p.73 抽出テキスト
ついてはClass Iで予防的抗菌薬投与が推奨された11),ただし,中等度リスクについて予防的抗菌薬投与は推奨されていない.2021年のAHAのステートメントでもほぼ同様の推奨となっている621). わが国では,予防的抗菌薬投与による利害関係を判断した上で,一貫して中等度リスクに対しても高度リスクに対しても予防的抗菌薬投与が必要との立場をとってきた1, 573-575, 595, 622).IEに対する予防的抗菌薬投与に関するRCTの実施は倫理的,現実的にほぼ不可能である623).ガイドラインの変更に伴うIE発生率の変化についての観察研究, IEリスクのある患者のコホート内症例対照研究が主たるエビデンスである.これらの研究をシステマティック・レビューした結果をふまえ,高度リスク群では予防投与を強く推奨し,また中等度リスク群でも予防投与を推奨する(推奨表16). なお,わが国では「予防的」抗菌薬投与は保険診療上正式には認められていない.本ガイドラインにおける推奨は臨床的な観点からのものであることを付記しておく. 4.2 歯科治療 4.2.1 解剖と病態 歯科の二大疾患はう蝕(むし歯)と歯周病であり,それぞれを引き起こす口腔細菌種によって生じるとされている(図8,図9).歯質硬組織およびその周囲の歯周囲組織が口腔内常在菌の増殖場となると全身血流への細菌侵入路となる. う蝕はおもに,グラム陽性通性嫌気性菌であるStreptococcus mutansをはじめとしたミュータンスレンサ球菌種によって引き起こされ624),歯周病は,Red complexと称される Porphyromonas gingivalis,Treponema denticola,Tannerella forsythiaをはじめとした複数のグラム陰性偏性嫌気性菌種の混合感染によって引き起こされることが知られている625). 図8 にう蝕の進行(健全,C1~C4)を模式的に示す.歯の表層にStreptococcus mutansを含む歯垢が付着することで,う蝕の発症が始まる.歯垢中のミュータンスレンサ球菌は砂糖(スクロース)を代謝して酸を産生し,それによって表層のエナメル質の脱灰が生じて,う蝕が発生する.う蝕の進行が歯髄(神経血管および結合組織よりなる)に達すると,常時口腔細菌が血液中に侵入できるようになり歯髄が感染を起こすとともに,進行に伴い根尖(根の先)に壊死組織が集積した膿瘍を形成するようになる.また,う蝕がさらに進行して歯冠の崩壊にまで至ると,歯髄腔の露出は広範囲になり口腔細菌の血液中への侵入がさらに容易となる. 図9に歯周病の進行を模式的に示す.歯周組織は,歯肉(歯ぐき),歯を支える歯槽骨,歯根を覆うセメント質および歯槽骨とセメント質との間に存在する歯根膜から構成されている.歯周病は,これら歯周組織に発症し破壊が生じる疾患の総称であり,おもに歯肉炎と歯周炎に分けられる.健常な状態から歯肉炎の進行に伴って歯肉が強く腫脹し,仮性ポケットと称される見かけ上の歯と歯肉の隙間が形成される.この状態では歯ブラシの刺激などにより出血が生じ,口腔細菌が血液中に入ることが可能となる.さらに炎症が進行すると,歯肉と歯根との間を結合している上皮に破壊が生じて根の先に向かって破壊が進行することで,真性ポケットと称される隙間が形成される.このポケットの深化に伴い,より病原性の高い嫌気性菌が有意に増殖する環境が醸成され,ポケット内の環境に変化が生じる.そし 図8う蝕の進行と菌血症の発生 歯冠エナメル質口腔細菌 神経と血管が露出 生体内への細菌侵入リスク 口腔細菌象牙質歯髄腔 健全C1 C2 小大 C3 C4 根尖歯根