p.91 抽出テキスト
おり,妊娠中の心臓手術は,胎児の妊娠週数や手術前の帝王切開の有無にかかわらず,最大7%の高い母体死亡率と関連している763).一般に,手術前に帝王切開で出産した場合,帝王切開をしない場合よりも胎児生存率は優れている763).死亡リスクが最も高いのは,妊娠週数26週未満の胎児であると報告されている766).死亡率は妊婦のIE病変の位置によって異なり,大動脈弁では約40%,僧帽弁では22%,三尖弁では10%である761).心臓手術に関しては,母体死亡率と胎児死亡率の間に正比例関係がある.したがって,母体死亡のリスクが第2トリメスター(4.6%)では最小限で,第3トリメスター(8.8%)で2倍になるが,胎児死亡のリスクは妊娠期間が長くなるにつれて減少し,妊娠最初の数週間の45%と比較して第3トリメスターでは29%に達する.弁置換術前の帝王切開では胎児のリスクが最も低い(6.7%)が,母親については第3トリメスターの既存の統計データと比較して有意差は報告されていない(8.8%対8.3%) 763).分野横断的なチームで妊娠中のIE症例の治療方針や外科的介入の適応を決めることが重要であるが,適切に抗菌薬治療や手術適応,手術時期を選択して母体死亡率を減らすためには,今後取り組むべき課題は多い. 6 高齢者IE 一般人口におけるIEの頻度は継続的に増加しており,欧州での疫学研究767)によれば,IEの増加の理由として医療処置の数の増加26),心内デバイス(ペースメーカやICDなど)や人工弁使用の増加767)に加え,高齢患者の着実な増加616, 768)が示唆されている.IE症例の最大25%は医療関連感染とみなされており383),医療サービスをうける機会の多い高齢者の増加はIE増加の一因になっていると考えられる.実際に高齢者IE は増加傾向にあり769),80代も稀ではなく,この年齢層でもIE発症が増加している770).一般的にIEの約25~30%が外科的治療の適応と考えられるが, 65歳未満の症例では46%の症例で手術が実施されているのに対し,65~79歳では29%,80歳以上では5.8%が手術を受けているにとどまる767). 高齢者IEの特徴としては,男性がやや優位で, Staphylococcus aureus感染や医療関連IEが多い769)ことがあげられる.80歳以上のIE患者を対象とした研究では,腸球菌が原因菌として最も多く,腸管に常在するStreptococcus gallolyticusの分離頻度も高いことが報告されている770).高齢患者はデバイスや人工弁などの人工物が植込まれていることが多いが,腸管や尿路感染が原因菌 の侵入門戸となりやすい傾向があるため28, 770),感染経路として腸管や尿路系の積極的なスクリーニングを行うべきである.脊椎炎の合併も多く,さらに年齢が上昇するにつれ増える傾向にある770).また,症状が非典型的なことから診断が遅れることも多いため,少しでも疑わしい場合は血液培養や心エコー図検査を積極的に行うべきである.疣腫は小さいことが多く,塞栓症の合併は少ないとされる771).画像検査では弁の石灰化のために心エコー図検査で見えにくいこともしばしばである. 高齢者のIEでは,疣腫が小さいうえに膿瘍を合併しやすいとの報告もあることから,TTEに比べTEEがより有用であるともいえる26).TEEはIEの診断感度が高いが,高齢患者ではデバイスや人工弁など心内異物が存在する場合でも必ずしも実施されていないのが実情である772).また,高齢者では腎機能が悪いため造影剤を用いたCTは困難なことも多く,そのような場合には腹部エコーや頭部MRI で代用する771). 治療においては,腎機能障害のため抗菌薬の副作用発現頻度が高い773).薬剤濃度が安定しないことが多く,多剤を服用しているために薬剤の相互作用も予想される.腎機能障害や認知機能障害を合併することもあり,手術適応があっても手術を実施しない例も多い.高齢者と非高齢者のあいだで院内予後はほぼ同等であるが,高齢者では合併症が多いため退院後の予後は悪い26, 770, 773).手術適応があるにもかかわらず手術を行わなかった例では死亡率が劇的に高くなり,手術を施行できた症例の予後は良好である.フレイルの度合いが低い症例では,高齢であったとしても,適応に応じて手術をすることで予後が改善できる可能性がある770, 774). このように,高齢者IEでは認知機能,フレイルの程度,さまざまな合併症の多くの問題を抱えていることが多いため,多職種IEチームで十分に検討し,手術可能な適応のある症例には十分な術前評価を行って手術に臨む必要がある. 7 人工血管感染(グラフト感染) 7.1 定義,病態 大動脈瘤に対する侵襲的治療は,外科手術として人工血管置換術,血管内治療としてステントグラフト内挿術が