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p.53 抽出テキスト

あった.In vitroでの現象であるが,IEのように感染局所におけるMSSAの菌数がきわめて多量の場合,セファゾリンの効果が減弱する菌接種効果(inoculum effect)がみられる393)(Appendix参照).しかし,本現象が臨床的に与える影響は明らかではない394).

ただし,中枢神経への移行性の問題から,脳膿瘍や髄膜炎を合併している場合はセファゾリンではなく他剤を選択する.一方,高用量のセファゾリンの持続静注を行えば,治療に十分な移行性を担保できるという報告もある395).わが国では代替薬として,セフェピム,メロペネム,バンコマイシンが考慮される.セフトリアキソンはMSSAに対しての抗菌活性が比較的低く,治療失敗例が増えるとの報告があり396),本ガイドラインではMSSAによるIEへの使用を推奨しない.また,セフェピムは高用量で使用した場合,抗菌薬脳症を発症することがある.髄膜炎合併例では,中枢移行性を考慮した抗菌薬投与が2間程度必要であり,脳膿瘍合併例は治療期間全体で中枢移行性を考慮する必要があるため,感染症専門医へ相談する.

セファゾリンに対してアレルギー(アナフィラキシーを除く)がある場合は,ダプトマイシン,セフェピム,メロペネムが選択肢となる.ただし,重度のアレルギー症状のためにβ-ラクタム系薬に忍容性がない場合は,ダプトマイシンやバンコマイシン,テイコプラニンを選択する.

自己弁IEでは血液培養陰性日から4~6週間の治療を行う.ゲンタマイシンの併用は臨床的な有益性が証明されておらず397),腎機能悪化の懸念から本ガイドラインでは推奨しない.

人工弁IEでは血液培養陰性日から6~8週間の治療が必要である.しかし,黄色ブドウ球菌による人工弁IEの死亡率の高さから,感受性があれば,ゲンタマイシンの併用療法が考慮される.しかし,いずれも十分なエビデンスレベルにあるとはいえず398),特に併用することで腎機能障害のリスクが高まるとする指摘もあるため397),アミノグリコシド系薬に忍容性がない症例では,併用療法は必須ではない.併用する場合の投与期間は治療開始2週間とする.

3.2.3 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)

MRSAに対して,わが国でIEに適用を有する薬剤はバンコマイシンとダプトマイシンの2剤である.

ダプトマイシンは濃度依存性に殺菌活性を示す抗菌薬であり,治療効果を高め,耐性株の出現を予防するために≧ 8 mg/kgの高用量での投与が好ましく,8~10 mg/kgでの投与を推奨する67, 364, 399).本剤の副反応として,血中クレアチンキナーゼ(CK)の上昇や好酸球性肺炎などに留意する.

バンコマイシンは,最も臨床的使用経験が豊富な薬剤である.バンコマイシンを選択した場合,治療開始48時間で

のAUC/MIC 400~600が推奨される340).以前は目標血中トラフ値として15~20 μg/mLを目安とする方法が行われていたが,腎機能障害のリスクと関連していたため,トラフ値・ピーク値を利用した2点採血によるAUCの推定に基づいた投与設定を推奨する340).分離されたMRSA株に対するバンコマイシンのMICが>1 μg/mLの場合,上記目標達成には高用量のバンコマイシンを要し,腎機能障害などの有害事象の懸念があるために,他剤へ変更する.バンコマイシンのMIC値と治療成績との関係は,必ずしも明らかではない.一方で,MICが4 μg/mLを超えると転帰不良に関連するという報告がある400).しかしながら,速やかに血液培養が陰性化するなど臨床経過が良好な症例では, MIC値にかかわらずバンコマイシンは継続可能である.

また初期選択薬として,バンコマイシン投与群とダプトマイシンまたはリネゾリド投与群を比較して,バンコマイシン投与群で死亡率が高かったとの報告があり364),今後バンコマイシンを第一選択薬とすべきかどうか検討が必要である364, 401).

バンコマイシンおよびダプトマイシンに忍容性がない症例での代替薬については,現時点で十分なエビデンスはなく,感染症専門医へ相談する.リネゾリドはIEに保険適用を有さないが,IEへの治療成功例の報告があり402),サルベージ療法として使用を検討してよい.しかし,投与期間が2週間を超えると血球減少をきたしやすく,継続使用が難しい場合があることに留意する.

テイコプラニンはバンコマイシンと比較して腎機能障害の発生頻度が低く,バンコマイシンの代替薬として考慮される.テイコプラニンは血中半減期が長く,血中濃度を早期に定常状態に達するために負荷投与が必要であり,血中トラフ濃度は20 μg/mL以上に設定する必要がある340).

治療期間は,MRSAによる自己弁IEでは血液培養陰性日から4~6週間が推奨される.ゲンタマイシンの併用は臨床的有用性が限られ,また抗MRSA薬との併用で腎障害の懸念があるため推奨しない.一方で,MRSAによる人工弁IEでは,血液培養陰性日から6~8週間の治療が推奨される.ゲンタマイシンが併用されるが,十分なエビデンスは乏しい.また,抗MRSA薬との併用による腎機能障害の懸念から,ゲンタマイシンに忍容性がない症例では,併用は必須ではない.併用期間する場合,治療開始2週間とする.

3.2.4 MRSAに対する抗菌薬併用療法

症例に応じてMRSAに対する抗菌薬併用療法を行うことがある.臨床的な有益性の証明は不十分であり,感染症