p.46 抽出テキスト
4.11 抗凝固療法に伴う出血リスク 抗凝固療法には出血リスクが伴い,ワルファリン使用中は年間3%弱の大出血が発症すると報告されている295).一方で,第III相大規模RCTのメタ解析では,DOACはワルファリンと比較して40%弱程度の大出血リスクの低減が報告されており296),日本人を含む東アジア人におけるエドキサバン内服患者の大出血は1.6%,臨床的に重要なすべての出血は9.9%であった264).一方,がん患者を含む実臨床でのさまざまな患者を対象としたワルファリン時代の観察研究からの報告では,1年時点での大出血は5.2%であった297).実臨床における出血リスクはRCTにおける報告より高い可能性があり,注意が必要である277). 一般的に,抗凝固療法は開始後の最初の1ヵ月が特に出血リスクが高いとされている.高齢,過去の出血既往,貧血,活動性がん,脳卒中既往,慢性腎臓病,肝機能障害,抗血小板薬の併用などが危険因子とされ,いくつかの出血リスクスコアが報告されている.比較的簡便性の高いVTE-BLEEDスコアは,日本人での外的妥当性が検証されており,一定の有用性が認められた298).ただし,がん患者での予測能は低いなどの限界も認め,現在広く普及している出血リスクスコアはないのが実情である.ワルファリン時代のわが国からのデータでは,活動性がん(HR 3.06),大出血の既往(HR 2.38),貧血(HR 1.75),血小板減少(HR 2.11),高齢(HR 1.64)が独立した大出血の危険因子として報告されている297). 4.12 再発と出血リスクにもとづく継続期間の 検討方法 現在,国際ガイドラインでも定まった抗凝固療法の継続期間の決定方法は存在しないが,上述の再発リスクを基本として,さらに出血リスクに応じて抗凝固療法の継続期間を検討する方法も提言されている(図11) 299).再発リスクおよび出血リスクは変わりうるため,定期的に再評価を行い,再検討することも重要である.またPTEとDVTで臨床的な重みづけが異なる点にも注意が必要である(第3章5. DVTの抗凝固療法参照). 4.13 周産期の抗凝固療法 VTEを発症したあるいは既往のある妊娠中および授乳中の患者では,妊娠継続や流産リスクへの影響,胎児および乳児への抗凝固薬の影響を考慮する必要がある. 4.14 妊娠中の抗凝固療法 ワルファリンは胎盤を通過するため,妊娠6~12週では胎芽病が,それ以降では中枢神経系の異常や胎児出血がみられる可能性があることから,妊娠中のワルファリン投与は避ける.DOACのうち妊婦への投与が添付文書上禁忌となっているのはリバ-ロキサバンのみで,他薬剤は「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」となっている.しかし,胎児への影響および乳幼児の長期予後は明らかでないので,現時点では妊婦への投与は推奨さ 図11 再発· 出血リスクを基にした抗凝固療法の継続期間の検討方法(Yamashita Y, et al. 2022 299)より改変) ©2021 Japanese College of Cardiology. Published by Elsevier Ltd., with permission from Elsevier. 再発リスクの推定 出血リスクの推定 低リスク 3ヵ月間3ヵ月間可及的長期可及的長期 中リスク 出血高リスク出血低リスク高リスク