p.40 抽出テキスト
つのRCTによるメタ解析では,通常量の血栓溶解療法は,低用量の血栓溶解療法と比較して,出血のリスクが高かった(OR 1.48,95%CI 1.00~2.19).また,低用量の全身性血栓溶解療法を受けた患者では,抗凝固療法を受けた患者に比べて出血のリスクが5倍も上昇していた(RR 5.08, 95%CI 1.39~18.6) 248). 高リスクや中リスクの急性PTEに対する血栓溶解療法が,長期追跡時の臨床症状,機能制限,またはCTEPHの進展に影響を及ぼすかどうかは不明である.83人の患者を対象とした小規模のRCTでは,血栓溶解療法は抗凝固療法単独と比較して3ヵ月後の機能的能力を改善する可能性が示唆された249).前述したPEITHO試験では,長期(41.6± 15.7ヵ月)の経過観察時に,呼吸困難を主とする軽度の症状が33%にみられた115).しかし,大部分の患者(tenecteplase群85%,プラセボ群96%)は,心エコー所見でPHが持続または新たに発症する可能性は低い,あるいは中間であった. 4 PTEの抗凝固療法(推奨表9) 推奨表9急性PTE の抗凝固療法に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 急性PTE の急性期治療として,ヘパリンなどの非経口抗凝固薬を開始し *1,経口抗凝固薬であるワルファリンを併用する.非経口抗凝固薬はワルファリンの効果が治療域に到達するまで継続する. I Bワルファリンの治療域は,PT-INR が1.5 ~2.5 となるように調節することを考慮する. IIa C血行動態の安定している急性PTE に対して,急性期治療としてDOAC を投与する.エドキサバンは適切な初期治療後に投与を開始する.リバーロキサバンおよびアピキサバンは,一定期間の高用量による初期強化療法の後に維持量を継続する. I A一過性のメジャーな因子,および一過性のマイナーな因子(付加的に考慮すべき再発の危険因子を有しない)によるPTEに対して,3ヵ月間の抗凝固療法を考慮する. IIa B一過性のマイナーな因子(付加的に考慮すべき再発の危険因子を有する)によるPTE に対して,出血リスクが高くない場合には,3ヵ月以上の延長治療による抗凝固療法 *2 を考慮する. IIa C誘因のないPTE(unprovoked PTE)に対して,出血リスクが高くない場合には,可及的長期の抗凝固療法 *2 を考慮する. IIa C 持続性の誘因によるPTE に対して,可及的長期の抗凝固療法 *2 を考慮する. IIa B 活動性がん患者のPTE への抗凝固療法は,出血性合併症に留意しながら,がんが治癒しないかぎり継続することを考慮する. IIa B急性PTE の抗凝固療法で3ヵ月以上の延長治療を行う場合には,リスクとベネフィットを定期的に十分に検討する. I C *1未分画ヘパリンはAPTTが対照値の1.5~2.5倍を治療目標とする. *2DOACによる延長治療を実施する場合には,血栓リスクと出血リスクを考慮し,低用量による抗凝固療法も検討する(わが国では保険適用外であることに注意する). 4.1 急性PTEにおける役割 急性PTEの急性期治療では,血栓塞栓子の局所伸展抑制,溶解促進,再塞栓予防が主眼となる.また,急性期に血栓が残存するとCTEPH発症など将来的な転帰が悪化する可能性があり,その点を踏まえて治療方針を立てる.歴史的には,未分画ヘパリンを用いた唯一のRCT 250)において,抗凝固療法を行った患者群で死亡・再発がみられず,予後改善に大きく寄与することが示され,現在では第一選択の治療法として確立されている.さらにPTEを含むVTEは長期的再発率が高いため,再発予防の抗凝固療法も重要となる. PTEとDVTは同じ病態生理が異なる形で発現した疾患と考えられ,両者をあわせてVTEと総称し一体的に治療することが多いが,PTEとDVTの臨床的な重症度は異なる点も考慮すべきである. 4.2 わが国における歴史的変遷 わが国ではVTEの抗凝固療法としては,注射薬である未分画ヘパリンと経口抗凝固薬であるワルファリンが長らく使用されてきた.欧米では用量調節の必要がない低分子へパリンが注射薬の第一選択として古くより選択できたが,わが国ではVTEの治療および再発予防に対しては現在も整形外科,腹部外科の一部の周術期予防以外は保険適用がない状況である.一方で,2011年より用量調節が容易な間接的合成Xa阻害薬の皮下注製剤であるフォンダパリヌクスが使用可能となり,2014年以降に,DOACのうち直接作用型Xa阻害薬の経口製剤であるエドキサバン,リバーロキサバン,アピキサバンが使用可能となった.