p.60 抽出テキスト
低~高リスク患者は多くの施設で有害事象の少ない弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法などの理学予防が施行され,最高リスク患者(VTE既往あるいは血栓素因のある)には抗凝固療法が追加される.肺血栓塞栓症予防管理料の収載に伴う早期離床,理学療法の普及,患者認識の向上に伴い,PTE発症率は約半数に減少している33). その他の周術期VTEリスクレベルの評価は,Capriniスコアがもっとも広く研究されている469, 470)(表22) 463).しかし項目が多く,わが国では広くは用いられておらず,検証がなされていない,評価基準に混乱があるなどの問題がある471).アジア諸国では検証や高リスクの定義をより厳密に した研究が行われている469, 472). また,内科疾患のVTEのリスクレベル評価にはPaduaリスクアセスメントスコア(表23) 473),IMPROVE VTEリスクアセスメントスコア474)が,外来がん患者に対してはKhoranaスコア333, 475)(表15)がある.Padua,IMPROVE VTEのスコアはいずれも国外の外部評価研究で有用性は限定的とされており476),国内においてはほとんど妥当性を検証されていない477)(第3章6. がん関連VTEの評価と薬物療法参照).最近は,がん患者に対してより精度が高いとされるCOMPASS-CATも報告されている478). わが国では高リスク患者を発見するためにVTEのスクリーニング検査が一部で行われている.がんの手術患者を中心とした,さまざまなカットオフ値を用いた術前Dダイマー測定と術前下肢超音波検査の組み合わせによるDVTスクリーニングである.その過程で無症候の末梢型DVTが多いことが報告されている479).術前スクリーニングの適用,臨床的な有用性については一部研究で有用とされたが,否定的な結果もある.医療経済的な問題もあり,一律に推奨はできない347). 予防投薬における出血リスクの予測は定まったものがない.ACCPガイドライン463)の中にVTE予防時の大出血の危険因子のリスト,抗凝固薬投与時のリスクスコア, IMPROVE出血スコア480)などがあるが,有用性は限られている481).抗凝固薬投与時の出血合併症は,VTEの治療の際にも重要であるが,VTEの予防の際にはより重要性が高い. 表20 VTE のリスクと推奨される予防法 リスクレベル推奨される予防法低リスク早期離床および積極的な運動中リスク早期離床および積極的な運動弾性ストッキングあるいは間欠的空気圧迫法高リスク早期離床および積極的な運動間欠的空気圧迫法あるいは抗凝固療法*1, *2最高リスク早期離床および積極的な運動(抗凝固療法*1, *2 と間欠的空気圧迫法の併用)あるいは(抗凝固療法 *1, *2 と弾性ストッキングの併用) *1 腹部手術施行患者では,エノキサパリン,フォンダパリヌクス,あるいは低用量未分画ヘパリンを使用.予防の必要なすべての高リスク以上の患者で使用できる抗凝固薬は低用量未分画ヘパリン.最高リスクにおいては,低用量未分画ヘパリンと間欠的空気圧迫法あるいは弾性ストッキングとの併用,必要ならば,用量調節未分画ヘパリン(単独)を選択する.エノキサパリン使用法:2,000単位を1日2回皮下注(腎機能低下例では2,000単位1日1回投与を考慮),術後24~36時間経過後出血がないことを確認してから投与開始(参考:わが国では15日間以上投与した場合の有効性・安全性は検討されていない).低体重の患者では相対的に血中濃度が上昇し出血のリスクがあるので,慎重投与が必要である.フォンダパリヌクス使用法:2.5 mg(腎機能低下例は1.5 mg)を1日1回皮下注,術後24時間経過後出血がないことを確認し てから投与開始(参考:わが国では腹部手術では9日間以上投与した場合の有効性・安全性は検討されていない).体重40 kg未満,低体重の患者では出血のリスクが増大する恐れがあるため,慎重投与が必要である. *2出血リスクが高い場合は,抗凝固薬の使用は慎重に検討し間欠的空気圧迫法や弾性ストッキングなどの理学的予防を行う. 表21 VTE の付加的な危険因子の強度 危険因子の強度危険因子 弱い肥満エストロゲン治療下肢静脈瘤 中等度高齢長期臥床うっ血性心不全呼吸不全悪性疾患中心静脈カテーテル留置がん化学療法重症感染症 強いVTEの既往血栓性素因* 下肢麻痺ギプスによる下肢固定活動性がん *アンチトロンビン欠乏症,プロテインC欠乏症,プロテインS欠乏症,抗リン脂質抗体症候群など