p.76 抽出テキスト
点は,細菌の付着能の抑制や付着した細菌の増殖阻止にあると推測される645).ヒトにおける同様の報告もなされており641),抜歯直後の菌血症を減少させるかどうかが,抗菌薬投与の種類や量を決定する唯一の根拠ではない. IEから検出される細菌のうち,歯科処置時の予防対象となる細菌は口腔レンサ球菌である.口腔レンサ球菌は, anginosus group,mitis group,mutans group,salivarius groupなどに分類される.菌種としては,Streptococcus sanguinis,Streptococcus mutans などの検出率が高い.わが国において,歯性感染症から検出された口腔レンサ球菌のアモキシシリンに対するMIC90 は646),anginosus groupで0.25 μg/mL,mitis groupで0.5 μg/mLであり,経年的に薬剤感受性の低下がみられる.さらに, anginosus groupにはトレラント株(MICで発育は抑制されるが殺菌されない株),mitis group には低感受性株が存在する.一方,歯性感染症由来の口腔レンサ球菌において,クリンダマイシンのMIC90は64 μg/mLであるが,80%の株は0.125 μg/mL以下である.マクロライド系薬であるアジスロマイシンでは,MIC90は128 μg/mLと高く,感受性の累積曲線は2相的であり,高度耐性株がみられる.クラリスロマイシンでは,MIC90は128 μg/mL であり,高度耐性株が存在するものの,MIC80 は4 μg/mL,MIC50 は0.06 μg/mLである. 口腔レンサ球菌を対象とする予防投与として,感受性の点からはペニシリン系薬(アモキシシリン,アンピシリン)が第一選択である.ペニシリン系薬アレルギーの場合はマクロライド系薬(クラリスロマイシン,アジスロマイシン),クリンダマイシンを使用するが,薬剤感受性の点からは予防薬として完全ではなく,つねに低感受性株への注意が必要である. 抗菌薬の選択として,AHAは歯科医院で投与しやすいように経口薬の単回投与を推奨しており597),特に,経口投与でも筋肉内投与に匹敵する血液中濃度が得られ,さらにその効果が長時間維持できることからアモキシシリン2 gを推奨している.動物実験で,標的部位に付着した細菌の再増殖は6~9時間で生じるとの報告があることから,およそ9時間まで血中濃度の維持が求められている647).さらに欧州では,口腔レンサ球菌のトレラント株までカバーするためには10時間以上の血中濃度の持続が必要であり,そのためにはアモキシシリン3 g投与が必要であるとの主張もある648).以上のように,血中濃度のピークとともに持続時間が重視されることから,「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」では,アモキシシリン2 g経口投与とともにアンピシリン1 gの点滴静注も推奨されている649).歯科でよく使用されている経口セフェム系抗薬のうち,血中移行濃度が良好なものはセファレキシン,セ ファクロルであるが,口腔レンサ球菌の感受性はすでに1990年代前半から低下している.一方,プロドラッグであるセフジトレン・ピボキシルなどは,口腔レンサ球菌の薬剤感受性は良好であるが,血中濃度が上がらず血中濃度および持続時間を確保できないことから,IE予防のための抗菌薬としては適切でない.Cefadroxilは現在日本では発売されていない. 本ガイドラインでは,基本的にはアモキシシリン2 gの術前1時間以内の経口単回投与を推奨した(表24).また,小児に対する抗菌薬の投与に関するエビデンスは不足しているが,経口投与可能な対象であればアモキシシリンを選択し,体重1 kgあたり50 mg(最大2 g)を処置1時間前に服用することを前版ガイドラインと同様に記載した.β-ラクタム系薬アレルギーの場合にはクリンダマイシン,クラリスロマイシン,アジスロマイシン,経口不可能な場合にはアンピシリン,セファゾリン,セフトリアキソン,クリンダマイシンを推奨した.何らかの理由でアモキシシリン2 g投与を減量する場合は,弁膜に付着した細菌の増殖を抑制するという薬理学的な根拠から,初回投与の5~6時間後にアモキシシリン500 mgの追加投与を考慮する. しかしながら,抗菌薬の投与のみでIEを完全に予防できるわけではないため,その発症のリスクを少しでも下げるために,歯科処置の直前には,歯の清掃と含嗽薬等の使用により口腔内細菌を可能なかぎり減らしておくことも大切である.さらに,歯科処置後しばらくは原因不明の発熱や体調不良にも留意することも重要である. 4.3 歯科治療以外の処置 4.3.1 歯科・心血管治療以外の侵襲的治療における予防 的抗菌薬投与(表25) 予防的抗菌薬の投与法については,侵襲的処置を行う部位の常在菌を念頭に決定する.IEの原因菌の侵入口として同定されたうち,最も多いのは皮膚とされており(約4割),その6割が医療関連か薬剤常用によるものである596).特にアトピー性皮膚炎はブドウ球菌による菌血症をきたしやすいとされる650-652).また,皮膚疾患の処置は,IE発症リスクと関連すると報告されている594).IEの高リスク患者に対する皮膚疾患の侵襲的処置では,ブドウ球菌を念頭においた予防的抗菌薬投与を推奨する11, 591, 694, 653).耐性菌を除けば,アモキシシリンはブドウ球菌やレンサ球菌,肺炎球菌,腸球菌などに有効なため,基本的にはアモキシシリンを用いて予防的投与を行う.歯科治療前の予防的抗菌薬として