p.75 抽出テキスト
4.2.3 わが国の現状 わが国における予防的抗菌薬投与の現状を把握するために,2016年12月と2024年7月に兵庫県の歯科医師会の協力のもと,主に一般開業歯科医からなる会員に郵送方式でアンケート調査を行ったところ634, 635),歯科治療時にIEの予防目的で抗菌薬を投与するという回答は2016 年調査時は約半数,2024年調査時は約6割にとどまった.心疾患の既往があるすべての患者を予防投与の対象とする割合は,2016年の約2割から2024年には約4割に増加し,高リスク患者のみを対象とする割合は2016年の約8割から2024年には約5割に減少しており,予防投与の対象を広げる一般開業歯科医が増加していると考えられた.抗菌薬の投与方法として,いずれの調査でもほとんどの回答者が経口投与を選び,回答者のうちアモキシシリンを選択するという回答は,2016年調査は約6割で,2024年調査時には約9割に増加した.一方,いずれの調査でも,アモキシシリンの用量として,前版のガイドラインに準じて成人で2.0 gとしたのが約2割,小児で体重1 kgあたり50 mgとしたのは約1割にすぎなかった.また,予防投与の決定をするうえで参照するものとして,ガイドラインと回答が得られたのはいずれの調査でも約半数にすぎず,今後ガイドラインを歯科医師へ広く啓発していくことが必要と考えられた. 2017年3月と2024年5月に,日本小児歯科学会の協力のもと,主に小児歯科医からなる会員にインターネット方式でアンケート調査を行ったところ636, 637),IEのリスクとなる歯科処置に関する認識は,2回の調査でほぼ同様の結果が得られた.いずれの調査でも,回答者のほぼ全員が抜歯に関してIEのリスクとなる歯科処置と認識しており,歯周外科,インプラント処置,膿瘍切開に関しても,9割以上がリスクと認識していることが明らかになった.さらに,約7 ~9割が,ルートプレーニング(歯根表面の歯石などを取り除き表面を平滑にする処置),歯肉よりも歯根寄り(歯根側)に付着する歯石の除去,感染根管処置(歯髄腔内や歯根の先の壊死組織を除去する処置),抜髄(神経を取る処置)をリスクとなる処置としてあげていた.一方で,充填処置に関しては8 割ほどがリスクにならないと認識しており,歯肉よりも歯冠寄り(歯冠側)に付着する歯石の除去もリスクにならないという認識が約7 割を占めた.これらは,それぞれの処置が引き起こすと想定される菌血症の度合いをもとに考慮された結果と考えられる. 前述の日本小児歯科学会会員への2回のアンケートでは636, 637),歯科治療時にIEの予防目的で抗菌薬を投与するという回答が9 割を超えていた.また,その対象者として,心疾患の既往のある例すべてとしていたのが約2 割,高リ スクの例のみとしていたのが約8 割で,2回のアンケートで大きな違いは認めなかった.抗菌薬に関して,約9 割がアモキシシリンの経口投与と回答し,そのうち約7 割が小児では体重1 kgあたり50 mgの用量としていることが2回のアンケートで示された.また,服用のタイミングとして, 2016年調査時には全体の約2割が処置1 時間前(術直前)のみとしていたが,2024年調査時には約6 割まで増加しており,ガイドラインの遵守率が高まっていると考えられた.予防投与に関する情報源に関して,日本循環器学会のガイドラインを知っていると答えた小児歯科医は2回のアンケートでともに約3/4ほどであり,一般開業歯科医に関するアンケート結果より高率であった634, 635).わが国における小児の新生児心疾患の有病率は約100人あたり1人とされており638),一般開業歯科医もIEの発症リスクを有する小児に遭遇する機会は多い.IEリスクを有するすべての小児が発症予防を念頭に置いた歯科治療を受けることができるように,ガイドラインのさらなる啓発活動が重要と考えられる. 4.2.4 抗菌薬投与量 IEが歯科処置による菌血症によって惹起されることは古くから指摘されてきた639).血液中に進入した細菌は肝臓など細網内皮系組織によりすみやかに血液中から除去され,多くは数分後に血液中から消失するため,「一過性の菌血症」とよばれる.歯科処置に伴う菌血症の発症率は,抜歯などではほぼ100%であり,歯石除去でも高率である625).咀嚼や歯ブラシ使用によっても発症する(表23) 626, 627, 640-644). 抜歯後菌血症の発症率は抗菌薬の投与によって減少することが知られている640).一方,IEモデルラットに抜歯を行ったところ,抗菌薬は抜歯後の菌血症には影響を与えなかったもののIEの発症を抑制したことから,抗菌薬の作用 表23 歯科処置による菌血症の発症率 歯科処置発症率(%)抜歯18~100智歯抜歯55スケーリング8~79歯周外科36~88感染根管処置42ラバーダム装着29ブラッシング23咀嚼38 (文献626,627,640-644より作表)