p.21 抽出テキスト
2 症状・身体所見 IEの臨床症状は急速に進行するものから数週から数ヵ月単位の亜急性~慢性の経過を辿るものまでさまざまである25).また臨床症状も多彩であり,特に急性の経過での原因不明の敗血症やIEのリスク因子(表8) 11, 25-34)を有する患 者の発熱ではIEを考慮する必要がある.一方で,亜急性から慢性経過のIEでは,悪寒,倦怠感,体重減少などの非特異的症状で経過し,診断に難渋することがある25).発熱はIE患者の77~96%にみられる主要な症状であるが10, 26, 35),抗炎症薬の使用により発熱がマスクされ診断が困難になる場合や,高齢者や免疫機能が低下している患者では発熱がない場合もあり,注意が必要である1).その他の非特異的な症状としてIE患者の44%で筋骨格系の症状がみられる.その内訳は四肢の関節痛(38%),関節炎(31%),腰痛(23%),びまん性の筋肉痛(19%)であり,症状は通常,IE発症早期から出現する36, 37). IEの症候論は心臓への直接傷害と心臓以外への塞栓や炎症の波及による傷害に由来するものと大別できる.まず心臓に関しては,うっ血性心不全,弁膜障害による弁逆流,伝導障害を起こすことがある.IE患者の27%にうっ血性心不全がみられた報告があり10),咳嗽や呼吸困難の有無を確認し,頸静脈怒張,過剰心音,浮腫などの身体所見に注目する必要がある.IE患者において,65%に心雑音が聴取されたという報告10)や,新たな心雑音は48%,既知の心雑音の悪化は約20%に起こるという報告があり25),弁逆流による心雑音の有無を確認することも大切である.新規の逆流性心雑音の聴取は2023 Duke-ISCVID診断基準17) の小基準にも含まれている.一方,右心系弁膜症や急性発症の大動脈弁逆流症では心雑音の聴取が困難な場合があることが留意点である38).伝導異常は12%でみられ,そのうちI度房室ブロックが8%,III度房室ブロックが3%であったとの報告があり10),伝導障害に伴うめまい,失神などのエピソードに注目する必要がある.非特異的な所見(いつもより朗らか・暗い等)もあり,注意が必要である. 脳梗塞,冠動脈塞栓症による急性心筋梗塞,肺塞栓,脾梗塞,腎梗塞などの塞栓症は20~35%程度合併することが知られている10, 26, 39).脳卒中はIEの最初の臨床症状となる場合があり,死亡率の増加に関連する深刻な合併症である40, 41).脳卒中の発症率は,抗菌薬治療開始後2週間で経時的に低下することが示されており42),塞栓症全体をみても抗菌薬による治療開始後2週間を経過すると発症率が低下する43).心筋梗塞,肺塞栓では胸痛,脾梗塞では左季肋部痛,腎梗塞では背部痛や側腹部痛,血尿を伴うことがある.また,四肢の末梢動脈に塞栓が起こった場合には末梢の冷感を呈することや,椎体炎や腸腰筋膿瘍では背部痛や腰部痛を伴うことがある. 脳卒中以外の中枢性合併症として,脳膿瘍や脳動脈瘤,髄膜炎があり,重度の頭痛や,項部硬直,痙攣,巣症状,意識障害がみられる44, 45). 皮膚・粘 膜の所見として最も多いものは,塞栓による直接の血管破綻または自己免疫機序によることも仮説として提唱される点状出血や紫斑であり(20~40%),結膜や頬粘膜,口蓋,および四肢に現れることが多い46, 47).頻度は低いが確認するべき身体所見として,手掌や足底の無痛性紅斑であるJaneway病変(4~5%),指腹や母指球などにみられる有痛性皮疹のOsler結節(2~3%),爪の線状出血斑(8%),眼底のRoth斑(2%)がある10, 35, 48).脾腫(11%)を認めることもある13).皮膚・粘膜所見について図3~5にまとめた. 図3 IE の身体所見(下眼瞼の点状出血) 表8 IE のリスク因子 非心原性• 高齢者a • 口腔衛生不良/観血的歯科治療歴• 血液維持透析• 中心静脈カテーテルの使用心原性• IEの既往• 弁膜疾患• 先天性心疾患• 人工弁• 心臓埋め込み型デバイスa 年齢が60歳を超えるとIEのリスクが増加する報告が多い25-29) IE:感染性心内膜炎(文献11, 25-34を参考に作表)