GL検索 v0.1.0
画像は 10 ページを描画したものです
page 10

p.10 抽出テキスト

改訂にあたって

遺伝性不整脈は心臓突然死の重要な原因の1 つであり,とくに若年者や明らかな器質的心疾患を認めない症例において,その一因を占める.それまで元気に日常生活を送っていた若年者が,致死性不整脈により突然死に至る場合もあり,社会的にも重要な課題である.わが国では,従来,学校心電図検診や職域健診が体系的に実施されており,近年は自動体外式除細動器(AED)の普及や救急医療体制の整備を背景として,突然死への対応や予防の重要性が社会的に広く認識されている.

さらに近年,遺伝子解析技術の進歩と臨床・基礎研究の進展により,遺伝性不整脈の病態に関する理解は大きく深まり,診断および治療戦略の考え方も発展してきた.これにともない,遺伝学的検査の普及やリスク層別化に関するエビデンスの蓄積を背景に,遺伝性不整脈の診療にはより個別化された対応が求められるようになっている.また,致死性不整脈の予防のみならず,家族スクリーニングや遺伝カウンセリングの重要性についても,国内外で認識が一層高まっている.これらの知見を踏まえ,遺伝性不整脈患者の早期診断と適切な治療による突然死予防を目的とした診療の標準化は重要な課題である.あわせて,将来の発症リスクを有する家族も考慮した包括的な診療が求められる.

本ガイドラインは,遺伝性不整脈疾患の診断・リスク評価・治療方針について,「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017 年改訂版)」1)を基盤とし,現在のエビデンスおよび専門家コンセンサスにもとづき整理し,臨床現場での診療の標準化を目的として作成されたものである.本ガイドラインでは遺伝性不整脈として,先天性QT 延長症候群(LQTS),Brugada 症候群(BrS),カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT),QT 短縮症候群(SQTS),早期再分極症候群(ERS),特発性心室細動(IVF),進行性心臓伝導障害(PCCD),家族性心房細動(AF),家族性洞不全症候群(SSS),ならびに遺伝性不整脈が一因となりうる突然死症候群(SUD/SUDI)を対象に含めた.また,不整脈原性右室心筋症(ARVC)およびラミン心筋症については,本来は原発性心筋症に分類されるが,不整脈が臨床的に重要な位置を占める疾患群であることを踏まえ,遺伝性不整脈の診療対象に含めた.近年,遺伝性不整脈患者の運動・スポーツ活動について

は,国際的な動向として,一律の運動制限ではなく,専門的評価と共同意思決定(shared decision making)にもとづき個別に判断する考え方が示されている.本ガイドラインではこれらの動向を踏まえ,LQTS およびCPVT 患者における運動・スポーツ活動の指針を表として整理した.さらに,LQTS およびCPVT の女性患者における妊娠,出産,産褥期の管理についても章を設け,治療継続の重要性を含めた留意点および指針を示した.巻末には,遺伝性不整脈の診療において比較的遭遇することが多い事項(遺伝学的検査の対象遺伝子,健診で指摘されたLQTS 疑い・BrS疑い例への対応,避けるべき薬剤,内服治療の処方例,急性期治療)について,日常診療で参照しやすいよう要点を整理した付表を掲載した.

本ガイドラインでは,従来の方法に準じて,各診断法・治療法の適応に関する推奨の程度を推奨クラスI,IIa, IIb,III(No benefit,Harm)に分類し,その根拠となるエビデンスレベルをA,B,C として示した(表1,2).遺伝性不整脈は希少疾患を多く含み,エビデンスの性質も多様であることから,Minds にもとづく推奨グレード分類は採用していない.

本ガイドラインは,日本循環器学会学術委員会の要請にもとづき,ガイドライン作成委員会の班員および協力員の執筆・校正・討議を経て作成された.加えて,外部評価者による査読および助言を反映し,わが国における遺伝性不表1 推奨クラス分類

クラスI評価法・治療が有用,有効であることについて証明されているか,あるいは見解が広く一致している.クラスIIaエビデンス・見解から,有効・有用である可能性が高い.クラスIIbエビデンス・見解から,有効性・有用性がそれほど確立されていない.クラスIII No benefit手技・治療が有効・有用でないとのエビデンスがある,あるいは見解が広く一致している.

クラスIII

Harm評価法・治療が有用でなく,ときに有害となる可能性が証明されているか,あるいは有害との見解が広く一致している.