GL検索 v0.1.0
画像は 72 ページを描画したものです
page 72

p.72 抽出テキスト

第9章 家族性心房細動(AF)

1 概論

AF は,臨床でもっとも一般的にみられる不整脈の1 つであり,高齢化社会において有病者数が増加している.また,脳卒中や心不全などの合併症リスクを増大させる重要な不整脈である.発症には,心房筋の肥大・線維化などの構造的変化や,活動電位持続時間・伝導障害といった電気生理学的変化が関与する.加齢,高血圧,肥満,アルコール摂取,器質的心疾患など多くの危険因子が関与する一方で,遺伝的素因も重要な役割を果たすことが明らかとなっている.AF の遺伝的背景を理解することは,将来AF を発症する高リスク者の早期同定に資する可能性があり,その疫学的知見および遺伝学的研究が進んでいる.

2 疫学

おもに第一度近親者がAF である場合は,AF の発症リスクは総じて2 ~3 倍に上昇するとされている.Framingham 研究では,AF 患者の約30% に家族歴があり,AF 患者の家族における発症リスクは,第一度近親者は1.8 倍,

親子双方75 歳未満では3.23 倍であった721).アイスランドの5,000 人の検討でも第一度近親者は1.77 倍,60 歳未満では4.67 倍であった722).スウェーデンの全国レジストリでは親1.95 倍,同胞3.08 倍で,若年例や多発家系では5 ~8 倍に達した723).台湾の大規模研究でも1.92 倍のリスク増加が示された724).さらにデンマークの双生児研究では,一卵性で12%,二卵性双生児で22% の発症リスクが示され725),別コホートでは孤発性AF の発症率比が第1度近親者3.48,第2 度親族1.64 であった726).予後に関しては,台湾およびデンマークの解析727)ではAF 発症後の主要心血管イベントや死亡,血栓塞栓症は家族歴の有無で大差なく,発症後予後を悪化させる明確な証拠は乏しい.ただしLMNA 関連心筋症など器質的異常をともなう病態では血栓症リスクが高く,注意を要する.

3 遺伝的背景

AF の多くは多因子性疾患であるが,単一遺伝子異常が主要因となる家族性AF が一部に存在する(表19).最初の遺伝学的報告は,連鎖解析により10q22–q24 領域が同定された家系であり728),続いてイオンチャネル遺伝子の病

表19 AF において単一遺伝子異常として報告されている遺伝子

カテゴリー代表的遺伝子

イオンチャネル関連(K・Na・Ca チャネル) KCNQ1, KCNE1, KCNE2, KCNE3, KCNE5, KCNH2, KCNJ2, KCNJ5, KCNJ8, KCNA5, KCND3, SCN5A, SCN1B, SCN2B, SCN3B, SCN4B, SCN10A, CACNB2, CACNA2D4 Ca 2+ハンドリング関連RYR2, FKBP12.6, CASQ2, GREM2転写因子・心臓発生関連PITX2, ZFHX3, GATA4, GATA5, GATA6, NKX2-5, NKX2-6, TBX3, TBX5細胞骨格・構造蛋白(核膜・サルコメア・膜蛋白を含む) LMNA, NUP155, SYNE2, MYH6, MYL4, PLEC, JPH2, CAV1ギャップ結合GJA1(Cx43), GJA5(Cx40)シグナル伝達・その他NPPA(ANP), ABCC9, RAAS 関連遺伝子(ACE, AGT など)