p.73 抽出テキスト
4.2 心電図 心電図からは,PHのみならず不整脈や左心疾患に関する情報も得られる.心電図波形が正常であることはPHを否定しないが,PH疑いまたはPHリスクを有する患者において,BNP,NT-proBNP正常と正常心電図の組み合わせはPHの可能性が低いことを示す592, 593).重症であれば, PHにより右心負荷を反映する心電図変化(肺性P波,右軸偏位または不定軸,右室肥大[V1のR波増高,R/S比> 1],右室ストレイン[V1~V3 で右下がりのST低下],右脚ブロック,補正QT[QTc]間隔の延長など)が出現する594, 595).治療により心電図上の所見が軽快することから,治療効果の判定に用いることができる.PH患者には心房粗動や心房細動が5年で25%に認められるとされ,動悸を訴える患者では,ホルター心電図などで不整脈の有無を確定する必要がある. 4.3 胸部X線検査 通常,軽症例では異常所見はみられないが,病態の進行とともにその変化が明らかになる.一般的な所見として肺野の変化は乏しいことが特徴であるが,心陰影では右房,右室の拡張に伴う心拡大が認められる.さらに,両側肺動脈近位部の拡張がみられ,多くの場合その末梢肺動脈は急峻に狭小化するため,末梢肺野の透過性は亢進する.肺動脈主幹部の拡張に伴う左第2弓の突出や,右室拡大による左第4弓の突出が認められる. 側面像では,右心室の前方気腔側への拡大像がみられる.高度なPHが持続すると胸水を認めることもあるが,肺うっ血像はあまり顕著ではないことが多い. 4.4 心エコー図検査(推奨表19) 心エコー図検査は肺動脈圧を推定することができることから,PHの診断におけるゲートキーパー(門番)として用いられる.PHが疑われる,あるいは合併する可能性のある疾患の患者には,積極的な施行が推奨される596).ただし,心エコー図検査だけでPHの確定診断を下すことはできない.特異的な治療を考慮するのであれば,RHC検査が必須である. PHの病態やその原因は多様であるため,心エコー図検査ではさまざまなパラメータを用いてPHの可能性を評価する.具体的には収縮期肺動脈圧(sPAP)の推定に加え, PHを示唆する他のエコー所見(心室,肺動脈,IVCおよび右房の3要素)の評価が行われる. sPAPの推定は三尖弁逆流のピーク速度から簡易ベルヌーイ式を用いて推定する597).推定sPAP=4×(三尖弁逆流のピーク速度) 2+推定右房圧 右房圧はIVCの径や呼吸変動から3,8,15 mmHgの固定値を推定値とすることが一般的であるが,測定誤差もあるため,PHの可能性を推定する重要な変数として,三尖弁逆流速度(TRV)のピーク速度の単独での使用を推奨する.TRVは逆流速度が過小評価(重度三尖弁逆流の場合,連続波ドプラビームと逆流ジェットに角度がつく場合など)や過大評価(肝疾患または鎌状赤血球症でCOが高値の場合など)をされたり,逆流ジェット,三尖弁閉鎖アーチファクト,最高速度境界部アーチファクトの場合にピークの計測が誤ってなされることがあるため,正確な計測が難しいことがある596).したがって,TRV単独でPHを除外することはできない598). TRVによる判定の後に,心室,肺動脈,IVCおよび右房に関連する指標(表27) 114)を検討することで,心エコー 図検査によるPHの確率を低,中等,高と判定可能である114).この確率は臨床現場で解釈する場合,個々の患者の心臓カテーテルを含むさらなる精密検査の必要性の判断に利用できる114)(図13).なおPHの定義においてmPAPの閾値が引き下げられたが,TRVの閾値を下げることを支持するデータはない599, 600). 推奨表19 PH の心エコー図検査に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル PH の疑いがある場合は,第一選択の非侵襲診断として心エコー図検査を行う. I B TRV の異常の存在やその他の心エコー図検査でのPH を示唆する徴候をもとに,心エコー図検査によるPH の確率を割り出す. I B PH の心エコー図検査の可能性について, TRV の現在の閾値(>2.8 m/ 秒)を維持する. I C心エコー図検査によるPH の可能性をもとに,臨床的状況(PAH/CTEPH の症状および危険因子または関連疾患)を考慮し,詳細な検査を考慮する. IIa C心エコー図検査でPH の可能性が中程度であった患者を積極的に診断するために,運動負荷心エコー法を考慮してもよい. IIb C