p.93 抽出テキスト
血液培養が陰性であるが感染を強く疑う場合には,CTガイド下で人工血管周囲の液体の穿刺培養を行うこともある. 人工血管感染を診断するための画像としては,造影CT, MRI, 18F-FDG PET/CTなどがある.造影CTは,人工血管感染を評価するために最初に行われる画像診断法である.造影CTでは,人工血管や吻合部,動脈瘤形成,周囲の軟部組織の変化,液貯留,ガス,膿瘍形成,仮性動脈瘤,隣接する腸肥厚,瘻孔形成などを観察することができる.晩期の人工血管感染では診断と治療計画に有用で,造影CTで診断がつけば,追加の画像評価は不要となる.一方で,早期の人工血管感染の場合,造影CTでは決定的な結果が得られない場合がある.外科的手術後,特に最初の6~8週間以内の場合,周囲の軟部組織の変化や液貯留,ガスの存在などは,術後の変化と感染を区別するのが難しい.ステントグラフトの場合,動脈瘤嚢内にガスが観察されることがある.通常,最初の数週間以内に自然に解消されるが,6~8週間を超えた動脈瘤嚢内のガスの存在は,感染の可能性を検討する必要がある. MRIは,人工血管感染の診断で陽性的中率は95%,陰性的中率は80%という報告がある781).MRIでは組織の特性評価が可能になるが,一方でCTと同様に術後早期の炎症と感染を判別することはできない.また,MRIではアーチファクトもあるため造影CTを上回るメリットはあまりないが,造影CTを施行できない場合の代替となりうる. 18F-FDG PET/CTは,造影CTで判断ができない場合に有用である.特に術後早期の炎症と感染を判別できる可能性がある.炎症では直線的,びまん性,均質な取り込みを示し,感染では局所的にまだらな取り込みを示す782). 18F-FDG PET/CTは感度95%,特異度80%という報告がある783). 7.4 治療,手術適応 治療の基本は,抗菌薬投与と,可能なかぎりの人工血管を含めた感染組織の除去である. 抗菌薬は,想定しうる原因菌(ブドウ球菌が多い)に対してエンピリックに開始する.培養陽性となれば,その細菌に感受性のあるものを使用する.治療期間については定まっていないが,人工弁感染性心内膜炎に準じて,感染組織をすべて除去しえた場合には4~6週間程度となることが多い778). 手術は,人工血管を含めた感染組織の除去,そして新しい人工血管による再建となるため,手術リスクが高く,手術が困難であると判断されることも多い.この場合は,生涯にわたる抗菌薬の投与が検討される. 手術の方法として,リファンピシン浸漬グラフトの使用や大網充填が行われることがある.リファンピシン浸漬グラフトは,グラム陽性菌に有効で再感染率は約11%であるが,MRSA,グラム陰性菌,真菌による感染には効果が低い778).大網は血管新生から感染部位への血流を増加させることにより抗菌薬の効果を増強し,豊富なリンパ組織により再感染の危険性を減少させる可能性がある784).十分な大網採取が不可能な場合は,広背筋や大胸筋など骨格筋の有茎皮弁が用いられることもある. 8 非細菌性血栓性心内膜炎 非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)は非感染性の心内膜炎であり,IE発症の前段階ともいえる異常血流に伴う内膜障害による心内膜炎と,消耗性疾患や自己免疫疾患などに合併する無菌性心内膜炎を意味するものがある.ここでは後者のNBTEについて述べる.NBTEは一般的に患者の死亡後に指摘されることも多く,剖検例の約1.2%にみられるといわれる785).NBTEの頻度は末期がん症例全体の4%とされるが786, 787),塞栓症を合併した担癌症例では32%にはね上がる788).Libman-Sacks心内膜炎は全身性エリトマトーデス(SLE)に合併するNBTEを指し,SLE症例の11%に認められる789).1985年に抗リン脂質症候群(APS)とLibman-Sacks心内膜炎との合併症が報告されて以降, APSとの深い関連も指摘されているが790),これまでのところNBTEの病因は不明であり,炎症および凝固亢進状態に続発すると仮定されている. NBTEは悪性腫瘍,自己免疫疾患への関連のみならず,免疫複合体,低酸素,過凝固状態など心膜内皮障害をきたすさまざまな病態によって,主として大動脈弁や僧帽弁に血小板とフィブリンからできる疣腫を形成する791). NBTEによる疣腫は,感染性心内膜炎によるものよりも小さく,多くは3 mm未満とされるが,サイズのみでは鑑別は困難である.NBTE病変に対しTTEでの感度は必ずしも高くない792).病変は僧帽弁が最も多く,次いで大動脈弁とされるが,心臓のどこの部分にも生じる可能性がある.疣腫を有する症例の24%で塞栓病変を認め,疣腫は心原性脳梗塞との関連が深い.IEの疣腫と同様にTTEよりもTEEの感度が高いが,疣腫は小さい傾向(1 cm以下が多い)があり,IEに比べ疣腫の同定は難しい.弁の変化としては,肥厚による接合不全による弁逆流が最も多い.単独の僧帽弁逆流症が最も多く,続いて大動脈弁逆流症,僧帽