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p.29 抽出テキスト

ル操作により大動脈弁の疣腫が移動して脳あるいは全身性塞栓症を起こす可能性は低いとされている一方で,カテーテル操作が原因と強く疑われる脳および全身性塞栓症も数例報告されている152, 153).塞栓症以外では,急性腎不全あるいは新たな透析導入というリスクが指摘されている.腎機能が低下する原因は,造影剤の使用や不安定な血行動態,長時間の体外循環,抗菌薬の使用など多岐にわたるが,冠動脈造影検査と外科手術の間が短いことがリスクではないかと考えられている.先行研究では,新規透析導入は約15%で必要とされ,約30%で退院時の腎機能が悪化していると報告されている152).近年,冠動脈病変の評価に冠動脈CT検査が頻用され,IE例でも有用とされている.塞栓症のリスクを伴わずに冠動脈病変を評価できる点で優れているが,造影剤を使用する点では血管造影と同じであり,腎機能障害のリスクがあることに注意すべきである.

同じ血管造影でも,脳血管造影検査の是非については,ほとんど検討されていないが,感染性心内膜炎を疑う患者で脳出血またはくも膜下出血を認めた場合,脳血管イメージング(脳血管撮影,CTA,磁気共鳴血管造影[MRA])による感染性脳動脈瘤の検索を行うことが強く推奨されている128).詳細は第3章3.2.1 中枢神経合併症の頻度,種類を参照.

5.5.2 腹部エコー検査

IE例での,腹部臓器の塞栓症の評価については,造影CT検査が頻用されている.腹部エコーは低侵襲であり,特に腎機能低下などで造影CT検査が施行しにくい場合には有用である.コントラストエコーが通常の腹部エコーよりも,脾および腎梗塞の診断に優れていると報告されているが,他のモダリティーと比較した成績は明らかでない154).

6 入院時に行うべきIEの合併症/ 死亡リスク評価

IEでは,加療しても入院中の死亡率は15~30%と高く10, 35, 155),近年は改善傾向であるとする報告156)もあるが,一方でここ20年ほど大きな変化はないという報告もある157).IE患者の予後を改善するために入院後にまず行うことは,その後に起こりうる合併症リスクを評価し,その予防手段(早期の手術など)を可及的速やかに講じることである.特に中枢神経合併症を伴う大きな脳塞栓症は,予後不良因子であるとともに救命に必要な手術時期にも影響を及ぼす.そのため,塞栓症のリスクが高いと考えられる例では,塞栓症予防のためにも早期の手術を検討する必要

がある.ここでは,入院時に行うべきIEの合併症および死亡リスク評価について述べる.

IEの合併症および死亡リスクの評価は包括的かつ多角的に行われる必要があり,多職種からなるIEチームによって行われることが望ましい11).IEにおいては,患者背景, IEの臨床的合併症,原因菌(病原微生物),心エコー図所見の4つが主な予後規定因子であるとされる10, 11, 35, 155)(表11).特に,高齢者,人工弁感染,心不全合併,敗血症性ショック,脳合併症,人工透析,弁輪周囲膿瘍,黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染は,強力な院内死亡の予測因子とされている10, 35, 155, 158, 159).その中でも黄色ブドウ球菌によるIEは,急激な病状進行を辿ることが多く,心不全や脳塞栓症による死亡リスクが高い160).そのため,治療抵抗性の黄色ブドウ球菌による左心系IEでは早期手術が推奨される161).非HACEKグループグラム陰性桿菌では,早期の手術に引き続いて長期間の抗菌薬治療が必要

表11 感染性心内膜炎の予後と関連する主な4 つの因子

1)患者背景• 高齢者• 人工弁感染• 人工透析• 外科手術の高リスク例(frailty,脳血管疾患併存など) • 糖尿病• チャールソン併存疾患指数aが高値となる併存疾患2)IEによる合併症• 心不全• 脳合併症• 敗血症性ショック• 腎不全3)原因菌(病原微生物) • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) • 多剤耐性菌• 真菌• 非HACEKグループグラム陰性桿菌• 抗菌薬開始後48~72時間後も菌血症が持続4)心エコー図所見• 弁周囲合併症(膿瘍など) • 左心系の疣腫• 10 mm以上の疣腫• 重症の左心系弁逆流• 左室駆出率低下• 肺高血圧• 人工弁機能不全• 高度な左室拡張不全または左室拡張末期圧上昇所見特にリスクが高いものを太字で表示するa 入院時の併存疾患から予測死亡を算出するために作成されたスコア(表12参照)