p.68 抽出テキスト
クが高い.内科系ICU患者を対象としたメタ解析では,ヘパリン(低分子ヘパリンまたは未分画ヘパリン)による予防的抗凝固療法が,症候性PTEおよびDVTの発症抑制に有効であることが示されており547),欧米のガイドラインでも予防的抗凝固療法が推奨されている547, 548).一方で,予防的抗凝固療法に間欠的空気圧迫法を追加することによる有効性を示す報告はない549).また,予防的抗凝固療法に弾性ストッキングを追加する効果については,内科系患者に関する報告はなく,外科系患者を対象とした試験でもその有効性は示されていない550, 551).このようなICU患者では出血リスクが高いことが多いた め,国内では予防的抗凝固療法ではなく,間欠的空気圧迫法などによる圧迫療法が広く実施されている.間欠的空気圧迫法の有効性については,外科系を含むICU患者を対象としたRCTでは明確な有効性は示されていなかったが552),このRCTを含む5件のRCTを対象としたネットワーク解析では,間欠的空気圧迫法群は対照群(予防なし,または弾性ストッキング単独)と比較し,有意なVTE発症抑制効果が報告されている448, 553). 第5章 PHの定義,診断,検査 1 定義 1.1 PHの定義 1973年にジュネーブで開催された第1回肺高血圧症ワールドシンポジウム以降,PHは「安静仰臥位で右心カテーテル(RHC)検査により測定した平均肺動脈圧(mPAP)が25 mmHg以上」と定義されてきた554).この閾値は,経験的,恣意的なものであったが,PHの過剰診断や不要な投薬の可能性を排除するため,2013年までのワールドシンポジウムにおいて変更されなかった. しかし2018年に開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムにおいて,健常人におけるmPAPの正常上限を評価した研究555)や,mPAP上昇と予後との関連性を検討した研究556)などの科学的根拠にもとづき,PHの定義をmPAP>20 mmHgとすることが提唱された6).2022年に改訂されたESC/欧州呼吸器学会(ERS)ガイドラインにおいてもこの定義が採用され,世界標準となった114, 557). したがって本ガイドラインにおいても,「RHC検査により測定した安静仰臥位のmPAP>20 mmHg」をPHの定義とする.この定義の変更は,以前の定義のもとで境界域PHとされてきたmPAPが21~24 mmHgの症例に対する 治療介入を推奨するものではない.これらの症例に対しては治療介入を正当化できるエビデンスの蓄積が今後必要である. 肺血管障害による前毛細血管性PHを,左心疾患,心拍出量(CO,=肺血流)増加,胸腔内圧上昇などによるmPAP上昇から区別するためには,PVRと肺動脈楔入圧(PAWP)を定義に含めることが必要となる(推奨表18). 2022年改訂ESC/ERSガイドラインではPVR>2 Wood単位,PAWP≦15 mmHgと定義している114). 本ガイドラインにおいても同じ閾値を踏襲するが, PAWPに関しては正常上限と考えられる12 mmHgより高い数値が経験的閾値となっており,後毛細血管性肺高血圧症(pcPH)との実際の鑑別には,患者の危険因子や心エコー図所見を考慮する必要がある.pcPHは血行動態的にmPAP>20 mmHg,PAWP>15 mmHgと定義される. このうちPVR≦2 Wood単位の患者についてはisolated推奨表18 PH の定義に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル RHC 検査により測定した安静仰臥位のmPAP >20 mmHg をPH の定義とする. I C運動時におけるmPAP/CO スロープ>3 mmHg/L/ 分を運動時PH の定義とする. I C