p.49 抽出テキスト
6 がん関連VTEの評価と薬物療法 6.1 現在までの疫学とスクリーニング 6.1.1 国内外におけるがんとVTEの疫学 がん患者におけるVTEの発症率は一般人口に比べ高いことは以前より知られており,がん治療中における重大な合併症であるとともに,生存期間の悪化と関連している.VTEの発症率は近年上昇傾向にあり,膵臓,胃,原発性脳腫瘍がもっとも高いとされている323, 324).人種差に関しては,米国での前向き疫学調査より,アジア系における成人がん関連VTE発症率は他人種と比較し低いことが報告されている325).わが国における固形がん患者のVTE発症は3.3% 326) ~5.9% 327)と報告されているが,多くは無症候性の遠位部DVTのみであり,偶発的な発症例が多いことが示唆される.わが国における膵がん患者のVTE発症率も高い328)が,肥満(肥満指数[BMI]>25 kg/m 2)ならびに化学療法の実施が危険因子となっている一方,膵がん自体の予後が不良であるため,VTEの発症や抗凝固療法の介入は生存率の改善に寄与しないことが報告されている328). 6.1.2 活動性がんの定義 がんの活動性とは,以下のいずれかを満たすこととされている258). 1 割り付け前の6ヵ月以内に,がんと新規に診断された 場合2 割り付けの6ヵ月以内に,がんの治療(手術・化学療法・放射線療法など)が実施された場合 3 がんの治療(手術・化学療法・放射線療法など)を実 施中の場合4 再発,局所にて浸潤する,もしくは遠隔転移巣を有 する場合5 造血器腫瘍の患者では,完全寛解を得ていない場合活動性がんはVTE発症の危険因子となるが,治癒したがん患者ではVTE再発リスクは高くなく,非がん患者と変わらないことが示されている329).そのため,抗凝固療法を継続するか否かの判断は,がんの既往の有無でなく,がんの活動性の有無で判断する. 6.1.3 バイオマーカーとリスク評価 がん患者を対象にDダイマーを評価した前向き観察研究では,VTE診断に対するカットオフ値6.8 μ g/mLで感度96%,特異度38%と報告されており330),またメタ解析から,Dダイマー高値のがん患者群の非高値群に対するORは1.85~1.92と示されている331, 332).しかし,がん患者におけるDダイマー値は病態によってばらつきが大きい.代替できるようなエビデンスをもつ凝固線溶系バイオマーカーも存在しないため,がん患者におけるVTEの診断においては,2008年にKhoranaによって提唱されたKhoranaスコア(表15) 333)や,Dダイマーと可溶性P-セクレチンを追加したViennaスコア334)などが使用されている. Khoranaスコアの日本人における有効性については,リスク別のVTE有病率低(0点)は1.7%,中(1~2点)7.3%,高(3点以上)11.0%と報告されており,一定の有用性が期待できる.ただし,原報告(低0.3%,中2%,高7%)に比べ,特に中リスク患者における有病率が高いことに注意が必要である335). 表15 Khorana スコアの計算項目 項目点数 悪性腫瘍原発部位胃,膵臓+2 肺,リンパ腫,婦人科,腫瘍,膀胱,精巣+1その他0 化学療法前の血小板数≧35万/μL +1化学療法前の白血球数≧1.1万/μL +1赤血球造血因子使用またはヘモグロビン<10 g/dL +1 BMI≧35 kg/m2 +1 (Khorana AA, et al. 2008 333)より改変) ©2008 by The American Society of Hematology, with permission from Elsevier.