のガス供給を要する.NPPV という名称は同じでも,電気駆動式の機器と圧駆動式の機器では依存するインフラに大きな差があることを認識する必要がある. したがって,ICU 機器についてはインフラ設備が使用不能となった場合に,本体のみでの使用は困難であることを前提に対処する必要がある.また,換気補助に加えて酸素吸入を併用する場合も多いことから,吸入のための酸素ガス配管やバックアップのための酸素ボンベの確保が必要になる場合がある. 大規模災害の発生時,医療施設内においてNPPV を実施している患者において,共通して行うべき具体的対処はおおむね表1 のごとくである. 2)在宅医療環境におけるNPPV 大規模災害の発生時,在宅環境(避難場所を含む)でNPPV 実施中の患者については物理的な身体の安全確保 総 論 災害時の対応 9