p.127 抽出テキスト
全肺気量・機能的残気量は減少し,正常な呼吸パターンでは呼吸仕事量が5 倍以上になるので,呼吸筋疲労を防ぐために「速く浅い」呼吸パターンをとるが,死腔換気が増加し分時換気量のさらなる増加が必要となる3). b.夜間睡眠時低換気(高二酸化炭素血症に至る 機序)慢性呼吸不全,特に高二酸化炭素血症は,夢と関連したREM(rapid eye movement)睡眠期の低換気に端を発すると考えられている4).健常人では,すべての睡眠ステージで,覚醒時に比べて,換気が低下する.non-REM睡眠期には,換気の低下は比較的少ないが,REM 睡眠期には顕著となる.覚醒時と比べて,REM 睡眠期には,換気量が約40%低下する.同様な現象が,呼吸不全患者にも生じている.睡眠中の低換気の原因として,1呼吸中枢出力の低下,2補助呼吸筋を含む骨格筋緊張の低下, 3上気道抵抗の増加と閉塞型睡眠時無呼吸の合併,4低酸素換気応答・高二酸化炭素換気応答の鈍化,が考えられている.慢性呼吸不全患者では,安静覚醒時においてさえ,横隔膜と補助呼吸筋を総動員して換気をかろうじて維持している.ところが,REM 睡眠期に補助呼吸筋の筋緊張が低下し働かなくなると,睡眠の影響をあまり受けない横隔膜のみでは換気を維持することができなくなり,著しい低換気を生じ,低酸素血症と高二酸化炭素血症を呈することになる.特に,RTD では覚醒時より一回換気量(VT)が小さく肺胞換気量(VA)も小さい.死腔を考慮すると,わずかなVT の低下が著しいVA の低下を招く.このため,RTD ではCOPD と比べ昼間覚醒時のPaO2(SpO2)から予測できないほど夜間睡眠時に低酸素状態となり5),そうした症例のほとんどが昼間覚醒時に高二酸化炭素血症を呈することが知られている6). 一方,高二酸化炭素血症は,慢性呼吸不全患者における,呼吸筋不全を防ぐための一種の戦略あるいは生理学的適応とみなすこともできる.つまり,呼吸中枢が高二酸化炭素血症を許容する(呼吸中枢のCO2 感受性が高い値にセッティングされる)ことにより,高いPaCO2 下でも換気ドライブが亢進せず呼吸困難が発生し難くなり,かつ,少ない肺胞換気量でより多くのCO2 を体外に排出することができるため,セッティングされたPaCO2 レベルを維持することが呼吸筋にとって容易になる.しかも,呼吸筋でのエネルギー消費が少なくて済むため全身の栄養状態も改善することが期待できる.こうして,PaCO2 レベルが患者自身の呼吸筋の実力に見合ったものに調整され,過度の呼吸筋疲労と全身の呼吸器悪液質(pulmonary cahexia)は防止されることになる.しかし,この低換気による高二酸化炭素血症は必然的に低酸素血症を伴うので,長期酸素療法(LTOT)の導入以前は高二酸化炭素血症は一般的に予後不良の徴候と考えられていた.ところが, LTOT 下では低酸素血症をきたすことなく高二酸化炭素 血症が許容されるため,高二酸化炭素血症は呼吸不全患者にとって必ずしも不利とはいえなくなった.実際,肺結核後遺症においては,LTOT 導入時にPaCO2 が45mmHg 以上の群がそれ以下の群に比べて,栄養状態がよく7)生命予後もよいことが報告されている8).このため,LTOT 中の高二酸化炭素血症は必ずしも治療の対象にならないとする意見もあった.しかし,LTOT 施行下に,夜間の,特にREM 睡眠期の低換気が助長され高二酸化炭素血症がさらに増悪することになり,重炭酸イオンの蓄積などを介して,CO2 に対する呼吸中枢の化学感受性が鈍化する.こうして,LTOT 施行下に年余を経て,昼間覚醒時の高二酸化炭素血症が進行し9),起床時の頭痛・昼間の眠気・疲労感・不眠・昼間のイライラ感・性格変化・知能の低下・夜間頻尿などのさまざまな臨床症状を生ずるようになる.また,高二酸化炭素血症が進行すると,増悪による入院をきたしやすいことが知られている10, 11). c.肺高血圧 肺血管床の減少,低酸素血症に伴う肺血管の攣縮,多血症による血液粘性度の増加により肺高血圧となり肺性心を生じやすい.労作時呼吸困難・体重増加・頸静脈の怒張や下肢の浮腫の急速な出現があれば,肺性心の合併を疑う. 高二酸化炭素血症を呈するRTD においては,安静時血液ガスでPaO2 が60〜70mmHg の準呼吸不全状態でもほぼ全例が肺高血圧を合併し,肺高血圧の程度もCOPD と比べ強いことが報告されている12).また,肺高血圧症例,特に肺小動脈抵抗が高値であるほど,生命予後が悪い傾向にある. 3 長期NPPV の効果 NPPV による換気補助は肺内病変の少ないRTD に対して極めて有効に働く.現在までのすべての報告で,長期NPPV 導入後,臨床症状・生活の質・生存率の改善が得られている13〜17).倫理的観点からエビデンスの評価に必要な対照群を置いた比較試験が困難なため,長期NPPV導入後の症例に対して一時的にNPPV を中断して睡眠時低換気の再出現やそれに伴う自覚症状の増悪を示すことにより,長期NPPV の効果が実証され18),長期間の中断の危険性が指摘されている19).また,脊椎後側彎症20)や肺結核後遺症21)では,慢性換気不全を生じたときの治療として酸素療法よりまずNPPV を導入すべきとする報告があり,また酸素療法を用いる場合にはNPPV を併用すべきとの見解もある22).さらに,慢性呼吸不全状態に至る以前の夜間の睡眠呼吸障害を呈した時点で酸素療法で