p.87 抽出テキスト
医療を受ける機会を逸している可能性がある.終末期は呼吸困難,下腿浮腫,腹部膨満感などの身体的症状に加え,うつ症状や不安といった精神的な負担も大きいが,評価が不十分な可能性がある716). 終末期に近づいた場合には,多職種で終末期の医療に関する患者自身のニーズを頻回に評価することが望ましい.心不全や肺疾患ではオピオイドの有効性や安全性が報告されているが717),慢性期のPAHへの使用は副作用増強の懸念もある718)ことから,経験のある施設において終末期での使用を検討する.精神的症状への抗精神病薬や三環系抗うつ薬に関しては,肺血管拡張薬との相互作用を踏まえ,慎重に検討すべきである. 2 SSc-PAH(推奨表23) 2022年改訂版ESC/ERSガイドラインでは114),基礎疾患の膠原病(CTD)の種類にかかわらず,CTDに伴うPAHを1つの亜群(CTD-PAH)として分類している.本ガイドラインでは,CTD-PAHをSScに伴うPAH(SSc-PAH), SSc以外のCTDに伴うPAH(non-SSc CTD-PAH)に分け,その特徴を記載する. 欧米ではSSc-PAHがCTD-PAHの60%以上を占めるのに対し719, 720),わが国を含む東アジアではnon-SSc CTD- PAHの割合が比較的高い576, 721).また,non-SSc CTD- PAHでは,肺血管拡張療法のみならず免疫抑制療法が有効な例があることを踏まえ,今回の改訂に反映させた. 2.1 疫学,成因,予後 これまでSScにおけるPAHの合併率は7~12%と報告されてきた722-725).加えてSSc患者では,以前はボーダーラインとよばれていたmPAP 21~24 mmHgの軽度のPAP上昇がしばしばみられる726, 727).PHの新しい定義(mPAP> 20 mmHg)に照らし合わせると,SScにおけるPAHの合併率はさらに高い可能性がある. SSc-PAHは長期の罹病期間を経て発症に至ることが多い.組織学的には肺動脈~肺静脈と広い範囲の肺血管における線維性内膜肥厚および内腔狭窄,肺毛細血管の消失を特徴とし,炎症細胞の浸潤に乏しい728).また,SSc- PAHの肺血管内膜にはα平滑筋アクチンとフォン・ヴィレブランド因子を共発現する細胞の存在が報告され729),内皮間葉転換が病態に関連する可能性が示唆されている. SSc-PHには多様な臨床分類群がみられ,PAHだけでなく,第2群,第3群の混合型のほか,肺静脈/肺毛細血管 病変の合併もしばしばみられ,複雑な病態を呈する例も少なくない730, 731). SSc-PAHの生命予後はI/HPAHやnon-SSc CTD-PAHに比し不良で720),この傾向はPH治療薬の併用療法が広く実施されるようになった以降も続いている732, 733).予後不良因子として,WHO機能分類III/IV度,CIや一回拍出係数低下,PVR高値などの血行動態指標,高齢,男性などが指摘されている576, 734-736). 2.2 診断,スクリーニング SScには国際的な分類基準あるいは国内での指定難病としての診断基準(認定基準)が作成されており,それらを参考に診断を進める.ただし,これらには除外基準が設けられており,早期,軽症例など,これらの基準を満たさない例も存在することから,診断に際しては膠原病・リウマ推奨表23 SSc-PAH の診断,治療に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル SSc 患者に対して,PAH リスクを毎年評価する. I B罹病期間>3 年,FVC ≧40%,%DLCO <60% の成人SSc 患者に対して,無症候性PAH の特定を目的としたDETECTアルゴリズムを使用する. I B非侵襲的検査を行っても説明できない息切れを有するSSc 患者に対し,PAH の除外を目的としたRHC 検査を行う. I C SSc 患者に対し,息切れの評価にもとづき,心エコー図検査または呼吸機能検査とBNP/NT-proBNP を組み合わせたPAHリスク評価を考慮する. IIa B SSc 患者を診療する医療機関においては,PAH リスク評価に関する機関全体としての方針の策定を考慮する. IIa C症候性SSc 患者に対して,運動負荷心エコー図検査,CPET,心臓MRI をRHC検査の適応を判断する補助として考慮してもよい. IIb C SSc-PAH 患者に対して,最新のガイドラインに従った基礎疾患の治療を行う. I A SSc-PAH 患者に対して,IPAH 患者に対するものと同じ治療アルゴリズムを使用する. I C SSc-PAH の治療を目的とした免疫抑制療法は推奨されない. III No benefit C