p.60 抽出テキスト
2.2 うっ血性心不全(推奨表14) うっ血性心不全はIEの最も頻度の高い合併症であり, IEが緊急手術となる主な原因である215).主に弁破壊による逆流で発症し,僧帽弁よりも大動脈弁のIEに多く発症する175).弁破壊以外にも,心内シャントや疣腫による弁の閉塞が原因となることもある.黄色ブドウ球菌はその強い組織破壊から,うっ血性心不全を発症する可能性が高く,診断時の血行動態が安定していても注意深い経過観察が必要である472).心不全の合併は,院内死亡および遠隔期死亡の重篤なリスク因子であり160, 172, 175, 176, 186, 206, 473),人工弁感染でも同様である173, 474-476).心不全を合併したIEの院内死亡率は,内科的治療のみでは45%であるが,外科的治療により21%まで改善し186),予後改善効果は早期手術で高い173, 214, 477, 478).外科的介入のタイミングは,うっ血性心不全を合併した IE患者の予後を大きく左右するため,IEチームで決定すべきであるが,話し合いに際しては,いたずらに時間をかけるのは好ましくなく,迅速に方針を決定すべきである214, 297).感染状態や抗菌薬の投与期間に関係なく,心原性ショック,肺水腫,新たに発症した重症の心不全症状は緊急に手術を施行するべきである.なぜなら,院内死亡率は心不全の重症度とともに増加するが,外科的治療と内科的治療との生存率の差は,NYHA分類III ~IV度の患者でより顕著であるからである186).心不全の最重症である心原性ショックは最大5%の症例でIEの初発症状となり,半数は入院してから72時間以内に発症する475).リスクとしては,組織破壊性の強い黄色ブドウ球菌感染,複合弁膜症,血液透析などがあげられる.心原性ショックを呈したIE患者は内科的治療のみでは死亡率が55~85%と非常に高いが,術後急性期を乗り越えれば,心原性ショックを呈 推奨表14 IE に対する早期手術の適応の推奨とエビデンスレベル 状況適応緊急度推奨クラスエビデンス レベル 心不全急性高度弁機能不全や瘻孔形成による心原性ショック,高度肺水腫,新たに発症した重症の心不全症状に対して早期手術を行う緊急I B 内科的治療に抵抗性(難治性)の心不全,重症の弁逆流や心エコー図による血行動態の悪化(拡張末期左室圧の上昇,左房圧の上昇),中等度・重度の肺高血圧に対して早期手術を行う凖緊急I B 治療抵抗性感染疣腫の増大,弁輪や心筋の膿瘍形成,仮性動脈瘤や心内シャントの形成,心ブロック(房室ブロックや左脚ブロック)の出現に対して早期手術を行う緊急/凖緊急I B 適切な抗菌薬投与後も持続する,血行動態に影響を与える敗血症に対して早期手術を行う緊急/凖緊急I B 真菌や多剤耐性菌(MRSA,VREなど)による感染に対して早期手術を行う凖緊急/待機的I C適切な抗菌薬投与後も持続する感染(3~5日を目処に,血液培養陽性や臨床所見から判断)があり,他に感染巣がない例に対して早期手術を考慮する凖緊急IIa B抗菌薬抵抗性のブドウ球菌,非HACEKグループグラム陰性菌による人工弁IEに対して早期手術を考慮する凖緊急/待機的IIa C 人工弁IEの再燃に対して早期手術を考慮する凖緊急/待機的IIa C 塞栓症予防適切な抗菌薬開始後も1回以上の塞栓症が生じ,残存(>10 mm)または増大する疣腫に対して早期手術を行う凖緊急I B 10 mmを超える可動性の疣腫を有する進行性弁機能不全に対して早期手術を行う凖緊急I B他の手術適応はなく,手術低リスク患者における10 mmを超える可動性の疣腫に対して早期手術を考慮してもよい凖緊急IIb C *特に断りのない場合には自己弁IE,人工弁IEの両方についての記載である一般的に緊急手術は抗菌薬投与24時間以内,準緊急手術は抗菌薬投与後数日以内,待機的手術は抗菌薬投与1~2週後であるIE:感染性心内膜炎