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p.62 抽出テキスト

であり,いずれかの誘導に0.1 mV 以上のER を認める場合,心原性死亡の相対リスクは1.28 ~1.62 と上昇していた.ただし,ER 陽性例における心イベント死亡リスクの上昇は登録後15 年以降,約60 歳以降に認められており, ER を認める者では将来的な虚血性心疾患,およびそれにともなう致死性不整脈の発症が多いことが示唆されている618).

わが国の30 歳以上の一般住民7,600 人を対象とした研究(調査開始時平均年齢52 歳,男性3,108 人)では,264人(3.5%)にER を認め,15 年間の観察期間において心イベント死亡リスクの相対リスクは2.54 と上昇していた.とくに虚血性心疾患死亡の相対リスクは4.66 と高く,フィンランドの研究と同様の結果であった624).このわが国の研究では,調査開始時年齢60 歳未満と60 歳以上で層別解析が行われており,60 歳未満群における虚血性心疾患死亡の相対リスクは10.71 と,60 歳以上群(相対リスク2.66)と比較しても著明に高かった.

ER の形状については,J 波が高いほど高リスクであり,スラー型またはノッチ型のER,ならびに水平型または下降型ST 上昇が予後不良と関連することが報告されている.一般住民におけるER と追加の危険因子,予後との関連について表15 618-620, 622, 624)に示す.

3 遺伝的背景

ERS における不整脈発症原因の1 つとして,活動電位第1 相から第2 相にかけての心外膜側と心内膜側の心室筋における電気的不均一性が考えられている26).そのため,活動電位第1 相から第2 相にかけて機能するイオンチャネル

関連遺伝子がERS の原因となりうる(図1 参照).ERS の最初の原因遺伝子として報告されたのはKATP チャネルの構成要素の1 つであるKir6.1 をコードするKCNJ8 p.S422L であるが632),アシュケナージ系ユダヤ人でのヘテロバリアントキャリアが4% もいることがわかり,ERSの原因としては否定的とされている633).他には,KCND3やSCN5A などの遺伝子についてERS との関連が報告されている74, 334, 634)(表16) 334, 634).ERS に対する遺伝学的検査の適応について,VF の既往を有するERS 症例に対しては検討されるべきだが,心電図でER を認めるのみの無症候例に対しては推奨されない74).

KCND3 は外向き一過性K チャネルのαサブユニットであるKv4.3 をコードする遺伝子であり,ERS に同定されたバリアントはいずれも機能獲得型で,一過性K チャネル電流(Ito)を増加させる634, 635).この増加したIto が活動電位第2 相における心外膜でのノッチを増大させ,J 波を増高させると考えられている.

SCN5A は心臓Na チャネルをコードする遺伝子であり,機能喪失型変異がERS の原因となる334).SCN5A の機能喪失型バリアントはERS のみならず,BrS やPCCD の原因となる.またERS でSCN5A バリアントが同定された家系内で,同一バリアントキャリアがBrS やPCCD の表現型を呈することがあるが,この表現型の差が生じる機序は明らかになっていない636).

心電図のER 所見は,GWAS による関連遺伝子・多型の同定も進められている.ヨーロッパ系のER がある2,181人と23,641 人のコントロールを対象としたGWAS のメタ解析では,KCND3 に関連する一塩基バリアントがER と関連することが同定された637).ただし2026 年3 月現在,

表15 一般住民におけるER と予後の関連

J 波高追加の危険因子予後相対リスク95% 信頼区間人種・国発表年

0.1 mV 以上なし不慮の死1.83 1.12 ~2.97日本人2011 622)

心血管死2.54 1.40 ~4.58日本人2013 624)

下壁誘導のER心血管死1.28 1.04 ~1.59 フィンランド人 2009 618)

3.71 1.44 ~9.53 ドイツ人 2010 620)

下壁および側壁誘導のER不慮の死2.5 1.29 ~4.83日本人2011 622)スラー型およびノッチ型のER不慮の死2.09 1.06 ~4.12日本人2011 622)水平型/ 下降型ST不整脈死1.43 1.05 ~1.94フィンランド人2011 619)

0.2 mV 以上下壁誘導のER心血管死2.98 1.85 ~4.92フィンランド人2009 618)

下壁誘導のER および水平型/下降型ST不整脈死3.14 1.56 ~6.30フィンランド人2011 619)

(文献618-620, 622, 624 を参考に作成)