p.35 抽出テキスト
1 PTEの重症度別治療戦略 1.1 海外ガイドラインと国内データ 急性PTEに関する海外のガイドラインは,2011年に発表されたAHAによるもの205),2019年に発表されたESCによるもの2),および2021年に発刊された米国胸部医学会(ACCP)によるもの3)が代表的である.一方で,PTEを含めたVTEは人種差が大きいと考えられている.多くのエビデンスを有する欧米人と日本人の特徴が異なる可能性が指摘されており25, 29, 210),その外挿には注意を要する. わが国と欧米の大規模観察研究を直接比較した近年の報告でも,白色人種と日本人の患者背景の異なりとその予後の違いが明らかとなっている211).また国内外での保険適用薬剤の違いもあり,海外ガイドラインをそのまま用いることが難しい点も多い.近年はDOACを含めて日本人を対象とした前向き介入試験も実施されていることから,海外のガイドラインに準拠しつつ,わが国のエビデンスや医療事情も考慮した治療戦略を検討する必要がある. 1.2 急性PTEの治療の考え方 急性PTEの治療は,肺血管床の減少により惹起される右心不全および呼吸不全に対する急性期の治療と,血栓源であるDVTからの再発性PTEの予防に大別される.後者のためには,塞栓子である血栓の溶解を促進し,血栓の局所進展を抑制し,血栓の塞栓化を予防することが必要である.死亡率は,診断されず未治療の症例では約30%と高いが,適切な治療を実施すれば2~8%まで低下する87).致死的PTEの75%は発症から1時間以内に,残りの25%は発症48時間以内に死亡する86).わが国でのレジストリー研究からも,発症後3ヵ月以内では診断時のPTEの重症度に応じて大きく死亡率が異なるが,3ヵ月以降では診断時のPTEの重症度によって死亡率は同程度と報告されてい る85). これらの点より,急性PTEに対する治療は,急性期を乗り切れば予後は良好であり,早期の診断および迅速かつ適切な治療介入が重要であるといえる.治療介入の中心は抗凝固療法であるが,V-A ECMO,血栓溶解療法,外科的または経カテーテル的血栓摘除術,IVCフィルターなどの治療が必要となることもある. 1.3 急性PTEの重症度別治療戦略(推奨表6) 推奨表6 PTE の重症度別治療戦略に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 急性期のPTE の重症度の評価に応じ,適切な治療を行う. I B適切に選択された低リスクのPTE 患者を外来にて治療することを考慮する. IIa B 近年ではESCのガイドラインでも提唱されている,血行動態,画像所見およびバイオマーカーに加えて臨床的パラメータを元にした層別化スコア(PESI/sPESI)を組み合わせた詳細な重症度分類(表11) 2)に応じた治療戦略が広く普及している.急性PTEの重症度別治療戦略のフローチャートを図9 2)に示す. 心停止例では,早急なV-A ECMOの導入を検討する.ショック例である高リスク群では,抗凝固療法に加えて再灌流療法(血栓溶解療法,外科的血栓摘除術,カテーテル治療)の実施を検討する.中リスクのうち,右心機能障害と心臓バイオマーカーの上昇のいずれも認める中[高]リスク群では,抗凝固療法を開始するとともに,血行動態の悪化に備えて慎重なモニタリングを行い,血行動態が悪化した場合には,再灌流療法の実施を考慮する.中[低]リスク群では,入院のうえで,抗凝固療法を開始することを検討する.一方で,sPESIスコアなどの臨床リスクスコアにて低リスクと判定され,右心機能障害も認めない低リス 第3章 VTEの治療