p.39 抽出テキスト
3 PTEの血栓溶解療法(推奨表8) 推奨表8 PTE の血栓溶解療法に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 急性PTE で,ショックや低血圧が遷延する血行動態が不安定な例に対しては,血栓溶解療法を施行する. I B急性PTE で,正常血圧であるが右室機能不全と心臓バイオマーカー陽性がともに認められる患者に対しては,非経口薬による抗凝固療法を第一選択とし,循環動態の悪化徴候を見逃さないようにモニタリング下にて管理する.循環動態の悪化徴候がみられた場合には,血栓溶解療法を考慮する. IIa B血栓溶解療法は,未分画ヘパリンの単独投与より血栓塞栓子を溶解し,すみやかに肺循環を改善する240).わが国で急性PTEの治療に保険適用されているのは,遺伝子組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)のモンテプラーゼだけである.血栓溶解療法の最大の効果は症状発現後48時間以内に投与開始した場合に認められるが,6~ 14日間症状が持続している場合でも有用とされる241).血栓溶解療法は迅速な血栓溶解作用や血行動態改善効果には明らかに優れるものの,いずれのRCTにおいても予後改善効果は認められていない. PTE患者(低リスク10%,中リスク71%,高リスク1%,分類不能18%)を対象とした16 のRCTのメタ解析では,血栓溶解薬の使用は全死亡の低下(OR 0.53,95%CI 0.32 ~0.88,P=0.01)と関連していたが,大出血のリスクも高かった(OR 2.73,95%CI 1.91~3.91,P<0.01) 242).重症例を対象とした検討はほとんど行われておらず,重症例においても抗凝固療法のみで十分であるか否かについては,意見の集約をみていない.少数例ではあるが,Jerjes- Sancheらはショックを呈した急性PTEでの唯一のRCTにおいて,血栓溶解療法施行4人はすべて生存したのに対し,未分画ヘパリン単独投与4人はすべて1~3時間以内に死亡したと報告している243). 急性PTEの発症時の右心機能不全が予後に関与するとされ,2014年に右心機能不全を有する正常血圧例において,トロポニン陽性の心筋障害を伴う患者への多施設二重盲検RCT(PEITHO試験)が行われた244).血栓溶解療法群(tenecteplase+未分画ヘパリン)506人と抗凝固療法単独群(プラセボ+未分画ヘパリン)499人に割り付けられ, 7日以内の死亡+循環動態悪化の複合評価項目は血栓溶解療法群で有意に少なかったが(2.6% vs. 5.6%,P=0.015),全死亡では有意差はなかった(1.2% vs. 1.8%,P=0.42).また,出血性合併症は重篤な頭蓋外出血(6.3% vs. 1.2%, P<0.001),脳出血を含めた脳卒中(2.4% vs. 0.2%)ともに血栓溶解療法群で有意に高く,有効性が相殺される結果であった. これらの結果から,血行動態が安定した右心機能不全のPTEに対する血栓溶解療法はルーチンに行わず,出血リスクが低い若年者や,抗凝固療法を開始するも循環動態が悪化する徴候がみられる場合に考慮するのが妥当と考えられる. 血栓溶解療法の重大な合併症は出血である.わが国におけるモンテプラーゼの市販後調査によると,1,241人の安全性解析において重症出血は8.1%,頭蓋内出血は1.7%と報告されている245).血栓溶解療法には出血に関する絶対および相対禁忌事項があり,表12 2)に示した.相対的禁忌事項に含まれる多くは急性PTEの誘発因子でもあり,治療法選択には注意を要する.禁忌事項により積極的な薬物的抗血栓療法を施行できない場合には,外科的あるいはカテーテルによる肺動脈血栓摘除術やIVCフィルターを併用して合併症の少ない治療法で対処する.血栓溶解療法中にヘパリンを併用するか否かについて,有効性や出血性合併症の発生率の差異は明らかではない. 近年,通常量の半量を投与する血栓溶解療法の検討が行われ,未分画ヘパリン単独投与とのRCT 246)や,通常量の血栓溶解療法とのRCT 247)において,小規模ながら有効性と安全性が示されている.しかし,4 つの観察研究と9表12 血栓溶解療法が禁忌となる病態【絶対禁忌】出血性脳卒中あるいは原因不明の脳卒中の既往6ヵ月以内の虚血性脳卒中中枢神経系悪性腫瘍3週以内の重症外傷,大手術,頭部外傷出血性素因活動性出血【相対禁忌】 6ヵ月以内の一過性脳虚血発作経口抗凝固療法中妊娠,産後1週間圧迫不能な血管穿刺心肺蘇生に伴う外傷難治性高血圧(収縮期血圧>180 mmHg)進行した肝疾患感染性心内膜炎活動性消化管潰瘍(Konstantinides SV, et al. 2020 2)より抜粋) ©The European Society of Cardiology 2019. All rights reserved.