p.64 抽出テキスト
3 術式選択,成績と術後管理 IEの手術は徹底的なデブリードマンが原則であり,感染した組織,異物(人工弁や人工血管)および壊死組織をすべて除去し,組織を再建しなければならない.手術中の所見で術前には予期しない感染病変の進展を経験する.そのために手術アプローチはいかなる手技に対しても対応可能であり,視野のよい胸骨正中切開が原則となるが,僧帽弁IEで病変が限局している症例に限っては右小開胸心臓手術(MICS)も可能である. 3.1 大動脈弁IE 大動脈弁IEは弁輪部への感染波及の有無で術式が大きく異なり,手術難易度も大幅に変わるため,術前診断が非常に重要である. 感染が弁輪部に波及しておらず,弁膜に限局している場合には一般的に人工弁置換術(大動脈弁置換術)を施行する.弁形成術は症例報告単位では存在するものの一般的ではなく,置換術より優れるというエビデンスは乏しい.人工弁置換術においては将来的な生体弁におけるTAV-in- SAV(Transcatheter Aortic Valve Implantation in a Surgical Aortic Valve)やライフタイムマネージメントを考慮し,個々の症例で生体弁・機械弁の選択を検討すべきであるが,脳出血の合併,広範囲脳梗塞の合併,術後に消化管出血のリスクを有する重篤な患者では機械弁の使用は避けるべきである517).機械弁と生体弁の感染制御の優劣について依然議論の余地はあるが,生体弁が機械弁に比して再感染が多い報告が散見される518-520).再感染のリスクがある易感染患者(ステロイド内服,透析,アトピー性皮膚炎など)では弁選択の際に念頭に置くべきである.生体弁におけるウシ心膜弁とブタ弁の感染制御の違いについての報告はあるものの一定の見解はない521, 522). 感染が弁輪部に波及し弁輪周囲膿瘍を形成している場合,小さな膿瘍腔であれば感染巣を掻把し,パッチ形成術と人工弁置換術により治癒しうる523).大きな膿瘍腔の形成でintervalvular fibrosa(IVF,線維性連続)に感染が進展し大動脈弁輪周囲膿瘍を形成すると183),最終的には仮性瘤を形成し,ときにはLV-Ao discontinuity(左室-大動脈瘻)に至る.このような症例では大動脈基部置換術が必要であり,わが国では人工弁を使用したComposite graftによる再建が一般的である524).アログラフトは抗感染性に優れるものの,わが国では入手制限があり,遠隔期の石灰化 の懸念がある.Ross手術は欧米で広く行われ,比較的良好な成績が報告されている525, 526).抗感染性や抗血栓性に優れ, 良好な血行動態が得られるが,大動脈弁に加え肺動脈弁を含む右室流出路再建を要すること,わが国ではホモグラフトの入手制限があり,遠隔期に圧較差上昇の危険性を有するステントレス弁の使用を余儀なくされることなどの注意点を有する.感染がIVFで構成されるAorto-Mitral continuityに及ぶ症例では大動脈弁および僧帽弁置換術に加え同部位の再建を要するCommando手術527, 528)が必要で,IVF以外に他部位の弁輪周囲膿瘍を合併する場合にはさらに大動脈基部置換術を要するため,習熟した外科医による手術施行が望まれる. 3.2 僧帽弁IE 感染が弁膜または弁下組織の一部に限局する場合は,僧帽弁置換術で感染巣の切除と再建は比較的容易に達成できる.しかし,機械弁における血栓弁と抗凝固療法による出血のリスク,生体弁における長期耐久性を考慮すると,弁形成術が望ましい場合が多い.患者背景の相違はあるが,入院死亡率は弁形成術が2.6~11.6%,弁置換術が8.4 ~29.7%であり,総じて弁形成術で低率である529-533).再手術率は同等か,弁形成術が低いという報告がみられる.弁形成術の特徴としては術後1年以内の早期再手術があげられ,逆流再燃のない根治性の高い弁形成術を行う必要がある530, 531).IE再燃率に関しては同等,もしくは弁形成術のほうが低い530, 531, 534).遠隔生存率は弁形成術が優れている529-531, 535). 僧帽弁IEでの弁形成術達成率は,経験豊富な施設からの報告では68~82%と高いが,コホート研究で19.4~ 41.1%である529-301, 536).広範な弁の破壊例では,感染組織の郭清後に,残存組織での弁形成が可能かどうかを判断することが重要である.後尖,前尖のclear zoneに限局した感染巣は弁形成の適応となることが多く,逆流や狭窄のない形成ができた場合,その遠隔成績も良好である.一方,前尖rough zoneが2領域以上にわたって広範囲に感染した症例では,弁形成自体が難しく,形成ができたとしてもMR再燃のリスクは高い535).弁の穿孔病変には自己心膜または異種心膜でのパッチ修復術を行う530).限局的に使用された心膜パッチの成績は安定しているが,広範なものは遠隔期でのMR再燃に注意が必要である.腱索断裂には人工腱索での修復が可能である.感染がコントロールされた心不全のない症例に対する手術は待機的に施行される場合もあるが,早期手術により形成術の完遂率が高くなり,