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p.39 抽出テキスト

下,三尖弁中隔尖に近接しているため,これらの弁尖の感染,炎症が刺激伝導系に及ぶと房室ブロックを生じる可能性がある.大動脈弁位の感染が弁輪部に波及する弁周囲膿瘍で生じることが多く,新規の房室伝導障害は感染が弁周囲に広がっていることを示す所見である.そのため,新規の房室伝導障害は,感染の制御が困難である可能性が高いことが示唆されるので,緊急手術を検討する必要がある(外科的治療の時期に関しては第5章2を参照).IEの診断時に伝導障害が11.5%,完全房室ブロックは2.8%であったという報告がある10).房室伝導障害は,適切な抗菌薬治療で炎症が収束すると,遠隔期に改善する可能性があるという報告もあるが290),感染の活動性が高い時期にはその予測は難しく,高度房室ブロックに至った症例ではペースメーカが必要となる.感染の活動性が高い時期に恒久ペースメーカ植込み術は避けたいので,感染が収束するまでは一時ペースメーカで対応する.伝導障害が生じる症例は外科的治療が必要である場合が多く,外科的治療の際に心筋電極リードの植込みを検討する.

房室ブロックは,感染の弁周囲への波及,弁輪部の合併症として発生するだけでなく,IEに対する外科的治療の結果として生じることがある.IEの外科的治療後に,12.8%が房室ブロックのためにペースメーカ植込みを必要としたという報告があり,術前の伝導障害,黄色ブドウ球菌による感染,大動脈基部の弁輪周囲膿瘍,三尖弁感染,弁手術の既往が術後のペースメーカ植込みのリスク因子である291).

5 腎障害

IEはさまざまな機序で腎障害を呈することがあり,実際, 2023 Duke-ISCVID診断基準で糸球体腎炎が小基準に含まれている17).急性腎障害(AKI)は入院となったIE患者の53~69%にみられ,頻度の高い合併症である292-294).AKIを合併した患者では,AKIのない患者よりも死亡率が高くなる傾向がある294, 295).6%が透析を要する重度のAKIを発症し,その場合の院内死亡率は40%と高率である296).また緊急手術が必要な患者では,AKIは術後死亡率の増加と関連が示されている297).AKIを合併したIE患者では,1年死亡率の増加や慢性腎臓病の進行と関連もみられる292).

IEに合併する腎障害は表16のような機序が考えられている1, 281, 292, 298).腎塞栓症の合併率は1~10%とされている39, 118, 299).IEに関連した糸球体腎炎は,壊死性半月体形成性糸球体腎炎や,管内増殖性糸球体腎炎を呈するものが多い52).免疫学的機序として免疫複合体の形成や血管炎が関連している可能性が報告されている52, 300).ANCA

の検査をしたIE患者のうち24~28%で陽性となった報告があり52, 54, 55),ANCA陽性例では腎障害をきたしやすい傾向にある54).

IEに関連した薬剤による腎炎は急性間質性腎炎を呈することが多い281).β-ラクタム系薬(ペニシリンやセフェム),サルファ剤,バンコマイシン,リファンピシン,フルオロキノロン系薬などIE診療で頻用する薬剤にも起こることが知られている301).非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やフロセミドもリスクとなる.アミノグリコシド系薬の腎毒性は主に急性尿細管壊死をもたらすことが知られており302),バンコマイシンやNSAIDsとの併用でAKIリスクが上昇するため注意が必要である303).

黄色ブドウ球菌によるIEはAKIになるリスクが高く,感染性塞栓症による腎梗塞や,糸球体腎炎を起こすことが知られている281, 292, 300).特にMRSAではバンコマイシンが使用されることも多く,薬剤性腎障害のリスクもある.複数の病態が併発していることもあるため281),感染による腎炎か,薬剤による腎炎かを区別するには,腎障害の発現時期が重要である.感染による腎炎は,適切な抗菌薬治療を開始する直前に重症度がピークに達し,治療とともに改善する.一方,薬剤による腎炎は治療介入以降に発生し,数日から数週間の薬物治療によって障害が起こりうる38, 301, 304).また,好酸球増多症や尿中好酸球の存在も薬剤性間質性腎炎を疑う所見となる305, 306).

AKIのマネジメントとして,薬剤関連腎炎では,早期発見と原因となる薬剤の中止を行う必要がある301).特に腎毒性のある抗菌薬については適切な抗菌薬血中濃度の維持と定期的なモニタリングが必要であり,IEチームによる介入でAKIの発生率を減少させることが示されている13). NSAIDsの使用は避け,利尿薬や造影剤の使用についても慎重に検討する必要がある.

6 播種性血管内凝固症候群(DIC)

播種性血管内凝固症候群(DIC)は,悪性腫瘍や敗血症

表16 感染性心内膜炎に合併する腎障害の機序

• 感染性塞栓による腎梗塞• 免疫複合体や血管炎が関連した糸球体腎炎• 使用した抗菌薬や他の薬剤よる腎毒性• 心不全による血行動態の影響(腎前性腎障害) • 造影剤による腎毒性