p.45 抽出テキスト
2.2 人工弁・デバイス関連感染症の場合 原因微生物の推定は,上記のS. aureus・VGS・腸球菌・HACEKグループのグラム陰性桿菌に加え,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)のカバーが必要である.CoNSは,わが国の厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)では80%程度がメチシリン耐性株であるため,エンピリック治療には抗MRSA薬を選択する.また,医療関連感染やデバイス感染例では,緑膿菌などのグラム陰性桿菌のカバーを考慮するが,TAVIを含む術後1年以内の早期人工弁IE・デバイス感染の場合は,黄色ブドウ球菌とCoNSおよび腸球菌が原因菌の大半を占める.一方,術後1年以上経過した後期発症例では,原因微生物は自己弁IEに類似する369).広範なグラム陰性桿菌カバーを行うかどうかは,患者の保菌状況などをみて個別に判断する. 腸球菌による人工弁IE治療では,ゲンタマイシンの併用による相乗効果を期待して,エンピリック治療としての初期抗菌薬にゲンタマイシンを併用すべきという意見もある11).ゲンタマイシンによる腎毒性が認容できる状況であれば併用を検討する. 2.3 血液培養陰性である場合 IEでは90%以上の症例で血液培養陽性となるが56),陰性になるのは,事前に抗菌薬が投与されているケースや,細胞内寄生菌,真菌による場合である370).なお,わが国における培養陰性IEの主な理由は事前の抗菌薬投与である.また,以前は同定が困難であった栄養要求性レンサ球菌やHACEKグループは,微生物学的検査の発展により同定が容易になった68). 細胞内寄生菌や真菌によるIEは,真の培養陰性IEである.細胞内寄生菌であるCoxiella burnetii,Bartonella henselae,Brucella spp.は,基本的に検査結果が陽性と なってからの治療開始が好ましい.ただし,臨床的に疑いが濃厚であり,血行動態が不安定である場合などは,エンピリック治療を開始することもあり,抗菌薬としてドキシサイクリンの追加併用を検討する. 真菌によるIEも,基本的に検査結果が判明してからの治療開始となるが,すでに血液培養以外の検査で深在性真菌症の診断がついており,IEを合併していると考えられる症例ではIEに準じた治療を開始する. 血液培養や抗体検査,術中検体を用いた各種検査でも原因微生物が判明しない場合がある.それまでに用いられた抗菌薬や臨床経過をふまえて感染症専門医に相談する. 3 原因菌が判明した場合 抗菌薬の選択においては,基本的に,殺菌作用を有する抗菌薬を使用する(β-ラクタム系薬,グリコペプチド系薬など) 371).アミノグリコシド系薬はβ-ラクタム系薬と併用することで相乗効果を発揮する(Appendix参照). 3.1 Streptococcus 属菌(推奨表6,推奨表7) レンサ球菌 IEを発症するレンサ球菌の種類を,治療薬の選択の点から便宜的に分類すると,1緑色レンサ球菌(VGS),2 Streptococcus gallolyticus(bovis group),3β溶血性レンサ球菌(化膿性レンサ球菌など),4Abiotrophia defective,Granulicatella adiacens(以前,栄養要求性レンサ球菌 [NVS]と呼称されていた),5肺炎球菌の5つに大別される. VGSはIEの原因菌として依然頻度が高く,市中発症の 表20 髄膜炎,脳膿瘍合併時の抗菌薬投与量 投与量調整が必要な抗菌薬投与量注意点セフトリアキソン1回2g 1日2回1) 髄膜炎合併例では治療開始2週間,脳膿瘍合併例では治療期間全体で本表の投与量で抗菌薬を投与する2) セフトリアキソンはMSSAなど,メチシリン感性ブドウ球菌の場合は推奨しない3) セフェピムの高用量投与時は抗菌薬脳症に注意する セフェピム1回1~2 g 1日3回メロペネム1回1~2 g 1日3回原則として使用しない抗菌薬投与量注意点 セファゾリン投与を推奨しない1) 髄膜炎合併時の症例では,治療開始2週間以内は,本抗菌薬へのde-escalationはしない2) 脳膿瘍合併例では治療期間全体を通して,本抗菌薬へのde-escalationはしない3) 原因菌がMSSAなどメチシリン感性ブドウ球菌かつ髄膜炎,脳膿瘍合併時には感染症専門医へのコンサルテーションを推奨する