p.64 抽出テキスト
人科悪性腫瘍で術前に治療を要するVTEを診断した場合は,VTE治療を短期間優先して行い,抗凝固療法やIVCフィルターを使用しながら状況に応じて手術を施行する. 良性疾患手術(開腹,経膣,腹腔鏡),悪性疾患でも良性疾患に準じる手術,ホルモン療法中患者は中リスク,骨盤内悪性腫瘍手術は高リスクとする.経口避妊薬服用者は非服用者にくらべVTE発症のリスクが高い.低用量経口避妊薬の添付文書では,手術前4週以内の投与は禁忌となっている.したがって,手術予定患者では術前4週前から投与を中止するが,経口避妊薬服用者が緊急手術をせざるを得ない場合は,リスクレベルを上げてVTE予防を行うことを考慮する. 3.4.2 産科 妊娠中の女性は,VTEのリスクが4~5倍増加し509),産褥期は20倍に増加する510).わが国における妊産婦のVTEの発症は295,961件の出産のうち243件で認められている.予防策がある程度施行されているもかかわらず,帝王切開術でPTEによる死亡が4人であった511). 妊娠初期にVTEの危険因子を評価し,妊娠中の予防法について検討する.妊娠中に新たな危険因子が生じた場合は予防法を再検討する.予防の基本は理学的予防法(下肢の運動,弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法)である.産科での理学的予防はすでに広く行われ,エビデンスは十分でないが簡便で害が少なく,推奨される448).VTEの既往もしくは血栓性素因を保有,複数の危険因子を有する,妊娠中に手術をする場合は,出血リスクを評価したうえで予防的抗凝固療法を行う.長期安静臥床後に帝王切開を行う場合には,術前にDVTの有無を評価することを考慮する. 妊娠中のVTEのリスク分類と抗凝固療法の推奨を表24に示す512).第1群(高リスク群)には抗凝固療法を行い,第2群(中間リスク群),第3群(低リスク群)に該当する症例の妊娠期間中の手術後には予防的抗凝固療法を行う. 分娩後のVTEのリスク分類と抗凝固療法の推奨を表 25 512)に示す.第1群(高リスク群)に該当する症例は,分 表24 妊娠中のVTE リスク分類と抗凝固療法の推奨 第1群 妊娠中のVTE高リスク妊娠• 以下の条件にあてはまる女性は妊娠中の抗凝固療法を行う1)2回以上のVTE既往2)1回のVTE既往,かつ以下のいずれかがあてはまるa)血栓性素因があるb)既往VTEはi)妊娠中,ii)エストロゲン服用中のいずれかで発症したc)既往VTEは安静・脱水・手術などの一時的なリスク因子がなく発症したd)第1度近親者にVTE既往がある3)妊娠成立前よりVTE治療(予防)のための抗凝固療法が行われている第2群 妊娠中のVTE中間リスク• 以下の条件にあてはまる女性は妊娠中の抗凝固療法を検討する• 以下の条件にあてはまる女性は妊娠中手術後には抗凝固療法を行う1)1回のVTE既往があり,それが安静・脱水・手術など一時的リスク因子による2)VTE既往がないが以下の条件にあてはまるa)血栓性素因があるb)妊娠期間中に以下の疾患(状態)が存在心疾患,肺疾患,SLE(免疫抑制剤の使用中),悪性腫瘍,炎症性腸疾患,炎症性多発性関節症, 四肢麻痺,片麻痺等,ネフローゼ症候群,鎌状赤血球症(日本人にはまれ)第3群 妊娠中のVTE低リスク(リスク因子がない妊娠よりも危険性が高い) • 以下の因子を3つ以上有する女性は妊娠中の抗凝固療法を検討する• 以下の因子を1つから2つ有する女性は妊娠中のVTE発症に留意するVTE既往がないが以下の因子を有する35歳以上,妊娠前BMI 25kg/m2以上,喫煙,第1度近親者にVTE既往歴,安静臥床,長期間 の旅行,脱水,表在性静脈瘤が顕著,全身感染症,妊娠中の手術,卵巣過剰刺激症候群,妊娠悪阻,多胎妊娠,妊娠高血圧腎症血栓性素因:先天性素因としてアンチトロンビン,プロテインC,プロテインSの欠損症(もしくは欠乏症),後天性素因としては抗リン脂質抗体症候群(診断は札幌クライテリア・シドニー改変に準じる)が含まれる.ただし,VTE既往のない女性を対象としての血栓性素因スクリーニングを行うことに関してはその臨床的有用性に疑義が示されており,妊娠中/産褥期VTE予防のための血栓性素因スクリーニング実施の必要性は低い. (日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会 2023 512)より)