p.72 抽出テキスト
けた11). 3.3.5 分娩時 経膣分娩後の菌血症の頻度は低いが,IEを生じた場合の重篤度は高い.日本循環器学会の「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン(2018 年改訂版)」では,高度リスク群の疾患をもつ妊婦には経膣分娩時に予防的抗菌薬投与を推奨し,中等度リスク群にもリスクベネフィットを考慮して予防的抗菌薬投与を検討するよう推奨してきた595).本ガイドラインも同様の推奨とした. 3.3.6 皮膚疾患 IEの原因菌の侵入口として同定されたうち,最も多いのは皮膚とされている596).その多くは皮膚切開や薬物静注に伴うものと考えられる.IE の背景疾患として皮膚疾患が占める割合は多くはないが,IEのリスクがある患者でアトピー性皮膚炎を合併する場合には,皮膚専門家への受診を指示するとともに皮膚の清潔の保持を指導し,感染が生じたときはすみやかに治療することが望ましい1). 3.3.7 ステロイド・免疫抑制薬投与 ステロイドや免疫抑制薬を内服していること自体が予防的抗菌薬投与の適応とはならないが,こうした患者がIEのリスクが高く予防的抗菌薬投与が必要(高度/中等度リスク)となるような心疾患を持つ場合には,適応に応じて予防的抗菌薬投与を行い,十分な注意を払う必要があると考えられる. 3.3.8 肺炎などの感染症 肺炎などの感染に伴いIEを発症することは稀に生じうる596).IEのリスクが高く予防的抗菌薬投与が必要(高度/中等度リスク)な患者に感染症をきたした場合,原疾患の治療を行うと同時に,全身性の塞栓症や難治性の病態を呈した場合にはIEも念頭に経胸壁心エコー図検査などの検査を実施すべきである.一方,肺炎球菌はレンサ球菌の一種であるが,血液培養から検出されたとしても,IEの典型的な原因菌とはみなされておらず慎重な判断が必要である17). 3.3.9 その他 中心静脈カテーテル留置については,十分に消毒することを前提に,今回のガイドラインにおいても中心静脈カテーテル手技に際しては予防的抗菌薬投与を推奨しない1).その他,抜髄処置,気管内挿管,TEE,尿道カテーテル挿入,経尿道的内視鏡時には予防的抗菌薬投与を推奨しない1). 4 予防的抗菌薬投与 4.1 予防的抗菌薬投与総論 (関連するシステマティック・レビューとして「CQ1 感染性心内膜炎発症リスクの高い患者に対する侵襲的歯科治療前の予防的抗菌薬投与は推奨されるか?」参照) IEの予防のために,歯科治療時の予防投与が推奨されたのは1950年代からである597).IEのリスクが高く予防的抗菌薬投与が必要な群は高度リスクと中等度リスクに分けられる(第7章2本文,推奨表16参照).当初は中等度リスク群,高度リスク群ともに予防的抗菌薬投与の対象とされてきたが,2000年代から,欧米では中等度リスク群は予防的抗菌薬投与の対象とせず,高度リスク群のみ予防的抗菌薬投与が推奨されるようになった597-599).一方,英国国立医療技術評価機構(NICE)の2008年のガイドラインでは,中等度,高度リスクともに予防的抗菌薬投与の対象としないという方針に転換した600).その理由としては,歯科治療によるIEの頻度がそれほど高くないこと,歯科治療以外の歯磨きなどの日常生活によって生じる菌血症があり,予防的抗菌薬投与よりも口腔内の衛生を守ることが重要であること,予防的抗菌薬投与による副作用や,耐性菌出現に対する懸念などがあった597, 600). 欧米におけるガイドラインの変更後,IE発症率がどのように変化したか多くの観察研究が発表された466, 590, 601-616).これらの結果は観察研究であり,論文を吟味する際には,どのくらいガイドラインが遵守されたかに注意する必要がある610).またその結果は必ずしも一定ではないが,ガイドライン変更後,特に高度リスク群でIE発症率が高くなったとする報告が複数ある590, 608, 616, 617). 一方,予防的抗菌薬投与による耐性菌出現や,アレルギー,偽膜性腸炎などの副作用の懸念もあげられてきた.現在の標準的な手技前1回投与による耐性菌の出現は低いと考えられる.アレルギー,偽膜性腸炎の頻度も高くはない618, 619). その流れの中で,2021年に改訂された米国の弁膜症ガイドラインでは,高度リスク群における歯科治療時の予防的抗菌薬投与はClass IIaで推奨されている620),NICEにおいても,予防的抗菌薬投与を全否定する記載ではなくなった600).2023年のESCのガイドラインでは,高度リスクに