p.119 抽出テキスト
1.2 特殊な現象 1.2.1 Inoculum effect(接種菌量効果)およびEagle effect 細菌と抗菌薬の関係では,薬剤感受性試験だけでははっきりしない現象が存在する. Inoculum effect(接種菌量効果)とは,薬剤感受性試験において接種菌量が多いと抗菌薬の効果が減弱する現象である.β-ラクタマーゼを多く産生する菌や病変部位において菌量が多い症例(骨髄炎や関節炎,IEなどの膿瘍形成が強い場合)に起こしやすくなる.報告されている細菌と抗菌薬の組み合わせでは,Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)とセファゾリン827)やESBL産生のEscherichia coli (大腸菌),Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)とセフォタキシム,セフトリアキソン,セフタジジムなどがある828). NanniniらはMSSA IE患者におけるセファゾリンで確認されたことを報告している829).日本では佐伯らによって調査研究830)がなされたが,inoculum effectが治療失敗につながる結果は得られなかった.現段階では抗菌薬治療への影響ははっきりしていない. Eagle effectとは,1948年にH. Eagleにより確認された現象で,Streptococcus spp.とEnterococcus faecalis, Staphylococcus spp.に対するペニシリンGの殺菌効果が,最小殺菌濃度(Minimum Bactericidal Concentration: MBC)を大きく上回る濃度条件下では殺菌されずに生育する(逆説的増殖)ことである831).この現象は,高濃度のペニシリンGに曝露されることで細胞壁の合成能が低下し,結果として抗菌薬の効果が低下することが原因であるとされている832).当初はin vitroのみで観察される現象と考えられていたが,その後の研究により,in vivoでもEagle effectが臨床的に影響を及ぼす可能性が示唆された.実際に,β-ラクタム系薬単剤の治療と比較して,タンパク合成阻害薬との併用により臨床効果が向上したとの報告があり833),さらに,この併用によりEagle effectそのものが抑制されることも確認されている834).一部の臨床ケースでは治療失敗の原因となる可能性があるものの,抗菌薬の選択と投与方法については依然として一貫した結論には至っていない. 2 診断:微生物学的検査 IEの診断に関わる検査のうち微生物検査はきわめて重要な検査である. 血液培養検査は最も基本的な検査であり,微生物が検出された場合は,微生物の特定と治療に必要な抗菌薬の感受性結果について情報提供をすることになる. Appendix 表2 TDM 対象薬の推奨される使用法と,わが国で承認された使用法の関係 ゲンタマイシンバンコマイシンテイコプラニンPK/PD パラメータCpeak/MIC AUC/MIC AUC/MIC 投与法(腎機能正常時) 1日3 mg/kgを2~3回に分割1日2~3 mg/kgを1回投与*初回のみ 25~30 mg/kg維持量 15~20 mg/kg, 1日2回1 日目・2日目:12 mg/kg,2回3日目:12 mg/kg,1回4 日目以降:6.7 mg/kg,1回採血時点(腎機能正常時)投与開始 2 日目投与開始2~3日目投与開始(3)~4日目 採血ポイントピーク濃度点滴開始から1時間後(30分投与の場合,終了30分後)点滴終了後1時間~2時間(2点採血が必要な場合)測定しない トラフ濃度投与前30分以内 目標血中濃度ピーク濃度3~5μ g/mL(2~ 3分割投与の場合) 10~12μg/mL (1回投与の場合) - - トラフ濃度1μg/mL未満- 20~40 μg/mL 目標AUC設定なし400~600μg・h/mL **設定なし 添付文書の用法・用量など1日3 mg/kgを1~3回に分割1日2 gを2 または4回に分割初日800 mgを2回に分割,2日目以降 1日1回400 mg,4日目以降 腎機能に応じて調整*Staphylococcus属菌やEnterococcus属菌では1日1回投与を推奨する**ベイジアン法に基づくソフトウエア等を用いてAUCを推定し,投与設計を行うことが望ましい