p.37 抽出テキスト
10週間の脳卒中発症に差はなかった.半数以上が抗凝固療法を継続し,継続した患者では10週間で脳卒中発症はなかった253).発症前から抗凝固療法の適応がある患者では,頭蓋内出血などの禁忌事項がないことを確認して抗凝固療法を継続する11).ワルファリンの内服を継続する場合,抗菌薬治療に伴う腸内細菌叢の変化などによりPT-INR値の管理が困難になることが予想されるため,必要に応じてヘパリンへの切り替えを検討する.頭蓋内出血患者や手術予定患者では経口抗凝固薬からヘパリンへの切り替えが適切である11). 一方,IE患者に対する新たな抗血小板療法の開始については,アスピリンとプラセボを比較したRCTにおいて,塞栓症のリスクを減少させず出血性合併症のリスクを増大させる可能性が示されているため254),推奨しない.抗凝固療法についてのエビデンスは少ないが,同様に出血性合併症のリスクを増大させる可能性があるため,新規の開始は推奨しない. b. 中枢神経合併症に対する急性期再灌流療法 IEに合併した急性期脳梗塞に対する経静脈的血栓溶解療法については,治療後の頭蓋内出血の発症率が20%と非常に高く,予後も不良であることが報告されているため255-257),推奨しない.疣腫による急性期主幹動脈閉塞に対する血栓回収療法に関しては少数例の報告のみであるが,良好な成績で,抗凝固療法中の症例でも血栓回収療法は安全で効果的である可能性が示唆されている258-262).非IE患者と比較すると,IE患者では急性期再灌流療法後の転帰は不良で,頭蓋内出血は多いが,再灌流療法を受けない場合との比較ではないことに注意が必要である263).なお,血栓回収療法を行う場合は,回収栓子の病理検査と細菌検査を実施する11). c. 脳内出血,出血性梗塞に対する治療 症候性の脳内出血やmass effectを呈する出血性梗塞を認める場合には抗凝固療法の中止・中断を考慮し,頭蓋内圧亢進を伴う場合には開頭血腫除去術または開頭減圧術を考慮する264). d. 感染性脳動脈瘤に対するコイル塞栓術/直達手術 感染性脳動脈瘤は,感染性塞栓子により血管内から感染が波及し発生する場合と,静脈洞感染や髄膜炎などにより血管外から波及する場合があり,前者は遠位部に,後者は近位部に発生しやすい265).IEは感染性脳動脈瘤の主原因であり,その病態は前者に属することから,遠位部病変の頻度が高い.また血管壁は脆弱で,通常の嚢状脳動脈瘤のようなネックを有しないことも少なくない. 治療方法に関してRCTに基づく明確なエビデンスは存在しないが,図6に感染性脳動脈瘤の治療アルゴリズムをまとめた.破裂の有無にかかわらず,いずれの治療群にお いても抗菌薬治療は必須である.破裂動脈瘤,未破裂であっても中型~大型の病変や抗菌薬療法を行っても増大する動脈瘤は,血管内治療や直達手術を考慮する266).近年,血管内治療の頻度が増えており,低侵襲かつ多発性病変を一期的に処理可能という利点がある.しかし,大きな脳内血腫を伴う場合や,病変が比較的近位にあり母血管を瘤ごと閉塞(trapping)する際に血行再建術(バイパス術)が必要な場合には,直達手術が必要となる267, 268).2002~2011年の米国NIS(Nationwide Inpatient Sample)データベースを解析した報告では,IE診断後に破裂および未破裂感染性脳動脈瘤を指摘された393人のうち73人で瘤に対する治療が施行され,その内訳は血管内治療63%,直達手術37%であった269).この報告では,血管内または直達手術の実施率は破裂脳動脈瘤で18%,未破裂脳動脈瘤で25%に留まり,多くの例が保存的に治療されていたが,治療方法や保存的治療の選択は予後不良因子ではなかったという.しかし,すでに感染性脳動脈瘤が破裂している場合,あるいは未破裂であってもサイズ増大がみられる場合には,治療介入を考慮すべきである.ただし,通常の非感染性脳動脈瘤と異なり,単純なネッククリッピングや瘤内塞栓術が不可能な例も少なくない(図6).母血管遮断術(trapping)を要するのか,その際にバイパス術を併用すべきか,多発性の場合どの瘤を治療してどの瘤を保存的治療に委ねるのか,など症例固有の多くの問題があり,脳神経外科医による高度な判断が必要となる. 3.3 脳梗塞以外の全身塞栓症 3.3.1 脾臓 IEの20~50%に何らかの塞栓症を合併するとされ270, 271),左心系IEにおいては脳と脾臓に最もよくみられる10).塞栓症の発症リスクは抗菌薬の開始前後で最も高く,その後は抗菌薬投与に伴い低下する42, 43).左心系IEに対してCTを施行すると,31%に脾梗塞がみられたとの報告がある118).脾梗塞は無症状のことが多いが,左上腹部痛,発熱がみられることもある.稀ではあるが,脾膿瘍や脾破裂を合併する272).脾梗塞の診断には,造影CT,腹部超音波,MRIが有用である.単純CTでは脾梗塞と脾膿瘍の鑑別診断は困難なことが多く,脾膿瘍の診断には造影CTの感度・特異度が高い273).なお,2023 Duke-ISCVID診断基準では脾膿瘍は小基準の1つに分類されている17). 予後や心臓手術の時期に多大な影響を与える脳塞栓症とは異なり,脾梗塞の場合,その存在診断が治療内容に影