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p.75 抽出テキスト

家族性SSS は,他の遺伝性不整脈疾患,先天性疾患に合併して発症することが多いため,単一の疾患概念としての遺伝学的背景や疫学が十分に明らかになっていない.そこで本ガイドラインでは,PCCD とは異なり,他の疾患合併の有無にかかわらず,「50 歳以下で発症し家族内集積を認めるSSS」を家族性SSS と臨床的に定義した.

2 疫学

わが国の新規ペースメーカ植込み患者は2020 年以降年間42,000 人を超えており,植込み理由の約4 割がSSS であるとすると,年間ではおよそ17,000 人と概算される768).しかしSSS の多くは65 歳以上の高齢者であり,65 歳未満で発症するSSS(若年性SSS)はまれである.米国のコホート研究によると769),45 歳以上の20,572 人を17 年間フォローアップしたところ291 人(1.4%)でSSS を認め,一般人口におけるSSS の罹患率は,0.8/1000 人・年と報告されている.性差は,女性にくらべ男性で多く,加齢にともない罹患率は上昇(5 歳ごとにHR が1.73 上昇)し,やはり若年(54 歳未満での)発症はまれであると報告されている.台湾の学童43 万人(わが国の小学生~高校生にあたる)の健診データによると690, 770),学童期における洞徐脈の有病率は0.025% で,男児にやや多い傾向が報告されている.

わが国においては,平成28 年度厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患等政策研究事業「家族性洞不全症候群の遺伝的背景と臨床的特徴に関する研究」において,蒔田らが日本人家族性SSS の38 家系を解析した771).38 家系のうち2 家系でHCN4 バリアント,3 家系でSCN5A バリアントを同定しており,既報のSSS を加えてメタ解析を施行している772).HCN4 バリアント16 家系,SCN5A バリアント32 家系,そして非家族性SSS(孤発例)538 人を含めたメタ解析の結果,発症年齢(平均±標準誤差)は,孤発例

(74.3 ± 0.4 歳)に比較して家族性SSS(35.5 ± 5.4 歳)で有意に低かった.SCN5A バリアント32 家系は,HCN4 バリアント14 家系に比較して,さらに若年発症であり(20.0 ± 17.6 vs. 39.1 ± 21.7),ペースメーカ植込み年齢も低かった(17.8 ± 16.5 vs. 43.5 ± 22.1).なお,HCN4 バリアント症例は,55 歳以降の発症も少なからず認めており,最高齢は74 歳であった.よって年齢のみで家族性SSS を否定することはできないことに注意が必要である.

3 遺伝的背景

SCN5A,HCN4 の2 つが主要な家族性SSS の原因遺伝子として報告されている772-776).そのほか洞結節細胞および心房筋に発現するイオンチャネル遺伝子,細胞内構造や心筋症発症に関連する遺伝子,洞結節細胞の発生に関与する転写因子が家族性SSS の原因遺伝子として報告されている.わが国においては,日本人家族性SSS の38 家系を解析した結果,3 家系にSCN5A バリアント,2 家系にHCN4 バリアントを同定している.またSCN5A とHCN4の両バリアント陰性の日本人SSS 家系を対象とした検討によって,MYH6 バリアントが同定されているが777),検出率は高くない.とくに検出率の高い主要な原因遺伝子・領域を表20 に示す.

SSS の疾患感受性遺伝子として,アイスランドで行われた小規模なGWAS 778)においてMYH6,その後の欧米で行われた2 回のGWAS 779, 780)によって,さらにAF と共通する疾患感受性遺伝子であるPITX2 とZFHX3 そして心筋症発症に関与するTTN/CCDC14 などが報告されている.また細胞内構造蛋白としては,PCCD と同様にLMNA バリアントが重要である781).なお,ANK2 バリアント782)やGNB2 バリアント783)による家族性SSS の報告もあるが,

表20 家族性SSS のおもな原因遺伝子・領域

遺伝子/ 領域遺伝子座蛋白(機能変化)表現型/ 症候群SCN5A 3p22.2 Sodium voltage-gated channel alpha subunit 5(機能喪失,INa 電流の低下) AF, PCCD, LQTS, BrS HCN4 15q24.1 Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide gated potassium channel 4(機能喪失,If 電流の低下) AF, LVNC LMNA 1q22 Lamin A/C(核構造異常,遺伝子制御異常など) AF, PCCD, DCMゲノム領域(PITX2 近傍)

* 4q25 Paired like homeodomain 2(PITX2 の不適切な過剰発現) AF, ASD, LQTS

*このゲノム領域はPITX2 遺伝子近傍の非コードDNA 領域にあり,エクソーム解析や遺伝子パネル解析では異常を検出できない.