p.59 抽出テキスト
1.2 VTE予防のリスクレベルの評価法 一般外科における予防の対象はおもに入院患者で, VTEの一次予防を目的とする.VTEのリスクレベルは,一般外科手術(非整形外科)患者のリスクを低,中,高,最高の4段階に分類し(表19),それぞれのリスクレベルに対応して予防方法を決定する(表20).対応する予防法は,エビデンスに乏しいわが国の現状に鑑み,出血性合併 症発症率が明らかでない抗凝固療法による薬物的予防法より,理学的予防法の比重を高めた推奨とする.最高リスクでは抗凝固療法を推奨するが,出血リスクが高い場合には理学的予防法のみの施行も考慮する.おのおのの手術や疾患のリスクレベルは,付加的な危険因子(表21)を加味して総合的に評価する.付加リスク,治療内容や病態によっては1ランク上位の予防の実施を考慮してもよい. 表18 医療事故の再発防止に向けた提言 リスクの把握と疾患の認識提言1入院患者の急性肺血栓塞栓症の発症リスクを把握し,急性肺血栓塞栓症は“急激に発症し,生命を左右する疾患で,特異的な早期症状に乏しく早期診断が難しい疾患”であることを常に認識する.予防 提言2 <患者参加による予防>医療従事者と患者はリスクを共有する.患者が主体的に予防法を実施できるように,また急性肺血栓塞栓症,深部静脈血栓症を疑う症状が出現したときには医療従事者へ伝えるように指導する.提言3 <深部静脈血栓症の把握>急性肺血栓塞栓症の塞栓源の多くは下肢,骨盤内静脈の血栓である.深部静脈血栓症の臨床症状が疑われた場合,下肢静脈超音波検査などを実施し,血栓を確認する.早期発見・早期診断提言4明らかな原因が不明の呼吸困難,胸痛,頻脈,頻呼吸,血圧低下などを認めた場合,急性肺血栓塞栓症の可能性を疑い,造影CTなどの実施を検討し早期診断につなげる.初期治療提言5急性肺血栓塞栓症が強く疑われる状況,あるいは診断が確定した場合,直ちに抗凝固療法(ヘパリン単回静脈内投与)を検討する.院内体制の整備 提言6急性肺血栓塞栓症のリスク評価,予防,診断,治療に関して,医療安全の一環として院内で相談できる組織(担当チーム・担当者)を整備する.必要があれば院外への相談や転院などができるような連携体制を構築する. (日本医療安全調査機構.2017.医療事故の再発防止に向けた提言(第2号)急性肺血栓塞栓症に係る死亡事例の分析468) p.5より) 表19 一般外科· 泌尿器科· 婦人科手術(非整形外科)のVTE 発症リスクの層別化リスクレベル一般外科・泌尿器科・婦人科手術低リスク60歳未満の非大手術40歳未満の大手術中リスク60歳以上,あるいは危険因子のある非大手術40歳以上,あるいは危険因子がある大手術高リスク40歳以上のがんの大手術最高リスクVTEの既往あるいは血栓性素因のある大手術総合的なリスクレベルは,予防の対象となる処置や疾患のリスクに,付加的な危険因子を加味して決定される.付加的な危険因子(表21)をもつ場合にはリスクレベルを1段階上げることを考慮する.大手術の厳密な定義はないが,すべての腹部手術あるいはその他の45分以上要する手術を大手術の基本とし,麻酔法,出血量,輸血量,手術時間などを参考として総合的に評価する.