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p.38 抽出テキスト

われないと低酸素血症の改善は乏しい.1回換気量は6 mL/kg(理想体重)と少ない設定が推奨されている2).

2.2 循環管理

急性PTEの循環不全の特徴は,機械的肺血管床閉塞による肺血管床の減少や,低酸素ならびにケミカルメディエーターによる肺血管攣縮の結果生じる肺血管抵抗(PVR)の増加である.それらが肺高血圧ならびに右室の後負荷増大をきたす.臨床的には肺高血圧,右室圧や右房圧の上昇,右心拍出量の低下(右心不全),さらに左心拍出量の低下,体血圧の低下,ショックを示す.

2.2.1 容量負荷

本症に対する容量負荷は動物モデルにおいても賛否両論の結果220, 221)で,臨床的にも推奨すべきエビデンスはない.Goldhaberら222)は右室への容量負荷が心室相互干渉により左室を圧排し,さらに左心拍出量を低下させる可能性を指摘している.2019年改訂版ESCガイドライン2)では,中心静脈圧が低いPTE患者には控えめな(≦500 mL)輸液チャレンジが心係数を上昇させる可能性があるとしている223).

2.2.2 薬物療法

交感神経作用をもつノルエピネフリン,ドパミン,ドブタミンや陽性変力作用を有するホスホジエステラーゼ(PDE)3阻害薬などが使用しうる薬剤である.ノルエピネフリンは心室収縮期相互作用と冠灌流を改善することによって,PVRに変化をもたらすことなく全身の血行動態を改善する221).ショックに対するノルエピネフリンとドパミンのRCTでは,ノルエピネフリンで催不整脈作用が少なく,サブグループ解析においてPTEを含む心原性ショックで28日死亡がノルエピネフリンで低値であった224).少数例での検討ではあるが,ドブタミンは35%の心係数の改善, PVRの低下をもたらした225).いくらかの例において,心拍出量の改善とともに換気血流不均衡に起因するPaO2の低下をみるが,心拍出量の増加にて酸素輸送は増えており,組織酸素化は阻害されていない226).

PDE3阻害作用による強心作用と肺血管拡張作用を有するミルリノンは,イヌのPTEモデルにおいて酸素化能は悪化させず,ドパミンやドブタミンと比較してより選択的な肺血管拡張作用227)を示した.現行での選択肢は低血圧のない右心不全例にはドブタミン,低血圧(ショック)を伴った右心不全例にはノルエピネフリンが使用されることが多い. 2.2.3 NO吸入

NOの吸入は,肺動脈を選択的に拡張するとともに全身の血管抵抗には影響を与えにくく,理論的には急性PTEにおける換気血流不均衡を改善する.少ない臨床例において, NO吸入による選択的な肺動脈圧ならびにPVRの改善が報告228, 229)されているが,臨床的有効性と安全性に関するエビデンスは十分でない230).NO吸入は心臓手術の周術期のみ保険適用されている.

2.2.4 補助循環

心停止で発症し心肺蘇生が困難な例,酸素療法や薬物療法でも低酸素血症や低血圧が進行し,呼吸循環不全を安定化できない例などは,内科治療の限界例である.これらの症例はすみやかにV-A ECMOを導入して呼吸循環不全を安定化させ,V-A ECMOを次の治療へのブリッジとして行う2).その後,経食道心エコー図検査や造影CTなどで主肺動脈近傍の血栓を確認し,外科的血栓摘除術を考慮する.

日本心臓血管外科学会の2008~2014年のデータベース231)では,外科的血栓摘除術が行われた355人のうち, V-A ECMOが用いられた94人(26.5%)の30日死亡率は24.5%であった.その他,循環虚脱や心停止をきたしたPTE患者へのV-A ECMO導入例での高い生存率が報告232)されているが,2020年までのメタ解析では予後への明らかな有効性は示されていない233).また,V-A ECMO導入例における最適な再灌流方法は明らかではない234-236).

V-A ECMO導入例の解析では,60歳以下,外科的血栓摘除術施行が生存の独立した関連因子,VA-ECMO導入前の心停止が死亡の関連因子である傾向があった237).V-A ECMOを行う際,右房内あるいはIVC内に血栓が残存している場合に脱血管が血栓で閉塞され,V-A ECMOの継続が不可能になることがあるため238),注意が必要である.日本蘇生協議会の「蘇生ガイドライン2020」239)では,従来の心肺蘇生が不成功であれば,適応があればV-A ECMOを用いた心肺蘇生を考慮することが提案されている.