p.40 抽出テキスト
4 遺伝的背景・病態生理 4.1 遺伝的背景 1998 年にBrS 症例で心筋Na チャネルαサブユニットをコードするSCN5A のバリアントがはじめて報告され238),以降20 以上の原因遺伝子が報告されてきた320).しかし, SCN5A 以外の原因遺伝子バリアントはいずれも保有率が低く,現時点で病態との関連が確立しているのはSCN5Aとされている239, 321).もっとも,SCN5A 病的バリアントの検出率もBrS 全体の約10 ~30% にとどまる(わが国約10%,欧州約30%) 239). SCN5A 病的バリアントの予後への影響については,心イベントリスクとの関係は当初少数例の報告のみで322, 323),懐疑的であったが265, 267),2017 年の日本人BrS 患者を対象とした多施設共同研究において,心イベント発生の予測因子であることが示され240),さらにバリアントによるNa電流障害の程度と予後が強く関連することも報告された(図16) 241).近年,バリアントの病的意義に関する検証が進み, SCN5A 病的バリアントが予後予測に有用であるとする報告が増えている242, 322, 324, 325).現時点でわが国ではBrS に対する遺伝学的検査の保険適用はないが,国際的な推奨74)を推奨表7 にまとめる.またBrS の発症にかかわるSCN5A バリアントは機能低下型であり,非キャリアと比較して強い伝導障害326-328)や,より広範囲の右室流出路の線維化を示す324).SCN5A を共通の原因遺伝子とする「心筋Na チャネル病」329)として,LQT3 101),PCCD 330),SSS 331, 332), AF 333),ERS 334),拡張型心筋症(DCM) 335),乳幼児突然 死症候群(SIDS) 336)などがあげられ,BrS とのオーバーラップ症候群としても認められる337, 338). BrS は長年「イオンチャネル病」として単一遺伝子疾患と 捉えられてきた.実際にSCN5A バリアントにより単独で表現型を呈する症例も存在する.一方で,原因遺伝子の同定率が低く,予後への影響も限定的であることから241, 339, 340),近年では,複数のリスク遺伝子多型が関与する多因子疾患としての側面も示唆されている77, 252-254, 339, 341). 2013 年に発表されたGWAS では,SCN5A-SCN10A 領域とHEY2 領域に疾患感受性一塩基多型(バリアント)が日欧のBrS 患者に共通して同定され342),台湾およびタイでも追認された343-345).以降も新規の疾患感受性座位が同定されており,人種を超えて保存されるバリアントとともに,日本人特有のバリアントが存在することは,わが国と欧米との臨床像の違いに影響している可能性がある252, 345, 346).今後は,これらBrS 感受性一塩基多型の重みづけを行い, 図16 SCN5A バリアントおよび予後SCN5A バリアント,とくに機能喪失型の病的バリアントではVF リスクが高い. (Ishikawa T, et al. 2021 241)より) Translated and reproduced by permission of Oxford University Press on behalf of the European Society of Cardiology. OUP and the European Society of Cardiology are not responsible or in any way liable for the accuracy of the translation. The Licensee is solely responsible for the translation in this publication/reprint. (%) 100 80 60 40 累積生存率(%) (%) 100 80 60 40 累積生存率(%) (%) 100 80 60 40 累積生存率(%) 0 72 144 216 0 72 144 216 0 72 144 216 経過観察期間(月) 経過観察期間(月) 経過観察期間(月) Log rank P=0.017機能喪失なし(n=15) 機能喪失(n=45) Log rank P=0.019 Log rank P=0.001機能喪失(n=45) A B C 変異あり (n=60) SCN5A 変異なし (n=355) SCN5A変異なし (n=355) SCN5A SCN5A 機能喪失なしかつ変異なし(n=370) 推奨表7 BrS の遺伝学的検査に関する推奨と エビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 正常肋間もしくは高位肋間でタイプ1 心電図を自然発生的に,または発熱時やNaチャネル遮断薬投与によって生じ,臨床所見または家族歴からBrS と診断される症例に対し,SCN5A に対する遺伝学的検査を行う *. I C BrS の原因となるバリアントが同定された症例の家族と血縁者に対し,該当バリアントの遺伝学的検査を行う *. I C *2026 年3 月現在保険適用外