p.96 抽出テキスト
にも,高度リスク群においてのみIEが増加したとするものもあれば(Krul MM 2015 799),Thornhill MH 2018 617)),高度リスク群/中等度リスク群両方でIEが増えたとするものもあった(Dayer MJ 2015 616),Garg P 2019 606)). 結果が一定ではない理由はいくつか考えられる.これらの論文はほぼすべてがIEによる入院データを元に解析を行っている.真の発症率ではない可能性もある. 追跡期間の長さによって結果が異なる(表CQ1-2).同じ研究対象を用いていても,当初は有意な変化を認めなかったものが長期間フォローすることによって有意な変化が検出される場合があった(Thornhill MH 2011 615), Dayer MJ 2015 616)).国によってガイドラインの変更の内容が異なる.米国や英国以外の欧州では中等度リスクの予防的抗菌薬投与を推奨しなくなったが,高度リスク患者における予防的抗菌薬投与の推奨は維持された.一方,英国では中等度リスク,高度リスクのどちらでも予防的抗菌薬を推奨しないとした.研究が実施された国がどのガイドラインに従っているかを考慮する必要がある. IEハイリスク患者を診察する医師がガイドラインにどのくらい従っているかによって結果は変わってくる.ガイドラインの遵守率が必ずしも高くない場合がある634, 635, 816, 817).一方,予防投与の変化とIE発症率についてデータを関連づけて解析した論文も報告されている606, 611, 614-617).その中でもDayer MJ 2015 616)では,中等度リスクでも高度リスク群でも予防的抗菌薬を投与しないとした英国において,予防投与が激減し,その結果として高度リスク群,中等度リスク群ともIE発症率の有意な増加が報告されている. これらの研究の中には小児に焦点をあてて解析したものがある(Bates KE 2017 808),Sakai Bizmark R 2017 801), Knirsch W 2020 806)).ガイドライン変更前後で小児IEの発症率の増加は示されなかった(表CQ1-2).これらの研 究は他の研究に比べると症例数が少なく,ガイドライン遵守率についてのデータもない. コホート内症例対照研究は,コホート研究において侵襲的歯科治療が行われた際ある一定期間のIE発症率を予防的抗菌薬投与の有無によって比較したものである590, 797, 798).この方法は無作為化したものではないものの,ガイドライン変更前後の時系列解析研究に比べて,侵襲的歯科治療と予防的抗菌薬投与の有無,そしてIE発症率がより直接的に関連づけられる.高度リスクで予防的抗菌薬は有意にIE発症率が低かった(図CQ1-1 590, 797, 798),表CQ1-3 590, 797, 798)).中等度リスクでは,その結果は認められなかった(図CQ1-1,表 CQ1-3). C1.2 費用対効果815) 本CQは個人の立場からみた推奨を目的とするものであるが,費用対効果については集団の立場から書かれた論文も含めて採用した.予防的抗菌薬の費用対効果の研究としてFranklin M 2016 がある(表CQ1-4) 815).Dayer MJ 2015 616) やDuval X 2006 813)によるIEリスクのある患者が予防的抗菌薬投与を受けた場合と受けなかった場合のIE発症の推計値を用いて,費用対効果をみたものである.英国において中等度リスク以上の患者に対して予防的抗菌薬投与を再開すると,英国全体で1年あたり5.5~8.2百万英ポンド(2016年当時の相場を1英ポンド=150円とすると8.25~12.3億円)の費用が削減でき,さらに>2600 QALY(質調整生存年)が得られるという.予防的抗菌薬投与の再開を高度リスクに限った場合であっても,1年あたり4百万英ポンド(約6億円)の費用が削減でき,1070を超えるQALYが得られるという.ICER(Incremental cost-effectiveness ratio,増分費用効果比)は>-56万円と負の値になり,予防的抗菌薬投 表CQ1-1 歯科治療時の予防的抗菌薬投与についての症例対照研究 発表年筆頭著者期間研究実施国/ 地域研究概要対象患者数対象年齢結果 1992 Van der Meer 1992 814) 1986年11月~ 1988年11月 オランダ心疾患を有し医療・歯科処置を受けた患者におけるIE予防効果を全国規模で検討症例群48人,対照群200人中央値41歳(範囲5~78歳)抗菌薬あり vs なし(初発IE・処置後30 日以内):OR ≈0.51 (95%CI 0.11-2.29) 1995 Lacassin 1995 812) 1990年11月~ 1991年10月 フランス3地域を対象に医療手技とIEの関連,予防的抗菌薬投与の効果を検証(症例対照)症例群171人,対照群171人平均58歳歯科治療に関連した緑色レンサ球菌IEを46% 減らしたが,統計学的な差は得られなかった CI:信頼区間,IE:感染性心内膜炎(Van der Meer JT, et al. 1992 814), Lacassin F, et al. 1995 812)をもとに作表)