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6.2 治療薬のエビデンス

6.2.1 治療薬のエビデンス

がん関連VTEの治療に関して,わが国においては従来未分画ヘパリンによる初期治療とビタミンK拮抗薬(ワルファリン)による維持治療が行われてきた.しかし,がん関連VTEにおいては低分子ヘパリンのほうがビタミンK拮抗薬よりも有効性,安全性が高いため336),欧米のガイドラインでは長らく低分子ヘパリンが標準的治療とされていた.しかし,わが国における低分子ヘパリンには,VTE治療に関する保険適用は含まれていない.

近年,DOACのVTEへの適応拡大とともに,がん関連VTE治療に対するエビデンスが集積されている.ただし,これらはいずれも国際的に標準的治療となっている低分子ヘパリンとの比較であり,また治療対象はPTEならびに症候性の中枢型DVTで,わが国で多くみられる末梢型DVTではない点に注意が必要である.

Hokusai VTE Cancer試験はがん関連VTE患者に対し,低分子ヘパリン(ダルテパリン)とエドキサバンの再発予防(有効性)および大出血(安全性)を検証した.有効性および安全性の複合エンドポイントに関し,非劣性が証明された337).SELECT-D試験ではダルテパリンとリバーロキサバンの有効性と安全性が比較され,リバーロキサバンは再発(有効性)は少なかったが,大出血(安全性)が多い傾向が認められた338).またCaravaggio試験では,アピキサバンの有効性および安全性について,ダルテパリンに対する非劣性が示されている339).各薬剤でエビデンスの質は異なるものの,DOACが標準治療である低分子ヘパリンと同等の治療薬として位置付けられた.

なお,DOACは消化管がん症例などにおける出血リスクが高い可能性が示唆されていることに留意する.また重症腎機能障害症例(推算糸球体濾過量[eGFR]<30 mL/分/1.73 m 2)は未分画ヘパリンやビタミンK拮抗薬の使用を検討する.DOACはP糖蛋白やCYP3Aによる代謝を受ける薬剤との相互作用を有する場合があり,がん薬物療法実施中の患者では留意する必要がある.

6.2.2 治療アルゴリズム

治療を初期治療(最初の7~10日間),維持治療(3~ 6ヵ月間),その後の長期維持治療に分けて考慮する必要があるが,DOACの用法・用量に関しては原則としては他のVTEと同様である.ただし,わが国で多く認められているがん合併の末梢型DVTに関しては,海外では治療データはない.最近,わが国において,がん関連末梢型DVT

に対し,エドキサバンの治療期間を検討したRCTであるONCO DVT Studyが行われた.12ヵ月群は3ヵ月群に比べ末梢型DVTを中心とするVTEの発症が少なく,出血は有意差がなかった340).

わが国における治療の現状に関しては,レセプトデータの解析からDOACの普及に伴ってがん関連VTEの外来治療の割合は有意に増加し,がん関連以外と比較しても抗凝固薬の選択に明確な差はなかった341).一方,DOACで推奨される初期強化療法の実施率が高くなく,PTE診断時には80%が入院下での抗凝固療法を受けているという特徴が認められている.

がん関連VTEは再発率が非常に高いため,国際ガイドライン342)では「がんが活動している間は少なくとも6ヵ月以上の長期間の抗凝固療法を継続する」ことが推奨されている.わが国の疫学データでも329),活動性のあるがん患者は再発率が高いと報告されており,より長期の治療が望ましい.一方,活動性が消失したがん既往患者における再発率は非がん患者と大きく変わらないため343),がんの活動性がなくなった時点で治療終了が検討できる.また,活動性がん患者は一般的に出血リスクも高いため,血栓リスクと出血リスクのバランス調整が難しい患者群である.したがって,抗凝固療法の継続期間は,がんの状態を含め,個別の症例ごとに慎重に検討することが重要となる.多くの末梢型DVTの場合は再発が少なく,治療期間は3ヵ月間が妥当290, 321)と考えられている.ただし,担がんの末梢型DVTについては再発が多いとの海外報告もあり344, 345),がん合併の無症候性DVTでは抗凝固療法の有用性も示されている346).前述のONCO DVT Study 340)や,サブ解析322)で一部の高リスク患者では抗凝固療法のベネフィットをうけることが示されたことから,出血リスクが高くなく,血栓性リスクが危惧される活動性がん患者では,長期的な抗凝固療法による利益が大きい群が存在することが示唆されている.一方で末梢型DVTの抗凝固療法は有用性が十分に示されておらず,スクリーニング後の抗凝固療法が行われたがん患者の死亡危険因子は大出血であった277).なお, 2025年3月現在,大規模な系統的スクリーニングでの有用性は報告されていない347).