p.90 抽出テキスト
右心系IEに対して三尖弁手術(主に弁置換術)を施行する際,特に術中に房室ブロックが生じた症例では,経静脈リードによる弁の損傷・可動制限や再感染リスクを低減するために,心外膜リードの留置を考慮する732). 5 妊娠中のIE IEの妊娠中の発症率はきわめて稀で0.01%未満である742).一方,心血管疾患合併妊娠症例における産科的合併症発症率は1~4%とされ,母体死亡原因の25%を占める743).IEは妊娠中にも出産後にも生じうる.妊婦の死亡率が高いことから,妊婦でIEが疑われた場合には,積極的な診断と早期の手術が検討されるべきである. 現在,IEを発症した妊婦にさまざまな影響を与える課題は,標準的な抗菌薬に耐性のある細菌の出現,心臓内デバイスや静脈内薬物投与などの「現代的な」リスク要因の増加,院内感染の増加などである598, 744).妊婦におけるIE発症の危険因子は一般集団のものと似ており,主な病因は静脈内薬剤投与,先天性心疾患,リウマチ性心疾患の3つである745, 746).先天性心疾患患者の0.5%が妊娠中にIEを発症する747).弁損傷に関しては,周産期IE患者90人に関するシステマティック・レビュー748)が報告されている.その報告によれば,最も多い30%の症例で僧帽弁損傷が,次いで25.6%の症例で三尖弁損傷が見られるとされる.大動脈弁にIEが関与している症例は少数(17.8%)で,肺動脈弁ではさらにその約半分(7.8%)で,患者の12%で複数の弁の同時損傷があったとされる. IEの妊婦に対する抗菌薬治療では,症例によって個別化された薬剤を迅速に開始して長期継続することが必要で,さらに多剤併用となることが多い749).特定の抗菌薬の胎児毒性効果には特別な注意を払う必要がある750).抗菌薬は,妊娠中投与における安全性に応じて,いくつかのカテゴリに分類される.ペニシリン,アンピシリン,アモキシシリン,セフェム,およびエリスロマイシンは胎児に毒性効果がなく,臨床ガイドラインに従って妊娠IEの患者にすべての妊娠期間で投与可能である.アミノグリコシド系薬,フルオロキノロン系薬,およびテトラサイクリンについては,関連するリスクを考慮して,母親の予後が不確かな重症例に使用することが推奨される.バンコマイシン,テイコプラニン,イミペネム,リファンピシンについては胎児への影響を排除できないため,同様の注意深い判断が必要である747). 母体のIEが疑われる場合はできるだけ早期に抗菌薬治療を開始するが,妊娠中は感染がコントロールされるまで 手術を延期することが推奨される.母体の塞栓症のリスクなど,母体と胎児の両方にとってリスクが高い状況では,必要に応じて手術適応を検討する750).妊娠週数が早い時期に行われる手術は母体のリスクは低いが,胎児の合併症が多いと報告されている751).母体のIEに対する外科手術では,胎児が発育不十分なことに関連する死亡のリスクが高いため,妊娠24週未満で行うことは推奨されず,可能なかぎり妊娠28週以降に手術を行うことが推奨される752). 原因にかかわらず妊婦がIEを発症すると,迅速で適切な管理が行われない場合,複数の合併症により胎児の短期および中期の死亡リスクも高くなる746).IE患者の半数以上が予定日前に出産し,平均妊娠週数は32週である753).これまでの研究は少数例の検討が多いため,IEに罹患した妊婦における新生児の予後に関するデータは不十分である754). IEに罹患した妊娠患者の50~60%が何らかの心不全を発症する755).IEに罹患した382人の妊婦を対象とした最近の分析では,主な産後合併症として脳血管血栓症(23.7%),消化管出血(11.9%),産科血栓(12.9%)が報告されている756).帝王切開が行われた患者の割合は,IEのない妊婦のコホートと比較して高くなっている(56.1%対32.2%) 756).Hubertら222)による脳塞栓症の高リスク症例を予測するアルゴリズムでは,年齢,糖尿病,心房細動,抗菌薬投与前の塞栓症,疣腫の長さ,原因菌として黄色ブドウ球菌の6因子があげられている.塞栓症のリスクが最も高いのは,診断後1週間目である744, 757). 妊娠中のIEは,平均妊娠週数32週で死産(調整相対リスク2.96)または早産(調整相対リスク3.61)のリスクを高める756).早産はさまざまな胎児合併症を伴い,一般的なものは低出生体重,出生時の低APGARスコア,呼吸窮迫症候群,脳室内出血である758-760).新生児の約半数が集中治療室での長期入院を必要とする臨床データもある758). 妊娠のIEの手術の適応は,急性弁逆流症,大きな疣腫,敗血症,心不全である761).合併症リスクとして人工心肺(cardiopulmonary bypass: CPB)が胎児に及ぼす悪影響と,特にワルファリンなどの血管作動薬に関連する副作用が懸念される762).心臓手術は可能なかぎり出産後6週間まで延期し,それが不可能な場合は妊娠13~28週の間の妊娠中期に心臓手術を行うことを推奨する報告がある763, 764). 人工心肺は手術の最大の課題であり,死亡リスクを最小限に抑えるために手術前に帝王切開を行うことを推奨する報告もあるが,死亡リスクは15%にも達することがあるとされる765). IEは,母体と胎児の両方の死亡リスクの上昇と関連して