p.15 抽出テキスト
発する感染症を合併したり,菌血症を生じうるような手技や処置の施行後に発症するのが典型的な経過である.しかし,ときに心疾患の既往がない例に発症することもある.これは,心疾患が見逃されていた可能性も考えられるが,黄色ブドウ球菌などの感染力の強い菌を原因菌とする場合では,正常弁にもIEを引き起こすことが知られている.さらには,誘因が明確でない例も多く,不明熱の症例では常にIEの可能性を念頭に置いて診断にあたることが重要である. 2 IEの最近の動向 IEの発症頻度は比較的低いが,発症後に起こる臓器合併症などのため,死亡率が非常に高い疾患である5-7).最近の30年間での検討ではIEの発症頻度は世界的に上昇してきており,人工弁感染性心内膜炎(PVE),心臓植込み型デバイス関連感染性心内膜炎(CDRIE),医療関連感染が原因となる感染性心内膜炎(healthcare-associated infective endocarditis: HAIE)の増加が特徴的である8).わが国の循環器疾患診療実態調査(JROAD)データベースを用いた検討では,発症頻度は欧米のデータに比してやや低いものの,10万人年あたりの発症率は2016年の2.02から2019年の2.59に上昇している.患者は男性,高齢者に多く,発症時に多臓器合併症を伴う患者が増加しており,院内死亡率は約15.4%と高値である9). IEにおける原因菌の上位3菌種は,ブドウ球菌,緑色レンサ球菌(VGS),腸球菌で全体の80~90%を占める. VGSの頻度は低下傾向で,わが国を含め先進国では特に黄色ブドウ球菌が増加傾向にあり,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の頻度が高くなってきている10). 3 チーム医療の必要性 IEは臨床徴候や治療が医療の多分野にわたることから,複数領域の専門家が協力して診療にあたることが望まし い.循環器診療におけるハートチームの重要性は冠動脈疾患や弁膜症で明らかとなっているところであるが,多彩な病像を呈し高度の専門的知識を必要とするIEの診療では,より広い領域にまたがるチーム(IEチーム)が必要となる11-13).IEの診断,管理には循環器内科医,小児循環器内科医,感染症医,放射線科医が必要であり,心臓手術を必要とする例では心臓血管外科医との協力が必須である.さらに中枢神経系合併症の管理には脳神経内科医,脳外科医,歯科治療に伴うIEの発症予防については歯科医の協力なく行うことはできない. 実臨床においてこのような専門家集団で診療にあたることは容易ではないが,少なくとも関連する分野の専門医と緊密にディスカッションしながら診療にあたるべきである.たとえば,弁破壊の著しい例や可動性に富む疣腫を有する例では,緊急手術を念頭に診断時から心臓外科医と連絡を取るべきである.さらに,診療を行う施設には,経食道心エコー図(TEE),computed tomography(CT),磁気共鳴像(MRI),核医学検査,心臓カテーテル検査などが随時行える体制や,心臓外科手術をはじめとした侵襲的治療を緊急で行える体制が整っていることが望ましい. 4 専門病院に紹介すべきタイミング すべてのIE 患者がIEチームを擁した専門病院を受診するわけではない.もちろん弁破壊が軽度で心不全もなく単一の抗菌薬で速やかに感染をコントロールできるような症例は,非専門病院での加療も可能である.一方,複雑な病像を示すIE患者,たとえば,循環・呼吸不全,重症の弁逆流,人工弁・CIED患者,脳卒中・塞栓症の発症,7日以上の抗菌薬治療でも血液培養が陽性の場合,あるいは自施設で管理が困難と判断する場合には,チーム医療が実践されている専門施設にコンサルトするか,転院を目的として紹介すべきである11).いずれにしても,初診にあたった非専門病院では,まずIEを疑うことが重要で,疑わしい場合は専門病院に紹介することが救命率向上に有効である.