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p.84 抽出テキスト

第6章 第1群 PAH

1 I/HPAH

1.1 疫学

特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)は,PHの原因となる明らかな基礎疾患のない前毛細血管性肺高血圧症であり,きわめてまれで,女性に多い.発端者の血縁者内に1人以上の発症を認めるか,PAHとの関連性が確認された病原性のある(または可能性の高い)遺伝子変異が同定された場合に,遺伝性肺動脈性肺高血圧症(HPAH)と診断する114, 653).遺伝子異常や血縁者内発症の有無を除けば, 2025年3月現在,両者に病態や治療法に大きな違いはないため,本ガイドラインではI/HPAHとしてまとめて扱う.

1987年に報告された米国でのレジストリ研究では,診断時の平均年齢は36歳で590),I/HPAHの年間発症率は100万人に1~2人と報告された667).2006年に発表されたフランスのレジストリ研究では,診断時の平均年齢は50歳で, PAH(うち43.1%がI/HPAH)の年間発症率は100万人当たり2.4人,有病率は100万人当たり15.0人であった577). 2016年に報告されたドイツのレジストリ研究では,診断時平均年齢は64歳,PAH(うち62.7%がI/HPAH)の年間発

症率は100万人当たり3.9人,有病率は100万人当たり25.9人であった668).欧米では,高齢で診断されるPAHの症例数,I/HPAHの症例数はともに増加している.わが国での臨床調査個人票による疫学調査によると,PAH登録症例は2015年の2,999人から2021年には4,319人と増加しており,JAPHRからの報告でも,PAH診断時の高齢化が確認できる669).

このように,先進諸国においてPAH症例の高齢化が進み,典型的な若年例のI/HPAHは認めなかった,心肺疾患を合併した症例が増加したことを受け,2022年改訂版ESC/ERSガイドラインでは,心肺疾患合併の有無により異なる治療アルゴリズムが提唱された114).

1.2 成因

PAH患者における肺血管病変の特徴としては,肺血管収縮,肺動脈壁の肥厚,肺細動脈の筋性化,毛細血管の希薄化,血管内血栓形成,リモデリングした肺動脈に由来する叢状病変などがあげられる670).

最終的には不可逆と考えられる肺血管のリモデリング過程には,内皮細胞,血管平滑筋細胞,線維芽細胞などの機能障害に加え,免疫応答の関与も示唆されている671).内皮細胞の機能障害は,血管収縮物質(エンドセリン-1,

表32 2022 年改訂版ESC/ERS の提唱するフォローアップ時の非侵襲的リスク層別化指標A

低リスク(1点)中-低リスク(2点)中-高リスク(3点)高リスク(4点)点数1 2 3 4 WHO-FC I, II - III IV 6分間歩行距離>440 m 320~440 m 165~319 m <165 m

BNP <50 pg/mL 50~199 pg/mL 200~800 pg/mL >800 pg/mL NT-proBNP <300 pg/mL 300~649 pg/mL 650~1,100 pg/mL >1,100 pg/mL (表32A:Humbert M, et al. 2022 114)より) ©the European Society of Cardiology and the European Respiratory Society 2022. All rights reserved. Bリスク指標ポイントの合計÷3

低リスク1.0~1.49中-低リスク1.5~2.49中-高リスク2.5~3.49

高リスク≧3.5