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p.85 抽出テキスト

セロトニン,アンジオテンシンIIなど)の分泌増加と血管拡張物質(NO,プロスタサイクリンなど)の分泌低下だけでなく,炎症に関連した各種メディエーターの放出もきたす.血管平滑筋細胞では,血小板由来増殖因子(PDGF)などの増殖因子に対する反応を増幅させるいくつかの固有の異常を示す672).また,アクチビンを介した転写反応の亢進をしばしば伴い670, 673),骨形成蛋白(BMP)のシグナル伝達が弱まることが,内皮細胞機能障害,血管平滑筋細胞の増殖,アポトーシス抵抗性,血管収縮など,PAHのいくつかの病態の一因とされている674).

BMP-成長分化因子と形質転換成長因子β(TGF-β)-アクチビンのシグナルバランスの欠如は,現在PAH発症の主要な因子の1つと考えられ,PAH患者に対する有望な治療標的と考えられている673).

1.3 診断

I/HPAHの診断手順は,第5章4.診断,検査に記載された方法に準じる.概説すると,診断はRHCによるPHの確定診断,鑑別診断,および重症度評価という要素から構成される.PHの各群の鑑別のためには,まず左心性心疾患,肺疾患(低酸素血症を含む)の存在を検索し,これらが否定されれば肺換気 血流シンチグラムなどによりCTEPHを否定する.最後に膠原病に伴うPAHや門脈PH,CHDに伴うPAH,PVOD/PCHが血液検査や画像検査で除外されればIPAH,家族歴や遺伝子異常が認められればHPAHと診断する.

PAHの組織学的病変は直径500 μ m以下の末梢の肺小動脈の狭小化が主体であると報告されている675).良好な治療成績を得るためには,血管病変が不可逆となる前に十分に強力な治療が開始される必要がある.

1.4 予後

I/HPAHの自然予後は不良であり,治療薬が存在しなかった2000年以前の米国の報告では,発症後の平均生存期間は2.8年で,死因は突然死,右心不全,喀血が多かった667).しかし,近年ではPH治療薬の開発によってその予後は改善してきており,COMPERA研究676)ではIPAHの1年,3年,5年生存率はそれぞれ95%,90%,84%と報告している.

近年ではリスクスコアにもとづいてI/HPAHの治療が行われる114).PAHのリスクスコアにはREVEALスコア677), French スコア662),COMPERA2 4 risk strata,3 risk strata 114)が提唱されている.これらのスコアリングはおもに6分間歩行距離,WHO機能分類,BNPまたはNT-

proBNPによって評価される.さらに,REVEALスコアではこれらに加え,年齢や血圧,脈拍数のほか,失神や右心不全の既往などの臨床症状の有無,心エコー図検査上の心嚢液貯留の有無,心臓カテーテル検査における右房圧やPVR,呼吸機能検査における%DLCOなどを加えて1年生存率が評価される.実際に4 risk strataではIPAHの生存率は高リスク,中等度リスク,低リスクの順で悪くなることが示されている678).

一方で,治療によるこれらのリスクスコアの改善により生存率が改善することも示されており679),フォローアップ時にリスクスコアの改善を確認することも重要である.

わが国ではmPAPと予後の関係が重要視されており, mPAPを治療指標とすることで著明な予後の改善が報告されている680).さらにJAPHR研究では,mPAPの改善とFrenchスコアの改善の間に強い相関関係を認めている666).これらのことから,わが国は心臓カテーテル検査による血行動態の評価もI/HPAH患者の予後予測,治療効果判定に参考とする.

1.5 治療

1.5.1 支持療法

a. 抗凝固療法

PAHは凝固機能の亢進による微小血栓が起きやすいことが知られるが681),エポプロステノールとワルファリンの併用で生命予後が悪くなるため682),エポプロステノール使用中の抗凝固療法は推奨されない.エポプロステノールを使用していない場合でもワルファリンの有効性や安全性に明確なエビデンスがなく,積極的に推奨するものではない. b. 利尿薬

右室前負荷の調整のためループ利尿薬,抗アルドステロン薬などを投与する.ループ利尿薬が高用量の場合はトルバプタンが減量に有効との報告がある683).COが低い場合は低心拍出症候群に注意を要する. c. 在宅酸素療法

酸素吸入はPAHにおいて肺動脈圧とPVRを低下させる急性効果が認められる.一般的にはPaO2 を60 mmHg以上に保つ酸素投与が行われる. d. 鉄欠乏症

I/HPAHでは鉄欠乏症の合併率が高く,貧血の有無によらず自覚症状の悪化や死亡リスクの増加と関連している684-686).貧血がない場合の鉄補充の効果は明確ではないが687),運動耐容能改善やPAH増悪入院の減少も期待され