p.84 抽出テキスト
的抗菌薬投与総論を参照いただきたい.小児においても,抗菌薬の予防投与は抜歯後の菌血症を減少させるという報告はあったものの,IE発症を減少させるという根拠がなかったことから,欧米では2000年代より予防投薬は高度リスク群に限定あるいは一切行わないという方針となった.このガイドライン変更により,当初は小児でもIE発症は増加していないと報告されたが673),その後の経過は第7章の記載どおりである.高度リスク群はIE発症率に加えて重篤度で規定された分類である.中等度リスク群にあたる心室中隔欠損に併発したIEの死亡率は,米国では1%と報告されているが,国内調査では3.8%と心臓手術の死亡率よりも高い632).また,国内調査では中等度リスク群での歯科処置後のIE発症を6%で認めており632),抗菌薬による予防の推奨は,このリスクをどのように考えるかとコストベネフィットおよび抗菌薬による有害事象を勘案して決定される.本ガイドラインでは,AHAの推奨する口腔内衛生を強調することに加えて,従来どおり低リスク群を除いた小児,成人先天性心疾患患者に予防的抗菌薬投与の推奨を継続する. 低リスク群に関しても検討が必要かもしれない.心房中隔欠損が低リスク群に分類されているが,近年増えてきた国規模のフォローアップ研究では,心房中隔欠損でも一般人口よりIE発症が多く,予後もよくないと報告されている576, 577).心房中隔欠損のカテーテル閉鎖後にIEが生じたという報告571)も散見され,その多くで外科的介入が必要となっていることも重要である.日本循環器学会の「2021年改訂版先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患に対するカテーテル治療のガイドライン」674)では,心房中隔欠損閉鎖術後6ヵ月以内の感染性心内膜炎予防が必要であると記載されているが,「2025年JCS/JSPCCSガイドラインフォーカスアップデート版学校心臓検診」675)のガイドライン解説の際には,もっと長い期間の予防が必要であろうというエキスパートオピニオンが紹介された.今後,データのさらなる蓄積が待たれる. 推奨表16に基礎疾患別IEリスクを示す.具体的な予防的抗菌薬投与法については,第7章予防の表24を参照いただきたい. 2 人工弁感染 人工弁感染性心内膜炎(PVE)における最適な治療法については依然として議論がある.一般的には自己弁感染性心内膜炎(NVE)と同様に心不全,治療抵抗性感染,塞栓リスクは手術適応と考えられる39, 186, 474, 676).弁置換後早期 (6ヵ月~1年以内)に発症したPVEは手術適応となる割合がやや高いと言われている677).黄色ブドウ球菌や真菌によるPVEは抗菌薬治療抵抗性である.特に,急速に進行する人工弁周囲逆流,瘻孔の形成,人工弁機能障害による心不全は,早期手術の絶対的な適応である186, 474, 678).手術適応があるにもかかわらず手術されなかった患者の病院死亡率は51%と,手術を施行した症例に比べて2.8倍になると報告されている677).また,523人のPVE患者を対象とした単一の研究では,早期手術によりPVEの1年生存率が改善したと報告されている679).そのため,手術適応がある症例では,手術リスクを考慮したうえで,早期に手術介入を行うことが推奨される. しかし,人工弁感染の手術リスクは依然として非常に高く,約10~30%にも及ぶ577, 680-683).その原因として,再手術自体によるリスクのほか,弁輪周囲膿瘍や仮性瘤の合併が多いことなどがあげられる.したがって,心不全,重度の人工弁機能不全,膿瘍,または持続する発熱を伴う症例では救命的に手術治療が推奨されるものの,上記の絶対的手術適応がないPVEに関しては,手術リスクに応じて抗菌薬継続による内科的治療も検討の余地がある.実際に,大規模臨床研究において,手術の明確な適応がある患者群(弁逆流,疣腫,縫合不全や傍弁膿瘍・瘻孔形成を伴う患者)では手術が有益であった一方で,それ以外の症例では早期の人工弁再置換術は抗菌薬治療と比較して死亡率に差を認めなかったという報告もある474). 近年の大きく変化したこととして,AS患者に対するTAVI適応の拡大がある.PARTNER trialによるとTAVIとSAVRにおけるPVEの発症率に有意差はないとされているが,TAVIの適応拡大に伴い必然的にTAVI-PVEも今後増加してくることが懸念される684).実際にSTS databaseによると,2011年から2020年にかけて,TAVI-PVEに対する開胸外科手術は年1人から116人に増加している685). 2005年から2020年のTAVI-PVEの後ろ向き研究では, TAVI群350人と生体弁SAVR群200人を比較した結果, TAVI群はPVE発症までの期間がSAVR群より短く(12.3ヵ月 vs 50.8ヵ月),新規大動脈弁逆流(AR)の発症率はTAVI群が低いにもかかわらず(13.5% vs 43.4%),心不全発症率はほぼ変わらない(45.0% vs 42.6%)といった特徴があるとされる686). もともとTAVIは高リスク症例に施行されることが多いが,TAVI-PVEに対する再弁置換術はさらに高リスクとされるため,手術適応は慎重に検討されるべきである. TAVI-PVE症例に対する手術施行率は文献的に0~33%と非常に低い112, 687, 688).また,手術が必要と判断された割合