p.78 抽出テキスト
め,より確実にPAWPの測定を行う必要がある.運動中の胸腔内圧が大きく変化する症例や,僧帽弁疾患で高いv波がみられる症例においては,心周期平均で算出されるPAWPで測定すると高く算出されてしまう.そのため,拡張末期に近い測定値を採用した方がよいと提唱されている634). 4.11.4 輸液負荷試験 生理食塩水による輸液負荷試験(fluid challenge test)は,運動負荷と異なり胸腔内圧の変動が避けられること,運動負荷のように特殊な機械を必要とせず簡便であるという利点がある.利尿薬使用などにより検査時のPAWPが15 mmHgを下回っていることがあり,誤分類を防ぐため,同13~15 mmHgの患者においては,運動負荷や輸液負荷などの誘発試験を行うことが推奨される.生理食塩水500 mL(7~10 mL/kg)を急速注入(5~10分)し,PAWPが18 mmHg以上に上昇した場合を陽性とする635).これまでの輸液負荷の研究のほとんどは,負荷時のPAPの増加をみたものではなく,PAWPの上昇,すなわち潜在性HFpEFを明らかにすることを目的としたものである.そのため,前毛細血管性PHを検出する点に関する有用性は明らかではない.潜在性HFpEFの検出には,同様に前負荷を増やすRHC検査中の受動的な下肢挙上も役立つとされている636). 4.12 肺動脈造影 肺動脈造影(PAG)は第4群の診断と治療方針を決定するためのゴールドスタンダードである.診断のために行われるPAGは,通常DSAで撮像される.CTEPH診断のためのPAG所見には,1pouching defects(通常,中枢部肺動脈の完全閉塞した袋状の途絶像),2webs & bands(血管内のクモの巣状もしくは帯状の造影透亮像),3intimal irregularities(壁在血栓による血管壁不整像),4abrupt vascular narrowing(器質化血栓閉塞部からの末梢血管の先細り像),5complete obstruction(pouching defectsと異なり,区域枝レベルからの選択的造影でわずかにチャネルがみえることが多い)の5つがある637).ただし判読が難しい症例もあり,専門施設での実施が望ましい. この分類以外にも,BPAの成功および合併症の出現と関連する選択的造影所見にもとづく分類法638)があり, BPA治療では広く用いられている(第9章3.2画像診断参照). MDCTの造影画像から肺動脈を再構築したCTPAは,中枢から区域枝レベルまでの病変診断精度はDSAと同様であり639),非侵襲的に実施できるが,亜区域枝レベルの 病変を看過することがある640).また,近年ではコーンビームによるCT様の画像(CBCT)をPAGで得ることができるようになった.C-arm CBCTではCTPAのように肺動脈の3次元構築画像が得られること,病変部の器質化血栓の詳細な形態を評価可能であることに加え,特にBPAの治療対象となる末梢病変の描出に優れている641-644). 4.13 肺生検 PVOD/PCHの確定診断には病理所見が重要だが,PHに対する確定診断や鑑別診断を目的とした肺生検は,その危険性から一般的に推奨されない.2022年改訂版ESC/ ERSガイドラインでは,PAH患者に対する肺生検(推奨クラスIII,エビデンスレベルC)に加え,PVOD/PCH診断目的の肺生検(推奨クラスIII,エビデンスレベルC)が推奨項目に追加された114). 小児を主とする先天性シャント性心疾患患者が手術適応の境界領域にある場合,その決定に肺生検所見が参考になるとの意見もある645, 646).わが国では八巻らが1976年に,完全大血管転位と心室中隔欠損の剖検例の肺血管病変にもとづき,PHの重症度と相関する肺血管病理所見指標(IPVD)を考案した647).この指標はHeathらが1958年に提唱したCHDに伴う肺血管病変の重症度分類648)と異なり,不均一な病変の混在を反映でき,手術適応評価に有用なことを示した649).わが国の小児循環器科医および小児心臓血管外科医は現在でも,適応が境界領域にある重症例の根治手術の可否について肺生検を行い,肺血管病理像により最終的に判断することがある650). 他方CTEPHについては,手術時肺生検における肺血管リモデリングが,手術の予後や,術後長期の肺血行動態と相関するとの報告がある651, 652). 4.14 診断手順(推奨表21) 原因不明の労作時呼吸困難またはPHが疑われる徴候を有する症例の鑑別疾患は,多岐にわたる.迅速な判断が必要な症例もあり,アルゴリズムにもとづいた実践的なアプローチが必要である.診断アルゴリズム(図14),鑑別アルゴリズム(図15)を示す.これらを用いることで,プライマリケア医,地域の中核病院,専門的な診断および治療が可能なPHセンターとの連携,ならびにPHセンターでの包括的な精密検査を円滑に行うことを目指す.