GL検索 v0.1.0
画像は 67 ページを描画したものです
page 67

p.67 抽出テキスト

1 予防の重要性

IEを発症すると長期の抗菌薬投与または外科的治療が必要となる.治療後も長期にわたって感染予防が必要となる.さらに,高齢者や多病罹患患者では,手術が必要でも実施できない場合がある.口腔内の清潔の保持,菌血症を生じうる手技における清潔操作,予防的抗菌薬投与によるIE予防が重要である.

医療の発展にもかかわらず,近年IEの頻度は増加している.米国における調査によると,1990年代から2019年にかけて,IEの発症率は10.2/10万人から14.4/10万人と増えており,最近ではプラトーに達している557).増加率は男性,高齢者でより増えている.欧米各国,わが国における変化も同様であるが,死亡率は改善している558).国民1人あたり所得,平均学歴,出生率について,それらの各国の順位を平均して1 つの指標とした社会人工統計学指数(Socio-demographic Index: SDI)が比較的高い国でIEの発症率が高い8).これは,年齢が高く,人工弁や心内デバイスを用いる率が高いからではないかと言われている.発生率のみならず,疾病による早死や障害によって失われた年数を総合的に示す健康指標である障害調整生存年数(DALYs)を用いた研究でも,全世界的にIEによる負荷は大きくなっている559).このような傾向をふまえても,IEの予防は一層重要となってきたと言える.

2 IEのリスク層別化:患者要因

(推奨表16) IEの予防においては,その対象となる背景疾患・併存疾患を考えなくてはならない.また,予防のために抗菌薬を使用する際には,どのような臨床場面で,どのような菌種に対する抗菌薬を使用するかが問題となる.さらに,使用する抗菌薬の種類,投与方法,投与タイミング・期間が問題となる.

内膜障害の素地となる異常血流の生じる疾患(弁膜症,シャント疾患など)や,そもそも内膜でおおわれていない人工物(心臓植込みデバイス,人工弁)を体内に有する患者が予防の対象となってきたが,それぞれの疾患や臨床状態におけるIE発症率が疫学的研究から明らかにされてきた560-562).こうした疫学的研究に基づいて,IE発症頻度,発症した場合の重篤度から,背景疾患を中等度リスク群,高度リスク群と分類されてきた1).中等度リスク群,高度リスク群ともに一般人口よりはIE発症率が高い.高度リスク群は一般的に中等度リスク群よりもさらにIE発症リスクが高いと同時に,IE発症した場合の死亡率,重篤度が高いものとされている1).

予防的抗菌薬投与を高度リスク群に限定している欧米のガイドラインとは異なり,わが国のガイドラインでは,中等度リスク群,高度リスク群ともにIEのリスクが高く,予防的抗菌薬投与が必要との立場に立つ1).また,心疾患をもっているが,予防的抗菌薬投与を行う必要がない疾患群・状態を低リスク群として明記してきた1, 354).

また,歴史的経緯からわが国のガイドラインでは成人におけるIEリスクと,小児/先天性心疾患によるIEリスクを分けて記載してきた1).成人先天性心疾患患者が増加している現状に鑑み,今回の改訂では,成人のリスク記載でも小児のリスク記載と整合性を持たせる形で先天性心疾患の記載を増やし,一貫性をもって使用できるようにした.これまで成人においては低リスク群を本文中に記載していたが,今回の改訂では低リスク群も表の中に含めた.小児領域の専門的な管理のために,より詳しく記載された小児領域のリスク表も残した(第8章1表28参照).

2.1 高度リスク群

2.1.1 弁膜症術後

人工弁置換術後のIE発症リスクは生涯にわたって高く, IEを発症した場合の重篤度,死亡率も高い562).カテーテルによる大動脈弁,肺動脈弁置換術後のIE発症率も高かっ

第7章 予防