p.43 抽出テキスト
4.5 最適な継続期間に関するエビデンス 歴史的には,ワルファリンによる抗凝固療法の最適な継続期間に関するRCTが数多く実施されてきた271-275).それらの研究結果からは以下の知見が導き出されている.1どのような患者群でも最低3ヵ月の抗凝固療法が継続されるべきである.2抗凝固療法の継続期間が3~6ヵ月と限定的であっても,12~24ヵ月とより長期的であっても,抗凝固療法中止後のVTE再発リスクは同等である.3抗凝固療法を3ヵ月を超えて継続する治療方針は,VTE再発リスクを大きく低下させるが,このベネフィットは出血リスクの増大により一部相殺される可能性がある. 近年では,ワルファリンより出血リスクの低い可能性があるDOACについて,抗凝固療法の継続期間に関するRCTも複数報告されている.EINSTEIN Extension試験259)では,初発DVT患者1,196人を対象に,6~12ヵ月の抗凝固療法を行った後,追加の6~12ヵ月間のリバーロキサバン(20 mg/日)群とプラセボ群に無作為に割り付けられ,リバーロキサバン群においてVTE再発は有意に減少した(1.3% vs. 7.1%,HR 0.18,95%CI 0.09~0.39).一方で,大出血あるいは臨床的に重要な出血はリバーロキサバン群において有意に増加した(6.0% vs. 1.2%,HR 5.19,95%CI 2.3~11.7). EINSTEIN Choice試験116)では,二重盲検RCTによって,症候性VTE患者3,365人を対象に,6~12ヵ月の抗凝固療法を受けた後,追加の12ヵ月間のリバーロキサバン10 mg(低用量)もしくは20 mg(通常用量)/日を投与された群が,アスピリン100 mg/日を投与された群と比較された.リバーロキサバン10 mgもしくは20 mgの投与群は,アスピリン群と比較して症候性VTE再発が有意に少なく(10 mg:1.2% vs. 4.4%,HR 0.26,95%CI 0.14~0.47, 20 mg:1.5% vs. 4.4%,HR 0.34,95%CI 0.20~0.59),出血リスクは同程度であった. AMPLIFY Extension試験117)では,初発VTE患者2,486人を対象に,6~12ヵ月の抗凝固療法を行った後,追加の12ヵ月間のアピキサバン2.5 mg×2(低用量)もしくは5 mg×2(通常用量)/日を投与された群が,プラセボを投与された群と比較された.アピキサバン2.5 mg×2もしくは5 mg×2の投与群は,プラセボ群と比較して総死亡および症候性のVTE再発が有意に少なく(2.5 mg×2:3.8% vs. 11.6%,HR 0.33,95%CI 0.22~0.48,5 mg ×2:4.2% vs. 11.6%,HR 0.36,95%CI 0.25~0.53),大出血あるいは臨床的に重要な出血は,有意差を認めなかった(2.5 mg ×2:3.2% vs. 2.7%,HR 1.20,95%CI 0.69~2.10,5 mg ×2:4.3% vs. 2.7%,HR 1.62,95%CI 0.96~2.73). 4.6 国際ガイドラインでの継続期間に関する 考え方 これまでの臨床試験により,3ヵ月を超えて抗凝固療法を継続するとVTE再発リスクを有意に低減できる一方,出血リスクがやや増加することが示されている.しかし, DOACによる抗凝固療法では出血リスクの増加が限定的である可能性があり,最新の国際ガイドラインでは再発リスクが低くない患者に対して,より長期の抗凝固療法継続を推奨している2, 3). リバーロキサバン10 mg(低用量)およびアピキサバン 2.5 mg×2(低用量)は出血リスクを抑えつつ,VTE再発 を有意に抑制する可能性が示されており,がん患者以外のVTE患者では低用量による抗凝固療法の継続が推奨されている2, 3).ただし,わが国では低用量投与に関するエビデンスがかぎられ276, 277),保険適用もない.一方で,日本人を含むアジア人は白人よりも出血リスクが高いとされるため,日本人においてこそ延長治療期の低用量投与の妥当性は高い可能性がある.今後の検討が望まれる. 4.7 代替療法としてのアスピリン アスピリンは抗血小板作用をもち,VTE再発予防効果は抗凝固薬より劣るものの,出血リスクが低く,整形外科術後のVTE予防では有用性が示されている.誘因のないVTE患者で標準的な抗凝固療法終了後にアスピリンを投与した2件のRCTでは,再発リスクが30~35%低減した278, 279).抗凝固療法と比べると効果は半分以下にとどまったが,出血リスク増大は軽微であった.以上から,再発予防には原則として抗凝固療法が推奨されるものの,患者が抗凝固療法を拒否・または忍容できない場合には,アスピリンが代替療法として考慮される2). 4.8 VTE再発のリスク推定 抗凝固療法を中止した後の再発リスクの推定は,抗凝固療法の継続期間を検討するうえで非常に重要となる.これまでの研究により,VTEを発症した際の臨床的特徴が再発リスクに大きな影響を有することが明らかになっており96 280),発症時のVTEを惹起する特定の誘因(provoking factor)の有無,および誘因がある場合にはそれが一過性(transient)か持続性(persistent)かによって,まずは大きく評価される.外科手術などの一過性の誘因