p.99 抽出テキスト
6.3 予後 海外の報告では,PoPHの予後は5年生存率50%前後であり,死因としては肝臓死がもっとも多いが,背景肝疾患の重症度により死因は異なると報告されている819, 820). JAPHRによるわが国のPoPHの予後は,1年生存率94.7%,3年生存率88.5%,5年生存率80.2%と他国よりも良好であり,死亡の約60%が肝臓に関連した死亡(肝細胞がん含む)であった821).ただし,海外とわが国では肝硬変の背景疾患や肝硬変に対する治療プロファイルが異なるため,単純な比較はできない. 6.4 治療 PoPH患者は,PHと肝疾患の両方の疾患管理が可能な専門施設への紹介が望ましい.なお肺動脈圧が高くても,高CO,PVR正常などPHの基準を満たさない門脈圧亢進患者に対しては,肺血管拡張薬は推奨されない. 6.4.1 一般的なPAHに対する治療 利尿薬,酸素投与,運動制限などは他のPAHと同様である.PoPHは高COであることが多く,肺うっ血や右心不全予防に利尿薬を強化しておくことが望ましい.ただし,腹水貯留により血管内血漿量が減少している場合には注意を要する. 6.4.2 肺血管拡張薬による治療 PoPH患者を対象とした小規模な研究はいくつかあり,シルデナフィル,ボセンタン,アンブリセンタンにて血行動態,運動耐容能の改善を認めた.これらの研究では肝機能の重症度による層別化はされていないが,症例の多くはChild Pugh AまたはBであった822-825). マシテンタンを用いたPORTICO試験は,PoPHを対象とした唯一の多施設共同,プラセボ対照の二重盲検RCTである.Child Pugh A,BのPoPH患者を対象にマシテンタン10 mgを新規開始もしくは追加投与したマシテンタン群43人,プラセボ群42人の12週後のPVRを比較した.マシテンタン群のプラセボ群に対する幾何平均比は0.65 (95%CI 0.59~0.72,P<0.0001,ANCOVA)であり,マシテンタン群ではプラセボ群と比較し35%のPVR低下を認めた826). 2022年改訂版ESC/ERSガイドラインにおいても, PoPHの治療は他のPAHの治療アルゴリズムから分けられている114).日本肺高血圧症レジストリ(JAPHR)のデータでは,PoPH患者の68%が併用療法を受けており,血行動 態の改善を認めた821).初期治療は単剤治療で開始し,背景の肝疾患や肝移植の適応を考慮しながら,逐次併用療法を実施することが推奨される.なお,他のPAHにおいて推奨されている初期多剤併用療法の有用性のエビデンスは乏しい. 6.4.3 肝移植におけるPoPH治療の役割 肝移植の適応は肝不全の重症度によって決まる.PoPH患者においてはmPAPが35 mmHg未満,またはPVRが250 dyne・秒・cm -5未満であれば比較的安全に肝移植を行うことができるが,肺高血圧の存在自体が肝移植の大きな危険因子であった827).このため門脈圧亢進症の肝移植前のスクリーニングとして,心エコー図検査は推奨される.近年の報告では,mPAP≧35 mmHgかつPVR≧3 Wood単位の患者でも,術前に肺血管拡張薬の治療を行うことにより血行動態の改善を認め,肝移植を受けた25人中19人が6ヵ月後の追跡でも生存していた828). わが国の既報によると,肝移植待機例157人の検討において,RVSP が50 mmHg 以上の6人中3人(1.9%)がPoPHと診断された.このうち1人は肝不全のため死亡した.残りの2人のmPAPは高値であったが,その後マシテンタンを含む薬物療法により低下し,肝移植が考慮された813).PoPH患者の肝移植の適応は,肺血管拡張薬の治療を行い,PVRが正常,または正常に近い状態に改善を認めた場合において個別に検討される. 7 成人先天性心疾患に伴うPAH 成人先天性心疾患(ACHD)患者におけるPAHの合併は,患者の臨床状態や生命予後に大きな影響を与えることが数多くの研究で報告されている114, 829).ACHDにみられるPAHはPH臨床分類の第1群に含まれることが多いが,成因は多岐にわたり,左心系疾患に伴うPAH病態を伴っていたり,肺疾患や低酸素血症に伴うPAHが併存している場合もある114, 830).このため,ACHDのPAH評価は患者ごとに病態把握を行うことが重要となる. ACHDに伴うPAHは,臨床的に表34のように分類されるのが一般的である831).心室中隔欠損(VSD)を伴う肺動脈閉鎖などのACHDの中には,一部の肺動脈分枝にのみPHを引き起こす肺動脈分岐の先天性異常を伴うものがある.このような疾患では,肺動脈全体ではなく,該当する肺動脈領域のみが分節的PHを呈する.