p.12 抽出テキスト
的心疾患を認めない突然死において重要な役割を果たしていることが示されている. 遺伝性不整脈の発症機序の基本は,心筋細胞の電気的興奮および刺激伝導を担う分子機構の機能異常にある. Na,K,Ca チャネルおよびその調節蛋白に加え,細胞間結合蛋白,細胞骨格関連蛋白,転写因子などをコードする遺伝子における病的バリアントは,活動電位の形成,再分極過程,局所的な伝導様式に影響を及ぼし,不整脈発生の基盤となる(図1). 近年,遺伝性不整脈の病態は,かならずしも単一の病的バリアントのみで規定されるものではなく,ポリジェニックリスクスコアに代表される複数の遺伝子バリアントによる多因子的機序が提唱されており22, 23),臨床表現型の多様性(clinical variability)や家系内における浸透度(penetrance)の差を理解するうえで重要である.さらに,非DNA コード領域の遺伝子バリアントに起因する遺伝子発現制御異常が不整脈発症に関与しうることや24),BrS において右室流出路心外膜側の線維化などの構造的変化が電気生理学的異常と相まって,不整脈基質となりうることが報告されている25-27). 以上より,遺伝性不整脈は,単一の病的バリアントにより発症する症例から,複数の遺伝的要因や電気生理学的・構造的基質が関与する症例までを含む疾患スペクトラムと して理解する必要がある. 2 診断 遺伝性不整脈の診断は,臨床的診断と遺伝学的診断から成り立つが,原則として臨床的診断が優先される.たとえば先天性LQTS では,LQTS スコア(Schwartz スコア)3.5点以上または繰り返す12 誘導心電図でQTc ≧500 ms を認める場合,BrS であればコブド型ST 上昇をともなう特徴的心電図所見,ARVC では診断基準であるTask Force Criteria などが用いられる(各疾患の診断基準については各論を参照).一方,近年の遺伝学的検査技術の進歩により,かならずしも臨床診断基準を満たしていない段階であっても,病的バリアントの同定を契機として診断に至る症例が増加している.原因遺伝子や遺伝学的検査の適用については各論において詳述する. 診断に至る契機としては,動悸,めまい,失神,VF/ 心停止などの症状を呈して医療機関を受診する場合と,無症状であっても学校・職場検診における心電図異常や家族解 筋小胞体細胞質 核DSG2 PKP2 DSC2 DSP デスモゾーム T 管 CaM細胞膜 細胞間隙 核膜 PLB I Na I Kr I Ks I K1 I to Na + Ca 2+ Ca 2+ Ca 2+ Na + K+ K+ K+ K+ I CaL ラミンA/C NCX Ca 2+ RyR2 LQT3/BrS PCCD SSS/AF LQT2 SQT1 LQT1 SQT2 ATS SQT3 ERS IVF LQT8 (TS) DCM PCCD SSS AF CPVT ARVC CALM- LQTS SERCA2 CASQ2 心筋細胞活動電位 心電図 延長短縮 I to I Na QT間隔EAD DAD R P Q S T I CaL I Kr I Ks I K1活動電位持続時間-90mV +30mV 図1 遺伝性不整脈の分子基盤と心筋活動電位左:心筋活動電位とイオンチャネル電流(心室筋).右:遺伝性不整脈に関わる心筋細胞関連分子.赤字は関連する遺伝性不整脈・心筋症. EAD:早期後脱分極,DAD:遅延後脱分極,I Na:心臓Na チャネル電流,I to:一過性外向きK 電流,I CaL:L 型Ca チャネル電流,I Ks:遅延整流性K 電流(緩徐成分),I Kr:遅延整流性K 電流(速成分),I K1:内向き整流性K 電流,NCX:Na +/Ca2+交換輸送体,RyR2 :心筋リアノジン受容体,CaM:カルモジュリン,CASQ2:カルセクエストリン2,SERCA2:筋小胞体カルシウムATP アーゼ2,PLB:ホスホランバン, DSG2:デスモグレイン2,PKP2:プラコフィリン2,DSC2:デスモコリン2,DSP:デスモプラキン